【文献】
濱口眞輔,サーモグラフィ計測器,医療機器学,日本,2010年 6月30日,Vol.80, No.3,pp:226-233
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
脳機能賦活情報に対して算出される判定用成分の相関値の、前記脳機能賦活情報に対して算出された基準判定用成分の基準相関値からの所定範囲の変化量を、疼痛状態レベルに関連付けて判定情報として記憶する判定情報記憶部(1032)をさらに備え、
前記疼痛判定部が、前記脳機能賦活情報に対する前記判定用成分の相関値を算出し、算出した相関値及び前記判定情報に基づいて、前記対象者の疼痛状態レベルを判定する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の疼痛判定装置。
ネットワーク上の判定情報提供装置(1100)が、脳機能賦活情報に対して算出される判定用成分の相関値の、前記脳機能賦活情報に対して算出された基準判定用成分の基準相関値からの所定範囲の変化量を、疼痛状態レベルに関連付けて判定情報として記憶する判定情報記憶部(1132)を備え、
前記疼痛判定部が、前記脳機能賦活情報に対する前記判定用成分の相関値を算出し、算出した相関値及び前記判定情報に基づいて、前記対象者の疼痛状態レベルを判定する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の疼痛判定装置。
薬剤が投与されてから所定時間経過後の、薬剤が投与されたことに対して算出される判定用成分の相関値の、基準値に対する変化量を、薬剤効果レベルに関連付けて判定情報として記憶する判定情報記憶部(1232)をさらに備え、
前記薬剤効果判定部が、前記薬剤が投与されたことに対する前記判定用成分の相関値を算出し、算出した相関値及び前記判定情報に基づいて、前記対象者に対する薬剤効果レベルを判定する、
請求項8から10のいずれか1項に記載の鎮痛剤効果判定装置。
ネットワーク上の判定情報提供装置(1300)が、薬剤が投与されてから所定時間経過後の、薬剤が投与されたことに対して算出される判定用成分の相関値の、基準値からの変化量を、薬剤効果レベルに関連付けて判定情報として記憶する判定情報記憶部(1332)を備え、
前記薬剤効果判定部が、前記薬剤が投与されたことに対する前記判定用成分の相関値を算出し、算出した相関値及び前記判定情報に基づいて、前記対象者に対する薬剤効果レベルを判定する、
請求項8から12のいずれか1項に記載の薬剤効果判定装置。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施形態を説明する前に、まず、本発明者らが本発明を為すにあたって重要な基礎となった、本発明者らによる知見について説明する。
【0037】
(1)本発明者らによる知見の要点
人間の脳活動には、人間の知的活動(認知活動等)及び情動活動(快/不快等の活動)が反映されていることが知られている。そして、従来より、人間の脳活動を推定する試みがされているが、この場合、脳波計測法、磁気共鳴画像法及び近赤外線分光法のいずれかの方法によって検出されたデータが利用されることが多い。
【0038】
ここで、検出方法として、例えば、脳波計測法が採用される場合には、被験者に対して脳波電極を装着する必要がある。そして、脳波電極を装着する際には皮膚と電極との間の抵抗を小さくする必要があるため、皮膚を研磨する処理を行ったり電極にペーストを塗布したりする等の作業が必要になる。また、磁気共鳴画像法が採用される場合には、MRI室以外での測定が不可能であるとともに、測定室内に金属を持ち込むことができない等の測定条件に制約がある。さらに、近赤外線分光法が採用される場合には、被験者に対してプローブを装着する必要があるが、プローブを長時間装着することで被験者が痛みを感じたり、被験者の髪とプローブとの接触具合によっては正確に検出できなかったりすることがある。このように、人間の脳活動を測定するために従来の検出方法が採用される場合、脳波電極やプローブ等を装着する際の前処理が必要であったり、測定条件が限定されたりする等、被験者に与える負担が大きくなる。
【0039】
したがって、被験者の負担を軽減し、かつ簡便に人間の脳活動を推定できる手段の開発が求められている。
【0040】
そして、本発明者らは、人間の顔面の皮膚温度又は顔面の皮膚温度に比例すると考えられている顔面の血行状態に基づき人間の脳活動を推定することができるのではないか、と考えた。人間の顔面の皮膚温度であればサーモグラフィ等の測定装置を用いることで取得することができ、顔面の血行状態すなわち顔面の血行量であれば撮影装置を利用して得られる顔面の撮影画像のRGBデータから推定することができる。このように、顔面の皮膚温度や顔面の撮影画像であれば、脳波電極やプローブ等の装着前に処理が必要なセンサを装着することなく取得することができる。
【0041】
一方で、人間の顔面の皮膚温度は、外気温度及び/又は自律神経の活動等の様々な要因の影響を受けて変化することが知られている。このため、顔面の皮膚温度に基づいて又は顔面の皮膚温度に比例すると考えられる顔面の血行量に基づいて脳活動を推定しようとすると、取得したデータが脳活動のみを反映しているかどうかを判断することは、非常に困難であると考えられる。
【0042】
本発明者らは、鋭意検討した結果、顔面の皮膚温度を検出し、検出した温度データ及び検出部位の位置データ(座標データ)を含む時系列の顔面皮膚温度データを、或いは、時系列の顔面の撮影画像データから得られるRGBデータに基づき算出された時系列の顔面の血行量データを、特異値分解法、主成分分析法若しくは独立成分分析法を用いて複数の成分に分解し、分解した複数の成分について解析を行うことで、脳活動を反映した顔面の皮膚温度の変化或いは顔面の血行量の変化を示す成分を同定することができることを見いだした。そして、本発明者らは、対象者の脳活動を推定し、これを解析することで、推定した脳活動に基づき対象者の生理状態を可視化することのできる本発明に到達した。
【0043】
(2)顔面の各種データの取得方法、及び取得した各種データの解析方法
(2−1)顔面皮膚温度データの取得方法、及び顔面皮膚温度データの解析方法
次に、本発明者らが上記の知見を得るに際して用いた顔面皮膚温度データの取得方法、及び顔面皮膚温度データの解析方法について説明する。
【0044】
この試験では、6名の被験者から顔面皮膚温度データを取得した。具体的には、室温25℃を維持した人工気象室内に設置した椅子に被験者を座らせて、赤外線サーモグラフィ装置を用いて、被験者の顔面全体から顔面皮膚温度データを取得した。赤外線サーモグラフィ装置は、対象物から出ている赤外線放射エネルギーを赤外線カメラで検出し、検出した赤外線放射エネルギーを対象物表面の温度(ここでは、摂氏での温度)に変換して、その温度分布を顔面皮膚温度データ(例えば、温度分布を表した画像データ)として表示、蓄積することが可能な装置である。なお、この試験では、赤外線サーモグラフィ装置として、NEC Avio 赤外線テクノロジー株式会社製のR300を使用した。また、赤外線カメラは、被験者の正面であって、被験者から1.5m離れた地点に設置した。そして、顔面皮膚温度データは、30分間取得した。
【0045】
また、この試験では、顔面皮膚温度データを取得している間に、被験者に対して脳機能賦活課題を与えた。これにより、脳の非賦活時の顔面皮膚温度データ、及び脳の賦活時の顔面皮膚温度データを取得した。脳機能賦活課題としては、被験者が表示装置等に表示された映像に基づいて、計算、又は、数値、形状及び色の認知、或いは、記号、文字ないし言語の記憶などの心理的作業が挙げられる。この試験では、脳機能賦活課題として「かけ算の暗算」を採用し、被験者に、表示装置に筆算形式で表示される数字を計算させ、その回答をキーボードに入力させる作業を課した。なお、この試験では、顔面皮膚温度データの取得開始から5分経過後から10分間継続して、被験者に対して脳機能賦活課題を与えた。
【0046】
顔面皮膚温度データの解析としては、取得した顔面皮膚温度データを対象として、MATLAB(登録商標)のSVD(Singular Value Decomposition)を分析ツールとして用いて特異値分解を行った。特異値分解では、時系列で取得した全ての顔面皮膚温度データ(30分間のデータ)を対象とし、要因を30秒毎の時間データ(30分間で60 time point)とし、測度をその期間(30秒間)における顔面皮膚温度データ(240×320 pixels)とした。そして、特異値分解により、顔面皮膚温度データXを、複数の成分に分解し、それぞれの成分の時間分布Vと、空間分布Uと、各成分の大きさを示す特異値Sとを算出した。なお、これらの関係は、以下の式で表される。また、V’は、Vの行と列とを入れ替えた行列である。
【0048】
そして、特異値分解によって求められた各成分の時間分布V及び空間分布Uをグラフにプロットし、各成分の成分波形図と温度分布図とを作成した。
【0049】
さらに、作成した各成分の成分波形図及び温度分布図について、脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定するための解析を行った。
【0050】
各成分の成分波形図については、その成分波形の振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について解析した。具体的には、各成分の成分波形図に示された振幅と、脳の非賦活期間/脳の賦活期間との間に相関関係があるか否かを評価した。この試験では、顔面皮膚温度データを取得している期間のうち、被験者に対して脳機能賦活課題が与えられていない期間であるデータ取得開始時点から5分が経過した時点までの5分間の期間、及びデータ取得開始時から15分が経過した時点からデータ取得終了時点までの15分間の期間を脳の非賦活時とし、被験者に対して脳機能賦活課題が与えられている期間であるデータ取得開始時から5分が経過した時点から10分が経過した時点までの10分間の期間を脳の賦活時とした。そして、各成分の成分波形図に示された振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について評価した。なお、相関関係の有無については、統計的相関分析を行い、有意水準(α)が0.05以下の場合に相関があると判断した。
【0051】
各成分の温度分布図については、顔面の所定部位における温度変化の有無について解析した。ここで、脳には、選択的脳冷却機構(Selective Brain Cooling System)という体温とは独立して脳を冷却する仕組みがある。選択的脳冷却機構としては、脳活動によって生じた熱を前額部及び副鼻腔周辺(眉間及び鼻部周辺を含む)を用いて排熱していることが知られている。そこで、この試験では、各成分の温度分布図において、副鼻腔周辺及び前額部における温度変化があるか否かを評価した。なお、温度分布図における副鼻腔周辺及び前額部の温度変化の有無については、目視(visual inspection)による温度変化の有無、もしくは副鼻腔周辺及び前額部の温度が測定データ全体の平均温度から1標準偏差(SD)以上異なるか否かを温度変化の有無の基準とした。
【0052】
なお、空間分布U、特異値S及び時間分布Vの値の関係で、顔面皮膚温度データXの極性(プラスマイナス)が決定するため、各成分の成分波形図及び温度分布図において極性が反転して現れることがある。このため、成分波形図及び温度分布図の評価に関して、極性については評価対象としないこととした。
【0053】
ここで、この赤外線サーモグラフィ装置では、上述しているように、対象物から検出された赤外線放射エネルギーを温度に変換して、その温度分布を顔面皮膚温度データとしている。ところで、人間を対象として赤外線サーモグラフィ装置を用いて顔面の皮膚温度を取得する場合、顔面の動き及び/又は自律神経の活動等の様々な脳活動とは関連しない温度変化(いわゆるノイズ)についても顔面皮膚温度データとして取得してしまう(
図1(a)参照)。そこで、このような脳活動とは関連しない温度変化を検出するために、30秒毎の顔面皮膚温度データに含まれる温度データの全平均値を「0」とした相対的な顔面皮膚温度データを作成し、作成した顔面皮膚温度データについても、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行い、特異値Sに応じた各成分の成分波形図と温度分布図とを作成し、脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定するための解析を行った。
【0054】
なお、以下より、説明の便宜上、赤外線サーモグラフィ装置で取得した顔面皮膚温度データを「温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ」といい、所定時間毎(この試験では30秒毎)の温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに含まれる温度データの全平均値を「0」とした相対的な顔面皮膚温度データを「相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ」という。
【0055】
また、6名の被験者のうちの1名に対しては、赤外線サーモグラフィ装置による顔面皮膚温度の検出の他に、被験者の頭皮上に電極を接続して脳波を測定し、覚醒時や意識が緊張した時に現れる波形として知られているβ波(14〜30Hzの周波数の脳波)の振幅と、成分波形図の振幅との間の相関関係についても評価した。なお、脳波測定では、国際式10−20法に基づき、6つの部位(F3、F4,C3、C4、Cz、Pz)に電極を配置した。
【0056】
ところで、被験者に脳機能賦活課題が与えられている間、被験者の頭が上下に動くことが考えられる。そうすると、赤外線カメラに対する被験者の顔面の位置が変化することになる。この顔面の位置の変化が皮膚温度の変化に影響しているか否かを検証するために、被験者1名に対して対照試験を行った。顔面皮膚温度データを取得する際の被験者の動きの影響を検証するための対照試験では、上記試験と同様に赤外線サーモグラフィ装置を用いて被験者の顔面皮膚温度データを取得するが、脳機能賦活課題が与えられていない間(すなわち、脳の非賦活時)についてもランダムなタイミングでキーボードを押す作業を被験者に課した。この対照実験によって得られた温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データについても、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行い、特異値Sに応じた各成分の成分波形図と温度分布図とを作成し、脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定するための解析を行った。
【0057】
(2−2)顔面撮影画像データの取得方法、及び顔面撮影画像データの解析方法
図1(a)は、撮影装置にて撮影した被験者の顔面の副鼻腔周辺の撮影画像データの一例を示す図である。
図1(b)は、血行量分布図(画像マップ)の一例を示す図である。
【0058】
次に、本発明者らが上記の知見を得るに際して用いた顔面撮影画像データの取得方法、及び顔面撮影画像データの解析方法について説明する。
【0059】
この試験では、6名の被験者から顔面の撮影画像データを取得した。具体的には、室温25℃を維持した人工気象室内に設置した椅子に被験者を座らせて、時系列で画像を取得可能な撮影装置を用いて、被験者の顔面全体の副鼻腔周辺の撮影画像データを時系列で取得した。
【0060】
また、上述した選択的脳冷却機構に基づくと、脳活動に伴う顔面皮膚温度に比例すると考えられる顔面の血行量の変化は、前額部及び/又は副鼻腔周辺に出現すると考えられる。このことから、本発明者らは、少なくとも前額部及び/又は副鼻腔周辺の顔面の血行量の変化を捉えることができれば、精度良く脳活動を推定することができる、と考えた。そして、この試験では、被験者の顔面の副鼻腔周辺の撮影画像データを時系列で取得した。
【0061】
また、この試験では、撮影装置として、Apple社製のiPad Air(登録商標)の備える液晶画面側の撮影装置を使用し、時系列の撮影画像データとしてカラーの動画データを取得した。また、撮影装置を、被験者の正面側であって、被験者から1.0m離れた地点に設置した。そして、撮影装置によって、30フレーム/秒の撮影周期で時間軸に沿って30分間の撮影画像データを連続撮影することで、顔面の動画データを得た。
【0062】
さらに、この試験では、顔面の動画データを取得している間に、被験者に対して脳機能賦活課題を与えた。これにより、脳の非賦活時の顔面の動画データ、及び脳の賦活時の顔面の動画データを取得した。この試験では、上記試験と同様に、脳機能賦活課題として「かけ算の暗算」を採用し、被験者に、表示装置に筆算形式で表示される数字を計算させ、その回答をキーボードに入力させる作業を課した。なお、この試験では、顔面の動画データの取得開始から5分経過後から10分間継続して、被験者に対して脳機能賦活課題を与えた。
【0063】
顔面の動画データの解析としては、撮影した顔面の動画データより得られたRGBデータに基づき血行量データを算出し、算出した時系列の血行量データを対象として、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行った。ここでは、CIE−L
*a
*b
*表色系に従って、画像のRGBデータより演算される肌の赤みやヘモグロビン量と相関のある紅斑指数「a
*」を求め、これを血行量データとした。また、特異値分解では、時系列で取得した全ての動画データ(30分間のデータ)から得られたRGBデータに基づく血行量データ(ここでは、紅斑指数)を対象とし、要因を30秒毎の時間データ(30分間で60 time point)とし、測度をその期間(30秒毎)におけるRGBデータから演算した紅斑指数(30秒毎に1秒間のフレームデータを取り出し、該フレームデータから得られるRGB値の平均値から演算した紅斑指数;240×320 pixels)とした。そして、特異値分解により、顔面の動画データより得られたRGBデータに基づく時系列の血行量データを、複数の成分に分解し、それぞれの成分の時間分布Vと、空間分布Uと、各成分の大きさを示す特異値Sとを算出した。なお、これらの関係は、上記式(数1)と同様の式で表される。
【0064】
そして、特異値分解によって求められた各成分の時間分布V及び空間分布Uをグラフにプロットし、各成分の成分波形図と血行量分布図とを作成した。
【0065】
さらに、作成した各成分の成分波形図及び血行量分布図について、脳活動を反映した顔面の血行量の変化すなわち顔面のRGB変化を示す成分を同定するための解析を行った。
【0066】
各成分の成分波形図については、その成分波形の振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について解析した。具体的には、各成分の成分波形図に示された振幅と、脳の非賦活期間/脳の賦活期間との間に相関関係があるか否かを評価した。この試験では、顔面の撮影画像データを取得している期間のうち、被験者に対して脳機能賦活課題が与えられていない期間であるデータ取得開始時点から5分が経過した時点までの5分間の期間、及びデータ取得開始時から15分が経過した時点からデータ取得終了時点までの15分間の期間を脳の非賦活時とし、被験者に対して脳機能賦活課題が与えられている期間であるデータ取得開始時から5分が経過した時点から10分が経過した時点までの10分間の期間を脳の賦活時とした。そして、各成分の成分波形図に示された振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について評価した。なお、相関関係の有無については、統計的相関分析を行い、有意水準(α)が0.01以下の場合に相関があると判断した。
【0067】
各成分の血行量分布図については、顔面の所定部位における血行量変化の有無について解析した。血行量分布図は、ピクセル毎に算出された空間分布Uを各ピクセルの位置に並べることで作成される。このように作成された各成分の血行量分布図において、副鼻腔周辺及び前額部における血行量の変化があるか否かを評価した。なお、血行量分布図における副鼻腔周辺及び前額部の血行量変化の有無については、目視(visual inspection)による血行量変化の有無、もしくは
図1(b)に示す副鼻腔周辺及び前額部の血行量の値が「0.000」でないことを血行量変化の有無の基準とした。
【0068】
なお、空間分布U、特異値S及び時間分布Vの値の関係で、血行量データXの極性(プラスマイナス)が決定するため、各成分の成分波形図及び血行量分布図において極性が反転して現れることがある。このため、成分波形図及び血行量分布図の評価に関して、極性については評価対象としないこととした。
【0069】
さらに、顔面の皮膚温度と顔面の血行量との相関関係を検証するために、6名の被験者から顔面の撮影画像データを時系列で取得している間、赤外線サーモグラフィ装置により顔面皮膚温度データも時系列で取得し、取得した顔面皮膚温度データについてもMATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行い、特異値Sに応じた各成分の成分波形図を作成し、その成分波形の振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について解析した。なお、この試験では、赤外線サーモグラフィ装置として、上記試験と同様の装置を用いた。また、赤外線カメラは、被験者の正面であって、被験者から1.5m離れた地点に設置した。
【0070】
ところで、撮影装置を用いて顔面の撮影画像データを取得する場合、撮影中に太陽の光等が顔に当たることで光が顔で反射し、この反射光が撮影装置のレンズに入り込んでしまうことがある。そうすると、撮影された顔面の撮影画像データにはこの反射光が記録されてしまうことになる。ここで、撮影画像データから得られるRGBデータにおいて、顔面の血行量に基づく明度の変化は反射光に基づく明度の変化よりも小さいため、反射光の記録された撮影画像データから得られるRGBデータに基づいて算出された血行量が解析されると、脳活動とは関連しない顔面のRGB変化(いわゆるノイズ)が混入してしまう可能性があると考えられた。そこで、このような脳活動とは関連しない顔面のRGB変化の混入を防ぐために、30秒毎のRGBデータの全平均値を「0」とした相対的なRGBデータから相対的な血行量データを作成し、作成した血行量データについても、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行い、特異値Sに応じた各成分の成分波形図と血行量分布図とを作成し、脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分を同定するための解析を行った。
【0071】
なお、以下より、説明の便宜上、所定時間毎(この試験では30秒毎)のRGBデータの全平均値を「0」とした相対的なRGBデータに基づく相対的な血行量データを「相対換算血行量データ」といい、相対的なRGBデータに換算する前のRGBデータに基づく血行量データを単に「血行量データ」という。
【0072】
また、6名の被験者に対して撮影装置によって顔面の時系列の撮影画像データを取得している間、各被験者の頭皮上に電極を接続して脳波を測定し、覚醒時等の脳細胞が活動している時に現れる波形として知られているβ波(13〜30Hzの周波数の脳波)の振幅と、成分波形図の振幅との間の相関関係についても評価した。なお、脳波測定では、国際式10−20法に基づき、頭皮上19の部位(Fp1、Fp2、F3、F4、C3、C4、P3、P4、O1、O2、F7、F8、T3、T4、T5、T6、Fz、Cz及びPz)に電極を配置した。
【0073】
さらに、被験者に脳機能賦活課題が与えられている間、被験者の頭が上下に動くことが考えられる。そうすると、撮影装置に対する被験者の顔面の位置が変化することになる。この顔面の位置の変化が顔面のRGB変化に影響しているか否かを検証するために、被験者1名に対して対照試験を行った。対照試験では、上記試験と同様に撮影装置を用いて被験者の顔面の時系列の撮影画像データを取得するが、脳機能賦活課題が与えられていない間(すなわち、脳の非賦活時)についてもランダムなタイミングでキーボードを押す作業を被験者に対して課した。この対照実験によって撮影された顔面の時系列の撮影画像データから得られたRGBデータに基づく時系列の血行量データについても、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行い、特異値Sに応じた各成分の成分波形図を作成し、その成分波形の振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について解析した。また、各成分波形の振幅と、実際の顔面の動きとの相関関係の有無について解析した。実際の顔面の動きは、撮影画像データから顔の同一箇所の2次元座標を取得し、対照実験開始時の撮影画像データを基準として撮影時における30秒毎の顔面の移動距離を算出することで評価した。さらに、各成分波形の振幅と、撮影中のキーボードの入力数との相関関係の有無についても解析した。撮影中のキーボードの入力数は、時系列の撮影画像データにおける30秒毎の単純移動平均を算出することで評価した。
【0074】
(3)解析結果
(3−1)顔面皮膚温度データの解析結果
図2は、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを解析した結果の一部を示す図である。
図2(a)は、被験者1の成分2の成分波形図を示している。
図2(b)は、被験者1の成分2の温度分布図を示している。
図3(a)は、被験者1の成分3の成分波形図を示している。
図3(b)は、被験者1の成分3の温度分布図を示している。
図4及び
図5は、成分波形の振幅と、脳波との関係を示す図である。
図4は、被験者1の成分2の成分波形の振幅と、測定された脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図5は、被験者1の成分3の成分波形の振幅と、測定された脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図6は、対照実験で得られた顔面皮膚温度データを解析した結果の一部を示す図である。
図6(a)は、成分3の成分波形図を示している。
図6(b)は、成分3の温度分布図を示している。
【0075】
表1は、各被験者に対する顔面皮膚温度データの解析結果を示したものである。
【0076】
上記の顔面皮膚温度データの解析によって得られた結果から、時系列の顔面皮膚温度データを特異値分解により分解して得られた複数の成分のうち、成分2及び/又は成分3と、人間の脳活動との間に有意な相関があることが確認された。
【0078】
また、
図4及び
図5に示すように、脳波解析の結果から、成分2及び成分3の各成分波形の振幅と、脳波のβ波の振幅との間に有意な相関が確認された。
【0079】
さらに、対照実験では、顔面皮膚温度データを取得している間に被験者に動きがある状態であっても、成分3と人間の脳活動との間に有意な相関があった(
図6参照)。このことから、複数の成分のうち、成分3については、顔面皮膚温度データを取得する際の被験者の動きが影響していないことが認められた。
【0080】
これらの結果から、本発明者らは、以下の知見を得た。
【0081】
被験者から取得した時系列の顔面皮膚温度データを特異値分解により複数の成分に分解し、分解した各成分について解析した結果、複数の成分のうちの成分3が脳活動に関連する成分であると認められた。すなわち、時系列の顔面皮膚温度データを特異値分解により複数の成分に分解し、分解した複数の成分から脳の賦活/非賦活と相関のある成分を抽出し、抽出した成分について選択的脳冷却機構を利用した解析を行うことで、複数の成分から脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定することができることが判明した。このことから、本発明者らは、人間の顔面の皮膚温度に基づいて、脳活動を推定することができる、という知見を得た。
【0082】
(3−2)顔面の撮影画像データの解析結果
図7〜
図18は、顔面の撮影画像データ(血行量データ)又は顔面皮膚温度データに基づく成分波形図と、測定された脳波のうちのβ波の波形図を比較解析した結果の一部を示す図である。
図7は、被験者1の撮影画像データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者1の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図8は、被験者1の顔面皮膚温度データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者1の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図9は、被験者2の撮影画像データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者2の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図10は、被験者2の顔面皮膚温度データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者2の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図11は、被験者3の撮影画像データに基づく成分4の成分波形の振幅と、測定された被験者3の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図12は、被験者3の顔面皮膚温度データに基づく成分3の成分波形の振幅と、測定された被験者3の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図13は、被験者4の撮影画像データに基づく成分3の成分波形の振幅と、測定された被験者4の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図14は、被験者4の顔面皮膚温度データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者4の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図15は、被験者5の撮影画像データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者5の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図16は、被験者5の顔面皮膚温度データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者5の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図17は、被験者6の撮影画像データに基づく成分4の成分波形の振幅と、測定された被験者6の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図18は、被験者6の顔面皮膚温度データに基づく成分3の成分波形の振幅と、測定された被験者6の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
【0083】
図7〜
図18に示すように、各成分波形と脳波解析との結果から、顔面の皮膚温度と顔面の血行量とが相関関係にあることが確認された。なお、顔面の皮膚温度データ及び顔面の血行量データのいずれのデータに基づく解析においても、各成分波形の振幅と、頭頂部又は後頭部に装着した電極が測定した脳波のβ波の振幅との間に有意な相関が確認された。
【0084】
以下に示す表2は、各被験者に対する顔面の撮影画像データの解析結果を示したものである。
【0086】
表2に示すように、上記の顔面の撮影画像データの解析によって得られた結果から、顔面の撮影画像データに基づく時系列の血行量データを特異値分解により分解して得られた複数の成分のうち、成分1,2,3,4,5と人間の脳活動との間に有意な相関があることが確認された。なお、ここでは、血行量データに基づく相関において有意な相関が見られかつ相対換算血行量データに基づく相関において有意な相関が見られた成分だけでなく、血行量データに基づく相関においては有意な相関が見られなかったが相対換算血行量データに基づく相関において有意な相関が見られた成分も、人間の脳活動と有意な相関があると認めるようにした。
【0087】
また、以下に示す表3は、対照実験の結果を示したものである。
【0089】
表3に示すように、対照実験では、顔面の撮影画像データを取得している間に被験者に動きがある場合、その成分波形の振幅と脳の非賦活時及び脳の賦活時との間に有意な相関のあった成分のうちの成分2については、移動距離及びキーボード入力数それぞれとの間に有意な相関が認められなかった。このことから、顔面の撮影画像データから取得したRGBデータに基づく血行量データを特異値分解することで得られる複数の成分において、脳活動との間に有意な相関がある成分については、顔面の時系列の撮影画像データを取得する際の被験者の動きによる影響を受けたとしても、その影響は脳の脳活動による影響(脳の賦活や非賦活による影響)よりも遙かに小さいことが確認された。
【0090】
これらの結果から、本発明者らは、以下の知見を得た。
【0091】
被験者から取得した時系列の顔面の撮影画像データに基づく顔面のRGBデータから得られる血行量データを特異値分解により複数の成分に分解し、分解した各成分について解析した結果、複数の成分のうちの成分1,2,3,4,5が脳活動に関連する成分であると認められた。すなわち、時系列の顔面の撮影画像データに基づく顔面のRGBデータから得られる血行量データを特異値分解により複数の成分に分解し、分解した複数の成分から脳の賦活/非賦活と相関のある成分を抽出し、抽出した成分について解析することで、複数の成分から脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分を同定することができることが判明した。このことから、本発明者らは、人間の顔面の時系列の撮影画像データに基づいて、脳活動を推定することができる、という知見を得た。
【0092】
(4)脳活動可視化装置
次に、上記に説明した知見に基づいて、本発明者らが完成するに至った本発明の一実施形態に係る脳活動可視化装置10,110について説明する。なお、本発明に係る脳活動可視化装置は、以下の実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0093】
本発明の一実施形態に係る脳活動可視化装置10,110は、顔面皮膚温度データに基づき脳活動を推定する脳活動推定手段30、及び/又は顔面の撮影画像データに基づき脳活動を推定する脳活動推定手段130を備えている。以下では、本発明の一実施形態に係る脳活動可視化装置10,110を説明する前に、各脳活動推定手段30,130について説明する。
【0094】
(4−1)顔面皮膚温度データに基づき脳活動を推定する脳活動推定手段30
図19は、本発明の一実施形態に係る脳活動可視化装置10の概略図である。
図20は、脳活動可視化装置10において脳機能を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定する際の処理の流れを示すフローチャートである。
【0095】
脳活動可視化装置10の備える脳活動推定手段30は、個人(被験者)の顔面の皮膚温度から、個人の脳活動を推定する。脳活動可視化装置10は、
図19に示すように、顔面皮膚温度取得手段20と、脳活動推定手段30と、状態可視化手段200と、を備える。
【0096】
顔面皮膚温度取得手段20は、個人の顔面の少なくとも一部の皮膚温度を検出し、検出した温度データ及びその検出部位の位置データを含む顔面皮膚温度データを時系列で取得する(ステップS1)。なお、ここでは、顔面皮膚温度取得手段20は、赤外線サーモグラフィ装置であり、
図19に示すように、赤外線カメラ21と、処理部22と、を有する。赤外線カメラ21は、個人の顔面から出ている赤外線放射エネルギーを検出するためのものである。そして、ここでは、赤外線カメラ21は、個人の顔面全体から赤外線放射エネルギーを検出しているものとする。処理部22は、赤外線カメラ21によって検出した赤外線放射エネルギーを温度に変換して温度データとし、赤外線放射エネルギーの検出された部位を位置データ(座標データ)とした顔面全体における顔面皮膚温度の温度分布図を作成し、作成した温度分布図を温度換算データに応じた顔面皮膚温度データとして処理する。温度換算データに応じた顔面皮膚温度データは、処理部22の有する記憶部(図示せず)に蓄積される。
【0097】
ここでは、処理部22において、顔面全体における顔面皮膚温度の温度分布図が作成されているが、これに限定されず、少なくとも副鼻腔周辺及び/又は前額部を含む顔面皮膚温度の温度分布図が作成され、これが温度換算データに応じた顔面皮膚温度データとされてもよい。
【0098】
また、ここでは、顔面皮膚温度取得手段20により温度換算データに応じた顔面皮膚温度データが取得されている間に、個人に対して脳機能賦活課題が一定期間与えられる。すなわち、顔面皮膚温度取得手段20により取得される温度換算データに応じた顔面皮膚温度データには、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間のデータが含まれていることになる。なお、個人に対して与えられる脳機能賦活課題としては、脳が賦活状態になると推定されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、脳活動可視化装置10の利用目的に応じてその内容が適宜決定されるよう構成されていてもよい。
【0099】
脳活動推定手段30は、顔面皮膚温度取得手段20により取得された温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づき、人間の脳活動を推定する。具体的には、脳活動推定手段30は、
図19に示すように、換算部31と、解析部32と、推定部33と、を有する。
【0100】
換算部31は、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに含まれる温度データを相対的な温度データに換算し、換算した相対的な温度データに基づく顔面皮膚温度データすなわち相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを作成する(ステップS2)。具体的には、換算部31は、所定時間毎(例えば、30秒)の温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに含まれる温度データの平均値を基準値として、該温度データを相対的な温度データに換算する。そして、換算部31は、換算した相対的な温度データ及び位置データを利用して、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを作成する。
【0101】
解析部32は、時系列の温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データのそれぞれを、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により複数の成分に分解する(ステップS3)。ここでは、解析部32は、取得した温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び換算した相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データのそれぞれを対象として、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて、特異値分解を行う。特異値分解は、時系列で取得した温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データについて、要因を所定期間(例えば、30秒)毎の時間データとし、測度をその期間における温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データとして行われる。そして、特異値分解により、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データのそれぞれを複数の成分に分解し、時間分布と、空間分布と、各成分の大きさを示す特異値とを算出する。
【0102】
また、解析部32は、特異値分解によって分解した複数の成分から脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定するために、各成分が第1条件及び第2条件を満たすか否かを判定する(ステップS4a、ステップS4b、ステップS5a、及びステップS5b)。なお、ここでは、解析部32において、まず、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく各成分について第1条件が満たされているか否かが判定され(ステップS4a)、ステップS4aにおいて第1条件が満たされていると判定された温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく成分について第2条件が満たされているか否かが判定される(ステップS4b)。そして、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく各成分のうちステップS4a及びステップS4bにおいて第1条件及び第2条件を満たすと判定された成分と一致する成分についてのみ第1条件が満たされているか否かが判定され(ステップS5a)、その後、ステップS5aにおいて第1条件が満たされていると判定された相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく成分について第2条件が満たされているか否かが判定される(ステップS5b)。しかしながら、解析部32における該判定の順序はこれに限定されるものではなく、例えば、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく各成分と、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく各成分とが、第1条件及び第2条件を満たすか否かがそれぞれ判定され、判定結果の一致する成分が最終的に抽出されてもよい。
【0103】
第1条件とは、特異値分解によって分解した成分の成分波形の振幅が、脳の非賦活時及び脳の賦活時の変化と相関関係にある、という条件である。解析部32は、複数の成分のうち、第1条件を満たす成分を、判定用成分として抽出する。なお、ここでは、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを取得している間に、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間が一定期間ある。解析部32は、個人に対して脳機能賦活課題が与えられていない期間を脳の非賦活時とし、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間を脳の賦活時として、脳機能賦活課題が与えられている期間及び与えられていない期間と、各成分の成分波形とを比較解析する。解析部32は、成分波形データに基づく比較解析結果を利用して、各成分の成分波形と脳の非賦活時及び脳の賦活時とが相関関係にあるか否かを評価し、複数の成分のうち相関関係にあると評価した成分を、第1条件を満たす判定用成分として抽出する。一方、解析部32は、複数の成分のうち相関関係にないと評価した成分を、第1条件を満たさず人間の脳活動を反映した温度変化を示す成分ではないと判定する(ステップS6)。
【0104】
ここでは、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データの取得時に個人に対して脳機能賦活課題が一定期間与えられており、これに基づき解析部32は判定用成分を抽出しているが、第1条件の内容、すなわち解析部32における判定用成分の抽出手段はこれに限定されない。例えば、予め実験等がされていることで複数の成分のうち脳の非賦活時及び脳の賦活時と相関関係にある成分波形を示す成分が特定されている場合には、解析部32は、複数の成分から特定されている該成分を判定用成分として抽出する。また、本脳活動可視化装置において眼球運動又はまたたき等の脳の賦活/非賦活に関連することが知られている人間の動作が検出される場合には、解析部32が、この検出結果と各成分の成分波形とを比較解析及び評価することで、複数の成分から判定用成分を抽出してもよい。なお、解析部32による第1条件を満たすか否かの判定の基準は、脳活動可視化装置10の利用目的等に応じて、シミュレーションや実験、机上計算等によって適宜決定される。
【0105】
第2条件は、抽出した判定用成分において、人間の顔面の所定部位における温度変化がある、という条件である。解析部32は、判定用成分のうち、第2条件を満たす成分を、人間の脳活動に関連している可能性の高い成分と判定し、候補成分として抽出する。すなわち、解析部32は、人間の顔面の所定部位における温度変化の有無に基づき、判定用成分が人間の脳活動に関連しているか否かを判定する。具体的には、解析部32は、抽出した判定用成分の温度分布データに基づき、副鼻腔周辺及び/又は前額部において温度変化が生じているか否かを判定し、温度変化が生じている場合には該判定用成分が第2条件を満たす人間の脳活動に関連する可能性の高い成分であると判定し、候補成分として抽出する。一方で、解析部32は、副鼻腔周辺及び/又は前額部において温度変化が生じていない場合には、該判定用成分は第2条件を満たさず脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分ではない、と判定する(ステップS6)。なお、解析部32による第2条件を満たすか否かの判定の基準は、脳活動可視化装置10の利用目的等に応じて、シミュレーションや実験、机上計算等によって適宜決定される。
【0106】
そして、解析部32は、ステップS5bにおいて第2条件を満たすと判定した成分を、脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分として同定する(ステップS7)。すなわち、ステップS7において脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分として同定される成分は、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを特異値分解により分解し解析することで抽出された候補成分と、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを特異値分解により分解し解析することで抽出された候補成分と、の間で一致している成分ということになる。なお、両解析で一致していない候補成分については、ステップS6において脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分ではない、と判定されている。
【0107】
推定部33は、解析部32において人間の脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分として同定された成分に基づいて、人間の脳活動を推定する。具体的には、推定部33は、解析部32において同定された成分の成分波形データに基づいて、顔面皮膚温度データの取得時における脳活動量を推定する。
【0108】
(4−1−1)変形例1A
上記脳活動推定手段30は換算部31を有しており、換算部31によって相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データが作成されている。そして、解析部32が、顔面皮膚温度取得手段20により取得された温度換算データに応じた顔面皮膚温度データだけでなく、相対的な温度データに換算された温度データに基づく相対温度データに応じた顔面皮膚温度データについても、特異値分解により複数の成分に分解し、各成分についての解析を行っている。
【0109】
これに代えて、脳活動推定手段30が換算部31を有していなくてもよい。この場合、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを作成したり、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づくデータの解析を行ったりする処理を省くことができる。
【0110】
ただし、人間の脳活動に関連する成分を精度よく同定するためには、上記実施形態のように脳活動推定手段30が換算部31を有しており、解析部32によって、顔面皮膚温度取得手段20により取得された温度換算データに応じた顔面皮膚温度データだけでなく、相対的な温度データに換算された温度データに基づく相対温度データに応じた顔面皮膚温度データについても、特異値分解により複数の成分に分解され、各成分についての解析が行われるほうが望ましい。
【0111】
(4−1−2)変形例1B
また、上記顔面皮膚温度取得手段20は、対象物と非接触の状態で温度データを取得することができる赤外線サーモグラフィ装置である。
【0112】
しかしながら、個人の顔面の少なくとも一部の皮膚温度を検出し、検出した温度データ及びその検出部位の位置データを含む顔面皮膚温度データを時系列で取得することができれば、顔面皮膚温度取得手段は赤外線サーモグラフィ装置に限定されない。
【0113】
例えば、顔面皮膚温度取得手段が温度センサを含む装置であってもよい。具体的には、個人の顔面の所定部位に温度センサを装着し、温度センサによって検出される温度データと、温度センサを装着した部位の位置データとに基づいて、時系列の顔面皮膚温度データが取得されてもよい。このように、温度センサにより対象となる個人に接触した状態で顔面皮膚温度データが取得される場合であっても、温度センサは脳波電極等のように装着前の処理が必要ではないため、脳波計測法、磁気共鳴画像法、及び近赤外線分光法等の従来の検出方法と比較して、簡便にデータを取得することができる。これにより、簡便に人間の脳活動を推定することができる。
【0114】
(4−2)顔面の撮影画像データに基づき脳活動を推定する脳活動推定手段130
図21は、本発明の実施形態に係る脳活動可視化装置110の概略図である。
図22は、脳活動可視化装置110において脳機能を反映した顔面のRGB変化を示す成分を同定する際の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0115】
脳活動可視化装置110の備える脳活動推定手段130は、個人(被験者)の顔面の撮影画像データから、個人の脳活動を推定するための装置である。脳活動可視化装置110は、
図21に示すように、画像データ取得手段120と、脳活動推定手段130と、状態可視化手段200と、を備える。
【0116】
画像データ取得手段120は、個人の顔面の少なくとも一部の撮影画像データを時系列で取得する(ステップS101)。なお、画像データ取得手段120は、少なくとも撮影装置を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、スマートフォンやタブレット(例えば、iPad:登録商標)等の撮影装置内蔵型ポータブル端末等が挙げられる。ここでは、画像データ取得手段120は、
図21に示すように、撮影装置としてのカメラ121と、記憶部122とを有する。カメラ121は、個人の顔面の撮影画像データを時系列で取得するためのものである。ここでは、カメラ121は、個人の顔面全体の動画を撮影し、撮影した動画データを取得する。記憶部122は、撮影装置により撮影された時系列の撮影画像データを蓄積する。ここでは、記憶部122は、カメラ121によって取得された動画データを蓄積する。
【0117】
なお、ここでは、カメラ121によって顔面全体の動画が撮影されているが、これに限定されず、顔面の少なくとも前額部及び/又は副鼻腔周辺の画像を含む動画が撮影されていればよい。
【0118】
また、ここでは、画像データ取得手段120により顔面の時系列の撮影画像データが取得されている間に、個人に対して脳機能賦活課題が一定期間与えられる。すなわち、画像データ取得手段120により取得される撮影画像データには、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間のデータが含まれていることになる。なお、個人に対して与えられる脳機能賦活課題としては、脳が賦活状態になると推定されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、脳活動可視化装置110の利用目的に応じてその内容が適宜決定されるよう構成されていてもよい。
【0119】
脳活動推定手段130は、画像データ取得手段120により取得された顔面の時系列の撮影画像データに基づき、人間の脳活動を推定する。具体的には、脳活動推定手段130は、
図21に示すように、RGB処理部131と、換算部132と、血行量算出部133と、解析部134と、推定部135と、を有する。なお、
図21では、脳活動推定手段130が、RGB処理部131、換算部132、血行量算出部133、解析部134及び推定部135を有する1つの装置として存在している態様が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、RGB処理部131、換算部132、血行量算出部133、解析部134及び推定部135の一部或いはそれぞれが独立した装置として存在していてもよい。また、ここでは、画像データ取得手段120、RGB処理部131、換算部132、及び血行量算出部133により顔面血行量取得手段が構成されている。
【0120】
RGB処理部131は、画像データ取得手段120により取得された撮影画像データに対して、R成分、G成分及びB成分の3つの色成分に分解するRGB処理を行う(ステップS102)。ここで、顔面全体の撮影画像データに対してRGB処理を行ってもよいが、ここでは、演算処理量及びノイズを減らすために、撮影画像データから前額部及び/又は副鼻腔周辺のデータを抽出し、抽出したデータについてのみRGB処理を行うものとする。
【0121】
換算部132は、RGB処理により得られた撮影画像データのRGBデータを相対的なRGBデータに換算する(ステップS103)。具体的には、換算部132は、取得された所定時間毎(例えば、30秒)の撮影画像データから得られるRGBデータの平均値を基準値として、該RGBデータを相対的なRGBデータに換算する。
【0122】
血行量算出部133は、RGB処理により得られた撮影画像データのRGBデータに基づき、顔面の時系列の血行量データを算出する(ステップS104)。
【0123】
解析部134は、時系列の相対換算血行量データを、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により複数の成分に分解する(ステップS105)。ここでは、解析部134は、相対換算血行量データに対して、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて、特異値分解を行う。具体的には、特異値分解は、時系列の相対換算血行量データを対象として、要因を所定期間(例えば、30秒)毎の時間データとし、測度をその期間毎における相対的なRGBデータから演算したピクセル毎の相対換算血行量データとして行われる。そして、特異値分解により、時系列の相対換算血行量データを複数の成分に分解し、時間分布と、空間分布と、各成分の大きさを示す特異値とを算出する。
【0124】
また、解析部134は、特異値分解によって分解した複数の成分から脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分を同定するために、各成分が所定条件を満たすか否かを判定する(ステップS106)。ここで、所定条件としては、例えば、特異値分解によって分解した成分の成分波形の振幅が、脳の非賦活時及び脳の賦活時の変化と相関関係にあるという条件(以下、第1条件という)や、特異値分解によって分解した成分において人間の顔面の所定部位に血行量変化があるという条件(以下、第2条件という)等が含まれる。解析部134において判定される所定条件としては、1又は複数の条件が設定されていればよく、ここでは、所定条件として第1条件が設定されているものとする。
【0125】
そして、解析部134は、複数の成分のうち所定条件を満たす成分を、判定用成分として抽出する。さらに、解析部134は、抽出した判定用成分のうち所定条件に含まれる全ての条件を満たす成分を、脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分として同定する(ステップS107)。一方、解析部134は、複数の成分のうち所定条件に含まれる少なくとも1つの条件を満たさないと判定した成分を、脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分ではないと判定する(ステップS108)。
【0126】
ここでは、上述のように所定条件として1つの条件(第1条件)のみが設定されており、顔面の時系列の撮影画像データを取得している間に、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間が一定期間ある。このため、解析部134は、個人に対して脳機能賦活課題が与えられていない期間を脳の非賦活時とし、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間を脳の賦活時として、脳機能賦活課題が与えられている期間及び与えられていない期間と、各成分の成分波形とを比較解析する。そして、解析部134は、成分波形データに基づく比較解析結果を利用して、各成分の成分波形と脳の非賦活時及び脳の賦活時とが相関関係にあるか否かを評価し、複数の成分のうち相関関係にあると評価した成分を、所定条件を満たす判定用成分として抽出すると共に、脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分として同定する。一方、解析部134は、複数の成分のうち相関関係にないと評価した成分を、所定条件を満たさず人間の脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分ではないと判定する。
【0127】
ここでは、顔面の時系列の撮影画像データが取得される際に個人に対して脳機能賦活課題が一定期間与えられており、これに基づき解析部134が判定用成分を抽出しているが、第1条件の内容、すなわち解析部134における判定用成分の抽出手段はこれに限定されない。例えば、予め実験等がされていることで複数の成分のうち脳の非賦活時及び脳の賦活時と相関関係にある成分波形を示す成分が特定されている場合には、解析部134は、複数の成分から特定されている該成分を判定用成分として抽出する。また、脳活動可視化装置110において眼球運動又はまたたき等の脳の賦活/非賦活に関連することが知られている人間の動作についても検出される場合には、解析部134が、この検出結果と各成分の成分波形とを比較解析及び評価することで、複数の成分から判定用成分を抽出してもよい。なお、解析部134による第1条件を満たすか否かの判定の基準は、脳活動可視化装置110の利用目的等に応じて、シミュレーションや実験、机上計算等によって適宜決定される。
【0128】
また、所定条件として第2条件が設定されている場合には、解析部134は、人間の顔面の所定部位における顔面の血行量変化の有無に基づき、判定用成分を抽出する。具体的には、解析部134は、特異値分解によって分解された複数の成分に応じた血行量分布図に基づき、副鼻腔周辺及び/又は前額部において血行量の変化が生じているか否かを判定し、血行量の変化が生じている場合には該成分が第2条件を満たしていると判定する。一方で、副鼻腔周辺及び/又は前額部において血行量の変化が生じていない場合には、解析部134は、該成分が第2条件を満たしていないと判定する。なお、解析部134による第2条件を満たすか否かの判定の基準は、脳活動可視化装置110の利用目的等に応じて、シミュレーションや実験、机上計算等によって適宜決定されるものとする。
【0129】
さらに、血行量算出部133によって相対的なRGBデータに換算される前のRGBデータに基づく時系列の血行量データが算出される場合には、解析部134によって、該血行量データを特異値分解等することで得られた複数の成分についても、上記第1条件及び/又は第2条件が満たされるか否かが判定され、判定用成分が抽出されてもよい。
【0130】
推定部135は、解析部134において人間の脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分として同定された成分に基づいて、人間の脳活動を推定する。具体的には、推定部135は、解析部134において同定された成分の成分波形データに基づいて、顔面の撮影画像データの取得時における脳活動量を推定する。
【0131】
(4−2−1)変形例2A
上述したように、カメラ121としては、例えば、スマートフォンやタブレット(例えば、iPad:登録商標)等の撮影装置内蔵型ポータブル端末等を利用することができる。すなわち、上述の撮影画像データは、可視光領域の画像を撮像するものを採用することができる。
【0132】
また、上記血行量算出部133において、RGBデータに含まれる各画素のうちの主にR成分を用いて顔面の血行量データが算出されてもよい。また、RGBデータに基づき血行量データを算出できるのであれば、血行量データは必ずしも紅斑指数に限定されるものではない。
【0133】
(4−2−2)変形例2B
上記血行量算出部133は、換算部132によって換算された相対的なRGBデータに基づき相対換算血行量データを算出するが、これに代えて或いはこれに加えて、相対的なRGBデータに換算される前のRGBデータに基づき血行量データが算出されてもよい。ここで、相対的なRGBデータに換算される前のRGBデータに基づき算出された血行量データには、脳活動と相関する成分が出やすい(検定力が高い)ため、例えば、相対的なRGBデータに換算される前のRGBデータに基づき算出された血行量データを、相対的なRGBデータに基づき算出された相対換算血行量データよりも先行して解析してもよい。また、例えば、まず、血行量データを解析して有意な相関のある成分を抽出し、相対換算血行量データに関しては、前記抽出した成分に対応する成分のみを解析することで、演算処理量を減らすことができる。
【0134】
(4−2−3)変形例2C
上記カメラ121は可視光領域の通常のカメラを前提としていたが、赤外線カメラを用いることもできる。この場合、赤外光を照射し、その反射波を赤外線カメラで撮像する。これにより、対象者の顔面変化等の撮影画像データを得ることができる。本発明者らにより、赤外線の反射により得られた撮影画像データから算出された血行量データと、可視光領域で撮影されたRGBデータに含まれる各画素のうちの主にR成分を用いて算出された血行量データとには相関があることが確認された。したがって、このような赤外線の反射から得られた撮影画像データを用いても、人間の脳活動を推定することができる。
【0135】
(4−2−4)変形例2D
なお、上記説明においては、脳活動可視化装置110が、画像データ取得手段120と、脳活動推定手段130とを備える形態としていたが、本実施形態に係る脳活動可視化装置は、このような形態に限定されるものではない。すなわち、本実施形態に係る脳活動可視化装置は、血行量算出部133、解析部134及び推定部135を含むものであれば、その他の構成については任意の形態を採り得るものである。具体的には、本実施形態に係る脳活動可視化装置は、当該装置自体が画像データを撮影する形態だけではなく、外部の装置から撮影画像データを受け取り、それを解析する形態を含むものである。
【0136】
(4−3)状態可視化手段200
状態可視化手段200は、脳活動推定手段30及び/又は脳活動推定手段130により推定された対象者の脳活動に基づき、対象者の生理状態を表示することにより可視化する。例えば、状態可視化手段200が、対象者の脳活動量の変化を解析することで、対象者の生理状態を解析する解析部201を有していてもよい。具体的には、解析部201が、対象者に対して与えられた刺激(視覚刺激、聴覚刺激、触覚刺激、臭覚刺激或いは味覚刺激等)に対する脳活動量の変化を解析することで、対象者の生理状態を判定する。なお、生理状態の種類やレベルについては、脳活動量の上昇度合い及び/又は持続時間に基づき、脳活動可視化装置10,110の用途に応じて適宜設置可能になっていてもよい。そして、解析部201により解析された対象者の生理状態を状態可視化手段200の表示部202から管理者へと出力されることで、管理者は対象者の生理状態を知ることができる。表示部202としては、画像やメッセージを表示する表示デバイス等、解析した対象者の生理状態に関する情報を管理者に対して可視化できるものであればどのようなものであっても採用することができる。
【0137】
また、解析部32,134において脳活動を反映する成分が同定された後に、さらに顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120により時系列の各種データが取得される場合には、脳活動可視化装置10,110において、さらに取得された各種データが特異値分解により複数の成分に分解され、同定された成分のみが解析されることで、対象者の生理状態をリアルタイムで知ることができる。
【0138】
さらに、被験者の顔面の皮膚温度や撮影した画像から被験者の心拍情報や生体情報等を取得する技術が従来よりあるが、顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120から得られた各種データが特異値分解等されることで得られる成分に対して従来の技術を採用することで、心拍情報や生体情報を精度良く取得することができる。したがって、特異値分解した複数の成分を解析して心拍情報や生体情報を取得する機能を、解析部32及び/又は解析部134に持たせ、取得した心拍情報や生体情報に基づき交換神経/副交感神経の働きを推定する機能を上記実施形態の推定部33,135に持たせてもよい。
【0139】
(5)特徴
(5−1)
本実施形態では、顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120によって取得された時系列の顔面皮膚温度データ及び/又は顔面血行量データに基づき人間の脳活動が推定される。このため、脳波電極等の装着前に処理が必要なセンサを装着しなくても、人間の脳活動を推定することができる。したがって、簡便に人間の脳活動を推定し、推定した脳活動に基づき対象者の生理状態を可視化することができている。
【0140】
(5−2)
ここで、時系列の顔面の皮膚温度データ及び/又は画像データが取得される際に、人間に対して実際に脳機能賦活課題が与えられたり与えられなかったりすることにより、人間の脳が賦活化したり賦活化しなかったりする状況が作られている場合、各成分の成分波形と脳の賦活時及び非賦活時との間に相関関係のある成分は、脳活動を反映した皮膚温度及び/又は血行量の変化を示す成分である可能性が高い成分であるといえる。
【0141】
本実施形態では、顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120により時系列の顔面の皮膚温度データ及び/又は画像データが取得されている間に、個人に対して脳機能賦活課題が一定期間与えられている。すなわち、本実施形態では、個人に対して実際に脳機能賦活課題を与えたり与えなかったりすることにより、人間の脳が賦活化したり賦活化しなかったりする状況が作られている。そして、このように取得された時系列の各種データが特異値分解により複数の成分に分解され、各成分についてその成分波形と脳の賦活時及び非賦活時との相関関係が評価され、相関関係にある成分が判定用成分として複数の成分から抽出される。このため、例えば、予め実験等により特定された所定の成分が抽出用成分として複数の成分から抽出される場合と比較して、人間の脳活動と関連性の低い成分が抽出用成分として複数の成分から抽出されるおそれを低減することができている。
【0142】
(5−3)
ここで、脳には、選択的脳冷却機構という体温とは独立して脳を冷却する仕組みがある。選択的脳冷却機構としては、脳活動によって生じた熱を前額部及び副鼻腔周辺を用いて排熱していることが知られている。そうすると、脳活動に伴う顔面皮膚温度や顔面皮膚温度に相関する顔面の血行量の変化は、前額部及び/又は副鼻腔周辺に出現することになる。
【0143】
本実施形態では、前額部及び/又は副鼻腔周辺の各種データが解析されて、判定用成分が抽出されている。このため、人間の脳活動に関連する成分を精度よく抽出することができている。
【0144】
(6)脳活動可視化装置の用途例
次に、本発明に係る脳活動可視化装置の用途例について説明する。
【0145】
(6−1)患者に対して用いる場合
上記実施形態又は上記変形例の脳活動可視化装置10,110を、例えば病院を訪れた患者に対して用いる場合の一例を説明する。例えば、うつ状態を客観的に定量するために脳活動可視化装置10,110を用いる場合には、患者に対して繰り上がり又は繰り下がりのある暗算等の脳機能賦活課題を与え、脳活動賦活課題が与えられる前後の脳活動量の変化が解析され可視化されることで、患者の精神状態を判定することができる。具体的には、脳機能賦活課題が与えられる間の脳活動量が上昇しない場合には、患者が無気力状態であると判定することができ、脳機能賦活課題が与えられている間に脳活動量が上昇しても、その脳活動量の上昇時間が短い場合には、患者の気力が低下している状態であると判定することができる。そして、このような解析を1日の間に複数回行い、平均的に脳活動量の低下が認められる場合には、管理者は、患者がうつ状態であると判断することができる。
【0146】
また、脳活動可視化装置10,110を、救急患者の意識の有無や患者が覚醒したかどうかを判定するために用いる場合には、患者の皮膚をさすったり患者に声掛けしたりする等の刺激を患者に対して与え、この刺激が与えられる前後の脳活動量の変化が解析され可視化されることで、患者の意識の有無や覚醒したかどうかを判定することができる。例えば、麻酔が導入されている患者に対して皮膚への刺激や声掛け等を行っている間に脳活動量が上昇した場合には、患者が覚醒したと判定することができる。したがって、仮に患者が言葉を発することのできない状態にあったとしても、管理者は患者の意識の有無や患者が覚醒したかどうかを知ることができる。また、患者に与える刺激の強度を変化させ、このときの脳の賦活の有無を解析することで、覚醒の度合い(レベル)を判定することもできる。強度の低い刺激としては、例えば、手を握る又は手を動かす等の刺激を挙げることができ、強度の高い刺激としては、例えば、手に氷を当てる等の身体に対して温度変化を与える刺激や身体に対して痛みを与える刺激等が挙げられる。
【0147】
脳活動可視化装置10,110を、リハビリ等の治療の効果を判定するために用いる場合には、患者に対して繰り上がり又は繰り下がりのある暗算等の脳機能賦活課題を与え、この時の脳活動量の変化が解析され可視化されることで、患者に対するリハビリ等の治療の効果を判定することができる。例えば、リハビリや脳トレーニング、或いは運動療法を行う前後で同じ強度を有する脳機能賦活課題が患者に対して与えられ、この時の脳活動量の変化が解析されることで、管理者は、脳活動量の上昇度合いや上昇持続時間からリハビリ等の治療の効果を判定することができる。また、例えば、患者に対して脳機能賦活課題が与えられた時の脳活動量が上昇していない場合には脳血管の虚血状態であると判断することができ、脳活動量の上昇継続時間が短い場合には脳血管血流量が低下している状態であると判断することができる。したがって、脳活動可視化装置10,110を、高気圧酸素治療装置における監視装置として用いることもできる。
【0148】
さらに、脳活動可視化装置10,110を、患者の疼痛を定量化するために用いる場合には、患者が疼痛を感じている時(患者からの申告時)の脳活動量の変化(特に、脳活動量の上昇度合いと、その持続時間)とから疼痛強度が定量化されてもよい。この解析結果が可視化されることで、管理者は患者の痛みの度合いを知ることができる。
【0149】
(6−2)衝撃波等を受ける特殊環境下にある人に対して用いる場合
上記実施形態又は上記変形例の脳活動可視化装置10,110を、例えば消防隊員等の爆発衝撃波を受ける特殊環境下にある人に対して用いる場合の一例を説明する。脳活動可視化装置10,110を、衝撃波等を浴びたことによる生体防護判定(例えば、衝撃波により受けた生体ダメージの状態の判定)に用いる場合には、対象者に対して脳機能賦活課題を与え、この時の脳活動量の変化が解析され可視化されることで、管理者は対象者の脳血管の血流状態を推測することができる。例えば、対象者に対して脳機能賦活課題が与えられた時の脳活動量が上昇していない場合には脳血管の虚血状態であると判断することができ、脳活動量の上昇継続時間が短い場合には脳血管血流量が低下している状態であると判断することができる。
【0150】
(6−3)快適性の判断に用いる場合
上記実施形態又は上記変形例の脳活動可視化装置10,110を、対象者の快適性の判断に用いる場合の一例を説明する。例えば、住まいの快適性の判断に脳活動可視化装置10,110を用いる場合には、所定の居住空間にいる対象者が不快と感じている時(対象者からの申告時)の脳活動量の変化(脳活動量の上昇度合いとその継続時間)とから不快度が定量化される。このような解析を1日の間に複数回行い、この解析結果が可視化されることで、管理者は、平均的に脳活動量が昂進しているか否かを評価することにより、対象者の快適度、すなわち、快不快の感情を判断することができる。
【0151】
(6−4)集中度合いの判定に用いる場合
上記実施形態又は上記変形例の脳活動可視化装置10,110を、学習時や手術時の集中度合いの判定に用いる場合の一例を説明する。例えば、学校、学習塾、会社、eラーニング或いは病院等における学習者の学習内容への集中度を定量化するために脳活動可視化装置10,110を用いる場合には、学習者が学習(課題)に取り組んでいる前後の一定期間(例えば、学習時限)における脳活動量の変化(この期間における上昇度合い)を解析することで、取り組んでいる学習内容に対する学習者の集中度を定量化することができる。これにより、管理者は、可視化される解析結果に基づき、学習内容に対する学習者の集中度を評価することができる。
【0152】
(7)疼痛判定装置
本発明に係る脳活動可視化装置を応用した、疼痛判定装置について説明する。
【0153】
(7−1)疼痛判定装置の構成
図23は本実施形態に係る疼痛判定装置の一例を示す模式図である。なお、以下の説明では、癌などによる疼痛の判定を行なうものを例に挙げて説明する。
【0154】
疼痛判定装置1000は、入力部1010、撮像部1015、出力部1020、記憶部1030、及び処理部1040を備える。
【0155】
入力部1010は、疼痛判定装置1000に各種情報を入力するものである。例えば入力部1010は、キーボード、マウス、及び/又はタッチスクリーン等により構成される。この入力部1010を介して、疼痛判定装置1000に各種命令が入力され、処理部1040において命令に応じた処理が実行される。
【0156】
撮像部1015は、対象者300の顔面を含む「顔面画像」を撮像するものである。例えば撮像部1015は、RGB画像を取得するCCD及びCMOS等の固体撮像素子や、サーモグラムを取得する赤外線カメラ等により構成される。赤外線カメラ等は通常の室温条件で、29.0℃から37.0℃を高感度で検出できるものが望ましい。また、撮像部1015は、所定の間隔で継続的な撮像が可能である。顔面画像を撮像する場合には正面から一定照明の条件で行なうのが望ましい。姿勢変動により正面画像が得られない場合には、摂動空間法を用い、姿勢変動画像については顔の3次元形状を推定し、正面像にレンダリングすることにより顔面画像を得る。照明変動画像については、拡散反射モデルをベースに構築した顔の照明基底モデルを用いて、一定照明の条件下での顔面画像を得る。そして、撮像部1015により、継続的に撮像された顔面画像が処理部1040に送出される。
【0157】
出力部1020は、疼痛判定装置1000から各種情報を出力するものである。例えば出力部1020は、ディスプレイ及びスピーカー等により構成される。ここでは、出力部1020を介して、後述する脳機能賦活情報が対象者300に提供される。また、脳機能賦活情報として聴覚刺激情報が用いられる場合、出力部1020としてヘッドホン1020aを用いることも可能である。
【0158】
記憶部1030は、疼痛判定装置1000に入力される情報、及び、疼痛判定装置1000で計算される情報等を記憶するものである。例えば記憶部1030は、メモリ及びハードディスク装置等により構成される。また記憶部1030は、後述する処理部1040の各機能を実現するためのプログラムを記憶する。ここでは、記憶部1030は、脳機能賦活情報データベース1031及び判定情報データベース1032を有する。
【0159】
脳機能賦活情報データベース1031は、人間の脳機能を賦活する脳機能賦活情報を記憶するものである。ここでは、「脳機能賦活情報」として、聴覚を刺激する聴覚刺激情報が挙げられる。「聴覚刺激情報」としては、例えば、文章、音楽、又はその他の音を対象者300に認知等させる音響情報が該当する。また、脳機能賦活情報はこれに限らず、対象者の脳機能を賦活する任意の情報を用いることができる。例えば、他の脳機能賦活情報としては、画像、又は、動画、及び模式図の認知等を対象者に対して行なわせる映像を含む「視覚刺激情報」、或いは、記号、文字ないし言語の記憶などの心理的作業を対象者に行なわせる任意の刺激情報等が挙げられる。
【0160】
判定情報データベース1032は、
図24に示すように、脳機能賦活情報の提供に応じて抽出される判定用成分の相関値r2の、対象者300が通常状態のときに抽出された基準判定用成分の「基準相関値」r1からの所定範囲の変化量Δr(=r2−r1)を、「疼痛状態レベル」と関連付けて予め「判定情報」として記憶するものである。なお変化量Δrは絶対値で表される。ここで、対象者300における「通常状態」というのは、対象者300に疼痛が生じていない状態であり、対象者300の感情が安定しているとみなされる状態である。また、「基準判定用成分」は、対象者300が通常状態のときに抽出した判定用成分のデータ以外に、前回抽出した判定用成分のデータ、又は外部から提供される判定用成分のデータ等により設定することも可能である。また、基準判定用成分のデータは判定情報データベース1032に格納されている。
【0161】
図24に示す例では、判定情報データベース1032は、疼痛状態レベルとして変化量Δrの値の範囲に応じて、Δr=Δra未満を「激しい疼痛」、Δra〜Δrbまでを「軽い疼痛」、Δrb以上を「正常(疼痛を感じていない)」として記憶する。ここでは、Δra、Δrbの順に値が大きいものとなっている。なお、対象者300が激しい疼痛を感じているときには、聴覚刺激情報等を提供しても、対象者300は当該聴覚刺激情報等に反応することができない。したがって、この場合は変化量Δrの値が小さいものとなる。一方、対象者300が疼痛を感じていないときには、対象者300は当該聴覚刺激情報等に反応するので、変化量Δrの値は大きくなる。
【0162】
処理部1040は、疼痛判定装置1000における情報処理を実行するものである。具体的には、処理部1040は、CPU及びキャッシュメモリ等により構成される。処理部1040は、記憶部1030に組み込まれたプログラムが実行されることで、脳機能賦活情報提供部1041、顔面変化情報取得部1042、顔面変化情報分解部1043、判定用成分抽出部1044、及び、疼痛判定部1045として機能する。
【0163】
脳機能賦活情報提供部1041は、脳機能賦活情報を提供するものである。例えば脳機能賦活情報提供部1041は、入力部1010の操作に応じて、脳機能賦活情報データベース1031から聴覚刺激情報(脳機能賦活情報)を読み出し、出力部1020に出力する。
【0164】
顔面変化情報取得部1042は、撮像部1015で撮像された顔面画像から「顔面データ」及び顔面データの時系列変化を示す「顔面変化情報」を取得するものである。具体的には、顔面変化情報取得部1042は、脳機能賦活情報提供部1041が脳機能賦活情報を提供しているタイミングに同期して、撮像部1015を介して顔面データを取得する。そして、顔面変化情報取得部1042は、継続的に取得した顔面データから、対象者300の顔面データの時系列変化を示す顔面変化情報を取得する。例えば、顔面変化情報は、240×320ピクセルの顔面データを所定間隔で60点取得した場合には、4,608,000のデータの集合となる。取得した顔面変化情報は、顔面変化情報分解部1043に送出される。なお、撮像部1015が赤外線カメラの場合、顔面変化情報取得部1042は、顔面データとして、対象者300の顔面の皮膚温度を示す顔面皮膚温度データを取得する。また、撮像部1015がCCD及びCMOS等の固体撮像素子の場合、顔面変化情報取得部1042は、顔面データとして、対象者300の顔面のRGBデータに基づく顔面血行量データを取得する。なお、顔面変化情報取得部1042は、顔面データとして、対象者300の、副鼻腔周辺及び/又は前額部のデータだけを取得するものでもよい。
【0165】
顔面変化情報分解部1043は、多数のデータの集合である顔面変化情報を、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により複数の成分1,2,3,・・・に分解する。分解した各成分の情報は、判定用成分抽出部1044に送出される。ここで、顔面変化情報を特異値分解等した場合、特異値の高いものから成分1,2,3,・・・と設定される。また特異値の高い成分ほど、変動の大きいものの影響が反映されやすい。そのため、成分1には、脳機能賦活情報が提供されることの影響より、外部環境のノイズ等の影響が反映されることが少なくない。
【0166】
判定用成分抽出部1044は、複数の成分1,2,3・・・から、脳機能賦活情報と関連する成分を「判定用成分」として抽出するものである。また、判定用成分抽出部1044は、抽出した判定用成分の脳機能賦活情報に対する相関値rを算出する。具体的には、判定用成分抽出部1044は、顔面変化情報分解部1043により求められた複数の成分1,2,3,・・・と脳機能賦活情報に対応する「判定用波形」との相関値rを算出する。次に、判定用成分抽出部1044は、算出した相関値rが所定値以上である場合、その相関値rに対応する成分を脳機能賦活情報に関連するものとして設定する。そして、判定用成分抽出部1044は、危険率の値に基づいて、判定用成分を抽出する。すなわち、判定用成分抽出部1044は、危険率が低い成分を判定用成分として抽出する。抽出された判定用成分及び算出された相関値rは記憶部1030又は疼痛判定部1045に送出される。なお、上述の「判定用波形」として、人間の生理的反応を考慮した変形波が用いられる。また、判定用波形は、脳機能賦活情報を提供してから所定時間経過後に変位するものである。具体的には、判定用波形として矩形波を採用することができる。また、判定用波形として、矩形波とレッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクション(Redspot-dynamic response function)とをコンボリューションした波形を採用することもできる。レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションは、脳機能賦活情報を一瞬与えたときにの顔面変化情報分解部1043により分解された複数の成分1,2,3・・・のうち相関の認められた成分を複数回算出し、算出した複数の成分の平均値等から生成される。この際、振幅(高さ方向)については任意単位であり絶対値を規定できないので、対象者300が通常状態のときのシグナルをベースライン値とし、その値を基準として波形の高さが決定される。そして、複数の被験者から得られたデータの重ね合わせの平均値が計算されてレッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションが生成される。なお、レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションの初期値は、脳機能賦活情報が一瞬与えられたときは
図25に示すような波形となる。そして、脳機能賦活情報が一定時間与えられたときは、矩形波とコンボリューションすることにより作成される。レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションでは、変位が増加するに従い、ピーク時点からピーク値が横軸方向に延長される波形となる。また、レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションでは、脳機能賦活情報の提供(刺激)が終了した時点から位相が遅れて変位が低下する波形となる。このようなレッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションは、顔面変化情報から得られた成分と有意な相関が認められる場合には、その相関波形に形状が近いため、矩形波等よりも高い相関値を示す。そのため、判定用成分の抽出精度を高めることができる。
【0167】
疼痛判定部1045は、対象者300が通常状態のときに脳機能賦活情報を提供して抽出された基準判定用成分に対する基準相関値r1と、疼痛判定をするときに脳機能賦活情報を提供して抽出された判定用成分に対する相関値r2との差Δrを算出する。そして、疼痛判定部1050は、判定情報データベース1032に記憶された判定情報に基づいて、基準相関値r1及び相関値r2の差Δrに対応する、疼痛状態レベルを決定する。決定された疼痛状態レベルは、出力部1020を介して表示装置等に出力される。
【0168】
(7−2)疼痛判定装置の動作
図26は、疼痛判定装置1000の動作を示すフローチャートである。なお、以下の説明においては、癌などによる疼痛の判定を行なうものを例に挙げて説明する。
【0169】
まず、対象者300が通常状態のときに、「基準設定モード」が選択され、基準判定用成分の抽出が行なわれる(U1)。具体的には、入力部1010を介して脳機能賦活情報の出力指示が疼痛判定装置1000に入力される。続いて、脳機能賦活情報データベース1031から脳機能賦活情報が読み出され、出力部1020に出力される(U2)。例えば、脳機能賦活情報として「聴覚刺激情報」がヘッドホン1020aを介して出力される。なお前提として、対象者300には、ヘッドホン1020a等から流れる聴覚刺激情報(音声)を注意深く聞く作業が課されている。
【0170】
次に、脳機能賦活情報の出力と同時又は所定のタイミングで、撮像部1015により対象者300の顔面を含む顔面画像が所定間隔毎に撮像される。撮像された顔面画像は顔面変化情報取得部1042に送出される。
【0171】
続いて、顔面変化情報取得部1042により、撮像された顔面画像から、対象者300の顔面データの時系列変化を示す顔面変化情報が取得される(U3)。そして、顔面変化情報分解部1043により、顔面変化情報が、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により複数の成分1,2,3,・・・に分解される(U4)。
【0172】
次に、判定用成分抽出部1044により、顔面変化情報分解部1043により分解された複数の成分1,2,3・・・と、脳機能賦活情報に対応する判定用波形との相関値が算出される。そして、判定用成分抽出部1044により、相関値が所定値以上であるか否かが判定される(U5)。所定値以上であると判定された場合、脳機能賦活情報と当該成分とには相関があると判定される(U5−Yes)。そして、判定用成分抽出部1044により、相関がある成分のうち、危険率の低い成分が「基準判定用成分」として抽出される(U6)。また、判定用成分抽出部1044により、基準判定用成分と脳機能賦活情報との相関値が基準相関値r1として設定される。これらの基準判定用成分の情報は記憶部1030に格納される(U7)。一方、脳機能賦活情報と、各成分1,2,3・・・との相関値が所定値未満である場合は、両者には相関がないと判断され、その情報が記憶部1030に格納される(U5−No,U7)。
【0173】
この後、所定のタイミングで「判定モード」が選択され、対象者の疼痛判定が実行される(U8)。
【0174】
まず、上記ステップU2〜U5と同様の処理が実行され、顔面変化情報から抽出された判定用成分と、脳機能賦活情報との相関値r2が算出される(U9〜U12)。ここで、ステップU12において、判定用成分と脳機能賦活情報との相関が検出されない場合がある(U12−No)。この場合は、脳機能賦活情報による脳機能の賦活が疼痛により阻害されている(マスクされている)とみなされ、対象者300が「疼痛(激しい疼痛)」を感じている状態であると判定される(U12−No,U16)。
【0175】
一方、ステップS12で相関値r2が算出された場合は、疼痛判定部1045により、基準設定モードで抽出された基準判定用成分に対する脳機能賦活情報の基準相関値r1と、判定モードで抽出された判定用成分に対する脳機能賦活情報の相関値r2との差である変化量Δrが算出される(U12−Yes,U13)。続いて、疼痛判定部1045により、基準相関値r1に対する相関値r2の変化量Δrが所定範囲を超えているか否かが判定される(U14)。所定範囲を超えているか否かは、判定情報データベース1032に記憶された判定情報に基づいて判断される。基準相関値r1に対する相関値r2の変化量Δrが所定範囲を超えている場合(ΔrがΔrb以上の場合)、疼痛判定部1045により、対象者300は「正常(疼痛を感じていない状態)」であると判定される(U14−Yes,U15)。一方、基準相関値r1に対する相関値r2の変化量Δrが所定範囲を超えていない場合(ΔrがΔrb未満の場合)、疼痛判定部1045により、対象者300は「疼痛(軽い疼痛又は激しい疼痛)」を感じている状態であると判定される(U14−No,U16)。そして、これらの判定結果が、出力部1020を介して表示装置等に出力される(U17)。
【0176】
(7−3)疼痛判定装置の特徴
(7−3−1)
以上説明したように、本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、脳機能賦活情報提供部1041と、顔面変化情報取得部1042と、顔面変化情報分解部1043と、判定用成分抽出部1044と、疼痛判定部1045と、を備える。脳機能賦活情報提供部1041は、人間の脳機能を賦活する「脳機能賦活情報」を対象者300に提供する。顔面変化情報取得部1042は、対象者300の顔面データの時系列変化を示す「顔面変化情報」を取得する。顔面変化情報分解部1043は、顔面変化情報を、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により複数の成分1,2,3,・・・に分解する。判定用成分抽出部1044は、複数の成分1,2,3,・・・から、脳機能賦活情報と関連する成分を「判定用成分」として抽出する。疼痛判定部1045は、判定用成分抽出部による抽出結果に基づいて、対象者300の疼痛状態を判定する。
【0177】
したがって、本実施形態に係る疼痛判定装置1000では、顔面変化情報を、特異値分解・主成分分析・独立成分分析することで得られた複数の成分1,2,3,・・・から、脳機能賦活情報と関連する判定用成分を抽出するので、装着前に前処理の必要な電極等を使用しなくても、対象者300の脳活動の有無を容易に推定できる。これにより、対象者300の脳機能に対応する判定用成分に基づいて、対象者300における疼痛状態を容易に判定できる。
【0178】
(7−3−2)
また、本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、顔面変化情報取得部1042が、顔面データとして、対象者300の、副鼻腔周辺及び/又は前額部のデータを取得するので、脳活動と関連する判定用成分を高精度に抽出できる。ここで、脳には、選択的脳冷却機構(Selective Brain Cooling System)という体温とは独立して脳を冷却する仕組みがある。選択的脳冷却機構は、脳活動によって生じた熱を、副鼻腔及び前額部周辺を用いて排熱する。よって、これらの部位のデータを解析することで脳活動と関連する成分を高精度に抽出できる。結果として、本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、疼痛状態の判定を高精度に実行できる。
【0179】
(7−3−3)
また、本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、顔面変化情報取得部1042が、顔面データとして、対象者300の顔面の皮膚温度を示す顔面皮膚温度データを取得する。換言すると、疼痛判定装置1000は、赤外線カメラ等を利用して、疼痛状態を判定できる。
【0180】
(7−3−4)
また、本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、顔面変化情報取得部1042が、顔面データとして、対象者300の顔面のRGBデータに基づく顔面血行量データを取得する。すなわち、疼痛判定装置1000は、固体撮像素子(CCD,CMOS)を利用して疼痛状態を判定できる。これにより、疼痛状態の判定を簡易な構成で実行できる。
【0181】
(7−3−5)
また、本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、判定用成分抽出部1044が、危険率の値に基づいて、判定用成分を抽出する。疼痛判定装置1000では、危険率の値に基づいて、脳機能賦活情報と関連する判定用成分を抽出するので、疼痛状態の判定の信頼性を高めることができる。
【0182】
(7−3−6)
また、本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、脳機能賦活情報提供部1041が、脳機能賦活情報として、聴覚を刺激する聴覚刺激情報を対象者300に提供する。聴覚刺激情報を用いることで、疼痛がある状態では聴覚刺激情報と脳機能の賦活状態を示す成分とが相関を有さず、疼痛がない状態では聴覚刺激情報と脳機能の賦活状態を示す成分とが相関を有する構成を実現できる。これにより、脳機能賦活情報による脳機能の賦活が疼痛により阻害されている(マスクされている)か否かで疼痛状態を判定できる。そして、このような構成では、任意のタイミングで聴覚刺激情報を提供するだけで疼痛判定ができるので、簡易な構成で疼痛状態を判定できる。
【0183】
(7−3−7)
また、本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、疼痛判定部1045が、判定用成分の変化量に応じて疼痛状態を判定する。これにより、予め取得された基準からの変化量に応じて、疼痛状態レベルを容易に判定できる。
【0184】
詳しくは、疼痛判定装置1000は、判定情報データベース(判定情報記憶部)1032をさらに備える。判定情報データベース1032は、脳機能賦活情報に対して算出される判定用成分の相関値r2の、脳機能賦活情報に対して算出された基準判定用成分の基準相関値r1からの所定範囲の変化量Δrを、疼痛状態レベルに関連付けて「判定情報」として記憶する。また、疼痛判定部1045が、脳機能賦活情報に対する判定用成分の相関値r2を算出し、算出した相関値r2及び判定情報に基づいて、対象者300の疼痛状態レベルを判定する。
【0185】
このような構成により、疼痛判定装置1000は、予め取得された基準判定用成分を利用して、疼痛状態レベルを容易に判定できる。要するに、疼痛判定装置1000は、疼痛の有無を判定するだけでなく、疼痛状態レベルを判定して出力できる。
【0186】
(7−3−8)
本実施形態に係る疼痛状態の判定方法は、必ずしも疼痛判定装置1000を必要とするものではない。すなわち、本実施形態に係る疼痛状態の判定方法は、疼痛判定装置1000の有無に関わらず、人間の脳機能を賦活する脳機能賦活情報を対象者300に提供する脳機能賦活情報提供ステップと、脳機能賦活情報を提供した後、対象者300の顔面データの時系列変化を示す「顔面変化情報」を取得する顔面変化情報取得ステップと、顔面変化情報を、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析することにより複数の成分に分解する顔面変化情報分解ステップと、複数の成分から、脳機能賦活情報と関連する成分を判定用成分として抽出する判定用成分抽出ステップと、判定用成分に基づいて、対象者300の疼痛状態を判定する、疼痛状態判定ステップと、を備えるものであればよい。
【0187】
このような疼痛状態の判定方法によれば、脳機能賦活情報の提供後に、顔面変化情報を、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析することで得られた複数の成分から、脳機能賦活情報と関連する判定用成分を抽出して疼痛状態を判定するので、対象者300の疼痛状態を容易に判定できる。
【0188】
(7−3−9)
また、本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、脳機能賦活情報提供部1041及び顔面変化情報取得部1042が、ヘルメット型の装置に組み込まれるものでもよい。このような構成であれば、顔の動きの少ない顔面画像を取得できるので、信頼性の高い顔面変化情報を取得できる。また、ヘルメット型にすることで利便性を向上できる。結果として、信頼性の高い疼痛判定を容易に実現できる。
【0189】
(7−3−10)
また、疼痛判定装置1000は、上述したように判定用成分に対する相関値の、基準値からの所定範囲の変化量を用いて疼痛状態を判定するもののみならず、判定用成分に対して重回帰分析により得られる値、判定用波形が生成する面積、判定用波形の平均値、判定用波形の重心値のいずれか一つ又は任意の組み合わせに基づいて、疼痛状態を判定するものでもよい。補足すると、「重回帰分析」を用いると、複数刺激による反応の相関値を容易に数量化できる。「相関値」用いると、単一刺激による反応の相関値を容易に数量化できる。「面積」を用いると、反応の絶対値を容易に数量化できる。「平均値」を用いると、反応の絶対値を容易に数量化できる。また、面積と比較して、ノイズを低減できる。「重心値」を用いると、反応の絶対値を容易に数量化できる。また、面積と比較して、どのタイミングで反応が生じたかを容易に判定できる。
【0190】
(7−3−11)
また、本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、判定用成分抽出部1044が、脳機能賦活情報に対応する判定用波形と複数の成分との相関値に基づいて、判定用成分を抽出する。このような構成により、対象者300の脳機能の賦活状態に対応する判定用成分を特定することができる。
【0191】
また、ここでは、判定用波形として、人間の生理的反応を考慮した変形波を採用することができる。また、判定用波形は、脳機能賦活情報を提供してから所定時間経過後に変位するものである。このような判定用波形は、顔面変化情報から得られた成分と有意な相関が認められる場合には高い相関値を示すので、判定用成分の抽出精度を高めることができる。また、脳の反応に対して少し位相を遅らせることで精度の高い相関を得ることができる。具体的に、判定用波形として、レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションを採用することができる。レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションは、脳機能賦活情報を一瞬与えたときの、顔面変化情報分解部1043により分解された複数の成分1,2,3・・・のうち相関の認められた成分を複数回算出し、算出した複数の成分の平均値等から生成されるものである。レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションは、過去の履歴に基づいて最適化されているので、顔面変化情報から得られた成分と有意な相関が認められる場合には高い相関値を示す。これにより、判定用成分の抽出精度を高めることができる。
【0192】
また、判定用波形として、矩形波を採用することもできる。矩形波は脳機能賦活情報の提供のタイミングに容易に対応させることができるので、判定用成分を容易に抽出できる。
【0193】
(7−4)疼痛判定装置の変形例
本実施形態に係る疼痛判定装置1000は、
図27に示すように、ネットワーク上に設けられた判定情報提供装置1100等を利用するものでもよい。
【0194】
ここで、判定情報提供装置1100は、記憶部1130と処理部1140とを備える。
【0195】
記憶部1130は、判定情報データベース1132を有する。この判定情報データベース1132は、上述した判定情報データベース1032と同様の構成である。すなわち、判定情報データベース1132は、脳機能賦活情報の提供に応じて算出される判定用成分の相関値r2の、対象者300が通常状態のときに抽出された基準判定用成分の基準相関値r1からの所定範囲の変化量Δrを、疼痛状態レベルに関連付けて判定情報として記憶する。
【0196】
処理部1140は、疼痛判定装置1000からの要求に応じて、判定情報データベース1132に格納された判定情報を送信する。なお、処理部1140は、疼痛判定装置1000で抽出された判定用成分とは独立して、所定の情報に基づいて判定情報をビッグデータとして生成する機能を有するものでもよい。また、処理部1140は、疼痛判定装置1000で基準相関値r1が算出された場合、判定情報データベース1032に記憶されている基準相関値r1を更新する処理を随時実行する。
【0197】
本変形例では、上述した判定情報提供装置1100に、疼痛判定部1045が判定情報の提供を要求する。詳しくは、本変形例に係る疼痛判定装置1000では、判定情報データベース1132が、ネットワーク上の判定情報提供装置1100に格納されており、疼痛判定部1045が、疼痛状態レベルを判定する際に、判定情報提供装置1100にアクセスする。そして、疼痛判定部1045が、算出した相関値r2及び判定情報に基づいて、対象者300の疼痛状態レベルを判定する。
【0198】
したがって、本変形例の疼痛判定装置1000であれば、疼痛判定部1045が、ネットワーク上の判定情報提供装置1100を利用して、対象者300の疼痛状態レベルを判定できる。
【0199】
さらに、本変形例の疼痛状態の判定方法によれば、ビッグデータを用いた、疼痛状態の判定が実現できる。すなわち、基準相関値r1及び所定の変化量Δrをビッグデータから求めることができる。これにより、判定情報を随時最適化することができる。
【0200】
(8)薬剤効果判定装置
本発明に係る脳活動可視化装置を応用した、薬剤効果判定装置について説明する。
【0201】
(8−1)薬剤効果判定装置の構成
図28は本実施形態に係る薬剤効果判定装置の一例を示す模式図である。
【0202】
薬剤効果判定装置1200は、入力部1210、撮像部1215、取得部1216、出力部1220、記憶部1230、及び処理部1240を備える。なお、薬剤効果判定装置1200が判定する「薬剤305」としては、モルヒネを含むオピノイド系鎮痛薬やNSAIDs等の鎮痛剤が挙げられる。
【0203】
入力部1210は、薬剤効果判定装置1200に各種情報を入力するものである。例えば入力部1210は、キーボード、マウス、及び/又はタッチスクリーン等により構成される。この入力部1210を介して、薬剤効果判定装置1200に各種命令が入力され、処理部1240において命令に応じた処理が実行される。
【0204】
撮像部1215は、対象者300の顔面を含む「顔面画像」を撮像するものである。例えば撮像部1215は、RGB画像を取得するCCD及びCMOS等の固体撮像素子や、サーモグラムを取得する赤外線カメラ等により構成される。赤外線カメラ等は通常の室温条件で、29.0℃から37.0℃を高感度で検出できるものが望ましい。また、撮像部1215は、所定の間隔で継続的な撮像が可能である。顔面画像を撮像する場合には正面から一定照明の条件で行なうのが望ましい。姿勢変動により正面画像が得られない場合には、摂動空間法を用い、姿勢変動画像については顔の3次元形状を推定し、正面像にレンダリングすることにより顔面画像を得る。照明変動画像については、拡散反射モデルをベースに構築した顔の照明基底モデルを用いて、一定照明の条件下での顔面画像を得る。そして、撮像部1215により、継続的に撮像された顔面画像は処理部1240に送出される。
【0205】
取得部1216は、薬剤305が対象者300に投与されたことを示す投与情報を取得するものである。具体的に、「投与情報」は、対象者300等により発せられる音声、対象者300等によるキー入力、対象者300等により押下されるボタンを介したスイッチ入力等のいずれか一つ又は任意の組み合わせから生成される。なお、対象者300等とは、対象者300のみならず、対象者300の周囲に存する任意の者を含む意味で用いられ、たとえば医師、看護師、または介助者を含む意味で用いられる。取得部1216で取得された投与情報は、後述する投与情報検知部1241に送出される。
【0206】
出力部1220は、薬剤効果判定装置1200から各種情報を出力するものである。例えば出力部1220は、ディスプレイ及びスピーカー等により構成される。ここでは、出力部1220を介して、後述する脳機能賦活情報が対象者300に提供される。
【0207】
記憶部1230は、薬剤効果判定装置1200に入力される情報、及び、薬剤効果判定装置1200で計算される情報等を記憶するものである。例えば記憶部1230は、メモリ及びハードディスク装置等により構成される。また記憶部1230は、後述する処理部1240の各機能を実現するためのプログラムを記憶する。ここでは、記憶部1230は、脳機能賦活情報データベース1231及び判定情報データベース1232を有する。
【0208】
脳機能賦活情報データベース1231は、人間の脳機能を賦活する「脳機能賦活情報」を記憶するものである。ここでは、脳機能賦活情報として、薬剤305が投与されたことを示す「投与情報」が挙げられる。なお、脳機能賦活情報データベース1231は、薬剤305の種類に関連付けて投与情報を記憶する。
【0209】
判定情報データベース1232は、
図29に示すように、薬剤305が投与されてから所定時間経過後の、薬剤305の投与情報が検知されたときに抽出される判定用成分の相関値q2の、予め記憶される「基準値」q1からの所定範囲の変化量Δq(=q2−q1)を、「薬剤効果レベル」と関連付けて予め「判定情報」として記憶するものである。なお変化量Δqは絶対値で表される。ここでの「所定時間」とは、薬剤305の効果が生じると想定される時間を意味する。また、「基準値」は、例えば、薬剤305が鎮痛剤である場合は、疼痛の主観的評価である数値的評価スケール(Numerical Rating Scale:NRS)などに基づいて設定される。具体的に、判定情報データベース1232は、変化量Δqの値の範囲に応じて、Δq=Δqa未満を「効果大」、Δqa〜Δqbまでを「効果小」、Δqb以上を「効果なし」として記憶する。ここでは、Δqa、Δqbの順に値が大きいものとなっている。
【0210】
また、判定情報データベース1232は、薬剤効果レベルに関連付けて、追加で投与する必要のある薬剤の投与量の情報を記憶する。例えば、判定情報データベース1232は、薬剤効果レベルが「効果大」「効果小」「効果なし」である場合、追加で投与する必要のある薬剤の投与量をそれぞれ「追加で投与する必要はない(投与不要)」「前回の半分の量(投与小)」「前回と同じ量(投与大)」等と記憶する。
【0211】
補足すると、対象者300が激しい疼痛を感じたときに、薬剤305として鎮痛剤が投与され、当該鎮痛剤の効果が有効に生じた場合は、所定時間経過後に、鎮痛剤が投与されたことに対して相関を有する成分の相関値qが減少することになる。これは上記Δqの値が小さくなることを意味する。この場合、鎮痛剤の効果が有効に生じたので、鎮痛剤を追加で投与する必要はない。一方、当該鎮痛剤の効果が有効に生じなかった場合は、所定時間経過後でも、鎮痛剤が投与されたことに対して相関を有する成分の相関値qが減少しない。これは上記Δqの値が大きいままであることを意味する。この場合、鎮痛剤の効果が有効に生じていなかったので、改めて鎮痛剤を投与する必要が生じる。要するに、薬剤効果レベルと、追加で投与する薬剤の投与量とには一定の関係があり、このような関係を示す情報が判定情報データベース1232に記憶される。
【0212】
処理部1240は、薬剤効果判定装置1200における情報処理を実行するものである。具体的には、処理部1240は、CPU及びキャッシュメモリ等により構成される。処理部1240は、記憶部1230に組み込まれたプログラムが実行されることで、投与情報検知部1241、顔面変化情報取得部1242、顔面変化情報分解部1243、判定用成分抽出部1244、及び、薬剤効果判定部1245として機能する。
【0213】
投与情報検知部1241は、取得部1216から送出される投与情報を脳機能賦活情報として検知するものである。投与情報が検知されたときは、対象者300の脳が賦活状態にあるとみなされる。なお、投与情報検知部1241は、投与情報を検知する際に、脳機能賦活情報データベース1231に記憶された情報と照合する。
【0214】
顔面変化情報取得部1242は、撮像部1215で撮像された顔面画像から「顔面データ」及び顔面データの時系列変化を示す「顔面変化情報」を取得するものである。具体的には、顔面変化情報取得部1242は、投与情報検知部1241が投与情報(脳機能賦活情報)を検知するタイミングに同期して、撮像部1215を介して顔面データを取得する。そして、顔面変化情報取得部1242は、継続的に取得した顔面データから、対象者300の顔面データの時系列変化を示す顔面変化情報を取得する。例えば、顔面変化情報は、240×320ピクセルの顔面データを所定間隔で60点取得した場合には、4,608,000のデータの集合となる。取得した顔面変化情報は、顔面変化情報分解部1243に送出される。なお、撮像部1215が赤外線カメラの場合、顔面変化情報取得部1242は、顔面データとして、対象者300の顔面の皮膚温度を示す顔面皮膚温度データを取得する。また、撮像部1215がCCD及びCMOS等の固体撮像素子の場合、顔面変化情報取得部1242は、顔面データとして、対象者300の顔面のRGBデータに基づく顔面血行量データを取得する。なお、顔面変化情報取得部1242は、顔面データとして、対象者300の、副鼻腔周辺及び/又は前額部のデータだけを取得するものでもよい。
【0215】
顔面変化情報分解部1243は、多数のデータの集合である顔面変化情報を、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により複数の成分1,2,3,・・・に分解する。分解した各成分の情報は、判定用成分抽出部1244に送出される。ここで、顔面変化情報を特異値分解等した場合、特異値の高いものから成分1,2,3,・・・と設定される。また特異値の高い成分ほど、変動の大きいものの影響が反映されやすい。そのため、成分1には、脳機能賦活情報が提供されることの影響より、外部環境のノイズ等の影響が反映されることが少なくない。
【0216】
判定用成分抽出部1244は、複数の成分1,2,3・・・から、投与情報(脳機能賦活情報)と関連する成分を「判定用成分」として抽出するものである。また、判定用成分抽出部1244は、抽出した判定用成分の脳機能賦活情報に対する相関値qを算出する。具体的には、判定用成分抽出部1244は、顔面変化情報分解部1243により求められた複数の成分1,2,3,・・・と投与情報に対応する「判定用波形」との相関値qを算出する。次に、判定用成分抽出部1244は、算出した相関値qが所定値以上である場合、その相関値qに対応する成分を投与情報に関連するものとして設定する。そして、判定用成分抽出部1244は、危険率の値に基づいて、判定用成分を抽出する。すなわち、判定用成分抽出部1244は、危険率が低い成分を判定用成分として抽出する。抽出された判定用成分及び算出した相関値qは記憶部1230又は薬剤効果判定部1245に送出される。なお、上述の「判定用波形」として、人間の生理的反応を考慮した変形波が用いられる。また、判定用波形は、投与情報を検知してから所定時間経過後に変位するものである。具体的には、判定用波形として矩形波を採用することができる。また、判定用波形として、レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクション(Redspot-dynamic response function)を採用することもできる。
【0217】
薬剤効果判定部1245は、判定用成分の時系列変化に応じて薬剤305の効果を判定するものである。具体的に、薬剤効果判定部1245は、薬剤305が投与されてから所定時間経過後の、投与情報が検知されたときに抽出された判定用成分に対する相関値q2と、予め設定された基準値q1との差Δqを算出する。そして、薬剤効果判定部1250は、判定情報データベース1232に記憶された判定情報に基づいて、基準値q1及び相関値q2の差Δqに対応する、薬剤効果レベルを決定する。決定された薬剤効果レベルは、出力部1220を介して表示装置等に出力される。
【0218】
投与量算出部1246は、薬剤効果レベルに応じて、対象者300に投与する薬剤305の投与量を算出する。具体的には、投与量算出部1246は、判定情報データベース1232に記憶された情報に基づいて、追加で投与する必要のある薬剤305の投与量を算出する。
【0219】
(8−2)薬剤効果判定装置の動作
図30は、薬剤効果判定装置1200の動作を示すフローチャートである。
【0220】
まず、入力部1210等を介して検査開始の指示が薬剤効果判定装置1200に入力される。続いて、出力部1220に誘導画面が表示され、対象者300の顔面が誘導画面の中央に位置するように誘導される。そして、撮像部1215により対象者300の顔面画像の撮像が開始される(V1)。撮像された顔面画像は顔面変化情報取得部1242に送出される。
【0221】
顔面画像の撮像開始後に、操作者301に薬剤305が投与される。この際、対象者300等によるボタン押下等の動作が行なわれる。これに応じて、薬剤効果判定装置1200が、薬剤305が投与されたことを示す投与情報を検知する(V2)。
【0222】
また、薬剤効果判定装置1200において、撮像された顔面画像の解析が実行される。具体的には、顔面変化情報取得部1242により、撮像された顔面画像から、対象者300の顔面データの時系列変化を示す顔面変化情報が取得される。そして、顔面変化情報分解部1243により、顔面変化情報が、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析されて、複数の成分1,2,3,・・・に分解される。また、判定用成分抽出部1244により、顔面変化情報分解部1243により分解された複数の成分1,2,3・・・と、投与情報に対応する判定用波形との相関値が算出される。そして、判定用成分抽出部1244により、相関値が所定値以上であるか否かが判定される(V4)。所定値以上であると判定された場合、投与情報と当該成分とに「相関がある」と判定される(V4−Yes)。そして、判定用成分抽出部1244により、相関がある成分のうち、危険率の低い成分が「判定用成分」として抽出される(V5)。これらの抽出された判定用成分の情報は、記憶部1230に格納される(V6)。一方、投与情報に対応する判定用波形と、各成分1,2,3・・・との相関値が所定値未満である場合は、両者には「相関がない」と判断され、その情報が記憶部1230に格納される(V4−No,V6)。なお、過去の計測値などから投与情報に「相関のある成分」を事前に特定しておくことで、上記ステップV4〜V6の動作を省略することが可能である。
【0223】
次に、薬剤効果判定部1245により、薬剤305が投与されてから所定時間経過後の、投与情報が検知されたときに抽出された判定用成分に対する相関値q2と、予め設定された基準値q1との差である変化量Δqが算出される(V7)。
【0224】
続いて、薬剤効果判定部1245により、基準値q1に対する相関値q2の変化量Δqが所定範囲内であるか否かが判定される(V8)。所定範囲であるか否かは、判定情報データベース1232に記憶された判定情報と照合されて判定される。基準値q1に対する相関値q2の変化量Δqが所定範囲内である場合(ΔqがΔqaより小さい)、薬剤効果判定部1245により、薬剤は「効果大」であると判定される(V8−Yes,V9)。そして、この場合は、対象者300に対して薬剤305の追加投与が不要であると判定される。一方、基準値q1に対する相関値q2の変化量Δqが所定範囲でない場合(ΔqがΔqa以上の場合)、薬剤効果判定部1245により、「効果なし」等と判定される(V8−No,V10)。この場合は、対象者300に対して薬剤305の追加投与が必要であると判定される。そして、投与量算出部1246により、判定情報データベース1232に記憶された情報に基づいて、追加で投与する必要のある薬剤305の投与量が算出される(V11)。
【0225】
この後、薬剤効果判定装置1200は、装置利用者の入力指示に応じてデータを保存する。具体的には、薬剤効果判定装置1200は、被験者毎に、判定結果のデータ、解析波形、測定結果、画像表示条件等を関連付けて記憶部1230に記憶する。
【0226】
(8−3)薬剤効果判定装置の特徴
(8−3−1)
以上説明したように、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、顔面変化情報取得部1242と、顔面変化情報分解部1243と、判定用成分抽出部1244と、薬剤効果判定部1245と、を備える。顔面変化情報取得部1242は、薬剤305が投与された対象者300の顔面データの時系列変化を示す「顔面変化情報」を取得する。顔面変化情報分解部1243は、顔面変化情報を、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により複数の成分1,2,3,・・・に分解する。判定用成分抽出部1244は、複数の成分1,2,3,・・・から、薬剤305が投与されたことに関連する成分を「判定用成分」として抽出する。薬剤効果判定部1245は、判定用成分に基づいて、対象者300に対する薬剤305の効果を判定する。
【0227】
したがって、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200では、顔面変化情報を、特異値分解・主成分分析・独立成分分析することで得られた複数の成分1,2,3,・・・から判定用成分を抽出するので、装着前に前処理の必要な電極等を使用しなくても、対象者300の脳活動の有無を容易に推定できる。これにより、対象者300の脳機能に対応する判定用成分に基づいて、対象者300に対する薬剤305の効果を容易に判定できる。
【0228】
(8−3−2)
また、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、顔面変化情報取得部1242が、顔面データとして、対象者300の、副鼻腔周辺及び/又は前額部のデータを取得するので、脳活動と関連する判定用成分を高精度に抽出できる。ここで、脳には、選択的脳冷却機構(Selective Brain Cooling System)という体温とは独立して脳を冷却する仕組みがある。選択的脳冷却機構は、脳活動によって生じた熱を、副鼻腔及び前額部周辺を用いて排熱する。よって、これらの部位のデータを解析することで脳活動と関連する成分を高精度に抽出できる。結果として、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、薬剤効果の判定を高精度に実行できる。
【0229】
(8−3−3)
また、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、顔面変化情報取得部1242が、顔面データとして、対象者300の顔面の皮膚温度を示す顔面皮膚温度データを取得する。換言すると、薬剤効果判定装置1200は、赤外線カメラ等を利用して、薬剤効果を判定できる。
【0230】
(8−3−4)
また、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、顔面変化情報取得部1242が、顔面データとして、対象者300の顔面のRGBデータに基づく顔面血行量データを取得する。すなわち、薬剤効果判定装置1200は、固体撮像素子(CCD,CMOS)を利用して薬剤効果を判定できる。これにより、薬剤効果の判定を簡易な構成で実行できる。
【0231】
(8−3−5)
また、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、判定用成分抽出部1244が、危険率の値に基づいて、判定用成分を抽出する。薬剤効果判定装置1200では、危険率の値に基づいて、投与情報と関連する判定用成分を抽出するので、薬剤効果の判定の信頼性を高めることができる。
【0232】
(8−3−6)
また、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、薬剤効果判定部1245が、判定用成分の時系列変化に応じて薬剤305の効果を判定する。これにより、予め取得された基準値からの変化量に応じて、薬剤効果レベルを容易に判定できる。
【0233】
(8−3−7)
また、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、判定情報データベース(判定情報記憶部)1032をさらに備える。判定情報データベース1032は、薬剤305が投与されてから所定時間経過後の、薬剤305が投与されたことに対して算出される判定用成分の相関値q2の、基準値q1に対する変化量Δqを、薬剤効果レベルに関連付けて「判定情報」として記憶する。また、薬剤効果判定部1245が、薬剤305が投与されたことに対する判定用成分の相関値q2を算出し、算出した相関値及び判定情報に基づいて、対象者300に対する薬剤効果レベルを判定する。このような構成により、予め取得された基準値q1を利用して、薬剤効果レベルを容易に判定できる。要するに、薬剤効果判定装置1200は、薬剤効果の有無を判定するだけでなく、薬剤効果レベルを判定して出力できる。
【0234】
(8−3−8)
本実施形態に係る薬剤効果の判定方法は、必ずしも薬剤効果判定装置1200を必要とするものではない。すなわち、本実施形態に係る薬剤効果の判定方法は、薬剤効果判定装置1200の有無に関わらず、人間の脳機能を賦活する脳機能賦活情報として、薬剤305が対象者300に投与されたことを示す投与情報を検知する脳機能賦活情報検知ステップと、投与情報を検知した後、対象者の顔面データの時系列変化を示す「顔面変化情報」を取得する顔面変化情報取得ステップと、顔面変化情報を、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析することにより複数の成分に分解する顔面変化情報分解ステップと、複数の成分から、投与情報(脳機能賦活情報)と関連する成分を判定用成分として抽出する判定用成分抽出ステップと、判定用成分に基づいて、対象者に対する薬剤効果を判定する、薬剤効果判定ステップと、を備えるものであればよい。
【0235】
このような薬剤効果の判定方法によれば、投与情報の検知後に、顔面変化情報を、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析することで得られた複数の成分から、投与情報(脳機能賦活情報)と関連する判定用成分を抽出して薬剤効果を判定するので、対象者300の薬剤効果を容易に判定できる。
【0236】
(8−3−9)
また、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、薬剤効果レベルに応じて、対象者300に投与する薬剤305の投与量を算出する投与量算出部1246をさらに備える。このような構成により、対象者300に対して適切な薬剤305の投与が可能となる。
【0237】
(8−3−10)
また、薬剤効果判定装置1200は、上述したように判定用成分に対する相関値の、基準値からの所定範囲の変化量を用いて薬剤効果を判定するもののみならず、判定用成分に対して重回帰分析により得られる値、判定用波形が生成する面積、判定用波形の平均値、判定用波形の重心値のいずれか一つ又は任意の組み合わせに基づいて、薬剤効果を判定するものでもよい。
【0238】
(8−3−11)
なお、本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、判定用成分抽出部1244が、投与情報に対応する判定用波形と複数の成分との相関値に基づいて、判定用成分を抽出する。このような構成により、対象者300の脳機能の賦活状態に対応する判定用成分を特定することができる。
【0239】
また、ここでは、判定用波形として、人間の生理的反応を考慮した変形波を採用することができる。また、判定用波形は、投与情報を検知してから所定時間経過後に変位するものである。このような判定用波形は、顔面変化情報から得られた成分と有意な相関が認められる場合には高い相関値を示すので、判定用成分の抽出精度を高めることができる。また、脳の反応に対して少し位相を遅らせることで精度の高い相関を得ることができる。具体的に、判定用波形として、レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションを採用することができる。レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションは、投与情報(脳機能賦活情報)に対応して顔面変化情報分解部1243により分解された複数の成分1,2,3・・・のうち相関の認められた成分を複数回算出し、算出した複数の成分に基づいて生成されるものである。レッドスポット・ダイナミック・レスポンス・ファンクションは、過去の履歴に基づいて最適化されているので、顔面変化情報から得られた成分と有意な相関が認められる場合には高い相関値を示す。これにより、判定用成分の抽出精度を高めることができる。
【0240】
また、判定用波形として、矩形波を採用することもできる。矩形波は投与情報の検知のタイミングに容易に対応させることができるので、判定用成分を容易に抽出できる。
【0241】
(8−4)薬剤効果判定装置の変形例
(8−4−1)
本実施形態に係る薬剤効果判定装置1200は、
図31に示すように、ネットワーク上に設けられた判定情報提供装置1300等を利用するものでもよい。
【0242】
ここで、判定情報提供装置1300は、記憶部1330と処理部1340とを備える。
【0243】
記憶部1330は、判定情報データベース1332を有する。この判定情報データベース1332は、上述した判定情報データベース1232と同様の構成である。すなわち、判定情報データベース1332は、薬剤305が投与されてから所定時間経過後の、薬剤305が投与されたことに対して算出される判定用成分の相関値q2の、基準値q1からの変化量Δqを、薬剤効果レベルに関連付けて判定情報として記憶する。
【0244】
処理部1340は、薬剤効果判定装置1200からの要求に応じて、判定情報データベース1332に格納された判定情報を送信する。なお、処理部1340は、薬剤効果判定装置1200で抽出された判定用成分とは独立して、所定の情報に基づいて判定情報をビッグデータとして生成する機能を有するものでもよい。また、処理部1340は、薬剤効果判定装置1200で基準値q1が算出された場合、判定情報データベース1232に記憶されている基準値q1を更新する処理を随時実行する。
【0245】
本変形例では、上述した判定情報提供装置1300に、薬剤効果判定部1245が判定情報の提供を要求する。詳しくは、本変形例に係る薬剤効果判定装置1200では、判定情報データベース1332が、ネットワーク上の判定情報提供装置1300に格納されており、薬剤効果判定部1245が、薬剤効果レベルを判定する際に、判定情報提供装置1300にアクセスする。そして、薬剤効果判定部1345が、算出した相関値q2及び判定情報に基づいて、対象者300の薬剤効果レベルを判定する。
【0246】
したがって、本変形例の薬剤効果判定装置1200であれば、薬剤効果判定部1245が、ネットワーク上の判定情報提供装置1300を利用して、対象者300の薬剤効果レベルを判定できる。
【0247】
さらに、本変形例の薬剤効果の判定方法によれば、ビッグデータを用いた、薬剤効果の判定が実現できる。すなわち、基準値q1及び所定の変化量Δqをビッグデータから求めることができる。これにより、判定情報を随時最適化することができる。
【0248】
また、本変形例に係る判定情報提供装置1300は、判定情報として、薬剤効果レベルに関連付けて、薬剤305の投与量をさらに記憶している。また、薬剤効果判定装置1200が、判定情報提供装置1300にアクセスしてこれらの判定情報を取得する。そして、薬剤効果判定装置1200の薬剤効果判定部1245が、判定情報に基づいて、薬剤効果レベル及び薬剤の投与量を判定する。このような構成を具備しているので、本変形例に係る薬剤効果判定装置1200は、対象者300に対して適切な薬剤305の投与が可能となる。また、外部の装置を用いることで、薬剤効果判定装置1200の構成を簡易化することができる。
【0249】
(8−4−2)
なお、薬剤効果判定装置1200の効果を確認するために、上述した疼痛判定装置1000を組み合わせてもよい。例えば、疼痛を感じている対象者300に薬剤305を投与し、疼痛判定装置1000を用いて対象者300の疼痛状態を判定することで、薬剤効果の有無を確認してもよい。
【0250】
(8−5)薬剤効果判定装置の検証試験
本実施形態に係る薬剤効果判定装置の検証試験を次のようにして行なった。一般的に、癌性疼痛に対する有効な治療としてオピオイド系鎮痛薬を経口投与することがある。そこで、本試験では、既にオピオイド系鎮痛薬治療が行なわれている被験者(対象者300)に対し、疼痛増強時にオピオイド系鎮痛薬を追加投与した場合に意識清明で痛みが軽減されるか否かを検証した。また、比較のために、疼痛の主観的評価である数値的評価スケール(Numerical Rating Scale:NRS)からオピオイド系鎮痛薬の疼痛緩和効果を求めた。
【0251】
まず、本試験では、被験者から顔面画像を取得した。具体的には、実験室に設置した椅子に被験者を座らせて、被験者にヘッドホンを装着させた。そして、このヘッドホンのアームにLogicool社製のHDウェブカムc270を固定し、この撮影装置を被験者の正面側で0.2m離れた地点に設置した。そして、この撮影装置を用いて被験者の顔面全体の鼻部周辺の撮影画像データを時系列で取得した。具体的には、撮影装置によって、30フレーム/秒の撮影周期で時間軸に沿って1260秒間の撮影画像データを連続撮影して、顔面の動画データを得た。画像データはApple Inc.製のMacBook Air(登録商標)にカラーの動画データとして格納した。
【0252】
そして、本試験では、顔面画像を取得している間に、被験者に薬剤であるオピオイド系鎮痛薬を投与した。オピオイド系鎮痛薬を投与したことは、被験者の周囲に存する介助者がボタンを押下すること等により検知した。
【0253】
顔面画像の解析としては、撮影した顔面の動画データより得られたRGBデータに基づき血行量データを算出し、MATLAB(登録商標)のSVD(Singular Value Decomposition)を分析ツールとして用いて特異値分解を行った。ここでは、CIE−L*a*b*表色系に従って、画像のRGBデータより演算される肌の赤みやヘモグロビン量と相関のある紅斑指数「a*」を求め、これを血行量データとした。また、特異値分解では、時系列で取得した全ての動画データ(1260秒間のデータ)から得られたRGBデータに基づく血行量データ(ここでは、紅斑指数)を対象とし、要因を1秒毎の時間データ(1260秒間で1260time point)とし、測度をその期間(1秒毎)におけるRGBデータから演算した紅斑指数(1秒間のフレームデータを取り出し、該フレームデータから得られるRGB値の平均値から演算した紅斑指数であり、動画データに合わせて調整したもの)とした。そして、特異値分解により、顔面の動画データより得られたRGBデータに基づく時系列の血行量データを、複数の成分に分解し、それぞれの成分の時間分布Vと、空間分布Uと、各成分の大きさを示す特異値Sとを算出した。なお、これらの関係は、以下の式で表される。また、V'は、Vの行と列とを入れ替えた行列である。
【0255】
そして、特異値分解によって求められた各成分の時間分布V及び空間分布Uをグラフにプロットし、各成分の成分波形図と血行量分布図とを作成した。
【0256】
さらに、作成した各成分の成分波形図及び血行量分布図について、脳機能賦活活動を反映した顔面の血行量の変化、すなわち顔面のRGB変化を示す成分を同定するための解析を行った。各成分の成分波形図については、その成分波形の振幅と、オピオイド系鎮痛薬を投与したこととの相関関係の有無について解析した。上記条件のもと、
図32に示すような結果が得られた。
【0257】
図32では、横軸が経過時間を示し、縦軸が顔面画像情報から得られた判定用成分の時系列変化を示している。この判定用成分は、オピオイド系鎮痛薬を投与したことと相関のある成分である。
図32のグラフからは、時間の経過とともに、判定用成分の反応が減少することを示す結果が得られた。
【0258】
図33は疼痛の主観的評価である数値的評価スケールから求めた推定痛み変化を示す図である。
図33では、横軸が経過時間を示し、縦軸が疼痛の数値的評価スケール示している。
図33のグラフからは、
図32と同様の波形を示す結果が得られた。
【0259】
このような結果から、オピオイド系鎮痛薬を投与したこと応じた判定用成分を抽出できることが認識できた。また、オピオイド系鎮痛薬の疼痛緩和効果を客観的に評価判定できることが認識できた。
【0260】
<付記>
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではない。本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、本発明は、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できるものである。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素は削除してもよいものである。さらに、異なる実施形態に構成要素を適宜組み合わせてもよいものである。