【文献】
CHOI M. et al.,Biomol. Ther.,23(5) (2015),p.391-399
【文献】
PIBOONNIYOM S. et al.,Cancer Research,63 (2003),p.476-483
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項4に記載の三次元培養表皮モデルに被験物質を接触させ、該モデルのケラチノサイトの変化を測定することを特徴とする、該被験物質の有効性又は安全性を評価する方法。
請求項4に記載の三次元培養表皮モデルに被験物質を接触させ、該モデルのケラチノサイトの変化を測定することを特徴とする、表皮機能の改善物質をスクリーニングする方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、上述した実情に鑑み、原料となる細胞株のロット間でのバラつきの問題がなく、安定した品質を保持した三次元培養表皮モデルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、不死化遺伝子又は不死化遺伝子とともに細胞周期の移行促進に関与する遺伝子を導入した不死化ケラチノサイトは、継代を重ねても増殖性と分化性を失わず、当該不死化ケラチノサイトを用いて三次元培養することにより作製された培養表皮は、不死化ケラチノサイトの継代数に影響を受けることなく、安定した品質を保持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)以下の工程を含む、三次元培養表皮モデルの製造方法。
(a)不死化遺伝子をケラチノサイトに導入することにより、不死化ケラチノサイトを作製する工程
(b)工程(a)で作製した不死化ケラチノサイトを三次元培養する工程
(2)前記不死化遺伝子が、テロメラーゼ逆転写酵素遺伝子である、(1)に記載の三次元培養表皮モデルの製造方法。
(3)細胞周期の移行促進因子をコードする遺伝子をさらに導入する、(1)又は(2)に記載の三次元培養表皮モデルの製造方法。
(4)前記細胞周期の移行促進因子をコードする遺伝子が、サイクリン依存性キナーゼ遺伝子及び/又はサイクリン遺伝子である、(3)に記載の三次元培養表皮モデルの製造方法。
(5)前記不死化ケラチノサイトが、継代培養を繰り返した細胞である、(1)〜(4)のいずれかに記載の三次元培養表皮モデルの製造方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法で得られる、重層化されたケラチノサイトを有する、三次元培養表皮モデル。
(7)(6)に記載の三次元培養表皮モデルに被験物質を接触させ、該モデルのケラチノサイトの変化を測定することを特徴とする、該被験物質の有効性又は安全性を評価する方法。
(8)(6)に記載の三次元培養表皮モデルに被験物質を接触させ、該モデルのケラチノサイトの変化を測定することを特徴とする、表皮機能の改善物質をスクリーニングする方法。
(9)(6)に記載の三次元培養表皮モデルを含む、皮膚評価用キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、原料となる細胞株のロット間でのバラつきや、継代培養に伴う細胞老化がないため、安定した品質を保持した三次元培養表皮モデルを製造することができる。よって、本発明の方法により作製された三次元培養表皮モデルは、皮膚刺激性試験や皮膚のターンオーバーの促進物質などの評価試験において、再現性かつ信頼性のある評価結果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.三次元培養表皮モデルの製造方法
本発明の三次元培養表皮モデルの製造方法は、(a)不死化遺伝子をケラチノサイトに導入することにより、不死化ケラチノサイトを作製する工程と、(b)工程(a)で作製した不死化ケラチノサイトを三次元培養する工程を含む。
【0012】
まず、工程(a)では、不死化遺伝子をケラチノサイトに導入することによってケラチノサイトを不死化する。ここで「不死化遺伝子」とは、細胞を不死化し、無限増殖能を獲得させる遺伝子をいい、ケラチノサイトなどの上皮細胞の培養細胞を不死化させ、かつ細胞死を誘導しない遺伝子であれば特に限定はされない。また、不死化遺伝子は、外因性遺伝子であり、細胞外から新たに導入される不死化遺伝子を意味する。さらに、不死化遺伝子は、ヒト以外に由来する不死化遺伝子であってもよく、標的細胞内で発現可能な形態に改変された不死化遺伝子であってもよい。本発明において用いる不死化遺伝子としては、例えば、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)遺伝子、テロメラーゼの発現又は活性を調節する遺伝子(例えば、Myc遺伝子、Ras遺伝子等)、ウイルス遺伝子(SV40T、HPV E6-E7、EBV等)が挙げられるが、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)遺伝子が好ましく、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子がより好ましい。本発明において使用されるケラチノサイトの由来としては、哺乳動物であれば特に限定はされず、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ等が挙げられるが、ヒトであることが好ましい。
【0013】
また、不死化遺伝子に加えて、細胞周期の移行促進因子をコードする遺伝子をさらに導入することが好ましい。細胞周期の移行促進因子(細胞周期の正の調節因子)としては、
細胞周期のG1からS期への進行に関与するサイクリン依存性キナーゼ(Cyclin-Dependent Kinase:CDK)とその結合パートナーであるサイクリン(Cyclin:CCN)が挙げられる。サイクリン依存性キナーゼ(CDK)とサイクリン(CCN)は、いずれか一方であっても両方であってもよい。本発明において用いるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)としては、CDK1、CDK2、CDK3、CDK4、CDK6及びCDK7が挙げられ、これらの中でもCDK4及びCDK6が好ましく、CDK4がより好ましい。また、サイクリン(CCN)としては、上記CDKと結合して活性化できるものであればよく、例えばD型サイクリン(CCND1,CCND2,CCND3)が挙げられる。本発明において用いるCDK遺伝子及び/又はCCN遺伝子のヌクレオチド配列の情報は、NCBIデータベースから入手可能である。また、CDK遺伝子及び/又はCCN遺伝子は、好ましくは哺乳動物由来であることが好ましく、ヒト由来であることがより好ましい。
【0014】
上記の不死化遺伝子や細胞周期の移行促進因子をコードする遺伝子をケラチノサイトに導入する方法は、一般に遺伝子導入に用いられている方法であれば限定はされないが、例えば、ウイルスベクターを用いる方法、リポフェクション法、リン酸カルシウム共沈法、エレクトロポレーション法などが挙げられるが、ウイルスベクターを用いる方法が好ましい。ウイルスベクターとしては、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター等が挙げられる。
【0015】
本発明において、不死化ケラチノサイトは、ヒト等の皮膚組織より分離されたケラチノサイトに、上記の方法で不死化遺伝子を導入した細胞を適当な培地中で継代培養することによって樹立することができる。
【0016】
次に、工程(b)では、工程(a)で作製した不死化ケラチノサイトを用いて三次元培養を行う。ここで、不死化ケラチノサイトは、表皮内のケラチノサイトの本来の機能が保持される範囲で継代培養を繰り返した継代培養細胞を用いることもできる。三次元培養は、ケラチノサイトを空気暴露により重層化させ皮膚を再構成させるという、当分野で一般的に用いられている下記の三次元培養皮膚の作製方法に従って行うことができる。
【0017】
三次元培養皮膚の作製は、細胞の増殖培養工程と分化誘導工程からなる。増殖培養工程においては、不死化ケラチノサイトを、培養インサート等の培養容器内で底面にコンフルエントになるまで増殖培養させる。具体的には、不死化ケラチノサイトを細胞増殖用培地に分散し、この細胞分散液を、液透過性膜を底面に有する培養インサートに播種し、培養インサートの外部も同じ細胞増殖用培地で満たして、液透過性膜上の不死化ケラチノサイトが細胞増殖用培地中に浸漬した状態で培養する。液透過性膜によって、培養インサートの内部と外部とは培地が透過可能なように連通している状態が維持される。ここで、細胞培養インサートに添加する不死化ケラチノサイトの数は、特に限定されないが、通常15×10
4〜120×10
4細胞/cm
2が好ましく、30×10
4〜90×10
4細胞/cm
2がより好ましい。
【0018】
培養インサートの液透過性膜は、播種した不死化ケラチノサイトが接着又は固定され、その上で不死化ケラチノサイトが増殖でき、支持体となりうるものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン等の膜が挙げられる。また、当該膜にコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン等の細胞外マトリックスやポリL−リジン等の細胞の接着を補助するものをコーティングしてもよい。
【0019】
さらに、支持体として培養インサートを用いる他に、コラーゲンゲル、コラーゲンスポンジもしくは上皮や線維芽細胞が除去された無細胞化真皮を用いてもよい。これらを支持体として用いる場合には、適宜線維芽細胞を組み込んでもよい。また、これらの支持体には支持体表面にガラスリングを設置し、その中に不死化ケラチノサイトの細胞懸濁液を添加するのが好ましい。
【0020】
増殖培養は、例えば1〜6日間、好ましくは2〜4日間行う。また、この間、培地を適宜交換してもよい。培養インサートにおいて増殖した不死化ケラチノサイトがコンフルエントの状態にあるかどうかは、CnT-ST-100 stain kit(CELLn TEC社製)等の細胞染色試薬により確認することができる。また、培養インサート内の培養液の液面が、培養インサート外の培養液の液面よりも高くなったときに、不死化ケラチノサイトがコンフルエントになったと判断することもできる。
【0021】
次に、分化誘導工程では、培養インサートの内部及び外部の培地を細胞増殖用培地から細胞分化用培地に変更し、当該培地にて不死化ケラチノサイトを6〜48時間程度浸漬培養した後、培養インサートの内部及び外部のすべての培地をアスピレーターで除去し、インサート外部に細胞分化用培地を添加し、培養インサート内部の不死化ケラチノサイトは空気(大気)に暴露し、5〜12日間培養して、重層化したケラチノサイトに分化誘導する。
【0022】
上記の細胞増殖用培地としては、例えば、ケラチノサイトの増殖や継代培養に適した基本培地であれば、特に限定はされないが、無血清・低カルシウム濃度の基本培地であることが好ましく、例えば、Keratinocyte-SFM(Thermo Fisher Scientific社製)、MCDB153培地(Sigma社製)、Humedia-KG2(クラボウ社製)、正常ヒトケラチノサイト用無血清培地(DSファーマバイオメディカル社製)等の市販の培地を使用すればよい。上記培地には、増殖因子としてケラチノサイト増殖因子(KGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、白血球遊走阻止因子(LIF)、Stem Cell Factor (SCF)等が含有されていてもよい。また、増殖速度を増大させるために、必要に応じて、上皮細胞増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、ウシ血清アルブミン(BSA)、L-グルタミン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメントが含有されてもよい。また、必要に応じて、抗生物質を添加してもよい。細胞増殖用培地のカルシウム濃度は、約0.03〜0.15mMが好ましい。
【0023】
上記の細胞分化用培地としては、ケラチノサイトの分化誘導に適した基本培地であれば、特に限定はされないが、CnT-Prime 3D Barrier Culture Medium(CELLn TEC社製)等の市販の培地を使用すればよい。また、細胞分化用培地のカルシウム濃度は、約1.2〜1.5mMが好ましい。
【0024】
増殖及び分化誘導のための培養温度は、細胞の由来により異なるが、例えばヒト由来の場合30℃〜40℃が好ましく、36〜38℃がより好ましい。また、CO
2ガス濃度は、例えば約1〜10%が好ましく、約2〜5%がより好ましい。
【0025】
上記の不死化ケラチノサイトを培養して重層化した表皮組織を作製する工程は、ミリセルセルカルチャーインサート(Millipore社製)、ケラチノサイト三次元培養スターターキット(フナコシ社製)等の市販の培養表皮作製用キットを利用してもよく、該キットに梱包された培地、培養インサートを用いて該キットに添付の指示書に従って行うことができる。
【0026】
2.三次元培養表皮モデル
本発明の三次元培養表皮モデルは、上記の1.に記載の方法によって製造される三次元培養表皮モデルであって、継代を重ねても増殖能と分化能を失わず、細胞老化のない不死化ケラチノサイトを原料として作製されているために、ロット間のバラつきもなく、実際のヒト表皮に近いケラチノサイトが重層化した構造を有することを特徴とする。本発明の三次元培養表皮モデルはまた、ケラチノサイトの分化マーカーであるインボルクリン(Involucrin;IVL)遺伝子と、皮膚バリア機能のマーカー遺伝子であるフィラグリン(Filaggrin;FLG)遺伝子の発現亢進によって特徴づけられる。これらのマーカーの確認は、タンパク質レベルでは免疫染色、ウェスタンブロット解析や、遺伝子レベルではRT−PCR法、リアルタイムPCR等により行うことができる。またその発現量は、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDH、HPRT等の発現量をコントロールとして用いて標準化することができる。また、本発明において「ケラチノサイトの重層化」とは、表皮組織の構造と同等の基底層、有棘層、顆粒層、角層の4つの細胞層を備えた構造となることをいう。重層化は、HE染色(ヘマトキシリン・エオジン染色)等で染色した場合、目視で容易に確認できる。
【0027】
本発明の上記三次元培養表皮モデルは、キット化してもよく、当該キットには、例えば、ケラチノサイトの培養に適した培地や容器、陽性や陰性の標準試料、キットの使用方法を記載した指示書等を含めることができる。
【0028】
3.三次元培養表皮モデルの使用方法
本発明の三次元培養表皮モデルは、動物実験の代替法として、化粧品や皮膚外用剤、化学物質(洗剤、衣服用染料等)の有効性や安全性の評価に用いることができる。例えば、有効性の評価には、皮膚バリア機能、水分又は油分の保持・調節機能、シワ予防・改善機能、水分浸透性の有無等が挙げられ、安全性の評価としては、紅斑、発赤、炎症、色素沈着、腫脹、かぶれの発生の有無等が挙げられる。また、本発明の三次元培養表皮モデルは、表皮機能の改善物質のスクリーニングに用いることもできる。表皮機能改善には、表皮のバリア機能(水分保持機能、外部からの紫外線・化学物質・細菌などの侵入防止機能など)の向上、皮膚のターンオーバーの正常化機能、メラニン代謝正常化機能等が挙げられる。
【0029】
本発明において、化粧品や医薬品の有効性や安全性の評価、及びスクリーニングは、本発明の三次元培養表皮モデルに被験物質を接触させ、該モデルのケラチノサイトの変化を測定することによって行うことができ、ケラチノサイトの変化が評価の指標となる。この際、被験物質と接触させない本発明の三次元培養表皮モデルを対照とし、その測定結果と比較すれば、評価がより正確となる。ケラチノサイトの変化には、それらの数、形態、分布、局在、移動、消失などの変化、及びケラチノサイト内の特定遺伝子(例えばインボルクリン(Involucrin)遺伝子、フィラグリン(Filaggrin)遺伝子、ロリクリン(Loricrin)遺伝子などのケラチノサイト特異的マーカー遺伝子)の発現量の変化が含まれる。例えば、ケラチノサイトの細胞死や増殖阻害を指標とすれば、被験物質が表皮に対して刺激性を与える物質であると評価でき、ケラチノサイトの増殖促進や角質層の厚みの増加を指標とすれば、被験物質を皮膚ターンオーバー促進剤の候補物質としてスクリーニングすることができる。被験物質は、培養インサート内に形成された三次元培養表皮モデルに、角質層表面側から及び/又は基底層表面側から接触させる。具体的には、培養インサート内の表皮モデルに上部から被験物質を投与又は塗布する方法、培養インサートの外部の培養液に被験物質を添加する方法により行うことができる。
【0030】
ケラチノサイトの変化の測定は、特に限定はされず、例えば、ケラチノサイトの数や形態等の変化の顕微鏡観察、MTT、XTT、WST-8、アラマーブルー(Alamar Blue)等を用いた細胞増殖・生存活性試験、トリパンブルー色素排除試験法等の生細胞計測法、LDHアッセイ等の細胞傷害性試験など公知の方法により行うことができる。
【0031】
また、ケラチノサイト特異的マーカー遺伝子等の特定遺伝子の発現量の測定は、公知の遺伝子発現解析方法に従って行うことができ、例えば、当該特定遺伝子に特異的なプライマーやプローブを用いたRT−PCR法、リアルタイムPCR法、ノーザンブロッティング法、ドットブロット法、RNアーゼプロテクションアッセイ法、マイクロアレイ法などが挙げられる。また、遺伝子の翻訳産物であるタンパク質に特異的な抗体を用いたELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング等の免疫学的方法等により測定してもよい。
【0032】
被験物質は、主に化粧品及び/又は医薬品に利用できる成分を対象とし、例えば、動・植物組織の抽出物もしくは微生物培養物等の複数の化合物を含む混合物、またそれらから精製された標品;天然に生じる分子(例えば、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、脂質、ステロイド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど);あるいは天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチド擬態物など);及び天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作製した低分子有機化合物);ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。また、被験物質としては単一の被験物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる被験物質の混合物(ライブラリーなどを含む)について試験をしてもよい。複数の被験物質を含むライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー、ペプチドライブラリーなどが挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)三次元培養表皮モデルの製造
(1)不死化ケラチノサイトの作製
正常ヒトケラチノサイト(Human epidermal keratinocyte、NHEK、クラボウ社製)に、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)遺伝子(Genbank number: Nucleotide NM_198253.2、塩基配列:配列番号1、コード領域のアミノ酸配列:配列番号2)、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)遺伝子(Genbank number: Nucleotide NM_000075.3、塩基配列:配列番号3、コード領域のアミノ酸配列:配列番号4)、及びサイクリンD1(CCND1)遺伝子(Genbank number: Nucleotide NM_053056.2、塩基配列:配列番号5、コード領域のアミノ酸配列:配列番号6)を導入し、不死化ケラチノサイトを作製した。各遺伝子はそれぞれ別個のレンチウイルスベクター(Lentiviral High Titer Packaging Mix with pLVSINシリーズを使用)に組み込み、該ベクターによってケラチノサイトに導入した。
【0035】
(2)三次元培養表皮の作製
(1)で作製した不死化ヒトケラチノサイト(Immortalized Human Epidermal Keratinocyte;IHEK)の継代培養を行い、P1からP4までの継代ごとに三次元培養表皮を作製した。三次元培養表皮の作製は、ケラチノサイト三次元培養スターターキット(フナコシ社製)を用いて、添付されているプロトコールに従って行った。具体的には、各細胞株をミリセルセルカルチャーインサート(24well plate用)に20万個播種し、Keratinocyte-SFMにて3日間培養後(培地量はインサート内400μL、インサート外1000μL)、インサート内外の培地を除き、分化培地であるCnT-Prime 3D barrier medium(CELLnTEC社製)に交換した(培地量はインサート内400μL、インサート外1000μL)。翌日、インサート内外の培地を除き、インサート外部にのみCnT-Prime 3D barrier mediumを700μL添加し、空気暴露を10日間行い、三次元培養表皮を作製した。
【0036】
(実施例2)三次元培養表皮モデルの品質評価(組織の形態観察)
実施例1の不死化ヒトケラチノサイト(IHEK)を用いて継代(P1,P2,P3,P4)ごとに作製した三次元培養表皮、比較として表皮の不死化細胞株として広く利用されているHaCat、正常ヒトケラチノサイト(Human epidermal keratinocyte、NHEK、クラボウ社製)をそれぞれ用いて同様の手法にて作製した三次元培養表皮について、組織の形態観察によって品質を評価した。具体的には作製後の培養表皮を4%PFA/PBSで固定した後、バキュームロータリーにてパラフィン中に包埋し、パラフィンブロックを作製した。作製後、ミクロトームを用いて組織切片を作製し、脱パラフィン処理を行った後、ヘマトキシリン・エオジン染色にて組織の形態を観察した。これらの染色結果を
図1に示す。
【0037】
図1に示されるように、正常ヒトケラチノサイト(NHEK)を用いて作製した培養表皮は継代に伴って表皮組織が劣化し、表皮構造も薄くなった。これに対し、不死化ヒトケラチノサイト(IHEK)を用いて作製した培養表皮は、継代に伴う表皮組織の劣化がなく、重層化した表皮構造を有していた。また、自然不死化細胞株であるHaCatでは、重層化はするが角質層が形成されず、表皮モデルの作製が困難であった。よって、これらの結果より、不死化遺伝子導入による不死化ヒトケラチノサイト(IHEK)を原料とすれば、継代数やロット間の差の影響を受けることなく、品質の安定した培養表皮の作製が可能であることが示された。
【0038】
(実施例3)三次元培養表皮モデルの品質評価(表皮関連遺伝子の発現量解析)
実施例1の不死化ヒトケラチノサイト(IHEK)を用いて継代(P1,P2,P3,P4)ごとに作製した三次元培養表皮、比較として正常ヒトケラチノサイト(Human epidermal keratinocyte、NHEK、クラボウ社製)をそれぞれ用いて同様の手法にて作製した三次元培養表皮について、皮膚再生力及び皮膚バリア機能の指標となるマーカー遺伝子の発現量を指標として被験物質の有効性を評価した。皮膚再生力のマーカー遺伝子としてケラチノサイトの分化マーカーであるインボルクリン(Involucrin;IVL)遺伝子を用い、皮膚バリア機能のマーカー遺伝子としてフィラグリン(Filaggrin;FLG)遺伝子を用いた。評価は、ケラチノサイト成長因子であるKGF(Keratinocyte Growth Factor)を培養表皮作製時の培地中に添加し、非添加群との比較により行った。マーカー遺伝子の発現量の測定は以下のようにして行った。培養表皮組織をPBS(-)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen)によってRNAを抽出した。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems)により、下記のプライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施し、IVL遺伝子及びFLG遺伝子の発現量を測定した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
【0039】
IVL遺伝子用プライマーセット:
CCATCAGGAGCAAATGAAACAG(配列番号7)
GCTCGACAGGCACCTTCTG(配列番号8)
FLG遺伝子用プライマーセット:
GGCACTGAAAGGCAAAAAGG(配列番号9)
AAACCCGGATTCACCATAATCA(配列番号10)
GAPDH(内部標準)用のプライマーセット:
TGCACCACCAACTGCTTAGC(配列番号11)
TCTTCTGGGTGGCAGTGATG(配列番号12)
【0040】
作製した三次元培養表皮の品質は、KGF非添加の継代数P1の正常ヒトケラチノサイト(NHEK)又は継代数P1の不死化ヒトケラチノサイト(IHEK)をそれぞれ標準細胞として用い、KGF添加又は非添加の条件で作製した三次元培養表皮におけるターゲットmRNA(IVL mRNA、FLG mRNA)の遺伝子発現量を各継代数(P1,P2,P3,P4)において算出し、各継代ごとのKGFに対する感受性の比較を行った。なお、補正は内部標準であるGAPDH mRNAの発現量を用い、GAPDH mRNAの発現量に対する割合としてターゲット遺伝子の相対発現量(ターゲット遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量)を算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1及び表2に示す通り、正常ヒトケラチノサイト(NHEK)を用いて作製した培養表皮では、皮膚再生力の指標であるIVL遺伝子及び皮膚バリア機能の指標であるFLG遺伝子の発現量が継代に伴い減少し、次第にKGFによるこれらの遺伝子の発現向上効果が確認できなくなった。一方、不死化ヒトケラチノサイト(IHEK)を用いて作製した培養表皮では上記遺伝子の発現量が低下せずに一定であり、KGFによるこれらの遺伝子の発現向上効果が維持された。よって、不死化ヒトケラチノサイト(IHEK)を原料とすれば、継代数による影響を受けることなく、常に安定した性状の培養表皮モデルの作製が可能であり、これを用いることで安定した再生力やバリア機能などの皮膚評価が可能であることが示された。
【0044】
(実施例4)三次元培養表皮モデルを用いた皮膚安全性の評価試験
実施例1の不死化ヒトケラチノサイト(IHEK)を用いて継代(P1,P2,P3,P4)ごとに作製した三次元培養表皮、比較として正常ヒトケラチノサイト(Human epidermal keratinocyte、NHEK、クラボウ社製)を用いて同様の手法にて作製した三次元培養表皮を用いて皮膚安全性(皮膚刺激性)の評価を行った。空気暴露後9日目の作製した培養表皮表面に皮膚刺激性物質であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.2%(w/v)の濃度で滴下し、24時間後に培養表皮を回収し、細胞生存率をMTTアッセイにより検出した。MTTアッセイは市販のMTTアッセイキット(コスモバイオ社製)を用い、添付されているプロトコールに従って行った。MTTアッセイの結果を
図2に示す。
【0045】
図2に示す通り、不死化ケラチノサイト(IHEK)を用いて作製した培養表皮は、継代を重ねてもSDS刺激による細胞生存率の低下が一定で安定した皮膚刺激物質に対する感受性を示した。これに対し、正常ケラチノサイト(NHEK)を用いて作製した培養表皮は、継代に伴い皮膚組織が脆弱となり、SDS刺激に対する感受性が高くなった結果、生体本来の皮膚(P1)に対する刺激よりも強い陽性反応がでていた。これらのことから、不死化ケラチノサイト(IHEK)を原料として作製した培養表皮は、皮膚安全性評価を行う上で、継代数の影響を受けること無く安定性の高い刺激応答を示すことから、非常に優れた品質であることがわかった。