特許第6886172号(P6886172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886172
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】真空管アンプ
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/40 20060101AFI20210603BHJP
   H03F 3/68 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   H03F1/40
   H03F3/68 220
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-3035(P2017-3035)
(22)【出願日】2017年1月12日
(65)【公開番号】特開2018-113594(P2018-113594A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130329
【氏名又は名称】株式会社コルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】李 剛浩
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 好古
【審査官】 工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】 特許第171008(JP,C2)
【文献】 特開2015−61257(JP,A)
【文献】 特開2008−42641(JP,A)
【文献】 実公昭41−11458(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/00−H03F3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力信号と前記第1入力信号と位相が反転している第2入力信号から出力信号を生成する真空管アンプであって、
前記第1入力信号の振幅が大きいほど、前記第1入力信号が無いときからの変化が大きいバイアス電圧を生成するバイアス生成部と、
前記第1入力信号と前記バイアス電圧を合成し、第1バイアス付加入力信号を生成する第1合成部と、
前記第2入力信号と前記バイアス電圧を合成し、第2バイアス付加入力信号を生成する第2合成部と、
熱電子を放出するフィラメントを有し、前記第1バイアス付加入力信号をグリッドへの入力信号とし、アノードから出力信号を得る第1真空管増幅部と、
熱電子を放出するフィラメントを有し、前記第2バイアス付加入力信号をグリッドへの入力信号とし、アノードから出力信号を得る第2真空管増幅部と、
前記第1真空管増幅部の出力信号と前記第2真空管増幅部の出力信号との差分を増幅する差動増幅部、
を備える真空管アンプ。
【請求項2】
請求項1記載の真空管アンプであって、
前記バイアス生成部は、前記第1入力信号の振幅が大きいほど、低いバイアス電圧を生成する
ことを特徴とする真空管アンプ。
【請求項3】
請求項1または2記載の真空管アンプであって、
前記バイアス生成部は、前記第1入力信号または前記第2入力信号を整流して平滑化した電圧とあらかじめ定めた電圧から、前記バイアス電圧を生成する
ことを特徴とする真空管アンプ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の真空管アンプであって、
さらに、位相反転部も備え、
前記位相反転部は、前記第1入力信号から前記第2入力信号を生成する
ことを特徴とする真空管アンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空管を用いた音響用増幅器である真空管アンプに関する。
【背景技術】
【0002】
真空管の特性を好むユーザが依然存在している。そのような背景から、真空管アンプ用の真空管として、特許文献1などに示された技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−134299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術は、安価に入手できる蛍光表示管に近い構造でありながら、音響用に用いることのできる真空管に関する技術である。真空管としての特性を有しているが、より従来の真空管に近い特性が求められていた。
【0005】
本発明は、より従来の真空管に近い特性の真空管アンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の真空管アンプは、第1入力信号と第1入力信号と位相が反転している第2入力信号から出力信号を生成する。本発明の真空管アンプは、バイアス生成部、第1合成部、第2合成部、第1真空管増幅部、第2真空管増幅部、差動増幅部を備える。バイアス生成部は、第1入力信号の振幅が大きいほど、第1入力信号が無いときからの変化が大きいバイアス電圧を生成する。第1合成部は、第1入力信号とバイアス電圧を合成し、第1バイアス付加入力信号を生成する。第2合成部は、第2入力信号とバイアス電圧を合成し、第2バイアス付加入力信号を生成する。第1真空管増幅部は、熱電子を放出するフィラメントを有し、第1バイアス付加入力信号をグリッドへの入力信号とし、アノードから出力信号を得る。第2真空管増幅部は、熱電子を放出するフィラメントを有し、第2バイアス付加入力信号をグリッドへの入力信号とし、アノードから出力信号を得る。差動増幅部は、第1真空管増幅部の出力信号と第2真空管増幅部の出力信号との差分を増幅する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の真空管アンプによれば、入力信号の振幅が大きいほどバイアス電圧を大きく変化させるので、入力信号の振幅が大きいほど第1真空管増幅部と第2真空管増幅部の出力が飽和状態になりやすくなり、十分な増幅を得にくくなる。したがって、従来の真空管に近い特性にできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の真空管アンプの構成例を示す図。
図2】位相反転部の具体例を示す図。
図3】バイアス生成部の具体例を示す図。
図4】合成部の具体例を示す図。
図5】真空管増幅部の具体例を示す図。
図6】差動増幅部の具体例を示す図。
図7】本発明の真空管アンプでの信号の様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0010】
図1に本発明の真空管アンプの構成例を示す。真空管アンプ100は、第1入力信号sと第1入力信号sと位相が反転している第2入力信号sから出力信号Sを生成する。真空管アンプ100は、バイアス生成部120、(第1)合成部130−1、(第2)合成部130−2、(第1)真空管増幅部140−1、(第2)真空管増幅部140−2、差動増幅部150を備える。真空管アンプ100は、第1入力信号sと第2入力信号sを入力としてもよいし、第1入力信号sのみを入力とし、位相反転部110も備えてもよい。位相反転部110は、第1入力信号sから第2入力信号sを生成する。例えば、位相反転部110は、図2に示すようにオペアンプ111、抵抗112,113で反転増幅器を構成すればよい。増幅率が1で反転させれば、端子110inに第1入力信号sを入力すると、端子110outから第2入力信号sが出力される。
【0011】
バイアス生成部120は、第1入力信号sの振幅が大きいほど、第1入力信号sが無いときからの変化が大きいバイアス電圧を生成する。例えば、バイアス生成部120は、第1入力信号sまたは第2入力信号sを整流して平滑化した電圧とあらかじめ定めた電圧からバイアス電圧vを生成すれば、第1入力信号sの振幅が大きいほど第1入力信号sが無いときに比べたバイアス電圧vの変化を大きくできる。より具体的には、図3のように構成すればよい。図3の例では、バイアス生成部120は、ダイオード121、抵抗122,124,126,128−1〜3、コンデンサ123,127、オペアンプ125で構成されている。ダイオード121は、端子120inに入力された第1入力信号sを整流する。抵抗122とコンデンサ123はローパスフィルタとして機能し、整流された第1入力信号sを平滑化する。ノード120の電圧は、第1入力信号sを整流して平滑化した電圧となる。なお、端子110inに第2入力信号sを入力してもよい。オペアンプ125、抵抗124,126、コンデンサ127で積分回路(ローパスフィルタ)が構成される。オペアンプ125の+入力側に接続される端子120bbには、あらかじめ定めた電圧Vbbが接続される。この積分回路は、第1入力信号sまたは第2入力信号sを整流して平滑化した電圧とあらかじめ定めた電圧Vbbとを入力とし、バイアス電圧vを生成する。そして、端子120outからバイアス電圧vが出力される。このような構成なので、バイアス生成部120は、第1入力信号の振幅が大きいほど低いバイアス電圧を生成する。図5に示された真空管増幅部140−1,140−2の構成の場合、バイアス電圧が低い方が消費電力は小さいので、この例では、第1入力信号の振幅が大きいほど低いバイアス電圧を生成した。しかし、第1入力信号の振幅が大きいほど高いバイアス電圧を生成しても、本発明の効果は得られる。なお、電源電圧+Vccと接地との間に直列に接続された抵抗128−1〜3は、真空管増幅部140−1,140−2の個体差を考慮して、バイアス電圧vを調整する部分である。例えば工場出荷時に調整しておけばよい。
【0012】
合成部130−1は、第1入力信号sとバイアス電圧vを合成し、第1バイアス付加入力信号vを生成する。合成部130−2は、第2入力信号sとバイアス電圧vを合成し、第2バイアス付加入力信号vを生成する。図4に、合成部130−1(130−2)の具体例を示す。合成部130−1(130−2)は、コンデンサ131、抵抗132,133を備えればよい。合成部130−1の場合は、端子130inから第1入力信号sが入力され、端子130からバイアス電圧vが入力される。コンデンサ131は、第1入力信号sの交流成分のみを透過する。そして、抵抗132,133によって第1入力信号sの交流成分とバイアス電圧vが合成され、端子130outから第1バイアス付加入力信号vが出力される。合成部130−2の場合は、端子130inから第2入力信号sが入力され、端子130outから第2バイアス付加入力信号vが出力される。抵抗132,133の値は、真空管増幅部140−1,140−2の特性などを考慮し、合成部130−1と合成部130−2とで異なる値としてもよいし、可変抵抗などを用いて工場出荷時などに調整できるようにしてもよい。
【0013】
真空管増幅部140−1は、熱電子を放出するフィラメント142−1を有し、第1バイアス付加入力信号vをグリッド143−1への入力信号とし、アノード144−1から出力信号Vを得る。真空管増幅部140−2は、熱電子を放出するフィラメントを有し、第2バイアス付加入力信号をグリッドへの入力信号とし、アノードから出力信号を得る。図5に真空管増幅部140−1,140−2の具体例を示す。真空管増幅部140−1,140−2は、例えば、特許文献1に示された真空管141を用いればよい。特許文献1に示された真空管141には、所定以上の温度で熱電子を放出する直線状に張られたフィラメント142−1,142−2と、2組のグリッド143−1,143−2とアノード144−1,144−2を有する。端子140−1,140−2に、直流電圧源+V(例えば0.7V)が接続され、端子140は接地されることで、フィラメント142−1,142−2は、熱電子を放出する所定の温度(例えば650度)まで加熱される。端子140−1,140−2には電源電圧+Vccが接続され、アノード144−1,144−2には抵抗145−1,145−2を介しては電源電圧+Vccが接続される。そして、アノード144−1からはグリッド143−1に入力される第1バイアス付加入力信号vに応じた出力信号Vが出力され、アノード144−2からはグリッド143−2に入力される第2バイアス付加入力信号vに応じた出力信号Vが出力される。なお、図5の構成の場合、第1バイアス付加入力信号vと出力信号Vの位相は反転し、第2バイアス付加入力信号vと出力信号Vの位相は反転する。また、入力信号の振幅が大きいほどバイアス電圧を大きく変化させるので、振幅が大きい入力信号の場合に第1真空管増幅部と第2真空管増幅部の出力が飽和状態になりやすくなり、十分な増幅を得にくくなる。さらに、図5のように1つの真空管で2回路を構成すれば2つの回路の特性を近くしやすい。
【0014】
差動増幅部150は、真空管増幅部140−1の出力信号Vと真空管増幅部140−2の出力信号Vとの差分を増幅する。例えば、差動増幅部150は、図6に示した構成にすればよい。図6の例では、差動増幅部150は、コンデンサ151−1,151−2、オペアンプ153、抵抗152−1,152−2,154,155で構成されている。真空管増幅部140−1の出力信号Vは端子150in−1から入力され、真空管増幅部140−2の出力信号Vは端子150in−2から入力される。コンデンサ151−1,151−2は、出力信号Vと出力信号Vの交流成分のみを透過する。オペアンプ153、抵抗152−1,152−2,154,155で差動増幅器が構成されており、端子150outから出力信号Sが出力される。
【0015】
図7に本発明の真空管アンプでの信号の様子を示す。(A)は第1入力信号sの振幅が小さい場合、(B)は第1入力信号sの振幅が大きい場合であってバイアス生成部が第1入力信号の振幅が大きいほど低いバイアス電圧を生成するとき、(C)は第1入力信号sの振幅が大きい場合であってバイアス生成部が第1入力信号の振幅が大きいほど高いバイアス電圧を生成するときの例を示している。どの図でも、第1入力信号sと第2入力信号sは位相が反転している。(A)のバイアス電圧vは第1入力信号sが無いときに近いバイアス電圧であり、(B)のバイアス電圧vは低く、(C)のバイアス電圧vは高くなっていることが分かる。なお、バイアス生成部120の設計では、第1入力信号sが無いときのバイアス電圧vが真空管増幅部140−1,140−2の歪が小さくなるバイアス電圧になるように設計すればよい。第1バイアス付加入力信号vは第1入力信号sとバイアス電圧vを合成した信号であり、第2バイアス付加入力信号vは第2入力信号sとバイアス電圧vを合成した信号である。真空管増幅部140−1の出力信号Vと真空管増幅部140−2の出力信号Vは、第1バイアス付加入力信号vと第2バイアス付加入力信号vとは位相が反転している。また、(B),(C)では、真空管増幅部140−1,140−2が飽和状態になるために出力信号V,Vが歪む。したがって、差動増幅部150の出力Sは、(A)の場合は歪んでいないが、(B),(C)の場合は歪んでいる。なお、図2から6には回路の具体例を示したが、図7に示したような信号が得られれば、他の回路構成でも構わない。
【0016】
このように、本発明の真空管アンプによれば、入力信号の振幅が大きいほどバイアス電圧を大きく変化させる。したがって、入力信号の振幅が小さいときには歪の少ない増幅ができ、入力信号の振幅が大きいときには第1真空管増幅部と第2真空管増幅部の出力が飽和状態になりやすくなり、十分な増幅を得にくくなる。よって、従来の真空管に近い特性にできる。特に、ギターアンプとして好まれる特性にできる。
【符号の説明】
【0017】
100 真空管アンプ 110 位相反転部
120 バイアス生成部 130 合成部
140 真空管増幅部 150 差動増幅部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7