【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i−2)のジイソシアネート及び(ii−2)のジイソシアネートが、同一又は異なって、脂肪族ジイソシアネートである、請求項1〜4のいずれかに記載の溶融紡糸繊維。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、溶融紡糸により製造される、ホモ結晶ができるだけ存在しない(好ましくは、存在する結晶構造がステレオコンプレックス結晶のみの)ステレオコンプレックス型ポリ乳酸の糸(溶融紡糸繊維)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、(i):(i−1)L−乳酸及びジオールの重合体と(i−2)ジイソシアネートとの重合体、並びに(ii):(ii−1)D−乳酸及びジオールの重合体と(ii−2)ジイソシアネートとの重合体を含有する混合物を溶融紡糸することにより、存在する結晶構造がステレオコンプレックス結晶のみのステレオコンプレックス型ポリ乳酸の糸を製造し得ることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
溶融紡糸繊維であって、
(i):少なくとも、(i−1)L−乳酸及びジオールの重合体と、(i−2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体、並びに
(ii):少なくとも、(ii−1)D−乳酸及びジオールの重合体と、(ii−2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体
を含有し、
(i−1)の重合体の数平均分子量と、(ii−1)の重合体の数平均分子量とが、略等しく、
(i−1)の重合体の数平均分子量が1000〜9000程度であり、
(ii−1)の重合体の数平均分子量が1000〜9000程度である、
溶融紡糸繊維。
項2.
(i):(i−1)L−乳酸及びジオールの重合体と(i−2)ジイソシアネートとの重合体、並びに
(ii):(ii−1)D−乳酸及びジオールの重合体と(ii−2)ジイソシアネートとの重合体
を含有し、
(i−1)の重合体の数平均分子量と、(ii−1)の重合体の数平均分子量とが、略等しく、
(i−1)の重合体の数平均分子量が1000〜9000程度であり、
(ii−1)の重合体の数平均分子量が1000〜9000程度である、
項1に記載の溶融紡糸繊維。
項3.
(i)の重合体の数平均分子量と、(ii)の重合体の数平均分子量とが、略等しい、項1又は2に記載の溶融紡糸繊維。
項4.
(i−1)におけるジオール及び(ii−1)におけるジオールが、同一又は異なって、
HO−(CH
2)
β−OH(βは2〜20の整数を示す)で表されるアルカンジオール、
H−(OCH
2CH
2)
γ2−OH、(γ2は2〜20の整数を示す)で表されるポリエチレングリコール、及び
H−(OCH(CH
3)CH
2)
γ3−OH(γ3は2〜20の整数を示す)で表されるポリプロピレングリコール、
からなる群より選択される少なくとも1種である、
項1〜3のいずれかに記載の溶融紡糸繊維。
項5.
(i−2)のジイソシアネート及び(ii−2)のジイソシアネートが、同一又は異なって、脂肪族ジイソシアネートである、項1〜4のいずれかに記載の溶融紡糸繊維。
項6.
(i)の重合体と(ii)の重合体とが、モル比8:2〜2:8で含有される、項1〜5のいずれかに記載の溶融紡糸繊維。
項7.
項1〜6のいずれかに記載の溶融紡糸繊維を有する布。
項8.
(i):少なくとも、(i−1)L−乳酸及びジオールの重合体と、(i−2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体、並びに
(ii):少なくとも、(ii−1)D−乳酸及びジオールの重合体と、(ii−2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体
を溶融紡糸する工程を含み、ここで、
(i−1)の重合体の数平均分子量と、(ii−1)の重合体の数平均分子量とが、略等しく、
(i−1)の重合体の数平均分子量が1000〜9000程度であり、
(ii−1)の重合体の数平均分子量が1000〜9000程度である、
溶融紡糸繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る溶融紡糸繊維は、ホモ結晶がほとんど存在しない(好ましくは、存在する結晶構造がステレオコンプレックス結晶のみの)ステレオコンプレックス型ポリ乳酸溶融紡糸繊維であり、優れた耐熱性を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0013】
本発明に包含される溶融紡糸は、溶融紡糸により得られるポリ乳酸の糸(ポリ乳酸繊維)であり、より詳細には、(i):少なくとも、(i−1)L−乳酸及びジオールの重合体と、(i−2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体、並びに(ii):少なくとも、(ii−1)D−乳酸及びジオールの重合体と、(ii−2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体、を含有する溶融紡糸繊維である。好ましくは、(i):(i−1)L−乳酸及びジオールの重合体と(i−2)ジイソシアネートとの重合体、並びに(ii):(ii−1)D−乳酸及びジオールの重合体と(ii−2)ジイソシアネートとの重合体、を含有する溶融紡糸繊維である。(i−1)の重合体の数平均分子量と、(ii−1)の重合体の数平均分子量とは、略等しく、(i−1)の重合体の数平均分子量が1000〜9000程度であり、(ii−1)の重合体の数平均分子量が1000〜9000程度である。
【0014】
(i−1)の重合体は、L−乳酸及びジオールの重合体であり、(ii−1)の重合体は、D−乳酸及びジオールの重合体である。
【0015】
ジオールとしては、例えば、炭素数が2〜30程度、2〜25程度、2〜20程度、又は2〜18程度のアルカンジオールが挙げられる。また、アルカンジオールは、直鎖状又は分岐鎖状であり得、直鎖状であることが好ましい。なかでも、HO−(CH
2)
β−OH(βは2〜20の整数、すなわち2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20を示す)で表されるアルカンジオールが好ましい。βは、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜16、さらに好ましくは2〜14である。より具体的には、例えば1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール(すなわちドデカメチレングリコール)等が好ましく挙げられる。
【0016】
また例えば、ジオールとして、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を用いることができる。これらはそれぞれ、H−(OCH
2CH
2)
γ2−OH、H−(OCH(CH
3)CH
2)
γ3−OH、と表され得る。ここで、γ2、γ3は、それぞれ独立して、2〜20の整数(好ましくは2〜18、より好ましくは2〜16、さらに好ましくは2〜14)を示す。
【0017】
ジオールは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
なお、(i−1)及び(ii−1)で用いるジオールの種類及び量は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。同一であることが好ましい。
【0019】
本明細書において、乳酸とジオールの重合体を「ラクチルセグメント」と呼ぶことがある。特に(i−1)の重合体を「L−ラクチルセグメント」、(ii−1)の重合体を「D−ラクチルセグメント」と、それぞれ呼ぶことがある。
【0020】
これらの重合体においては、用いる乳酸及びジオールの量を調整することにより、平均分子量(数平均分子量)を調整することができる。特に制限はされないが、例えば、用いる乳酸とジオールとのモル比(乳酸/ジオールの計算値)としては、10〜300程度が好ましい。
【0021】
(i−1)の重合体(L−ラクチルセグメント)は、数平均分子量(Mn)が1000〜9000程度、好ましくは2000〜8000程度、より好ましくは2000〜7000程度、さらに好ましくは2000〜6000程度、よりさらに好ましくは2000〜5000程度である。また、(ii−1)の重合体(D−ラクチルセグメント)の数平均分子量(Mn)も同様に、1000〜9000程度、好ましくは2000〜8000程度、より好ましくは2000〜7000程度、さらに好ましくは2000〜6000程度、よりさらに好ましくは2000〜5000程度である。本明細書における重合体の数平均分子量は、(i)及び(ii)の重合体の数平均分子量も含め、
1H−NMR測定結果から算出した値である。より詳細には、各重合体サンプル30mgに対して0.7mLの溶媒(CDCL
3(+0.03 vol% TMS))を加えて試料溶液を調製し、これを
1H−NMR測定し、得られたピークから算出した値である。
【0022】
(i−1)及び(ii−1)の重合体は、公知の方法(例えば上記特許文献2に記載の方法)又は公知の方法に準じて容易に得られる方法により製造することができる。より具体的には、例えば、L−乳酸、D−乳酸、及びジオールを縮合させる直接重縮合法、並びに、L−乳酸及びD−乳酸を分子内縮合させてラクチドを生成し、これにジオールを加えて重合させるラクチド法、等が挙げられる。直接重縮合法及びラクチド法の概要を
図1に示す。さらに、
図2に、ジオールとしてHO−(CH
2)
n−OHで表されるアルカンジオールを用い直接重縮合法によりL−ラクチルセグメントを調製する概要(
図2の上側)、並びに、併せて、当該L−ラクチルセグメントとジイソシアネートとを重合(換言すれば鎖延長反応)させてL−ラクチルセグメント結合体を調製する概要(
図2の下側)、を示す。
図1及び
図2ではRはジオール由来のユニットを示し、l、m、n、Xは適当な正の整数である。
【0023】
これらの重合は、例えば、触媒(パラトルエンスルホン酸(p−TSA)、オクチル酸スズ等)を加えながら、例えば150℃〜200℃程度に加熱し、必要に応じて撹拌することで行うことができる。
【0024】
(i)の重合体(「L−ラクチルセグメント結合体」と呼ぶことがある)は、少なくとも、(i−1)の重合体と(i−2)ジイソシアネートとを重合させて得られる。(i−1)の重合体及び(i−2)ジイソシアネート以外に、さらに他の化合物を組み合わせて重合させてもよい。このような重合体も、(i)の重合体に包含される。このような他の化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、アジペート系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオール等の様々なポリオールが挙げられる。(i)の重合体としては、好ましくは、他の化合物を用いていない、(i−1)の重合体と(i−2)ジイソシアネートとの重合体である。また、(ii)の重合体(「D−ラクチルセグメント結合体」と呼ぶことがある)は、少なくとも、(ii−1)の重合体と(ii−2)ジイソシアネートとを重合させて得られる。(ii−1)の重合体及び(ii−2)ジイソシアネート以外に、さらに他の化合物を組み合わせて重合させてもよい。このような重合体も、(ii)の重合体に包含される。このような他の化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、アジペート系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオール等の様々なポリオールが挙げられる。(ii)の重合体としては、好ましくは、他の化合物を用いていない、(ii−1)の重合体と(ii−2)ジイソシアネートとの重合体である。
【0025】
なお、(i)及び(ii)のいずれにおいても、上記他の化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
(i−2)ジイソシアネートと(ii−2)ジイソシアネートとは、同一であっても異なっていてもよい。ジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネートや脂肪族ジイソシアネートが例示でき、脂肪族ジイソシアネートが好ましい。芳香族ジイソシアネートとしては、例えばトルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えばO=C=N−(CH
2)
δ−N=C=Oで表される化合物が挙げられる。ここでδは1〜10の整数(1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)であり、1〜8の整数であることが好ましい。特に好ましいジイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。ジイソシアネートは、(i−2)及び(ii−2)のいずれにおいても、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、(i−1)及び(ii−1)で用いるジイソシアネートの種類及び量は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
【0027】
(i)の重合体(L−ラクチルセグメント結合体)は、数平均分子量(Mn)が好ましくは10000〜1000000程度、より好ましくは20000〜900000程度、さらに好ましくは30000〜800000程度、よりさらに好ましくは40000〜700000程度、特に好ましくは50000〜600000程度である。また、(ii)の重合体(D−ラクチルセグメント結合体)の数平均分子量(Mn)も同様に、好ましくは10000〜1000000程度、より好ましくは20000〜900000程度、さらに好ましくは30000〜800000程度、よりさらに好ましくは40000〜700000程度、特に好ましくは50000〜600000程度である。
【0028】
ジイソシアネートの使用モル量としては、適宜設定することができるが、例えば(i−1)及び(ii−1)の重合体を調製した際のジオール使用モル量の0.8〜1.2倍モル量とすることが好ましい。
【0029】
本発明に係る溶融紡糸は、(i)の重合体と(ii)の重合体とを溶融して混合し、さらに繊維状に固めて(すなわち、溶融紡糸により)得られる。(i)の重合体と(ii)の重合体とは、それぞれを溶融してから混合してもよいし、それぞれを混合して(すなわちプレミックスを調製して)から溶融してもよい。例えば、両方の重合体を加熱して溶融混合し、これを口金(小孔あり)から押出し冷却して繊維を調製することができる。なお、上記の通り、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の成分(例えば他のポリマー)をさらに加えて溶融混合してもよい。
【0030】
混合に供する(i)の重合体と(ii)の重合体は、例えば、(i)の重合体の数平均分子量と、(ii)の重合体の数平均分子量とが、略等しいことが好ましい。(i)の重合体と(ii)の重合体の数平均分子量が「略等しい」とは、(i)の重合体の数平均分子量と(ii)の重合体の数平均分子量とのうち、大きい方の数平均分子量の85%〜100%の範囲に、もう一方の数平均分子量が含まれることをいう。両者の数平均分子量が同一である場合はいずれを「大きい方」として用いてもよい。例えば、(i)の数平均分子量が140000であって(ii)の数平均分子量より大きい場合、(ii)の数平均分子量が119000〜140000(すなわち、140000の85%〜100%)である場合には、これらの数平均分子量は「略等しい」といえる。この範囲の下限「85%」は、好ましくは例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、又は95%であり得る。
【0031】
また、混合に供する(i)の重合体と(ii)の重合体において、(i−1)の重合体の数平均分子量と、(ii−1)の重合体の数平均分子量とは、略等しい。特に、(i−1)の重合体の数平均分子量と、(ii−1)の重合体の数平均分子量とが、略等しく、且つ(i)の重合体の数平均分子量と、(ii)の重合体の数平均分子量とが、略等しいことがより好ましい。(i−1)の重合体と(ii−1)の重合体の数平均分子量が「略等しい」とは、(i−1)の重合体の数平均分子量と(ii−1)の重合体の数平均分子量とのうち、大きい方の数平均分子量の85%〜100%の範囲に、もう一方の数平均分子量が含まれることをいう。両者の数平均分子量が同一である場合はいずれを「大きい方」として用いてもよい。例えば、(i−1)の数平均分子量が9000であって(ii−1)の数平均分子量より大きい場合、(ii−1)の数平均分子量が7650〜9000(すなわち、9000の85%〜100%)である場合には、これらの数平均分子量は「略等しい」といえる。この範囲の下限「85%」は、好ましくは例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、又は95%であり得る。
【0032】
混合に供する(i)の重合体と(ii)の重合体との混合モル比は、8:2〜2:8が好ましく、7:3〜3:7がより好ましく、6:4〜4:6がさらに好ましく、約1:1がよりさらに好ましい。
【0033】
本発明は、(i)の重合体と(ii)の重合体とを溶融紡糸する工程を含む、溶融紡糸繊維の製造方法も包含する。より具体的には、例えば、次の溶融紡糸繊維の製造方法が挙げられる。
(i):少なくとも、(i−1)L−乳酸及びジオールの重合体と、(i−2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体、並びに
(ii):少なくとも、(ii−1)D−乳酸及びジオールの重合体と、(ii−2)ジイソシアネートと、を構成単位とする重合体
を溶融紡糸する工程を含み、ここで、
(i−1)の重合体の数平均分子量と、(ii−1)の重合体の数平均分子量とが、略等しく、
(i−1)の重合体の数平均分子量が1000〜9000程度であり、
(ii−1)の重合体の数平均分子量が1000〜9000程度である、
溶融紡糸繊維の製造方法。
【0034】
ここでの溶融紡糸工程については、上述の通りである。
【0035】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例】
【0036】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0037】
ラクチルセグメント及びラクチルセグメント結合体の調製
<L−ラクチルセグメント及びL−ラクチルセグメント結合体>
L−lactideに対してジオールを所定の配合比率で配合し、触媒としてオクチル酸スズを加えながら180
oCで反応させて両末端に反応性の水酸基を有する重合体 (L−ラクチルセグメント)を製造した。そして、L−ラクチルセグメントに対して等モル量のジイソシアネートを加えて鎖延長反応させることにより、L−ラクチルセグメント結合体を合成した。なお、L−ラクチルセグメント結合体を「Seg−PLLA」と呼ぶことがある。
【0038】
より詳細には、二つ口フラスコに、L−lactide 20gを投入し、さらに、得られるラクチルセグメントの数平均分子量(セグメント長ともいう)が20000程度とする場合はドデカメチレングリコール(DMG)を202.3mg、セグメント長を10000程度とする場合はDMGを404.7mg、セグメント長を5000程度とする場合はDMGを809.4mg加え、室温下、10Paの減圧下にて、6時間、lactideを乾燥した(窒素置換を1時間毎に1回行った)。その後、オクチル酸スズを45μL加え、窒素雰囲気下にて、180℃に加熱されたオイルバス中にフラスコを入れ25分重合した(L−ラクチルセグメントが合成された)。当該重合後、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)をDMGに対して等モル量加え、180℃に加熱されたオイルバス中で15分鎖延長反応を行った。得られた重合物を室温下まで冷却し、L−ラクチルセグメント結合体(Seg−PLLA)を得た。
【0039】
<D−ラクチルセグメント及びD−ラクチルセグメント結合体>
L−lactideのかわりにD−lactideを用いた以外は、L−ラクチルセグメント及びL−ラクチルセグメント結合体を合成したのと同様にして、D−ラクチルセグメント及びD−ラクチルセグメント結合体を調製した。なお、D−ラクチルセグメント結合体を「Seg−PDLA」と呼ぶことがある。
【0040】
得られたラクチルセグメント及びラクチルセグメント結合体の数平均分子量については、
1H−NMR測定を行い得られた結果から算出して求めた。より詳細には、各重合体サンプル30mgに対して0.7mLの溶媒(CDCL
3(+0.03 vol% TMS))を加えて試料溶液を調製し、これを
1H−NMR測定し、得られたピークから算出した値である。
1H−NMRとしては、1H−NMR (300MHz) Bruker AV300 spectrometerを用いた。
【0041】
上記(1)のL又はD−ラクチルセグメントのセグメント長、及び当該セグメントから得られたL又はD−ラクチルセグメント結合体の、数平均分子量(Mn)測定結果を以下に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
L−ラクチルセグメント結合体及びD−ラクチルセグメント結合体の溶融混合
得られたSeg−PLLAとSeg−PDLAとを等モル量溶融混練し、これらのブレンド体(Seg−(L/D))を得た。
【0044】
溶融混合は、ほぼ同じセグメント長を有するSeg−PLLA及びSeg−PDLAを用いて行った。具体的には、セグメント長が約5000程度のセグメントの結合体どうしであるSeg(5k)−PLLA及びSeg(5k)−PDLAを約170℃で溶融混練し、セグメント長が約10000程度のセグメントの結合体どうしであるSeg(10k)−PLLA及びSeg(10k)−PDLAを約180℃で溶融混練し、セグメント長が約20000程度のセグメントの結合体どうしであるSeg(20k)−PLLA及びSeg(20k)−PDLAを約190℃で溶融混練した。得られたブレンド体を、それぞれ、Seg(5k)−(L/D)、Seg(10k)−(L/D)、及びSeg(10k)−(L/D)と表記する。
【0045】
溶融紡糸
<Seg(5k)−(L/D)の溶融紡糸>
得られたSeg(5k)−(L/D)の溶融紡糸をスクリュー押出機を用いて行った。スクリュー押出機のポリマー供給部分の温度を120℃、溶融部分の温度を210℃、ノズル部分の温度を205℃とし、吐出量を2g/分、巻取速度を192m/分で一定とした。得られた繊維に120℃で2分間熱処理を施し結晶化させた。当該熱処理は、繊維の端と端を固定する「定長熱処理」法で恒温槽(オーブン)内で行った。当該溶融紡糸の概要を
図3に示す。
【0046】
得られた溶融紡糸繊維の熱的性質を示差走査熱量測定計(DSC)、高次構造を広角X線回折(WAXD)を用いて評価した。DSCの結果を
図4aに、WAXDの結果を
図4bに、それぞれ示す。なお、
図4aには、Seg(5k)−(L/D)から調製した溶融紡糸繊維(
図4a下側)だけではなく、溶融混練によって得られたSeg(5k)−(L/D)ブレンド体(
図4a上側)についてのDSCの結果を示す。また、
図4bには、得られた溶融紡糸繊維について120℃2分間の熱処理を施したものの他に、160℃2分間の熱処理を施したもの、及び熱処理を施していないもの、についても、あわせてWAXDパターンを示す。
【0047】
図4aから、Seg(5k)−(L/D)はステレオコンプレックス結晶のみを含む(ホモ結晶は含まれない)ことがわかった。また
図4bから、Seg(5k)−(L/D)の溶融紡糸繊維は、ポリ乳酸ホモ結晶の融点(140℃前後)以下の温度で熱処理(120℃)を施しても、ホモ結晶は形成されず、ステレオコンプレックス結晶のみが形成されることがわかった。
【0048】
またさらに、Seg(5k)−(L/D)ホットプレスフィルムを120℃で30分間熱処理したもの、及び得られたSeg(5k)−(L/D)溶融紡糸繊維に120℃で30分熱処理したもの、について、示差走査熱量測定計(DSC)により測定した。結果を
図5に示す。ホットプレスフィルムでは、141℃付近にホモ結晶に由来する融解ピークが観測されたが、溶融紡糸繊維ではホモ結晶由来融解ピークは観測されず、ステレオコンプレックス結晶由来融解ピークのみが観測された。このことから、Seg(5k)−(L/D)溶融紡糸繊維は耐熱性が極めて優れており、特にホモ結晶融解温度以下で長時間熱処理を施しても、ホモ結晶は形成されず、ステレオコンプレックス結晶のみが形成されることがわかった。
【0049】
以上の結果は、Seg(5k)−(L/D)のフィルムでは、高温処理(但し融解はしない)が施されると、耐熱性能が衰える可能性が高い一方で、当該溶融紡糸繊維や、当該繊維から製造される布については、高温処理(但し融解はしない)が施された場合であっても、耐熱性能が衰えないことを示している。
【0050】
<Seg(10k)−(L/D)の溶融紡糸>
得られたSeg(10k)−(L/D)の溶融紡糸をスクリュー押出機を用いて行った。スクリュー押出機のポリマー供給部分の温度を120℃、溶融部分の温度を230℃、ノズル部分の温度を225℃とし、吐出量を2g/分で一定とした。スクリューから押し出されたポリマーは溶融粘度が低く、巻取りが困難であった。すなわち、溶融紡糸繊維の製造は困難であった。
【0051】
<Seg(20k)−(L/D)の溶融紡糸>
得られたSeg(20k)−(L/D)の溶融紡糸をスクリュー押出機を用いて行った。スクリュー押出機のポリマー供給部分の温度を120℃、溶融部分の温度を245℃、ノズル部分の温度を240℃とし、吐出量を2g/分で一定とした。スクリューから押し出されたポリマーは溶融粘度が低く、巻取りが困難であった。すなわち、溶融紡糸繊維の製造は困難であった。
【0052】
なお、いずれのブレンド体の溶融紡糸においても、スクリュー押出機の各部分の温度は、各ブレンド体を溶融させるために必要な最低温度を基準として設定した。
【0053】
Seg(10k)−(L/D)及びSeg(20k)−(L/D)ではステレオコンプレックス結晶が生じており耐熱性が高まっている。このため、返って溶融のために高温度加熱が必要となり、この高熱のためにポリ乳酸自体がある程度分解してしまっていると考えられる。得られたポリマーが巻き取り困難であるのは、このポリ乳酸の分解が原因だと推察される。
【0054】
一方で、比較的低温加熱で溶融が可能なSeg(5k)−(L/D)については、溶融紡糸により繊維を調製することができ、さらに得られた溶融紡糸繊維は優れた耐熱性を有することが確認できた。