(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. IPMモータ]
本発明に係るIPMモータは、以下の構成を備えている。
(1)前記IPMモータは、
2n個(n≧1)の磁極を備えたインナーロータと、
前記インナーロータに向かってティースが放射状に配置され、かつ、前記ティースの周囲に、前記インナーロータ対して回転磁界を作用させるためのコイルが巻き付けられたアウターステータと
を備えている。
(2)前記インナーロータは、
シャフトと、
前記シャフトの外周面に接合された、高透磁率材料からなるロータヨークと、
前記ロータヨークの内部に埋め込まれた、1個の前記磁極当たり2個以上の円弧状磁石と
を備え、
前記円弧状磁石は、ラジアル配向磁石からなり、
1個の前記磁極を構成する複数個の前記円弧状磁石は、所定の間隔を隔てて同心円状に配置されている。
(3)1個の前記磁極を構成する複数個の前記円弧状磁石の平均形状焦点は、
(a)下端が、前記インナーロータの内部にある地点であって、前記インナーロータの外周面からR
1/10(但し、R
1は、前記インナーロータの外周面の半径)の距離にある位置以上にあり、
(b)上端が、前記アウターステータの内部にある地点であって、前記アウターステータの内周面からR
2/5(但し、R
2は、前記アウターステータの内周面の半径)の距離にある位置以下に有り、
(c)前記インナーロータの中心と前記円弧状磁石の中心を結ぶ線(中央線)を中心とし、幅が前記ティースの幅以下である
矩形領域内にある。
【0013】
[1.1. インナーロータ]
図1に、インナーロータの斜視図を示す。
図1において、インナーロータ20は、シャフト(図示せず)と、シャフトの外周面に接合された、高透磁率材料からなるロータヨーク22と、ロータヨーク22の内部に埋め込まれた、1個の磁極当たり複数個の円弧状磁石24(i,j)とを備えている。
ここで、「円弧状磁石24(i,j)」とは、i番目の磁極を構成する外側からj番目の円弧状磁石をいう。
図1においては、i=1〜4、j=1〜4になっているが、これは単なる例示であり、磁極の数(i)及び1個の磁極当たりの円弧状磁石の数(j)は、目的に応じて最適な数を選択することができる。
【0014】
[1.1.1. 磁極数]
インナーロータ20は、2n個(n≧1)の磁極を備えている。磁極の数(2n=i)は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な個数を選択することができる。一般に、磁極の数が多くなるほど、コイルに鎖交する磁束の切替回数が増える。各極における磁石量の減り分を考慮しても、同じ回転数では、磁極の数が多くなるほど、トルク、及び発電量が向上する。このような効果を得るためには、磁極の数は、4極以上が好ましい。磁極の数は、さらに好ましくは、8極以上である。
一方、磁極の数が多くなりすぎると、ステータ形状と巻線が複雑になり、モータ体格が肥大化するという問題があり、特に小型モータで顕著となる。従って、磁極の数は、16極以下が好ましい。磁極の数は、さらに好ましくは、12極以下である。
【0015】
[1.1.2. ロータヨーク]
ロータヨーク22は、高透磁率材料からなる。ここで、「高透磁率材料」とは、円弧状磁石24(i,j)よりも比透磁率が高い材料をいう。
ロータヨーク22は、円弧状磁石24(i,j)を保持するためのものであると同時に、円弧状磁石24(i,j)と円弧状磁石24(i,j+1)との隙間にアウターステータ(図示せず)からの磁束を流入させ、リラクタンストルクを発生させるためのものである。そのため、ロータヨーク22を構成する材料の比透磁率は、高い程よい。
【0016】
高いリラクタンストルクを発生させるためには、ロータヨーク22を構成する材料の比透磁率は、50以上が好ましく、さらに好ましくは、500以上である。このような条件を満たす高透磁率材料としては、例えば、
(a)3%Si−Fe、6.5%Si−Feなどの電磁鋼板、
(b)パーメンジュール(Fe−Co合金)、アモルファス(Fe基、Co基)、ナノ結晶合金(Fe−Si−B−Cu−Nb系)
などがある。
図1に示す例では、ロータヨーク22には、電磁鋼板の積層体が用いられている。
【0017】
[1.1.3. 円弧状磁石]
高いリラクタンストルクを得るためには、d軸方向(磁極が作る磁束の方向;
図1に示すような円弧状磁石においては、ロータ中心と円弧状磁石中央を結ぶ方向)におけるインダクタンスL
dと、q軸方向(d軸と直交方向)におけるインダクタンスL
qの差を大きくする必要がある。L
dを大きくするためには、円弧状磁石を用いる必要がある。その理由は、q軸方向において、磁気抵抗の大きな磁石によって磁路を妨げられないようにするためであり、円弧状磁石を用いることにより、磁気抵抗の小さい高透磁率材料を通る磁路を形成できる。
【0018】
[A. 1個の磁極当たりの円弧状磁石の数]
1個の磁極当たりの円弧状磁石24(i,j)の数(j)は、2個以上である必要がある。その理由は、例えば、厚みDを持つ円弧状磁石を1つ用いるよりも、厚みD/2を持つ円弧状磁石を用いた方が磁石間に位置するロータヨーク22が、上記した「磁気抵抗の小さい高透磁率材料を通る磁路」になるためである。即ち、2個以上の円弧状磁石を用いることで、磁石と磁石の間のロータヨーク22を利用することでL
qが小さくなるため、リラクタンストルクを向上することが可能となる。
一方、jが大きくなりすぎると、合成トルクの向上効果が飽和するだけでなく、磁石の製造コストやロータ組立コストが増加したり、あるいは、インナーロータ20の強度が低下する。従って、jは、5以下が好ましく、さらに好ましくは、3以下である。
【0019】
[B. 円弧状磁石の磁気配向]
各円弧状磁石24(i,j)は、それぞれ、ラジアル配向磁石からなる。また、i番目の磁極を構成する複数個の円弧状磁石24(i,j)は、所定の間隔を隔てて同心円状に配置されている。これは、
(a)i番目の磁極を構成する各円弧状磁石24(i,j)からの磁束を、ある1点に集中させるため、及び、
(b)円弧状磁石24(i,j)と円弧状磁石24(i,j+1)との間の隙間を、アウターステータからの磁束が流れる磁路として利用するため、
である。
なお、ラジアル配向させた円弧状磁石を同心円状に配置した場合、各円弧状磁石の磁気配向の焦点は、各円弧状磁石の形状焦点にほぼ一致する。「形状焦点」については、後述する。
【0020】
i番目の磁極を構成する各円弧状磁石24(i,j)は、それぞれ、同一のラジアル方向(例えば、円弧から中心に向かう方向)に着磁されている。また、i番目の磁極を構成する各円弧状磁石24(i,j)は、それぞれ、(i+1)番目の磁極を構成する各円弧状磁石24(i+1,j)とは逆方向に着磁されている。換言すれば、各円弧状磁石24(i,j)は、インナーロータ20の円周方向に沿って、N極とS極とが交互に配列するように着磁されている。
【0021】
[C. 円弧状磁石の材料]
円弧状磁石24(i,j)の材料は、ラジアル配向させることが可能であり、かつ、保磁力の高い材料であれば良い。このような材料としては、例えば、R−T−B系希土類合金(Rは、Ndなどの希土類元素、Tは、Feなどの遷移金属元素)がある。R−T−B系希土類合金は、熱間加工プロセスを用いることで、高い磁気特性が得られ、かつ、ラジアル配向が容易であるので、円弧状磁石24(i,j)の材料として好適である。
【0022】
[D. 円弧状磁石の平均形状焦点]
1個の前記磁極を構成する複数個の前記円弧状磁石の平均形状焦点は、
(a)下端が、前記インナーロータの内部にある地点であって、前記インナーロータの外周面からR
1/10(但し、R
1は、前記インナーロータの外周面の半径)の距離にある位置以上にあり、
(b)上端が、前記アウターステータの内部にある地点であって、前記アウターステータの内周面からR
2/5(但し、R
2は、前記アウターステータの内周面の半径)の距離にある位置以下に有り、
(c)前記インナーロータの中心と前記円弧状磁石の中心を結ぶ線(中央線)を中心とし、幅が前記ティースの幅以下である
矩形領域内にある。
【0023】
ここで、「平均形状焦点」とは、1個の磁極を構成するすべての円弧状磁石の円弧を円周方向に等10分割し、各部位の外周弧及び内周弧の中心を加重平均した点をいう。
「形状焦点」とは、1個の円弧状磁石について、上記と同様にして求めた点をいう。
【0024】
図2に、矩形領域の定義を説明するための模式図を示す。矩形領域(
図2中、ハッチングを施した領域)の下端の辺は、インナーロータ20の外周面からR
1/10の位置にある。また、矩形領域の上端の辺は、アウターステータ40の内周面からR
2/5の位置にある。さらに、矩形領域は、インナーロータ20と円弧状磁石の中心を結ぶ線(中央線)を中心とし、矩形領域の幅は、ティース42の幅(ネック幅)(W)に等しくなっている。
【0025】
平均形状焦点がアウターステータ40の内周面から少しアウターステータ40側に入った位置にある時に、マグネットトルクは最大となる。しかし、平均形状焦点位置がアウターステータの内周面から過度に遠ざかると、マグネットトルクはかえって減少する。
一方、形状焦点がインナーロータ20の外周面から少しインナーロータ20側に入った位置にある時に、リラクタンストルクは最大となる。しかし、平均形状焦点の位置がインナーロータ20の外周面から過度に遠ざかると、リラクタンストルクはかえって減少する。そのため、平均形状焦点が上述した領域内にある時に、合成トルクが最大となる。
【0026】
また、平均形状焦点は、インナーロータ20の中心と円弧状磁石24(i,j)の中心とを結ぶ中央線上にあるのが最も好ましいが、平均形状焦点の位置が中央線から左右にずれていても良い。しかし、左右方向のずれ(δ)が大きくなると、モータを右回転させた時と左回転させた時の特性の差が大きくなる。右回転時と左回転時のマグネットトルクの差を5%以内とするためには、矩形領域の幅は、ティース42の幅(W)以下が好ましい。また、マグネットトルクの差を3%以内とするためには、矩形領域の幅は、ティース42の幅(W)の1/2以下が好ましい。
【0027】
[E. 円弧状磁石の形状焦点のばらつき]
i番目の磁極を構成する各円弧状磁石24(i,j)は、理想的には、
(a)各円弧状磁石24(i,j)の形状焦点が完全に一致しており、かつ、
(b)各円弧状磁石24(i,j)の形状焦点が上述した矩形領域内にある
のが好ましい。しかしながら、実際には、各円弧状磁石24(i,j)の形状焦点が理想的な位置からずれることがある。
【0028】
各円弧状磁石24(i,j)の形状焦点が理想的な位置からずれている場合であっても、そのばらつきが所定の範囲内であれば、高いマグネットトルクが得られる。高いマグネットトルクを得るためには、形状焦点のばらつき(3σ)は、2mm以下が好ましい。形状焦点のばらつき(3σ)は、好ましくは、1.5mm以下、さらに好ましくは、1.0mm以下、さらに好ましくは、0.1mm以下である。
ここで、「形状焦点のばらつき(3σ)」とは、1個の磁極を構成する各円弧状磁石の円弧を円周方向に等10分割し、各部位の外周弧又は内周弧の中心と、平均形状焦点との間の直線距離の標準偏差(σ)の3倍の値をいう。
【0029】
[F. 円弧状磁石の総厚さ]
1個の磁極を構成する複数個の円弧状磁石の総厚さは、合成トルクに影響を与える。一般に、円弧状磁石の総厚さが薄くなるほど、リラクタンストルクは高くなるが、マグネットトルクは低下する。高い合成トルクを得るためには、円弧状磁石の総厚さは、(2/100)×R
1(R
1は、インナーロータの外径)以上が好ましい。
一方、円弧状磁石の総厚さが厚くなるほど、マグネットトルクは高くなるが、リラクタンストルクは低下する。高い合成トルクを得るためには、円弧状磁石の総厚さは、(25/100)×R
1以下が好ましい。
【0030】
[G. 円弧状磁石の真円度]
i番目の磁極を構成する各円弧状磁石24(i,j)は、理想的には、外周面及び内周面が真円弧であるのが好ましい。しかしながら、実際には、各円弧状磁石24(i,j)の外周面及び/又は内周面が、理想的な真円からずれることがある。
一般に、各円弧状磁石24(i,j)の外周面形状及び/又は内周面形状の真円からのずれが大きくなるほど、各円弧状磁石24(i,j)からの磁力線が分散するので、マグネットトルクが小さくなる。また、円弧状磁石24(i,j)と円弧状磁石24(i,j+1)との間の距離が不均一となるため、リラクタンストルクも小さくなる。
【0031】
高い合成トルクを得るためには、i番目の磁極を構成する各円弧状磁石24(i,j)の外周面及び内周面は、それぞれ、次の(1)式で表される真円度Cが0.5mm以下であるのが好ましい。真円度Cは、好ましくは、0.1mm以下である。
【0032】
C(mm)=r
max−r
min ・・・(1)
但し、
r
amxは、前記円弧状磁石の外周面(又は、内周面)に接する同心円の内、最小の外接円の半径(mm)、
r
mminは、前記円弧状磁石の外周面(又は、内周面)に接する同心円の内、最大の内接円の半径(mm)。
【0033】
[H. 円弧状磁石の平均厚さ]
各円弧状磁石24(i,j)の平均厚さt
m(i,j)は、特に限定されない。各円弧状磁石24(i,j)の平均厚さt
m(i,j)は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
ここで、「円弧状磁石24(i,j)の平均厚さt
m(i,j)」とは、次の(2)式で表される値をいう。
【0034】
t
m(i,j)={t
max(i,j)+t
min(i,j)}/2 ・・・(2)
但し、
t
max(i,j)は、i番目の磁極のj番目の円弧状磁石の厚さの最大値、
t
min(i,j)は、i番目の磁極のj番目の円弧状磁石の厚さの最小値。
【0035】
各円弧状磁石24(i,j)の平均厚さt
m(i,j)が互いに同一である場合、リラクタンストルクの磁化容易軸において、磁束の通過を阻害する磁気抵抗を低下させる部位がなく、所望のリラクタンストルクを実現できる。
一方、各円弧状磁石24(i,j)の平均厚さt
m(i,j)が互いに異なっている場合、リラクタンストルクの磁化容易軸において、磁束の通過を阻害する磁気抵抗を低下させる部位が発生し、所望のリラクタンストルクを実現することが困難となる。
従って、各円弧状磁石24(i,j)の平均厚さt
m(i,j)は、互いに同一であるのが好ましい。
【0036】
一般に、平均厚さt
m(i,j)が大きくなるほど、マグネットトルクは向上するが、リラクタンストルクが低下する傾向となる。よって、用途に応じて、低速回転に有効なマグネットトルクと高速回転に有効なリラクタンストルクの比率を適正とする必要がある。
例えば、平均厚さt
m(i,j)を相対的に大きくすることで、マグネットトルク(の最大値)≧リラクタンストルク(の最大値)とすることが可能であり、低速回転に有効である。
他方、平均厚さt
m(i,j)を相対的に小さくすることで、リラクタンストルク(の最大値)≧マグネットトルク(の最大値)とすることが可能であり、高速回転に有効である。
【0037】
[I. 円弧状磁石の平均磁石間距離]
本発明において、平均磁石間距離d
m(i,j)は、特に限定されるものではなく、少なくとも、隣接する円弧状磁石24(i,j)と円弧状磁石24(i,j+1)との間に高透磁率材料(ロータヨーク22)を挿入可能な間隔であれば良い。平均磁石間距離d
m(i,j)は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
ここで、「平均磁石間距離d
m(i,j)」とは、次の(3)式で表される値をいう。
【0038】
d
m(i,j)={d
max(i,j)+d
min(i,j)}/2 ・・・(3)
但し、
d
max(i,j)は、i番目の磁極のj番目の磁石間距離d(i,j)の最大値、
d
min(i,j)は、i番目の磁極のj番目の磁石間距離d(i,j)の最小値。
【0039】
一般に、平均磁石間距離d
m(i,j)が大きくなるほど、リラクタンストルクは向上するが、マグネットトルクが低下する傾向となる。よって、用途に応じて、低速回転に有効なマグネットトルクと高速回転に有効なリラクタンストルクの比率を適正とする必要がある。
例えば、平均磁石間距離d
m(i,j)を相対的に大きくすることで、リラクタンストルク(の最大値)≧マグネットトルク(の最大値)とすることが可能であり、低速回転に有効である。
他方、平均磁石間距離d
m(i,j)を相対的に小さくすることで、マグネットトルク(の最大値)≧リラクタンストルク(の最大値)とすることが可能であり、高速回転に有効である。
【0040】
[J. 円弧状磁石の磁石間距離のばらつき]
真円弧からなる複数個の円弧状磁石24(i,j)が同心円状に配列している場合、平均磁石間距離d
m(i,j)は、場所によらず同一となる。しかしながら、実際には、円弧状磁石24(i,j)の外周面形状及び/又は内周面形状が真円弧からずれていたり、あるいは、並進及び/又は回転によって、円弧状磁石24(i,j)が理想的な位置からずれることがある。
この場合、ずれの種類(並進、回転)や大きさによっては、円弧状磁石24(i,j)−24(i,j+1)間の磁石間距離d(i,j)が場所によって異なることがある。一般に、磁石間距離d(i,j)が場所によって大きく異なっていると、磁化容易軸において、磁束の通過を阻害する磁気抵抗を低下させる部位が発生し、所望のリラクタンストルクを得ることができない。
【0041】
従って、磁石間距離のばらつきσ(i,j)は、小さい程よい。ここで、「磁石間距離のばらつきσ(i,j)」とは、次の(4)式で表される値をいう。
σ(i,j)={d
max(i,j)−d
min(i,j)}/t
m ・・・(4)
但し、
d
max(i,j)は、i番目の磁極のj番目の磁石間距離d(i,j)の最大値、
d
min(i,j)は、i番目の磁極のj番目の磁石間距離d(i,j)の最小値、
t
mは、t
m(i,j)の平均値(円弧状磁石の全平均厚さ)。
【0042】
高いリラクタンストルクを得るためには、磁石間距離のばらつきσ(i,j)は、それぞれ、1/6以下が好ましい。磁石間距離のばらつきσ(i,j)は、さらに好ましくは、1/12以下である。
【0043】
[1.2. アウターステータ]
アウターステータは、中央にインナーロータを挿入するための貫通穴を備えており、貫通穴の内表面には、界磁コイルの鉄芯となるティースが放射状に配置されている。また、アウターステータは、インナーロータに対して回転磁界を作用させるためのコイルが内蔵されている。本発明において、アウターステータの構造(例えば、ティースの構造、コイルの巻き線方式など)は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な構造を選択することができる。
【0044】
[2. 円弧状磁石の製造方法]
本発明において、円弧状磁石には、ラジアル配向磁石が用いられる。ラジアル配向磁石の製造方法は、特に限定されるものではなく、磁石材料の組成に応じて最適な方法を選択することができる。
例えば、円弧状磁石の材料として、R−T−B系希土類合金を用いる場合、
(a)熱間押出成形法を用いて円筒状磁石を製造し、
(b)得られた円筒状磁石を軸方向に分割して円弧状磁石を得る
のが好ましい。
R−T−B系希土類合金は、加圧方向に磁化容易軸が配向する性質があるため、熱間押出成形法を用いると、容易にラジアル配向磁石を得ることができる。
【0045】
図3に、R−T−B系希土類合金からなる円筒状磁石の製造方法の工程図を示す。
まず、超急冷法を用いて、R−T−B系希土類合金からなる原料粉末を作製する(
図3(a))。超急冷法により製造された原料粉末(〜150μm)は、微細な等軸形状の結晶粒(0.02μm)からなる主相(R
2T
14B結晶(2−14−1結晶))を含んでおり、個々の主相の磁化容易軸(c軸)がランダムな方向を向いた無配向組織を呈している。
【0046】
次に、このような原料粉末を冷間成形する(
図3(b))。これにより、無配向組織の圧粉成形体が得られる。圧粉成形体の密度は、成形条件にもよるが、通常、真密度の70%程度となる。
【0047】
次に、得られた冷間成形体を熱間成形する(
図3(c))。これにより、成形体が緻密化する。この時、金属組織の大部分は等軸形状粒のままであるため、続く熱間押出成形における異方形状粒の成長及び配列を阻害することはない。
【0048】
次に、緻密化した熱間成形体をさらに熱間押出成形する(
図3(d))。これにより、異方形状粒の成長が進行すると同時に、粒界相が液相化し、粒界滑りが起きる。この時、異方形状粒は、その形状の異方性によって、c軸が圧縮方向(
図3(d)の例ではラジアル方向)に平行となるように回転する。その結果、微細な異方形状粒を含み、かつ、異方形状粒の磁化容易軸がラジアル方向に配向したR−T−B系希土類磁石が得られる。
さらに、得られた円筒状磁石を所定の中心角となるように軸方向に分割すれば、ラジアル配向した円弧状磁石が得られる。
【0049】
[3. 作用]
インナーロータ内に、1個の磁極当たり複数個の円弧状磁石を同心円状に埋め込む場合において、円弧状磁石の平均形状焦点がインナーロータの外周面近傍に位置する狭い矩形領域内に来るように、円弧状磁石の形状及び配置を最適化すると、マグネットトルクが向上する。また、複数個の円弧状磁石を同心円状に配置すると、リラクタンストルクの有効利用が可能となる。その結果、IPMモータの合成トルクが向上する。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
[1. モータの作製]
図4に、本発明に係るIPMモータの平面図を示す。
図4において、IPMモータ10は、インナーロータ20と、アウターステータ40とを備えている。インナーロータ20には、1個の磁極当たり3個の円弧状磁石24(i.j)が埋め込まれている。また、アウターステータ40の内周面側には、ティース42、42…が放射状に配置されている。さらに、ティース42、42…の周囲には、コイル(図示せず)が巻き付けられている。
このようなIPMモータ10のインナーロータ20内に、曲率半径又は厚さの異なる種々の円弧状磁石24(i,j)を埋め込んだ。磁極の数(i)は、4極とした。
【0051】
[2. 試験方法及び結果]
[2.1. 平均形状焦点のラジアル方向の位置]
1つの磁極を構成する円弧状磁石24(i,j)の平均形状焦点の位置が
図4に示すA点〜F点に来るように、各円弧状磁石24(i,j)の曲率半径を変化させた。A点〜F点は、いずれも中央線上にある。
図4中、C点はアウターステータ40の内周面上の点であり、D点はインナーロータ20の外周面上の点である。
BC間距離は、R
2/5(R
2は、アウターステータ40の内周面の半径)とした。AC間距離は、2×R
2/5とした。DE間距離は、R
1/10(R
1は、インナーロータ20の外周面の半径)とした。DF間距離は、2×R
1/10とした。さらに、CD間距離(ロータ/ステータ間のギャップ=R
2−R
1)は、1mmとした。
【0052】
表1に、平均形状焦点の位置とトルクとの関係を示す。表1より、以下のことがわかる。
(1)平均形状焦点がB〜D間にある場合、マグネットトルクが高くなった。
(2)平均形状焦点がD〜F間にある場合、リラクタンストルクが高くなった。
(3)平均形状焦点がB〜E間(R
1/10〜R
2/5の領域内)にある場合、合成トルクが高くなった。
【0053】
【表1】
【0054】
[2.2. 形状焦点のばらつき]
1つの磁極を構成する円弧状磁石24(i,j)の平均形状焦点は、
図4のD点(インナーロータ20の外周面)又はC点(アウターステータ40の内周面)上にあるが、各円弧状磁石24(i,j)の個々の形状焦点がばらつくように、各円弧状磁石24(i,j)の曲率半径を変化させた。表2に、平均形状焦点がD点上にある場合の形状焦点のばらつき(3σ)とトルクとの関係を示す。表3に、平均形状焦点がC点上にある場合の形状焦点のばらつき(3σ)とトルクとの関係を示す。表2及び表3より、形状焦点のばらつきが小さくなるほど、合成トルクが高くなることがわかる。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
[2.3. 円弧状磁石の総厚さ]
1つの磁極を構成する円弧状磁石24(i,j)の平均形状焦点は、
図3のD点(インナーロータ20の外周面)上にあるが、1つの磁極を構成する円弧状磁石24(i,j)の総厚さを変化させた。
表4に、平均形状焦点がD点上にある場合の磁石の総厚さとトルクとの関係を示す。表4より、磁石の総厚さが所定の範囲にあるときに、合成トルクが高くなることがわかる。
【0058】
【表4】
【0059】
[2.4. 平均形状焦点の円周方向の位置]
平均形状焦点のラジアル方向の位置(
図2のy方向の位置)は、上述したB〜E点と同様であるが、円周方向の位置(
図2のx方向の位置)が中央線からシフトしているモータを作製し、左右回転時のトルク差を評価した。中央線からのシフト量δは、0〜3W/4(Wは、ティースの幅)とした。
表5に、中央線からのシフト量と左右回転のトルク差の関係を示す。表5より、シフト量δをW/2以下にする(すなわち、矩形領域の幅をティースの幅(W)以下にする)と、左右回転のトルク差が5%以下になることがわかる。
【0060】
【表5】
【0061】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。