(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886198
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】毛玉取り器
(51)【国際特許分類】
D06C 13/00 20060101AFI20210603BHJP
B26B 19/16 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
D06C13/00 B
B26B19/16
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-123052(P2019-123052)
(22)【出願日】2019年7月1日
(65)【公開番号】特開2021-8694(P2021-8694A)
(43)【公開日】2021年1月28日
【審査請求日】2020年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】397039322
【氏名又は名称】エヌケーグループ販売株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】大杉 泰啓
【審査官】
鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4369897(JP,B2)
【文献】
実開平04−034857(JP,U)
【文献】
特開2011−178251(JP,A)
【文献】
特開2003−299598(JP,A)
【文献】
実開昭56−131169(JP,U)
【文献】
特開平6−327853(JP,A)
【文献】
特開2001−113062(JP,A)
【文献】
特開2010−172353(JP,A)
【文献】
実開平5−88477(JP,U)
【文献】
特開平5−146565(JP,A)
【文献】
中国実用新案第203890699(CN,U)
【文献】
中国実用新案第209537843(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B1/00−23/30
D06C3/00−29/00
D06G1/00−5/00
D06H1/00−7/24
D06J1/00−1/12
B26B19/00−19/48
B26D1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周面に吸気口が開設された円筒形のハウジングと、前記吸気口に沿わせて取り付けられた固定刃と、先端部に切刃を保持する複数枚の羽根板を有し、前記吸気口からの吸気の作用により前記ハウジングの内部で回転する回転刃とを備える毛玉取り器において、
前記切刃は、前記羽根板の夫々の先端縁に設けた保持溝に差し込み、各羽根板の両側に設けた嵌合部に嵌合固定された止め輪により抜け止めしてあり、
前記止め輪は、前記嵌合部の外径よりも大きい内径を有する大径部と、該大径部に連続し前記嵌合部の外径よりも小さい内径を有する小径部とを前記羽根板と同数組備え、各組の大径部を各羽根板の嵌合部の夫々に嵌め合わせて一方向に回転させ、前記小径部を前記嵌合部に食い込ませて固定されている毛玉取り器。
【請求項2】
前記止め輪の固定時の回転方向は、前記回転刃の回転方向と逆向きである請求項1に記載の毛玉取り器。
【請求項3】
前記止め輪は、回転操作用の治具を係合させる係合部を備える請求項1又は請求項2に記載の毛玉取り器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維製品の表面に生成された毛玉を切断、除去すべく用いられる毛玉取り器に関する。
【背景技術】
【0002】
衣服、絨毯等の繊維製品においては、製造中又は使用中に加えられる摩擦の作用により表面の繊維が縒り固められて毛玉が生成され、見栄えを損なうという問題がある。特許文献1には、このような毛玉を切断、除去すべく用いられる毛玉取り器(回転切断装置)が開示されている。
【0003】
この毛玉取り器は、円筒形のハウジングの内部で軸回りに回転する回転刃と、前記ハウジングの周面に開口する吸気口に沿わせて取り付けられた薄肉板状の固定刃とを備えている。回転刃は、回転周上に並ぶ複数枚の羽根板を有し、吸気口に吸い込まれる吸気の作用により回転する羽根車としてあり、夫々の羽根板の先端部に切刃が保持されている。固定刃には、夫々の周縁に刃部を備える複数の貫通孔(刃孔)が縦横に並設されている。
【0004】
以上の構成を有する毛玉取り器は、毛玉が生成された繊維製品の表面にハウジングの吸気口を対向させて使用される。毛玉は、吸気口に吸い込まれる吸気の作用により刃孔を通して固定刃の内側に引き込まれ、回転刃の回転周上において各刃孔に摺接する切刃の作用により切断、除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4369897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された毛玉取り器において、切刃は、複数枚の羽根板夫々の先端縁に設けた保持溝に差し込み、各羽根板の両側に同一円周上に連続するように設けた嵌合部に嵌合固定された止め輪により抜け止めして保持されている。切刃は、夫々の保持溝の内部で変位することで固定刃の内面に隙間なく摺接し、毛玉を確実に切断することができる。また切刃は、損耗時に止め輪を外して交換することができる。
【0007】
しかしながら、切刃を抜け止めする止め輪は、使用中に加わる振動、外力の作用により緩む虞があり、切刃の保持が損なわれることが懸念される。止め輪の緩みは、嵌合強さを高めることで緩和されるが、組み立て時の止め輪の取り付け、及び切刃の交換時の止め輪の取り外しが難しい。
【0008】
本開示の目的は、回転刃における切刃の保持構造の改良により、切刃の確実な保持と交換の容易さとを両立させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る毛玉取り器は、周面に吸気口が開設された円筒形のハウジングと、前記吸気口に沿わせて取り付けられた固定刃と、先端部に切刃を保持する複数枚の羽根板を有し、前記吸気口からの吸気の作用により前記ハウジングの内部で回転する回転刃とを備える毛玉取り器において、前記切刃は、前記羽根板の夫々の先端縁に設けた保持溝に差し込み、各羽根板の両側に設けた嵌合部に嵌合固定された止め輪により抜け止めしてあり、前記止め輪は、前記嵌合部の外径よりも大きい内径を有する大径部と、該大径部に連続し前記嵌合部の外径よりも小さい内径を有する小径部とを前記羽根板と同数組備え、各組の大径部を各羽根板の嵌合部の夫々に嵌め合わせて一方向に回転させ、前記小径部を前記嵌合部に食い込ませて固定されている。
【0010】
止め輪は、各羽根板に設けた嵌合部に大径部を嵌め合わせて一方向に回転させる。大径部の一側には、小径部が連続している。小径部の内径は嵌合部の外径よりも小さい。止め輪は、小径部を嵌合部に食い込ませた状態で固定され、振動、外力の作用によっても緩み難く、切刃は確実に保持される。止め輪は、他方向に回転させ、大径部を嵌合部に合わせた位置で容易に取り外すことができ、損耗した切刃の交換に対応し得る。
【0011】
また、前記止め輪の固定時の回転方向は、前記回転刃の回転方向と逆向きである。
【0012】
回転刃の回転開始時に止め輪に加わる慣性力は、固定時の回転方向と同向きとなり、この慣性力による止め輪の緩みを防止することができる。
【0013】
更に、前記止め輪は、回転操作用の治具を係合させる係合部を備える。
【0014】
止め輪は、係合部に係合させた治具を用いて回転操作することができ、取り付け及び取外しが容易となる。係合部は、止め輪の側面又は周面に設けた突起、切欠き又は孔であってよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、止め輪の着脱が容易であり、切刃を確実に保持することができ、また損耗した切刃の交換を容易に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態に係る毛玉取り器の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、実施の形態に係る毛玉取り器の側断面図である。図示の如く毛玉取り器は、回転刃1と、該回転刃1を収容するハウジング2と、板状をなす固定刃3とを備えている。
【0018】
回転刃1は、回転軸10が嵌着されたボス部11と、該ボス部11から放射状に延びる複数枚(図においては6枚)の羽根板12、12…とを備え、回転軸10を中心として回転する樹脂製の羽根車として構成されている。夫々の羽根板12、12…の先端部には、各1枚の切刃13、13…が保持され、また夫々の羽根板12、12…の間には、重錘板14、14…が取り付けてある。
【0019】
図2は、回転刃1の外観斜視図である。本図に示す如く羽根板12、12…の夫々は、径方向外向きに延びる脚部12aと、夫々の脚部12aの先端に連続し、周方向の一側に向けて傾く傾斜部12bとを備えている。夫々の傾斜部12bには、切刃13を保持するための保持溝12cが設けられている。保持溝12cは、傾斜部12bの先端縁に全幅に亘って開口する細幅の溝である。また傾斜部12bには、両側縁を適幅に切り欠き、各羽根板12間で同一円周上に連続する嵌合部12d、12dが形成されている。
【0020】
図2には、1枚の切刃13が示されている。切刃13は、薄肉の金属板であり、羽根板12の傾斜部12bと略同幅の基部13aと、該基部13aに連続し、一側に屈曲された刃部13bとを備えている。基部13aの両側には、鍔部13c、13cが外向きに突設されている。
【0021】
切刃13は、
図2中に矢符により示すように、羽根板12の保持溝12cに基部13aを差し込み、両側の嵌合部12d、12dに各羽根板12、12…間に掛け渡すように止め輪4を嵌め合わせて保持されている。
図1には、一側の嵌合部12dに嵌め合わせた止め輪4が図示されている。このように保持された切刃13は、夫々の保持溝12cに沿って変位可能であり、止め輪4は、変位する切刃13の保持溝12cからの抜け出しを、鍔部13cに当接することで規制する抜け止め機能を果たす。止め輪4の構成及び嵌め合わせ手順は後述する。
【0022】
重錘板14は、適宜の曲率にて湾曲する金属製の板である。
図2に示すようにボス部11の外側には、各羽根板12、12…間の幅方向中央部に固定座15、15…が設けられている。固定座15は、ボス部11の径方向と直交する座面を有している。重錘板14は、湾曲方向を羽根板12における傾斜部12bの傾き方向と同向きとして夫々の固定座15の座面に固定されている。
【0023】
回転刃1を収容するハウジング2は、羽根板12、12…に夫々保持された切刃13、13…を含めて回転刃1の受容が可能な内径を有する円筒形の中空容器である。
図1に示すようにハウジング2の周壁には、外気を吸気するための吸気口20及び補助吸気口21が周方向に隣り合わせて開設されている。またハウジング2には、吸気口20及び補助吸気口21から離れた位置に、例えば、掃除機の吸塵パイプ等の吸気源への接続のための接続管22が一体に連設されている。
【0024】
固定刃3は、ホルダ5に保持され、吸気口20の開設位置を覆うようにハウジング2に取り付けられている。
図3は、固定刃3及びホルダ5の外観斜視図である。固定刃3は、薄肉の矩形板状をなし、縦横に並ぶ多数の刃孔30、30…を略全面に亘って備え、刃孔30、30…の並設域の両側に夫々の側の端縁に沿って並ぶ係止孔31、31…を備えている。刃孔30及び係止孔31は、固定刃3を厚さ方向に貫通する貫通孔であり、刃孔30は、周縁に刃部を備えている。
【0025】
ホルダ5は、ハウジング2の外形に対応する曲率を有する一対の湾曲部の両端を直線状の連絡部で連絡して構成された矩形の枠体であり、一側の連絡部には、複数の掛け止め突起50、50…が並設されている。掛け止め突起50、50…の並設数及び並設間隔は、固定刃3の係止孔31、31…の並設数及び並設間隔に対応している。固定刃3は、一側の係止孔31、31…を掛け止め突起50、50…に掛け止め、
図3に示すようにホルダ5に保持される。
【0026】
ホルダ5は、
図1に示す如く、吸気口20の開設位置を覆うように固定される。ホルダ5に保持された固定刃3は、弾性に富む金属製であり、ホルダ5の固定により、ハウジング2の内面に突設された押えリブ23に押されて湾曲し、
図1に示すように、吸気口20の内側に適長離れて対向し、回転刃1の羽根板12、12…に保持された切刃13、13…の回転周上に位置する。
【0027】
以上の如く構成された毛玉取り器は、例えば、掃除機の吸塵パイプにハウジング2の接続管22を接続し、掃除機の運転により、
図1中に白抜矢符により示す如く、接続管22中に吸気を生じさせる一方、ハウジング2に開設された吸気口20を、毛玉が生成された繊維製品の表面に当てて使用される。
【0028】
ハウジング2の内部は、周壁に開設された吸気口20及び補助吸気口21を介して外部に連通しており、前述した吸気が生じた場合、ハウジング2の内部には、
図1中に矢符により示す如く、吸気口20及び補助吸気口21を経て外気が吸気される。この吸気は、ハウジング2の内部に支持された回転刃1の羽根板12、12…に当り、該回転刃1は、吸気の作用により回転する。回転刃1の回転方向は、
図1中に矢符により示す如く、羽根板12の傾き方向と逆向きである。
【0029】
回転刃1に固定された重錘板14は、回転刃1の回転慣性を高め、吸気の作用による回転を安定的に行わせる作用をなす。この重錘板14は、羽根板12の傾き方向と同向きに湾曲しており、吸気を受けて補助的な回転力を発生する機能も果たす。
【0030】
吸気口20の内側には、固定刃3が位置しており、吸気口20に当てられた繊維製品の表面に生成された毛玉は、固定刃3の各刃孔30、30…からハウジング2の内部に引き込まれる。ハウジング2の内部では、回転刃1が回転しており、複数の羽根板12、12…の先端に取り付けた切刃13、13…が固定刃3の内面に順次摺接するから、各刃孔30、30…から引き込まれる毛玉は、刃孔30、30…と切刃13との相乗作用により切断される。このように切断される毛玉は、吸気と共に接続管22を経て吸塵パイプに吸込まれ、掃除機の集塵部に回収される。
【0031】
切刃13は、前述の如く夫々の保持溝12cに沿って変位可能である。固定刃3は、回転刃1の回転方向上流側で掛け止め突起50、50…への掛け止めしてあり、ホルダ5と押えリブ23との間で変位可能である。切刃13と固定刃3とは、夫々の変位により良好に摺接し、摺接部での毛玉の切断を確実に行わせることができる。
【0032】
図4は、止め輪4の平面図、
図5は、止め輪4の取り付け手順の説明図である。止め輪4は、適宜の厚さを有する金属材料製のリングであり、大径部40及び小径部41を、回転刃1の羽根板12と同数組(6組)備えている。大径部40と小径部41とは、内径が異なり、大径部40の内径D
0 は、止め輪4が嵌め合わされる回転刃1の嵌合部12dの外径d(
図5参照)よりも大きく、小径部41の内径D
1 は、嵌合部12dの外径dよりも小さい。
【0033】
小径部41は、同じ組の大径部40の周方向一側に傾斜部を介して連続する。大径部40の他側には、相隣する組の小径部41が位置するが、これらの間は、止め輪4の内周面に内向きに突設されたストッパ片42により仕切ってある。ストッパ片42は、止め輪4の周方向に等配されており、夫々のストッパ片42には、突出端部の中央を切り欠くことにより、回転操作用の治具を係合させるための係合部43が形成されている。
【0034】
以上の如く構成された止め輪4は、
図5に示す如く、各組の大径部40を周方向に位置合わせして羽根板12の嵌合部12dに嵌め合わせる。大径部40の内径D
0 は、嵌合部12dの外径dよりも大きく、止め輪4は容易に嵌め合わせることができる。大径部40の内径D
0 は、嵌合部12dの外径dよりも大きいという条件下で適宜に設定すればよく、更に、周方向に連続的又は段階的に変更してもよい。
【0035】
この嵌め合わせの後、止め輪4は、
図5中に白抜矢符に示す向きに回転操作され、大径部40に連続する小径部41が嵌合部12dに嵌合する。小径部41の内径D
1 は、嵌合部12dの外径dよりも小さく、止め輪4は、小径部41を嵌合部12dに食い込ませ、
図1に示すように強固に固定される。従って止め輪4は、前述した使用中に加わる振動、外力の作用によっても緩み難く、切刃13の保持状態を良好に維持することができる。
【0036】
小径部41の内径D
1 と嵌合部12dの外径dとの寸法差は、止め輪4及び回転刃1の材料の組み合わせに応じて適正に設定される。また小径部41の内径D
1 は、周方向に連続的又は段階的に変更してもよい。
【0037】
止め輪4の回転操作は、ストッパ片42に設けた係合部43に係合可能な専用の治具を用いることにより容易に実施し得る。止め輪4は、
図1に示す如く、羽根板12にストッパ片42が当たるまで回転操作することで確実に固定される。ストッパ片42は、止め輪4の過剰な回転操作を防止する作用をなす。係合部43は、図示のようにストッパ片42に設けた切欠きに限らず、治具の係合が可能な突起又は孔であってもよく、止め輪4の適宜位置に設けることができる。
【0038】
図5に示す止め輪4の回転操作の方向は、
図1に示す回転刃1の回転方向と逆方向である。止め輪4には、回転刃1の回転開始時に固定時の回転操作の方向と同向きの慣性力が加わり、この慣性力による止め輪4の緩みを防止することができる。
【0039】
止め輪4は、取り付け時と逆方向に回転操作し、羽根板12の嵌合部12dに大径部40を合わせた位置で容易に取り外すことができる。前述した使用により損耗した切刃13は、止め輪4を外した後に保持溝12cから抜き出し、新しい切刃13に交換することができる。
【0040】
なお、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等な意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0041】
1 回転刃
2 ハウジング
3 固定刃
4 止め輪
12 羽根板
12c 保持溝
12d 嵌合部
13 切刃
20 吸気口
30 刃孔
40 大径部
41 小径部
43 係合部