特許第6885943号(P6885943)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885943
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】失調性呼吸を治療する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20210603BHJP
【FI】
   A61M16/00 320
   A61M16/00 340
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-526901(P2018-526901)
(86)(22)【出願日】2016年11月21日
(65)【公表番号】特表2018-535770(P2018-535770A)
(43)【公表日】2018年12月6日
(86)【国際出願番号】EP2016078220
(87)【国際公開番号】WO2017093054
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2019年9月5日
(31)【優先権主張番号】62/261,359
(32)【優先日】2015年12月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】16150293.5
(32)【優先日】2016年1月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145654
【弁理士】
【氏名又は名称】矢ヶ部 喜行
(72)【発明者】
【氏名】ウィンター ステファン
(72)【発明者】
【氏名】スカーベリー ユージーン ネルソン
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−530054(JP,A)
【文献】 特表2008−514379(JP,A)
【文献】 特開平09−168595(JP,A)
【文献】 特開2006−297088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
失調性呼吸を患う患者の呼吸パターンを再同期させる装置において、前記装置は、
−睡眠中の前記患者の呼吸パターンを観察するセンサであり、呼吸信号を生成する前記センサ、
−呼吸ガスのフローを発生させる圧力発生器、
−前記患者の気道に前記発生した呼吸ガスのフローを誘導するための患者インタフェースを含む患者回路、及び
−制御器
を有し、前記制御器は、
−前記観察される呼吸パターンが失調性呼吸の発現を含んでいるか検出するために、前記呼吸信号を評価する、及び
−前記呼吸信号において失調性呼吸の発現が検出される場合、前記患者の個人的に関連付けられるしきい値より上である分時量で、前記呼吸ガスのフローを第1の既定される時間の期間(Δt)にわたり供給するように前記圧力発生器を制御し、前記第1の既定される時間の期間(Δt)の間、前記患者を換気し、前記患者の自発呼吸を除去している
ように構成される、装置。
【請求項2】
前記センサは、フローセンサ、圧力センサ、カメラ、レーダーセンサ、加速度計、圧電センサ及び電気化学ガスセンサの少なくとも1つを含む、請求項に記載の装置。
【請求項3】
前記制御器は、
−前記呼吸信号に基づいて、前記患者の分時換気量、呼吸頻度及び呼吸振幅の1つ以上を決定する、
−前記分時換気量、前記呼吸頻度及び前記呼吸振幅の1つ以上の時間を通じての変化を評価する、並びに
−前記患者の前記分時換気量、前記呼吸頻度及び前記呼吸振幅の1つ以上の時間を通じての前記変化が既定されるしきい値より大きい場合、前記観察される患者の呼吸パターンの一部を失調性呼吸の発現として特定する
ように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記制御器は、
(i)前記第1の既定される時間の期間の後、少なくとも第2の既定される時間の期間(Δt)にわたり前記呼吸ガスの供給を中断するように前記圧力発生器を制御する、
(ii)前記第2の既定される時間の期間(Δt)中に前記患者の呼吸パターンを観察するように前記センサを制御する、並びに
(iii)前記第2の既定される時間の期間(Δt)中に失調性呼吸の発現が検出される場合、前記患者の前記個人的に関連付けられるしきい値より上である分時量で、再び前記呼吸ガスのフローを第3の既定される時間の期間(Δtにわたり供給するように前記圧力発生器を制御し、前記第3の既定される時間の期間(Δt)の間、前記患者を換気し、前記患者の自発呼吸を除去している
ように構成され、前記制御器は、前記第2の既定される時間の期間(Δt)中に失調性呼吸の発現がもはや検出されなくなるまで、制御ステップ(i)−(iii)を繰り返すように構成される、請求項に記載の装置。
【請求項5】
前記制御器により前記制御ステップ(iii)が繰り返されるたび、前記制御器は、以前の制御ステップ(iii)において供給した前記呼吸ガスのフローに比べ増大した分時量で前記呼吸ガスのフローを供給するように前記圧力発生器を制御する、請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記制御器は、前記観察される呼吸パターンにおいて失調性呼吸の発現が検出されないとき、前記呼吸信号に基づいて、前記患者の分時換気量を決定することにより、前記患者の前記個人的に関連付けられるしきい値を決定するように構成される、請求項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、失調性呼吸を患う患者の呼吸パターンを再同期させるための方法に関する。本発明はさらに、失調性呼吸を患う患者の呼吸パターンを再同期させるための対応する装置にも関する。本発明はさらに、対応するコンピュータプログラムにも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、失調性呼吸を患う患者数はますます増加している。失調性呼吸は、呼吸の完全な不規則性により特徴付けられる異常な呼吸のパターンである。この現象は通例、患者が眠っている間にしか起こらない。失調性呼吸を患う患者は、睡眠中に非常に不規則な呼吸パターンを持ち、これは呼吸の頻度及び振幅の両方に影響を与える。
【0003】
それは、延髄への損傷によって引き起こされる。神経学的変化が呼吸を担う制御ループに影響を与え、このように睡眠中の失調性呼吸の発現の発生につながる。失調性呼吸はしばしば、患者にオピオイド(opioid)を用いて観察され、及び規則的な睡眠時無呼吸の影響と比べて悪影響を持つ。米国におけるオピオイドの比較的に頻繁な投与が原因により、失調性呼吸は、特に米国(しかし米国だけではない)においてますます頻繁に見られる問題になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
呼吸の不規則性が原因により、次の呼吸の振幅及びタイミング、並びにそれに応じて、失調性呼吸を治療する最適な方法を予測することが難しい。失調性呼吸を治療する最も一般的な方法は、気道陽圧(PAP)療法を用いている。しかしながら、現在のPAP治療モードは、"規則的な"睡眠時無呼吸を治療するのにすごく適している一方、これらの現在のPAP治療モードは、失調性呼吸の治療には最適ではない。
【0005】
GB2472116号は、能動的又は受動的な被験者への換気補助を自動的に調節するように換気装置を制御するための方法及び装置を開示している。
【0006】
US2014/0123979号は、患者の換気中の患者の疲労を決定するシステム及び方法を開示している。
【0007】
EP0324275号は、換気同期装置を開示している。
【0008】
US2005/0061315号は、完全に又は部分的に埋め込み可能である観察装置を用いて、1つ以上の患者の状態を観察することを含む方法及びシステムを開示している。
【0009】
US2011/0288609号は、様々な状態、横隔膜/横隔神経の刺激を伴う疾患又は病気を治療するための方法及び装置を開示している。
【0010】
EP1350466号は、眠っている人の姿勢又は室内照明の光の影響を受けることなく眠っている人の呼吸を検出することができる、及び画像測定を介して検出された呼吸を簡単に定量的に評価することができるモニターを開示している。
【0011】
EP1410755号は、眠っている人の状態を検出することができる観察装置を開示している。
【0012】
WO2009/138976号は、臨床的発現を観察、予測及び治療することを開示している。制御ユニットは、観察される状態の悪化を検出すると警報を発するように出力ユニットを駆動させるために、生理学的パラメタ及び検知された体の動きを解析することにより、被験者の状態を観察するように構成される。
【0013】
従って、まだ改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、失調性呼吸を治療するための改善される方法及び装置を提供することである。
【0015】
本発明の第1の態様において、失調性呼吸を患う患者の呼吸パターンを再同期させるための方法が示され、ここで前記方法は、
睡眠中の患者の呼吸パターンを観察するステップ、
前記観察される呼吸パターンが失調性呼吸の発現を含んでいるかを検出するステップ、及び
失調性呼吸の発現が検出される場合、患者の個人的に関連付けられたしきい値より上である、供給される呼吸ガスの分時量で、呼吸ガスのフローを患者の気道に供給することにより、第1の既定される時間の期間にわたり患者を換気する及び患者の自発呼吸を除去にするステップ
を含む。
【0016】
本発明の他の態様において、対応する装置が示され、この装置は、
−睡眠中の患者の呼吸パターンを観察するセンサであり、呼吸信号を生成するセンサ、
−呼吸ガスのフローを発生させる圧力発生器、
−前記発生した呼吸ガスのフローを患者の気道に誘導する患者インタフェースを含む圧力回路、及び
−制御器
を有し、前記制御器は、
前記観察される呼吸パターンが失調性呼吸の発現を含んでいるかを検出するために、前記呼吸信号を評価する、並びに
前記呼吸パターンにおいて失調性呼吸の発現が検出される場合、第1の既定される時間の期間にわたり患者を換気する及び患者の自発呼吸を除去するように、患者の個人的に関連付けられるしきい値より上である分時量で、呼吸ガスのフローを前記第1の既定される時間の期間にわたり供給するように前記圧力発生器を制御する、
ように構成される。
【0017】
本発明のさらに他の態様において、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、このコンピュータに上述した方法のステップを実行させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラムが示される。
【0018】
本発明の好ましい実施例は、従属請求項に規定される。請求される装置及び請求されるコンピュータプログラムは、前記請求される方法及び従属請求項に規定されるのと同じような及び/又は同じ好ましい実施例を持つと理解される。
【0019】
提案される方法及び装置は、失調性呼吸の発現が検出されるとすぐに、患者の呼吸を再同期させる気道陽圧治療を利用している。患者の呼吸パターンが既定の範囲内にあり、失調性呼吸の発現が検出されない限り、好ましくは圧力支援が適用されない、すなわち、加圧される呼吸ガスのフローが患者の気道に供給されない。しかしながら、前記呼吸パターンが失調性呼吸の兆候を示す場合、加圧される呼吸可能なガスのフローの発生及び送出が開始される。呼吸可能なガスのフローはこの場合、患者の個人的に関連付けられるしきい値より上である供給される分時量で患者の気道に送られる。この患者の個人的に関連付けられるしきい値は、正常な呼吸中に患者が普通に必要とする呼吸ガスの量/体積である。個人的に関連付けられるしきい値は好ましくは、正常な呼吸中、すなわち失調性呼吸の発現が生じていない、及び人が休息している又は眠っている局面中の分時換気量に等しい。
【0020】
分時換気量は、毎分の人の肺に吸い込まれる又は肺から吐き出されるガスの量と規定される。これは血中二酸化炭素濃度と関係しているので、呼吸器内科において重要なパラメタである。しかしながら、規則的な呼吸中の分時換気量は患者毎に異なり、幾つかの解剖学的要因、例えば身長、体重等に依存していることを述べておく。示される方法及び装置に従って超えられる、供給されるガスの分時量のしきい値も患者毎に異なる個人的に関連付けられる値である。
【0021】
正常な呼吸中の患者の分時換気量を示している上述した個人的に関連付けられるしきい値が超えられるため、加圧される呼吸可能なガスのフローの供給中、患者の自発呼吸は除去される。この目的のために、患者の呼吸はいわば、外部から供給される機械的な換気を用いて無効にされる。自発呼吸の努力が無効にされる。
【0022】
人が正常な呼吸中に必要とする量を十分に超えている分時体積流量を持つ呼吸ガスのフローを、不規則な呼吸パターンで苦しんでいる患者に供給することは、その人の不規則な呼吸パターンを無効にして、その人をより正常な呼吸に戻す。この効果の背後にある1つの作用は、不規則な呼吸パターンがO及びCOの正常な交換の平衡を失わせることである。上述した加圧される呼吸ガスのフローの供給は、O及びCOの平衡をより正常な値に回復させるのを助け、これは、再びより正常な自発呼吸パターンに従い始めることができる人の機会を増やす。
【0023】
言い換えると、失調性呼吸が起きているとき、正しい方法で通常は働かない化学センサは無効にされ、脳は失調性呼吸の発現につながる神経信号を生じさせるのを妨げられる。"正常な"必要とされる分時換気量のしきい値より上の呼吸ガスが供給されるために自発呼吸が除去されるので、植え込み型除細動器(ICD)により呼吸リズムが再同期するのと同じ方法で呼吸パターンが再同期する。
【0024】
明細書に示される方法内において、患者は、患者の自発呼吸を除去する方法で換気されると述べることが重要である。これは、"規則的な"睡眠時無呼吸疾患を治療するために使用されるPAP治療、例えばCPAP又はBi−PAPとは明らかに区別されるべきである。CPAP及びBi−PAP療法モードは、患者の気道の開存性(patency)を維持すること、すなわち患者の気道を開き続けることを目的とし、患者を機械換気することを目的としていないので、これらの療法モードは、低容量のフローを利用している。CPAP及びBi−PAP療法モードは依然として患者が自発呼吸することを可能にしている。それとは対照的に、本発明に従う治療において、そのような自発呼吸は、呼吸ガスのフローの供給中は不可能である。
【0025】
示される方法の実施例に従って、失調性呼吸の発現を検出するステップは、患者の分時換気量、呼吸頻度及び呼吸振幅の1つ以上を評価するステップを含み、ここで、患者の分時換気量、呼吸頻度及び呼吸振幅の1つ以上の時間を通じての変化が既定されるしきい値よりも大きい場合、患者の観察される呼吸パターンの一部は失調性呼吸の発現として特定される。
【0026】
示される装置の対応する実施例に従って、前記制御器は、
−呼吸信号に基づいて、患者の分時換気量、呼吸頻度及び呼吸振幅の1つ以上を決定する、
−前記分時換気量、前記呼吸頻度及び前記呼吸振幅の1つ以上の時間を通じての変化を評価する、並びに
−前記患者の前記分時換気量、前記呼吸頻度及び前記呼吸振幅の1つ以上の時間を通じての前記変化が既定されるしきい値よりも大きい場合、前記患者の観察される呼吸パターンの一部を失調性呼吸の発現として特定する
ように構成される。
【0027】
分時換気量の変化にもつながる頻度及び/又は振幅に関する大きな変化は通常、失調性呼吸を検出するための良いインジケータである。患者の呼吸パターンは、センサにより観察され、ここで、幾つかの種類の異なるセンサが一般的に使用されると考えられる。
【0028】
示される装置の実施例に従って、前記センサは、フローセンサ、圧力センサ、カメラ、レーダーセンサ、加速度計、圧電センサ及び電気化学ガスセンサの少なくとも1つを含んでいる。
【0029】
フローセンサは例えば、呼吸ガスのフローがそれを介して患者の気道に送られる患者インタフェースにある又はその近くにある圧力回路内に配される。
【0030】
圧力センサは、前記フローセンサに代わって又は前記フローセンサに加えての何れかにより同じ場所に配されてもよい。
【0031】
患者の呼吸パターンを観察するもう1つの方法は、カメラを用いることである。現代のカメラ、例えばPhilips Vital Signs Cameraを用いる場合、光学カメラの信号から呼吸パターンを得ることに問題はない。
【0032】
レーダーセンサを用いて呼吸パターンを得ることも同様に可能である。
【0033】
さらに代替的に、この目的のために加速度計又は圧電センサが使用されることができ、ここで加速度計又は圧電センサは例えば、患者の胸部に配される。
【0034】
さらに他の可能性は、患者により吐き出される呼吸ガスの組成を測定するように構成される電気化学ガスセンサの使用である。この電気化学ガスセンサは例えば、患者インタフェースにある又は患者インタフェース内にある圧力回路内に配されてもよい。
【0035】
使用されるセンサの種類に関係なく、このセンサにより生成される信号は、この信号が人の呼吸パターンを示しているので、本明細書において呼吸信号と示されることを述べておく。結果として、この呼吸信号は、流量信号、圧力信号、光学信号等の何れかでよい。
【0036】
本発明に従って、患者の呼吸パターンを再同期させるための上述した方法に用いられる、発生した呼吸ガスのフローは好ましくは、失調性呼吸の発現が検出されるたびに、比較的短い時間期間だけにわたり供給される。この時間期間は本明細書において、第1の時間の期間又は第1の時間期間と示される。この第1の既定される時間の期間は、好ましくは10分より短い、より好ましくは5分より短い、最も好ましくは3分より短い又は3分に等しいように設定される。
【0037】
示される方法の好ましい実施例において、この方法は、
(i)前記既定される時間の期間の後、少なくとも第2の既定される時間の期間にわたり呼吸ガスの供給を中断するステップ、
(ii)前記第2の既定される時間の期間中に患者の呼吸パターンを観察するステップ、
(iii)前記第2の時間の期間中に、失調性呼吸の発現が検出される場合、第3の既定される時間の期間にわたり再び患者を換気する及び患者の自発呼吸を除去するステップ、
第2の時間の期間中に、失調性呼吸の発現がもはや検出されなくなるまで、ステップ(i)−(iii)を繰り返すステップを有する。
【0038】
本明細書に示される装置の対応する実施例に従って、制御器は、
(i)前記既定される時間の期間の後、少なくとも第2の既定される時間の期間にわたり呼吸ガスの供給を中断するように前記圧力制御器を制御する、
(ii)前記第2の既定される時間の期間中に患者の呼吸パターンを観察するように前記センサを制御する、及び
(iii)前記第2の時間の期間中に、失調性呼吸の発現が検出される場合、前記患者を換気する及び患者の自発呼吸を除去するように、患者の個人的に関連付けられるしきい値より上である分時量で、第3の既定される時間の期間にわたり再び呼吸ガスのフローを供給するように、圧力発生器を制御する
ように構成され、ここで制御器は、前記第2の時間の期間中に、失調性呼吸の発現がもはや検出されなくなるまで、制御ステップ(i)−(iii)を繰り返すように構成される。
【0039】
言い換えると、これは、所与の時間量の後、圧力支援が減らされる又は完全に止められ、患者の自主的な呼吸の働きが安定したかを見るために、患者の呼吸が検査されることを意味している。患者の呼吸パターンはこのとき、本明細書で呼ばれる第2の時間の期間にわたり観察される。
【0040】
この第2の時間の期間中、呼吸パターンが不規則を続けている又は再び不規則が始まる場合、上述した再同期療法が繰り返され、呼吸ガスのフローは、第3の既定される時間の期間にわたり供給される。この第3の時間の期間は、上述した第1の時間の期間に等しくてもよい。しかしながら、第3の時間の期間が第1の時間の期間より短くても又は長くてもよい。
【0041】
他方、患者の呼吸パターンが第2の時間の期間中に観察されている間、この呼吸パターンが規則的なままでいる場合、圧力支援は、再び新しい失調性呼吸の発現が検出されるまで、再び強められる必要はない。このように、ある種の閉ループの制御が確立される。
【0042】
示される方法の他の実施例に従って、ステップ(iii)が繰り返されるたび、呼吸ガスのフローは、以前のステップ(iii)において供給された呼吸ガスのフローに比べ増大した分時量で供給される。
【0043】
示される装置の対応する実施例において、制御器により制御ステップ(iii)が繰り返されるたび、前記制御器は、以前の制御ステップ(iii)において供給された呼吸ガスのフローに比べ増大した分時量で呼吸ガスのフローを供給するように制御する。
【0044】
この実施例の背後にある理論は次の通りである。呼吸パターンの第1の再同期の後、失調性呼吸の発現が依然として生じている場合、このとき、失調性呼吸の発現を除去する可能性を高めるために、次回の分時量が増大される。分時量を増大させることは、流量を増大させるか又はガス流を供給する時間期間を増大させるかの何れかにより達成される。
【0045】
上述した患者の個人的に関連付けられるしきい値は、好ましくは規則的な呼吸中の患者の分時換気量に等しく、これは幾つかの方法で決定される。
【0046】
示される方法の実施例によれば、患者の個人的に関連付けられるしきい値は、睡眠中に観察される呼吸パターンにおいて失調性呼吸の発現が検出されないとき、患者の分時換気量を決定することにより決められてもよい。
【0047】
示される装置の対応する実施例において、制御器は、呼吸パターンにおいて失調性呼吸の発現が検出されないときの呼吸信号に基づいて患者の分時換気量を決定することにより、この患者の個人的に関連付けられるしきい値を決めるように構成される。
【0048】
呼吸パターンを再同期させるために患者に送られる前記発生される呼吸ガスのフローは例えば、前記決定される個人的に関連付けられるしきい値(規則的な呼吸中の分時換気量)よりも20%、30%又は50%より上に設定されてもよい。
【0049】
さらに他の可能性は、この値が大部分の患者にとって"規則的な"分時換気量より上であり、故に殆ど全ての患者において自発呼吸を除去にするので、前記発生される呼吸可能なガスのフローの分時量を例えば6l/mの固定値に設定されることである。しかしながら、そのような供給される分時量を事前に決定することは、上に説明されるように、換気の必要性が患者毎に異なることが理由だとしても、あまり好ましくない。
【0050】
自発呼吸を除去する及び呼吸パターンを再同期させることから求められる分時体積流量を決定する他の可能性は以下の通りである。示される方法の実施例において、第1の時間の期間にわたり患者を換気する及び患者の自発呼吸を除去するステップは、患者の1つ以上の呼吸パラメタを検出するステップ、並びに検出した前記1つ以上の呼吸パラメタが供給される呼吸ガスのフローと同期するまで、前記供給される呼吸ガスのフローの分時量を増大させるステップを有し、さらにこのとき、この時点における前記供給される呼吸ガスのフローの分時量を、既定される一定の又は相対的な追加値だけ増大させるステップを有する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に記載される実施例から明らかであり、これら実施例を参照して説明される。
図1図1は、本発明の実施例に従う、呼吸療法装置を概略的に説明する。
図2図2は、本発明に従う呼吸療法の方法の実施例をブロック図の形式で説明する
図3図3は、患者の呼吸パターンの時間を通じての例示的な体積流量を例示する概略的なグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
明細書において、特に文脈上はっきりと述べていない限り、複数あると述べていなくても、それらが複数あることを含む。明細書において、"第1"、"第2"は、同じ種類の別々の構成要素、期間又は特徴を単に区別するだけであり、如何なる時間的順序又は特定量を意味していない。
【0053】
明細書において、方向の表現、例えば限定ではないが、頂部、底部、左側、右側、上方、下方、前方、後方及びそれらの派生語は、図面に示される要素の方位に関連し、特に明瞭に言わない限り、請求項を制限しない。
【0054】
以下に説明される実施例は、明細書に示される装置及び方法の例示的な実施例として単に理解されるべきである。これらの実施例は、最も実用的で、好ましいと現在考えられるものに基づいて、例示を目的に説明される。しかしながら、それどころか、付随する請求項の主旨及び範囲内である変更例及び等価な配列にも及んでいると意図される。
【0055】
図1は、本発明に従う呼吸療法装置の例示的な実施例を概略的に説明している。この装置は、図1において参照番号10によりその全体を示している。
【0056】
呼吸療法装置10は、呼吸ガスのフローを発生させるように構成されるガスフロー発生器12(圧力発生器12とも呼ばれる)を有する。前記発生した呼吸ガスのフローは、矢印14により概略的に示される。呼吸ガスは、空気、酸素又はそれらの混合物を含む。呼吸ガスは、ガスフロー発生器12から、圧力回路18を介して患者16の気道に送られる。
【0057】
圧力回路18は、圧力発生器12と患者16の気道とをつなぐ。圧力回路18は、第1の端部において圧力発生器12に接続される、及びその反対側の第2の端部において患者インタフェース22に接続される導管又はホース20を含んでもよい。患者インタフェース22は好ましくは、非侵襲的な方法で前記発生した呼吸ガスのフロー14を患者16の気道に向かわせるように構成される。患者インタフェース22は、マスク、例えば鼻及び口を覆うフルフェイスマスク、口を覆う口マスク、鼻を覆う鼻マスク、又は鼻、口及び目を含む顔の大部分を覆うトータルフェイスマスクを含む。
【0058】
図1に示される圧力支援システムは、圧力回路18が患者16と圧力発生器12とをつなぐ単一の送出導管だけを含むことを意味している、1本のリムシステムとして一般に知られるものである。
【0059】
本発明は、この圧力支援システムが、患者16に接続される送出導管及び排気導管を持つ2本のリムシステムとすることができることも考えている。2本のリムシステムにおいて、排気導管は、患者16からの排気ガスを運び、患者16から遠位にある端部に排気弁を含む。
【0060】
圧力療法装置10はさらに、センサ24及び制御器26を有する。センサ24は、患者16の呼吸パターンを観察するのに用いられる。センサ24は、患者16の呼吸パターンを示す呼吸信号を生成する。センサ24は、1つ以上のセンサを含んでよい。センサ24は例えば、フローセンサ、圧力センサ又は電気化学ガスセンサを有してよく、これらセンサは、患者インタフェース22に又はその内部に、或いは患者インタフェース22に近い位置における送出導管20内に配されてよい。代替実施例において、センサ24は、患者16、圧力発生器12及び圧力回路18から離れて配されるカメラ又はレーダーセンサを含んでもよい。このカメラは、呼吸信号を得るために、患者の胸部の動きを観察している。さらに他の実施例において、レーダーセンサが患者16の胸部の動きを観察し、それにより呼吸信号を得るのに用いられてもよい。
【0061】
制御器26は、所定の動作アルゴリズムに基づいて及びセンサ24により供給される呼吸信号に基づいて、圧力発生器12を制御するように構成される。制御器26は、デジタル処理器、アナログ処理器、情報を処理するために設計されたデジタル回路、情報を処理するために設計されたアナログ回路、ステートマシン及び/又は情報を電子処理するための他の機構の1つ以上を含んでよい。好ましくは、制御器26は、以下に説明されるように機構を実行するため、及び以下に説明される方法で前記圧力発生器12を制御するためのソフトウェアが記憶されるCPUを含む。図1において、制御器26が1つの実体として示されているが、これは単に説明を目的とするものである。幾つかの実施において、制御器26は、複数の処理ユニットを含んでもよい。これら処理ユニットは、物理的に同じ装置内に置かれてもよいし、又は制御器26は、協働で動作して複数の装置の処理機能を示してもよい。
【0062】
制御器26は、ハードウェア及び/又はソフトウェア実装される1つ以上のコンピュータプログラムモジュールを実行するように構成されてもよい。これら1つ以上のコンピュータプログラムモジュールは、評価モジュール28及び圧力発生器制御モジュール30を含んでいる。
【0063】
評価モジュール28は好ましくは、観察される患者16の呼吸パターンが失調性呼吸の発現を含んでいるかを検出するために、センサ24により供給される呼吸信号を評価するように構成される。
【0064】
圧力発生器制御モジュール30は好ましくは、評価モジュール28により供給される呼吸信号の評価に基づいて、圧力発生器12を制御するように構成される。好ましい実施例に従って、圧力発生器制御モジュール30は、評価モジュール28がセンサ24により供給された呼吸信号において、失調性呼吸の発現を検出した場合にのみ、加圧した呼吸ガスのフロー14を供給するために圧力発生器12作動させるように構成される。この場合、圧力発生器制御モジュール30は好ましくは、患者16の個人的に関連付けられるしきい値より上である分時量で、呼吸ガスのフロー14を(ここで第1の時間期間と示される)既定される時間の期間に供給するように圧力発生器を制御し、ここで個人的に関連付けられるしきい値は、失調性呼吸が起きていないときの規則的な呼吸中の患者16の分時換気量に一致する又は等しい。
【0065】
圧力発生器12は、言い換えると、患者16の"規則的な(regular)"分時換気量を超える加圧した呼吸ガスのフロー14を供給するように制御される。患者16の"正常な(normal)"分時換気量を超える加圧した呼吸ガスのフロー14の供給は、圧力発生器12を用いて患者16が完全に機械的に換気されるような、患者16の自発呼吸の除去をもたらす。
【0066】
患者16の自発呼吸の除去は、失調性呼吸中に生じる人の不規則な呼吸パターンを無効にする。これは、OとCOとの間の平衡を再び正常な値に回復するのを助け、この平衡は普通、失調性呼吸中に乱されてしまう。呼吸パターンはそれにより、呼吸のリズムがICDにより同期するのと同じような方法で再同期する。
【0067】
図2は、患者16の呼吸パターンを再同期させるための方法の実施例を概略的に説明するブロック図を示す。第1のステップS10において、患者16の呼吸パターンが、例えばセンサ24により供給される呼吸信号に基づいて観察される。失調性呼吸の発現が生じていない限り、加圧される呼吸ガスのフロー14は、完全に止められるか、又は患者16が自発呼吸をすることができる比較的に低いレベルに維持されるかの一方である。この状況は例えば、図3に示される時間を通じての体積流量のグラフに概略的に説明される時間期間32中の場合である。
【0068】
センサ24により供給される呼吸信号は例えば、観察される呼吸パターンが失調性呼吸の発現を含んでいるかを検出する(ステップS12参照)ために、規則的な間隔でサンプリングされる。観察される呼吸パターンにおいて失調性呼吸の発現が検出されない限り、前記方法は、ステップS10とステップS12との間における閉ループのままである。
【0069】
他方、呼吸信号において失調性呼吸の発現が検出される場合、患者16の自発呼吸を無効にするために、上述した呼吸ガスのフロー14が既定の第1の時間期間Δtにわたり供給される(ステップS14参照)。
【0070】
失調性呼吸中の典型的な体積流量が図3の時間期間34に示される。この失調性呼吸の時間期間34中、振幅、頻度及び/又は分時換気量は、規則的な呼吸に比べかなり大きく変化していることが分かる。従って、患者16の分時換気量、呼吸頻度及び呼吸振幅の1つ以上の時間を通じての変化が既定されるしきい値よりも大きい場合、観察される患者16の呼吸パターンの一部を失調性呼吸の発現として特定されることが好ましい。分時換気量、呼吸頻度及び/又は呼吸振幅は好ましくは、センサ24により生成される呼吸信号から得られる。
【0071】
前記第1の時間期間Δt中の患者16の自発呼吸を無効にするためのガスのフロー14の供給は、図3の期間36において概略的に説明される。この時間期間中、供給される呼吸ガスのフロー14の分時量は、(図3の時間期間32に比べ)規則的な呼吸中の分時換気量より上であることが分かる。
【0072】
第1の時間期間Δt中に設定されるべき分時換気量の値は、幾つかの方法で決定されてよい。
【0073】
第1の可能性は、観察される呼吸パターンにおいて失調性呼吸の発現が検出されないとき、例えば時間期間32中に、患者16の分時換気量を決定し、次いで、供給されるガスのフロー14の分時量を、前記決定された"正常な"分時換気量より上の値(例えば10%、20%又は50%上)に設定することである。
【0074】
第2の可能性は、加圧される呼吸ガスのフロー14をゆっくりと増やしながら、センサ24の呼吸信号を使用することである。患者16が自発呼吸をしている限り、フローセンサ24により検出されるガスのフローは、患者16の呼吸努力に影響される。圧力発生器12により供給される呼吸ガスのフロー14は故に、検出される呼吸パラメタ(例えば検出される患者16の吸気及び呼気フロー)が圧力発生器12により供給される呼吸ガスのフローと同期するまで、ゆっくりと増やされる。この時点において、患者16の機械的な換気が始まり、自発呼吸は除去される。この時点が検出される場合、制御器26は、前記供給される呼吸ガスのフロー14の分時量を、追加の既定される一定の又は相対的な追加値だけさらに増大させるように圧力発生器12を制御する。
【0075】
前記ガスのフロー14の分時量が決定され、設定される方法とは関係なく、前記第1の既定される時間の期間Δtにだけ自発呼吸が無効にされることを述べておく。この第1の時間期間Δtは、1分以下である、2分以下である又は5分以下である。この時間期間Δtの後、ガスのフロー14は好ましくは、止められるか又は患者16の規則的な分時換気量より下のレベルに下げられる。図3に概略的に説明される時間期間38は、対応する状況を示している。この状況は、ステップS16に対応し、この間、ガスのフロー14の供給は、少なくとも第2の時間の期間Δtにわたり中断/遮断される。患者16の呼吸パターンは、第2の時間期間Δt中、再びセンサ24により観察される(ステップS18参照)。
【0076】
時間期間Δtの間に失調性呼吸の発現が生じない場合、前記方法はステップS10に戻る(ステップS20参照)。
【0077】
しかしながら、時間期間Δt中に再び、失調性呼吸の発現が検出される場合、圧力発生器12は、患者16の自発呼吸を無効にするために、再び呼吸ガスのフロー14を供給するように制御される(ステップS22参照)。前記方法はその後、失調性呼吸がもはや検出されなくなるまで、方法のステップS16−S22を繰り返すためにステップS16に戻る。
【0078】
図3に示される例において、時間期間36中の第1のガスのフロー14の供給の後、患者16の呼吸パターンは、直ちに正常な状態に戻っている(図3の時間期間38の最初を参照)。しかしながら、次いで再び失調性呼吸が始まっている。これは例えば、時間期間36中に与えられた再同期が失調性呼吸を完全に除去するのに十分ではなかった場合である。従って、ガスのフロー14は、図3に示される例において時間期間40中に再び供給される。装置10の制御器26は、今回は第1の時間期間Δtよりも長い第3の時間期間Δtにわたり呼吸ガスのフローを供給するように圧力発生器12を制御するように構成される。これは、失調性呼吸の発現の発生を除去する可能性を高める。もう1つの方法として、第3の時間期間Δtが第1の時間期間Δt1に等しく、且つ第3の時間期間Δt中の流量が第1の時間期間Δt中に供給される流量に比べ、増大している場合、同じ効果が達成される。もう1つの実施例に従って、第3の時間期間Δtが第1の時間期間Δtと同じでも又は短くてもよい。
【0079】
呼吸パターンの第2の再同期(時間期間40の間)の後、時間期間42において、失調性呼吸の発現が何ら起きることなく、患者16の呼吸が正常な状態に戻っていることが図3に概略的に説明される例にも見られる。
【0080】
最後に、供給される呼吸ガスのフロー14は好ましくは、振動しているガスのフローとなるように設計されることを述べておく。これは、体積流量の正弦的挙動を含むが、(吸気中の)高レベルの圧力の相と(呼気中の)低レベルの圧力の相との間における連続的な変化も含む。
【0081】
本発明は、図面及び前述の説明において詳細に説明及び開示されたのに対し、そのような説明及び開示は、説明的又は例示的であり、限定的ではない、つまり本発明は開示される実施例に限定されない、と考えるべきである。開示される実施例の他の変更例は、図面、本明細書及び付随する特許請求の範囲を学ぶことにより、請求される本発明を実施する当業者により理解及びもたらされ得る。
【0082】
請求項において、"有する"という言葉は、他の要素又はステップを排除していない、及び複数あることを述べなくても、それらが複数あることを排除していない。1つの要素又は他のユニットが請求項に挙げられる幾つかの項目の機能を果たしてもよい。ある方法が互いに異なる従属請求項に挙げられているという単なる事実は、これらの方法の組み合わせが有利に使用されることができないことを示していない。
【0083】
コンピュータプログラムは、適切な媒体、例えば他のハードウェアと一緒に又はその一部として供給される光学記憶媒体又はソリッドステート媒体に記憶/分配されてもよいが、他の形式、例えばインターネット、又は他の有線若しくはワイヤレスの電話通信システムを介して分配されてもよい。
【0084】
請求項における如何なる参照符号もその範囲を限定すると考えない。
図1
図2
図3