特許第6886278号(P6886278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6886278-抗癌剤 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886278
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】抗癌剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20210603BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20210603BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210603BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   A61K39/395 U
   A61K39/395 T
   A61K39/395 G
   A61K39/395 E
   A61K31/47
   A61P35/00
   A61P43/00 121
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-234473(P2016-234473)
(22)【出願日】2016年12月1日
(65)【公開番号】特開2018-90523(P2018-90523A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年11月11日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2016年6月1日 https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI−PROJECT−25861507/RECORD−258615072014hokoku/ (2)平成28年6月27日 「第20回日本がん免疫学会総会 プログラム/抄録集」、及び平成28年7月28日及び29日 「第20回日本がん免疫学会総会(大阪国際交流センター)」に発表 (3)平成28年9月20日 「第75回日本癌学会学術総会 プログラム集」、及び平成28年10月8日 「第75回日本癌学会学術総会(パシフィコ横浜)」に発表 (4)平成28年9月23日 http://www.myschedule.jp/jca2016/search/detail_program/id:1923(第75回日本癌学会学術総会 要旨集のページ)(5)平成28年10月3日 http://www.nikkei.com/article/DGXLZ007907560S6A001C1TJM000/
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】坪田 欣也
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智憲
(72)【発明者】
【氏名】西尾 咲子
(72)【発明者】
【氏名】河上 裕
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/130889(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/131380(WO,A1)
【文献】 特開2011−246432(JP,A)
【文献】 SORRENTINO, G. et al.,Nat Cell Biol,2014年,Vol. 16, No.4,pp. 357-366
【文献】 ZHOU, T.Y. et al,Sci Rep,2016年 8月,Vol. 6, Article No. 30483,pp. 1-12
【文献】 MIETTINEN, T.P. et al.,Cell Rep,2015年,Vol. 13,pp. 2610-2620
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 31/00
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PD−1抗体と、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物とを組み合わせてなる抗癌剤。
【請求項2】
抗PD−1抗体が、ニボルマブ又はペンブロリズマブである請求項1に記載の抗癌剤。
【請求項3】
ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である請求項1又は2に記載の抗癌剤。
【請求項4】
癌の予防及び/又は治療用である請求項1〜のいずれか1項に記載の抗癌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、癌治療の分野において、癌免疫療法、あるいは免疫チェックポイント阻害剤が注目されている。例えば、CD28ファミリーに属する免疫抑制性の受容体であるPD−1分子はT細胞の活性化抑制に関与することから、癌細胞が体性免疫から逃れるために中心的な役割をになう分子と認識されている(非特許文献1)。実際にPD−1を阻害することによって癌の免疫逃避機構をキャンセルするニボルマブ、ペンブロリズマブといった抗PD−1抗体が開発され、悪性黒色腫の治療剤として臨床の現場で用いられている(非特許文献2)。
【0003】
一方、ピタバスタチンは、高脂血症治療の第一選択薬として用いられているHMG−CoA還元酵素阻害剤のひとつであり(非特許文献3)、血漿中コレステロール濃度低下剤として有用であることが知られている。HMG−CoA還元酵素阻害剤にはLDLコレステロール低下作用とは独立した多面的作用(Pleiotropic Effects)が報告されており、皮膚癌、肺癌、乳がん、大腸癌、膀胱・腎癌、リンパ腫、子宮癌で発癌リスクが低下することが知られている(非特許文献4)。ピタバスタチンにおいては、神経膠芽腫(非特許文献5)、早期肝癌(非特許文献6)に対し治療効果を有することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mary E. Keiret al. Annual Review of Immunology, 26, 677-704 (2008)
【非特許文献2】Kathleen M.Mahoney et al. Clinical Therapeutics, 37(4), 764-782 (2015)
【非特許文献3】Saito Y. Vasc Health Risk Manag, 16, 5921-36 (2009)
【非特許文献4】Blais L. et al. Arch Intern Med. 160(15), 2363-2368 (2000)
【非特許文献5】Jiang P. et al. Journal of Translational Medicine 2014 12:1 Article Number 13
【非特許文献6】Shimizu M., BMC Cancer, 11, 281 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、より優れた抗腫瘍作用を有する新たな抗癌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記実情に鑑み、本発明者らは、まず、HMG−CoA還元酵素阻害剤の一種であるピタバスタチンの癌細胞に対する直接的な増殖抑制作用ではなく、腫瘍抗原特異的T細胞に対する作用を検討したところ、ピタバスタチンが単独で腫瘍抗原特異的T細胞の誘導を増強する作用を有することを見出した。当該腫瘍抗原特異的T細胞誘導増強作用は、癌免疫療法に関与することに鑑み、ピタバスタチンと抗PD−1抗体とを併用して、腫瘍抗原特異的T細胞の誘導作用、及び抗腫瘍作用を検討したところ、当該併用により、腫瘍抗原特異的T細胞誘導作用及び抗腫瘍作用が相乗的に増強されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[33]に関するものである。
[1]免疫チェックポイント阻害剤、及びHMG−CoA還元酵素阻害剤を組み合わせてなる抗癌剤。
[2]免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、及び抗CTLA−4抗体からなる群から選択される[1]に記載の抗癌剤。
[3]抗PD−1抗体が、ニボルマブ又はペンブロリズマブである[2]に記載の抗癌剤。
[4]抗PD−L1抗体が、アテゾリズマブ、アベルマブ、又はデュルバルマブである[2]に記載の抗癌剤。
[5]抗CTLA−4抗体が、イピリムマブ又はトレメリムマブである[2]に記載の抗癌剤。
[6]HMG−CoA還元酵素阻害剤が、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である[1]〜[5]のいずれかに記載の抗癌剤。
[7]ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である[6]に記載の抗癌剤。
[8]癌の予防及び/又は治療のために用いられる[1]〜[7]のいずれかに記載の抗癌剤。
[9]癌が卵巣癌である[8]に記載の抗癌剤。
[10]癌が大腸癌である[8]に記載の抗癌剤。
[11]免疫チェックポイント阻害剤、HMG−CoA還元酵素阻害剤、及び医薬として許容される担体を含有してなる医薬組成物。
[12]免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、及び抗CTLA−4抗体からなる群から選択される[11]に記載の医薬組成物。
[13]抗PD−1抗体が、ニボルマブ又はペンブロリズマブである[12]に記載の医薬組成物。
[14]抗PD−L1抗体が、アテゾリズマブ、アベルマブ、又はデュルバルマブである[12]に記載の医薬組成物。
[15]抗CTLA−4抗体が、イピリムマブ又はトレメリムマブである[12]に記載の医薬組成物。
[16]HMG−CoA還元酵素阻害剤が、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である[11]〜[15]のいずれかに記載の医薬組成物。
[17]ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である[16]に記載の医薬組成物。
[18]腫瘍増殖抑制のために用いられる[11]〜[17]のいずれかに記載の医薬組成物。
[19]癌の予防及び/又は治療のために用いられる[11]〜[18]のいずれかに記載の医薬組成物。
[20]癌が卵巣癌である[19]に記載の医薬組成物。
[21]癌が大腸癌である[19]に記載の医薬組成物。
[22]免疫チェックポイント阻害剤、及びHMG−CoA還元酵素阻害剤を組み合わせてなる癌の予防及び/又は治療のための医薬。
[23]免疫チェックポイント阻害剤が、抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、及び抗CTLA−4抗体からなる群から選択される[22]に記載の医薬。
[24]抗PD−1抗体が、ニボルマブ又はペンブロリズマブである[23]に記載の医薬。
[25]抗PD−L1抗体が、アテゾリズマブ、アベルマブ、又はデュルバルマブである[23]に記載の医薬。
[26]抗CTLA−4抗体が、イピリムマブ又はトレメリムマブ)である[23]に記載の医薬。
[27]HMG−CoA還元酵素阻害剤が、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である[22]〜[26]のいずれかに記載の医薬。
[28]ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である[27]に記載の医薬。
[29]癌が卵巣癌である[22]〜[28]のいずれかに記載の医薬。
[30]癌が大腸癌である[22]〜[28]のいずれかに記載の医薬。
[31]HMG−CoA還元酵素阻害剤を有効成分とする腫瘍抗原特異的T細胞の誘導増強剤。
[32]HMG−CoA還元酵素阻害剤が、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である[31]に記載の腫瘍抗原特異的T細胞の誘導増強剤。
[33]ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が、ピタバスタチンカルシウム又はピタバスタチンカルシウム水和物である[32]に記載の腫瘍抗原特異的T細胞の誘導増強剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた抗癌剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】マウス大腸癌細胞株MC38皮下移植の担癌マウスモデルに対して、抗PD−1抗体単独、ピタバスタチン単独、抗PD−1抗体とピタバスタチン併用投与を行ったときの腫瘍体積増大の変化を示す。
図2】マウス大腸癌細胞株MC38皮下移植の担癌マウスモデルに対して、抗PD−1抗体単独、ピタバスタチン単独、抗PD−1抗体とピタバスタチン併用投与を行ったときのINF−γ産生量(腫瘍抗原特異的T細胞の誘導増強作用)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における用語の定義は以下の通りである。なお、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、特に断らない限り、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味をもつ。
【0011】
「免疫チェックポイント」は、当該分野で公知であり(国際公開第2016/091487号パンフレット)、当該用語は癌細胞が免疫細胞に対してブレーキをかけて免疫細胞の攻撃を阻止するポイントと理解されている。最もよく知られている免疫チェックポイントは、CTLA−4、PD−1、および、そのリガンドPD−L1である。さらに、TIM−3、KIR、LAG−3、VISTA、BTLAが含まれる。「免疫チェックポイント阻害剤」は、それら免疫チェックポイントの正常な免疫機能を阻害する薬である。例えば、免疫チェックポイントの分子の発現を負に制御するか、または、その分子に結合して、正常な受容体/リガンド相互作用をブロックすることによって阻害する薬である。免疫チェックポイントは、抗原に対する免疫系応答にブレーキをかけるようにするので、その阻害剤は、この免疫抑制効果を減少させ、免疫応答を増強する。免疫チェックポイント阻害剤は、当技術分野で公知であり、好ましいものとしては、抗PD−1抗体(例えばニボルマブ(nivolumab)、ペンブロリズマブ(pembrolizumab)、PDR−001、REGN−2810、SHR−1210、PF−06801591、AMP−224)、抗PD−L1抗体(例えばアテゾリズマブ(atezolizumab)、アベルマブ(avelumab)、デュルバルマブ(durvalumab)、BMS−936559、LY−3300054)並びに、抗CTLA−4抗体(例えばイピリムマブ(ipilimumab)、トレメリムマブ(tremelimumab))、等の抗−免疫チェックポイント抗体が挙げられる。
【0012】
本発明の実施のために使用される抗体は、公知の方法で製造されたものを使用してもよく、あるいは市販品を使用してもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0013】
ニボルマブは、特に制限されないが例えば特許第4361545号公報に記載の方法により製造することができる。ペンブロリズマブは、特に制限されないが例えば特許第5191537号公報に記載の方法により製造することができる。アテゾリズマブは、特に制限されないが例えば国際公開第2010/077634号パンフレットに記載の方法により製造することができる。アベルマブは、特に制限されないが例えば国際公開第2013/079174号パンフレットに記載の方法により製造することができる。デュルバルマブは、特に制限されないが例えば国際公開第2011/066389号パンフレットに記載の方法により製造することができる。イピリムマブは、特に制限されないが例えば国際公開第01/14424号パンフレットに記載された方法により製造することができる。トレメリムマブは、特に制限されないが例えば国際公開第00/37504号パンフレットに記載の方法により製造することができる。
【0014】
「HMG−CoA還元酵素阻害剤」とは、HMG−CoA還元酵素によって触媒されるヒドロキシメチルグルタリル−補酵素Aのメバロン酸への生物学的変換を阻害する化合物であり、ロバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、シンバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、フルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、プラバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、アトルバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びロスバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0015】
HMG−CoA還元酵素阻害剤の一実施形態であるピタバスタチンには、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物が含まれる。ピタバスタチンの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;フェネチルアミン塩等の有機アミン塩又はアンモニウム塩等が挙げられ、特にカルシウム塩が好ましい。ピタバスタチン若しくはその塩の溶媒和物としては、水和物が好ましい。ピタバスタチンは、特に制限されないが例えば米国特許第5856336号公報、特開平1−279866号公報に記載の方法により製造することができる。
【0016】
本発明の別の実施形態として、ピタバスタチンには、ピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の誘導体が含まれる。ピタバスタチンの誘導体としては、無水物、ラクトン体等が挙げられる。
【0017】
後記実施例に示すように、HMG−CoA還元酵素阻害剤、例えばピタバスタチンは、単独で腫瘍抗原特異的T細胞(腫瘍特異的細胞傷害性T細胞)の誘導を増強する作用を有し、腫瘍抗原特異的T細胞の誘導増強剤として有用である。
また、免疫チェックポイント阻害剤とHMG−CoA還元酵素阻害剤との組み合わせは、腫瘍抗原特異的T細胞の誘導増強細胞及び抗腫瘍作用を相乗的に増強する作用を有し、抗癌剤又は医薬組成物として有用である。
【0018】
本発明の抗癌剤又は医薬組成物は、任意の投与形態で投与することができ、投与形態に合わせて製剤を選択することができる。経口投与製剤としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。非経口投与製剤としては、注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、皮膚外用剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。注射剤を選択する場合は、投与経路は皮下注射、筋肉内注射、嚢内注射、髄腔内注射、腹腔内注射、腫瘍内注射、経皮注射及び静脈内注射が挙げられる。また、含嗽剤、鼻洗浄剤として使用してもよい。
【0019】
経口用固形製剤を調製する場合は、賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、嬌味剤等を加えた後、常法により錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。
【0020】
経口用液体製剤を調製する場合は、嬌味剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤等を加えて常法により、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0021】
注射剤を調製する場合は、pH調整剤、安定化剤、等張化剤を添加し、常法により皮下、筋肉及び静脈内注射剤等を製造することができる。
【0022】
本発明の抗癌剤又は医薬組成物は、特に限定されないが、腫瘍増殖抑制剤、癌の予防及び/又は治療のための製剤に使用することができる。予防及び/又は治療する癌としては、特に限定されないが例えば、メラノーマ、肉腫、骨肉腫、リンパ腫、白血病、神経芽細胞腫、膠芽腫、乳癌、子宮癌、子宮頸癌、口腔癌、舌癌、甲状腺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、胆嚢癌、胆管癌、腎癌、腎細胞癌、肝癌、肝細胞癌、小細胞性肺癌、非小細胞性肺癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌、睾丸癌、膀胱癌および皮膚癌が挙げられ、特に卵巣癌、大腸癌に使用することが好ましい。
【0023】
本発明の抗癌剤又は医薬組成物は、適切な処置を必要とする患者に投与することができる。その場合、免疫チェックポイント阻害剤とHMG−CoA還元酵素阻害剤は、同時に投与することができ、あるいは時間を置いて別々に投与することができる。また、患者に投与される免疫チェックポイント阻害剤とHMG−CoA還元酵素阻害剤の投与量の比としては、10000:1〜1:10000の範囲が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0024】
本発明の一実施形態として、免疫チェックポイント阻害剤とHMG−CoA還元酵素阻害剤が同時に投与されるために調製された単一製剤であってもよい。免疫チェックポイント阻害剤がニボルマブでありHMG−CoA還元酵素阻害剤がピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である場合、質量比が100:1〜1:1000の範囲であることが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0025】
本発明の一実施形態として、免疫チェックポイント阻害剤とHMG−CoA還元酵素阻害剤が別々に製剤化されていてもよい。また本発明の別の実施形態として、別々に製剤化された免疫チェックポイント阻害剤とHMG−CoA還元酵素阻害剤を、それぞれの投与方法が記載された指示書と組み合わせたキット医薬であってもよい。別々に製剤化された免疫チェックポイント阻害剤とHMG−CoA還元酵素阻害剤を適切な処置を必要とする患者に投与する場合、それぞれの製剤の剤形は同一又は不同であり、またそれぞれの製剤の投与間隔は同一又は不同である。
【0026】
本発明の一実施形態として、免疫チェックポイント阻害剤はニボルマブであり、HMG−CoA還元酵素阻害剤はピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である。この場合、適切な処置を必要とする患者に対して、非経口投与製剤、好ましくは注射剤に調製されたニボルマブ1〜1000mgを1日〜1ヶ月に1回の間隔で投与し、経口投与製剤に調製されたピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物0.1〜50mgを12時間〜1週間に1回の間隔で投与することができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0027】
本発明の一実施形態として、免疫チェックポイント阻害剤はペンブロリズマブであり、HMG−CoA還元酵素阻害剤はピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である。この場合、適切な処置を必要とする患者に対して、非経口投与製剤、好ましくは注射剤に調製されたペンブロリズマブ1〜1000mgを1日〜1ヶ月に1回の間隔で投与し、経口投与製剤に調製されたピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物0.1〜50mgを12時間〜1週間に1回の間隔で投与することができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0028】
本発明の一実施形態として、免疫チェックポイント阻害剤はアテゾリズマブであり、HMG−CoA還元酵素阻害剤はピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である。この場合、適切な処置を必要とする患者に対して、非経口投与製剤、好ましくは注射剤に調製されたアテゾリズマブ10〜10000mgを1日〜1ヶ月に1回の間隔で投与し、経口投与製剤に調製されたピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物0.1〜50mgを12時間〜1週間に1回の間隔で投与することができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0029】
本発明の一実施形態として、免疫チェックポイント阻害剤はアベルマブであり、HMG−CoA還元酵素阻害剤はピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である。この場合、適切な処置を必要とする患者に対して、非経口投与製剤、好ましくは注射剤に調製されたアベルマブ1〜10000mgを1日〜1ヶ月に1回の間隔で投与し、経口投与製剤に調製されたピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物0.1〜50mgを12時間〜1週間に1回の間隔で投与することができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0030】
本発明の一実施形態として、免疫チェックポイント阻害剤はデュルバルマブであり、HMG−CoA還元酵素阻害剤はピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である。この場合、適切な処置を必要とする患者に対して、非経口投与製剤、好ましくは注射剤に調製されたデュルバルマブ1〜10000mgを1日〜1ヶ月に1回の間隔で投与し、経口投与製剤に調製されたピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物0.1〜50mgを12時間〜1週間に1回の間隔で投与することができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0031】
本発明の一実施形態として、免疫チェックポイント阻害剤はイピリムマブであり、HMG−CoA還元酵素阻害剤はピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である。この場合、適切な処置を必要とする患者に対して、非経口投与製剤、好ましくは注射剤に調製されたイピリムマブ1〜1000mgを1日〜1ヶ月に1回の間隔で投与し、経口投与製剤に調製されたピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物0.1〜50mgを12時間〜1週間に1回の間隔で投与することができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0032】
本発明の一実施形態として、免疫チェックポイント阻害剤はトレメリムマブであり、HMG−CoA還元酵素阻害剤はピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物である。この場合、適切な処置を必要とする患者に対して、非経口投与製剤、好ましくは注射剤に調製されたトレメリムマブ1〜10000mgを1日〜1ヶ月に1回の間隔で投与し、経口投与製剤に調製されたピタバスタチン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物0.1〜50mgを12時間〜1週間に1回の間隔で投与することができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
実施例1.マウス大腸癌細胞株MC38皮下移植担癌マウスモデル(Syngeneic tumor model)における抗腫瘍作用
(実験方法)
マウス大腸癌細胞株MC38をC57BL/6マウス(6週齢、雌性)20匹の側腹部皮下に移植した(5×105細胞/部位)(Day0)。細胞移植5日後(Day5)、腫瘍の形と腫瘍体積によって、マウスを4群((1)コントロール群、(2)ピタバスタチン単剤投与群、(3)抗PD−1抗体単剤投与群、(4)ピタバスタチン+抗PD−1抗体併用投与群)に群分け(3匹/群)した。細胞移植5日後(Day5)から18日後(Day18)まで、ピタバスタチン単剤投与群および、ピタバスタチン+抗PD−1抗体併用投与群には、1日1回ピタバスタチンを0.5%カルボキシメチルセルロース水溶液に懸濁し、連日腹腔内投与した(1mg/kg)。コントロール群および、抗PD−1抗体単剤投与群には0.5%カルボキシメチルセルロース水溶液を同じく1日1回連日腹腔内投与した。さらに、抗PD−1抗体単剤投与群および、ピタバスタチン+抗PD−1抗体併用投与群には、細胞移植5,8,11,14日後(Day5,8,11,14)にラット抗PD−1モノクローナル抗体(クローン:RMP1−14,Bio X Cell社)を腹腔内投与した(10mg/kg)。コントロール群および、ピタバスタチン単剤投与群には、アイソタイプコントロール抗体(ラットIgG2a、Bio X Cell社)を同じく細胞移植5,8,11,14日後(Day5,8,11,14)に腹腔内投与した(10mg/kg)。細胞移植0,5,8,11,15,18日後(Day0,5,8,11,15,18)に腫瘍の長径と短径をノギスにて測定し、式[V=a×b2/2ただしV:腫瘍体積(mm3),a:長径(mm),b:短径(mm)]より腫瘍体積を算出した。
【0035】
(結果)
腫瘍体積の経日変化を図1に示した。コントロール群では、細胞移植後、腫瘍は日を追って増大し続け、細胞移植18日後(Day18)には845.8±305.2mm3(平均±標準偏差)となった。ピタバスタチン単剤投与群および、抗PD−1抗体単剤投与群はともに細胞移植8日後(Day8)以降、コントロール群に比べ腫瘍体積の増大が抑制され、細胞移植18日後(Day18)の腫瘍体積はピタバスタチン単剤投与群で400.4±96.3mm3、抗PD−1抗体単剤投与群で291.3±19.4mm3(ともに平均±標準偏差)であった。一方、ピタバスタチン+抗PD−1抗体併用投与群では、腫瘍体積の増大がさらに抑制され、ほとんど腫瘍の増大がみられず、細胞移植18日後(Day18)の腫瘍体積は63.3±62.8mm3(平均±標準偏差)であった。
【0036】
実施例2.マウス大腸癌細胞株MC38皮下移植担癌マウスモデルの所属リンパ節内の腫瘍抗原特異的T細胞の誘導増強作用
(実験方法)
マウス大腸癌細胞株MC38皮下移植担癌マウスモデルにおける所属リンパ節内の腫瘍抗原特異的T細胞の誘導作用はインターフェロンγ(IFN−γ)産生アッセイで評価した。実施例1のマウス大腸癌細胞株MC38皮下移植担癌マウスモデルにおいて、細胞移植18日後(Day18)に安楽死させたマウスより、所属リンパ節(細胞移植側の腋窩、鼠径リンパ節)を摘出して、マイクロスライドグラスにて所属リンパ節を破壊しリンパ節細胞を回収した。各投与群のリンパ節細胞は、1μg/mL腫瘍抗原gp70ペプチド(マウス白血病ウイルスMuLV gp70 p15E,604−611 aa:KSPWFTTL,MBL社)を含む10%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地にて7日間培養した後、Lymphoprep(コスモバイオ)にてリンパ球を回収した。回収したリンパ球(2×105細胞)は、下記のように調製した抗原提示細胞(1×106細胞)と1μg/mL gp70または非特異的なコントロール抗原β−Galペプチド(β−ガラクトシダーゼ,96−103aa:DAPIYTNV,MBL社)存在下で96well plateにて混合培養し(各群3wellずつ)、培養24時間後の培養上清中のIFN−γをELISA (Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)法で測定した。抗原提示細胞は、野生型マウス(C57BL/6)から摘出した脾臓を2.5mLシリンジを用いて破砕し、溶血処理後に回収した細胞を放射線照射(32Gy)して調製したものを混合培養に用いた。
【0037】
(結果)
それぞれの所属リンパ節内の腫瘍抗原特異的T細胞の誘導増強作用を、リンパ節由来のリンパ球の腫瘍抗原gp−70刺激下でのインターフェロンγ(IFN−γ)産生量で比較したものを図2に示した。ピタバスタチン単剤投与群および抗PD−1抗体単剤投与群の所属リンパ節由来のリンパ球では、腫瘍抗原刺激下でのIFN−γ産生量はコントロール群由来のリンパ球に比べ、それぞれ、1.5倍と6倍と亢進した。さらに、ピタバスタチン+抗PD−1抗体併用投与群の所属リンパ節由来のリンパ球においては、腫瘍抗原刺激下でのIFN−γ産生量はコントロール群由来のリンパ球に比べ、さらに9倍程度の亢進作用がみられ、それぞれ単独投与の相加効果以上の亢進作用がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の医薬組成物は、抗癌剤として有用であることから、産業上の利用可能性を有している。
図1
図2