(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6885965
(24)【登録日】2021年5月17日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】フロースルーバイアル及びオートサンプラ
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20210603BHJP
G01N 30/04 20060101ALI20210603BHJP
G01N 30/24 20060101ALI20210603BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
G01N1/00 101H
G01N30/04 A
G01N30/24 E
G01N35/10 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-546983(P2018-546983)
(86)(22)【出願日】2016年10月26日
(86)【国際出願番号】JP2016081697
(87)【国際公開番号】WO2018078737
(87)【国際公開日】20180503
【審査請求日】2019年1月16日
【審判番号】不服2020-10471(P2020-10471/J1)
【審判請求日】2020年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100098671
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 俊文
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【弁理士】
【氏名又は名称】妹尾 明展
(72)【発明者】
【氏名】伴野 太一
【合議体】
【審判長】
三崎 仁
【審判官】
森 竜介
【審判官】
渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第4798798(US,A)
【文献】
特開昭60−205232(JP,A)
【文献】
特開平9−222408(JP,A)
【文献】
特開2004−226371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
G01N 30/04
G01N 30/24
G01N 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロースルーバイアルと、
先端が下方を向いた状態で少なくとも上下動を行ない、前記フロースルーバイアルの上方の位置から下降して後記上面封止部材を貫通して前記フロースルーバイアルの内部空間に収容された液を吸入するためのニードルと、を備え、
試料供給源からの試料が前記フロースルーバイアルの前記内部空間に対して50mL/min以上の流量で導入されるオートサンプラであって、
前記フロースルーバイアルが、
液を収容する円柱状の前記内部空間を有し、前記内部空間の内径が4mmである本体部と、
前記本体部の側面下部に設けられ、前記内部空間と流体連通した、内径が1mmの導入流路を有し、前記導入流路を通じて前記内部空間へ液を導く液導入部と、
前記本体部の側面上部に設けられ、前記内部空間と流体連通した、内径が1mmの排出流路を有し、前記排出流路を通じて前記内部空間内の液を外部へ導く液排出部と、
前記内部空間の上面を封止するとともに、上方から下降してきた前記ニードルで貫通可能な弾性材料からなる上面封止部材と、を備え、
前記液導入部の前記導入流路は、前記内部空間に対する前記導入流路の接続部と前記内部空間の水平断面における中心とを結ぶ半径の方向に対して角度θ(θは60°以上90°未満)をなしており、
前記液導入部は、前記内部空間内へ前記内部空間の内周面に沿う方向に液を導入し、乱流の発生を抑制し、気泡の発生を抑制するように設けられている、
オートサンプラ。
【請求項2】
前記液排出部の前記排出流路は、前記内部空間に対する前記排出流路の接続部と前記内部空間の水平断面における中心とを結ぶ半径の方向に対して角度θ(θは60°以上90°未満)をなしている、請求項1に記載のオートサンプラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析試料を自動的に収容することができるフロースルーバイアルと、そのようなフロースルーバイアルを介して試料を採取して分析装置へ導入するオートサンプラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば試料供給源が分析装置の近くにない場合などに、試料供給源から試料を引き込んでその試料を採取し、分析装置に導入して分析を行なう分析システムが構築される。このような分析システムには、試料供給源から引き込んだ試料を収容することができるフロースルーバイアルが組み込まれたオートサンプラが一般に用いられる。
【0003】
フロースルーバイアルは、試料を導入するための液入口が側面下部に設けられ、試料を外部へ排出するための液出口が側面上部に設けられている。フロースルーバイアルの上面はニードルによって貫通可能なセプタムによって封止されている。試料の液入口に試料供給源からの配管が接続され、試料供給源から送液される試料がフロースルーバイアル内に自動的に収容されるようになっている。
【0004】
かかるオートサンプラは、フロースルーバイアル内の試料を採取するためのニードルを備えている。ニードルは少なくとも上下動が可能であり、フロースルーバイアルの上方の位置から下降してフロースルーバイアルの上面を封止しているセプタムを貫通し、フロースルーバイアル内の試料を吸入するようになっている。試料を吸入したニードルは、その後、別の分注容器に試料を分注するか、又は分析装置へ通じる注入ポートを介して分析装置へ試料を注入する。
【0005】
上記の構成により、バイアルに試料を採取してオートサンプラの所定の位置にそのバイアルを設置するという作業をユーザが行なう必要がなく、試料供給源とオートサンプラとが離れた位置にあっても、バイアル内に試料が自動的に収容されて分析装置へ導入される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フロースルーバイアルが組み込まれたオートサンプラにおいて、試料供給源からの試料がフロースルーバイアル内に高速(例えば50mL/min以上)で流入すると、フロースルーバイアル内において乱流が起こり、フロースルーバイアル内に気泡が発生することがある。フロースルーバイアル内に気泡が発生した状態でニードルによる試料吸入が実行されると、ニードルによる試料吸入の定量性が損なわれ、分析結果に影響を与える。
【0007】
そこで、本発明は、フロースルーバイアル内での気泡の発生を抑制し、ニードルによる試料吸入の定量性を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るフロースルーバイアルは、液を収容する円柱状の内部空間と、側面下部に設けられ、前記内部空間へ該内部空間の水平断面における半径方向に対して斜めの方向に液を導く液導入部と、側面上部に設けられ、前記内部空間内の液を外部へ導く液排出部と、前記内部空間の上面を封止するとともに、上方から下降してきたニードルで貫通可能な弾性材料からなる上面封止部材と、を備えている。
【0009】
本発明のフロースルーバイアルでは、液導入部が、内部空間へ該内部空間の水平断面における半径方向に対して斜めの方向に液を導くようになっているので、内部空間内において液が流れをもちやすくなり、乱流が起こりにくくなる。
【0010】
内部空間内における乱流の発生をより抑制するためには、フロースルーバイアルの内部空間内へ該内部空間の内周面に沿う方向に液が導入されるように液導入部が設けられていることが好ましい。そうすれば、フロースルーバイアル内に導入された液は内部空間の内周面に沿って導入され、乱流がより発生しにくくなり、気泡の発生が抑制される。
【0011】
前記液排出部は、前記内部空間内の液を前記内部空間外へ、前記内部空間の水平断面における半径方向に対して斜めの方向に排出するように設けられていてもよい。
【0012】
上記の場合の好ましい実施形態は、液排出部は、前記内部空間内に形成される液の流れ方向に沿った排出流路を有することである。液導入部が内部空間の水平断面における半径方向に対して斜めの方向に液を導くように設けられていることで、内部空間内にらせん状の流れが形成されると考えられる。したがって、液排出部がその流れに沿った排出流路をもつことで、らせん状の流れを利用して液排出部から液を効率的に排出することができるようになり、フロースルーバイアル内の液の置換効率が向上する。
【0013】
本発明に係るオートサンプラは、液を収容する円柱状の内部空間を内部に有し、上面が弾性材料からなる封止部材により封止されているフロースルーバイアルと、前記フロースルーバイアルの側面下部において、送液されてきた液を前記内部空間内へ、前記内部空間の水平断面における半径方向に対して斜めの方向に導入する液導入部と、前記フロースルーバイアルの側面上部から前記内部空間内の液を排出する液排出部と、先端が下方を向いた状態で少なくとも上下動を行ない、前記フロースルーバイアルの上方の位置から下降して前記封止部材を貫通して当該フロースルーバイアルの内部空間に収容された液を吸入するためのニードルと、を備えている。
【0014】
本発明のオートサンプラでは、フロースルーバイアルの内部空間へその水平断面における半径方向に対して斜めの方向に液を導入するようになっているので、内部空間内において液が流れをもちやすくなり、乱流が起こりにくくなる。
【0015】
フロースルーバイアルの内部空間内における乱流の発生をより抑制するためには、液導入部が、送液されてきた液を内部空間へ内部空間の内周面に沿う方向に導入するようになっていることが好ましい。そうすれば、フロースルーバイアル内に導入された液は内部空間の内周面に沿って導入され、乱流がより発生しにくくなり、気泡の発生が抑制される。
【0016】
前記液排出部は、前記内部空間内の液を前記内部空間外へ、前記内部空間の水平断面における半径方向に対して斜めの方向に排出するものであってもよい。
【0017】
上記の場合の好ましい実施形態は、液排出部は、前記内部空間内に形成される液の流れ方向に沿った排出流路を有することである。液排出部が内部空間内に形成される液の流れに沿った排出流路をもつことで、らせん状の流れを利用して液排出部から液を効率的に排出することができるようになり、フロースルーバイアル内の液の置換効率が向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るフロースルーバイアルでは、液導入部が、内部空間へ該内部空間の水平断面における半径方向に対して斜めの方向に液を導くようになっているので、内部空間内に乱流が起こりにくくなり、気泡の発生が抑制される。これにより、ニードルが気泡を吸入することによって生じる液の吸入不良が起こりにくくなり、ニードルによる液の吸入の定量性が向上する。
【0019】
本発明に係るオートサンプラでは、フロースルーバイアルの内部空間へその水平断面における半径方向に対して斜めの方向に液を導入するようになっているので、内部空間内で乱流が起こりにくくなり、気泡の発生が抑制される。これにより、ニードルが気泡を吸入することによって生じる液の吸入不良が起こりにくくなり、ニードルによる液の吸入の定量性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】オートサンプラの一実施例を概略的に示す構成図である。
【
図2A】同実施例のフロースルーバイアルの正面図である。
【
図3A】液導入部の構造を説明するための液導入部の高さにおける水平断面図である。
【
図3B】液排出部の構造を説明するための液排出部の高さにおける水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、フロースルーバイアル及びオートサンプラの一実施例について、図面を用いて説明する。
【0022】
一実施例のオートサンプラの構成について
図1を用いて説明する。
【0023】
この実施例のオートサンプラ2は、複数のフロースルーバイアル4を備えている。フロースルーバイアル4は専用のラック6に保持されている。フロースルーバイアル4とは別の位置に、複数の分注容器8を保持する分注容器部10と注入ポート12が設けられている。注入ポート12は流路を介してこのオートサンプラ2とは別に設けられる液体クロマトグラフなどの分析装置へ接続される。
【0024】
フロースルーバイアル4、分注容器部10及び注入ポート12よりも上方の位置に、液の吸入と吐出を行なうためのニードル14を保持するニードルアセンブリ16が設けられている。ニードル14は先端が鉛直下方を向いた状態で水平方向と鉛直方向へ移動することができるように構成されている。この実施例では、ニードルアセンブリ16が水平方向へ伸びるガイドレール18に沿って水平方向へ移動するとともに、ニードルアセンブリ16がニードル14を鉛直方向へ移動させるように構成されている。
【0025】
ラック6に保持されているフロースルーバイアル4の側面下部に液を内部空間へ導入するための液導入部20が設けられ、フロースルーバイアル4の側面上部に内部空間の液を排出するための液排出部22が設けられている。液導入部20には試料供給源からの流路が接続され、試料供給源から供給される液体試料がフロースルーバイアル4の内部空間に底部側から導入され、それよりも上方に設けられた液排出部22から外部へ排出されるようになっている。
【0026】
ニードル14はいずれかのフロースルーバイアル4の上方の位置から下降して先端をその内部空間内に挿入し、そのフロースルーバイアル4の内部空間に導入された試料を吸入することができる。フロースルーバイアル4から試料を吸入したニードル14はその後、所定の分注容器8にその試料を分注するか、又は注入ポート12を介して分析装置にその試料を注入する。
【0027】
ここで、フロースルーバイアル4の構造の一例について
図2A及び
図2Bを用いて説明する。
【0028】
フロースルーバイアル4は、液を収容する円柱状の内部空間4cを有する本体部4aと、本体部4aの上部に装着されたカバー部4bを備えている。カバー部4bはニードル14を内部空間4cへ導く貫通孔4dを備えている。カバー部4dの上面における貫通孔4dの縁はテーパ状になっており、上方から下降してきたニードル14の先端を貫通孔4dの中央へ導くようになっている。
【0029】
本体部4aの上端部のカバー部4bの装着部分に、内部空間4cの上面を封止するセプタム24(上面封止部材)が設けられている。セプタム24はニードル14によって貫通可能な弾性材料からなり、ニードル14が貫通した後もその弾力性によって内部空間4cの封止状態を維持することができる。
【0030】
液導入部20は本体部4aの側面下部から水平方向へ突起しており、その内側に内部空間4cの底部近傍に通じる流路21が設けられている。液排出部22は本体部4bの側面上部から水平方向へ突起しており、その内側に内部空間4cの上部に通じる流路23が設けられている。
【0031】
液導入部20及び液排出部22の構造について
図3A及び
図3Bを用いて説明する。
【0032】
図3Aに示されているように、液導入部20は液の導入方向が内部空間4cの水平断面における半径方向に対して傾斜するように設けられている。液の導入方向と半径方向のなす角度θについては特に限定されないが、θが大きいほど(ただし、θ<90度)液が内部空間4cの内周面に沿うように液導入部20から内部空間4cに導入されるようになる。内部空間4cの内周面に沿うように内部空間4c内へ液が導入されることで、内部空間4c内にはらせん状の流れが形成される。これにより、内部空間4c内で液導入部20から導入された液による乱流が起こりにくくなり、気泡の発生が抑制される。
【0033】
内部空間4c内における気泡の発生を効果的に抑制するためには、液の導入方向と半径方向とがなす角度θは60度以上であることが好ましい。
【0034】
この実施例では、液の排出方向すなわち液排出部22内に設けられている流路23が、内部空間4cの水平断面における半径方向に対して傾斜して設けられている。流路23は必ずしもこのように半径方向に対して傾斜して設けられている必要はないが、内部空間4c内に形成される液のらせん状の流れに沿う方向に流路23が設けられていることで、内部空間4cの上部へ達した液がらせん状の流れに乗って流路23を通じて外部へ排出されるようになるため、内部空間4cからの液の排出効率が向上する。これにより、フロースルーバイアル4内の液の置換効率が向上する。
【0035】
液の排出方向と半径方向のなす角度Φが大きいほど(ただし、Φ<90度)、液の排出方向が内部空間4内に形成されるらせん状の流れに沿うようになり、液の排出効率が向上する。内部空間4からの液の排出効率を効果的に高めるためには、Φは60度以上であることが好ましい。
【0036】
本発明者は上記構造のフロースルーバイアルを用いてニードルによる吸入不良の発生確率について検証を行なった。この検証に用いたフロースルーバイアルは、本体部4aの内部空間4cの内径が4mm、その内部空間4cに通じる液導入部20の流路21及び液排出部22の流路23の内径がともに1mmであった。比較するために、液の導入方向が内部空間4cの水平断面における半径方向に対して傾斜するように液導入部20を設けたもの(検証用バイアル)と、液の導入方向が内部空間4cの水平断面における半径方向と同じ方向となるように液導入部20を設けたもの(参考用バイアル)を用いた。
【0037】
上記の検証の結果、参考用バイアルを用いた場合には130回に数回の吸入不良が発生したが、検証用バイアルを用いた場合は、160回のニードルによる液の吸入を行なった場合でも吸入不良が発生しなかった。このことから、液の導入方向が内部空間4cの水平断面における半径方向に対して傾斜するように液導入部20を設けることで、内部空間4c内における気泡の発生が抑制され、ニードルによる液の吸入不良を防止することができることがわかった。
【0038】
以上において説明した実施例は本発明の実施形態の一例にすぎない。フロースルーバイアル4の個数はいくつであってもよいし、フロースルーバイアル4の構造も上記のものに限定されない。例えば、上記実施例では、液導入部20と液排出部22がフロースルーバイアル4の本体部4aの側面から水平方向へ伸びているが、上方側又は下方側のいずれかの方向へ傾斜していてもよい。
【0039】
ニードル14を駆動する機構としては、ニードル14を水平方向と鉛直方向へ移動させるものであればいかなるものであってもよい。また、
図1のオートサンプラは分注容器部10と注入ポート12の両方が設けられているが、いずれか一方のみが設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0040】
2 オートサンプラ
4 フロースルーバイアル
4a 本体部
4b カバー部
4c 内部空間
4d 貫通孔
6 ラック
8 分注容器
10 分注容器部
12 注入ポート
14 ニードル
16 ニードルアセンブリ
18 ガイドレール
20 液導入部
21,23 流路
22 液排出部
24 セプタム(上面封止部材)