【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、失調性呼吸を治療するための改善される方法及び装置を提供することである。
【0015】
本発明の第1の態様において、失調性呼吸を患う患者の呼吸パターンを再同期させるための方法が示され、ここで前記方法は、
睡眠中の患者の呼吸パターンを観察するステップ、
前記観察される呼吸パターンが失調性呼吸の発現を含んでいるかを検出するステップ、及び
失調性呼吸の発現が検出される場合、患者の個人的に関連付けられたしきい値より上である、供給される呼吸ガスの分時量で、呼吸ガスのフローを患者の気道に供給することにより、第1の既定される時間の期間にわたり患者を換気する及び患者の自発呼吸を除去にするステップ
を含む。
【0016】
本発明の他の態様において、対応する装置が示され、この装置は、
−睡眠中の患者の呼吸パターンを観察するセンサであり、呼吸信号を生成するセンサ、
−呼吸ガスのフローを発生させる圧力発生器、
−前記発生した呼吸ガスのフローを患者の気道に誘導する患者インタフェースを含む圧力回路、及び
−制御器
を有し、前記制御器は、
前記観察される呼吸パターンが失調性呼吸の発現を含んでいるかを検出するために、前記呼吸信号を評価する、並びに
前記呼吸パターンにおいて失調性呼吸の発現が検出される場合、第1の既定される時間の期間にわたり患者を換気する及び患者の自発呼吸を除去するように、患者の個人的に関連付けられるしきい値より上である分時量で、呼吸ガスのフローを前記第1の既定される時間の期間にわたり供給するように前記圧力発生器を制御する、
ように構成される。
【0017】
本発明のさらに他の態様において、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるとき、このコンピュータに上述した方法のステップを実行させるためのプログラムコード手段を有するコンピュータプログラムが示される。
【0018】
本発明の好ましい実施例は、従属請求項に規定される。請求される装置及び請求されるコンピュータプログラムは、前記請求される方法及び従属請求項に規定されるのと同じような及び/又は同じ好ましい実施例を持つと理解される。
【0019】
提案される方法及び装置は、失調性呼吸の発現が検出されるとすぐに、患者の呼吸を再同期させる気道陽圧治療を利用している。患者の呼吸パターンが既定の範囲内にあり、失調性呼吸の発現が検出されない限り、好ましくは圧力支援が適用されない、すなわち、加圧される呼吸ガスのフローが患者の気道に供給されない。しかしながら、前記呼吸パターンが失調性呼吸の兆候を示す場合、加圧される呼吸可能なガスのフローの発生及び送出が開始される。呼吸可能なガスのフローはこの場合、患者の個人的に関連付けられるしきい値より上である供給される分時量で患者の気道に送られる。この患者の個人的に関連付けられるしきい値は、正常な呼吸中に患者が普通に必要とする呼吸ガスの量/体積である。個人的に関連付けられるしきい値は好ましくは、正常な呼吸中、すなわち失調性呼吸の発現が生じていない、及び人が休息している又は眠っている局面中の分時換気量に等しい。
【0020】
分時換気量は、毎分の人の肺に吸い込まれる又は肺から吐き出されるガスの量と規定される。これは血中二酸化炭素濃度と関係しているので、呼吸器内科において重要なパラメタである。しかしながら、規則的な呼吸中の分時換気量は患者毎に異なり、幾つかの解剖学的要因、例えば身長、体重等に依存していることを述べておく。示される方法及び装置に従って超えられる、供給されるガスの分時量のしきい値も患者毎に異なる個人的に関連付けられる値である。
【0021】
正常な呼吸中の患者の分時換気量を示している上述した個人的に関連付けられるしきい値が超えられるため、加圧される呼吸可能なガスのフローの供給中、患者の自発呼吸は除去される。この目的のために、患者の呼吸はいわば、外部から供給される機械的な換気を用いて無効にされる。自発呼吸の努力が無効にされる。
【0022】
人が正常な呼吸中に必要とする量を十分に超えている分時体積流量を持つ呼吸ガスのフローを、不規則な呼吸パターンで苦しんでいる患者に供給することは、その人の不規則な呼吸パターンを無効にして、その人をより正常な呼吸に戻す。この効果の背後にある1つの作用は、不規則な呼吸パターンがO
2及びCO
2の正常な交換の平衡を失わせることである。上述した加圧される呼吸ガスのフローの供給は、O
2及びCO
2の平衡をより正常な値に回復させるのを助け、これは、再びより正常な自発呼吸パターンに従い始めることができる人の機会を増やす。
【0023】
言い換えると、失調性呼吸が起きているとき、正しい方法で通常は働かない化学センサは無効にされ、脳は失調性呼吸の発現につながる神経信号を生じさせるのを妨げられる。"正常な"必要とされる分時換気量のしきい値より上の呼吸ガスが供給されるために自発呼吸が除去されるので、植え込み型除細動器(ICD)により呼吸リズムが再同期するのと同じ方法で呼吸パターンが再同期する。
【0024】
明細書に示される方法内において、患者は、患者の自発呼吸を除去する方法で換気されると述べることが重要である。これは、"規則的な"睡眠時無呼吸疾患を治療するために使用されるPAP治療、例えばCPAP又はBi−PAPとは明らかに区別されるべきである。CPAP及びBi−PAP療法モードは、患者の気道の開存性(patency)を維持すること、すなわち患者の気道を開き続けることを目的とし、患者を機械換気することを目的としていないので、これらの療法モードは、低容量のフローを利用している。CPAP及びBi−PAP療法モードは依然として患者が自発呼吸することを可能にしている。それとは対照的に、本発明に従う治療において、そのような自発呼吸は、呼吸ガスのフローの供給中は不可能である。
【0025】
示される方法の実施例に従って、失調性呼吸の発現を検出するステップは、患者の分時換気量、呼吸頻度及び呼吸振幅の1つ以上を評価するステップを含み、ここで、患者の分時換気量、呼吸頻度及び呼吸振幅の1つ以上の時間を通じての変化が既定されるしきい値よりも大きい場合、患者の観察される呼吸パターンの一部は失調性呼吸の発現として特定される。
【0026】
示される装置の対応する実施例に従って、前記制御器は、
−呼吸信号に基づいて、患者の分時換気量、呼吸頻度及び呼吸振幅の1つ以上を決定する、
−前記分時換気量、前記呼吸頻度及び前記呼吸振幅の1つ以上の時間を通じての変化を評価する、並びに
−前記患者の前記分時換気量、前記呼吸頻度及び前記呼吸振幅の1つ以上の時間を通じての前記変化が既定されるしきい値よりも大きい場合、前記患者の観察される呼吸パターンの一部を失調性呼吸の発現として特定する
ように構成される。
【0027】
分時換気量の変化にもつながる頻度及び/又は振幅に関する大きな変化は通常、失調性呼吸を検出するための良いインジケータである。患者の呼吸パターンは、センサにより観察され、ここで、幾つかの種類の異なるセンサが一般的に使用されると考えられる。
【0028】
示される装置の実施例に従って、前記センサは、フローセンサ、圧力センサ、カメラ、レーダーセンサ、加速度計、圧電センサ及び電気化学ガスセンサの少なくとも1つを含んでいる。
【0029】
フローセンサは例えば、呼吸ガスのフローがそれを介して患者の気道に送られる患者インタフェースにある又はその近くにある圧力回路内に配される。
【0030】
圧力センサは、前記フローセンサに代わって又は前記フローセンサに加えての何れかにより同じ場所に配されてもよい。
【0031】
患者の呼吸パターンを観察するもう1つの方法は、カメラを用いることである。現代のカメラ、例えばPhilips Vital Signs Cameraを用いる場合、光学カメラの信号から呼吸パターンを得ることに問題はない。
【0032】
レーダーセンサを用いて呼吸パターンを得ることも同様に可能である。
【0033】
さらに代替的に、この目的のために加速度計又は圧電センサが使用されることができ、ここで加速度計又は圧電センサは例えば、患者の胸部に配される。
【0034】
さらに他の可能性は、患者により吐き出される呼吸ガスの組成を測定するように構成される電気化学ガスセンサの使用である。この電気化学ガスセンサは例えば、患者インタフェースにある又は患者インタフェース内にある圧力回路内に配されてもよい。
【0035】
使用されるセンサの種類に関係なく、このセンサにより生成される信号は、この信号が人の呼吸パターンを示しているので、本明細書において呼吸信号と示されることを述べておく。結果として、この呼吸信号は、流量信号、圧力信号、光学信号等の何れかでよい。
【0036】
本発明に従って、患者の呼吸パターンを再同期させるための上述した方法に用いられる、発生した呼吸ガスのフローは好ましくは、失調性呼吸の発現が検出されるたびに、比較的短い時間期間だけにわたり供給される。この時間期間は本明細書において、第1の時間の期間又は第1の時間期間と示される。この第1の既定される時間の期間は、好ましくは10分より短い、より好ましくは5分より短い、最も好ましくは3分より短い又は3分に等しいように設定される。
【0037】
示される方法の好ましい実施例において、この方法は、
(i)前記既定される時間の期間の後、少なくとも第2の既定される時間の期間にわたり呼吸ガスの供給を中断するステップ、
(ii)前記第2の既定される時間の期間中に患者の呼吸パターンを観察するステップ、
(iii)前記第2の時間の期間中に、失調性呼吸の発現が検出される場合、第3の既定される時間の期間にわたり再び患者を換気する及び患者の自発呼吸を除去するステップ、
第2の時間の期間中に、失調性呼吸の発現がもはや検出されなくなるまで、ステップ(i)−(iii)を繰り返すステップを有する。
【0038】
本明細書に示される装置の対応する実施例に従って、制御器は、
(i)前記既定される時間の期間の後、少なくとも第2の既定される時間の期間にわたり呼吸ガスの供給を中断するように前記圧力制御器を制御する、
(ii)前記第2の既定される時間の期間中に患者の呼吸パターンを観察するように前記センサを制御する、及び
(iii)前記第2の時間の期間中に、失調性呼吸の発現が検出される場合、前記患者を換気する及び患者の自発呼吸を除去するように、患者の個人的に関連付けられるしきい値より上である分時量で、第3の既定される時間の期間にわたり再び呼吸ガスのフローを供給するように、圧力発生器を制御する
ように構成され、ここで制御器は、前記第2の時間の期間中に、失調性呼吸の発現がもはや検出されなくなるまで、制御ステップ(i)−(iii)を繰り返すように構成される。
【0039】
言い換えると、これは、所与の時間量の後、圧力支援が減らされる又は完全に止められ、患者の自主的な呼吸の働きが安定したかを見るために、患者の呼吸が検査されることを意味している。患者の呼吸パターンはこのとき、本明細書で呼ばれる第2の時間の期間にわたり観察される。
【0040】
この第2の時間の期間中、呼吸パターンが不規則を続けている又は再び不規則が始まる場合、上述した再同期療法が繰り返され、呼吸ガスのフローは、第3の既定される時間の期間にわたり供給される。この第3の時間の期間は、上述した第1の時間の期間に等しくてもよい。しかしながら、第3の時間の期間が第1の時間の期間より短くても又は長くてもよい。
【0041】
他方、患者の呼吸パターンが第2の時間の期間中に観察されている間、この呼吸パターンが規則的なままでいる場合、圧力支援は、再び新しい失調性呼吸の発現が検出されるまで、再び強められる必要はない。このように、ある種の閉ループの制御が確立される。
【0042】
示される方法の他の実施例に従って、ステップ(iii)が繰り返されるたび、呼吸ガスのフローは、以前のステップ(iii)において供給された呼吸ガスのフローに比べ増大した分時量で供給される。
【0043】
示される装置の対応する実施例において、制御器により制御ステップ(iii)が繰り返されるたび、前記制御器は、以前の制御ステップ(iii)において供給された呼吸ガスのフローに比べ増大した分時量で呼吸ガスのフローを供給するように制御する。
【0044】
この実施例の背後にある理論は次の通りである。呼吸パターンの第1の再同期の後、失調性呼吸の発現が依然として生じている場合、このとき、失調性呼吸の発現を除去する可能性を高めるために、次回の分時量が増大される。分時量を増大させることは、流量を増大させるか又はガス流を供給する時間期間を増大させるかの何れかにより達成される。
【0045】
上述した患者の個人的に関連付けられるしきい値は、好ましくは規則的な呼吸中の患者の分時換気量に等しく、これは幾つかの方法で決定される。
【0046】
示される方法の実施例によれば、患者の個人的に関連付けられるしきい値は、睡眠中に観察される呼吸パターンにおいて失調性呼吸の発現が検出されないとき、患者の分時換気量を決定することにより決められてもよい。
【0047】
示される装置の対応する実施例において、制御器は、呼吸パターンにおいて失調性呼吸の発現が検出されないときの呼吸信号に基づいて患者の分時換気量を決定することにより、この患者の個人的に関連付けられるしきい値を決めるように構成される。
【0048】
呼吸パターンを再同期させるために患者に送られる前記発生される呼吸ガスのフローは例えば、前記決定される個人的に関連付けられるしきい値(規則的な呼吸中の分時換気量)よりも20%、30%又は50%より上に設定されてもよい。
【0049】
さらに他の可能性は、この値が大部分の患者にとって"規則的な"分時換気量より上であり、故に殆ど全ての患者において自発呼吸を除去にするので、前記発生される呼吸可能なガスのフローの分時量を例えば6l/mの固定値に設定されることである。しかしながら、そのような供給される分時量を事前に決定することは、上に説明されるように、換気の必要性が患者毎に異なることが理由だとしても、あまり好ましくない。
【0050】
自発呼吸を除去する及び呼吸パターンを再同期させることから求められる分時体積流量を決定する他の可能性は以下の通りである。示される方法の実施例において、第1の時間の期間にわたり患者を換気する及び患者の自発呼吸を除去するステップは、患者の1つ以上の呼吸パラメタを検出するステップ、並びに検出した前記1つ以上の呼吸パラメタが供給される呼吸ガスのフローと同期するまで、前記供給される呼吸ガスのフローの分時量を増大させるステップを有し、さらにこのとき、この時点における前記供給される呼吸ガスのフローの分時量を、既定される一定の又は相対的な追加値だけ増大させるステップを有する。