【実施例1】
【0017】
図1は本発明のリハビリテーション支援ロボットの一例を示し、(a)は外観の写真、(b)は正面図、(c)は胴体の上面図、(d)は胴体のA−A断面図、(e)は頭部の上面図、(f)は頭部の下面図である。(b)では内部機構の図示を簡略化し、(d)は内部機構の図示を省略してある。
【0018】
このリハビリテーション支援ロボットは、頭部12と、胴体14と、頭部12と胴体14とを接続する
関節機構22とを備えている。
関節機構22は接続軸38の上端を頭部12に固定し、胴体14の内部にある機構により接続軸38を上下左右に動かす構成をしている。
【0019】
さらに、胴体14の下部に組み込まれた駆動輪16により、胴体14の上に頭部12を乗せた状態で床面上を移動する構造をしている。
関節機構22と駆動輪16の具体的な構造の説明は後で行う。
【0020】
一般の人形型、もしくは動物型のロボットは、顔や手足を有する。しかし、本発明のリハビリテーション支援ロボットは、頭部12および胴体14のいずれにも、体の向きや表情を特定する形状や模様を有していない。例えば、頭部12も胴体14も、その中心部を通る床面に垂直な軸24に対してほぼ軸対称の形状にするとよい。あるいは、床面に垂直な軸24を通る面を挟んでほぼ面対称の形状にするとよい。少なくとも形状や模様で体の向きを一方向に特定していない。
【0021】
これは、ロボットの外観にとらわれずに、ロボットの特徴的な動きがリハビリテーションをする対象者の感性を直接刺激して、勇気づけたり励ましたりする機能を効果的に発揮させるための構造である。また、このロボットが静止しているときは、その周囲のどの方向から見ても対象者が自分の方向を向いているものと感じる。その顔等の表情も自分の好む顔や表情をしていると感じることができるという特徴を備える。
【0022】
図2は、本発明のリハビリテーション支援ロボットの特徴的な動作の一例を示し、(a)は静止状態、(b)は頭部12を左右に振る動作、(c)は頭部12を上下に振る動作を示す正面図である。
【0023】
(b)は、頭部12を胴体14に対して床面に平行に往復運動させる動作モードを示している。移動方向20に合わせて幅W1で頭部12を往復運動させるモードと、静止した状態で幅W2で頭部12を往復運動させるモードとがある。(c)は、頭部12を胴体14に対して床面に垂直な軸24に平行に上下運動させる動作モードを示している。このほかに、後で説明するように、頭部12を床面に垂直な軸24を中心に回転させる動作モードがある。頭部12を一方向に連続回転させてもよいし、一定の角度の範囲で繰り返し反転させても良い。体の向きが一方向に特定されないから、上記のいずれの動作モードもロボットの向きを変えずに実行できるという効果がある。
【0024】
例えば、(b)のモードでは、ロボットの移動方向20が指示されると、その移動方向20へ進むように駆動輪16の駆動力が制御される。同時に、その移動方向20に向かって、胴体14より前方に頭部12を突き出し元に戻すという動作を繰り返す。即ち、頭部12を胴体14に対して移動方向20に平行に前後運動させるという独特の動きをする。この場合は、頭部12を前後運動させる方向にロボットが向いていると感じられる。また、上記のような動作モードを組み合わせてもよく、さらに任意の種類の動作モードを新たに設けることもできる。
【0025】
例えば、動作開始のための指示を待機している状態や動作終了後の状態で、頭部を小刻みに上下左右方向に自動的に往復動させる動作モードや、頭部を床面に垂直な軸を中心に一定の角度の範囲で繰り返し小刻みに反転させる動作モードを含めるとよい。また、胴体を自動的に前後左右に小刻みに移動させたり旋回させたりする動作モードも含めるとよい。
【0026】
動作開始のための指示を待機している状態や動作終了後の状態で、自動的に、頭部を小刻みに動かしたり胴体を前後左右に小刻みに移動させたり旋回させたりしていると、ロボットが一人で遊んでいるような状況を表現できる。対象者はロボットが近くにいて自分のために指示を待っているという、ロボットの存在を感じることができる。
【0027】
また、車輪を駆動して移動しているときに、移動速度を自動的に増減したり一時停止したりする動作モードを設ける。これも対象者の指示無しで自動的に動作する。ロボットが対象者と一緒に平行移動する動きに変化をつけることで、ロボットと一緒に移動することに飽きさせない効果がある。
【0028】
例えば,対象者より少し速く動いたり,頭部のみ小刻みに前後に動かしたりすることで,ロボットが力んでいるように感じさせることができる。ロボットが対象者より遅れてついていったりすることで、対象者に元気を与えることができる。これに加えて、頭部を小刻みに上下するなどして疲れているような動作も入れるとよい。これで、対象者が,ロボットを励ますような状況も作ることができる。これらの動作モードを任意に組み合わせることで、対象者のリハビリテーションへの不安感や抵抗感を軽減することができる。
【0029】
上記の動作は、制御部18(
図1)が駆動輪16や、頭部12と胴体14とを接続する
関節機構22(
図1)を制御することにより実現できる。どの動作モードを選択するかは、対象者の状態に応じて決定される。最も簡単には、リモートコントローラを対象者自らが操作し、あるいは、対象者のリハビリテーションをサポートする看護師等が操作して選択を指示するとよい。その他にも、制御部18に対して、対象者の感性情報に応じた選択指示を入力する手段が考えられるが、それは後で説明する。
【0030】
図3から
図5は、ロボットの動作が、リハビリテーション対象者の感性をどのように刺激するかを示す説明図である。
図3では、対象者がリハビリテーションの準備をしているとき(a)や、リハビリテーションを開始したばかりのとき(b)のロボットの動作を示す。リハビリテーションの準備をしているときには、対象者は緊張したり不安になったりする。リハビリテーションを開始したときには、その作業が面倒に感じたり、怖くなったり不安になったりする。
【0031】
このとき、(c)に示すように、ロボットの頭部12を胴体14に対して床面に垂直な軸に平行に上下運動させる動作モードを選択する。首を伸ばしたり縮めたりする運動である。対象者がリハビリテーションの準備をしているときにこの滑稽な動きを見ると、緊張がほぐされる。一方、リハビリテーションを開始したときにこの動きを見ると「よしっ頑張ろう」といったゼスチュアに感じられて勇気づけられる。
【0032】
図4(a)では、対象者がリハビリテーション中の様々な状態でのロボットの動作を示す。例えば、歩行訓練の歩き始めは、痛みによって対象者は辛い思いをする。また、一定の場所を行き来する歩行訓練では、何度か折り返しをするたびに「しんどい」と感じたり、なんとかこれだけ歩けたという達成感を感じたりする。
【0033】
このとき、(b)に示すように、ロボットの頭部12を胴体14に対して床面に平行に往復運動させる動作モードを選択する。胴体14を中心にして頭部12が左方と右方に交互に振れるように往復運動させる。対象者がリハビリテーションの痛みによって辛い思いをしているときにこの動きを見ると、ロボットが同調し共感をしていると感じられて、安心感や励ましの気持ちが生まれる。特徴のある外観だからこそ、この単純な動きが対象者の感性に強く作用する。往復運動の方向がどちらの方向でも、対象者からはロボットが自分のほうに向いていると感じられるところが面白い効果である。
【0034】
一方、対象者が歩行訓練で、同じところを何度も折り返しをするときには、
図4(c)に示すように、ロボットを対象者と同じ方向に移動させて、頭部12を胴体14に対して移動方向20に平行に前後運動させる動作モードを選択する。対象者が「しんどい」と感じたり達成感を感じたりしているときに、この動きを見ると、同じ目標に向かってロボットが移動することに励ましを感じる。
【0035】
図5は対象者がリハビリテーションを終えたばかりのときのロボットの動作を示す。(a)に示すように、リハビリテーションを終えたときには、対象者は安堵感や憂鬱感や疲労感を覚える。このとき、(b)に示すように、ロボットの頭部12を床面に垂直な軸を中心に回転させる動作モードを選択する。これにより、ロボットが対象者に共感して、慰めたり労ったりしていると感じさせる。
【0036】
対象者の指示に基づくこれらの動作のほかに、すでに説明したような自動的な動作モードを混ぜることで、対象者のリハビリテーションを支援できる。
【実施例2】
【0037】
図6は、本発明のリハビリテーション支援ロボットを制御するための機能ブロック図例である。実線のブロックはリモコン26を使用して対象者本人や看護師が指示を送信する構成を示す。破線のブロックはオプションで、人工知能部30を使用した自動制御のための構成を示す。
図1に示したロボットの頭部12または胴体14の内部に、
図6に示すようなマイコン回路やセンサを収容しておく。
【0038】
上記の各種の動作パタンのうちのいずれかを選択して制御部を起動するには、例えば、図のリモコン26を使用するとよい。例えば、「準備」「開始」「リハビリ中」「終了」というボタンを設けておいて、対象者や看護師が、その都度ボタンを操作するようにすればよい。
【0039】
対象者のリハビリテーションが開始されるときに、リモコン26から受信機28に、対象者の感性情報に応じた指示が送信されると、制御部18はその指示を取得して駆動輪16や
関節機構22を駆動する。
【0040】
人工知能部30によれば、例えば、スピーカ32で対象者に対して、「さあ始めましょう」とか「気分は?」といった声かけをする。対象者が「痛そうだな」といった応答をしたとき、これをマイク34で受けて、人工知能部30が文言解釈をする。これにより、
図3で説明した動作モードを選択するように人工知能部30から制御部18に指示が出力される。カメラ36により対象者を撮影した画像を認識して、対象者の感性情報に応じた指示を生成してもよい。
【0041】
以上のように、リハビリテーションに対する感じ方は人それぞれだから、対象者の受け取り方、即ち、対象者の感性情報をできるだけ正確に取得して、最適な動作モードを選択する機能を設けるとよい。
【0042】
図7はロボットの内部機構の一例を示し、(a)は
関節機構22の主要部側面図、(b)は駆動輪16の底面図である。上記の動作モードで
関節機構22や駆動輪16を制御する機構は周知のモータやクランクやギヤを用いて容易に実現できる。従って、ここでは、その一例を簡単に説明する。
【0043】
(a)に示す
関節機構22は、上端に頭部12を固定した接続軸38を軸受け40で回転可能に支持している。回転駆動モータ42は接続軸38を回転させるためのものである。ソレノイド44は回転駆動モータ42と接続軸38とを磁力を使って上下方向に往復動させるためのものである。軸受け40とソレノイド44とは遊動フレーム46に固定されている。遊動フレーム46は、固定フレーム48に対して揺動機構50により左右に往復動できるように支持されている。
【0044】
ソレノイド44を駆動すれば
図3(c)の動作モードとなり、揺動機構50を駆動すれば
図4(b)または(c)の動作モードとなる。回転駆動モータ42を駆動すれば
図5(b)の動作モードとなる。
【0045】
駆動輪16は例えば、
図7(b)に示すように、架台52に3輪構成で取り付けられている。図示しないモータでこれらの駆動輪16を回転駆動して、任意の方向にロボットを走行させることができる。もちろんこれも既知の機構の一例であって、自由に別の機構を採用して構わない。
【0046】
対象者の好みにあった人形型のロボットが考えられるが、様々な種類のものを用意しなければならない。しかも、対象者に寄り添うためには適切な動作や会話をさせるだけでなく、表情も変えられることが好ましい。しかし、それでは制御が複雑になり、高額な装置になってしまう。また、対象者の気持ちを正確に推し量ることができなければ、的確な表情の選択が難しい。
【0047】
あらかじめ準備されたキャラクターのような外観形状では、対象者の多様な嗜好には対応できない。本発明のロボットは、外観が白紙の状態であるから、対象者の好みを考慮したロボットの外観デザインを決める必要がなく、広く汎用性のあるものにすることができる。
【0048】
ロボットの移動中は、その頭部の往復運動により、進行する方向に向いた面に顔などがあると直感的に感じさせることができる。同じく、対象者の位置を検出して、その方向に大きく向きを直すという動作を必要としない。これにより、対象者とロボットの位置関係にかかわらずロボットは常に対象者の方向を向いているという安心感を対象者に与えることができる。
【0049】
対象者は、ロボットに顔がなくてもその動きを通じて自由にその表情を思い浮かべる。従って、その特徴的な動きだけで、リハビリテーションにのぞむ対象者の感性に訴えることができる。例えば、特徴的な頭部の動きに合わせて様々な音や音声を発するようにすれば、対象者とさらに複雑な意思疎通を図ることができる。