(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
(電解質材料)
本発明に係る電解質材料は、水酸化物イオンをキャリアとする二次電池(亜鉛空気二次電池など)や水蒸気から水素と酸素を生成する電解セルなどの電気化学セルに用いられる電解質の構成材料として好適である。本実施形態では、水酸化物イオン(OH
−)をキャリアとするアルカリ形燃料電池(AFC)用電解質の構成材料として本発明に係る電解質材料を適用した場合について説明する。
【0015】
本発明に係る電解質材料は、Mgイオンと、Alイオンと、Caイオンとを含有する層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)によって構成される。このLDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。
【0016】
本発明に係る電解質材料を構成するLDHの基本組成は、例えば下記の一般式(1)によって表すことができる。
【0017】
[Mg
2+1−p−q―r―sAl
3+pCa
2+qM
2+rM
3+s(OH)
2][A
n−p+s/n・mH
2O]・・・式(1)
【0018】
一般式(1)において、Mg
2+/Al
3+比は2以上4以下である。Mg
2+/Al
3+比を2以上4以下とすることによって安定な層状構造を形成することができる。Mg
2+及びAl
3+は、各水酸化物基本層に含まれる。Mg
2+/Al
3+比は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)の手法によって測定することができる。
【0019】
式(1)において、M
2+は、Ni
2+、Sr
2+、Ni
2+、Co
2+、Fe
2+、Mn
2+、及びZn
2+から選択される少なくとも1種であり、M
3+はFe
3+、Ti
3+、Y
3+、Ce
3+、Mo
3+、及びCr
3+から選択される少なくとも1種である。M
2+及びM
3+は、各水酸化物基本層に含まれる。
【0020】
式(1)において、Mg
2+の添え字1−p−q―r―sは、0.67以上0.80以下であり、Al
3+の添え字pは0.20以上0.33以下であり、Ca
2+の添え字qは6.7×10
−6以上8.0×10
−3以下であり、M
2+の添え字rは0以上0.10以下であり、M
3+の添え字sは0以上0.10以下である。
【0021】
式(1)において、A
n−はn価の陰イオンである。nは、1価以上の整数である。A
n−は、1価又は2価の陰イオンであることが好ましい。A
n−は、OH
−及び/又はCO
32−を含むことが好ましい。A
n−の添え字に含まれるp+sは、0.20以上0.43以下であり、A
n−の添え字に含まれるnは1以上の整数であり、H
2Oの係数mは任意の数である。A
n−及びH
2Oは、水酸化物基本層間の中間層に含まれる。
【0022】
本発明に係る電解質材料は、Mgイオンに対するCaイオンの濃度が10ppm以上10000ppm以下であることを特徴とする。
【0023】
Mgイオンに対するCaイオンの濃度を10ppm以上とすることによって、CaをMgより優先的に劣化させることができるため、電解質そのものが劣化することによって水酸化物基本層における水酸化物イオン保持機能が経時劣化することを抑制できる。そのため、当該電解質材料を用いて電解質を構成した場合、アルカリ形燃料電池の水酸化物イオン伝導性が経時的に低下してしまうことを抑制できる。Mgイオンに対するCaイオンの濃度は、50ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましい。
【0024】
また、Mgイオンに対するCaイオンの濃度を10000ppm以下とすることによって、LDHの水酸化物イオン伝導性を十分確保することができる。そのため、当該電解質材料を用いて電解質を構成した場合、電解質の初期導電率を十分確保することができる。Mgイオンに対するCaイオンの濃度は、5000ppm以下が好ましく、2000ppm以下がより好ましい。
【0025】
Mgイオンに対するCaイオンの濃度は、誘導結合プラズマ発光分光分析によって測定することができる。
【0026】
本発明に係る電解質材料の粒径は特に限定されないが、例えば、体積基準D50平均粒径を0.01μm以上10μm以下とすることができる。D50平均粒径を0.01μm以上とすると、LDH粉末同士が凝集して成形時に気孔が残留することを抑制できるため好ましい。D50平均粒径を10μm以下とすると、電解質材料の成形性を向上させることができるため好ましい。
【0027】
(電解質材料の製造方法)
電解質材料の製造方法の一例について説明する。
【0028】
まず、LDHを構成する金属イオン源となる原料と、陰イオン源となる原料と、沈殿剤と、イオン交換水とを混合する。
【0029】
次に、上記混合物の温度を20〜200℃に制御し、かつ、上記混合物のpH値を5〜11に制御しながら反応させることによって電解質材料(LDH粉末)を製造することができる。
【0030】
LDHを構成する金属イオン源となる原料としては、金属塩化物、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属水酸化物、金属酸化物などが挙げられる。この金属イオン源に、Caの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物、或いは酸化物等を添加することによって、Mgイオン及びAlイオンを主とするLDHに対してCaイオンをドーピングすることができる。
【0031】
また、陰イオン源としては、炭酸イオン(CO
32−)、硫酸イオン(SO
42−)、塩化物イオン(Cl
−)、燐酸イオン(PO
43−)、硝酸イオン(NO
3−)等の水溶性塩であるナトリウム塩やカリウム塩等が挙げられる。沈殿剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、尿素等が挙げられる。
【0032】
また、反応方式としては、共沈法、ゾルゲル法、均一沈殿法、または逆均一沈殿法等を用いることができる。
【0033】
(アルカリ形燃料電池10)
以下、本発明に係る電気化学セルの一例として、水酸化物イオン(OH
−)をキャリアとするアルカリ形燃料電池10について図面を参照しながら説明する。
図1は、アルカリ形燃料電池10の構成を示す断面図である。
【0034】
アルカリ形燃料電池10は、カソード12、アノード14、及び電解質16を備える。アルカリ形燃料電池10は、下記の電気化学反応式に基づいて、比較的低温(例えば、50℃〜250℃)で発電する。下記の電気化学反応式では、燃料の一例としてメタノールを用いた場合が例示されている。
【0035】
・カソード12: 3/2O
2+3H
2O+6e
−→6OH
−
・アノード14: CH
3OH+6OH
−→6e
−+CO
2+5H
2O
・全体 : CH
3OH+3/2O
2→CO
2+2H
2O
【0036】
1.カソード12
カソード12は、一般的に空気極と呼ばれる陽極である。アルカリ形燃料電池10の発電中、カソード12には、酸化剤供給手段13を介して、酸素(O
2)を含む酸化剤が供給される。酸化剤としては、空気を用いるのが好ましく、空気は加湿されていることがより好ましい。カソード12は、内部に酸化剤を拡散可能な多孔質体である。カソード12の気孔率は特に制限されない。
【0037】
カソード12は、AFCに使用される公知の空気極触媒を含むものであればよく、特に限定されない。カソード触媒の例としては、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8〜10族元素(IUPAC形式での周期表において第8〜10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。カソード12における触媒の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.05〜10mg/cm
2、より好ましくは、0.05〜5mg/cm
2である。カソード触媒はカーボンに担持させるのが好ましい。カソード12ないしそれを構成する触媒の好ましい例としては、白金担持カーボン(Pt/C)、白金コバルト担持カーボン(PtCo/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0038】
2.アノード14
アノード14は、一般的に燃料極と呼ばれる陰極である。アルカリ形燃料電池10の発電中、アノード14には、燃料供給手段15を介して、水素原子(H)を含む燃料が供給される。
【0039】
燃料は、アノード14において水酸化物イオン(OH
−)と反応可能な燃料化合物を含んでいればよく、液体燃料、気体燃料、気液混合燃料のいずれの形態であってもよい。
【0040】
燃料化合物としては、例えば、(i)ヒドラジン(NH
2NH
2)、水加ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2O)、炭酸ヒドラジン((NH
2NH
2)
2CO
2)、硫酸ヒドラジン(NH
2NH
2・H
2SO
4)、モノメチルヒドラジン(CH
3NHNH
2)、ジメチルヒドラジン((CH
3)
2NNH
2、CH
3NHNHCH
3)、及びカルボンヒドラジド((NHNH
2)
2CO)等のヒドラジン類、(ii)尿素(NH
2CONH
2)、(iii)アンモニア(NH
3)、(iv)イミダゾール、1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール等の複素環類化合物、(v)ヒドロキシルアミン(NH
2OH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NH
2OH・H
2SO
4)等のヒドロキシルアミン類、及びこれらの組合せが挙げられる。これらの燃料化合物のうち炭素を含まない化合物(すなわち、ヒドラジン、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、アンモニア、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン等)は、一酸化炭素による触媒被毒の問題が無いため特に好適である。
【0041】
燃料化合物は、そのまま燃料として用いてもよいが、水及び/又はアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール等)に溶解させた溶液として用いてもよい。例えば、上記燃料化合物のうち、ヒドラジン、水化ヒドラジン、モノメチルヒドラジン及びジメチルヒドラジンは液体であるので、そのまま液体燃料として使用可能である。また、炭酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、カルボンヒドラジド、尿素、イミダゾール、及び3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、及び硫酸ヒドロキシルアミンは固体であるが水に可溶である。1,3,5−トリアジン及びヒドロキシルアミンは固体であるがアルコールに可溶である。アンモニアは気体であるが水に可溶である。このように、固体の燃料化合物は、水又はアルコールに溶解させて液体燃料として使用可能である。燃料化合物を水及び/又はアルコールに溶解させて用いる場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、例えば30〜99.9重量%であり、好ましくは66〜99.9重量%である。
【0042】
メタノール、エタノール等のアルコール類やエーテル類を含む炭化水素系液体燃料、メタン等の炭化水素系ガス、或いは純水素などは、そのまま燃料として用いることができる。特に、本実施形態に係るアルカリ形燃料電池10に用いられる燃料としては、メタノールが好適である。メタノールは、気体状態、液体状態、及び、気液混合状態のいずれであってもよい。
【0043】
アノード14は、AFCに使用される公知のアノード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。アノード触媒の例としては、Pt、Ni、Co、Fe、Ru、Sn、及びPd等の金属触媒が挙げられる。金属触媒は、カーボン等の担体に担持されるのが好ましいが、金属触媒の金属原子を中心金属とする有機金属錯体の形態としてもよく、この有機金属錯体を担体として担持されていてもよい。また、アノード触媒の表面には多孔質材料等で構成された拡散層を配置してもよい。アノード14及びそれを構成する触媒の好ましい例としては、ニッケル、コバルト、銀、白金担持カーボン(Pt/C)、白金ルテニウム担持カーボン(PtRu/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0044】
アノード14の作製方法は特に限定されないが、例えば、アノード触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質16のアノード側表面16Tに塗布することにより形成することができる。
【0045】
3.電解質16
電解質16は、カソード12とアノード14との間に配置される。電解質16は、カソード12及びアノード14のそれぞれに接続される。電解質16は、膜状、層状、或いは、シート状に形成される。電解質16の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上200μm以下とすることができる。
【0046】
電解質16は、上述した電解質材料を含有する。上述したとおり、電解質材料において、Mgイオンに対するCaイオンの濃度は10ppm以上10000ppm以下である。そのため、電解質16が経時的に劣化することを抑制できるとともに、電解質16の初期導電率を十分確保することができる。
【0047】
電解質16の作製方法は特に限定されないが、例えば、電解質材料と有機バインダーとを混合したペーストを印刷法でシート化し、このシートに熱処理(80〜200時間、80〜150℃)を施すことによって電解質16を形成することができる。また、金型一軸プレスや冷間等方圧加圧(CIP)などの公知の手法で電解質材料を圧粉成形することによって電解質16を形成することもできる。さらに、電解質材料と分散媒を混合したスラリーに多孔質基材を含浸し、乾燥処理(80〜150℃)を施し、電解質材料を多孔質基材に充填することによって形成することもできる。
【実施例】
【0048】
以下において、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0049】
(電解質の作製)
実施例1〜7及び比較例1〜4に係る電解質を次の通り作製して、その伝導度を評価した。
【0050】
まず、LDHを構成する金属イオン源となる原料(具体的には、硝酸マグネシウム六水和物及び硝酸アルミニウム九水和物、全て関東化学製の特級試薬)と、陰イオン源となる原料(具体的には、関東化学(株)製の特級炭酸ナトリウム)と、沈殿剤(具体的には、関東化学(株)製の特級水酸化ナトリウム)と、イオン交換水とを混合した。この際、表1に示すように、LDHに対してCaをドーピングするために、Caの硝酸塩(具体的には、硝酸カルシウム四水和物)を適宜金属イオン源となる原料に添加した。
【0051】
次に、上記混合物の温度を20〜100℃に制御し、かつ、原料及び沈殿剤濃度を制御することで上記混合物のpH値を6〜10に制御しながら、共沈法を用いてLDH粉末(電解質材料)を作製した。
【0052】
次に、作製したLDH粉末を高純度分析用規格の塩酸(関東化学製)に溶解させることによって水溶液を調製した。そして、調製した水溶液を用いて、LDH粉末におけるMgイオンに対するCaイオンの濃度を測定した。具体的には、ICP発光分析装置を用いて、Mgイオンに対するCaイオンの濃度を測定した。Mgイオンに対するCaイオンの濃度を表1にまとめて示す。
【0053】
また、調製した上記水溶液を用いて、LDH粉末におけるMg
2+/Al
3+比(Alイオンに対するMgイオンの比率)を測定した。表1では示されていないが、実施例1〜7及び比較例1〜4のすべてにおいて、LDH粉末におけるMg
2+/Al
3+比は2以上4以下であった。
【0054】
次に、作製したLDH粉末を、冷間等方圧プレスにより3000kgf/cm
2の圧力で圧粉体を形成することによって電解質を作製した。
【0055】
次に、JISR1661(ファインセラミックスイオン伝導体の導電率測定方法)に従って、作製した電解質の初期導電率と400hr経過後の導電率との測定を実施した。測定は、大気中80℃、相対湿度80%の環境下で実施した。導電率とは、電解質の水酸化物イオン伝導性を示す指標である。
【0056】
400hr経過後における導電率の低下率と初期導電率とを表1にまとめて示す。400hr経過後における導電率の低下率とは、初期導電率で400hr経過後の導電率を割った値である。
【0057】
表1では、400hr経過後における導電率の低下率について、10%以下なら〇とし、10%超なら×とした。また、表1では、初期導電率について、5×10
−4S/cm以上なら〇とし、5×10
−4S/cm未満なら×とした。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、Mgイオンに対するCaイオンの濃度を10ppm未満とした比較例1〜2では、400hr経過後における導電率の低下率が大きかった。また、Mgイオンに対するCaイオンの濃度を10000ppm超とした比較例3〜4では、初期導電率が低かった。
【0060】
一方、Mgイオンに対するCaイオンの濃度を10ppm以上10000ppm以下とした実施例1〜7では、400hr経過後における導電率の低下率が小さく、かつ、初期導電率が高かった。このような結果が得られたのは、CaをMgより優先的に劣化させて電解質そのものが劣化することを抑制でき、かつ、LDHの水酸化物イオン伝導性を十分確保できたからである。
【0061】
また、Mgイオンに対するCaイオンの濃度を50ppm以上とすることによって、さらに100ppm以上とすることによって、導電率の低下率をより低減できることが確認された。
【0062】
また、Mgイオンに対するCaイオンの濃度を5000ppm以下とすることによって、さらに2000ppm以下とすることによって、初期導電率をより向上できることが確認された。
【解決手段】電解質材料は、Mgイオンと、Alイオンと、Caイオンとを含有する層状複水酸化物によって構成される。Mgイオンに対するCaイオンの濃度は、10ppm以上10000ppm以下である。