【実施例】
【0026】
以下に実施例を挙げて、本発明を説明する。なお、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)バニリン耐性を指標とした変異株の取得
キャンディダ・ユティリスNBRC0988株を親株に用いて、以下の方法により、変異株の取得を行った。
当該親株を、YM培地(0.3%酵母エキス、0.3%麦芽エキス、0.5%カゼインペプトン、1%グルコース、2%寒天)を含むフラスコにて1昼夜培養した。培養した菌体を回収し、1000ppmまたは1500ppmのバニリンを含む、グルコースを唯一の炭素源とした寒天培地に播種し、紫外線照射(UVランプ:Panasonic GL−15、波長253.7nm)により、致死率70−80%となるような条件で変異処理を行った。変異処理した寒天培地を1500ppmのバニリン含有培地で3〜7昼夜30℃で培養し、耐性株のコロニー形成を確認した。
【0028】
NBRC0988株より得られた100株の耐性株を、40mLのYM培地を含む500mLフラスコで培養し、得られた菌体培養液酵母を培養して得られた培養液から、乾燥菌体重量が10〜15%となるように遠心分離で菌体を濃縮した後、50±10℃に加温し、pH2.0〜3.5となるよう塩酸を添加して加熱処理を行った。遠心分離上清を除き、沈殿物に対して水を加えて、もとの培養液の15%量にけん濁液を調製した。けん濁液に30%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH6.5〜7.0に中和した後、食塩を4%となるよう添加し、90±5℃にて加熱処理した。得られた加熱処理物を遠心分離に供し、上清を回収した。沈殿物に対して、加熱処理液と等量の水を加えて再けん濁させ、再度遠心分離に供して上清を回収した。回収した上清をあわせることで、RNA抽出液を取得した。
【0029】
得られたRNA抽出液を適当に希釈し、ゲル浸潤高圧液体クロマトグラフィー(以下GPC−HPLC)に供した。HPLCカラムにはTSKgel G3000PW
XLを、移動層として7M 尿素・50mM Tris−HCl(pH7.5)溶液を用いた。高分子領域における260nm紫外光吸収物質を検出する。あらかじめシュミット・タンホイザー・シュナイダーの方法[J.Biol.Chem.1946、164、747](以下STS法)により定量しておいたRNA溶液を同様の分析に供することで、その紫外吸収ピーク面積から、抽出液中のRNA量を定量した。
上記方法によって、取得された変異株のRNA収量を算出し、RNA収量が親株に比べて高い株を選抜した。
【0030】
本実施例1の結果、親株であるNBRC0988株から、収量が1.10倍以上に向上した株を14株取得した。
【0031】
(実施例2)公知のスクリーニング方法との比較
本発明の方法と、公知のRNA高収量を示す変異株取得方法とを比較した。比較対象として、KCl法、ラパマイシン法を選択した。
KCl法及びラパマイシン法については、それぞれ非特許文献1又は特許文献1に記載の方法に従って変異株取得を行った。KCl法では680株のKCl耐性変異株を、ラパマイシン法では560株のラパマイシン耐性変異株を取得した。
【0032】
NBRC0988株より得られた各耐性変異株を、40mLのYM培地を含む500mLフラスコで培養し、得られた菌体培養液酵母を培養して得られた培養液から、乾燥菌体重量が10〜15%となるように遠心分離で菌体を濃縮した後、50±10℃に加温し、pH2.0〜3.5となるよう塩酸を添加して加熱処理を行った。遠心分離上清を除き、沈殿物に対して水を加えて、もとの培養液の15%量にけん濁液を調製した。けん濁液に30%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH6.5〜7.0に中和した後、食塩を4%となるよう添加し、90±5℃にて加熱処理した。得られた加熱処理物を遠心分離に供し、上清を回収した。沈殿物に対して、加熱処理液と等量の水を加えて再けん濁させ、再度遠心分離に供して上清を回収した。回収した上清をあわせることで、RNA抽出液を取得した。
【0033】
得られたRNA抽出液を適当に希釈し、ゲル浸潤高圧液体クロマトグラフィー(以下GPC−HPLC)に供した。HPLCカラムにはTSKgel G3000PW
XLを、移動層として7M 尿素・50mM Tris−HCl(pH7.5)溶液を用いた。高分子領域における260nm紫外光吸収物質を検出する。あらかじめシュミット・タンホイザー・シュナイダーの方法[J.Biol.Chem.1946、164、747](以下STS法)により定量しておいたRNA溶液を同様の分析に供することで、その紫外吸収ピーク面積から、抽出液中のRNA量を定量した。
上記方法によって、実施例1と同様それぞれ取得された変異株のRNA収量を算出し、RNA収量が親株に比べて高い株を選抜した。
【0034】
上記の各変異株取得方法を用いてRNA高収量を示す変異株を選抜した結果を、表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
KCl法では、取得した680株の中に、RNA収量が親株の1.10倍以上に向上した株は存在しなかった。
ラパマイシン法では、取得した560株の中に、RNA収量が親株の1.10倍以上に向上した株が3株存在した。
【0037】
以上の結果から、本発明の方法は、RNA高収量を示す酵母変異株を、公知のRNA高含量を示す株の取得方法であるKCl法及びラパマイシン法の10倍以上の効率で取得できることが明らかになった。
【0038】
(実施例3)本願発明により取得された変異株を用いた工業的RNA生産検討
工業的RNA生産を行う際には、小スケールにおいてはRNA高収量を示すが、スケールアップを行った際にはRNA収量が低下する株が見出され、しばしば問題となる。
そこで、本実施例3においては、実施例1で取得した変異株を用いた工業的なRNA生産の実現可能性を検討するために、培養をスケールアップし、ファーメンターを用いて回分培養を行った。
【0039】
検討には、実施例1にて取得したRNA高収量変異株であるNV−9(実施例1におけるRNA収量:親株比1.11倍)と、NV−42(実施例1におけるRNA収量:親株比1.16倍)と、NV−46(実施例1におけるRNA収量:親株比1.12倍)の3株を用いた。上記3株をあらかじめフラスコ内で種培養しておき、3Lファーメンターへ植菌して回分培養を行った。
培地組成は4.2%グルコース、0.2%塩化カリウム、600ppm 硫酸マグネシウム・7水和物、8.3ppm 塩化鉄(III)・6水和物、6.3ppm 塩化マンガン4水和物、0.5ppm 硫酸銅・5水和物、10ppm硫酸亜鉛・7水和物、2.2g/L リン酸一アンモニウム、 5g/L 硫酸アンモニウム、0.025% Adekanol LG−109とした。培養条件は、培地液量1.5L、液温30℃、攪拌回転速度1000rpm、通気1.3vvmとし、溶存酸素量が0.2mg/Lを下回らないように、状況に応じて酸素ガスを通気した。また、pH3.2以上を維持するように14%のアンモニア水を滴下し、pHを維持した。
得られた培養液から、前述の方法によってRNA抽出液を得て、RNA収量を算出した。
【0040】
本実施例の結果、それぞれの菌株培養液より得られた抽出液中の、親株RNA収量に対する変異株RNA収量比は、表2のとおりであった。
【0041】
【表2】
【0042】
本発明によりNBRC0988株から得られた3株は、いずれも安定して、小スケールと同等の親株比1.10倍以上のRNA高収量を示した。
本実施例の結果から、本発明によって選抜された変異株は、ファーメンター培養においても、安定してRNA高収量を示すことが明らかとなった。