(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記アントラキノン系化合物は溶剤溶解性が低いため、前記アントラキノン系化合物を用いて得られたインクは色ムラが発生し易いことが問題であった。
【0006】
従って、本発明の目的は、740〜800nm付近に吸光極大を有し、且つ溶剤溶解性に優れるアントラキノン系化合物を提供することにある。
本発明の他の目的は、740〜800nm付近に吸光極大を有し、且つ溶剤溶解性に優れるアントラキノン系化合物の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、溶剤溶解性に優れる近赤外線吸収剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物(以後、「本発明のアントラキノン系化合物」と称する場合がある)は、740〜800nm付近に吸光極大を有し、且つ溶剤溶解性に優れることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される化合物を提供する。
【化1】
[式(1)中、R
1〜R
4のうち、R
1とR
4は同一又は異なって下記式(r1)で表される基を示し、R
2とR
3は同一又は異なって下記式(r2)で表される基を示す、又は、R
1とR
3は同一又は異なって下記式(r1)で表される基を示し、R
2とR
4は同一又は異なって下記式(r2)で表される基を示す。尚、下記式(r1)、(r2)の波線が付された結合手が、式(1)中の窒素原子に結合する]
【化2】
(式(r1)中、R
11〜R
13は、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す)
(式(r2)中、R
14は炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基を示す。nは0〜5の整数を示し、nが2〜5の整数の場合、2〜5個のR
14はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、n=3且つ、R
14の結合位置が2位、4位、及び6位である場合は含まれない)
【0009】
本発明は、また、式(r2)で示される基が、下記式(r2’)で示される基である前記化合物を提供する。
【化3】
(式(r2’)中、R
14は炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基を示す)
【0010】
本発明は、また、下記式(2A)又は(2B)
【化4】
[式中、R
aは同一又は異なって下記式(r1)
【化5】
(式(r1)中、R
11〜R
13は、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す)
で表される基を示す]
で表される化合物をハロゲン化して、下記式(3A)又は(3B)
【化6】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。R
aは上記に同じ]
で表される化合物を生成させ、生成した上記式(3A)又は(3B)で表される化合物に、下記式(4)
【化7】
(式(4)中、R
14は炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基を示す。nは0〜5の整数を示し、nが2〜5の整数の場合、2〜5個のR
14はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、n=3且つ、R
14の結合位置が2位、4位、及び6位である場合は含まれない)
で表される化合物を反応させて、前記式(1)で表される化合物を製造する、化合物の製造方法を提供する。
【0011】
本発明は、また、前記化合物を含む近赤外線吸収剤を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアントラキノン系化合物は、特定の置換基を備えるアニリンが、アントラキノンの特定の部位に結合した構造を有する。そのため、740〜800nm付近に吸光極大を有し、且つ溶剤溶解性に優れる。
また、前記アントラキノン系化合物は、本発明の製造方法により選択的に且つ収率良く製造することができる。
そして、前記アントラキノン系化合物を溶剤に溶解して得られるインクを、基材に塗布すれば、ムラのない着色層を形成することができる。また、前記アントラキノン系化合物を溶剤に溶解したものを熱可塑性樹脂等に配合して成形すれば、ムラのない色相の基板やフィルム等を製造することができる。
従って、前記アントラキノン系化合物は、近赤外線吸収性能の付与が求められる部材の製造に際して、溶剤溶解性に優れる近赤外線吸収剤として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[アントラキノン系化合物]
本発明のアントラキノン系化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【化8】
[式(1)中、R
1〜R
4のうち、R
1とR
4は同一又は異なって下記式(r1)で表される基を示し、R
2とR
3は同一又は異なって下記式(r2)で表される基を示す、又は、R
1とR
3は同一又は異なって下記式(r1)で表される基を示し、R
2とR
4は同一又は異なって下記式(r2)で表される基を示す。尚、下記式(r1)、(r2)の波線が付された結合手が、式(1)中の窒素原子に結合する]
【化9】
(式(r1)中、R
11〜R
13は、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す)
(式(r2)中、R
14は炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基を示す。nは0〜5の整数を示し、nが2〜5の整数の場合、2〜5個のR
14はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、n=3且つ、R
14の結合位置が2位、4位、及び6位である場合は含まれない)
【0015】
すなわち、本発明のアントラキノン系化合物には、下記式(1A)で表される化合物と、下記式(1B)で表される化合物が含まれる。下記式中のR
11〜R
14、nは上記に同じ。
【化10】
【0016】
前記R
11〜R
13における炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0017】
前記R
11〜R
13における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、[−OR]で表される基であって、前記Rが上記直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基である基が挙げられる。
【0018】
前記R
11〜R
13としては、なかでも、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。
【0019】
前記R
11〜R
13で表される基の炭素数の合計は3〜15であり、なかでも3〜10が好ましく、特に3〜8が好ましく、とりわけ3〜6が好ましい。
【0020】
前記R
11、R
13としては、なかでも炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、特にメチル基、エチル基、又はイソプロピル基が好ましい。
【0021】
前記R
12としては、なかでも、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、特にメチル基又はイソプロピル基が好ましい。
【0022】
前記R
14における炭素数1〜15のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0023】
前記R
14における炭素数1〜15のアルコキシ基としては、[−OR’]で表される基であって、前記R’が上記直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜15のアルキル基である基が挙げられる。
【0024】
nは、式(r2)中に示されるフェニル基へ結合する前記R
14で表される基の数であり、0〜5の整数を示す。nとしては、なかでも1〜3の整数が好ましく、特に1が好ましい。
【0025】
式(r2)で示される基としては、とりわけ下記式(r2’)で示される基が好ましい。
【化11】
(式(r2’)中、R
14は炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基を示す)
【0026】
また、R
11〜R
13で表される基の炭素数の合計が3である場合、R
14で表される基は、溶剤溶解性に優れる点で、直鎖状の炭素数1〜10(特に炭素数1〜5、とりわけ炭素数2〜5)のアルキル基又は直鎖状の炭素数1〜10(特に炭素数1〜5、とりわけ炭素数2〜5)のアルコキシ基が好ましい。
【0027】
R
11〜R
13で表される基の炭素数の合計が4以上である場合、R
14で表される基は、溶剤溶解性に優れる点で、炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基が好ましい。
【0028】
前記R
14としては、なかでも、溶剤溶解性に優れる点で、アルキル基が好ましい。
【0029】
R
1とR
4が上記式(r1)で表される基である場合、すなわち上記式(1A)で表される化合物の場合、前記R
14としては溶剤溶解性に優れる点で、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0030】
また、上記式(1A)で表される化合物の場合であって、R
11〜R
13で表される基の炭素数の合計が3である場合、前記R
14としては溶剤溶解性に優れる点で、炭素数1〜5(特に炭素数2〜5)の直鎖状アルキル基又は炭素数3〜5の分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0031】
上記式(1A)で表される化合物の場合であって、R
11〜R
13で表される基の炭素数の合計が4以上である場合、前記R
14としては溶剤溶解性に優れる点で、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましく、特に炭素数3〜5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0032】
R
1とR
3が上記式(r1)で表される基である場合、すなわち上記式(1B)で表される化合物の場合、前記R
14としては溶剤溶解性に優れる点で、炭素数1〜15の直鎖状アルキル基が好ましく、特に炭素数3〜15の直鎖状アルキル基が好ましい。
【0033】
また、上記式(1B)で表される化合物の場合であって、R
11〜R
13で表される基の炭素数の合計が3である場合、前記R
14としては溶剤溶解性に優れる点で、炭素数3〜15の直鎖状アルキル基が好ましく、特に炭素数3〜5の直鎖状アルキル基が好ましい。
【0034】
上記式(1B)で表される化合物の場合であって、R
11〜R
13で表される基の炭素数の合計が4以上である場合、前記R
14としては溶剤溶解性に優れる点で、炭素数1〜15の直鎖状アルキル基が好ましく、特に炭素数3〜15の直鎖状アルキル基が好ましい。
【0035】
上記アントラキノン系化合物は、波長740〜800nmの光を吸収する特性を有する。
【0036】
また、上記アントラキノン系化合物は、種々の汎用溶剤(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどのケトン(環状ケトンと鎖状ケトンを含む);酢酸エチルなどのエステル等)に対して優れた溶解性を示す。
【0037】
本発明のアントラキノン系化合物は上記特性を兼ね備えるため、例えば、熱線遮蔽フィルム(例えば、農業用フィルムとして使用される)、熱線遮蔽フィルター、サングラス、保護めがね、光学フィルター、遮熱塗料(例えば、建築物の外壁や窓ガラスに塗布して熱線を遮断し冷房効率を向上するために使用される塗料)、セキュリティーマーキング、リソグラフィー、光記録媒体、液晶素子等において、近赤外線吸収剤として好適に使用することができる。
【0038】
[アントラキノン系化合物の製造方法]
上記アントラキノン系化合物は、下記工程[I]、[II]を経て製造することができる。
工程[I]:下記式(2A)又は(2B)
【化12】
[式中、R
aは同一又は異なって下記式(r1)
【化13】
(式(r1)中、R
11〜R
13は、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す)
で表される基を示す。尚、式(r1)中の波線が付された結合手が、式(2A)又は(2B)中の窒素原子に結合する]
で表される化合物をハロゲン化して、下記式(3A)又は(3B)
【化14】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。R
aは上記に同じ]
で表される化合物を生成させる。
工程[II]:上記式(3A)又は(3B)で表される化合物に、下記式(4)
【化15】
(式(4)中、R
14は炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数1〜15のアルコキシ基を示す。nは0〜5の整数を示し、nが2〜5の整数の場合、2〜5個のR
14はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、n=3且つ、R
14の結合位置が2位、4位、及び6位である場合は含まれない)
で表される化合物を反応させる。
【0039】
工程[I]のハロゲン化反応は、上記式(2A)又は(2B)で表される化合物にハロゲン化剤を反応させることにより行うことができる。前記ハロゲン化剤としては、特にブロム化剤を使用することが、工程[I][II]の反応がスムーズに進行する点で好ましい。
【0040】
前記ブロム化剤としては、例えば、臭素、臭化水素、NBS(N−ブロモスクシンイミド)、N,N−ジブロモヒダントイン、N−ブロモサッカリン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
前記ハロゲン化剤の使用量は、上記式(2A)又は(2B)で表される化合物1モルに対して、例えば1〜4モルである。
【0042】
前記ハロゲン化反応は溶媒の存在下で行ってもよい。前記溶媒としては、例えば、クロロベンゼン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼンなどのベンゼン誘導体(=電子吸引性基置換ベンセン);ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロアルカン;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの鎖状または環状エーテル;酢酸などの有機酸等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
前記溶媒の使用量としては、上記式(2A)又は(2B)で表される化合物の使用量の、例えば0.5〜10重量倍程度である。
【0044】
前記ハロゲン化反応の反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0045】
前記ハロゲン化反応の反応温度は、例えば30〜60℃程度である。反応時間は、例えば0.1〜3時間程度である。反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0046】
反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段を付することができる。
【0047】
本工程は、上記式(2A)又は(2B)で表される化合物をハロゲン化する工程である。上記式(2A)又は(2B)で表される化合物は、アントラキノン骨格の1位と8位、或いは1位と5位に、上記式(r1)で表されるアニリノ基(=2位、4位、及び6位に置換基を有するアニリノ基)を有する。そのため、上記式(2A)又は(2B)で表される化合物をハロゲン化すると、前記アニリノ基はハロゲン化されることがなく、アントラキノン骨格の4位と5位、或いは4位と8位の炭素原子に結合する水素原子が選択的にハロゲンに置換される。これにより、上記式(3A)又は(3B)で表される化合物が選択的に生成する。
【0048】
工程[II]は、工程[I]を経て得られた上記式(3A)又は(3B)で表される化合物に、上記式(4)で表される化合物を反応させる工程である。
【0049】
上記式(4)で表される化合物の使用量は、上記式(3A)又は(3B)で表される化合物1モルに対して、例えば2〜10モルである。
【0050】
工程[II]の反応は、金属又は金属誘導体の存在下で行っても良い。前記金属又は金属誘導体としては、例えば、銅、亜鉛;及びこれらのハロゲン化物、カルボン酸誘導体、硫酸塩、硝酸塩、カルボニル化合物、酸化物、錯体等が挙げられる。好ましくは、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、酢酸銅、塩化亜鉛である。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
前記金属又は金属誘導体の使用量は、上記式(3A)又は(3B)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001〜1モルである。
【0052】
工程[II]の反応は、塩基の存在下で行ってもよい。前記塩基としては、例えば、ピリジン、ピペリジン、N−メチルモルホリン、n−メチルピペリジン、トリエチルアミンなどの有機塩基;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウムなどの酢酸塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機塩基等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
前記塩基の使用量は、上記式(3A)又は(3B)で表される化合物1モルに対して、例えば2〜5モルである。
【0054】
工程[II]の反応は、溶媒の存在下で行っても良い。前記溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸−n−アミル、プロピオン酸エチル、フタル酸ジメチル、安息香酸エチルなどのエステル類;トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;四塩化炭素、トリクロロエチレン、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン、メチレンジクロライド、エチレンジクロライド、モノクロロベンゼン、クロロナフタリンなどのハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等の脂肪族アルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテル及びそのエステル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
前記溶媒の使用量としては、上記式(3A)又は(3B)で表される化合物と、式(4)で表される化合物の総使用量の、例えば0.5〜10重量倍程度である。
【0056】
工程[II]の反応の反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0057】
工程[II]の反応の反応温度は、例えば100〜200℃程度である。反応時間は、例えば0.5〜12時間程度である。反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0058】
反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段を付することができる。
【0059】
尚、工程[I]に付す、上記式(2A)、(2B)で表される化合物は、例えば、下記式(2A−0)又は(2B−0)で表される化合物に下記式(5)で表される化合物を反応させることにより製造することができる。下記式中、X’は、ハロゲン原子、水酸基、又はニトロ基を示す。R
11〜R
13、R
aは上記に同じである。
【化16】
【0060】
上記式(2A)、(2B)で表される化合物は、また、下記式(2A−0’)又は(2B−0’)で表される化合物に下記式(6)で表される化合物を反応させることにより製造することもできる。下記式中、X”はハロゲン原子を示す。R
11〜R
13、R
aは上記に同じである。
【化17】
【0061】
上記式(5)で表される化合物の使用量は、上記式(2A−0)又は(2B−0)で表される化合物1モルに対して、例えば2〜10モルである。
【0062】
上記式(6)で表される化合物の使用量は、上記式(2A−0’)又は(2B−0’)で表される化合物1モルに対して、例えば2〜10モルである。
【0063】
上記反応は、金属又は金属誘導体の存在下で行っても良い。前記金属又は金属誘導体としては工程[II]において使用されるものと同様の例が挙げられる。
【0064】
前記金属又は金属誘導体の使用量は、上記式(2A−0)又は(2B−0)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001〜1モルである。
【0065】
前記金属又は金属誘導体の使用量は、上記式(2A−0’)又は(2B−0’)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001〜1モルである。
【0066】
上記反応は、塩基の存在下で行ってもよい。前記塩基としては工程[II]において使用されるものと同様の例が挙げられる。
【0067】
前記塩基の使用量は、上記式(2A−0)又は(2B−0)で表される化合物1モルに対して、例えば2〜4モルである。
【0068】
前記塩基の使用量は、上記式(2A−0’)又は(2B−0’)で表される化合物1モルに対して、例えば2〜4モルである。
【0069】
上記反応の反応雰囲気としては反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0070】
上記反応の反応温度は、例えば130〜250℃程度である。反応時間は、例えば1〜15時間程度である。反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法でも行うことができる。
【0071】
反応終了後、得られた反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、吸着、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段を付することができる。
【0072】
[近赤外線吸収剤]
本発明の近赤外線吸収剤は、740〜800nm付近に吸光極大を有する化合物であって、上記アントラキノン系化合物(より詳細には、上記式(1)で表される化合物)を含む。
【0073】
前記近赤外線吸収剤は、上記アントラキノン系化合物以外の成分を含んでいても良いが、上記アントラキノン系化合物の含有量は、前記近赤外線吸収剤全量の、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。尚、上限は100重量%である。すなわち、前記近赤外線吸収剤は上記アントラキノン系化合物のみからなるものであってもよい。
【0074】
前記近赤外線吸収剤は、種々の汎用溶剤[例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどのケトン(環状ケトンと鎖状ケトンを含む);酢酸エチルなどのエステル等]に対して優れた溶解性を示す。そのため、例えば、熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽フィルター、サングラス、保護めがね、光学フィルター、遮熱塗料、セキュリティーマーキング、リソグラフィー、光記録媒体、液晶素子等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0076】
実施例1[化合物(1A-1)の合成]
1,8−ジクロルアントラキノン50gに2,6−ジエチル−4−メチルアニリン177g、無水酢酸カリウム39g、氷酢酸7.5g、塩化第一銅0.4gを加え、200℃で12時間反応を行った。反応液を冷却後、メタノール180gを加え、室温でろ過を行った。WET結晶をメタノール、温水で洗浄後、乾燥を行い、下記式で表される化合物(2A-1)を53g(収率:55%)得た。
【0077】
【化18】
【0078】
(ハロゲン化反応)
化合物(2A-1)5gにDMF20gを加え、50℃まで加熱後、N−ブロモスクシンイミド3.4gを加えて、同温度で30分間反応を行った。反応液を冷却後、苛性ソーダ水で中和し、適当量のトルエンと水で分液抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製処理を経て、下記式で表される化合物(3A-1)を5.2g(収率:80%)得た。
【0079】
高速液体クロマトグラフィーにて反応生成物を確認した(
図1)。その結果、下記式で表される化合物(3A-1)のピーク面積は、全ピーク面積の90%以上であった。
【0080】
化合物(3A-1)の
1H−NMR(CDCl
3)スペクトル測定結果(共鳴ピークのケミカルシフト)を以下に示す。
δ:1.13ppm(12H,t)、2.37ppm(6H,s)、2.48ppm(8H,m)、6.38ppm(2H,d)、7.01ppm(4H,s)、7.45ppm(2H,d)、10.69ppm(2H,s)
【0081】
【化19】
【0082】
化合物(3A-1)5gにメチルセロソルブ10g、4−t−ブチルアニリン6.5g、無水酢酸カリウム2.1g、塩化第一銅0.06gを加え、135℃で4時間反応を行った。反応液を冷却後、適当量のトルエンと希塩酸水で分液抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製処理を経て、下記式で表される化合物(1A-1)を4.2g(収率:70%)得た。
化合物(1A-1)の
1H−NMR(CDCl
3)スペクトル測定結果(共鳴ピークのケミカルシフト)を以下に示す。
δ:1.16ppm(12H,t)、1.30ppm(18H,s)、2.35ppm(6H,s)、2.55ppm(8H,m)、6.56ppm(2H,d)、6.99ppm(4H,s)、7.15ppm(4H,d)、7.31ppm(4H,d)、7.41ppm(2H,d)、11.49ppm(2H,s)、11.71ppm(2H,s)
【0083】
【化20】
【0084】
実施例2[化合物(1A-2)の合成]
1,8−ジクロルアントラキノン50gに2,4,6−トリメチルアニリン150g、無水酢酸カリウム39g、氷酢酸7.5g、塩化第一銅0.4gを加え、180℃で8時間反応を行った。反応液を冷却後、メタノール100gを加え、室温でろ過を行った。WET結晶にDMF100gを加え、60℃で1時間攪拌後、冷却し室温でろ過を行った。WET結晶をメタノールで洗浄し、さらに温水で洗浄し、その後、乾燥を行って、下記式で表される化合物(2A-2)を46g(収率:54%)得た。
【0085】
【化21】
【0086】
化合物(2A-2)5gにDMF20gを加え、50℃まで加熱後、N−ブロモスクシンイミド4.0gを加えて、同温度で30分間反応を行った。反応液を冷却後、苛性ソーダ水で中和し、適当量のトルエンと水で分液抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製処理を経て、下記式で表される化合物(3A-2)を4.9g(収率:74%)得た。
化合物(3A-2)の
1H−NMR(CDCl
3)スペクトル測定結果(共鳴ピークのケミカルシフト)を以下に示す。
δ:2.16ppm(12H,s)、2.33ppm(6H,s)、6.36ppm(2H,d)、6.99ppm(4H,s)、7.47ppm(2H,d)、10.65ppm(2H,s)
【0087】
【化22】
【0088】
化合物(3A-2)5gにNMP5g、4−t−ブチルアニリン7.1g、無水酢酸カリウム2.3g、塩化第一銅0.06gを加え、135℃で5時間反応を行った。反応液を冷却後、適当量のトルエンと希塩酸水で分液抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製処理を経て、下記式で表される化合物(1A-2)を3.8g(収率:62%)得た。
化合物(1A-2)の
1H−NMR(CDCl
3)スペクトル測定結果(共鳴ピークのケミカルシフト)を以下に示す。
δ:1.31ppm(18H,s)、2.21ppm(12H,s)、2.31ppm(6H,s)、6.55ppm(2H,d)、6.95ppm(4H,s)、7.15ppm(4H,d)、7.31ppm(4H,d)、7.42ppm(2H,d) 、11.42ppm(2H,s)、11.72ppm(2H,s)
【0089】
【化23】
【0090】
実施例3[化合物(1B-1)の合成]
1,5−ジクロルアントラキノン50gに2,6−ジエチル−4−メチルアニリン200g、無水酢酸カリウム39g、氷酢酸7.5g、塩化第一銅0.4gを加え、190℃で10時間反応を行った。反応液を冷却後、メタノール150gを加え、室温でろ過を行った。WET結晶をメタノール、温水で洗浄後、乾燥を行い、下記式で表される化合物(2B-1)を61g(収率:64%)得た。
【0091】
【化24】
【0092】
化合物(2B-1)5gにDMF20gを加え、50℃まで加熱後、N−ブロモスクシンイミド3.4gを加えて、同温度で30分間反応を行った。反応液を冷却後、苛性ソーダ水で中和し、適当量のトルエンと水で分液抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製処理を経て、下記式で表される化合物(3B-1)を5.6g(収率:87%)得た。
化合物(3B-1)の
1H−NMR(CDCl
3)スペクトル測定結果(共鳴ピークのケミカルシフト)を以下に示す。
δ:1.14ppm(12H,t)、2.38ppm(6H,s)、2.48ppm(8H,m)、6.40ppm(2H,d)、7.01ppm(4H,s)、7.52ppm(2H,d)、10.66ppm(2H,s)
【0093】
【化25】
【0094】
化合物(3B-1)5gにメチルセロソルブ10g、4−n−ブチルアニリン6.5g、無水酢酸カリウム2.1g、塩化第一銅0.06gを加え、125℃で2時間反応を行った。反応液を冷却後、適当量のトルエンと希塩酸水で分液抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製処理を経て、下記式で表される化合物(1B-1)を4.3g(収率:73%)得た。
化合物(1B-1)の
1H−NMR(CDCl
3)スペクトル測定結果(共鳴ピークのケミカルシフト)を以下に示す。
δ:0.92ppm(6H,t)、1.14ppm(12H,t)、1.35ppm(4H,m)、1,58ppm(4H,m)、2.36ppm(6H,s)、2.56ppm(12H,m)、6.54ppm(2H,d)、6.99ppm(4H,s)、7.14ppm(8H,q)、7.41ppm(2H,d) 、11.48ppm(2H,s)、11.89ppm(2H,s)
【0095】
【化26】
【0096】
実施例4[化合物(1A-3)の合成]
4−t−ブチルアニリンに代えて4−メチルアニリンを使用した以外は実施例2と同様にして、下記式で表される化合物(1A-3)を得た。
【0097】
【化27】
【0098】
実施例5[化合物(1A-4)の合成]
4−t−ブチルアニリンに代えて4−エチルアニリンを使用した以外は実施例2と同様にして、下記式で表される化合物(1A-4)を得た。
【0099】
【化28】
【0100】
実施例6[化合物(1B-2)の合成]
4−n−ブチルアニリンに代えて4−メチルアニリンを使用した以外は実施例3と同様にして、下記式で表される化合物(1B-2)を得た。
【0101】
【化29】
【0102】
実施例7[化合物(1B-3)の合成]
2,6−ジエチル−4−メチルアニリンに代えて2,4,6−トリメチルアニリンを使用した以外は実施例3と同様にして、下記式で表される化合物(1B-3)を得た。
【0103】
【化30】
【0104】
実施例8[化合物(1B-4)の合成]
4−n−ブチルアニリンに代えてに代えて4−n−ドデシルアニリンを使用した以外は実施例3と同様にして、下記式で表される化合物(1B-4)を得た。
【0105】
【化31】
【0106】
実施例9[化合物(1B-5)の合成]
下記反応により、下記式で表される化合物(1B-5)を得た。
【0107】
【化32】
【0108】
比較例1
下記式で表される化合物(7)5gにDMF20gを加え、50℃まで加熱後、N−ブロモスクシンイミド3.9gを加えて、同温度で30分間反応を行った。
反応生成物について、高速液体クロマトグラフィーにて確認した(
図2)。その結果、ランダムに臭素化された化合物のピークが多数検出されたが、目的とする下記式で表される化合物(8)のピークは検出されなかった。
【0109】
【化33】
【0110】
(評価)
実施例で得られた化合物(1A-1)〜(1A-4)(1B-1)〜(1B-5)と、参考例としての、下記式で表される化合物(c1)、(c2)について、吸収スペクトル(クロロホルム中;20mg/L)と溶剤溶解性の評価を行った。
【0111】
尚、化合物の溶剤溶解性は、溶剤(表1に示す溶剤)に化合物を混合し、30±5℃にて超音波を5分間当てた場合に、完全に溶解する化合物濃度によって評価した。
【0112】
【化34】
【0113】
結果を下記表に示す。
【表1】