(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
相互に接続された複数の電気抵抗要素を有し、各電気抵抗要素は少なくとも一つのMR素子を含み、各MR素子は、外部磁界が印加されていないときに初期磁化方向に磁化され外部磁界が印加されたときに磁化方向が前記初期磁化方向から変化するフリー層を有し、前記複数の電気抵抗要素は、各フリー層の磁化方向が同一方向に所定の角度回転したときに電気抵抗が増加する群と電気抵抗が減少する群のいずれかに属する磁気センサであって、
2つの前記群は、一方の群の電気抵抗要素の電気抵抗の増加による前記磁気センサの出力の変動と、他方の群の電気抵抗要素の電気抵抗の減少による前記磁気センサの出力の変動とが相殺されるように配置されている、磁気センサ。
前記複数の電気抵抗要素は、直列に接続された第1及び第2の電気抵抗要素と、直列に接続された第3及び第4の電気抵抗要素と、を有し、前記第1及び第4の電気抵抗要素に電源電圧が印加され、前記第2及び第3の電気抵抗要素が接地され、前記第1の電気抵抗要素と前記第2の電気抵抗要素との間、及び前記第3の電気抵抗要素と前記第4の電気抵抗要素との間からそれぞれ出力電圧が取り出され、
前記第1及び第4の電気抵抗要素は同じ群に属し、前記第2及び第3の電気抵抗要素は他の群に属する、請求項1に記載の磁気センサ。
一部の前記MR素子の前記フリー層と他の前記MR素子の前記フリー層は互いに概ね反平行の向きに磁化されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気センサ。
前記一対のバイアス磁石は前記一対の端部バイアス磁石であり、前記初期磁化方向と直交する方向において、前記端部バイアス磁石の寸法は前記フリー層の寸法より大きい、請求項5に記載の磁気センサ。
前記一対のバイアス磁石は前記一対のサイドバイアス磁石であり、前記初期磁化方向と平行な方向において、前記サイドバイアス磁石の寸法は前記フリー層の寸法より大きい、請求項5または6に記載の磁気センサ。
前記一部のMR素子の前記一対のバイアス磁石と、前記他のMR素子の前記一対のバイアス磁石は、互いに保磁力の異なる材料から形成されている、請求項5から7のいずれか1項に記載の磁気センサ。
前記一部のMR素子の前記一対のバイアス磁石はCoPt、またはCoPtにCr,B,Taの少なくともいずれかを添加した材料からなり、前記他のMR素子の前記一対のバイアス磁石はFePt、またはFePtにNi,Nb,Cu,Ag,Mo,Tiの少なくともいずれかを添加した材料からなる、請求項8に記載の磁気センサ。
前記一部のMR素子の前記一対のバイアス磁石は前記端部バイアス磁石であり、前記他のMR素子の前記一対のバイアス磁石は前記サイドバイアス磁石であり、前記端部バイアス磁石と前記サイドバイアス磁石は同じ方向に磁化されている、請求項5から7のいずれか1項に記載の磁気センサ。
前記MR素子はそれぞれ前記フリー層にバイアス磁界を印加する一対のバイアス磁石を有し、少なくとも一つの前記MR素子の前記一対のバイアス磁石は、前記フリー層の前記初期磁化方向における両側端部と対向しており、前記バイアス磁石の中心軸は前記フリー層の中心軸に対して25°〜65°の範囲で傾斜している、請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気センサ。
前記フリー層と前記バイアス磁石はいずれも、前記MR素子の積層方向からみて、互いに隣接する2辺が90°以外の角度をなす略平行四辺形である、請求項11に記載の磁気センサ。
前記少なくとも一つのMR素子は少なくとも2つのMR素子を含み、前記少なくとも2つのMR素子の前記フリー層の中心軸は互いに平行であり、一部の前記MR素子の前記バイアス磁石の中心軸は他の前記MR素子の前記バイアス磁石の中心軸に対して逆方向に傾斜している、請求項11または12に記載の磁気センサ。
前記複数の電気抵抗要素はそれぞれ、単一のMR素子、直列に接続された複数のMR素子、または直列に接続された複数のMR素子からなるMR素子群が並列に接続された複数のMR素子群のいずれかからなる、請求項1から14のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態に係る磁気センサについて説明する。以下の説明及び図面において、X方向はピンド層及びレファレンス層の磁化方向及びフリー層の短軸方向に一致する。Y方向はX方向と直交する方向であり、フリー層の長軸方向に一致する。Z方向はX方向及びY方向と直交する方向であり、MR素子(磁気抵抗効果素子)の多層膜の積層方向に一致する。なお、各図面におけるX、Y,Z方向を示す矢印の向きを+X方向、+Y方向、+Z方向、矢印の向きと反対側の向きを−X方向、−Y方向、−Z方向ということがある。
【0010】
(第1の実施形態)
図1(a)は第1の実施形態に係る磁気センサ1の概略構成を示している。磁気センサ1は4つの電気抵抗要素(以下、第1の電気抵抗要素11、第2の電気抵抗要素12、第3の電気抵抗要素13、第4の電気抵抗要素14という)を有し、これらの電気抵抗要素11〜14がブリッジ回路(ホイートストンブリッジ)で相互に接続されている。4つの電気抵抗要素11〜14は2つの組11,12及び13,14に分割され、それぞれの組の電気抵抗要素11,12及び電気抵抗要素13,14が直列接続されている。第1の電気抵抗要素11と第4の電気抵抗要素14は電源電圧Vccに接続され、第2の電気抵抗要素12と第3の電気抵抗要素13は接地(GND)されている。第1の電気抵抗要素11と第2の電気抵抗要素12の間の出力電圧が中点電圧V1として取り出され、第3の電気抵抗要素13と第4の電気抵抗要素14の間の出力電圧が中点電圧V2として取り出される。従って、第1〜第4の電気抵抗要素11〜14の電気抵抗をそれぞれR1〜R4とすると、中点電圧V1,V2はそれぞれ下式のように求められる。
【0013】
第1〜第4の電気抵抗要素11〜14はそれぞれ、少なくとも一つのMR素子を含んでいる。本実施形態では、第1〜第4の電気抵抗要素11〜14はそれぞれ単一のMR素子(以下、第1〜第4のMR素子11A〜14Aという)から構成されている。図示は省略するが、第1〜第4の電気抵抗要素11〜14はそれぞれ、直列に接続された複数のMR素子、または直列に接続された複数のMR素子からなるMR素子群が並列に接続された複数のMR素子群のいずれかからなっていてもよい。第1〜第4のMR素子11A〜14Aは同一の構成を有しているため、ここでは第1のMR素子11について説明する。
図2(a)は第1のMR素子11Aの概略斜視図を示している。第1のMR素子11Aは、多層膜20と、多層膜20をY方向に挟む一対のバイアス磁石27と、を有している。多層膜20は一般的なスピンバルブ型の膜構成を有している。多層膜20はZ方向からみて、X方向が短辺、Y方向が長辺の概ね矩形の平面形状を有している。多層膜20は反強磁性層21と、ピンド層22と、非磁性中間層23と、レファレンス層24と、スペーサ層25と、フリー層26と、を含み、これらの層はこの順で積層されている。多層膜20はZ方向において一対の電極層(図示せず)に挟まれており、電極層から多層膜20にZ方向にセンス電流が流れるようにされている。
【0014】
フリー層26は、外部磁界が印加されていないときに初期磁化方向D1(
図2(b)参照)に磁化され、外部磁界が印加されたときに磁化方向が初期磁化方向D1から変化(回転)する磁性層であり、例えばNiFeで形成することができる。ピンド層22は反強磁性層21との交換結合によって外部磁界に対して磁化方向が固定された強磁性層である。反強磁性層21はPtMn、IrMn,NiMnなどで形成することができる。レファレンス層24はピンド層22とスペーサ層25との間に挟まれた強磁性層であり、Ru,Rhなどの非磁性中間層23を介してピンド層22と磁気的に結合、より具体的にはピンド層22と反強磁性結合している。従って、レファレンス層24とピンド層22はいずれも外部磁界に対して磁化方向が固定されており、その磁化方向は互いに反平行の向きとされている。これによって、レファレンス層24の磁化方向が安定化するとともに、レファレンス層24から放出される磁界がピンド層22から放出される磁界によって打ち消され、外部への漏れ磁界を抑制することができる。スペーサ層25はフリー層26とレファレンス層24との間に位置し、磁気抵抗効果を奏する非磁性層である。スペーサ層25は、Cuなどの非磁性金属からなる非磁性導電層、またはAl
2O
3などの非磁性絶縁体からなるトンネルバリア層である。スペーサ層25が非磁性導電層である場合、第1のMR素子11Aは巨大磁気抵抗効果(GMR)素子として機能し、スペーサ層25がトンネルバリア層である場合、第1のMR素子11Aはトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子として機能する。MR変化率が大きく、ブリッジ回路の出力電圧を大きくすることができるという点で、第1のMR素子11AはTMR素子であることがより好ましい。
【0015】
図2(b)は
図2(a)のA方向からみた第1のMR素子11Aの概略平面図を示している。
図3(a)〜3(c)はフリー層26とレファレンス層24とピンド層22の外部磁界がない状態での磁化を概念的に示している。
図3(a)〜3(c)中の矢印は磁化方向を模式的に示している。フリー層26はバイアス磁石27のバイアス磁界によって、概ね長軸方向(Y方向)と平行な初期磁化方向D1に磁化されている。フリー層26の初期磁化方向D1はバイアス磁石27の磁化方向D2と概ね平行である。フリー層26のY方向の長軸を中心軸C1という。レファレンス層24は概ね短軸方向(X方向)と平行な磁化方向D3に磁化されている。フリー層26の感磁方向であるX方向に外部磁界が印加されると、フリー層26の磁化方向は外部磁界の強さに応じて
図2(b)において時計回りまたは反時計回りに回転する。これによってレファレンス層24の磁化方向D3とフリー層26の磁化方向との間の相対角度が変化し、センス電流に対する電気抵抗が変化する。
【0016】
図4(a)は比較例の磁気センサ101の構成を示す
図1(a)と同様の図である。第1〜第4のMR素子11A〜14Aのフリー層26の初期磁化方向は同じ方向を向いている。第1〜第4のMR素子11A〜14Aのレファレンス層24の磁化方向は図中の矢印の方向を向いている。従って、+X方向に外部磁界が印加されると第1及び第3のMR素子11A,13Aの電気抵抗が減少し、第2及び第4のMR素子12A,14Aの電気抵抗が増加する。これによって、
図4(b)に示すように、中点電圧V1が増加し中点電圧V2が低下する。−X方向に外部磁界が印加された場合は、これとは逆に、中点電圧V1が低下し中点電圧V2が増加する。中点電圧V1,V2の差分V1−V2を検出することで、中点電圧V1,V2を検出する場合と比べて2倍の感度が得られる。また、
図4(b)において中点電圧V1,V2が同一方向にシフトしても(例えば上側にシフトしても)も差分を検出することでその影響を排除することができる。
【0017】
第1〜第4のMR素子11A〜14Aが同一方向に応力を受けると、フリー層26の初期磁化方向D1は逆磁歪効果によって回転する。
図4(c)は、第1〜第4のMR素子11A〜14Aに、X軸及びY軸に対して45°の角度で引張応力Sが掛かっている状態を示している。逆磁歪効果は磁歪定数の正負及び応力が引張応力Sであるか圧縮応力であるかによって、異なる方向に作用する。引張応力が掛かりフリー層26の磁歪定数が正の場合、及び圧縮応力が掛かりフリー層26の磁歪定数が負の場合、フリー層26の初期磁化方向D1は応力と平行となる方向に回転する。引張応力が掛かりフリー層26の磁歪定数が負の場合、及び圧縮応力が掛かりフリー層26の磁歪定数が正の場合、フリー層26の初期磁化方向D1は応力と直交する方向に回転する。
図4(c)において45°の角度で引張応力Sが掛かると、第1及び第3のMR素子11A,13Aのフリー層26の初期磁化方向D1はレファレンス層24の磁化方向D3の向きに回転するため、第1及び第3のMR素子11A,13Aの電気抵抗は減少する。第2及び第4のMR素子12A,14Aのフリー層26の初期磁化方向D1はレファレンス層24の磁化方向と反対方向に回転するため、第2及び第4のMR素子12A,14Aの電気抵抗は増加する。これによって、
図4(d)に示すように、中点電圧V1が増加し中点電圧V2が低下し、V1−V2が増加する。つまり、外部応力によって、外部磁界が掛かっていないときの磁気センサ101の出力V1−V2はゼロからオフセットする。出力V1−V2のオフセットは外部磁界の測定精度に影響を与える。
【0018】
外部応力は、例えば磁気センサをパッケージ内に封入する際に、封止用の樹脂などから受ける力によって生じる。パッケージに封入された磁気センサを基板などに取り付け、モジュール化する際(例えばはんだ工程)にも応力が生じる。モジュールが製品に組み込まれる際の工程(例えばねじ止め)でも応力が生じることがあり、製品としての使用中にも、例えば温度変化による熱応力が生じることがある。これらの応力は予測及び測定が困難であり、制御することも困難である。従って、本質的には出力V1−V2が外部応力によって影響を受けにくいことが望まれる。
【0019】
本実施形態では、第1〜第4の電気抵抗要素11〜14(第1〜第4のMR素子11A〜14A)は、全てのフリー層26の初期磁化方向D1が外部応力によって同一方向に所定の角度(図示の例では45°)回転したときに電気抵抗が増加または減少する第1の群G1と、第1の群G1の電気抵抗が増加したときに電気抵抗が減少し、第1の群G1の電気抵抗が減少したときに電気抵抗が増加する第2の群G2のいずれかに属している。第1の群G1に属するMR素子を第1群MR素子といい、第2の群G2に属するMR素子を第2群MR素子という。ここでは、説明の便宜上、第1の群G1に属するMR素子は電気抵抗が増加し、第2の群G2に属するMR素子は電気抵抗が減少するとする。第2及び第3のMR素子12A,13Aは第1の群G1に属し、第1及び第4のMR素子11A,14Aは第2の群G2に属している。
図1(a)に示すように、第1群MR素子(第2及び第3のMR素子12A,13A)は、フリー層26の初期磁化方向D1がレファレンス層24の磁化方向D3に対して時計回り方向(第1の回転方向)に第1の角度θ1(0°<θ1<180°、本実施形態では約90°)回転している。第2群MR素子(第1及び第4のMR素子11A,14A)は、フリー層26の初期磁化方向D1がレファレンス層24の磁化方向に対して反時計周り方向(第1の回転方向と逆方向の第2の回転方向)に第2の角度θ2(0°<θ2<180°、本実施形態では約90°)回転している。換言すれば、第1群MR素子と第2群MR素子では、フリー層26の初期磁化方向D1を示すベクトルをF、レファレンス層24の磁化方向D3を示すベクトルをRとしたときに、外積F×Rの向きが互いに逆方向となっている。
【0020】
図1(c)において45°の角度で引張応力Sが掛かると、第1及び第4のMR素子11A,14Aのフリー層26の初期磁化方向D1はレファレンス層24の磁化方向D3の向きに回転し、第1及び第4のMR素子11A,14Aの電気抵抗は減少する。第2及び第3のMR素子12A,13Aのフリー層26の初期磁化方向D1はレファレンス層24の磁化方向D3と反対方向に回転し、第2及び第3のMR素子12A,13Aの電気抵抗は増加する。
図1(d)に示すように、中点電圧V1と中点電圧V2がともに増加し、V1−V2の変化が抑えられる。つまり、外部応力が掛かった状態で、磁気センサの出力V1−V2のオフセットを比較例と比べて低減することができる。
【0021】
外部応力はあらゆる方向から掛かる可能性がある。また、前述のように、外部応力は引張応力の場合もあるし、圧縮応力の場合もある。フリー層26の磁歪定数が正で、且つ引張応力Sが
図1(c)の方向に掛かる場合は、上述のように第2及び第3のMR素子12A,13Aが第1群MR素子に属し、第1及び第4のMR素子11A,14Aが第2群MR素子に属する。しかし、例えばフリー層26の磁歪定数が正で、且つ引張応力が
図1(c)に示す方向と直交する方向に掛かる場合は、第1及び第4のMR素子11A,14Aが第1群MR素子に属し、第2及び第3のMR素子12A,13Aが第2群MR素子に属することになる。このように、どのMR素子がどの群に属するかは一義的に決まるわけではない。しかし、第1及び第4のMR素子11A,14Aは常に同じ群に属し、第2及び第3のMR素子12A,13Aは常に別の群に属することに留意されたい。
【0022】
図5は第1〜第4のMR素子11A〜14Aの電気抵抗の増減を模式化して示しており、
図5(a)は
図1(c)に対応している。
図5(a)を参照すると、第2及び第3のMR素子12A,13A(第1の群G1)の電気抵抗が増加し、第1及び第4のMR素子11A,14A(第2の群G2)の電気抵抗が減少し、中点電圧V1,V2がともに増加する。
図5(b)を参照すると、第2及び第3のMR素子12A,13A(第2の群G2)の電気抵抗が減少し、第1及び第4のMR素子11A,14A(第1の群G1)の電気抵抗が増加し、中点電圧V1,V2がともに減少する。磁気センサが
図5(a)の状態にあるか
図5(b)の状態にあるかは、外部応力やフリー層26の磁歪定数に依存するが、本実施形態の磁気センサ1は常に
図5(a)と
図5(b)のいずれかの状態にある。そして、いずれの場合でも、磁気センサの出力V1−V2のオフセットは低減される。これは、第1の群G1と第2の群G2が、第1の群G1の電気抵抗要素の電気抵抗の増減による磁気センサの出力の変動と、第2の群G2の電気抵抗要素の電気抵抗の増減による磁気センサの出力の変動とが相殺されるように配置されているためである。これに対し、
図4(c)に示す比較例に対応する
図5(c)を参照すると、第1群G1の電気抵抗要素(第2及び第4のMR素子12A,14A)と第2の群G2の電気抵抗要素(第1及び第3のMR素子11A,13A)が上述のように配置されていない。このため、磁気センサの出力V1−V2のオフセットは増加する傾向となる。
【0023】
本実施形態では、一対のバイアス磁石27は、フリー層26の初期磁化方向D1における両側端部26A,26B(
図2(b)参照)と対向しており、バイアス磁石27の中心軸C2がフリー層26の中心軸C1と概ね直交している。本明細書では、このようなバイアス磁石27を端部バイアス磁石27Aという。一部のMR素子(第1及び第2のMR素子11A,12A)のフリー層26と他のMR素子(第3及び第4のMR素子13A,14A)のフリー層26は互いに概ね反平行の向きに磁化されている。すなわち、一部のMR素子(第1及び第2のMR素子11A,12A)の端部バイアス磁石27Aと他のMR素子(第3及び第4のMR素子13A,14A)の端部バイアス磁石27Aは互いに概ね反平行の向きに磁化されている。反平行とは方向が160°〜200°の範囲で異なることを意味する。
【0024】
MR素子毎に端部バイアス磁石27Aの磁化方向を変えるため、一部の端部バイアス磁石27Aと他の端部バイアス磁石27Aは保磁力の異なる材料から形成されている。例えば、第1及び第2のMR素子11A,12Aの端部バイアス磁石27AはCoPt、またはCoPtにCr,B,Taの少なくともいずれかを添加した材料から形成され、第3及び第4のMR素子13A,14Aの端部バイアス磁石27AはFePt、またはFePtにNi,Nb,Cu,Ag,Mo,Tiの少なくともいずれかを添加した材料から形成される。前者の保磁力は1500〜5000Oeであり、後者の保磁力は5000〜13000Oeである。まず全ての端部バイアス磁石27Aの保磁力を上回る磁界(例えば15000Oe以上の磁界)で全ての端部バイアス磁石27Aを着磁する。これによって、全ての端部バイアス磁石27Aは同一方向に磁化される。次に、前者の保磁力と後者の保磁力の中間の磁界(例えば7500Oe程度の磁界)を反対方向に印加する。第1及び第2のMR素子11A,12Aの端部バイアス磁石27Aは新たに印加された磁界によって反対方向に磁化されるが、第3及び第4のMR素子13A,14Aの端部バイアス磁石27Aの磁化方向は不変である。これによって、MR素子毎に端部バイアス磁石27Aの磁化方向を変えることができる。
【0025】
図6(a)は、フリー層26の長手方向Yにおけるバイアス磁界の分布を規準化して示している。
図6(b)は、フリー層26の初期磁化の分布を示しており、矢印はフリー層26の各位置での初期磁化方向を示している。一般に、フリー層26の長手方向端部では磁化方向が長手方向Y以外の方向を向きやすくなるが、本実施形態ではフリー層26の磁化方向は長手方向Y全長に渡って長手方向Yに揃えられている。これは、バイアス磁石27がフリー層26の長手方向Y両端に位置しているため、フリー層26の長手方向Y両端に特に強いバイアス磁界が掛かるためである。また、
図2(b)に示すように、本実施形態では初期磁化方向D1と直交する方向Xにおいて、端部バイアス磁石27Aの寸法L1はフリー層26の寸法L2より大きくされている。これによっても、フリー層26の長手方向Y両端に強いバイアス磁界が掛かり、フリー層26の磁化方向がフリー層26の長手方向Y両端で長手方向Yを向きやすくなる。
【0026】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態はバイアス磁石27の構成を除き第1の実施形態と同様である。
図7(a)は第2の実施形態に係る磁気センサ1Aの概略構成を示している。
図8は第1のMR素子11Aの構成を示す
図2と同様の図である。本実施形態では、一対のバイアス磁石27は、フリー層26の初期磁化方向D1における両方側部26C,26Dと対向し、その中心軸C2がフリー層26の中心軸C1と概ね互いに平行となっている。本明細書では、このようなバイアス磁石27をサイドバイアス磁石27Bという。初期磁化方向D1と平行な方向(Y方向)において、サイドバイアス磁石27の寸法L3はフリー層26の寸法L4より大きくされている。サイドバイアス磁石27Bのバイアス磁界は
図8(b)に示すようにサイドバイアス磁石27Bの側方に回り込むため、本実施形態ではサイドバイアス磁石27Bの磁化方向D2とフリー層26の初期磁化方向D1は概ね反平行の関係となる。一方、フリー層26の初期磁化方向D1とレファレンス層24の磁化方向D3の関係は第1の実施形態と同じである。従って、
図7(b)に示すように、本実施形態の磁気センサ1Aは第1の実施形態の磁気センサ1と同じ原理で作動する。
【0027】
図9(a)は本実施形態における、バイアス磁界のフリー層26の長手方向における分布を規準化して示している。上述のように、本実施形態ではサイドバイアス磁石27Bの磁化方向D2とフリー層26に掛かるバイアス磁界の方向は反平行であるため、バイアス磁界はマイナスとなっている。なお、
図6(a)の縦軸と
図9(a)の縦軸は同じ基準値で規準化されている。実施例1では、初期磁化方向D1と平行な方向(Y方向)において、サイドバイアス磁石27Bの寸法はフリー層26の寸法と一致している。実施例2では、初期磁化方向D1と平行な方向(Y方向)において、サイドバイアス磁石27Bの寸法はフリー層26の寸法より大きくなっている。
図9(b)は、実施例1におけるフリー層26の初期磁化の分布を、
図9(c)は、実施例2におけるフリー層26の初期磁化の分布を示している。矢印はフリー層26の各位置での初期磁化方向を示している。いずれの実施例でも、フリー層26のほとんどの領域で初期磁化方向がフリー層26の長手方向Yを向いている。実施例1ではフリー層26の長手方向端部(部位A)でバイアス磁界が若干弱いため、磁化方向が幾分長手方向以外の方向を向きやすくなっている。実施例2では、フリー層26には長手方向端部でも比較的大きなバイアス磁界が掛かっているため、磁化方向は長手方向全長に渡ってさらに長手方向に揃えられている。
【0028】
本実施形態でも、一部のMR素子(第1及び第2のMR素子11A,12A)のフリー層26と、他のMR素子(第3及び第4のMR素子13A,14A)のフリー層26は、互いに概ね反平行の向きに磁化されている。すなわち、第1及び第2のMR素子11A,12Aのサイドバイアス磁石27Bと、第3及び第4のMR素子13A,14Aのサイドバイアス磁石27Bは、互いに概ね反平行の向きに磁化されている。サイドバイアス磁石27Bの磁化方向は、第1の実施形態と同様にして、MR素子毎に変えることができる。
【0029】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態に係る磁気センサ1Bはバイアス磁石27の構成を除き第1の実施形態と同様である。
図10(a)は第3の実施形態に係る磁気センサ1Bの概略構成を示している。本実施形態では一部のバイアス磁石27(第1及び第2のMR素子11A,12Aのバイアス磁石27)が端部バイアス磁石27Aであり、他のバイアス磁石27(第3及び第4のMR素子13A,14Aのバイアス磁石27)がサイドバイアス磁石27Bである。すなわち、本実施形態では端部バイアス磁石27Aとサイドバイアス磁石27Bの両者が設けられている。端部バイアス磁石27Aとサイドバイアス磁石27Bの構成は第1及び第2の実施形態で説明したとおりである。本実施形態では、端部バイアス磁石27Aとサイドバイアス磁石27Bは同じ方向に磁化されている。従って、本実施形態は製造プロセスを単純化することができる。また、保磁力の高い材料を高電圧で着磁する必要がないため、着磁のための設備も簡略化できる。第1〜第4のMR素子11A〜14Aのフリー層26の初期磁化方向D1は第1の実施形態と同じであり、フリー層26の初期磁化方向D1とレファレンス層24の磁化方向D3の関係も第1の実施形態と同じである。従って、
図10(b)に示すように、本実施形態の磁気センサ1Bは第1の実施形態の磁気センサ1と同様に作動する。
【0030】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態に係る磁気センサ1Cはバイアス磁石27の構成を除き第1の実施形態と同様である。
図11(a)は第4の実施形態に係る磁気センサ1Cの概略構成を示している。本実施形態では、一対のバイアス磁石27は、フリー層26の初期磁化方向D1における両側端部26A,26B(端部26Bは図示せず)と対向する端部バイアス磁石である。しかし、第1の実施形態と異なり、少なくとも一つのMR素子のフリー層26と一対のバイアス磁石27はいずれも、MR素子の積層方向Zからみて、互いに隣接する2辺が45°または135°の角をなす平行四辺形である。そして、バイアス磁石27の中心軸C2はフリー層26の中心軸C1に対して45°で傾斜している。本明細書では、このようなバイアス磁石27を斜めバイアス磁石27Cという。フリー層26と斜めバイアス磁石27Cの形状は上記に限定されず、互いに隣接する2辺が90°以外の角度をなす略平行四辺形であればよい。また、斜めバイアス磁石27Cの中心軸C2はフリー層26の中心軸C1に対して25°〜65°の角度θの範囲で傾斜していればよい。第1及び第2のMR素子11A,12Aの斜めバイアス磁石27Cの中心軸C2と、第3及び第4のMR素子13A,14Aの斜めバイアス磁石27Cの中心軸C2は、第1及び第2のMR素子11A,12Aと第3及び第4のMR素子13A,14Aとの間にあってフリー層26の中心軸C1と平行な線C4に関し線対称、すなわち互いに逆方向に傾斜している。全てのフリー層26の中心軸C1は同じ方向を向いており、全ての斜めバイアス磁石27Cは同じ方向に磁化されている。
【0031】
図11(c)は斜めバイアス磁石27Cの磁化を模式的に示している。図において、斜めバイアス磁石27Cは磁化方向D2に磁化されている。従って、斜めバイアス磁石27Cを微小磁区に分割すると、各微小磁区は左側がS極、右側がN極となるように磁化される。斜めバイアス磁石27Cは線C4に対して鏡対称で傾斜しているため、左側の斜めバイアス磁石27Cはフリー層26に面する斜面に沿ってS極が現れ、右側の斜めバイアス磁石27Cはフリー層26に面する斜面に沿ってN極が現れる。このため、左側の斜めバイアス磁石27Cでは斜め上向きのバイアス磁界が生じ、右側の斜めバイアス磁石27Cでは斜め下向きのバイアス磁界が生じる。従って、第1及び第2のMR素子11A,12Aのフリー層26と第3及び第4のMR素子13A,14Aのフリー層26に互いに反平行の成分(+Y方向または−Y方向)をもったバイアス磁界を掛けることができる。本実施形態では、第1〜第4のMR素子11A〜14Aのフリー層26の初期磁化方向は第1の実施形態と類似しており、フリー層26の初期磁化方向D1とレファレンス層24の磁化方向D3の関係も第1の実施形態と類似している。従って、
図11(b)に示すように、本実施形態の磁気センサ1Bは第1の実施形態の磁気センサ1と同様に作動する。
【0032】
(実施例)
第1の実施形態の磁気センサ1に模擬的な応力を加えて出力V1,V2,V1−V2を計測した。
図12(a)に示すように、リード線32を介して基板31に磁気センサ1を固定した。次に
図12(b)に示すように、基板31の裏側から基板31をプレート33で+Z方向に押し付けた。基板31は上向きに湾曲するため、リード線32は外側に広がるように変形する。これによってリード線32を介して磁気センサ1に引張応力を掛けることができる。
図12(c)は
図12(b)のA方向からみた上視図であり、同図に示すように、最も外部応力の影響が大きい45°方向に基板31をプレート33で押し付けた。これによって、
図1に示す引張応力Sを模擬した。基板31の+Z方向変位量Dを変化させて出力V1,V2,V1−V2の変化を計測した。同様の試験を
図4に示す比較例の磁気センサ101に対しても実施した。
【0033】
図13(a)は、比較例の磁気センサ101の、変位量Dに対する出力V1,V2,V1−V2の変化を示す。変位量Dが増えるに従い出力V1,V2のオフセットが増加するが、前述した理由により出力V1のオフセットはプラス方向に増加し、出力V2のオフセットはマイナス方向に増加する。このため、V1−V2は変位量Dが増えるに従い増加する。
図13(b)は、第1の実施形態の磁気センサ1の、変位量Dに対する出力V1,V2,V1−V2の変化を示す。出力V1,V2のオフセットはともにプラス方向に増加するため、V1−V2は変位量Dが増えてもほとんど変化がなく、オフセットはほぼ完全に抑制されている。
【0034】
図14(a)〜14(d)はそれぞれ、第1〜第4の実施形態の磁気センサ1,1A,1B,1Cの変形例を示している。これらの図には第1の電気抵抗要素11だけを示している。第1の電気抵抗要素11は直列に接続された複数のMRセンサ11Aを有している。具体的には、互いに隣接する2つのMRセンサ11Aが、上部電極層(図示せず)に接続された上部リード28または下部電極層(図示せず)に接続された下部リード29を介して、互いに接続されている。上部リード28で接続された2つのMRセンサ11Aと下部リード29で接続された2つのMRセンサ11Aは直列に接続されている。上部リード28と下部リード29はバイアス磁石27から離隔している。図示は省略するが、第2〜第4の電気抵抗要素12〜14についても同様である。第1の電気抵抗要素11を構成する一部のMRセンサ11Aでは、フリー層26の初期磁化方向が+Y方向(または概略+Y方向)を向き、他のMRセンサ11Aでは、フリー層26の初期磁化方向D1が−Y方向(または概略−Y方向)を向いている。一つの電気抵抗要素の電気抵抗がある特定の応力下で増加または減少する限り、フリー層26の初期磁化方向D1が互いに逆方向を向く複数のMR素子11Aが一つの電気抵抗要素に混在していてもよい。
【0035】
以上説明した磁気センサは、例えばフリー層26の面内2方向(X方向及びY方向)の磁界を検出する方位検出器またはコンパスとして用いることができる。
図15(a)は磁気センサ1を備える方位検出器2Aの概略構成図を示している。磁気センサ1は4つの電気抵抗要素11〜14を有し、各電気抵抗要素11〜14はX方向及びY方向の磁界を検出可能な少なくとも一つのMRセンサを有している。X方向及びY方向の磁界を検出できる限り、各電気抵抗要素11〜14の構成は限定されない。例えば、X方向に感磁軸を有するMRセンサとY方向に感磁軸を有するMRセンサとを直列に配列してもいいし、X方向及びY方向に対して斜め方向の感磁軸を有する少なくとも一つのMRセンサを設けていてもよい。各電気抵抗要素11〜14の内部に示す矢印は、各電気抵抗要素11〜14が検出可能な磁界の方向を示している。
図15(b)は、磁界の角度θ(
図15(a)参照)に対するV2−V1の変化を示している。方位検出器2AがX−Y面内を回転することでV2−V1が変化するため、V2−V1の最大値と最小値に基づきθ=90°の方向とθ=−90°の方向を検出することができる。
【0036】
図16(a)は磁気センサを備える他の方位検出器2Bの概略構成図を示している。本実施形態では2つの磁気センサ1D,1Eが組み合わされている。第1の磁気センサ1Dは
図14に示す磁気センサと同じ特性を示し、第2の磁気センサ1Eは第1のセンサ1Dを全体的に時計回りに90°回転した構成となっている。
図16(b)は磁界の角度θ(
図16(a)参照)に対するV2−V1の変化を示している。第2の磁気センサ1Eの出力V3−V4は第1の磁気センサ1Dに対して特性が90°ずれている。このため、第1の磁気センサ1Dと第2の磁気センサ1Eの出力を切り替えて読み出すことでX方向及びY方向の磁界強度並びに磁界の角度θを知ることができる。磁界の角度θは、第1の磁気センサ1Dの出力を(V2−V1)
1,第2の磁気センサ1Eの出力を(V2−V1)
2とすれば、θ=arctan((V2−V1)
1/(V2−V1)
2)として求めることができる。本実施形態の方位検出器は、例えば第1〜3の実施形態の磁気センサ1,1A,1Bを組み合わせて実現することができる。
【0037】
さらに、詳細な説明は省略するが、本発明の磁気センサは上述の方位検出器だけでなく、磁気エンコーダ用センサ、位置検知センサ、回転角度検知センサ、電流センサ、磁気スイッチ、及びそれらを組み込んだモジュールや装置にも適用することができる。