【実施例】
【0054】
本発明の樹脂組成物及びそれより形成した自己潤滑性ライナーを備える摺動部材を実施例
、参考例及び比較例により説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0055】
<紫外線硬化性樹脂組成物の製造>
実施例1〜6、参考例1〜25、比較例1〜5において、以下の成分A〜Jとして成分a1〜a3、b1、b2、b’1、b’2、c1〜c5、d1、d2、e1〜e6、f1、f2、g、h1、h2、i1〜i4、jを表1〜3に記載の組成となるように混合して液状の樹脂性組成物を調合した。
【0056】
成分A:イソシアヌル酸環を有する(メタ)アクリレート化合物
成分a1:ジ−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート(M−215、東亞合成社製)
成分a2:トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート(FA−731AT、日立化成社製)
成分a3:ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート(A−9300−1CL、新中村化学工業社製)
【0057】
成分B:リン酸エステル基又はシラン基を有する(メタ)アクリレート
成分b1:リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル
成分b2:3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0058】
成分B’:成分Bの比較成分
成分b’1:ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネート ウレタンプレポリマー(UA−306H、共栄社化学社製)
成分b’2:ビスフェノールA型エポキシアクリレート(EBECRYL 3700、ダイセル・オルネクス社製)
【0059】
成分C:ポリチオール化合物
成分c1:ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)
成分c2:1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン
成分c3:1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン
成分c4:トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチレート)
成分c5:トリメチロールエタントリス(3−メルカプトブチレート)
【0060】
成分D:グリシジル基又はオキセタン基、及びアクリル基を有する化合物
成分d1:グリシジルメタクリレート
成分d2:(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルメタクリレート
【0061】
成分E:染料
成分e1:重合性染料(RDW−R13、和光純薬工業製)
成分e2:重合性染料(RDW−R60、和光純薬工業製)
成分e3:重合性染料(RDW−G01、和光純薬工業製)
成分e4:重合性染料(RDW−B01、和光純薬工業製)
成分e5:油性染料(油性つやありEXE レッド、ニッペホームプロダクツ社製)
成分e6:水性染料(水性つやありEXE レッド、ニッペホームプロダクツ社製)
【0062】
成分F:重合開始剤
成分f1:光重合開始剤(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(DAROCURE1173、BASF社製))
成分f2:熱重合開始剤(2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)(VAm−110、和光純薬工業製))
【0063】
成分G:ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート(反応性希釈剤)
成分g:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
【0064】
成分H:3官能以上の(メタ)アクリレートモノマー
成分h1:トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA、ダイセル・オルネクス社製)
成分h2:ジペンタエリトリトールポリアクリレート(A−9550、新中村化学社製)
【0065】
成分I:固体潤滑剤
成分i1:平均粒子径160μmのPTFE(KT−40H、株式会社喜多村製)
成分i2:平均粒子径130μmのPTFE(KT−60、株式会社喜多村製)
成分i3:平均粒子径12μmのPTFE(KTL−610A、株式会社喜多村製)
成分i4:平均粒子径3.5μmのPTFE(KTL−8FH、株式会社喜多村製)
【0066】
なお、PTFEの平均粒子径は、JIS Z8815のふるい分け試験方法によって求めることができる。また、平均粒子径が45μm未満の場合は、該平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めることができる。いずれの測定方法においても、平均粒子径は、粒度分布における積算値50%での粒子径(累積分布におけるメジアン径)を意味する。
【0067】
成分J:強化繊維
成分j:ガラス繊維(平均繊維長65μm×平均径φ11μm、SS05DE−413、日東紡社製)
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
<自己潤滑性ライナーの製造>
SUS630ステンレス鋼をH1150条件で熱処理した材料を用いて
図1(a)及び(b)に示すような円筒状のスリーブ軸受(幅(軸方向長さ)12.7mm、外径30.2mm、内径24.9mm)を作製した。このスリーブ軸受の内周面に
実施例1〜6、参考例1〜25及び比較例1〜5で調製した樹脂組成物を、それぞれ、ディスペンサーを用いて均一に塗布した。次いで、塗布した樹脂組成物に紫外線を1分間照射して、樹脂組成物を硬化させ、内周面にマシナブルライナーを形成した。次いで、このマシナブルライナーをライナーの厚さが0.25mmになるように切削及び研削し、内径25.4mmに仕上げた。
【0072】
1.接着強度
参考例1〜3、比較例1〜3の樹脂組成物について、JIS K 6850規格に準じて接着強度を測定した。接着強度の値を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
表4に示すように、成分Bとして成分b1、b2のいずれか又は両方を含む
参考例1〜3の樹脂組成物は、成分Bを含まない比較例1〜3の樹脂組成物と比べて接着強度が高かった。
【0075】
2.厚膜光硬化試験
内径10mm、深さ30mmのポリプロピレン製の円柱状容器に
実施例1〜6、参考例4〜9及び比較例4、5の樹脂組成物を注いだ。樹脂組成物の液面に紫外線を積算光量3000mJ/cm
2で照射し、樹脂組成物を硬化させた。樹脂組成物を円柱状容器から取出し、硬化した樹脂組成物の長さを測定した。結果を表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
表5に示すように、ポリチオール化合物である成分Cを含有する
参考例4、6〜9の樹脂組成物の長さが、成分Cを含有しない比較例4の樹脂組成物の長さよりも長かったことから、成分Cを含有することにより樹脂組成物の硬化膜厚を大きくすることが可能であること、及び、成分c1〜c5のいずれによっても樹脂組成物の硬化膜厚を大きくする効果が得られることが分かった。また、グリシジル基又はオキセタン基、及びアクリル基を有する化合物である成分Dを含有する
実施例1〜4の樹脂組成物の長さが、成分Dを含有しない
参考例4の樹脂組成物の長さより長かったことから、成分Dを含有することによりさらに樹脂組成物の硬化膜厚を大きくすることが可能であることが分かった。
【0078】
染料である成分Eを含有する
参考例5、比較例5の樹脂組成物の長さを、成分Eを含有しない
参考例4、比較例4の樹脂組成物の長さとそれぞれ比べると、
参考例5及び比較例5の方がより長さが短かったことから、染料により光が遮蔽されるために硬化膜厚が小さくなる傾向があることが分かった。しかし、成分C及び成分Eを含有する
参考例5の樹脂組成物の長さが成分C及び成分Eをいずれも含有しない比較例4の樹脂組成物の長さよりも長かったことから、成分Cを含有することで成分Eの硬化膜厚低下の影響を埋め合わせ可能であることが分かった。また、成分C、成分D及び成分Eを含有する
実施例5、6の樹脂組成物の長さが、成分C及び成分Eを含有するが成分Dを含有しない
参考例5の樹脂組成物の長さよりも長かったことから、成分Eを含有している場合でも、成分Eを含有しない場合と同様に、成分Dの樹脂組成物の硬化膜厚をさらに大きくする効果が得られることが分かった。
【0079】
3.着色剤溶出試験
参考例5、10〜14、21の樹脂組成物に紫外線を照射して硬化した。硬化した樹脂組成物をIPA、防錆油(アンチラストテラミ SC、JXエネルギー社製)、純水及び硝酸(50wt%)に浸し、1週間放置した。着色剤(染料)の溶出の有無を調べるために、樹脂組成物を浸したIPA、防錆油、純水、硝酸の波長350〜700nmにおける吸光度を吸光高度計(V−530、JASCO社製)で測定した。測定領域内において吸光度が0.05を超えた場合は、硬化した樹脂組成物から着色剤が溶出したと判断した。結果を表6に示す。表6中、○は染料が溶出しなかった場合、×は染料が溶出した場合をそれぞれ示す。
【0080】
【表6】
【0081】
表6に示すように、重合性染料である成分e1〜e4を含有する
参考例5、10〜12、21はいずれの液にも着色剤は溶出しなかったが、油性染料である成分e5を含む
参考例13はIPA及び防錆油に着色剤が溶出し、水性染料である成分e6を含有する
参考例14は純水及び硝酸に着色剤が溶出した。この結果から示されるように、重合性染料は溶剤への溶出がない点で油性染料や水性染料よりも優れている。
【0082】
上記実施例
及び参考例では、本発明の樹脂組成物を
図1(a)、(b)に示すような形状のスリーブ軸受に適用したが、それに限らず種々の形状及び構造の摺動部材に適用することができる。
【0083】
<球面滑り軸受>
球面滑り軸受20は、
図2に示すように、凹球面状の内周面22aを有する外輪22と凸球面状の外周面26aを有する内輪26と、内周面22aと外周面26aとの間に形成されたマシナブルライナー24を有する。ライナー厚さは、例えば、0.25mm程度とすることができる。
【0084】
<ロッドエンド球面滑り軸受>
上記球面滑り軸受20をロッドエンドボディ50に組み込んだロッドエンド球面滑り軸受60の例を
図3(a)、(b)に示す。ロッドエンドボディ50は、球面滑り軸受20を組み込む貫通穴52aを有する頭部52と、メネジまたはオネジ56を設けた軸部54からなる。軸部54は頭部52から貫通穴52aの半径方向に延在する略円筒体である。球面滑り軸受20は貫通穴52aに挿入された後、貫通穴52aの縁に形成されているV溝(不図示)をカシメることによってロッドエンドボディ50に固定される。
【0085】
<リーマボルト>
図4に示すようなリーマボルト70は、頭部72と、大径の軸部74と、小径のオネジ部76からなる本体部と、軸部74の外周に設けられたマシナブルライナー74aとを備える。マシナブルライナー74aは、上記のいずれかの実施例
及び参考例の樹脂組成物を実施例
及び参考例に記載したような方法で均一に塗布し、硬化させることで形成される。リーマボルト70の本体部は、例えば、SUS630から形成されている。ライナー74a厚さは0.25〜0.5mm程度とすることができる。
【0086】
リーマボルト70は、たとえば船舶のプロペラ軸、航空機の可動翼、自動車エンジンのコンロッドなどの高トルクを伝達する重要連結部に用いられる。このような重要連結部に用いられるリーマボルト70はボルト穴との嵌め合いをガタがないような高精度の嵌め合いにする必要がある。従って、リーマボルト70の軸部74は高精度に仕上げられるが、それでも組立時にボルト側で寸法調整ができた方が有利である。本発明に従うリーマボルトはマシナブライナー74aを有するため、樹脂を硬化させた後でもユーザ側で容易に胴部の外径寸法を調整することができる。また、組立時や分解時にボルトを挿入したり、抜いたりしても自己潤滑性であるマシナブルライナー74aを軸部74に有するのでカジリなどが発生せず、長寿命のリーマボルト70がもたらされる。
【0087】
本発明を実施形態
、実施例
及び参考例により説明してきたが、本発明はそれらに限定されることなく、特許請求の範囲内において種々の形態または態様で具現化することができる。例えば、上記具体例においては、球面滑り軸受及びロッドエンド球面滑り軸受の外輪の内周面に自己潤滑性ライナーを形成したが、内輪の外周面に自己潤滑性ライナーを形成してもよい。また、摺動部材として、球面滑り軸受、ロッドエンド球面滑り軸受及びリーマボルトを例に挙げて説明したが、本発明はそれらに限らず自己潤滑性ライナーを有する摺動部材であれば任意の摺動部材に適用することができる。特に、上記実施形態
、実施例
及び参考例では、部材やパーツの回転運動に使用される摺動部材を例に挙げて説明したが、本発明の摺動部材は、回転運動に限らず、部材やパーツの並進(直動)運動、振動運動、それらの組み合わせ運動など任意の方向の摺動運動に使用される摺動部材も包含している。