(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
板厚方向に見た場合の輪郭形状に沿う第一方向の前記圧縮応力を第一圧縮応力とし、主面と平行な面内において前記第一方向に対し垂直な第二方向の前記圧縮応力を第二圧縮応力とした場合、
前記高異方性応力領域内の前記圧縮応力層において、前記第一圧縮応力が、前記第二圧縮応力より大きいことを特徴とする、請求項2に記載の強化ガラス板。
主面と平行な面内で、前記高異方性応力領域と前記低異方性応力領域との境界から等距離の任意の観測点において前記第一圧縮応力および前記第二圧縮応力を測定した場合に、 前記低異方性応力領域内の前記観測点における前記第一圧縮応力から当該点における前記第二圧縮応力を減じた差が、前記高異方性応力領域内の前記観測点における前記第一圧縮応力から当該点における前記第二圧縮応力を減じた差より小さいことを特徴とする、請求項3または4に記載の強化ガラス板。
前記低異方性応力領域における前記第一圧縮応力と前記第二圧縮応力との差が、40MPa以下であることを特徴とする、請求項3から5の何れか1項に記載の強化ガラス板。
板厚方向に見た場合の前記高異方性応力領域内の任意の点において、前記第一圧縮応力がゼロとなる主面からの深さが、前記第二圧縮応力がゼロとなる主面からの深さより深いことを特徴とする、請求項3から6の何れか1項に記載の強化ガラス板。
前記高異方性応力領域内における板厚方向のリタデーションをR(nm)、強化ガラス板の光弾性定数をα(nm/cm/MPa)、板厚をt(cm)とした場合に、式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1から7の何れか1項に記載の強化ガラス板。
R/αt≧10 …(1)
前記高異方性応力領域と前記低異方性応力領域との境界が、板厚方向に見た場合の強化ガラス板端部から8mm以内に位置することを特徴とする、請求項1から9の何れか1項に記載の強化ガラス板。
前記高異方性応力領域における前記圧縮応力層の深さが、前記低異方性応力領域における前記圧縮応力層の深さより深いことを特徴とする、請求項1から11の何れか1項に記載の強化ガラス板。
前記高異方性応力領域内における前記引張応力が、前記低異方性応力領域における前記引張応力より大きいことを特徴とする、請求項1から12の何れか1項に記載の強化ガラス板。
前記高異方性応力領域と前記低異方性応力領域との境界において各領域の光学主軸の方向が異なることを特徴とする、請求項1から13の何れか1項に記載の強化ガラス板。
板厚方向に見た場合に、前記高異方性応力領域内の前記圧縮応力層における光学主軸方向が、前記端縁部の輪郭形状に沿った方向であることを特徴とする、請求項14に記載の強化ガラス板。
板厚方向に見た場合に、前記高異方性応力領域内の前記圧縮応力層における光学主軸と、前記低異方性応力領域内の前記圧縮応力層における光学主軸とが成す角度が45度以上であることを特徴とする、請求項14または15に記載の強化ガラス板。
前記主面における前記成膜領域以外の領域を非成膜領域とした場合に、前記成膜領域と前記非成膜領域との境界を、板厚方向に見た場合の前記強化用ガラス板の端部から8mm以内に位置に設定することを特徴とする、請求項17から19の何れか1項に記載の強化ガラス板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、スマートフォン等の電子機器にカバーガラスとして備えられた強化ガラス板にクラックが形成された場合、当該クラックの進展範囲が部分的であればスマートフォン全体の機能が害されることなく、ある程度継続して使用できる場合がある。すなわち、このようなクラックの進展態様を制御可能であれば、電子機器の致命的な破損を抑制し得ると考えられる。しかしながら、従来の技術ではこのようなクラックの進展態様を制御することについて検討されていなかった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮して成されたものであり、高い強度を有し、且つ、クラックの進展態様を制御し得る強化ガラス板およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の強化ガラス板は、圧縮応力を有する圧縮応力層を主面に備え、引張応力を有する引張応力層を内部に備えた強化ガラス板であって、端縁部の少なくとも一部に設けられ、主面と平行な面内で異方性を示す応力を有する高異方性応力領域と、高異方性応力領域に隣接して主面方向の中央側に設けられ、主面と平行な同一面内において高異方性応力領域より低い異方性を示す応力を有する低異方性応力領域とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の強化ガラス板によれば、異なる異方性を有する領域を備えるため、領域を跨ぐクラックの進展を抑制できる。したがって、クラックの進展態様を制御し、当該強化ガラス板が搭載される電子機器の致命的な破損を抑制し得る。
【0010】
本発明の強化ガラス板は、高異方性応力領域内において、端縁部の輪郭形状に沿った方向に異方的な応力を有することが好ましい。
【0011】
本発明の強化ガラス板は、板厚方向に見た場合の輪郭形状に沿う第一方向の圧縮応力を第一圧縮応力とし、主面と平行な面内において第一方向に対し垂直な第二方向の圧縮応力を第二圧縮応力とした場合、高異方性応力領域内の圧縮応力層において、第一圧縮応力が、第二圧縮応力より大きいことが好ましい。
【0012】
本発明の強化ガラス板は、高異方性応力領域における第一圧縮応力が700MPa以上であり、高異方性応力領域における第一圧縮応力から第二圧縮応力を減じた差が15MPa以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の強化ガラス板は、主面と平行な面内で、高異方性応力領域と低異方性応力領域との境界から等距離の任意の観測点において第一圧縮応力および第二圧縮応力を測定した場合に、低異方性応力領域内の観測点における第一圧縮応力から当該点における第二圧縮応力を減じた差が、高異方性応力領域内の観測点における第一圧縮応力から当該点における第二圧縮応力を減じた差より小さいことが好ましい。
【0014】
本発明の強化ガラス板は、低異方性応力領域における第一圧縮応力と第二圧縮応力との差が、40MPa以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の強化ガラス板は、板厚方向に見た場合の高異方性応力領域内の任意の点において、第一圧縮応力がゼロとなる主面からの深さが、第二圧縮応力がゼロとなる主面からの深さより深いことが好ましい。
【0016】
本発明の強化ガラス板は、高異方性応力領域内における板厚方向のリタデーションをR(nm)、強化ガラス板の光弾性定数をα(nm/cm/MPa)、板厚をt(cm)とした場合に、式(1)を満たすことが好ましい。
R/αt≧10 …(1)
【0017】
これらの構成によれば、クラックの進展態様を、より制御し易くなる。
【0018】
本発明の強化ガラス板は、高異方性応力領域が端縁部全域に亘って設けられ、低異方性応力領域が高異方性応力領域に包囲されていることが好ましい。
【0019】
このような構成によれば、クラックの起点となる端縁部全域において、クラックの進展態様を制御可能である。
【0020】
本発明の強化ガラス板は、高異方性応力領域と低異方性
応力領域との境界が、板厚方向に見た場合の強化ガラス板端部から8mm以内に位置することが好ましい。
【0021】
本発明の強化ガラス板は、板厚方向に見た場合に直線状の辺部を含む輪郭形状を有し、辺部の長さが10〜5000mmであり、板厚が0.1〜2.0mmであり、高異方性応力領域が辺部に沿って帯状に設けられていることが好ましい。
【0022】
本発明の強化ガラス板は、高異方性応力領域における圧縮応力層の深さが、低異方性応力領域における圧縮応力層の深さより深いことが好ましい。
【0023】
このような構成によれば、端縁部におけるクラックの発生および進展を、より抑制し易くなる。
【0024】
本発明の強化ガラス板は、高異方性応力領域内における引張応力が、低異方性応力領域における引張応力より大きいことが好ましい。
【0025】
このような構成によれば、例えば、衝撃により端縁部においてクラックが発生或いは進展した場合に、高異方性応力領域内でクラックを分散的に進展させて当該衝撃のエネルギーを分散し、低異方性応力領域までのクラックの進展を抑制し易い。また、強化ガラス板が電子機器に搭載されている場合、当該衝突エネルギーの分散により電子機器の破損を抑制し易くなる。
【0026】
本発明の強化ガラス板は、高異方性応力領域と低異方性応力領域との境界において各領域の光学主軸の方向が異なることが好ましい。
【0027】
本発明の強化ガラス板は、板厚方向に見た場合に、高異方性応力領域内の圧縮応力層における光学主軸方向が、端縁部の輪郭形状に沿った方向であることが好ましい。
【0028】
本発明の強化ガラス板は、板厚方向に見た場合に、高異方性応力領域内の圧縮応力層における光学主軸と、低異方性応力領域内の圧縮応力層における光学主軸とが成す角度が45度以上であることが好ましい。
【0029】
本発明の強化ガラス板の製造方法は、強化用ガラス板をイオン交換して化学強化する強化ガラス板の製造方法であって、イオン交換を抑制するイオン交換抑制膜を、強化用ガラス板の主面の端縁部の少なくとも一部の領域を除いた成膜領域に形成して膜付ガラス板を得る成膜工程と、膜付ガラス板をイオン交換法により化学強化して強化ガラス板を得る強化工程と、を備えることを特徴とする。
【0030】
本発明の強化ガラス板の製造方法によれば、上記本発明の強化ガラス板を容易に製造できる。
【0031】
本発明の強化ガラス板の製造方法では、強化用ガラス板は、板厚方向に見た場合に直線状の辺部を含む輪郭形状を有し
、主面における成膜領域以外の領域を非成膜領域とした場合に、非成膜領域を辺部に沿って帯状に設定することが好ましい。
【0032】
本発明の強化ガラス板の製造方法では、主面における成膜領域以外の領域を非成膜領域とした場合に、非成膜領域を強化用ガラス板の端縁部全域に亘り、成膜領域を包囲するように設定することが好ましい。
【0033】
本発明の強化ガラス板の製造方法では、主面における成膜領域以外の領域を非成膜領域とした場合に、成膜領域と非成膜領域との境界を、板厚方向に見た場合の強化用ガラス板の端部から8mm以内に位置に設定することが好ましい。
【0034】
これらの構成によれば、得られる強化ガラス板において端縁部におけるクラックの発生および進展を抑制し易くなる。
【0035】
本発明の強化ガラス板の製造方法は、強化工程後に、イオン交換抑制膜を除去する除去工程をさらに備えることが好ましい。
【0036】
このような構成によれば、透明性が高く平滑な主面を有する強化ガラス板を得られる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態の強化ガラス板G4およびその製造方法について説明する。
図1は、板厚方向(
図2に示すZ方向)に見た本発明の強化ガラス板G4の一例を示す図である。
図2は、本発明の強化ガラス板G4の
図1におけるA−A断面を示す図である。
【0039】
強化ガラス板G4は、圧縮応力を有する圧縮応力層C(Ca、Cb)、および引張応力を有する引張応力層T(Ta、Tb)を有する強化ガラス板である。上記表面には主面Sおよび端面を含む。
図1、2中において応力の主たる作用方向を概念的に示したものである。強化ガラス板G4は、略矩形の板状を成す。具体的には、板厚方向に見た場合に直線状の長辺部E1、長辺部E1より短い直線状の短辺部E2、および長辺部E1と短辺部E2とを接続する円弧状または楕円弧状のコーナー部E3を含む輪郭形状を有する。
【0040】
強化ガラス板G4の板厚は、例えば、1.5mm以下であり、好ましくは1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下、0.6 mm以下、0.5mm以下、0.4mm以下、0.3mm以下、0.2mm以下、特に0 .1mm以下である。強化ガラス基板の板厚が小さい程、強化ガラス基板を軽量化することでき、結果として、デバイスの薄型化、軽量化を図ることができる。なお、生産性等を考慮すれば強化ガラス板G4の板厚は0.01mm以上であることが好ましい。強化ガラス板G4の幅および長さ寸法は、例えば、10×10mm〜5000×5000mmであり、好ましくは480×320mm〜3350×3950mmである。
【0041】
強化ガラス板G4は、高異方性応力領域Qaおよび低異方性応力領域Qbを有する。高異方性応力領域Qaは、ガラス板G4の端縁部に設けられる。低異方性応力領域Qbは、高異方性応力領域Qaより主面方向の中央側に隣接して設けられる。本実施形態では、高異方性応力領域Qaは、長辺部E1、短辺部E2、およびコーナー部E3に沿って一定幅の帯状に、強化ガラス板G4の端縁部全体に亘って設けられている。また、低異方性応力領域Qbは、高異方性応力領域Qaに包囲されるように位置している。高異方性応力領域Qa
と低異方性
応力領域Qbとの境界Nは、例えば、強化ガラス板G4のエッジKから8mm以内に位置する。なお、エッジKとは、強化ガラス板G4の板厚方向に見た場合の端部を意味し、本実施形態では強化ガラス板G4の端面の断面視頂部を指す。
【0042】
高異方性応力領域Qaは、主面Sと平行な同一面内において低異方性応力領域Qbより高い異方性を示す応力を有する領域である。なお、本発明では、所定領域内の任意の観測点で複数方向に測定した応力の大きさに差があり、複数観測点において応力が最大となる方向が一致する場合に、当該領域における応力に異方性があるものとする。また、所定領域内の任意の観測点における応力の最大値と最小値の差が大きいほど当該領域における応力の異方性が高いものとする。
【0043】
高異方性応力領域Qa内の圧縮応力層Caは、主面Sと平行な面内(
図1、2におけるXY平面内)で異方的な圧縮応力を有する。本実施形態では、圧縮応力層Caは、高異方性応力領域Qa内において、端縁部の輪郭形状に沿った方向、すなわち長辺部E1、短辺部E2、およびコーナー部E3に沿った方向に異方的な圧縮応力を有する。また、高異方性応力領域Qa内の引張応力層Taは、主面Sと平行な面内で端縁部の輪郭形状に沿った方向に異方的な引張応力を有する。
【0044】
低異方性応力領域Qbは、主面Sと平行な同一面内(
図1、2におけるXY平面内)で高異方性応力領域Qaより異方性の低い応力を有する領域である。本実施形態では、低異方性応力領域Qb内の圧縮応力層Cbは、主面Sと平行な面内で、端縁部の輪郭形状に対して略垂直な方向、すなわち長辺部E1、短辺部E2に垂直な方向に異方的な圧縮応力を有する。
【0045】
具体的には、長辺部E1に沿った高異方性応力領域内Qa1内の圧縮応力層Caでは、長辺部E1と平行なY方向の圧縮応力が、主面Sと平行面内でY方向に垂直なX方向の圧縮応力より大きい。なお、短辺部E2に沿った高異方性応力領域内Qa2内の圧縮応力層Caでは、短辺部E2に沿ったX方向の圧縮応力が、Y方向の圧縮応力より大きい。
【0046】
板厚方向(Z方向)に見た場合の輪郭形状に沿う第一方向の圧縮応力を第一圧縮応力CS1とし、主面Sと平行な面(XY平面)内において第一方向に対し垂直な第二方向の圧縮応力を第二圧縮応力CS2とした場合、第一圧縮応力CS1から第二圧縮応力CS2を減じた差ΔCSは異方性の高さを示す指標となる。輪郭形状に沿った方向についての圧縮応力の異方性が高いほどΔCSは大きくなる。
【0047】
高異方性応力領域Qa内におけるΔCS(ΔCSa)は10MPa以上であることが好ましい。高異方性応力領域QaにおけるΔCS(ΔCSa)は、より好ましくは20MPa以上、さらに好ましくは30MPa以上である。また、高異方性応力領域Qa内における第一圧縮応力CS1は700MPa以上であることが好ましい。
【0048】
板厚方向に見た場合の高異方性応力領域Qa内の任意の点において、第一圧縮応力CS1がゼロとなる主面Sからの深さDOLzero1は、第二圧縮応力CS2がゼロとなる主面Sからの深さDOLzero2より深いことが好ましい。すなわち、異なる方向に異なる大きさの応力成分を有する強化ガラスG4においては、圧縮応力と引張応力とがつり合う深さ方向の位置が、各方向の応力成分ごとに異なっている。このような構成によれば、クラックの進展態様を好適に制御し得る。
【0049】
また、高異方性応力領域Qa内における板厚方向のリタデーションをR(nm)、強化ガラス板G4の光弾性定数をα(nm/cm/MPa)、板厚をt(cm)とした場合に、式(1)を満たすことが好ましい。高異方性応力領域内Qaにおける応力の異方性が高いほどR/αtが大きくなる。
R/αt≧10 …(1)
【0050】
低異方性応力領域Qbは、高異方性応力領域Qaより異方性の小さい応力、あるいは非異方的な応力を有する領域である。低異方性応力領域Qb内の圧縮応力層Cbは、主面Sと平行な面内(
図1、2におけるXY平面内)で高異方性応力領域Qaより異方性の小さい圧縮応力を有する。低異方性応力領域QbにおけるΔCS(ΔCSb)は、高異方性応力領域QaにおけるΔCS(ΔCSa)より小さいことが好ましい。また、高異方性応力領域QaにおけるΔCS(ΔCSa)の絶対値と、低異方性応力領域QbにおけるΔCS(ΔCSb)の絶対値との差分値は、30MPa以上であることが好ましい。このような構成であれば、高異方性応力領域Qaと低異方性応力領域Qbの異方性の高さおよび方向の差が顕著となり、より効果的にこれらの領域の境界を横断するクラックの進展を抑制できる。
【0051】
異方的な応力を有するガラスは当該応力に応じたリタデーションおよび光学主軸を有する。本実施形態の強化ガラス板G4では、板厚方向に見た場合に、応力が異方性を示す方向と、当該領域における光学主軸の方向が略一致する(
図1における太矢印伸長方向)。強化ガラス板G4では、高異方性応力領域Qaおよび低異方性応力領域Qbの境界N近傍において各領域が異方性を示す方向が異なるため、高異方性応力領域Qaと低異方性応力領域Qbとではその境界Nにおいて各領域の光学主軸の方向が異なる。また、高異方性応力領域Qa内の圧縮応力層Caにおける光学主軸方向は、輪郭形状に沿った方向である。なお、板厚方向に見た場合に、圧縮応力層Caにおける光学主軸と、圧縮応力層Cbにおける光学主軸とが成す角度は45度以上であることが好ましい。
【0052】
以上のように、本発明の実施形態に係る強化ガラス板G4は、異方性の異なる高異方性応力領域Qaおよび低異方性応力領域Qbを備えるため、これらの領域を横断してクラックが進展し難い。したがって、端縁部から主面中央部へのクラックの進展を抑制し、搭載される電子機器の致命的な破損を抑制できる。
【0053】
また、低異方性応力領域Qbにおける第一圧縮応力CS1と第二圧縮応力CS2との差ΔCSbは、40MPa以下であることが好ましい。ΔCSbは、より好ましくは25MPa以下、さらに好ましくは15MPa以下である。このような構成によれば、高異方性応力領域Qaおよび低異方性応力領域Qbの異方性の差が顕著となり、より効果的にこれらの領域を横断するクラックの進展を抑制できる。
【0054】
高異方性応力領域Qaにおける圧縮応力層Caの深さDaは、低異方性応力領域Qbにおける圧縮応力層Cbの深さDbより深いことが好ましい。強化ガラスの破損は、端面に限らず、端縁部を起点とするクラックの進展に起因する場合も多いが、このような構成によれば、端縁部において従来の強化ガラスに比べ高い強度を有し、端縁部を起点とする破損を好適に抑制できる。
【0055】
詳細は後述するが、強化ガラス板G4の製造過程において、高異方性応力領域Qaは、低異方性応力領域Qbに比べて深くまでイオン交換がなされるため、上記のようにDaがDbより深くなる。これに伴い、高異方性応力領域Qaは、低異方性応力領域Qbに比べて膨張している場合がある。したがって、高異方性応力領域Qaにおける強化ガラス板G4の板厚は、低異方性応力領域Qbにおける板厚より大きいものであっても良い。この場合、高異方性応力領域Qaにおける板厚と低異方性応力領域Qbにおける板厚との差である板厚差ΔQtは、好ましくは0〜2μm、より好ましくは0.1〜1.8μmである。板厚差ΔQtが上記範囲内であれば、強化ガラス板G4をタッチパネルディスプレイ等として用いた場合に過剰な段差とならず、操作性や視認性を低下させることがない。また、高異方性応力領域Qaにおける板厚が低異方性応力領域Qbにおける板厚より大きい場合、すなわち、強化ガラス板G4の端縁部が中央部より厚い場合、例えば、強化ガラス板G4を落下した際に主面中央部における衝突を抑制し、主面を起点とする致命的な破損を抑制し易くなる。
【0056】
高異方性応力領域Qaにおける圧縮応力層Caの深さDaは、強化ガラス板G4の板厚の1/4以下であることが好ましい。また、低異方性応力領域Qbにおける圧縮応力層Cbの深さDbは、強化ガラス板G4の板厚の1/8以下であることが好ましい。
【0057】
高異方性応力領域Qa内の引張応力層Taの引張応力CTaは、低異方性応力領域Qbにおける引張応力層Tbの引張応力CTbより大きいことが好ましい。このような構成によれば、仮に端縁部に衝撃が与えられて端縁部からクラックが進展した場合であっても、高異方性応力領域Qa内でクラックが分岐拡散して進展しやすいため、衝撃のエネルギーが吸収され易く、低異方性応力領域Qbまでのクラックの進展を抑制できる。すなわち強化ガラス板G4の主面中央部における致命的な分断を抑制できる。
【0058】
また、板厚方向(Z方向)に見た場合の、低異方性応力領域Qbの面積は高異方性応力領域Qaの面積より大きいことが好ましい。低異方性応力領域Qbの面積が相対的に大きいほど、低異方性応力領域Qbにおける主面方向の応力の異方性が低下し易くなるため、高異方性応力領域Qaとの異方性の差が顕著となり、より効果的にこれらの領域を横断するクラックの進展を抑制できる。
【0059】
なお、強化ガラス板G4の上記形状は一例であり、適宜変形されていて良い。例えば、強化ガラス板G4は、主面の一部に貫通孔や凹穴を有していても良いし、いわゆるC面取りやR面取り等の面取り加工がなされた端面形状であって良い。
【0060】
また、上記実施形態では、高異方性応力領域Qaが強化ガラス板G4の端縁部全体に亘って設けられている場合を一例として説明したが、ガラス板G4の端縁部の少なくとも一部の任意の位置に高異方性応力領域Qaを設けても良い。また、高異方性応力領域Qaの形状は任意に変形して良い。例えば、高異方性応力領域Qaは、短辺部E2に沿った部分のみにおいて幅を太く設定されたり、コーナー部E3に沿った部分のみ幅を狭く設定されたり、部分的にその幅や形状を変形されて良い。
【0061】
なお、上記実施形態では、低異方性応力領域Qbにおいて、異方的な応力を有する場合を一例として説明したが、低異方性応力領域Qbにおける応力は必ずしも異方性を有していなくて良い。すなわち、本発明は低異方性応力領域QbにおけるΔCSbがゼロとなる態様を含み得る。
【0062】
次いで、本発明の強化ガラス板の製造方法について説明する。
図3は、本発明の強化ガラス板G4の製造方法の一例を示す図である。
【0063】
先ず、
図3Aに示す準備工程の処理を実施する。準備工程は、強化用ガラス板G1を準備する工程である。強化用ガラス板G1は、イオン交換法を用いて強化可能なガラスである。
【0064】
強化用ガラス板G1は、ガラス組成として質量%で、SiO
2 45〜75%、Al
2O
3 1〜30%、Na
2O 0〜20%、K
2O 0〜20%を含有することが好ましい。上記のようにガラス組成範囲を規制すれば、イオン交換性能と耐失透性を高いレベルで両立し易くなる。
【0065】
強化用ガラス板G1の形状および寸法は、例えば、上述した強化ガラス板G4と同様の内容で設定可能である。なお、強化用ガラス板G1は、面取りや孔開け等の加工がなされた箇所を除き一定の厚みを有するものとして良い。
【0066】
強化用ガラス板G1は、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形され、その主面Sが研磨されていないものであることが好ましい。このように成形された強化用ガラス板G1であれば低コストで高い表面品位を有する強化ガラス板を得られる。なお、強化用ガラス板G1の成形方法や加工状態は任意に選択しても良い。例えば、強化用ガラス板G1はフロート法を用いて成形され、主面が研磨加工されたものであっても良い。
【0067】
次いで、上記準備工程の後、
図3Bに示す成膜工程の処理を実施する。成膜工程は、強化用ガラス板G1の表面にイオン交換抑制膜Mを形成して膜付ガラス板G2を得る工程である。イオン交換抑制膜Mは、後述の強化工程において、イオン交換されるアルカリ金属イオンの透過を抑制する膜層である。イオン交換抑制膜Mは、イオン交換されるイオンを適度に透過させるものであって当該イオンの透過を完全に遮断するものではないことが好ましい。
【0068】
イオン交換抑制膜Mは、強化用ガラス板G1の両主面において、端縁部の少なくとも一部の領域を除いて任意に設定された成膜領域に形成される。すなわち、端縁部の少なくとも一部はイオン交換抑制膜Mが形成されていない非成膜領域となる。強化ガラス板G4における高異方性
応力領域Qaは、非成膜領域に略一致するように形成される。また、強化ガラス板G4における低異方性
応力領域Qbは、成膜領域に略一致するように形成される。したがって、
図1に示すような強化ガラス板G4のような高異方性応力領域Qaを得るためには、長辺部E1、短辺部E2、およびコーナー部E3に沿って一定幅の帯状に非成膜領域を設定し、非成膜領域に包囲されるよう主面中央部にのみイオン交換抑制膜Mを形成する。また、成膜領域と非成膜領域との境界の位置を、エッジKから8mm以内に設定することで、高異方性
応力領域Qaと低異方性
応力領域Qbとの境界Nを同位置となるよう設定できる。
【0069】
イオン交換抑制膜Mの材質としては、アルカリ金属イオンの透過を抑制可能であれば任意の材質を用いて良いが、加工工程および強化工程において破損し難い機械的強度および化学的耐久性を有することが好ましい。具体的には、イオン交換抑制膜Mのヤング率は強化用ガラス板G1ヤング率の0.5〜2.0倍であることが好ましい。イオン交換抑制膜Mのヤング率が強化用ガラス板G1のヤング率の0.5倍未満である場合、加工工程等で強化用ガラス板G1を十分に保護できず、傷等の欠陥が生じ易くなる。一方、イオン交換抑制膜Mのヤング率が強化用ガラス板G1のヤング率の2.0倍以上である場合、加工工程等でイオン交換抑制膜Mが割れて破損し易くなる。
【0070】
上記のような強度特性を得るために、イオン交換抑制膜Mは、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物、金属酸炭化物、金属炭窒化物膜などであることが好ましい。この場合、イオン交換抑制膜Mの材質としては、SiO
2、Al
2O
3、SiN、SiC、Al
2O
3、AlN、ZrO
2、TiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、HfO
2、SnO
2の中から1種類以上を含む膜とすることができる。
【0071】
イオン交換抑制膜Mは、SiO
2のみから成る膜としても良い。具体的には、イオン交換抑制膜Mは質量%でSiO
2を99%以上含有する組成を有するものとして良い。このような組成であればイオン交換抑制膜Mを容易且つ安価に形成できる。一方で、このような構成とした場合、イオン透過抑制効果を十分に得難かったり、高い機械的強度を得難かったりするという場合がある。したがって、SiO
2をイオン交換抑制膜Mの主成分とする場合、SiO
2の他に、SiO
2よりヤング率が高い任意の添加物を添加することが好ましい。このような添加物の一例としては、上述のAl
2O
3、SiN、SiC、Al
2O
3、AlN、ZrO
2、TiO
2、Ta
2O
5、Nb
2O
5、HfO
2、SnO
2が挙げられるが、特に屈折率が比較的低いAl
2O
3を選択することが好ましい。
【0072】
イオン交換抑制膜MとしてSiO
2を主成分としAl
2O
3を含有する無機膜を用いる場合、イオン交換抑制膜Mは、組成として質量%で、SiO
2を60〜96%、Al
2O
3を4〜40%含有することが好ましい。この場合、SiO
2の含有量は、質量%で60〜96%が好ましく、より好ましくは65〜90%、さらに好ましくは70〜85%である。SiO
2の含有量を上記範囲とすれば良好な反射防止効果を得られる。また、イオン交換抑制膜Mの均一性が向上し易くなるため、強化工程にいて強化用ガラス板G1の強化具合がばらつきにくく、製品の強度品位を安定化できる。Al
2O
3の添加量は4〜40%であることが好ましい。Al
2O
3の含有量を上記範囲とすれば、イオン透過抑制効果や、機械的強度および耐薬品性を向上しつつ、適度にイオンの透過を可能とし、成膜領域においてもイオン交換が可能となる。
【0073】
上記のような組成のイオン交換抑制膜Mであれば、所望のイオン透過抑制効果、機械的強度、および耐薬品性を、比較的薄い膜厚で得ることができる。したがって、イオン交換抑制膜Mの成膜時間を短縮したり膜材料費を低減したりして強化ガラス板の生産効率を向上できる。
【0074】
イオン交換抑制膜Mの厚さは、好ましくは5〜2000nm、より好ましくは50〜1000nm、さらに好ましくは100〜600nm、最も好ましくは150〜500nmである。イオン交換抑制膜Mの厚さが5nm未満である場合、十分にアルカリ金属イオンの透過を抑制できない場合がある。一方、イオン交換抑制膜Mの厚さが300nmより厚い場合、アルカリ金属イオンの透過が過度に阻害されてしまい、十分な強度の強化ガラス板を得難くなる。
【0075】
なお、膜付ガラス板G2の表裏の各主面(板厚方向に対向する表面)に各々形成されるイオン交換抑制膜Mの厚さは同程度とすることができる。具体的には、膜付ガラス板G2において表裏のイオン交換抑制膜Mの膜厚差は100nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1〜80nmの範囲内である。表裏の膜厚差が上記範囲内であれば、膜付ガラス板G2の表裏主面におけるイオン交換の進度を同程度に調整することができ、イオン交換の進度のばらつきに起因する膜付ガラス板G2の反り等を抑制できる。
【0076】
イオン交換抑制膜Mの成膜方法は、スパッタ法や真空蒸着法などのPVD法(物理気相成長法)、熱CVD法やプラズマCVD法などのCVD法(化学気相成長法)、ディップコート法やスリットコート法などのウェットコート法を用いることができる。特にスパッタ法、ディップコート法が好ましい。スパッタ法を用いた場合、イオン交換抑制膜Mを容易に均一に形成できる。ディップコート法を用いた場合、ガラス板の対向する両主面にイオン交換抑制膜Mを同時に高い生産性で成膜できる。
【0077】
次いで、上記成膜工程の後、
図3Cに示す強化工程の処理を実施する。強化工程は、膜付ガラス板G2をイオン交換法により化学強化して、膜付きの強化ガラス板G3を得る工程である。具体的には、膜付ガラス板G2を350〜500℃の硝酸カリウム溶融塩の強化液L中に、例えば0.1〜150時間、好ましくは1〜150時間、より好ましくは2〜24時間浸漬する。なお、強化液Lは、硝酸カリウム溶融塩と硝酸ナトリウム溶融塩の混合液(混合塩)であっても良い。
【0078】
上記強化工程では、膜付ガラス板G2の表面のナトリウムイオンと強化液L中のカリウムイオンとが交換され、表面に圧縮応力層Cを有する強化ガラス板G3が得られる。ここで、膜付ガラス板G2の表面のうち、イオン交換抑制膜Mが設けられた成膜領域(すなわち主面Sの中央部)は、強化用ガラス板G1の表面が露出した非成膜領域(すなわち端縁部および端面)に比べてイオン交換が抑制される。一方、非成膜領域は、イオン交換抑制膜Mが設けられた部位に比べてイオン交換が進み易い。膜付ガラス板G2はイオン半径の大きなアルカリ金属イオンが導入されることにより膨張しようとするが、当該導入量が相対的に多い非成膜領域の方が、当該導入量が相対的に少ない成膜領域よりも大きく膨張変形しようとする。しかしながら、非成膜領域の変形は隣接する成膜領域によって拘束されるため、当該膨張および拘束の力に基づいた応力が非成膜領域に生ずる。さらに、当該応力は、膜付ガラス板G2の膨張および拘束の方向に応じて異方性を有するものとなる。このようにして、非成膜領域において高異方性応力領域Qaが形成される。
【0079】
なお、輪郭形状に沿った形状に成膜領域が設定された場合、当該輪郭形状に沿った方向に膨張および拘束の力が作用し易くなるため、輪郭形状に沿った方向に異方的な応力が生じ易くなる。
【0080】
また、上述のようなイオン交換の進度の差によって、強化ガラス板G3では、成膜領域(低異方性応力領域Qb)の圧縮応力層Cbの深さDbは、非成膜領域(高異方性応力領域Qaおよび端面)の圧縮応力層Caの深さDaに比べ小さくなる。また、このような圧縮応力層の深さの差に応じて、高異方性応力領域Qa内の引張応力層Taの引張応力CTaは、低異方性応力領域Qb内の引張応力層Tbの引張応力CTbより小さくなる。
【0081】
上記強化工程における処理温度や浸漬時間等の処理条件は、強化ガラス板G3に要求される特性に応じて適宜定めて良い。上記処理条件は、強化ガラス板G3の成膜領域の圧縮応力層の深さが、非成膜領域の圧縮応力層の深さより小さくなるよう調整することが好ましい。
【0082】
イオン交換抑制膜Mは電子デバイスの保護コートや反射防止膜としても機能し得るため、強化ガラス板G3は、そのまま製品として使用することも可能であるが、用途に応じてイオン交換抑制膜Mを除去することが好ましい。
図3Dに示す除去工程では、強化ガラス板G3からイオン交換抑制膜Mを除去して強化ガラス板G4を得る。
【0083】
具体的には、周知の手法を用いて強化ガラス板G3を研磨したり、エッチング液を付着させたりしてイオン交換抑制膜Mを除去する。除去工程では、一方の主面側のイオン交換抑制膜Mのみを除去しても良いし、両方の主面のイオン交換抑制膜Mを除去しても良い。また各主面においてイオン交換抑制膜Mを部分的に除去しても良いし、イオン交換抑制膜Mを全て除去しても良い。
【0084】
以上に説明した通り、本発明の実施形態に係る強化ガラス板の製造方法によれば、強化ガラス板G3、G4を効率良く製造できる。なお、強化ガラス板G3はイオン交換抑制膜Mを有する点を除き、上述した強化ガラス板G4と同程度の応力特性を有する。
【0085】
なお、上述したイオン交換抑制膜Mの材質は一例であり、アルカリ金属イオンの透過を抑制可能な膜であれば任意の材質を用いて良い。
【0086】
また、イオン交換抑制膜Mの成膜領域、および非成膜領域は、形成すべき高異方性応力領域Qaおよび低異方性応力領域Qbの形状に応じて任意に変形して良い。
【0087】
また、上述した各工程の前後において、加工工程、洗浄工程、および乾燥工程を適宜設けて良い。加工工程では、端面研削加工、端面研磨加工、コーナーカット加工、面取り加工、孔開け加工、レーザー加工、エッチング加工等、従来周知の技術を用いた任意の処理が、強化用ガラス板G1、膜付ガラス板G2、および強化ガラス板G3、G4に対して行われて良い。
【0088】
また、上記実施形態では強化用ガラス板G1の板厚を一定とする場合を一例として説明したが、強化用ガラス板G1の板厚は任意に設定して構わない。例えば、高異方性
応力領域Qaおよび低異方性応力領域Qbの膨張量の差を考慮し、予め、高異方性
応力領域Qa、すなわち非成膜領域の厚みを薄くしておき、強化工程後に高異方性
応力領域Qaおよび低異方性応力領域Qbの板厚差ΔQtが小さくなるよう、あるいはゼロとなるよう調整しても良い。
【0089】
また、上記除去工程において、イオン交換抑制膜Mを除去すると同時に、高異方性
応力領域Qaおよび低異方性応力領域Qbの膨張量の差を小さくなるよう、あるいはゼロとなるよう、強化ガラス板G3の主面を加工しても良い。例えば、イオン交換抑制膜Mとともに高異方性
応力領域Qaを研磨する加工を行って良い。このような加工によれば、平坦な主面を有する強化ガラス板G4を得られる。
【0090】
また、上記実施形態では、ナトリウムイオンとカリウムイオンとを交換して化学強化する場合を例示したが、任意のイオンの交換により化学強化しても良い。例えば、リチウムイオンとナトリウムイオンとを交換したり、リチウムイオンとカリウムイオンとを交換したりして化学強化しても良い。この場合、膜付きガラス板G2(強化用ガラス板G1)は、ガラス組成として、質量%でLiO
2を0.5〜7.5%含有することが好ましく、例えば3.0%或いは4.5%含有する。
【0091】
また、強化ガラス板の応力特性は、例えば折原製作所製FSM−6000を用いて測定することができる。アルミノシリケート系ガラスの圧縮応力層の深さが100μmを超える場合や、リチウムイオンとナトリウムイオンのイオン交換を行った場合は、強化ガラス板の応力特性は、例えば折原製作所製SLP−1000を用いて測定することができる。強化ガラス板を切断する等して断面試料を作製できる場合は、例えばフォトニックラティス社製WPA−microや東京インスツルメンツ社製Abrioを用いて内部応力分布を観測し、応力深さを確認することが望ましい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0093】
表1においてNo.1は本発明の実施例を示し、No.2は比較例を示している。
【0094】
【表1】
【0095】
表1中の各試料は以下のようにして作製した。先ず、ガラス組成として質量%で、SiO
2 61.6%、Al
2O
3 19.6%、B
2O
3 0.8%、Na
2O 16%、K
2O 2%を含有するようガラス原料を混合および溶融し、オーバーフローダウンドロー法を用いて厚さ0.8mmの板状に成形し、スクライブ割断によって65×130mm寸法の矩形状に切り出して端面研削および研磨を行い、形状の複数の強化用ガラス板を得た。次いで、SiO
2100%の組成を有し厚さ200nmのイオン交換抑制膜を上記強化用ガラス板の表裏にスパッタ法を用いて成膜して膜付ガラス板を得た。成膜領域は、板厚方向に見た場合に強化用ガラス板のエッジ部から6mmの領域を除いた両主面の中央部に設定した。なお、No.2の試料については成膜を行わなかった。次いで、得られた強化用ガラス板を430℃の硝酸カリウム溶液に1時間浸漬して化学強化し、純水洗浄および自然乾燥して表1記載のNo.1、2の強化ガラス板試料を得た。
【0096】
上記のようにして得た各ガラス試料について、下記測定試験を行った。
【0097】
試料の長辺部E1の長手方向中央部近傍において境界Nから4mmの観測点における、第一圧縮応力CS1、第二圧縮応力CS2、第一圧縮応力CS1がゼロとなる主面Sからの深さDOLzero1、第二圧縮応力CS2がゼロとなる主面Sからの深さDOLzero2、および第一圧縮応力CS1と同方向の引張応力CT1、第二圧縮応力CS2と同方向の引張応力CT2を応力測定装置(折原製作所製のFSM−6000LEおよびFsmXP)で測定した。なお、CT1およびCT2は、下式(2)および下式(3)に基づいて算出した値である。
CT1=CS1×DOLzero1/(t−2DOLzero1) …(2)
CT2=CS2×DOLzero2/(t−2DOLzero2) …(3)
【0098】
表1に示すように試料No.1の高異方性応力領域QaにおけるΔCSの値は、低異方性応力領域Qbや試料No.2のΔCSより大きく、試料No.1は端縁部において高い異方性を有することが示された。
【0099】
なお、試料No.1の応力分布は、偏光顕微鏡(株式会社フォトニックラティス製WPA−micro)を用いて観察および測定した。
図4中上方に示す画像は、当該偏光顕微鏡を用いて撮像したものである。当該画像中において、白い部分、すなわち輝度値が大きい部分ほど板厚方向のリタデーションRが大きく、応力の異方性が高い領域である。
図4中下方に示すグラフにおいて、実線は上記画像のBB線上におけるR/αtの大きさを示すものである。また、同グラフの破線は板厚方向に見た場合の光学主軸と長辺部E1とが成す角度θの値を示すものである。
【0100】
高異方性応力領域Qa内では、低異方性応力領域Qbに比べてリタデーションRが大きく、異方性が高いことが示された。また、高異方性応力領域Qa内ではθの値が1.5°以下であり、一方、低異方性応力領域Qb内ではθの値が85°以上であった。すなわち、高異方性応力領域Qaにおいて応力が異方性を示す方向と、低異方性応力領域Qbにおいて応力が異方性を示す方向とは、略直行していることが示された。