特許第6886108号(P6886108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886108
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/405 20060101AFI20210603BHJP
   B41J 2/52 20060101ALI20210603BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   H04N1/405
   B41J2/52
   B41J2/21
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-130841(P2017-130841)
(22)【出願日】2017年7月4日
(65)【公開番号】特開2019-16845(P2019-16845A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】711001893
【氏名又は名称】河村 尚登
(72)【発明者】
【氏名】河村尚登
【審査官】 野口 俊明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−100831(JP,A)
【文献】 特開2008−023893(JP,A)
【文献】 特開2010−195038(JP,A)
【文献】 特開2014−113819(JP,A)
【文献】 特開2016−163197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/40−1/409
B41J 2/21
B41J 2/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
副走査方向にR個の記録素子,あるいは光源が配置され,入力画像データをこれら複数の記録素子あるいは光源像により記録媒体上で走査し,画像あるいは潜像を形成する画像記録装置において,
前記記録素子からの吐出,あるいは光源からのビームのON/OFFを決定するマスクは, そのスペクトル特性が周波数空間で高域及び低域で低下するグリーンノイズ特性を示すグリーンノイズディザ閾値マトリックスから生成されたN個のディザマトリックスによるパスマスクにより構成され,
前記記録素子あるいは光源像が,前記記録媒体を走査するごとにマスクを順次切り替え,かつ,前記記録媒体をR/N画素数分だけ副走査方向へ移動させ,記録媒体上の同一地点がN回走査されることにより画像あるいは潜像が形成されることを特徴とした画像処理方法
【請求項2】
前記N個のディザマトリックスによるパスマスクのk番目(ただし,k=0,1,2,…,N-1)のマスクの閾値は,前記グリーンノイズディザ閾値マトリックスから生成され,グリーンノイズディザ閾値マトリックスの閾値の値が N・i + k (ただし,i=0,1,2,…で, N・i + k<256) であるものが選ばれることを特徴とする請求項1に記載の画像処理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,プリンタや複写機等の画像記録装置において,ムラやノイズのない高画質な画像を出力するための画像形成方法およびその画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットやレーザビームによる記録装置は,高速化のために複数のノズルやレーザ素子を用いるのが一般的である。特にインクジェットプリンタではノズルの微細加工が可能になり,吐出ノズル数が128や256個あるものが使われるようになってきた。図1は,シリアルプリンタと呼ばれる多数ノズルを副走査方向に配置し,これを主走査方向(図では横方向)に走査し,記録するものである。同図(a)は副走査方向に吐出ノズルが等間隔に並んだヘッドで,(b)はイエロー,シアン,マゼンタ,黒の各色インクを横に配列したもので,これらをまとめて主走査方向に走査し印字する。記録素子が多数あるため高速な印字が可能となる。
【0003】
図2はレーザビームプリンタにおけるマルチビームでのビーム記録を示したものである。1次元上に並んだアレー状の半導体レーザは水平走査面に対して微小角φだけ傾けられ,記録媒体である感光ドラム上で副走査方向に1画素幅になるように配置され,マルチビームによるビーム走査が行われる。同図(b)はVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER:垂直共振器面発光レーザ)を光源としてマルチビーム走査を可能としたものである。いずれの方法も光学スポットは副走査方向に等間隔に並び,主走査方向は各ビームの先頭位置が異なるため、位置検出して位相を調整して出力する。VCSELを用いた場合レーザ素子は2次元で作成されるため,ビーム数を多くすることが可能で,32ビームや64ビームといったものが可能である。
【0004】
このように吐出ノズルや半導体レーザ光源などの記録素子の数を増やすことにより,プリンタの記録スピードを高速化することができる。しかしながら,吐出ノズルや,半導体レーザ光源等の記録素子の数が多くなると,個々の素子のばらつきのため,記録画像に濃度ムラやノイズがのりやすい。特にバンディングノイズといわれるバンド単位の筋状のノイズは著しい画質低下をもたらす。
【0005】
この問題を解決する方法として,例えば,シリアルタイプのインクジェットプリンタでは,特許文献1および2に示されるようなマルチパス方式と呼ばれる方法が用いられる。このマルチパス方式は,あるバンド幅の印字を複数回に分けて画像を形成していく方式である。必要な回数をパス数と呼ぶ。図3に4パスの時の記録例を示す。図において,1パス目は,マスクに従って,平均的に1/4の濃度となるように(即ち,1/4の画素数分)印字する.すなわち,二値化された画像データが1/4の画素数分だけ印字される。続いてバンド幅分だけ紙送りをして2パス目を印字する.このとき,1パス目で非印字の部分にマスクパターンが対応するように設定されているので、1パス印字の時に印字されなかった部分に印字される.同様に3パス目,4パス目を印字する.最終的にすべての画素が印字されるが,マスクパターンがランダムな配列のため、各記録素子からのインクがランダムな位置に吐出され、ノズルの不均一性等が平均化されバンディングノイズが減少する。
【0006】
かかるマルチパス方式において、各パスにおける印字する画素はパスマスクにより決定される。パスマスクはインクの吐出のON/OFFを決定する二値のマスクで、パス数に合わせて複数用意される。通常、ベイヤー型のマスクやブルーノイズマスク等が用いられることが多く,ランダムで分散的なドットパターンであるため,ノズルの不均一性を平均化し目立たなくする作用がある。
【0007】
ピエゾ方式のノズル間隔は高密度化に限界があるため,ノズル間隔内をインターレースして記録される.この方式はマイクロウィーブと呼ばれ,例えば,Ndpi(dot per inch)の画素密度のヘッドで,4パスで副走査方(紙送り方向)に1/4バンド幅+1/4ノズル幅だけ紙送りを行う事により,インターレースにより4Ndpiで記録することができる.あるいは副走査方向に1/4バンド幅+1/2ノズル幅だけ紙送りすることにより2Ndpiで記録することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−52465
【特許文献2】特開2010−120185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
かかる方法は,記録素子のばらつきや変動に対するムラやノイズ対策として有効な手法である。しかしながら,高速なプリンタではそれぞれの処理を高速に行うためハードウェア化する必要があり、コストアップを招く。特にハーフトーニングの演算負荷が高いためソフトウェアで処理することが困難である。また,パスマスクの多重度Nを変えたとき,リアルタイムでパターンを計算するのは困難で,あらかじめ決められたパターンをハードディスク等のメモリに保存しておき,それを取り出して用いることが一般的である。このため,マスクパターンは保存されたパターンに限定され,柔軟性に欠けるという問題がある。
【0010】
更に,パスマスクとハーフトーンニングとは別々に構成され処理を行う。パスマスクは二値のパターンでドットを打つか打たないかのON/OFFを決定し,ハーフトーニングは画像データの二値化(あるいは,多値化)を担う。この機能分離のため,それぞれ別の回路構成が必要で,ハードウェアの余分なコストがかかってしまう。また、ハーフトーニングを変更するとパスマスクも変更することが多く、自由度が少ないという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はかかる問題を解決し,簡単な構成で,低コストに高画質なノイズを低減した出力を可能とするための画像形成方法およびその画像処理装置を提供する。その特徴は,ハーフトーニングとしてグリーンノイズ特性を示すディザマスクを用いる。
【0012】
更に,グリーンノイズ特性を示すディザマスクは,フィルタ処理により特性の異なるパターンを装置内で簡単に生成可能である。したがって,多数のマスクパターンをあらかじめ用意する必要はなく,柔軟でかつ,メモリの節約にもなる。
【発明の効果】
【0013】
かかるディザマスクを用いた画像処理装置は、グリーンノイズ特性を示すドットパターンによるハーフトーニングを行うため、高画質の画像出力を可能としディザ法で出力できるため高速処理が可能で,高速プリンタでも特別なハードウェアは必要とせず、大半をソフトウェア処理のみで実行可能である。また、グリーンノイズのフィルタ特性を変えたものを装置内で作成できるため、異なるハーフトーニングにも対応可能である。これは、プリンタエンジンのドット形成における空間周波数応答特性(MTF:Modulation Tranfer fanction)特性の異なるあらゆるプリンタに対して、最適なハーフトーニングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】シリアルタイプのインクジェットプリンタの記録方式を表す図で,(a)はプリンタヘッドを,(b)は各色ヘッドの配置を示す図
図2】マルチビームレーザビームプリンタでの半導体アレーレーザの配置を示す図で,(a)は半導体アレーレーザを用いた時の図,(b)はVCSEL素子を用いた時の図
図3】シリアル型のインクジェットプリンタにおけるマルチパス方式による印字の様子を示す図
図4】本発明の画像処理を示すブロック図
図5】画像処理部の詳細な図
図6】第1の工程の処理フローを表す図
図7】第2の工程の処理フローを表す図
図8】種々のサイズのディザマトリックスとそのスペクトル特性を示す図
図9】各階調でのグリーンノイズマスクによるディザドットパターン出力とスペクトルを表す図
図10】グリーンノイズディザマトリックスを表す図で,(a)は64画素×64画素のマトリックス,(b)はそれを2×2に繋いだものを表す図
図11】各パスにおけるディザマスクパターンを示すで,(a)はディザマスクMを表す図、(b)は1パス目のディザマスクPM(0) を表す図、(c)は2パス目のディザマスクPM(1) を表す図、(d)は3パス目のディザマスクPM(2) を表す図、(e)は4パス目のディザマスクPM(3) を表す図
図12】マルチパスの印字を表す図で,(a)はディザマスクの配置を示す図,(b)は,各パス毎の記録素子と画像データの位置関係を示す図
図13】記録素子数とディザマトリックスサイズが異なるときの関係を示す図。
図14】マルチパス方式で印字記録した二値画像出力を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における画像処理装置は、複数のノズルや半導体レーザ光源を備えたプリンタへ出力するための二値化装置として用いられる。グリーンノイズ特性を示すディザマスクにより二値化がおこなわれるが、マルチパスを実現するため、N個のパスマスクに分解される。パス数はユーザにより自由に選ぶことができるため、本装置ではグリーンノイズディザマスクのみ保持すればよい。さらに、かかるグリーンノイズディザマスクは、特性の異なるものを瞬時に生成できるため、多数のパターンを保持する必要はない。
【実施例】
【0016】
以下,本発明を実施例に沿って説明する。
図4は本発明の画像処理装置のブロック図を示す。送られてきた画像データ1は,画像処理部2により二値化処理され,処理された結果は記録素子あるいは光源に対応した画素データをドライバー3へ送る。これらの操作は水平同期信号(画素クロック)および垂直同期信号(1走査ごと)に同期して行われる。最後にインクの吐出あるいは光源像のON/OFFとして出力される(5)。
【0017】
図5は,画像処理部2を詳しく説明したものである。パス数をNとしたとき,各パス毎のディザマトリックスからなるマスクをPM(k,i,j)とする。ここでkはマスクナンバーを表し,k=0,1,2,…,N-1 である。(i,j)はディザマトリックスの要素の位置を表す。N個のマスクパターンは後述のグリーンノイズ特性を示すディザパターンを生成し、システムのハードディスク6などに納められている。N個のマスクパターンは1走査ごとに出される垂直同期信号4により,k番目のパターンPM(k,i,j)がマスクパターンメモリ7に転送される。その後,画像メモリなどに格納された画像データ1と比較して二値化処理手段8にて二値化が行われる。かかる二値化は副走査記録素子に対応した画素分相当を行う。続いて,副走査方向に時系列的に処理されたデータは記録素子に対応するべくシリアル- パラレル変換9を行い,後段のノズルドライバーあるいはレーザドライバーに送られる。
【0018】
次に,グリーンノイズ特性を示すディザマトリックスについて説明する。グリーンノイズによるハーフトーニングは,クラスター型のFMスクリーンとして種々の方法が提案されている。この方式は,プリンタ・エンジンのMTF特性に合わせることができ,安定した高精細中間調画像が出力できる。このため,電子写真方式のプリンタなどで安定した出力を行うことができ,またインクジェットプリンタなどでは,インク滴が記録画素サイズより大きい場合に生じるドットゲイン対策のため,かかるクラスター型のFMスクリーンが有効となる。
このグリーンノイズ特性を呈すハーフトーニングは,従来はリアルタイムにはできなかった。このため,二値化処理とパスマスクを分離せざるを得なかったわけである。しかしながら,本発明は,ディザ方式で二値化するため,演算処理は非常に簡単であり,リアルタイムでの高速出力が可能となる。
【0019】
次にグリーンノイズ特性を示すディザマスクの作成アルゴリズムについて説明する。
グリーンノイズ特性を呈すドットは,その空間周波数スペクトルがfmin〜fmax の間に制限されるようにフィルタ操作を行う。求めるディザマトリックスサイズをM×M ( Mは2のべき乗)とすると,そのNyquist周波数fnは,fn=M/2となる。印字ドットの黒化率(単位面積での黒ドットの占める面積率)をgとした時(0≦g≦1),g =1が全黒,g =0 が全白を表す。階調レベルLは,画素データがnbitとすると,
L=2^n (1-g)
となる。
【0020】
かかるグリーンノイズ特性を示すディザマトリックスを得るため,本発明は以下の2つの工程を行う。
1.まず,中間濃度の状態でのドットプロファイルを,プリンタエンジンに最適な空間周波数となるように帯域を制限してフィルタリングを行う工程
2.次に,階調の全域にわたって,帯域制限したフィルタリングを行い,ドットプロファイルを得る工程
以上2つの工程により,中間濃度でのディザの閾値マトリックスを決定する。
【0021】
より具体的には,
1.黒化率gが中間値(g=0.5)の点プロファイルを,ラジアル周波数frが低周波数域および高周波数域で0となり,その中間部で有限の値を持つバンドパス・フィルタD(u,v,1/2)(但し,(u,v)は二次元空間周波数)によりフィルタリングを行う第1の工程
2.階調単位で変化させた黒化率gが, g±Δgの全域において,gに応じてラジアル周波数fminおよびfmaxを変えたバンドパス・フィルタD(u,v,g) によりフィルタリングを行う第2の工程。
かかる2つの工程により,ディザの閾値マトリックスを決定する。
【0022】
第1の工程を図6のフローに沿って説明する。今,ディザマトリックスサイズをM×Mとし,この領域に黒点を打つものとし,黒化率g,点(i,j)における点プロファイルを p(i,j,g)とする。まず,中間(g=1/2)の点プロファイルは,以下のステップで行われる。
まず、初期値としてg=1/2 とし,M^2/2個の黒点をランダムに与え点プロファイルp(i,j,1/2)を用意する。(初期状態はホワイトノイズ)
(STEP 1) 点プロファイルの二次元FFTを行 P(u,v,1/2)を得る。
(STEP 2) P(u,v,1/2)にフィルタD(u,v,1/2)を掛けて新たなP'(u,v,1/2)を得る。ここでD(u,v,1/2)はラジアル周波数frが fmin≦fr≦fmax の領域のみ値を持つグリーンノイズフィルタを用いる。
(STEP 3) P'(u,v,1/2)に逆フーリエ変換を行い,多値の点プロファイルp'(i,j,1/2)を得る。
(STEP 4) 誤差関数:e(i,j,1/2)=p'(i,j,1/2)-p(i,j,1/2)を計算し,各画素位置における誤差を正負の大きい順に並べ,大きい順に白→黒,黒→白と反転する。この時反転させる数は等しい。
(STEP 5) 上記操作を誤差が一定の許容量以内になるまでSTEP1からSTEP5を繰り返す。すべての画素が許容量内に入れば最終的にg=1/2の点プロファイルを得る。
【0023】
次に,図7に第二の工程の処理フローを示す。第2の工程は,1階調単位で変化させた g±Δgにおいて, 以下の操作を行う。
(STEP 1) p(i,j,g)の二次元FFTを行いP(u,v,g)を得る。
(STEP 2) P(u,v,g)にフィルタD(u,v,g)を掛けて新たなP'(u,v,g)を得る。ここでD(u,v,g)はgによってfmin およびfmaxが変化するフィルタである。
(STEP 3) P'(u,v,g)に逆フーリエ変換を行い,多値の点プロファイルp'(i,j,g)を得る。
(STEP 4) 誤差関数:e(i,j,g)=p'(i,j,g)-p(i,j,g)を計算し,各画素位置における誤差を正負の大きい順に並べ,階調値に対応する数N=M^2/2^nだけ,大きい順に白→黒,あるいは黒→白と反転する。この時,ディザマトリックスの反転した画素位置 に階調値を書き込む
(STEP 5) g±ΔgとしてSTEP 1〜STEP 5を繰り返す。g=0,1となった時,本操作を終了する。
この操作を繰り返し,g=0,1となった時本操作を終了し,ディザ閾値マトリックスを算出する。
【0024】
ここで,ラジアル周波数fmax及びfminは以下のようにして設定する。
フィルタD(u,v,g)のfmax及びfminをgによらず固定値とした場合,明暗部における点プロファイルの一様性が崩れる。このため,gによってfmax及びfminを可変とし,明暗部においては,グリーンノイズ特性からブルーノイズ特性に接近するようにfmax及びfminを設定する。このようにすることにより明暗部の粒状性の回避が可能となる。
【0025】
上記ステップに沿ってディザマトリックスを得ることができるが、以下のパラメータを用いると便利である。
黒化率gにおける平均的ドット間隔による周波数は,
f0=√g・fn 0≦g≦1/2 の時
f0=√(1-g)・fn 1/2≦g≦1の時
で与えられる。フィルタD(u,v,g)が,円形状である場合,ラジアル方向のバンドフィルタとして,
D(fr,g)=有限値 :fmin≦fr≦fmax の時
D(fr,g)=0 :その他の時
であるとする。fmax及び fminは f0 を基準とした差分を,
Δfmax=fmax-f0≡a・fn
Δfmin=fmin-f0≡b・fn
として表す。一般に,マトリックスのサイズRによって,Nyquist周波数fnが異なるので,fnで規格化した値(a,b)を用いることにより
(a,b)=( fmax/fn ,fmin/fn)
として表される(a,b)をパラメータとして記述することにより,マトリックスサイズMによらずにクラスターサイズを限定できる。
【0026】
図8に一例として導出結果を示したもので,(a,b)=(0,-1/4) における128×128、64×64、32×32でのディザマトリックスパターンとそのFFTスペクトル図を示す。ディザマトリックスのパターンは閾値を輝度データとして表している。また,FFTスペクトルパターンは図の中心を0周波数として表している。スペクトル分布からわかるように低域及び高域でスペクトル強度が低減している。さらに,a,b値を変えることによりスペクトル特性を変えることが可能である。
【0027】
図9は128×128の前述の方法で求めたディザマトリックスの各階調レベルにおけるドットパターンおよびスペクトル特性を示したものである。各階調でドットパターンがクラスター化し、等方的で一様なパタンであることが分かる。また、スペクトル分布も、各階調で周波数空間での高域と低域が低下したグリーンノイズ特性が保存されていることが分かる。
【0028】
図10は64×64のディザパターン(a)と,それを4つ繋ぎ合わせて128×128のサイズのもの(b)である。通常、サイズの小さなディザマトリックスではその繰り返しによる境界が目立つが、ランダムなドットパターン特性のため,両者の繋ぎ合わせの境界は目立たない。このため、小さなマトリックスサイズでも問題はない。
【0029】
次にマルチパスにおけるディザマトリックスの生成について説明する。今,グリーンノイズ特性を示す工程1,2で求められたM×MのディザマスクをM(i,j)とする(ただし,i,j=0,1,2,…,M-1), パス数をNとし,k(k=0,1,2,…,N-1)番目のM×MのパスマスクをPM(k,i,j)とすると,PMは,M(i,j)より,d=M(i,j)とすると,
PM(d mod N, i, j)=d
であたえられる。ここで、D mod N は、DをNで除算したときの余りを表す。すなわち、以下のアルゴリズムで示される。
# Algorithm: Generation of PassMask
# Require: M(i,j)
# Output: PM(k,i,j)

# initialization
PM(k,i,j)=0 for all i,j,k
# Calculation PM
for all i,j
d=M(i,j)
PM(d mod N,i,j)=d
end for
【0030】
具体例として,4パスの場合を説明する。今64×64のグリーンノイズディザマトリックスをMとし、4つの64×64のパスマスクPM(0)、PM(1)、PM(2)、PM(3) (i,jは省略)を求める。Mは画像データが各色8ビットの場合,マトリックスの各要素の閾値が0から255までの値でそれぞれ16個ずつ存在する。それを各値により以下のように振り分ける。
PM(0)={0,4, 8, 12,…,4n }
PM(1)={1,5, 9, 13,…,4n+1}
PM(2)={2,6,10,14,…,4n+2}
PM(3)={3,7,11,15,…,4n+3}
それ以外の箇所は0とする。要素の位置は元のマトリックスの位置である。また、最初にPMをすべて0にイニシャライズして,その後,必要な個所を上式に従って書き込むことで容易に得られる。
【0031】
図11はディザマトリックスを分割したものを示すもので,(a)は分割前の64×64のディザマトリックス,(b)はk=0の分割されたパスマスクを示す。分割前のディザマトリックスの各要素の閾値が{0,4,8,12,…,252}のもののみ抽出され,他は0の値である。図(c)〜(e)はそれぞれk=1,2,3のパスマスクを示す。
ディザ処理は画像データdと閾値とを比較し,
閾値≠0、かつ d>閾値 ならば 出力1
それ以外は 出力0
と二値化する。もしイニシャライズでPMをすべて最大値(この場合255)にしておれば,
d>閾値 ならば 出力1
それ以外は 出力0
となる。
【0032】
一般に,Nパスに分解するとした場合は,
PM(0)={0,N, 2N, 3N,…}
PM(1)={1,N+1,2N+1,3N+1,…}
PM(2)={2,N+2,2N+2,3N+2,…}
・・・
PM(k)={k,N+k,2N+k,3N+k,…}
・・・
PM(N)={N-1,2N-1,3N-1,…}
となるように分割する。したがって,Nパス時のk番目のディザマトリックスは,Mの閾値が
N・i + k (ただし,i=0,1,2,…で,N・i + k<256)
であるものが選ばれる。
【0033】
図12(a)はディザマトリックスで画像の二値化処理を表したものである。ディザマスクPM(k,i,j)を画像データにブロック単位で重ね,対応する画素同士を比較して二値化を行う。マルチパスの場合,N個のディザマスクがあるため,すべて同じ位置に重ねてそれぞれのマスクごとに二値化を行う。
【0034】
ここで1走査ごとに副走査方向にR/N画素分だけ紙送りされるため,同図(b)に示されるように記録素子に送られる二値化データは,R/N画素シフトさせる必要がある。まず1パス目はPM(0)のディザマトリックスで二値化した値をヘッドの先頭から順に送る。続いて2パス目は,PM(1) のディザマトリックスで二値化した値をヘッドの先頭からR/Nずらして送る。すなわち,同図(a)の2パス目の位置10のデータを記録素子へ転送すればよい。同様に3パス目は,PM(2) のディザマトリックスで二値化した値をヘッドの先頭から2・R/Nずらして送る。
【0035】
もし,グリーンノイズマスクのサイズMが記録素子の数Nと同じであれば,Nパス終了すると一巡する。しかしながら,必ずしも一致する必要はない。図13はM×Mサイズ(ただし,Mは2のべき乗)のグリーンノイズディザマトリックスに副走査方向にR個並んだ記録素子で,M≠Rの場合を示す。z番目の走査で先頭からr番目(r=0,1,2,…,R-1)の記録素子に与える画像データI(i, j)は,
I(i, j)=I(i, R/N・z+r )
となる。一方,ディザ閾値PM(k,p,q)の値は,
PM(k,p,q)=PM(z/N, i mod M, (R/N・z+j) mod M)
となり,二値化は、
PM(k,p,q)≠0 で,かつ,I(i,j)>PM(k,p,q) ならば出力1
それ以外は 出力 0
となる。かかる操作は画像データとディザマトリックスの対応するアドレスからデータを呼び出し比較処理を行うだけでよく、複雑な演算はいらない。上記の場合,出力値は輝度データであるが,プリンタの場合は濃度データに変換し,出力値0,1を反転させればよい。
【0036】
図14は4パスで画像出力を行った場合の画像形成を示す。1パス目ではPM(0)のディザマスクで二値化を行い,2パス目ではPM(1)のディザマスクで二値化を行ったものをヘッドに対してR/Nだけシフトした二値化データで印字する。以下同様に4パス目まで行い,4パス目で,画像が完成する。以下同様のことを繰り返す。
印字の先頭は全パスが重畳されないため,全パス数の画像が再現される4パス目から画像が始まるように記録素子のスタートをあらかじめ副走査方向にR/N×(N-1)相当分だけずらしておけばよい。
また、パス数Nを変更する時は、前述の式に新たなNを入れて同様の計算を行えばよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は以上の様にして、ムラやバンディングノイズのない高画質な画像出力を可能としたものである。すなわち、グリーンノイズ特性を示すディザマトリックスから、ディザパスマスクを生成し、これを用いることにより高画質な二値化処理を高速に実現できたものである。かかるパスマスクは、パスマスクとハーフトーニング機能を両方兼ね備え特別なハードウェアを必要とせず、ソフトウェア処理により実行できるため、安価な画像処理装置を提供するものである。このため民生用のプリンタや産業用のプリンタを低価格で提供することが可能である。
【0038】
さらに、グリーンノイズのスペクトル特性を変えることにより、異なるハーフトーニングが得られるため、プリンタエンジンの特性に合わせて最適なものを選ぶことができる。係数(a、b)のaを大きくすると、fmaxが大きくなり、クラスターサイズが小さくなる。fmax→∞ではブルーノイズ特性となる。 一般に電子写真系プリンタではグリーンノイズ特性、インクジェットプリンタではブルーノイズ特性が用いられる。したがって、本手法ではプリンタにあった特性のディザマトリックスを装置内で迅速に作り出すことが可能で、あらゆるプリンタに有効である。
【符号の説明】
【0039】
1は画像データ、2は画像処理部、3はドライバー、4は同期信号、5は出力信号、6はマスクパターン格納メモリ、7はマスクパターンメモリ、8は二値化処理手段、9はシリアルパラレル変換処理、10は記録素子を表す。
図1
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図14