特許第6886215号(P6886215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886215
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】真空度測定装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/14 20060101AFI20210603BHJP
   B22D 17/22 20060101ALI20210603BHJP
   G01L 21/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   B22D17/14
   B22D17/22 G
   G01L21/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-530865(P2020-530865)
(86)(22)【出願日】2018年7月20日
(86)【国際出願番号】JP2018027392
(87)【国際公開番号】WO2020017053
(87)【国際公開日】20200123
【審査請求日】2020年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】500442674
【氏名又は名称】株式会社ダイエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100090206
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 信道
(72)【発明者】
【氏名】森川 巌
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−298910(JP,A)
【文献】 特開2013−128969(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/088064(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/00−17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動中子に、キャビティの真空度を測定するための真空度測定孔を有し、前記真空度測定孔の周囲に、固定中子に備えた突き当てピンを押し当てる付勢部材を介して、前記突き当てピンと前記可動中子との隙間を0.06mm以上0.07mm以下に保ったガス流出溝を形成し、前記ガス流出溝の下流側には、溶湯の流入圧を低下させる分流子を備え、前記ガス流出溝の下方には、前記突き当てピンの回動を防ぎ、前記ガス流出溝の向きを固定するための突き当てピン回転止めを備えることを特徴とする真空度測定装置。
【請求項2】
可動中子に、キャビティの真空度を測定するための真空度測定孔を有し、前記真空度測定孔の周囲に、固定中子に備えた突き当てピンを押し当てる付勢部材を介して、前記突き当てピンと前記可動中子との隙間を0.06mm以上0.07mm以下に保ったガス流出溝を形成し、前記ガス流出溝の下流側には、溶湯の流入圧を低下させる分流子を備え、前記ガス流出溝の下方には、前記突き当てピンの回動を防ぎ、前記ガス流出溝の向きを固定するための突き当てピン回転止めを備え、前記突き当てピンの周囲には、前記突き当てピンの周囲を囲む環状の第四測定溝と、前記分流子が間に配置される、略V字状に分岐した第三測定溝と、前記第三測定溝が外形の、略V字状の第二測定溝と、前記第二測定溝と略直角に連結する第一測定溝とを備えることを特徴とする真空度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ダイカストにおけるキャビティの真空度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト金型を用いた鋳造において、金型のキャビティ内に空気やガスが残留していると、完成品にガスホールなどの欠陥が生じて製品の品質が低下する。そこで、金型内部を真空状態に減圧して鋳造する方法を真空ダイカストという。真空ダイカストを用いることでガスホールなどの欠陥が低減されるが、従来キャビティの真空度を測定するには、ダイカスト金型に真空吸引用の真空バルブと真空吸引口に加えて、真空度測定用の真空バルブ及び真空吸引口を設けてキャビティの真空度を測定していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の真空度測定方法では、真空バルブ及び真空吸引口を二対設けていることから部品点数が多く、さらに真空バルブが汎用品でないことから多大な費用が掛かっていた。また、真空度を測定する真空吸引口に金属溶湯が入り込んで破損しないよう真空バルブを制御することは非常に複雑で困難であった。加えて、小型の金型に対応するため、真空度測定装置をより小型化したいといった要望もあった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みて、安価に製造可能であって、複雑な制御が不要で簡便な小型の真空度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の真空度測定装置は、可動中子に、キャビティの真空度を測定するための真空度測定孔を有し、固定中子に備えた突き当てピンを前記真空度測定孔の周囲に押し当てる付勢部材を介して前記突き当てピンと前記可動中子との隙間を0.06mm以上0.07mm以下に保ったガス流出溝を形成し、前記ガス流出溝には、キャビティの減圧時に前記真空度測定孔から前記ガス流出溝を介してガスが移動する際におけるガスの流れの下流側において、溶湯の流入圧を低下させる分流子を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、キャビティの真空度を測定するための真空バルブ及び真空吸引口を設ける必要が無くなるため、部品点数を少なくしてより安価な製品を製造することができ、且つ、小型化することが可能となる。また、突き当てピンに設けたガス流出溝が、可動中子と0.06mm以上0.07mm以下の隙間を作ることで、冷えて凝固が開始し固体となった金属はガス流出溝の隙間を通過できないため、金属溶湯が真空度測定用の孔に流入するのを防ぐことができるので複雑な制御を要せず、真空度測定の操作を簡易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明における、固定中子の平面図である。
図2図1におけるAの拡大図である
図3】型締め時における、図2のIII―III縦断面図である。
図4図3におけるBの拡大図である。
図5】型開き時における、図2のIII―III縦断面図である。
図6】時間経過によるキャビティ内圧の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、各図面に基づいて本実施形態例による真空度測定装置の構成について説明する。なお、上下方向とは図3における上下方向であり、前後方向とはそれぞれ図1における下方向及び上方向、左右方向は図1の左右方向とする。
図1図2及び図3に示すように、本実施形態例の真空度測定装置は下部より、固定中子10、可動中子20、可動本体30及び圧力計40を有している。固定中子10は金型本体である基部10aと、内部の中央後方に上端面まで貫通する略円筒状の空洞10bを有しており、空洞10b上部は内壁に設けられた張出部10cによって、空洞下部に比べて幅が狭くなっている。また、前記空洞10bの側方には、前記張出部10cの下面と同様の高さとなるように上下方向に伸びた略直方体状の空洞として隙間10dが設けられている。固定中子10の上端面は、前記可動中子20の下端と当接する当接面10eによって型締め時に可動中子20と隙間なく接している。
空洞10b内には、略円柱状の突き当てピン11と、突き当てピン11を上方へと付勢するコイルスプリング(付勢部材)12及び略円柱状の突き当てピン回転止め13が設けられている。前記突き当てピン11は外周部に張り出した鍔状部11dを有していて、鍔状部11dの下方に位置する前記コイルスプリング12が前記鍔状部11dを押し上げると、突き当てピン11は空洞10b内を上方へと移動することできる。前記突き当てピン11が上方へ移動すると、前記突き当てピン11の上端部は固定中子10の上端面から突出する。可動中子20は、前記突き当てピン11の直上に略円筒状の真空度測定孔21を有しており、前記真空度測定孔21は可動中子20の上端面と下端面を貫通していて、その直径は前記突き当てピン11よりも小さい。可動本体30は、前記真空度測定孔21と連結する圧力計40を備える。
【0009】
次に、固定中子10の上端面に関する構成を図1及び図2に基づいて説明する。図1に示すように、固定中子10は平面視略正方形状で、中央前方にキャビティCと、前記キャビティCの後方に設けられた真空度測定部14と、前記キャビティCの左右端部から伸びるガス抜き溝18と、前記キャビティCに金属溶湯を射出充填するための湯口ランナー17及びビスケット16とを有している。固定中子10の外周部の後方には、キャビティCの内圧を減圧するための、前記ガス抜き溝18と連結する真空バルブ19a及び図示せぬ真空ポンプに接続された真空吸引口19bが設けられている。
本実施形態例において、キャビティCの形状は左右方向に長い平面視略長方形状であり、左右の短辺からは4本のガス抜き溝18a〜18aが固定中子10の外周側に向かって伸びている。ガス抜き溝18a〜18aは、キャビティCの近傍において後方に向かって略直角に屈曲し、キャビティCの両側を2本のガス抜き溝18b、18bとなって後方に延伸している。ガス抜き溝18b、18bは真空度測定部14の後方まで延伸した後、略直角に屈曲し、固定中子10の左右方向略中央部において1本のガス抜き溝18cへと収束し、後方に向かって伸びた後、真空バルブ19a及び真空吸引口19bへと連結している。前記湯口ランナー17及び前記ビスケット16は、キャビティCの前方に位置しており、金属溶湯は固定中子10の外周部へ突出したビスケット16から流入し、前記ビスケット16に連結する湯口ランナー17を通じてキャビティCへと到達する。
【0010】
図2に示すように、キャビティCの後方に位置する真空度測定部14は、キャビティCから後方に伸びる第一測定溝14a、14aと、前記第一測定溝14aに略直角に連結する第二測定溝14b、14bと、前記第二測定溝14bから略V字状の二股に伸び、外形が平面視略菱形状の4本の第三測定溝14c〜14cと、突き当てピン11の周囲を囲む環状の溝で、4本の前記第三測定溝14cと連結した第四測定溝14dと、略V字状に分岐した前記第三測定溝14c、14cの間に位置する平面視略三角形状の分流子15とを有している。
第一測定溝14aは、キャビティCから後方に向かって2本形成されており、突き当てピン11よりやや後方まで延伸する。第二測定溝14bは、深さが第一測定溝14aよりもやや浅く、突き当てピン11に向かって伸びている。第三測定溝14cの深さは、第二測定溝14bよりも浅い。第四測定溝14dの深さは、第三測定溝14cと略同じである。
分流子15は、平面視略三角形状の略平板状部材であり、固定中子10とは一体的に形成され、三角形の頂点の一つを固定中子10の左右の外周部に向けるように設けられている。第三測定溝14cは分流子15によって略V字状に分岐させられている。
一方、突き当てピン11の上端部には前記真空度測定孔21の直径よりも大きい平面視略円形の凹部11aが形成されているため、突き当てピン11の上端面は略環状となっている。略環状である突き当てピン11の上端面は、左右に対向して位置する一対のガス流出溝11b、11bによって二分されており、二分された上端面は弧状を呈した当接部11c、11cから構成されている。前記ガス流出溝11bは、型締め時において可動中子20と前記ガス流出溝11bの底面との隙間が0.06mm〜0.07mmとなるように形成されている(図4参照)。当接部11cは、型締め時において可動中子20と隙間なく当接する。
【0011】
次に、型締め時における真空度測定部14、突き当てピン11及び真空度測定孔21の構成を図2図3及び図4に基づいて説明する。
図3に示すように型締め時は、固定中子10の可動中子20への当接面10eと突き当てピン11の上端面は略面一となっており、また、真空度測定部14の分流子15の上端面も当接面10eと略面一である。この時、突き当てピン11が有するガス流出溝11bは、平面視略三角形状の分流子15の一辺と対向するように位置しており(図2)、この位置を維持するため以下のような構成を固定中子10と突き当てピン11に有している。
突き当てピン11の鍔状部11dの側面には、略円柱状の突き当てピン回転止め13を挿入するための横向きの孔11eを1箇所設けてある。孔11eの大きさは前記突き当てピン回転止め13の直径と略同じで、ガス流出溝11bの下方に位置している。前記孔11eに挿入された突き当てピン回転止め13は、鍔状部11dの側面より突出しており、その突出した部分は略直方体状の隙間10d内に位置している。隙間10dの高さは、固定中子10の下端面から張出部10cまでの高さと略同じで、奥行きは略円柱状である突き当てピン回転止め13の直径と同程度である。
このような構成であれば、突き当てピン11の側方に飛び出すように取り付けられた突き当てピン回転止め13が、自身の直径と略同じ奥行きを持つ隙間10dに嵌め込まれていることで、突き当てピン回転止め13の上下方向以外の動作が規制されるため突き当てピン11が回動せず、ガス流出溝11bの向きを固定できる。
真空度測定孔21は可動中子20を貫通しており、突き当てピン11の直上に位置するよう設けられている。型締めの際、真空度測定孔21と突き当てピン11は上下に一直線になるよう配置するが、真空度測定孔21の直径は突き当てピン11の直径よりもやや小さいため、突き当てピン11は真空度測定孔21の下端部を覆うように当接する。この時、突き当てピン11の当接部11cはコイルスプリング12によって上方向に付勢されて可動中子20の下端面に当接するが、突き当てピン11の上端面は可動中子20との間に0.06mm〜0.07mmの隙間を設けるガス流出溝11bを有しているため、真空度測定孔21は完全に密閉されることなく、図4のようにガス流出溝11bを介して第四測定溝14dと連通している。
【0012】
次に、キャビティCにおける内圧の時間変化を図6に基づいて説明する。図6は、縦軸がキャビティCの内圧、横軸が時間を示す。
型締め後、金属溶湯の射出を開始する(a)と、金属溶湯がキャビティCに流れ込むことで、キャビティCの内圧は正圧方向に緩やかに上昇していく(a〜b)。その後真空吸引を開始すると、キャビティC内のガスはガス抜き溝18を経て真空吸引口19bから排出されるため、キャビティCの内圧は負圧方向に急下降する(b〜c)。この時、真空度測定孔21及び真空度測定部14内部のガスもキャビティC及びガス抜き溝18を経て排出される。さらにその後、金属溶湯がキャビティCを充填するとキャビティC内の真空度が安定する(c〜d)。
なお、キャビティC内の真空度の測定は、金属溶湯の射出開始から、真空吸引を開始後約1.2秒〜1.5秒が経過するまでの間継続される。この間、キャビティC内の内圧は、真空度測定部14を介してキャビティCと接続している真空度測定孔21に接続された圧力計40を用いて計測される。
【0013】
このような構成とすることで、従来計二対設けていた真空バルブ19a及び真空吸引口19bを一対に減少することができるので、真空度測定装置の簡便化及び小型化を図れる。また、汎用品でない真空バルブ19aの必要数を減らすことにより、安価に金属製品を鋳造することができる。
【0014】
また、上記の構成において、キャビティCから第四測定溝14dへと金属溶湯が流出した場合、第一測定溝14a〜第三測定溝14cの深さは段階的に浅くなるため、真空度測定孔21付近まで到達する金属溶湯の量を抑えることができる。また、第三測定溝14cまで到達した金属溶湯は、分流子15によってその流入圧が低下し、真空度測定孔21を避けるように流れるため、従来懸念されていた真空度測定用の孔、つまり、本発明における真空度測定孔21への金属溶湯の侵入の虞が格段に低減される。さらに、突き当てピン11が有するガス流出溝11bは、その深さが0.06mm〜0.07mmと非常に狭い。そのため、キャビティCより流出してきた金属溶湯がガス流出溝11bまで到達した場合、すでに金属溶湯の凝固が開始しているため、ガス流出溝11bを通ることができない固体となり、真空度測定孔21への金属溶湯の侵入は生じない。一方で、金型内部を減圧する際、真空度測定孔21内部のガスはガス流出溝11bを通ることができるので、ガス流出溝11bを介して金型の外へと排出される。
したがって、従来の課題の一つであった真空バルブの複雑な制御についても、真空度測定部14を備えることにより、真空バルブ自体が不要となるため操作も不要となり、キャビティの真空度が容易に測定できる。
【0015】
次に、型開き時における真空度測定部14及び突き当てピン11の構成を図5に基づいて説明する。
可動中子20と可動本体30が上昇して固定中子10から離れると、図5に示すように突き当てピン11はコイルスプリング12によって上方向に付勢されて固定中子10の上端面から突出する。このとき、突き当てピン11を備える固定中子10の空洞10bは、上部の幅が狭まるよう内壁が張り出した張出部10cを有しているため、突き当てピン11の外周部の鍔状部11dが張出部10cに引っ掛かり、突き当てピン11の上昇が止まる。本実施形態例において、突き当てピン11が固定中子10の上端面から突出する高さHは約5mm〜7mmである。
【0016】
このような構成とすることで、高さH分だけ露出した突き当てピン11の外周部に付着した金属の燃えカスや離型剤等のゴミを容易に取り除くことができるので、突き当てピン11が固定中子10の空洞内部を滑らかに移動できる。
【0017】
以上に示したように、本構成によって、金属溶湯が真空度測定部14の内部に到達しても、分流子15が金属溶湯の流入圧を低下させて、ガス流出溝11bと可動中子20との間の高さ0.06mm以上0.07mm以下の隙間が金属溶湯の真空度測定孔21への侵入を防ぐことで、従来真空ポンプへの金属溶湯の侵入による故障を防いでいた真空バルブの複雑な制御が不要となり、キャビティCの真空度測定が簡便となる。加えて、真空度測定用の真空バルブ及び真空吸引口も不要となったため、金型には真空吸引用の真空バルブ及び真空吸引口を設けるだけで良くなり、鋳造時に掛かる費用の低減及び真空度測定装置の小型化も行うことができる。
【符号の説明】
【0018】
10 固定中子
10a 基部
10b 空洞
10c 張出部
10d 隙間
10e 当接面
11 突き当てピン
11a 凹部
11b ガス流出溝
11c 当接部
11d 鍔状部
11e 孔
12 コイルスプリング(付勢部材)
13 突き当てピン回転止め
14 真空度測定部
14a 第一測定溝
14b 第二測定溝
14c 第三測定溝
14d 第四測定溝
15 分流子
16 ビスケット
17 湯口ランナー
18 ガス抜き溝
18a ガス抜き溝
18b ガス抜き溝
18c ガス抜き溝
19a 真空バルブ
19b 真空吸引口
20 可動中子
21 真空度測定孔
30 可動本体
40 圧力計
C キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6