(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0036】
<A.第1実施形態>
以下、本発明に係る合わせガラスをウインドシールドに適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るウインドシールドの平面図、
図2は
図1の断面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るウインドシールドは、外側ガラス板(第2ガラス板)1、内側ガラス板(第1ガラス板)2、及びこれらガラス板1,2の間に配置される中間層3を備えている。また、内側ガラス板2の上端部及び下端部には、切欠き部21,22がそれぞれ形成されており、各切欠き部21,22では、中間層3から延びる接続材41,42がそれぞれ露出している。以下、各部材について説明する。
【0037】
<1.合わせガラスの概要>
<1−1.ガラス板>
各ガラス板1,2は、同じ矩形状に形成されており、上述したように、内側ガラス板2の上端部及び下端部には、円弧状の切欠き部がそれぞれ形成されている。以下では、内側ガラス板2の上端部に形成された切欠き部を第1切欠き部21、下端部に形成された切欠き部を第2切欠き部22と称することとする。また、各ガラス板11,12としては、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。但し、これらのガラス板11、12は、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、外側ガラス板11により必要な日射吸収率を確保し、内側ガラス板12により可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラス、熱線吸収ガラス、及びソーダ石灰系ガラスの組成の一例を示す。
【0038】
(クリアガラス)
SiO
2:70〜73質量%
Al
2O
3:0.6〜2.4質量%
CaO:7〜12質量%
MgO:1.0〜4.5質量%
R
2O:13〜15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe
2O
3に換算した全酸化鉄(T−Fe
2O
3):0.08〜0.14質量%
【0039】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe
2O
3に換算した全酸化鉄(T−Fe
2O
3)の比率を0.4〜1.3質量%とし、CeO
2の比率を0〜2質量%とし、TiO
2の比率を0〜0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO
2やAl
2O
3)をT−Fe
2O
3、CeO
2およびTiO
2の増加分だけ減じた組成とす
ることができる。
【0040】
(ソーダ石灰系ガラス)
SiO
2:65〜80質量%
Al
2O
3:0〜5質量%
CaO:5〜15質量%
MgO:2質量%以上
NaO:10〜18質量%
K
2O:0〜5質量%
MgO+CaO:5〜15質量%
Na
2O+K
2O:10〜20質量%
SO
3:0.05〜0.3質量%
B
2O
3:0〜5質量%
Fe
2O
3に換算した全酸化鉄(T−Fe
2O
3):0.02〜0.03質量%
【0041】
本実施形態に係る合わせガラスの厚みは特には限定されないが、軽量化の観点からは、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みの合計を、2.4〜4.6mmとすることが好ましく、2.6〜3.4mmとすることがさらに好ましく、2.7〜3.2mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、外側ガラス板11と内側ガラス板12との合計の厚みを小さくすることが必要であるので、各ガラス板のそれぞれの厚みは、特には限定されないが、例えば、以下のように、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みを決定することができる。
【0042】
外側ガラス板1は、主として、外部からの障害に対する耐久性、耐衝撃性が必要であり、例えば、この合わせガラスを自動車のウインドシールドとして用いる場合には、小石などの飛来物に対する耐衝撃性能が必要である。他方、厚みが大きいほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板1の厚みは1.0〜3.0mmとすることが好ましく、1.6〜2.3mmとすることがさらに好ましい。何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0043】
内側ガラス板2の厚みは、外側ガラス板1と同等にすることができるが、例えば、合わせガラスの軽量化のため、外側ガラス板11よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、0.6〜2.0mmであることが好ましく、0.8〜1.8mmであることがさらに好ましく、1.0〜1.6mmであることが特に好ましい。更には、0.8〜1.3mmであることが好ましい。内側ガラス板2についても、何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る外側ガラス板1及び内側ガラス板2の形状は、湾曲形状であってもよい。但し、各ガラス板1、2が湾曲形状である場合には、ダブリ量が大きくなると遮音性能が低下するとされている。ダブリ量とは、ガラス板の曲げを示す量であり、例えば、
図3に示すように、ガラス板の上辺の中央と下辺の中央とを結ぶ直線Lを設定したとき、この直線Lとガラス板との距離のうち最も大きいものをダブリ量Dと定義する。
【0045】
図4は、湾曲形状のガラス板と、平面形状のガラス板の、一般的な周波数と音響透過損失の関係を示すグラフである。
図4によれば、湾曲形状のガラス板は、ダブリ量が30〜38mmの範囲では、音響透過損失(STL:Sound Transmission Loss)に大きな差は
ないが、平面形状のガラス板と比べると、4000Hz以下の周波数帯域で音響透過損失が低下していることが分かる。したがって、湾曲形状のガラス板を作製する場合、ダブリ量は小さい方が好ましい。具体的には、ダブリ量を30mm未満とすることが好ましく、25mm未満とすることがさらに好ましく、20mm未満とすることが特に好ましい。
【0046】
ここで、ガラス板が湾曲している場合の厚みの測定方法の一例について説明する。まず、測定位置については、
図5に示すように、ガラス板の左右方向の中央を上下方向に延びる中央線S上の上下2箇所である。測定機器は、特には限定されないが、例えば、株式会社テクロック製のSM−112のようなシックネスゲージを用いることができる。測定時には、平らな面にガラス板の湾曲面が載るように配置し、上記シックネスゲージでガラス板の端部を挟持して測定する。
【0047】
<1−2.中間層>
続いて、中間層3について説明する。中間層3は、発熱層31、及びこの発熱層31を挟持する一対の接着層32,33、を有する3層で構成されている。以下では、外側ガラス板1側に配置される接着層を第1接着層32、内側ガラス板2側に配置される接着層を第2接着層33と称することとする。なお、本実施形態では、中間層3の上端部が本発明の第1端部を構成し、下端部が第2端部を構成するが、これが反対であってもよい。
【0048】
<1−2−1.発熱層>
まず、発熱層31について説明する。発熱層31は、シート状の基材311と、この基材311上に配置される、第1バスバー312、第2バスバー313、及び複数の加熱線314を備えている。基材311は、上記ガラス板1,2と対応するように矩形状に形成することができるが、必ずしも両ガラス板1,2と同形状でなくてもよく、両ガラス板1,2よりも小さい形状であってもよい。例えば、
図1に示すように、上下方向には、内側ガラス板2の切欠き部21,22と干渉しないように、両切欠き部21,22間の長さよりも短くすることができる。また、基材311の左右方向の長さも両ガラス板1,2の幅よりも短くすることができる。
【0049】
そして、第1バスバー312は、基材311の上辺に沿って延びるように形成されている。一方、第2バスバー313は、基材311の下辺に沿って延びるように形成されている。但し、各バスバー312,313は、中間層3が両ガラス板1,2に挟持されたときに、上述した切欠き部21,22から、それぞれ露出しないように、切欠き部21,22よりも内側に配置される。なお、各バスバー312,313の幅は、例えば、5〜50mmであることが好ましく、10〜30mmであることがさらに好ましい。これは、バスバー312,313の幅が5mmより小さいと、ヒートスポット現象が生じ、加熱線314よりも高く発熱するおそれがある一方、バスバー312,313の幅が50mmよりも大きいと、バスバー312,313により視野が妨げられるおそれがあることによる。また、各バスバー312,313は、正確に基材311に沿って形成されていなくてもよい。すなわち、基材311の端縁と完全に平行でなくてもよく、曲線状などにすることもできる。
【0050】
複数の加熱線314は、両バスバー312,313を結ぶように、上下方向に延びるように形成されている。また、複数の加熱線314は、概ね平行に配置されている。各加熱線314は、直線状に形成できるほか、波形など、種々の形状にすることができる。特に、各加熱線314を正弦波形状にすることで、熱の分布が均一になるほか、光学的に、加熱線314がウインドシールドの視野を妨げるのを防止することができる。加熱線314の線幅、及び間隔は、次のように設定することができる。すなわち、各加熱線314の線幅は、3〜20μmであることが好ましく、5〜13μmであることがさらに好ましく、8〜10μmであることが特に好ましい。また、隣接する加熱線314の間隔は、1〜4mmであることが好ましく、1.25〜3mmであることがさらに好ましく、1.25〜2.5mmであることが特に好ましい。
【0051】
次に、発熱層31の材料について説明する。基材311は、両バスバー312,313、加熱線314を支持する透明のフィルムであり、その材料は特には限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロンなどで形成することができる。また、両バスバー312,313及び加熱線314は、同一の材料で形成することができ、銅(またはスズメッキされた銅)、タングステン、銀など、種々の材料で形成することができる。
【0052】
続いて、両バスバー312,313、加熱線314の形成方法について説明する。これら両バスバー312,313、加熱線314は、予め形成された細線(ワイヤなど)などを基材311上に配置することで形成できるが、特に、加熱線314の線幅をより細くするには、基材311上にパターン形成することで、加熱線314を形成することができる。その方法は、特には限定されないが、印刷、エッチング、転写など、種々の方法で形成することができる。このとき、各バスバー312,313、加熱線314を別々に形成することもできるし、これらを一体的に形成することもできる。なお、「一体的」とは、材料間に切れ目がなく(シームレス)、界面が存在しないことを意味する。
【0053】
また、両バスバー312,313を基材311上で形成し、加熱線314用の基材311を残して、バスバー312,313に対応する部分の基材311を剥離して取り外す。その後、両バスバーの間の基材上に加熱線を配置することもできる。
【0054】
特に、エッチングを採用する場合には、一例として、次のようにすることができる。まず、基材311にプライマー層を介して金属箔をドライラミネートする。金属箔としては、例えば、銅を用いることができる。そして、金属箔に対して、フォトリソグラフィー法を利用したケミカルエッチング処理を行うことにより、基材311上に、両バスバー312,313、複数の加熱線314を一体的にパターン形成することができる。特に、加熱線314の線幅を小さくする場合(例えば、15μm以下)には、薄い金属箔を用いることが好ましく、薄い金属層(例えば、5μm以下)を基材311上に蒸着やスパッタリング等により形成し、その後、フォトリソグラフィーによりパターニングを実施してもよい。
【0055】
<1−2−2.接着層>
両接着層32,33は、発熱層31を挟持するとともに、ガラス板1,2への接着を行うためのシート状の部材である。両接着層32,33は、両ガラス板1,2と同じ大きさに形成されているが、両接着層32,32には、内側ガラス板2の切欠き部21,22と対応する位置に同形状の切欠き部がそれぞれ形成されている。また、これら接着層32,33は、種々の材料で形成することができるが、例えば、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、エチレンビニルアセテート(EVA)などによって形成することができる。特に、ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板との接着性のほか、耐貫通性にも優れるので好ましい。なお、接着層と発熱層との間に界面活性剤の層を設けることもできる。このような界面活性剤により両層の表面を改質することができ、接着力を向上することができる。
【0056】
<1−2−2.中間層の厚み>
また、中間層3の総厚は、特に規定されないが、0.3〜6.0mmであることが好ましく、0.5〜4.0mmであることがさらに好ましく、0.6〜2.0mmであることが特に好ましい。また、発熱層31の基材311の厚みは、0.01〜2.0mmであることが好ましく、0.03〜0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各接着層32,33の厚みは、発熱層31の厚みよりも大きいことが好ましく、具体的には、0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.1〜1.0mmであることがさらに好ましい。なお、第2接着層33と基材311とを密着させるため、その間に挟まれる両バスバー312,313、加熱線314の厚みは、3〜20μmであることが好ましい。
【0057】
発熱層31及び接着層32,33の厚みは、例えば、以下のように測定することができる。まず、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VH−5500)によって合わせガラスの断面を175倍に拡大して表示する。そして、発熱層31及び接着層32,33の厚みを目視により特定し、これを測定する。このとき、目視によるばらつきを排除するため、測定回数を5回とし、その平均値を発熱層31及び接着層32,33の厚みとする。
【0058】
なお、中間層3の発熱層31及び接着層32,33の厚みは全面に亘って一定である必要はなく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に楔形にすることもできる。この場合、中間層3の発熱層31及び接着層32,33の厚みは、最も厚みの小さい箇所、つまり合わせガラスの最下辺部を測定する。中間層3が楔形の場合、外側ガラス板1及び内側ガラス板2は、平行に配置されないが、このような配置も本発明におけるガラス板に含まれるものとする。すなわち、本発明においては、例えば、1m当たり3mm以下の変化率で厚みが大きくなる発熱層31及び接着層32,33を用いた中間層3を使用した時の外側ガラス板1と内側ガラス板2の配置を含む。
【0059】
<1−3.接続材>
次に、接続材について説明する。接続材41,42は、各バスバー312,313と接続端子(陽極端子又は陰極端子:図示省略)とを接続するためのものであり、導電性の材料によりシート状に形成されている。以下では、第1バスバー312に接続される接続材を第1接続材41、第2バスバー313に接続される接続材を第2接続材42と称することとする。また、両接続材41,42の構成は同じであるため、以下では主として第1接続材41について説明する。
【0060】
第1接続材41は、矩形状に形成されており、第1バスバー312と第2接着層33との間に挟まれる。そして、半田などの固定材5によって第1バスバー312に固定される。固定材5としては、後述するウインドシールドの組立て時にオートクレーブで同時に固定することができるよう、例えば、150℃以下の低融点の半田を用いることが好ましい。また、第1接続材41は、第1バスバー312から外側ガラス板1の上端縁まで延び、内側ガラス板2に形成された第1切欠き部21から露出するようになっている。そして、この露出部分において、電源へと延びるケーブルが接続された接続端子が半田などの固定材によって接続される。このように、両接続材41,42は、両ガラス板1,2の端部から突出することなく、内側ガラス板2の切欠き部21,22から露出した部分に接続端子が固定されるようになっている。なお、両接続材41,42は、薄い材料で形成されているため、
図2に示すように、折り曲げた上で、端部を固定材5でバスバー312に固定することができる。
【0061】
<2.ウインドシールドの製造方法>
次に、ウインドシールドの製造方法について説明する。まず、ガラス板の製造ラインについて説明する。
【0062】
ここで、成形型について、
図6及び
図7を参照しつつ、さらに詳細に説明する。
図6は成形型が通過する炉の側面図、
図7は成形型の平面図である。
図7に示すように、この成形型800は、両ガラス板1,2の外形と概ね一致するような枠状の型本体810を備えている。この型本体810は、枠状に形成されているため、内側には上下方向に貫通する内部空間820を有している。そして、この型本体810の上面に平板状の両ガラス板1,2の周縁部が載置される。そのため、このガラス板1,2には、下側に配置されたヒータ(図示省略)から、内部空間820を介して熱が加えられる。これにより、両ガラス板1,2は加熱により軟化し、自重によって下方へ湾曲することとなる。なお、型本体810の内周縁には、熱を遮蔽するための遮蔽板840を配置することがあり、これによってガラス板1,2が受ける熱を調整することができる。また、ヒータは、成形型800の下方のみならず、上方に設けることもできる。
【0063】
そして、平板状の外側ガラス板1及び内側ガラス板2は重ね合わされ、上記成形型800に支持された状態で、
図6に示すように、加熱炉802を通過する。加熱炉802内で軟化点温度付近まで加熱されると、両ガラス板1,2は自重によって周縁部よりも内側が下方に湾曲し、曲面状に成形される。続いて、両ガラス板1,2は加熱炉802から徐冷炉803に搬入され、徐冷処理が行われる。その後、両ガラス板1,2は、徐冷炉803から外部に搬出されて放冷される。
【0064】
こうして、外側ガラス板11及び内側ガラス板12が成形されると、これに続いて、中間層3を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟む。具体的には、まず、外側ガラス板1、第1接着層32、発熱層31、第2接着層33、及び内側ガラス板2をこの順で積層する。このとき、発熱層31は、第1バスバー312等が形成された面を第2接着層33側に向ける。また、発熱層31の上下の端部は、内側ガラス板2の切欠き部21,22よりも内側に配置される。さらに、第1及び第2接着層32,33の切欠き部を、内側ガラス板2の切欠き部21,22と一致させる。これにより、内側ガラス板2の切欠き部21,22からは、外側ガラス板1が露出する。続いて、各切欠き部21,22から、発熱層31と第2接着層33との間に、各接続材41,42を挿入する。このとき、各接続材41,42には固定材5として低融点の半田を塗布しておき、この半田が各バスバー312,313上に配置されるようにしておく。
【0065】
こうして、両ガラス板1,2、中間層3、及び接続材41,42が積層された積層体を、ゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70〜110℃で予備接着する。予備接着の方法は、これ以外でも可能であり、次の方法を採ることもできる。例えば、上記積層体をオーブンにより45〜65℃で加熱する。次に、この積層体を0.45〜0.55MPaでロールにより押圧する。続いて、この積層体を、再度オーブンにより80〜105℃で加熱した後、0.45〜0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0066】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた積層体を、オートクレーブにより、例えば、8〜15気圧で、100〜150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で135℃の条件で本接着を行うことができる。以上の予備接着及び本接着を通して、両接着層32,33が、発熱層31を挟んだ状態で各ガラス板1,2に接着される。また、接続材41,42の半田が溶融し、各接続材41,42が各バスバー312,313に固定される。こうして、本実施形態に係る合わせガラスが製造される。
【0067】
<3.ウインドシールドの使用方法>
上記のように構成されたウインドシールドは、車体に取付けられ、さらに各接続材41,42には、接続端子が固定される。その後、各接続端子に通電すると、接続材41,42、各バスバー312,313を介して加熱線314に電流が印加され、発熱する。この発熱により、ウインドシールドの曇りを除去することができる。
【0068】
<4.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0069】
(1) 両バスバー312,313と加熱線314とが同じ材料で形成されているため、両バスバー312,313及び加熱線314の線膨張係数が同じになる。これにより、次のような利点がある。両バスバー312,313と加熱線314を異なる材料で形成した場合には、線膨張係数が異なるため、例えば、これらの部材を別々に作製して固定した場合には、ヒートサイクル試験などの過酷な環境変化によって、バスバーから加熱線が剥がれたり、これに起因して合わせガラスを構成する2枚のガラス板が互いに浮き上がる、といった不具合が生じる可能性があるが、本実施形態のように、両バスバー312,313と加熱線314とが同じ材料で形成すると、そのような不具合を防止することができる。
【0070】
(2) 両バスバー312,313と加熱線314とを一体的に形成しているため、両者の間の接触不良,ひいては発熱不良を防止することができる。発熱不良について詳細に説明すると、以下の通りである。一般的に、防曇のためにガラス板を加熱する場合には、ガラスクラックの発生を防止するため、加熱温度の上限値を、例えば70〜80℃となるように電流値を制御することが求められる。これに対して、上記のような接触抵抗による局所的な発熱があれば、その部分を加熱温度の上限値として電流値の制御を行う必要がある。その結果、加熱線が全体的に十分に発熱するように制御できないという問題がある。しかしながら、上記構成によれば、局所的な発熱を防止できるため、加熱線も全体的に十分に発熱できるよう制御することができる。
【0071】
この点について、さらに詳細な試験をしたところ、以下の結果が得られた。すなわち、以下の条件で、両バスバー及び加熱線を異なる材料で形成し、加熱試験を行った。
・加熱線の線径:18μm
・加熱線のピッチ:2mm
・加熱線の配置領域の外形:816*316mm
・電力:430W/m
2
・バスバーの材質:スズめっきがされた銅
・加熱線の材質:タングステン
・試験環境:80℃ 95%で1000h放置
【0072】
以上の条件の試験の後、一方のバスバーのみが温度が60℃に上昇していた。したがって、両バスバー及び加熱線を別個に、異なる材料で形成すると、局所的な発熱が生じることが分かった。
【0073】
両バスバー312,313と加熱線314とを一体的に形成するに当たって、両バスバー312,313と加熱線314をエッチングなどにより形成すれば、より細い加熱線、例えば、線幅が10〜15μm程度の加熱線314を形成することができる。これにより、加熱線314によるウインドシールドの視野の妨げをより防止することができ、
【0074】
(3) 両バスバー312,313と加熱線314が配置された発熱層31を,接着層32,33によって挟持し、これを両ガラス板1,2の間に配置している。そのため、発熱層31を,両ガラス板1,2に対して確実に固定することができる。また、第2接着層33により、両バスバー312,313と加熱線314を覆うことで、これらがガラス板に接触するのを防止することができる。その結果、ガラス板の割れなどを未然に防ぐことができる。
【0075】
(4) 上記実施形態では、2つの接続材41,42を用いて各バスバー312,313と外部の端子とを接続するようにしているが、例えば、幅の広いバスバーを準備し、このバスバーの不要な部分をカットした上で、一部を切欠き部21,22から露出させることで、接続材の代わりにすることも考えられる。しかしながら、このようにすると、カットしたバスバーの角部で局所的な発熱が生じることも考えられる。これに対して、本実施形態では、各バスバー312,313に別体の接続材41,42を固定しているため、そのような局所的な発熱を防止することができる。
【0076】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。また、以下の変形例は適宜組合せが可能である。
【0077】
<5.1>
上記実施形態では、中間層3を発熱層31と、一対の接着層32,33の合計3層で形成したが、これに限定されるものではない。すなわち、中間層3には、少なくとも両バスバー312,313及び加熱線314が含まれていればよい。したがって、例えば、接着層を1層だけにしたり、発熱層31を接着剤などで両ガラス板1,2の間に挟むこともできる。また、発熱層31に基材311を設けないこともできる。
【0078】
<5.2>
発熱層31は、種々の形状にすることができる。例えば、予め基材311上に両バスバー312,313と加熱線314が形成されたシート状の発熱層31を準備しておき、これを適宜切断し、適当な形状にした上で、両ガラス板1,2の間に配置することができる。したがって、例えば、ガラス板1,2の端縁が湾曲していれば、それに合わせて基材311の端縁を湾曲させてもよい。また、発熱層31をガラス板1,2の形状と完全に一致させる必要はなく、防曇効果を得たい部分にのみ配置することができるため、ガラス板1,2よりも小さい形状など種々の形状にすることができる。なお、ガラス板1,2も完全な矩形以外に種々の形状にすることができる。
【0079】
また、上記実施形態では、基材311上に両バスバー312,313と加熱線314を配置しているが、少なくとも加熱線314が配置されていればよい。したがって、例えば、両バスバー312,313を両接着層32,33の間に配置することもできる。
【0080】
<5.3>
接続材41,42の形態や内側ガラス板2の切欠き部21,22の構成も特には限定されない。例えば、
図8に示すように、内側ガラス板2に、接続材41,42の厚み程度の小さい切欠き部21,22を形成し、各バスバー312,313から延びる接続材41,42をこの切欠き部21,22で折り返し、内側ガラス板2の表面に貼り付けておくこともできる。こうすることで、接続材41,42が合わせガラスの端部から面方向に突出するのを防止することができる。
【0081】
<5.4>
各ガラス板1,2の構成も特には限定されない。例えば、少なくとも一方のガラス板の表面(例えば、周縁領域)に、黒色のセラミックを塗布した上で、加熱、成形し、外部からの視野を遮る黒色の遮蔽領域を形成することもできる。また、ガラス板1,2は、上記のような自重によって湾曲させるほか、成形型でプレスしてガラス板を湾曲させることもできる。
【0082】
<5.5>
上記実施形態では、本発明の合わせガラスを自動車のウインドシールドに適用した例を示したが、これに限定されるものではなく、電車などの他の乗り物、建物の窓ガラスなどに適用することもできる。
【0083】
<B.第2実施形態>
以下、本発明に係るウインドシールドの実施形態について説明する。まず、
図9及び
図10を用いて、本実施形態に係るウインドシールドの構成について説明する。
図9はウインドシールドの平面図、
図10は
図9の断面図である。なお、説明の便宜のため、
図9の上下方向を「上下」、「垂直」、「縦」と、
図9の左右方向を「左右」と称することとする。
図9は、車内側から見たウインドシールドを例示している。すなわち、
図9の紙面奥側が車外側であり、
図9の紙面手前側が車内側である。
【0084】
このウインドシールドは、略矩形状の合わせガラス10を備えており、傾斜状態で車体に設置されている。そして、この合わせガラス10の車内側を向く内面130には、車外からの視野を遮蔽するマスク層110が設けられており、撮影装置2は、このマスク層110により車外から見えないように配置されている。但し、撮影装置2は、車外の状況を撮影するためのカメラである。そのため、マスク層110には撮影装置2と対応する位置に撮影窓113が設けられ、この撮影窓113を介して、車内に配置された撮影装置2は、撮影するなどして車外の状況の情報を取得可能となっている。さらに、撮影窓113には、防曇シート7が取り付けられている。
【0085】
また、撮影装置2には情報処理装置3が接続しており、撮影装置2により取得された撮影画像などの情報はこの情報処理装置3で処理される。撮影装置2及び情報処理装置3は車載システム5を構成しており、この車載システム5は、情報処理装置3の処理に応じて様々な情報を乗車者に提供することができる。以下、各構成要素について説明する。
【0086】
<1.合わせガラス>
合わせガラスは、
図10に示されるように、外側ガラス板11と内側ガラス板12との間に中間膜13を挟んだものである。外側ガラス板11及び内側ガラス板11は、第1実施形態で示したものと概ね同じであるが、中間膜13は、次のものを用いることができる。
【0087】
<1−1.中間膜>
中間膜13は、少なくとも一層で形成されており、一例として、軟質のコア層を、これよりも硬質のアウター層で挟持した3層で構成することができる。但し、この構成に限定されるものではなく、コア層と、外側ガラス板11側に配置される少なくとも1つのアウター層とを有する複数層で形成されていればよい。例えば、コア層と、外側ガラス板11側に配置される1つのアウター層を含む2層の中間膜13、またはコア層を中心に両側にそれぞれ2層以上の偶数のアウター層を配置した中間膜13、あるいはコア層を挟んで一方に奇数のアウター層、他方の側に偶数のアウター層を配置した中間膜とすることもできる。なお、アウター層を1つだけ設ける場合には、上記のように外側ガラス板11側に設けているが、これは、車外や屋外からの外力に対する耐破損性能を向上するためである。また、アウター層の数が多いと、遮音性能も高くなる。
【0088】
コア層はアウター層よりも軟質であるかぎり、その硬さは特には限定されない。各層を構成する材料は、特には限定されないが、例えば、ヤング率を基準として材料を選択することができる。具体的には、周波数100Hz,温度20度において、1〜20MPaであることが好ましく、1〜18MPaであることがさらに好ましく、1〜14MPaであることが特に好ましい。このような範囲にすると、概ね3500Hz以下の低周波数域で、STLが低下するのを防止することができる。一方、アウター層のヤング率は、後述するように、高周波域における遮音性能の向上のために、大きいことが好ましく、周波数100Hz,温度20度において560MPa以上、600MPa以上、650MPa以上、700MPa以上、750MPa以上、880MPa以上、または1300MPa以上とすることができる。一方、アウター層のヤング率の上限は特には限定されないが、例えば、加工性の観点から設定することができる。例えば、1750MPa以上となると、加工性、特に切断が困難になることが経験的に知られている。
【0089】
また、具体的な材料としては、アウター層は、例えば、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)によって構成することができる。ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板との接着性や耐貫通性に優れるので好ましい。一方、コア層は、例えば、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、またはアウター層を構成するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質なポリビニルアセタール樹脂によって構成することができる。軟質なコア層を間に挟むことにより、単層の樹脂中間膜と同等の接着性や耐貫通性を保持しながら、遮音性能を大きく向上させることができる。
【0090】
一般に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。したがって、それらの条件から選ばれる少なくとも1つを適切に調整することにより、同じポリビニルブチラール樹脂であっても、アウター層に用いる硬質なポリビニルブチラール樹脂と、コア層に用いる軟質なポリビニルブチラール樹脂との作り分けが可能である。さらに、アセタール化に用いるアルデヒドの種類、複数種類のアルデヒドによる共アセタール化か単種のアルデヒドによる純アセタール化によっても、ポリビニルアセタール樹脂の硬度を制御することができる。一概には言えないが、炭素数の多いアルデヒドを用いて得られるポリビニルアセタール樹脂ほど、軟質となる傾向がある。したがって、例えば、アウター層がポリビニルブチラール樹脂で構成されている場合、コア層には、炭素数が5以上のアルデヒド(例えばn−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−へプチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド)、をポリビニルアルコールでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。なお、所定のヤング率が得られる場合は、上記樹脂等に限定されることはい。
【0091】
また、中間膜13の総厚は、特に規定されないが、0.3〜6.0mmであることが好ましく、0.5〜4.0mmであることがさらに好ましく、0.6〜2.0mmであることが特に好ましい。また、コア層の厚みは、0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.1〜0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各アウター層の厚みは、0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.1〜1.0mmであることがさらに好ましい。その他、中間膜13の総厚を一定とし、この中でコア層の厚みを調整することもできる。
【0092】
コア層及びアウター層の厚みは、例えば、以下のように測定することができる。まず、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VH−5500)によって合わせガラスの断面を175倍に拡大して表示する。そして、コア層及びアウター層の厚みを目視により特定し、これを測定する。このとき、目視によるばらつきを排除するため、測定回数を5回とし、その平均値をコア層、アウター層の厚みとする。
【0093】
なお、中間膜13のコア層、アウター層の厚みは全面に亘って一定である必要はなく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に楔形にすることもできる。この場合、中間膜13のコア層やアウター層の厚みは、最も厚みの小さい箇所、つまり合わせガラスの最下辺部を測定する。中間膜13が楔形の場合、外側ガラス板及び内側ガラス板は、平行に配置されないが、このような配置も本発明におけるガラス板に含まれる物とする。すなわち、本発明においては、例えば、1m当たり3mm以下の変化率で厚みが大きくなるコア層やアウター層を用いた中間膜13を使用した時の外側ガラス板と内側ガラス板の配置を含む。
【0094】
中間膜13の製造方法は特には限定されないが、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作成した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。また、中間膜13は、上記のような複数の層で形成する以外に、1層で形成することもできる。
【0095】
<1−2.合わせガラスの光学特性>
上記のように、本実施形態に係るウインドシールドは、撮影装置2により車外を撮影するため、車外の状況を撮影可能な程度に可視光の透過率を有することが必要となる。したがって、可視光の透過率が70%以上になるように構成される。なお、この透過率は、JIS R 3212(3.11 可視光透過率試験)で定められているように、JIS Z 8722に規定された分光測定法によって測定することができる。
【0096】
また、合わせガラスとしての紫外線透過率は、次の通りである。
Tuv380≦0.5% 且つ Tuv400≦2.5%
但し、Tuv380はISO9050:1990に定める紫外線透過率であり、Tuv400はISO13837:2008 convention Aに定める紫外線透過率である。紫外線透過率は、いずれも公知の分光光度計、たとえば「UV−3100PC」(島津製作所製)で測定することができる。また、Tuv400については、2%以下であることが好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
【0097】
このような紫外線透過率を実現するため、本発明のウィンドシールドは、合わせガラスの車内側表面と防曇シートとの間に、さらに紫外線遮蔽性を有する膜を有していてもよい。紫外線遮蔽性を有する膜として、紫外線吸収剤を含む有機無機複合膜や耐光性フィルムを例示できる。
【0098】
有機無機複合膜は、4官能シリコンアルコキシドの加水分解縮合生成物と、3官能シリコンアルコキシドの加水分解縮合生成物と、有機物である紫外線吸収剤と、有機ポリマとを含む膜であってもよい。耐光性フィルムは、ポリエステル製フィルムであって、紫外線吸収剤を0.05〜30質量%含有するフィルムであってもよい。なお、本発明のウインドシールドは、長波長紫外線吸収機能を有する中間膜を用いた合わせガラスを有していてもよい。
【0099】
<2.マスク層>
次に、マスク層110について説明する。
図9及び
図10に例示されるように、本実施形態では、マスク層110は、合わせガラス10の車内側の内面(内側ガラス板12の内面)130に積層され、合わせガラス10の周縁部に沿って形成されている。具体的には、
図9に例示されるように、本実施形態に係るマスク層110は、合わせガラス10の周縁部に沿う周縁領域111と、合わせガラス10の上辺部から下方に矩形状に突出した突出領域112とに分けることができる。周縁領域111は、ウインドシールド1の周縁部からの光の入射を遮蔽する。一方、突出領域112は、車内に配置される撮影装置2を車外から見えないようにする。
【0100】
但し、撮影装置2の撮影範囲をマスク層110が遮蔽してしまうと、撮影装置2によって車外前方の状況を撮影することができなくなってしまう。そのため、本実施形態では、マスク層110の突出領域112に、撮影装置2が車外の状況を可能なように、当該撮影装置2に対応する位置に矩形状の情報取得領域(開口)113が設けられている。すなわち、撮影窓113は、マスク層110より面方向内側の非遮蔽領域120から独立して設けられる。また、この撮影窓113は、マスク層110の材料が積層されない領域であり、合わせガラスが上述した可視光の透過率を有することで、車外の状況を撮影可能となっている。
【0101】
マスク層110は、上記のように、内側ガラス板12の内面に積層する以外に、例えば、外側ガラス板11の内面、内側ガラス板12の外面に積層することもできる。また、外側ガラス板11の内面と内側ガラス板12の内面の2箇所に積層することもできる。
【0102】
次に、マスク層110の材料について説明する。このマスク層110の材料は、車外からの視野を遮蔽可能であれば、実施の形態に応じて適宜選択されても良く、例えば、黒色、茶色、灰色、濃紺等の濃色のセラミックを用いてもよい。
【0103】
マスク層110の材料に黒色のセラミックが選択された場合、例えば、内側ガラス板12の内面130上の周縁部にスクリーン印刷等で黒色のセラミックを積層し、内側ガラス板12と共に積層したセラミックを加熱する。これによって、内側ガラス板12の周縁部にマスク層110を形成することができる。また、黒色のセラミックを印刷する際に、黒色のセラミックを部分的に印刷しない領域を設ける。これによって、撮影窓113を形成することができる。なお、マスク層110に利用するセラミックは、種々の材料を利用することができる。例えば、以下の表1に示す組成のセラミックをマスク層110に利用することができる。
【0104】
【表1】
*1,主成分:酸化銅、酸化クロム、酸化鉄及び酸化マンガン
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0105】
<3.車載システム>
次に、
図11を用いて、撮影装置2及び画像処理装置3を備える車載システム5について説明する。
図11は、車載システム5の構成を例示する。
図11に例示されるように、本実施形態に係る車載システム5は、上記撮影装置2と、当該撮影装置2に接続される画像処理装置3と、を備えている。
【0106】
画像処理装置3は、撮影装置2により取得された撮影画像を処理する装置である。この画像処理装置3は、例えば、ハードウェア構成として、バスで接続される、記憶部31、制御部32、入出力部33等の一般的なハードウェアを有している。ただし、画像処理装置3のハードウェア構成はこのような例に限定されなくてよく、画像処理装置3の具体的なハードウェア構成に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の追加、省略及び追加が可能である。
【0107】
記憶部31は、制御部32で実行される処理で利用される各種データ及びプログラムを記憶する(不図示)。記憶部31は、例えば、ハードディスクによって実現されてもよいし、USBメモリ等の記録媒体により実現されてもよい。また、記憶部31が格納する当該各種データ及びプログラムは、CD(Compact Disc)又はDVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体から取得されてもよい。更に、記憶部31は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。
【0108】
上記のとおり、合わせガラス10は、垂直方向に対して傾斜姿勢で配置され、かつ、湾曲している。そして、撮影装置2は、そのような合わせガラス10を介して車外の状況を撮影する。そのため、撮影装置2により取得される撮影画像は、合わせガラス10の姿勢、形状、屈折率、光学的欠陥等に応じて、変形している。また、撮影装置2のカメラレンズに固有の収差も加わる。そこで、記憶部31には、このような合わせガラス10およびカメラレンズの収差によって変形した画像を補正するための補正データが記憶されていてもよい。
【0109】
制御部32は、マイクロプロセッサ又はCPU(Central Processing Unit)等の1又は複数のプロセッサと、このプロセッサの処理に利用される周辺回路(ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、インタフェース回路等)と、を有する。ROM、RAM等は、制御部32内のプロセッサが取り扱うアドレス空間に配置されているという意味で主記憶装置と呼ばれてもよい。制御部32は、記憶部31に格納されている各種データ及びプログラムを実行することにより、画像処理部321として機能する。
【0110】
画像処理部321は、撮影装置2により取得される撮影画像を処理する。撮影画像の処理は、実施の形態に応じて適宜選択可能である。例えば、画像処理部321は、パターンマッチング等によって当該撮影画像を解析することで、撮影画像に写る被写体の認識を行ってもよい。本実施形態では、撮影装置2は車両前方の状況を撮影するため、画像処理部321は、更に、当該被写体認識に基づいて、車両前方に人間等の生物が写っていないかどうかを判定してもよい。そして、車両前方に人物が写っている場合には、画像処理部321は、所定の方法で警告メッセージを出力してもよい。また、例えば、画像処理部321は、所定の加工処理を撮影画像に施してもよい。そして、画像処理部321は、画像処理装置3に接続されるディスプレイ等の表示装置(不図示)に当該加工した撮影画像を出力してもよい。
【0111】
入出力部33は、画像処理装置3の外部に存在する装置とデータの送受信を行うための1又は複数のインタフェースである。入出力部33は、例えば、ユーザインタフェースと接続するためのインタフェース、又はUSB(Universal Serial Bus)等のインタフェースである。なお、本実施形態では、画像処理装置3は、当該入出力部33を介して、撮影装置2と接続し、当該撮影装置2により撮影された撮影画像を取得する。
【0112】
このような画像処理装置3は、提供されるサービス専用に設計された装置の他、PC(Personal Computer)、タブレット端末等の汎用の装置が用いられてもよい。
【0113】
また、上記情報取得装置は、図示を省略するブラケットに取り付けられ、このブラケットが、マスク層に取り付けられる。したがって、この状態で、情報取得装置のカメラの光軸が情報取得領域を通過するように、情報取得装置のブラケットへの取付、及びブラケットのマスク層への取付を調整する。また、ブラケットには撮影装置2を覆うように、図示を省略するカバーが取り付けられる。したがって、撮影装置2は、合わせガラス10、ブラケット、及びカバーで囲まれた空間内に配置され、車内側から見えないようなるとともに、車外側からも撮影窓113を通して撮影装置2の一部しか見えないようになっている。そして、撮影装置2と上述した入出力部33とは、図示を省略するケーブルで接続され、このケーブルはカバーから引き出され、車内の所定の位置に配置された画像処理装置3に接続されている。
【0114】
<4.防曇シート>
次に、防曇シートについて説明する。上述したように、防曇シートは、情報取得領域に貼り付けられるものであり、
図12に示すように、粘着層71、基材フィルム72、及び防曇層73がこの順で積層されたものである。
【0115】
また、情報取得領域に固定されるまでは、粘着層71には剥離可能な第1保護シート74が取り付けられ、防曇層73にも剥離可能な第2保護シート75が取り付けられ、これら5層によって防曇積層体が構成されている。
【0116】
この防曇シート7は、撮影窓113と対応する形状に形成されるが、例えば、撮影窓113よりもやや小さい形状に形成することができる。あるいは、撮影窓113よりも大きく、撮影窓113を超えてマスク層110の一部を覆うように形成することもできる。以下、各層について説明する。
【0117】
<4−1.防曇層>
防曇層は、合わせガラス板10の防曇効果を奏するものであれば、特には限定されず、公知のものを用いることができる。一般的に、防曇層は、水蒸気から生じる水を水膜として表面に形成する親水タイプ、水蒸気を吸収する吸水タイプ、表面に水滴が凝結しにくい撥水吸水タイプ、及び水蒸気から生じる水滴を撥水する撥水タイプがあるが、いずれのタイプの防曇層も適用可能である。以下では、その一例として、撥水吸水タイプの防曇層の例を説明する。
[有機無機複合防曇層]
有機無機複合防曇層は、基材フィルムの表面に形成された単層膜もしくは積層された複層膜である。有機無機複合防曇層は、少なくとも吸水性樹脂と撥水基と金属酸化物成分とを含んでいる。防曇膜は、必要に応じ、その他の機能成分をさらに含んでいてもよい。吸水性樹脂は、水を吸収して保持できる樹脂であればその種類を問わない。撥水基は、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)から防曇膜に供給することができる。金属酸化物成分は、撥水基含有金属化合物その他の金属化合物、金属酸化物微粒子等から防曇膜に供給することができる。以下、各成分について説明する。
【0118】
(吸水性樹脂)
吸水性樹脂としては特に制限はなく、ポリエチレングリコール、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン樹脂、デンプン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステルポリオール、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル、エポキシ系樹脂及びポリウレタン樹脂であり、より好ましいのは、ポリビニルアセタール樹脂、エポキシ系樹脂及びポリウレタン樹脂であり、特に好ましいのは、ポリビニルアセタール樹脂である。
【0119】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得ることができる。ポリビニルアルコールのアセタール化は、酸触媒の存在下で水媒体を用いる沈澱法、アルコール等の溶媒を用いる溶解法等公知の方法を用いて実施すればよい。アセタール化は、ポリ酢酸ビニルのケン化と並行して実施することもできる。アセタール化度は、2〜40モル%、さらには3〜30モル%、特に5〜20モル%、場合によっては5〜15モル%が好ましい。アセタール化度は、例えば
13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定することができる。アセタール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタール樹脂は、吸水性及び耐水性が良好である有機無機複合防曇層の形成に適している。
【0120】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは200〜4500であり、より好ましくは500〜4500である。高い平均重合度は、吸水性及び耐水性が良好である有機無機複合防曇層の形成に有利であるが、平均重合度が高すぎると溶液の粘度が高くなり過ぎて膜の形成に支障をきたすことがある。ポリビニルアルコールのケン化度は、75〜99.8モル%が好ましい。
【0121】
ポリビニルアルコールに縮合反応させるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルカルバルデヒド、オクチルカルバルデヒド、デシルカルバルデヒド等の脂肪族アルデヒドを挙げることができる。また、ベンズアルデヒド;2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル基置換ベンズアルデヒド;クロロベンズアルデヒド、その他のハロゲン原子置換ベンズアルデヒド;ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等のアルキル基を除く官能基により水素原子が置換された置換ベンズアルデヒド;ナフトアルデヒド、アントラアルデヒド等の縮合芳香環アルデヒド等の芳香族アルデヒドを挙げることができる。疎水性が強い芳香族アルデヒドは、低アセタール化度で耐水性に優れた有機無機複合防曇層を形成する上で有利である。芳香族アルデヒドの使用は、水酸基を多く残存させながら吸水性が高い膜を形成する上でも有利である。ポリビニルアセタール樹脂は、芳香族アルデヒド、特にベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含むことが好ましい。
【0122】
エポキシ系樹脂としては、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、環式脂肪族エポキシ樹脂である。
【0123】
ポリウレタン樹脂としては、ポリイソシアネートとポリオールとで構成されるポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリオールとしては、アクリルポリオール及びポリオキシアルキレン系ポリオールが好ましい。
【0124】
有機無機複合防曇層は、吸水性樹脂を主成分とする。本発明において、「主成分」とは、質量基準で含有率が最も高い成分を意味する。有機無機複合防曇層の重量に基づく吸水性樹脂の含有率は、膜硬度、吸水性及び防曇性の観点から、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、特に好ましくは65重量%以上であり、95重量%以下、より好ましくは90重量%以下、特に好ましくは85重量%以下である。
【0125】
(撥水基)
撥水基による上述の効果を十分に得るためには、撥水性が高い撥水基を用いることが好ましい。好ましい撥水基は、(1)炭素数3〜30の鎖状又は環状のアルキル基、及び(2)水素原子の少なくとも一部をフッ素原子により置換した炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基(以下、「フッ素置換アルキル基」ということがある)から選ばれる少なくとも1種である。
【0126】
(1)及び(2)に関し、鎖状又は環状のアルキル基は、鎖状アルキル基であることが好ましい。鎖状アルキル基は、分岐を有するアルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基が好ましい。炭素数が30を超えるアルキル基は、防曇膜を白濁させることがある。膜の防曇性、強度及び外観のバランスの観点から、アルキル基の炭素数は、20以下が好ましく、6〜14がより好ましい。特に好ましいアルキル基は、炭素数6〜14、特に炭素数6〜12の直鎖アルキル基、例えばn−ヘキシル基(炭素数6)、n−デシル基(炭素数10)、n−ドデシル基(炭素数12)である。(2)に関し、フッ素置換アルキル基は、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子の一部のみをフッ素原子により置換した基であってもよく、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子のすべてをフッ素原子により置換した基、例えば直鎖状のパーフルオロアルキル基、であってもよい。フッ素置換アルキル基は撥水性が高いため、少ない量の添加によって十分な効果を得ることができる。ただし、フッ素置換アルキル基は、その含有量が多くなり過ぎると、膜を形成するための塗工液中でその他の成分から分離することがある。
【0127】
(撥水基を有する加水分解性金属化合物)
撥水基を防曇膜に配合するためには、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)、特に撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)又はその加水分解物を、膜を形成するための塗工液に添加するとよい。言い換えると、撥水基は、撥水基含有加水分解性金属化合物に由来するものであってもよい。撥水基含有加水分解性金属化合物としては、以下の式(I)に示す撥水基含有加水分解性シリコン化合物が好適である。
RmSiY4-m (I)
ここで、Rは、撥水基、すなわち水素原子の少なくとも一部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜30の鎖状又は環状のアルキル基であり、Yは加水分解可能な官能基又はハロゲン原子であり、mは1〜3の整数である。加水分解可能な官能基は、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはアルコキシ基、特に炭素数1〜4のアルコキシ基である。アルケニルオキシ基は、例えばイソプロペノキシ基である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素である。なお、ここに例示した官能基は、以降に述べる「加水分解可能な官能基」としても使用することができる。mは好ましくは1〜2である。
【0128】
式(I)により示される化合物は、加水分解及び重縮合が完全に進行すると、以下の式(II)により表示される成分を供給する。
RmSiO(4-m)/2 (II)
ここで、R及びmは、上述したとおりである。加水分解及び重縮合の後、式(II)により示される化合物は、実際には、防曇膜中において、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。
【0129】
このように、式(I)により示される化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらには少なくとも一部が重縮合して、シリコン原子と酸素原子とが交互に接続し、かつ三次元的に広がるシロキサン結合(Si−O−Si)のネットワーク構造を形成する。このネットワーク構造に含まれるシリコン原子には撥水基Rが接続している。言い換えると、撥水基Rは、結合R−Siを介してシロキサン結合のネットワーク構造に固定される。この構造は、撥水基Rを膜に均一に分散させる上で有利である。ネットワーク構造は、式(I)により示される撥水基含有加水分解性シリコン化合物以外のシリコン化合物(例えば、テトラアルコキシシラン、シランカップリング剤)から供給されるシリカ成分を含んでいてもよい。撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有するシリコン化合物(撥水基非含有加水分解性シリコン化合物)を撥水基含有加水分解性シリコン化合物と共に防曇膜を形成するための塗工液に配合すると、撥水基と結合したシリコン原子と撥水基と結合していないシリコン原子とを含むシロキサン結合のネットワーク構造を形成できる。このような構造とすれば、防曇膜中における撥水基の含有率と金属酸化物成分の含有率とを互いに独立して調整することが容易になる。
【0130】
撥水基は、吸水性樹脂を含む防曇膜表面における水蒸気の透過性を向上させることにより防曇性能を向上させる効果がある。吸水と撥水という2つの機能は互いに相反するため、吸水性材料と撥水性材料とは、従来、別の層に振り分けて付与されてきたが、撥水基は、防曇層の表面近傍における水の偏在を解消して結露までの時間を引き延ばし、単層構造を有する防曇膜の防曇性を向上させる。以下ではその効果を説明する。
【0131】
吸水性樹脂を含む防曇膜へと侵入した水蒸気は、吸水性樹脂等の水酸基と水素結合し、結合水の形態で保持される。量が増加するにつれ、水蒸気は、結合水の形態から半結合水の形態を経て、ついには防曇膜中の空隙に保持される自由水の形態で保持されるようになる。防曇膜において、撥水基は、水素結合の形成を妨げ、かつ形成した水素結合の解離を容易にする。吸水性樹脂の含有率が同じであれば、膜中における水素結合可能な水酸基の数には差がないが、撥水基は水素結合の形成速度を低下させる。したがって、撥水基を含有する防曇膜において、水分は、最終的には上記のいずれかの形態で膜に保持されることになるが、保持されるまでには膜の底部まで水蒸気のまま拡散することができる。また、一旦保持された水も、比較的容易に解離し、水蒸気の状態で膜の底部まで移動しやすい。結果的に、膜の厚さ方向についての水分の保持量の分布は、表面近傍から膜の底部まで比較的均一になる。つまり、防曇膜の厚さ方向の全てを有効に活用し、膜表面に供給された水を吸収することができるため、表面に水滴が凝結しにくく、防曇性が高くなる。さらに、表面に水滴が凝結しにくいことにより、水分を吸収した防曇膜は、低温でも凍結しにくいという特徴を有する。よって、この防曇膜を情報取得領域に固定すると、広い温度範囲で情報取得領域の視界を確保することができる。
【0132】
一方、撥水基を含まない従来の防曇膜においては、膜中に侵入した水蒸気は極めて容易に結合水、半結合水又は自由水の形態で保持される。したがって、侵入した水蒸気は、膜の表面近傍で保持される傾向にある。結果的に、膜中の水分は、表面近傍が極端に多く、膜の底部へ進むにつれて急速に減少する。つまり、膜の底部では未だ水を吸収できるにも拘わらず、膜の表面近傍では水分により飽和して水滴として凝結するため、防曇性が限られたものとなる。
【0133】
撥水基含有加水分解性シリコン化合物(式(I)参照)を用いて撥水基を防曇膜に導入すると、強固なシロキサン結合(Si−O−Si)のネットワーク構造が形成される。このネットワーク構造の形成は、耐摩耗性のみならず、硬度、耐水性等を向上させる観点からも有利である。
【0134】
撥水基は、防曇膜の表面における水の接触角が70度以上、好ましくは80度以上、より好ましくは90度以上になる程度に添加するとよい。水の接触角は、4mgの水滴を膜の表面に滴下して測定した値を採用することとする。特に撥水性がやや弱いメチル基又はエチル基を撥水基として用いる場合は、水の接触角が上記の範囲となる量の撥水基を防曇膜に配合することが好ましい。この水滴の接触角は、その上限が特に制限されるわけではないが、例えば150度以下、また例えば120度以下、さらには100度以下である。撥水基は、防曇膜の表面のすべての領域において上記水滴の接触角が上記の範囲となるように、防曇膜に均一に含有させることが好ましい。
【0135】
防曇膜は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上の範囲内となるように、また、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、の範囲内となるように、撥水基を含むことが好ましい。
【0136】
(無機酸化物)
無機酸化物は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であり、少なくとも、Siの酸化物(シリカ)を含む。有機無機複合防曇層は、吸水性樹脂100重量部に対し、好ましくは0.01重量部以上であり、より好ましくは0.1重量部以上、さらに好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは1重量部以上、最も好ましくは5重量部以上、場合によっては10重量部以上、必要であれば20重量部以上、また、好ましくは50重量部以下、より好ましくは45重量部以下、さらに好ましくは40重量部以下、特に好ましくは35重量部以下、最も好ましくは33重量部以下、場合によっては30重量部以下となるように、無機酸化物を含むことが好ましい。無機酸化物は、有機無機複合防曇層の強度、特に耐摩耗性を確保するために必要な成分であるが、その含有量が多くなると、有機無機複合防曇層の防曇性が低下する。
【0137】
(無機酸化物微粒子)
有機無機複合防曇層は、無機酸化物の少なくとも一部として、無機酸化物微粒子をさらに含んでいてもよい。無機酸化物微粒子を構成する無機酸化物は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であり、好ましくはシリカ微粒子である。シリカ微粒子は、例えば、コロイダルシリカを添加することにより有機無機複合防曇層に導入できる。無機酸化物微粒子は、有機無機複合防曇層に加えられた応力を、有機無機複合防曇層を支持する物品に伝達する作用に優れ、硬度も高い。したがって、無機酸化物微粒子の添加は、有機無機複合防曇層の耐摩耗性を向上させる観点から有利である。また、有機無機複合防曇層に無機酸化物微粒子を添加すると、微粒子が接触又は近接している部位に微細な空隙が形成され、この空隙から膜中に水蒸気が取り込まれやすくなる。このため、無機酸化物微粒子の添加は、防曇性の向上に有利に作用することもある。無機酸化物微粒子は、有機無機複合防曇層を形成するための塗工液に、予め形成した無機酸化物微粒子を添加することにより、有機無機複合防曇層に供給することができる。
【0138】
無機酸化物微粒子の平均粒径が大きすぎると、有機無機複合防曇層が白濁することがあり、小さすぎると凝集して均一に分散させることが困難となる。この観点から、無機酸化物微粒子の平均粒径は、好ましくは1〜20nmであり、より好ましくは5〜20nmである。なお、ここでは、無機酸化物微粒子の平均粒径を、一次粒子の状態で記述している。また、無機酸化物微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いた観察により任意に選択した50個の微粒子の粒径を測定し、その平均値を採用して定めることとする。無機酸化物微粒子は、その含有量が多くなると、有機無機複合防曇層全体の吸水量が低下し、有機無機複合防曇層が白濁するおそれがある。無機酸化物微粒子は、吸水性樹脂100重量部に対し、好ましくは0〜50重量部であり、より好ましくは2〜30重量部、さらに好ましくは5〜25重量部、特に好ましくは10〜20重量部となるように添加するとよい。
【0139】
(撥水基を有しない加水分解性金属化合物)
防曇膜は、撥水基を有しない加水分解性金属化合物(撥水基非含有加水分解性化合物)に由来する金属酸化物成分を含んでいてもよい。好ましい撥水基非含有加水分解性金属化合物は、撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物である。撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、例えば、シリコンアルコキシド、クロロシラン、アセトキシシラン、アルケニルオキシシラン及びアミノシランから選ばれる少なくとも1種のシリコン化合物(ただし、撥水基を有しない)であり、撥水基を有しないシリコンアルコキシドが好ましい。なお、アルケニルオキシシランとしては、イソプロペノキシシランを例示できる。
【0140】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、以下の式(III)に示す化合物であってもよい。
SiY4 (III)
上述したとおり、Yは、加水分解可能な官能基であって、好ましくはアルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1つである。
【0141】
撥水基非含有加水分解性金属化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらに、少なくともその一部が重縮合して、金属原子と酸素原子とが結合した金属酸化物成分を供給する。この成分は、金属酸化物微粒子と吸水性樹脂とを強固に接合し、防曇膜の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。撥水基を有しない加水分解性金属化合物に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜40質量部、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部、特に好ましくは3〜10質量部、場合によっては4〜12質量部の範囲とするとよい。
【0142】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい一例は、テトラアルコキシシラン、より具体的には炭素数が1〜4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランである。テトラアルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン及びテトラ−tert−ブトキシシランから選ばれる少なくとも1種である。
【0143】
テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇膜の防曇性が低下することがある。防曇膜の柔軟性が低下し、水分の吸収及び放出に伴う膜の膨潤及び収縮が制限されることが一因である。テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜30質量部、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは3〜10質量部の範囲で添加するとよい。
【0144】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい別の一例は、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、互いに異なる反応性官能基を有するシリコン化合物である。反応性官能基は、その一部が加水分解可能な官能基であることが好ましい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシ基及び/又はアミノ基と加水分解可能な官能基とを有するシリコン化合物である。好ましいシランカップリング剤としては、グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシラン及びアミノアルキルトリアルコキシシランを例示できる。これらのシランカップリング剤において、シリコン原子に直接結合しているアルキレン基の炭素数は1〜3であることが好ましい。グリシジルオキシアルキル基及びアミノアルキル基は、親水性を示す官能基(エポキシ基、アミノ基)を含むため、アルキレン基を含むものの、全体として撥水性ではない。
【0145】
シランカップリング剤は、有機成分である吸水性樹脂と無機成分である金属酸化物微粒子等とを強固に結合し、防曇膜の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。しかし、シランカップリング剤に由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇膜の防曇性が低下し、場合によっては防曇膜が白濁する。シランカップリング剤に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部の範囲で添加するとよい。
【0146】
(架橋構造)
防曇膜は、架橋剤、好ましくは有機ホウ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の架橋剤、に由来する架橋構造を含んでいてもよい。架橋構造の導入は、防曇膜の耐摩耗性、耐擦傷性、耐水性を向上させる。別の観点から述べると、架橋構造の導入は、防曇膜の防曇性能を低下させることなくその耐久性を改善することを容易にする。
【0147】
金属酸化物成分がシリカ成分である防曇膜に架橋剤に由来する架橋構造を導入した場合、その防曇膜は、金属原子としてシリコンと共にシリコン以外の金属原子、好ましくはホウ素、チタン又はジルコニウム、を含有することがある。
【0148】
架橋剤は、用いる吸水性樹脂を架橋できるものであれば、その種類は特に限定されない。ここでは、有機チタン化合物についてのみ例を挙げる。有機チタン化合物は、例えば、チタンアルコキシド、チタンキレート系化合物及びチタンアシレートから選ばれる少なくとも1つである。チタンアルコキシドは、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトラオクトキシドである。チタンキレ−ト系化合物は、例えば、チタンアセチルアセトナート、チタンアセト酢酸エチル、チタンオクチレングリコール、チタントリエタノールアミン、チタンラクテートである。チタンラクテートは、アンモニウム塩(チタンラクテートアンモニウム)であってもよい。チタンアシレートは、例えばチタンステアレートである。好ましい有機チタン化合物は、チタンキレート系化合物、特にチタンラクテートである。
【0149】
吸水性樹脂がポリビニルアセタールである場合の好ましい架橋剤は、有機チタン化合物、特にチタンラクテートである。
【0150】
(その他の任意成分)
防曇膜にはその他の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、防曇性を改善する機能を有するグリセリン、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。添加剤は、界面活性剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、着色剤、消泡剤、防腐剤等であってもよい。
【0151】
紫外線吸収剤又は赤外線吸収剤が有機物である場合は、特に、シリコンアルコキシドは、シランカップリング剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤又は赤外線吸収剤による光遮蔽性(例えば紫外線遮蔽性)が向上するためである。シランカップリング剤によって有機無機複合防曇層の光遮蔽性が向上する理由は、シランカップリング剤の添加によって、有機化合物である光吸収剤がシリカを含む吸水性樹脂中により均一に分散した状態になることにあると考えられる。
【0152】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール化合物[2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’―ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール等]、ベンゾフェノン化合物[2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等]、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物[2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシ−5−メチルフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−s−トリアジン等]及びシアノアクリレート化合物[エチル−α−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート等]等の有機物が挙げられる。紫外線吸収剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、紫外線吸収剤は、ポリメチン化合物、イミダゾリン化合物、クマリン化合物、ナフタルイミド化合物、ペリレン化合物、アゾ化合物、イソインドリノン化合物、キノフタロン化合物及びキノリン化合物から選ばれる少なくとも1種の有機色素であってもよい。紫外線吸収剤のうち好ましいのは、有機物である紫外線吸収剤であり、より好ましいのは、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物及びシアノアクリレート化合物から選ばれる少なくとも1種であり、さらに好ましいのは、ベンゾフェノン化合物である。ベンゾフェノン化合物は、有機無機複合防曇層を形成するための塗工液に含まれるアルコール系溶媒への溶解性が良く、ポリビニルアセタール樹脂により均一に分散するため好ましい。紫外線吸収剤は、ヒドロキシル基を有することが好ましく、紫外線吸収剤が有する1つのベンゼン骨格に、水酸基が2個以上結合したものがより好ましい。紫外線吸収剤は、吸水性樹脂100重量部に対し、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは1.0〜40重量部、さらに好ましくは2〜35重量部の範囲で添加するとよい。
【0153】
赤外線吸収剤としては、例えば、ポリメチン化合物、シアニン化合物、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、ナフトキノン化合物、アントラキノン化合物、ジチオール化合物、インモニウム化合物、ジイモニウム化合物、アミニウム化合物、ピリリウム化合物、セリリウム化合物、スクワリリウム化合物、ベンゼンジチオール金属錯体アニオンとシアニン色素カチオンとの対イオン結合体等の有機系赤外線吸収剤;酸化タングステン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アンモン、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化ランタン、酸化タングステン、インジウム錫酸化物、アンチモン錫酸化物等の無機系赤外線吸収剤;等が挙げられる。赤外線吸収剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。赤外線吸収剤のうち好ましいのは、無機系赤外線吸収剤であり、より好ましいのは、インジウム錫酸化物及び/又はアンチモン錫酸化物である。インジウム錫酸化物及び/又はアンチモン錫酸化物は、有機無機複合防曇層を形成するための塗工液中での安定性が良く、ポリビニルアセタール樹脂により均一に分散するため好ましい。赤外線吸収剤は、吸水性樹脂100重量部に対し、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは1.0〜40重量部、さらに好ましくは2〜35重量部の範囲で添加するとよい。
【0154】
(親水性タイプ)
上述した防曇層は、吸水性樹脂を主成分とした吸水タイプであるが、親水性タイプも採用することができる。親水性タイプは、親水性樹脂を主成分としたものであり、公知のもの、例えば、特開2011−213555号公報に記載の防曇層を用いることができる。具体的には、以下の通りである。
【0155】
防曇層の内部には、複数の閉じた孔が形成されることが好ましい。また、防曇層が、酸化ケイ素を主成分とするとともに、それぞれの炭素数が6以上である2本の炭素鎖を親水基から見て分岐した位置に有する2本鎖型の陰イオン性界面活性剤と、ポリオール化合物とを含むことが好ましく、前記酸化ケイ素が、酸化ケイ素微粒子と、シリコンアルコキシドの加水分解反応および縮重合反応により生成した酸化ケイ素成分とを含むことが好ましい。なお、「閉じた孔」とは、膜表面に開口していない孔である。「主成分」とは、慣用のとおり、最も多い成分を意味し、具体的には、50質量%以上を占める成分を指す。「ポリオール化合物」は、ジオール、トリオールなど多価のアルコールである。
【0156】
また、このような親水性タイプの防曇層は、シリコンアルコキシドと酸化ケイ素微粒子とを含む防曇層の形成溶液を塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を乾燥させて防曇層とすることにより、得ることができる。防曇層の形成溶液は、少なくとも、1)2本鎖型の陰イオン性界面活性剤、2)ポリオール化合物、3)酸化ケイ素微粒子(シリカ微粒子)、4)少なくともそのー部がシリコンテトラアルコキシドであるシリコンアルコキシド、5)水、6)有機溶媒、7)加水分解触媒、を混合して調製することができる。但し、親水性タイプの防曇層はこれに限定されない。
【0157】
[膜厚]
有機無機複合防曇層の膜厚は、要求される防曇特性その他に応じて適宜調整すればよい。有機無機複合防曇層の膜厚は、好ましくは1〜20μmであり、より好ましくは2〜15μm、さらに好ましくは3〜10μmである。
【0158】
なお、上述した防曇層は、一例であり、紫外線吸収剤又は赤外線吸収剤は必須ではない。また、その他の公知の防曇層を用いることができ、例えば、特開2014−14802号公報、特開2001−146585号公報に記載の防曇層など、種々のものを用いることができる。
【0159】
<4−2.基材フィルム>
基材フィルム72は、透明の樹脂フィルムで形成され、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンや、アクリル系樹脂で形成することができる。
【0160】
また、基材フィルム72は、防曇層73を支持するフィルムであるので、ある程度の剛性が必要である。但し、厚みが大きすぎると、ヘイズ率が高くなりやすい。したがって、基材フィルム72の厚みは、例えば、30〜200μmであることが好ましい。
【0161】
<4−3.粘着層>
粘着層71は、後述するように、基材フィルム72を内側ガラス板12に十分な強度で固定できるものであればよい。具体的には、常温でタック性を有するアクリル系、ゴム系、及びメタクリル系とアクリル系のモノマーを共重合し、所望のガラス転移温度に設定した樹脂などの粘着層を使用できる。アクリル系モノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ステアリル及びアクリル酸2エチルヘキシル等を適用することができ、メタクリル系モノマーとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル及びメタクリル酸ステアリル等を適用することができる。また、ヒートラミネートなどで施工をする場合には、ラミネート温度で軟化する有機物を用いても良い。ガラス転移温度は、例えばメタクリル系とアクリル系のモノマーを共重合した樹脂の場合、各モノマーの配合比を変更することによって調整することができる。
【0162】
<4−4.保護シート>
第1保護シート74は、合わせガラスの情報取得領域に固定されるまでの間、粘着層71を保護するものであり、例えば、シリコーンなどの離型剤が塗布された樹脂製のシートで形成されている。同様に、第2保護シート75は、合わせガラスの情報取得領域に固定されるまでの間、防曇層73を保護するためのものであり、離型剤が塗布された樹脂製のシートで形成されている。いずれも公知の一般的な離型シートを採用することができる。
【0163】
<4−5.防曇シートの製造方法>
次に、防曇シート7の製造方法について説明する。まず、基材フィルム72の一方の面に防曇層73の成膜を行う。上述した有機無機複合防曇層は、有機無機複合防曇層を形成するための塗工液を透明基板等の物品上に塗布し、塗布した塗工液を乾燥させることにより、成膜することができる。塗工液の調製に用いる溶媒、塗工液の塗布方法は、公知の材料及び方法を用いればよい。
【0164】
このとき、雰囲気の相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持することが好ましい。相対湿度を低く保持すると、有機無機複合防曇層が雰囲気から水分を過剰に吸収することを防止できる。雰囲気から水分が多量に吸収されると、有機無機複合防曇層のマトリックス内に入り込んで残存した水が膜の強度を低下させるおそれがある。
【0165】
塗工液の乾燥工程は、風乾工程と、加熱を伴う加熱乾燥工程とを含むことが好ましい。風乾工程は、相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持した雰囲気に塗工液を曝すことにより、実施するとよい。風乾工程は、非加熱工程として、言い換えると室温で実施できる。塗工液に加水分解性シリコン化合物が含まれている場合、加熱乾燥工程では、シリコン化合物の加水分解物等に含まれるシラノール基及び物品上に存在する水酸基が関与する脱水反応が進行し、シリコン原子と酸素原子とからなるマトリックス構造(Si−O結合のネットワーク)が発達する。風乾工程は、例えば、約10分間行うことができる。
【0166】
吸水性樹脂等の有機物の分解を避けるべく、加熱乾燥工程において適用する温度は過度に高くしないほうがよい。この場合の適切な加熱温度は、300℃以下、例えば100〜200℃である。具体的には、3つの工程を行うことができる。例えば、温度約120℃で約5分間焼成し、温度約80度、湿度90%で約2時間乾燥した後、温度約120℃で約30分間焼成する。こうして、防曇層73の成膜が完了する。その後、防曇層73を保護するために、防曇層73上に第2保護シート75を取り付ける。
【0167】
次に、基材フィルム72の他方の面に、粘着層71を塗布した後、第1保護シート74を取り付ける。こうして、防曇積層体が完成する。この防曇積層体は、上記のように、必要な大きさに切断された上で、後述するように撮影窓113に貼り付けられる。
【0168】
<5.ウインドシールドの製造方法>
次に、ウインドシールドの製造方法の一例について説明する。まず、ガラス板の製造ラインについて説明する。
【0169】
図13に示すように、この製造ラインには、上流から下流へ、加熱炉901、成形装置902がこの順で配置されている。そして、加熱炉901から成形装置902、及びその下流側に亘ってはローラコンベア903が配置されており、加工対象となる外側ガラス板11及び内側ガラス板12は、このローラコンベア903により搬送される。これらガラス板11,12は、加熱炉901に搬入される前には、平板状に形成されており、例えば、内側ガラス板12の内面(車内側の面)には、上述したマスク層110が積層された後、加熱炉901に搬入される。なお、上述したように、マスク層110は内側ガラス板12の内面以外に積層することもできる。
【0170】
加熱炉901は、種々の構成が可能であるが、例えば、電気加熱炉とすることができる。この加熱炉901は、上流側及び下流側の端部が開放する角筒状の炉本体を備えており、その内部に上流から下流へ向かってローラコンベア903が配置されている。炉本体の内壁面の上面、下面、及び一対の側面には、それぞれヒータ(図示省略)が配置されており、加熱炉901を通過するガラス板11,12を成形可能な温度、例えば、ガラスの軟化点付近まで加熱する。
【0171】
成形装置902は、上型921及び下型922によりガラス板11,12をプレスし、所定の形状に成形するように構成されている。上型921はガラス板11,12の上面全体を覆うような下に凸の曲面形状を有し、上下動可能に構成されている。また、下型922はガラス板11,12の周縁部に対応するような枠状に形成されており、その上面は上型921と対応するように曲面形状を有している。この構成により、ガラス板11,12は、上型921と下型922との間でプレス成形され、最終的な曲面形状に成形される。また、下型922の枠内には、ローラコンベア903が配置されており、このローラコンベア903は、下型922の枠内を通過するように、上下動可能となっている。そして、図示を省略するが、成形装置902の下流側には、徐冷装置(図示省略)が配置されており、成形されたガラス板が冷却される。
【0172】
上記のようなローラコンベア903は公知のものであり、両端部を回転自在に支持された複数のローラ931が、所定間隔をあけて配置されている。各ローラ931の駆動には種々の方法があるが、例えば、各ローラ931の端部にスプロケットを取り付け、各スプロケットにチェーンを巻回して駆動することができる。そして、各ローラ931の回転速度を調整することで、ガラス板11,12の搬送速度も調整することができる。なお、成形装置902の下型922はガラス板11,12の全面に亘って接するような形態でもよい。このほか、成形装置902は、ガラス板を成形するものであれば、上型及び下型の形態は特には限定されない。
【0173】
こうして、外側ガラス板11及び内側ガラス板12が成形されると、これに続いて、中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟み、これをゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70〜110℃で予備接着する。予備接着の方法は、これ以外でも可能である。例えば、中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟み、オーブンにより45〜65℃で加熱する。続いて、この合わせガラスを0.45〜0.55MPaでロールにより押圧する。次に、この合わせガラスを、再度オーブンにより80〜105℃で加熱した後、0.45〜0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0174】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた合わせガラスを、オートクレーブにより、例えば、8〜15気圧で、100〜150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で145℃の条件で本接着を行うことができる。こうして、本実施形態に係る合わせガラスが製造される。
【0175】
最後に、上述した防曇シート7をマスク層110に形成された撮影窓113に貼り付ける。防曇シート7の大きさは、撮影窓113の大きさよりもやや小さい大きさに形成し、情報取得領域の内側に貼り付けられる。具体的には、内側ガラス板12の内面に貼り付ける。まず、防曇積層体を準備し、粘着層71に貼り付けられた第1保護シート74を取り外す。そして、露出した粘着層71を撮影窓113に貼り付ける。そして、第2保護シート75を押圧し、防曇シート7を撮影窓113にしっかりと固定する。最後に、第2保護シート75を取り外し、防曇層73を露出させると、防曇シート7の取り付けが完了する。なお、防曇シート7を取り付けるタイミングは特には限定されず、ブラケットを取り付けた後であってもよい。また、撮影窓113に防曇シート7を取り付け、ブラケットを取り付けた後に、第2保護シート75を取り外してもよい。
【0176】
<6.特徴>
以上説明したウインドシールドによれば、次のような効果を得ることができる。まず、マスク層110の撮影窓113に防曇シート7を取り付けることで、撮影窓113の曇りを防止することができる。そのため、撮影装置2により、撮影窓113を介して光を受光する際、撮影窓113の曇りによって、光の通過に支障を来たし、測定が正確に行えないなどの不具合を防止することができる。
【0177】
特に、マスク層110の撮影窓113が設けられる車内の上部は、暖房がONになっていても冷えやすく、曇りが生じやすい。したがって、このような位置に防曇層が積層されているとは有利である。また、防曇層が積層されているマスク層110の撮影窓113はブラケットやカバーにより覆われているため、暖房やデフロスターからの暖気が届きにくいという問題がある。また、ブラケットやカバーで覆われた空間内とその外部との空気の交換が容易でないので、その空間内の空気の湿度が飽和状態に達すると、ガラス板の表面に水滴として付着しやすいという問題がある。したがって、上記のように覆われた空間内に防曇シートを設けることには大きい意義がある。
【0178】
また、マスク層110は濃色であるため、熱を吸収しやすく、これによって、防曇シート7の周縁は温度が高くなる傾向にある。特に、マスク層110は、カバーにより覆われるため、撮影窓113の周囲の湿度が高くなり、撮影窓113が曇りやすくなる。したがって、撮影窓113に防曇シート7を設けることは特に有利である。
【0179】
さらに、次のような効果もある。防曇層73には、車内の内装部品(例えば、樹脂成形品など)から離脱し、空気中に流入した可塑剤が付着するおそれがある。そして、防曇層に可塑剤が付着すると、防曇機能が低下する可能性がある。しかしながら、上記のように、にブラケットやカバーで囲まれているため、防曇層への可塑剤の付着を防止することができる。その結果、防曇機能、特に吸水タイプの防曇層においては、吸水機能の低下を防止することができる。また、親水性タイプにおいては、可塑剤が防曇層中の親水基と結合し易いので、上記のように、ブラケットやカバーにより囲まれることが好ましい。
【0180】
なお、吸水タイプの防曇層73の表面に可塑剤が付着し、長期間堆積していくと、吸水性を阻害するようになり、防曇性能が低下する。但し、水拭きなどで可塑剤を拭き取れば、また吸水性能が復活する。一方、親水タイプの防曇層の表面に可塑剤が付着すると、親水基と強く結合してしまい、親水性能が低下する。そのため、形成される水膜の厚みの違いにより防曇層を通した像の歪みや、防曇性能の低下が短期間で生じるおそれがある。
【0181】
また、マスク層110の撮影窓113付近を電熱線により暖めて曇りを解消する方法も考えられるが、電熱線に電流が流されてから曇りが解消されるまで時間を要するという問題があり、電気の消費も問題となる。また、電熱線により曇りを解消するには、ガラス板の厚みや外気の状況によるところがあり、一様ではない。したがって、予め曇りが生じないようにし、さらに電力も消費しない防曇層73は非常に有利である。
【0182】
さらに、防曇層73は、一般的に耐久性に乏しく、外力により傷が生じやすいという問題がある。しかしながら、上記のように、防曇層をブラケットやカバーにより囲むことで、傷が生じるのを防止することができる。
【0183】
また、次のような効果がある。上記防曇シート7は、基材フィルム72により防曇層73を支持しているが、この基材フィルム72は、撮影窓113から入射する紫外線により白濁するおそれがある。そのような白濁が生じると、撮影装置2による撮影ができない可能性がある。そこで、本実施形態では、上記のように、合わせガラスが、Tuv380≦0.5%、且つTuv400≦2.5%を充足するようにし、紫外線を吸収するようにしているため、基材フィルム72の白濁を防止することができる。
【0184】
上記実施形態では、防曇シート7の大きさを撮影窓113の大きさよりも小さくしているため、防曇シート7の周縁は、撮影窓113の内周縁、つまりマスク層110上には配置されない。したがって、防曇シート7の周縁に段差が生じるのを防止することができ、よって、防曇シート7の貼り付け時に、防曇シート7と合わせガラス10との間に空気が入るのを防止することができる。
【0185】
<7.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0186】
<7−1>
上記実施形態では、防曇シート7を情報取得領域の大きさよりも小さくしているが、これよりも大きくすることもできる。これにより、例えば、吸水タイプの防曇層を用いる場合には、吸水面積が増加するため、情報取得領域の曇りをより防止することができる。
【0187】
<7−2>
上記実施形態のようなカメラを有する撮影装置2を用いる場合には、カメラの光軸が撮影窓113の下半分の領域を通過することが多い。そのため、撮影窓113においては、少なくとも光軸が通過する付近の曇りを防止できればよい。したがって、例えば、少なくとも、撮影窓113の下半分を覆うように、防曇シート7の形状を決定することができる。あるいは、防曇シート7に積層される防曇層73の下半分の厚みを上半分の厚みよりも大きくすることができる。この場合、例えば、防曇層73の厚みが上側から下側にいくにしたがって漸進的に大きくなるようにしてもよい。
【0188】
<7−3>
上記のようなウインドシールドの合わせガラス10が車体に取り付けられるとき、
図14に示すような垂直Nからの取付角度θは特には限定されないが、取付角度θが大きいほど、例えば、45度以上であれば、走行時にウインドシールドが風を切りやすいため、情報取得領域が曇りやすくなる。したがって、上記のような防曇シートを取り付けておくと特に有利である。
【0189】
<7−4>
マスク層110の一部または全部を、合わせガラス10へ貼り付け可能な遮蔽フィルムで構成し、これによって車外からの視野を遮蔽することもできる。なお、遮蔽フィルムを内側ガラス板12の車外側の面に貼り付ける場合には、予備接着の前、または本接着の後に貼り付けを行うことができる。
【0190】
また、合わせガラス10において、光の通路の曇りを防止するという観点からすれば、必ずしもマスク層110は必要ではなく、光が通過する領域(情報取得領域)に防曇シートが取り付けられていればよい。
【0191】
<7−5>
本発明のウインドシールドにおける防曇シートは、ガラス板と基材フィルムの間に位置する粘着層を取り外し、別途準備した防曇積層体を固定しなおすことにより、防曇シートの交換が可能である。しかし、ブラケットが、ガラス板に接着されている場合には、気泡が入ったり皺がよったりして交換が容易でない。また、防曇シート7は、撮影窓113に貼り付けられるが、撮影窓113は合わせガラス10の一部であり、曲面状に形成されているため、防曇シート7と撮影窓113との間に空気が入らないように貼り付けるのは容易ではない。
【0192】
そこで、例えば、
図15に示すようなローラ器具68を用い、防曇シート7を押圧することできる。同図に示すように、このローラ器具68は、円弧状に湾曲する回転軸65と、この回転軸65に挿通される複数のローラ(
図10では3個)66を有している。そして、回転軸65の両端には、Y字型の柄部材67が取り付けられている。回転軸65は、概ね合わせガラス10の縦方向または横方向の湾曲に沿うような曲率半径を有している。そして、この回転軸65に挿通される各ローラ66は円筒状に形成され、回転軸65が挿通される貫通孔が形成されている。また、ローラ66の表面は防曇シート7を傷つけないように、ゴムなどの弾性材料で形成されている。さらに、隣接するローラ66の間に段差が生じないようにしたり、また3つのローラ66の外周面の輪郭が滑らかな円弧を描くように、ローラ66の径や外周面の形状などが調整されている。
【0193】
上記のようなローラ器具68は、撮影窓113に防曇シート7を貼り付けた後、ローラ66を第2保護シート75の上から防曇シート7に押圧し、横方向あるいは縦方向にローラ器具68を移動させ、防曇シート7と撮影窓113との間に入り込んだ空気を押し出す。このとき、ローラ器具68の移動方向は、回転軸65の曲率半径が、撮影窓113の縦方向または横方向のいずれの曲率半径に合わせているかによる。こうして、ローラ器具68を何度か移動させて、空気の押し出しが完了すると、第2保護シート75を剥がし、防曇シート7の取り付けが完了する。
【0194】
<7−6>
上記実施形態では、本発明の情報取得装置として、カメラを有する撮影装置2を用いたが、これに限定されるものではなく、種々の情報取得装置を用いることができる。すなわち、車外からの情報を取得するために、光の照射及び/または受光を行うものであれば、特には限定されない。例えば、レーザレーダ、ライトセンサ、レインセンサ、光ビーコンなどの車外からの信号を受信する受光装置など、種々の装置に適用することができる。また、上記撮影窓113のような開口(情報取得領域)は、光の種類に応じて、マスク層110に適宜設けることができ、複数の開口を設けることもできる。例えば、ステレオカメラを設ける場合には、
図16に示すように、マスク層110に2つの撮影窓113A,113Bが形成され、各撮影窓113A,113Bに防曇シートが取り付けられる。なお、情報取得装置はガラスに接触していても接触していなくても良い。
【0195】
また、上記実施形態では、マスク層110に形成された撮影窓113を、情報取得領域の一例として説明したが、撮影窓113の形態は特には限定されない。例えば、撮影窓113はマスク層110に囲まれる閉じた形状でなくてもよく、周縁の一部が開放された形状であってもよい。また、マスク層113によって囲まれた領域でなくてもよく、合わせガラス10において情報取得装置の光が通過する領域であれば、本発明の情報取得領域に相当する。そして、いずれにしても、ガラス板において、情報取得装置の光が通過する領域(情報取得領域)に防曇シートが取り付けられる。
【0196】
<7−7>
第2実施形態の開示内容は、第1実施形態にも適宜、適用し、組み合わせることができる。例えば、第1実施形態で示した合わせガラスに、第2実施形態のマスク層、情報取得装置を適用することができる。また、それに加え、情報取得装置の光が通過する情報取得領域に、第2実施形態の防曇シート7を貼り付けることができる。これにより、第1実施形態の合わせガラスにおける防曇効果をさらに向上することができる。さらに、第1実施形態における合わせガラスを、第2実施形態のような紫外線効果のある合わせガラスにすることができる。例えば、第1実施形態の合わせガラスに、紫外線遮蔽膜を配置することができる。これにより、防曇シートの白濁化を防止することができる。
【実施例】
【0197】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0198】
(A)実施例及び比較例の準備
以下のような実施例及び比較例に係るウインドシールドを準備した。実施例と比較例とで防曇シートは同一であり、相違点は合わせガラスや合わせガラスの車内面側表面に施された有機無機複合膜と耐光性シートの有無である。
【0199】
[実施例1]
(1) 合わせガラスの構成:
外側ガラス板及び内側ガラス板を厚み2mmのグリーンガラスで構成し、これらの間に単層の中間膜を配置し、合わせガラスとした。
【0200】
(2) マスク層:
上述した表1の組成とし、
図9のような形状のマスク層を内側ガラス板の内面に形成した。撮影窓の大きさは、縦100mm、横150mmとした。
この合わせガラスのTuv380は0.1%未満(測定限界以下)で、Tuv400は3.5%であった。
【0201】
この合わせガラスの内側ガラス板の表面に、さらに紫外線吸収剤を含む有機無機複合膜を施した。
【0202】
この有機無機複合膜は以下のようにして施した。撹拌装置および温度調節機能を備えた混合層に、紫外線吸収剤:2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン「UVINUL 3050」[BASF製] 6.00g、有機ポリマー:ポリプロピレングルコール「PPG700」[キシダ化学製] 0.218g、シリコン化合物A:テトラエトキシシラン[多摩化学工業製] 17.62g、シリコン化合物B1:3−グリシドキシプロピルトリメトキシラン「KBM−403」[信越化学工業製] 13.31g、硝酸:濃度;60質量%、[双葉化学薬品製] 0.025g、界面活性剤B:シリコーン系界面活性剤「BYK−345」[BYK製] 0.04g、赤外線吸収剤:インジウム錫酸化物微粒子分散液[インジウム錫酸化物微粒子分散液を40質量%含むエチルアルコール溶液、三菱マテリアル電子化成製] 2.50g、精製水 28.13g、エタノール 42.53gを投入し、20℃で撹拌することにより有機無機複合膜を形成するための膜形成溶液を調整した。
【0203】
次いで、前述の合わせガラスの内側ガラス板の表面に、20℃、30%RHの環境下で、膜形成溶液をフローコート法により塗布した。同環境下で5分間乾燥させた後、膜形成溶液を塗布したガラス板の温度が180℃になるようにして乾燥を実施し、有機無機複合膜を施した。
【0204】
この有機無機複合膜つき合わせガラスのTuv380は0.1%未満(測定限界以下)で、Tuv400は0.5%であった。
【0205】
(3) 防曇シートの基材フィルム:
厚さ150μmのPETフィルム(市販品)を準備した。
【0206】
(4) 防曇シートの防曇層:
ポリビニルアセタール樹脂含有溶液(積水化学工業社製「エスレックKX−5」、固形分8質量%、アセタール化度9モル%、ベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含む) 87.5質量%、n−ヘキシルトリメトキシシラン(HTMS、信越化学工業社製「KBM−3063」) 0.526質量%、
3−グリシドキシプロピルトリメトキシラン(GPTMS、信越化学工業社製「KBM−403」) 0.198質量部、テトラエトキシシラン(TEOS、信越化学工業社製「KBE−04」) 2.774質量%、アルコール溶媒(日本アルコール工業製「ソルミックスAP−7」) 5.927質量%、精製水2.875質量%、酸触媒として塩酸0.01質量%、レベリング剤(信越化学工業社製「KP−341」) 0.01質量%をガラス製容器に入れ、室温(25℃)で3時間撹拌することにより、防曇層形成用塗工液を調製した。
【0207】
次いで、上記基材フィルム上に、室温20℃、相対湿度30%の環境下で、塗工液をフローコート法により塗布した。同環境下で10分間乾燥させた後、120℃の(予備)加熱処理を実施した。その後、上述の雰囲気及び時間を適用して高温高湿処理を実施し、さらに、同じく上述の雰囲気及び時間を適用して追加の熱処理を実施した。
【0208】
(5) 防曇シートの粘着層:
粘着剤には、アクリル酸メチルとアクリル酸nブチルとを所定の配合比で共重合させて、ガラス転移温度Tgが−36℃となるように調整したポリマーをトルエンに溶解して用いた。この液をメイヤーバーを用いて塗布し、粘着層を形成した。
【0209】
(6) ウインドシールドの作製:
上記内側ガラス板の車内側の面に、マスク層用の材料をスクリーン印刷し、マスク層を形成した。次に、
図13に示すような成形型で、外側ガラス板及び内側ガラス板を加熱炉で650℃に焼成し曲面状に成形し、加熱炉から搬出後に徐冷した。続いて、両ガラス板の間に中間膜を配置し、上記実施形態の通り、予備接着及び本接着を行った。その後、内側ガラス板の内面の撮影窓に、これよりもやや小さい大きさの上記防曇シートを貼り付けた。
【0210】
[実施例2]
実施例1と同様にして、マスク層を有する合わせガラスを準備し、この合わせガラスの内側ガラス板の外部表面に、さらに耐光性シートである市販のガラス用UVカットフィルム(3M製、「スコッチティントウインドウフィルム ピュアリフレ87」)を、内側ガラス板の表面の情報取得領域に貼り付けた。このUVカットフィルムつき合わせガラスのTuv380は0.1%未満(測定限界以下)で、Tuv400は0.5%であった。
【0211】
[比較例]
実施例1,2との相違は、上記有機無機複合膜と耐光性シートが設けられていない点であり、その他のガラス板及び防曇シートの構成は同じである。
【0212】
(B)評価試験
実施例及び比較例にかかるウィンドシールドに、サンシャインウェザーメーターを使用し、JIS−K−6783bに準じて、1000時間(屋外曝露1年間に相当)照射することにより屋外曝露促進試験を行った。
【0213】
次に、実施例及び比較例に係るウインドシールドから防曇シートを取り外し、各防曇シートのヘイズ率を、積分球式光線透過率測定装置(スガ試験機(株)製、「HGM−2DP」、C光源使用、膜面側から光入射)を用いて測定した。その結果、実施例1に係る防曇シートのヘイズ率は0.6%であった。同様に、実施例2に係る防曇シートのヘイズ率は、0.8%であった。
【0214】
一方、比較例に係る防曇シートについても同様にヘイズ率を測定したところ、2%であり、白濁化が容易に視認できた。したがって、実施例1、2に係る防曇シートの基材フィルムは、Tuv400が2.5%以下である合わせガラスにより紫外線が吸収されることで、白濁化が防止されていることがわかる。したがって、カメラによる撮影にも影響を及ぼさないことがわかった。以上より、白濁化が防止されるヘイズ率としては、1.5%以下にする事が好ましく、1.0%以下、更には、0.8%以下が好ましい。