【文献】
TOURNIER, G. et. al.,"Selective filter for SnO2-based gas sensor: application to hydrogen trace detection",Sensors and Actuators B: Chemical,2005年 5月13日,Volume 106, Issue 2,Pages 553-562
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記気体感応体層は、第1の金属酸化物で構成される第1の金属酸化物層と、前記第1の金属酸化物に比べて酸素不足度が小さい第2の金属酸化物で構成される第2の金属酸化物層とを積層してなり、
前記局所領域は、少なくとも前記第2の金属酸化物層を貫通して前記第1の電極および前記第2の電極の少なくとも一方に接して形成され、かつ、前記第2の金属酸化物層に比べて酸素不足度が大きい、
請求項2に記載の気体センサ。
水素原子を含有する気体の濃度を、水素原子を含有する気体の導入開始から、前記気体センサにおいて前記気体感応体層に流れる電流が所定の電流値に到達するまでの時間を計測することにより判断する、
請求項13に記載の気体センサ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本開示の基礎となった知見)
はじめに、本開示の基礎となった知見について説明する。
【0014】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、従来の気体センサにおいて以下の問題があることを見出した。
【0015】
水素ガス検知器は、従来、接触燃焼式、半導体式、気体熱伝導式の方式が主として国内で使用されている。接触燃焼式は、可燃性ガスの触媒(Pt、Pdなど)による接触燃焼熱を利用した検知器である。接触燃焼式の水素ガス検知器では、水素ガス濃度の上昇に従って、燃焼により素子温度が上昇して抵抗値は増加する。センサ出力はガス濃度に対してリニアであるが、ガス選択性に問題がある。
【0016】
半導体式の水素ガス検知器は、金属酸化物半導体表面でのガス吸着による電気伝導度の変化を利用している。半導体式の水素ガス検知器では、センサ出力はガス濃度に対して対数的であるので、低濃度領域でも高感度である。
【0017】
気体熱伝導式の水素ガス検知器は、対象ガスと標準ガスとの熱伝導の差を利用している。気体熱伝導式の水素ガス検知器では、水素ガスの熱伝導度が他の可燃性ガスと比較して高いので、特に高濃度領域での検知に適している。
【0018】
特許文献1に記載されている絶縁膜と金属膜が積層されてなるMIM構造の水素ガス検知器は、半導体方式に分類される。MIM構造の水素ガス検知器では、気体感応性絶縁膜として五酸化タンタル(Ta
2O
5)にパラジウムとガラスを所定量添加した絶縁膜を用い、挟み込む上下の金属電極として、Ptを用いている。しかし、詳細なメカニズムに関する記述はない。そこで、MIS構造を用いたガス検知器(Pt−Ta
2O
5−Si)に関する非特許文献1において記載されているメカニズムと同様の現象が引き起こされていると仮定すると、以下のように説明することができる。
【0019】
触媒作用を有する金属であるPt表面に、例えば、水素ガスを含む気体が接触した場合、Ptの触媒作用により水素ガスは水素原子に分解され、分解された水素原子はPt電極中を拡散して気体感応体である五酸化タンタル(Ta
2O
5)に到達する。五酸化タンタル(Ta
2O
5)到達した水素原子は、下記の化学反応式に従って五酸化タンタル(Ta
2O
5)を還元するとともに酸化され、水となる。
【0020】
Ta
2O
5+2xH→xH
2O+Ta
2O
5-x
【0021】
このとき、水素原子が気体感応性絶縁膜中の五酸化タンタル(Ta
2O
5)から酸素原子を奪うことにより、五酸化タンタル中には酸素欠陥が形成され、電流が流れやすくなると考えられる。
【0022】
一方、水素ガスを含む気体がPt表面から無くなると、下記に示す化学反応式
xH
2O+Ta
2O
5-x→Ta
2O
5+2xH
に従う逆プロセスが起こり、五酸化タンタル中の酸素欠陥が無くなり、電流が流れにくくなると考えられる。このようなメカニズムによって、気体感応性絶縁膜として五酸化タンタル(Ta
2O
5)にパラジウムとガラスを所定量添加した絶縁膜を用い、気体感応性絶縁膜を挟み込む上下の金属電極としてPtを用いたMIM構造は、水素原子を有する気体を検知するガス検知器として機能していると考えられる。
【0023】
ここで、触媒作用を有する金属であるPtによって水素原子を解離させる場合、触媒作用により水素原子を有する分子から水素原子を解離させる割合は、温度上昇に比例する。つまり、気体検出素子温度が上昇するにしたがって、気体の検出感度は上がると考えられる。従来のガス検知器では、水素原子を有する気体の検出感度を向上するために、測定時の気体検出素子を100℃以上に加熱している。
【0024】
例えば、特許文献1に記載されているMIM構造のガス検知器では、気体検出素子に隣接して設けられた加熱ヒータに所定の電圧を印加して、気体検出素子温度を400℃まで上昇させている。
【0025】
MIM構造のガス検知器だけでなく、金属の触媒作用を利用するMIS構造のガス検知器でも、気体検出素子に隣接して加熱ヒータが設置されており、通常、周囲温度を100℃以上に保持して使用されている。例えば、非特許文献1記載のガス検知器ではMIS構造をダイオードとして用いた場合100℃以上の温度を必要としている。また、MIS構造をトランジスタとして用いた非特許文献2記載のガス検知器では、気体検出素子の周囲温度を115℃として動作させている。
【0026】
また、金属の触媒作用を利用した、非特許文献3に記載の接触燃焼方式のガス検知器では、動作時に気体検出素子を200℃〜300℃まで加熱している。
【0027】
さらには、金属の触媒作用を利用しない、非特許文献4記載の熱線型半導体式と気体熱伝導式のガス検知器では、いずれの方式においても、気体検出素子は100℃以上に加熱されている。
【0028】
しかし、気体検出素子を100℃以上に加熱する場合、消費電力は最小のものでも100mW前後は必要となる。したがって、ガス検知器を常時ON状態で使用する場合、消費電力が非常に大きくなる。また、水素ガスを検知するためには、水素ガスが電極表面で分解されることにより生成した水素原子が、電極中を拡散して気体感応体まで到達することが必要である。このとき、水素原子が気体感応体まで到達する速度が速いほど、ガス検知器のガス検知速度は向上する。したがって、低温動作でガス検知速度を向上させることがガス検知器の課題である。
【0029】
そこで、本開示では、以下のような構成の気体センサにより、消費電力が小さく、かつ、高速に水素原子を含むガスを検知することが可能な気体センサを実現している。
【0030】
すなわち、本実施形態に係る気体センサは、第1の電極と第2の電極とが間隙を形成するように対向して基板上に配置されており、金属酸化物で構成される気体感応体層の少なくとも一部が前記間隙を介して露出しており、前記気体感応体層は前記第2の電極と接し、かつ前記気体感応体層の内部に金属酸化物層に比べて酸素不足度が大きい局所領域を含み、水素原子を有する気体分子を検出すると前記金属酸化物の抵抗値が低下する気体センサである。第2の電極は、水素原子を有する気体分子から水素原子を解離させる触媒作用を有している。第2の電極の局所領域と接した部分において、気体分子から水素原子が解離され、解離された水素原子が、金属酸化物層の局所領域内の酸素原子と結合することで、金属酸化物層の抵抗値が低下する。
【0031】
第1の電極または第2の電極の少なくとも一方と金属酸化物層に比べて酸素不足度が大きい局所領域が接する構成にすると、第1の電極と第2の電極との間を流れる電流は酸素不足度が大きい局所領域に集中することになる。その結果、少ない電流で、局所領域の温度を上昇させることが可能である。局所領域の温度が上昇すると、第2の電極の表面の温度も上昇する。触媒作用を有する第2の電極では、温度上昇に従って、水素原子を有する気体分子から水素原子が解離する割合が増加する。
【0032】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0033】
なお、図面において、実質的に同一の構成、動作、および効果を表す要素については、同一の符号を付し、説明を省略する。また、以下において記述される数値、材料、成膜方法などは、すべて本開示の実施形態を具体的に説明するために例示するものであり、本開示はこれらに制限されない。さらに、以下において記述される構成要素間の接続関係は、本開示の実施形態を具体的に説明するために例示するものであり、本開示の機能を実現する接続関係はこれに限定されない。さらにまた、本開示は、請求の範囲によって定まる。よって、以下の実施形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、本開示の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。
【0034】
(第1の実施形態)
[気体センサの構成]
図1は、第1の実施形態に係る気体センサ100の構成の一例を示す断面図である。
【0035】
本実施形態に係る気体センサ100は、基板101と、その基板101上に形成された層間絶縁膜102と、層間絶縁膜102上に形成された金属酸化物層である気体感応性絶縁膜103と、第1の電極104と、第2の電極105と、第1の電極104および第2の電極105が対向して配置されたことにより形成される間隙106とを備えている。第1の電極104は、気体感応体層103の上に形成され、第2の電極105は、気体感応体層103の上に、第1の電極104との間に間隙106を有するように形成されている。また、第1の電極104と第2の電極105が対向して配置されたことにより形成される間隙106において、気体感応性絶縁膜103の一部が露出している。
【0036】
なお、後述するように、第1の電極104および第2の電極105は、気体感応体層103の上に限らず、気体感応体層103と同層の基板101の上方に形成されていてもよい。
【0037】
気体感応性絶縁膜103は、第1の電極104と第2の電極105との間に与えられる電気的信号に基づいて可逆的に抵抗値が変化する層である。例えば、気体感応性絶縁膜103は、第1の電極104と第2の電極105との間に与えられる電圧差に応じて高抵抗状態と低抵抗状態とを可逆的に遷移する層である。
【0038】
ここで、気体感応性絶縁膜103は、第2の電極105と接して配置され、第1の電極104と第2の電極105が対向して配置されることで形成される間隙106の領域内に、第1の電極104に接していない局所領域107を備えている。局所領域107は、第1の電極104と第2の電極105との間に与えられる電気パルスの印加に応じて酸素不足度が可逆的に変化する。局所領域107は、酸素欠陥サイトから構成されるフィラメント(導電パス)を含むと考えられる。
【0039】
気体感応性絶縁膜103における抵抗変化現象は、微小な局所領域107中で酸化還元反応が起こって、局所領域107中のフィラメント内の酸素不足度が変化することにより、その抵抗値が変化すると考えられる。
【0040】
なお、本開示中において、「酸素不足度」とは、金属の酸化物において、その化学量論的組成(複数の化学量論的組成が存在する場合は、そのなかで最も抵抗値が高い化学量論的組成)の酸化物を構成する酸素の量に対し、不足している酸素の割合をいう。化学量論的組成の金属の酸化物は、他の組成の金属の酸化物と比べて、より安定でありかつより高い抵抗値を有している。
【0041】
例えば、金属がタンタル(Ta)の場合、上述の定義による化学量論的組成の酸化物はTa
2O
5であるので、TaO
2.5と表現できる。TaO
2.5の酸素不足度は0%であり、TaO
1.5の酸素不足度は、酸素不足度=(2.5−1.5)/2.5=40%となる。また、酸素過剰の金属の酸化物は、酸素不足度が負の値となる。なお、本開示中では、特に断りのない限り、酸素不足度は正の値、0、負の値も含むものとして説明する。
【0042】
酸素不足度の小さい酸化物は化学量論的組成の酸化物により近いため抵抗値が高く、酸素不足度の大きい酸化物は酸化物を構成する金属により近いため抵抗値が低い。
【0043】
「酸素含有率」とは、総原子数に占める酸素原子の比率である。例えば、Ta
2O
5の酸素含有率は、総原子数に占める酸素原子の比率(O/(Ta+O))であり、71.4atm%となる。従って、酸素不足型のタンタル酸化物は、酸素含有率は0より大きく、71.4atm%より小さいことになる。
【0044】
気体感応性絶縁膜103は、局所領域107を備える。局所領域107の酸素不足度は、気体感応性絶縁膜103の酸素不足度よりも大きい。
【0045】
局所領域107は、第1の電極104と第2の電極105との間に初期ブレイク電圧を印加することによって、気体感応性絶縁膜103内に形成される。ここで、初期ブレイク電圧とは、第1の電極104および第2の電極105間に可逆的に高抵抗状態と低抵抗状態とを遷移させるために印加する印加電圧よりも絶対値が大きい電圧である。なお、初期ブレイク電圧は、上記した可逆的に高抵抗状態と低抵抗状態とを遷移させるための印加電圧よりも低い電圧を、繰り返し印加するまたは所定時間に亘って印加するとしてもよい。初期ブレイクにより、第2の電極105および第1の電極104と接した局所領域107が形成される。
【0046】
本開示において、局所領域とは、気体感応性絶縁膜103のうち、第1の電極104と第2の電極105との間に電圧を印加した際に、支配的に電流が流れる領域を意味する。なお、局所領域107は、気体感応性絶縁膜103内に形成される複数本のフィラメント(導電パス)の集合を含む領域を意味する。すなわち、気体感応性絶縁膜103における抵抗変化は、局所領域107を通じて発現する。したがって、気体感応性絶縁膜103に対して駆動電圧を印加した際に、フィラメントを備える局所領域107に支配的に電流が流れる。
【0047】
また、局所領域107は、第1の電極104および第2の電極105間に与えられる電圧差に基づいて可逆的に高抵抗状態と低抵抗状態とを遷移する抵抗変化層であって、高抵抗状態と低抵抗状態のどちらの状態であってもよい。どちらの状態にあっても、水素原子を有する気体分子が触媒作用を有する第2の電極105近傍に到達すると、より抵抗が低い状態に変わるので、水素原子を有する気体分子の検知が可能である。
【0048】
しかし、高抵抗状態に局所領域107を保っておくほうが、低抵抗状態に局所領域107を保っておくより、水素原子を有する気体分子が、触媒作用を有する第2の電極105近傍に到達した時に生じる抵抗変化の割合が大きくなるので、高抵抗状態に前記局所領域を保持しておくのが好ましい。
【0049】
局所領域107の大きさは小さくてもよく、その一端が第1の電極104に接しないような大きさである。局所領域107は、少なくとも電流を流すために必要なフィラメントを確保できる大きさである。局所領域107の大きさおよび抵抗状態により、気体感応体層103に流れる電流の出力値は異なる。
【0050】
局所領域107におけるフィラメントの形成は、特許文献2に記載されているパーコレーションモデルを用いて説明することができる。ここで、フィラメントは、局所領域107中の酸素欠陥サイトが繋がることにより形成されると仮定している。パーコレーションモデルとは、局所領域107中の酸素欠陥サイト(以下、単に欠陥サイトと記載)等のランダムな分布を仮定し、欠陥サイト等の密度がある閾値を越えると欠陥サイト等のつながりが形成される確率が増加するという理論に基づくモデルである。なお、ここで、金属の酸化物は、金属イオンと酸素イオンとで構成されており、「欠陥」とは、この金属の酸化物中で酸素が化学量論的組成から欠損していることを意味し、「欠陥サイトの密度」は、酸素不足度とも対応している。つまり、酸素不足度が大きくなると、欠陥サイトの密度も大きくなる。
【0051】
局所領域107は、気体センサ100の気体感応性絶縁膜103に1ケ所のみ形成されてもよいし複数個所に形成されてもよい。気体感応性絶縁膜103に形成されている局所領域107の数は、例えば、EBAC(Electron Beam Absorbed Current)解析によって確認することができる。
【0052】
この気体センサ100を、水素原子を有する気体を検知できる状態にするために、外部の電源によって、所定の条件を満たす電圧を第1の電極104と第2の電極105との間に印加し、気体センサ100の気体感応性絶縁膜103の抵抗値を所定の抵抗値に設定しておく。第1の電極104と第2の電極105との間に印加される電圧の電圧差に従い、気体センサ100の気体感応性絶縁膜103の抵抗値は、可逆的に増加または減少する。例えば、所定の閾値電圧よりも振幅が大きな所定の極性のパルス電圧が印加された場合、気体感応性絶縁膜103の抵抗値が増加または減少する。このような電圧を、以下では「書き込み用電圧」と呼ぶことがある。一方で、その閾値電圧よりも振幅が小さなパルス電圧が印加された場合、気体感応性絶縁膜103の抵抗値は変化しない。このような電圧を、以下では「読み出し用電圧」と呼ぶことがある。
【0053】
気体感応性絶縁膜103は、酸素不足型の金属酸化物から構成される。より具体的には、金属酸化物は、遷移金属酸化物である。当該遷移金属酸化物の母体金属は、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の遷移金属と、アルミニウム(Al)とから少なくとも1つ選択されてもよい。遷移金属は複数の酸化状態をとることができるため、異なる抵抗状態を酸化還元反応により実現することが可能である。ここで、酸素不足型の金属の酸化物とは、化学量論的組成を有する金属の酸化物(通常は絶縁体)の組成より酸素含有量(原子比:総原子数に占める酸素原子数の割合)が少ない金属の酸化物を指し、通常は半導体的な振る舞いをするものが多い。酸素不足型の金属の酸化物を気体感応性絶縁膜103に用いることで、気体センサ100において、再現性がよくかつ安定した抵抗変化動作を実現できる。
【0054】
例えば、気体感応性絶縁膜103を構成する金属の酸化物としてハフニウム酸化物を用いる場合、組成をHfO
xとした場合にxが1.6以上である場合に、気体感応性絶縁膜103の抵抗値を安定して変化させることができる。この場合、金属の酸化物の膜厚は、3〜4nmとしてもよい。
【0055】
また、気体感応性絶縁膜103を構成する金属の酸化物としてジルコニウム酸化物を用いる場合、組成をZrO
xとした場合にxが1.4以上である場合に、気体感応性絶縁膜103の抵抗値を安定して変化させることができる。この場合、金属の酸化物の膜厚は、1〜5nmとしてもよい。また、気体感応性絶縁膜103を構成する金属の酸化物としてタンタル酸化物を用いる場合、組成をTaO
xとした場合にxが2.1以上である場合に、気体感応性絶縁膜103の抵抗値を安定して変化させることができる。金属酸化物層の組成についてはラザフォード後方散乱法を用いて測定できる。
【0056】
第1の電極104および第2の電極105の材料としては、例えば、Pt(白金)、Ir(イリジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Ni(ニッケル)、W(タングステン)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、TiN(窒化チタン)、TaN(窒化タンタル)およびTiAlN(窒化チタンアルミニウム)などから選択される。
【0057】
具体的に、第2の電極105は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)およびパラジウム(Pd)の少なくともいずれかなど、水素原子を有する気体分子から水素原子を解離する触媒作用を有する材料で構成する。また、第1の電極104は、例えば、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)など、第1の金
属酸化物を構成する金属と比べて標準電極電位が、より低い材料で構成してもよい。標準電極電位は、その値が高いほど酸化しにくい特性を表す。
【0058】
また、基板101としては、例えば、シリコン単結晶基板または半導体基板を用いることができるが、これらに限定されるわけではない。気体感応性絶縁膜103は比較的低い基板温度で形成することが可能であるため、例えば、樹脂材料などの上に気体感応性絶縁膜103を形成することもできる。
【0059】
また、気体センサ100は、気体感応性絶縁膜103に電気的に接続された負荷素子、例えば固定抵抗、トランジスタ、またはダイオードをさらに備えてもよい。
【0060】
[気体センサの製造方法と動作]
次に、
図2A〜
図2Cを参照しながら、本実施形態に係る気体センサ100の製造方法の一例について説明する。
【0061】
まず、
図2Aに示されるように、例えば単結晶シリコンである基板101上に、厚さ300nmの層間絶縁膜102を熱酸化法により形成する。そして、前記層間絶縁膜102上に、酸素不足型の酸化物層を例えばTaターゲットを用いた反応性スパッタリング法で形成する。これにより、気体感応性絶縁膜103が構成される。
【0062】
次に、
図2Bに示されるように、第1の電極104として例えば厚さ25nmのTi薄膜を、電子ビーム蒸着法により気体感応性絶縁膜103上に形成する。その後、図示していないが、フォトリソプロセスにより所定の形状に第1の電極104に加工する。なお、第1の電極104を成膜時にメタルマスクを用いることによりフォトリソプロセスを省くことも可能である。
【0063】
その後、
図2Cに示すように、第2の電極105を斜め蒸着プロセスにより形成する。斜め蒸着プロセスとは、
図2Cに示すように基板101に対して角度θの方向から第2電極を構成する材料を蒸着すると、高さHの第1の電極104パターンが影となり、幅Gの間隙106が形成される。第2の電極105として例えば厚さ13nmのPt薄膜を、気体感応性絶縁膜103および第1の電極104上に形成する。
【0064】
最後に、第1の電極104と第2の電極105との間に初期ブレイク電圧を印加することにより、
図2Dに示すように、気体感応性絶縁膜103内に
図1に示す局所領域107を形成し、気体センサ100が完成する。
【0065】
この局所領域107を形成する電圧の範囲の一例について、
図3を用いて以下で説明する。
【0066】
図3の測定に用いたサンプルである気体センサ100は、第1の電極104の膜厚を25nmに、第2の電極105の膜厚を13nmとしている。両電極のパターンサイズは1300μm×550μmである。
【0067】
気体感応性絶縁膜103の膜厚は、例えば5nmである。気体感応性絶縁膜103として、酸化物である膜厚5nmのTaO
y(y=2.47)を用いる。このような気体センサ100に対して、電極間に読み出し用電圧(例えば0.4V)を印加した場合、初期抵抗値は約10
7〜10
8Ωである。
【0068】
図3に示されるように、気体センサ100の抵抗値が初期抵抗値(高抵抗状態における抵抗値HRよりも高い値、例えば、10
7〜10
8Ωである。この値は一例であり、初期抵抗値はこの値に限らない。)である場合、初期ブレイク電圧を電極間に加えることにより、抵抗状態が低抵抗値LRに変化する(S101)。その後、気体センサ100の第1の電極104と第2の電極105との間に、書き込み用電圧として、例えばパルス幅が100nsでかつ極性が異なる2種類の電圧パルス、すなわち正電圧パルスと負電圧パルスとを交互に印加すると、
図3に示すように気体感応性絶縁膜103の抵抗値が変化する。
【0069】
すなわち、書き込み用電圧として正電圧パルス(パルス幅100ns)を第1の電極104と第2の電極105との間に印加した場合、気体感応性絶縁膜103の抵抗値が低抵抗値LRから高抵抗値HRへ増加する(S102)。他方、書き込み用電圧として負電圧パルス(パルス幅100ns)を第1の電極104と第2の電極105との間に印加した場合、気体感応性絶縁膜103の抵抗値が高抵抗値HRから低抵抗値LRへ減少する(S103)。つまり、気体感応性絶縁膜103を構成する金属酸化物層は、第1の電極104と第2の電極105との間に印加される電圧に基づいて可逆的に高抵抗状態と低抵抗状態に遷移する。なお、電圧パルスの極性は、第1の電極104の電位を基準として第2の電極105の電位が高い場合が“正”であり、第1の電極104の電位を基準として第2の電極105の電位が低い場合が“負”である。
【0070】
このように構成された気体センサ100の水素含有ガスによる抵抗変化特性の一評価例について説明する。
【0071】
図4Aは、気体センサ100の評価に用いた気体評価システム900の一例を示すブロック図である。
図4Aに示す気体評価システム900は、気体センサ100を格納する密閉容器910、電源920、及び電流測定器930を備える。密閉容器910は、導入弁913、914を介して、それぞれ水素ボンベ911、アルゴンボンベ912に接続されるとともに、排気弁915を介して内部のガスを排出可能に構成されている。電源920は、気体センサ100において、第1の電極104と第2の電極105との間に所定の電圧を常時印加する電源回路である。電流測定器930は、気体センサ100において、第1の電極104と第2の電極105との間に所定の電圧が印加されたときに気体感応性絶縁膜103に流れる電流を測定する測定回路である。
【0072】
図4Bは、気体センサ100の一評価例を示すグラフである。横軸は時間(a.u.)を表わし、縦軸は第1の電極104と第2の電極105間を流れる電流値(a.u.)を表わしている。評価実験では、まず、気体センサ100が置かれている密閉容器910内に窒素ガスを導入し、その後、アルゴンガスから水素ガスに切り替え、その後さらに水素ガスから窒素ガスへ切り替えた。
【0073】
図4Bは、このときの結果を示しており、横軸に、先のアルゴン導入(ステップS201)、水素導入(ステップS202)、後のアルゴン導入(ステップS203)を行った3期間を示している。導入ガスをアルゴンガスから水素ガスに切り替えてから、電流値が増加し始めたことが分かる。また、導入ガスを水素ガスからアルゴンガスに切り替えてから電流が減少し始めたことが分かる。
【0074】
本評価例においては、第1の電極104と第2の電極105との間にあらかじめ所定の電圧(電位差)を印加することで局所領域107を高抵抗状態に設定した気体センサ100を用いた。水素含有ガスの監視動作では、第1の電極104と第2の電極105との間に0.6Vの検知電圧を印加し、水素ガスが検出された状態で、第1の電極104と第2の電極105との間には10〜20μAの電流が流れた。従って、気体センサ100によれば、0.006〜0.012mWの非常に小さい消費電力で、水素含有ガスを監視できることが分かる。
【0075】
この結果から、気体センサ100での水素ガスの検出メカニズムを以下のように推測される。
【0076】
第2の電極105に水素含有ガスが接すると、第2の電極105の触媒作用により、水素含有ガスから水素原子が解離する。解離された水素原子は、平衡状態を保とうとして、第2の電極105中を拡散して、間隙106領域内の局所領域107にまで到達する。
【0077】
この水素原子によって、微小な局所領域107中で還元反応が発生し、局所領域107中の酸素不足度が増加する。その結果、局所領域107中のフィラメントが繋がりやすくなり、局所領域107の抵抗値が減少する。この結果、第1の電極104と第2の電極105との間を流れる電流が増加すると考えられる。
【0078】
逆に、第2の電極105近傍に水素含有ガスが存在しなくなると、解離された水素原子は、平衡状態を保とうとして、第2の電極105表面近傍で水素分子となり、第2の電極105の表面から外部へ出て行く。
【0079】
それに伴い、局所領域107内にあって還元反応によって水分子を構成していた水素原子が第2の電極105中に戻り、一方、水分子を構成していた酸素は酸素欠陥と結合して酸素不足度が減少する。
【0080】
その結果、局所領域107中のフィラメントが繋がりにくくなり、抵抗値が増加すると考えられる。これにより、第1の電極104と第2の電極105との間を流れる電流が減少する。
【0081】
また、上述の動作は、検出可能な気体は水素ガスに限られず、例えば、メタンやアルコールなどの各種の水素含有ガスについても生じると考えられる。
【0082】
以上の説明のように、本実施形態に係る気体センサ100によれば、抵抗状態を検知するための電流だけで発熱し、別途のヒータで加熱することなく水素含有ガスを検出できる、省電力性に優れた検出素子が得られる。
【0083】
[第2電極の材料の効果]
ここで、本気体センサ100のメカニズムを確認するために、第2の電極105の材料の効果を検討した。具体的には、水素に対して触媒作用があるPtと触媒作用が無いTiNを第2の電極105の材料とした気体センサ100をそれぞれ作成した。そして、第2の電極105がPtである場合とTiNである場合のそれぞれについて、水素濃度4%の水素/アルゴンガスを導入したときの抵抗値の変化を測定した。このときの測定結果を
図5Aおよび
図5Bに示す。
図5Aは、気体センサ100の第2の電極105がPtである場合のガス導入後の抵抗測定結果を示す図である。
図5Bは、気体センサ100の第2の電極105がTiNである場合のガス導入後の抵抗測定結果を示す図である。
【0084】
本抵抗測定では、密閉容器中に気体センサ100を配置し、密閉容器中を、時刻0〜300sは空気雰囲気(Air)、時刻300〜900sはアルゴン雰囲気(Ar)、時刻900〜1500sはアルゴン雰囲気(Ar)にさらに水素/アルゴンガス(Ar−H
2)を導入し、時刻1500〜2100sは再びアルゴン雰囲気(Ar)、時刻2100s〜2700sは真空引き(Vac)として測定を行っている。
【0085】
第2の電極105の材料が触媒作用のあるPtの場合には、
図5Aに示すように、アルゴン雰囲気に水素/アルゴンガスを導入すると(
図5Aに示すAr+Ar−H
2の期間)、気体センサ100の抵抗値は3桁程度低下している。さらに、密閉容器910を真空引きして水素ガスを完全に除去することにより(
図5Aに示すVacの期間)、気体センサ100の抵抗値は再び元の値に回復している。一方、第2の電極105の材料が触媒作用の無いTiNの場合には、
図5Bに示すように、アルゴン雰囲気の密閉容器に水素/アルゴンガスを導入しても(
図5Bに示すAr+Ar−H
2の期間)、気体センサ100の抵抗値に変化は認められない。
【0086】
これらの結果から、第2の電極105には触媒作用を持つ材料が必要であり、電極表面で触媒作用が起こることにより、水素ガスは水素原子に解離していると考えられる。
【0087】
[ガス導入速度]
また、気体センサ100の反応時間と導入する水素/アルゴンガスのガス流量との関係を検討した。
図6は、気体センサ100のガス導入流量とセンサ出力電流の測定結果を示す図である。なお、
図6の網掛け部分が水素ガスを導入した時間帯を示しており、導入ガス流量は
図6の上部に記載した値である。
【0088】
図6に示すように、水素/アルゴンガスを密閉容器に導入することにより、気体センサ100の出力電流は大きく増加し、水素/アルゴンガス導入を停止することで気体センサ100の出力電流は低下している。さらに、
図6より、導入する水素/アルゴンガスのガス流量の増加に従って電流測定値の立ち上がりが早くなっていることが読み取れる。この関係を利用し、水素/アルゴンガスの導入から所定電流値までの到達時間を計測することで水素ガス濃度を計測することも可能である。
【0089】
[フォーミングの効果]
次に、フォーミング状態による気体センサ100の抵抗変化の影響を検討した。
図7は、気体センサ100のフォーミングの有無によるガス導入流量と抵抗値の測定結果を示す図である。なお、
図7において、網掛け部分は水素ガスを導入した時間帯を示しており、各時間帯における導入ガス流量は、
図7の上部にそれぞれ記載した値である。
【0090】
図7において実線R1で示されるように、フォーミング有の気体センサ100では、水素/アルゴンガスの導入により、抵抗値は3桁低下している。また、
図6の結果と同様に、水素/アルゴンガスのガス流量の増加に従い、低抵抗状態に到達する時間も短くなっている。
図7において破線R2で示されるフォーミング処理無の気体センサ100においても、水素/アルゴンガスの導入により抵抗値は低下するが、1桁程度の変化にとどまっている。これは、局所領域の状態がフォーミング処理有の場合とは異なっており、フォーミング無の気体センサでは局所領域中の酸素欠損密度が低いことが原因と推察される。
【0091】
この結果から、局所領域の状態すなわち局所領域中の酸素欠損密度をフォーミング処理により制御することにより、気体センサ100の気体検出感度を調整することが可能である。
【0092】
[検知電圧]
さらに、第2の電極105をPtで構成した気体センサ100に関し、検知電圧の依存性を検討した。
図8A〜
図8Cは、気体センサ100のガス検知電圧と出力電流の測定結果を示す図である。
図8A〜
図8Cは、それぞれガス検知電圧V
READを100mV、10mV、1mVとしたときの出力電流を示している。なお、
図8A〜
図8Cは、0.5L/minの水素/アルゴンガスを導入する期間(
図8A〜
図8Cに示すAr+H
2の期間)と空気を導入する期間(
図8A〜
図8Cに示すAirの期間)とを30sごとに交互に繰り返している。
【0093】
検知電圧V
READが100mVの場合、
図8Aに示すように、気体センサ100に水素/アルゴンガスを導入すると、抵抗値が低下して35nAの電流が検知される。さらに、検知電圧V
READを10mV、1mVと低下させると、
図8Bおよび
図8Cに示すように、電圧の低下に応じて、検出される電流値はそれぞれ1/10、1/100に低下している。水素/アルゴンガスを導入してからの電流値の立ち上がり状況は、検知電圧にほとんど影響されていない。従って、気体センサ100では、検知電圧V
READを少なくとも1mV程度の電圧まで低下させることが可能である。つまり、従来のガス検知器のように、気体検出素子を100℃以上に加熱する場合の消費電力は100mW前後ほども必要はなく、省エネルギーと同時に高寿命が期待できる。
【0094】
このように、気体センサ100では、低い検知電圧で、かつ、高速に気体の有無を検知することができる。したがって、消費電力が小さく、かつ、高速に水素原子を含むガスを検知することが可能である。
【0095】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態に係る気体センサ200の一構成例を示す断面図である。以下、第1の実施形態に係る気体センサ100と異なる点についてのみ説明する。
【0096】
図9に示す気体センサ200は、基板201と、層間絶縁膜202と、気体感応性絶縁膜203と、第1の電極204と、第2の電極205と、間隙206とを備えている。また、第1の電極204と、第2の電極205と、間隙206における気体感応性絶縁膜203を覆うように、絶縁体層208が形成されている。なお、絶縁体層208は、少なくとも間隙206における気体感応性絶縁膜203を覆うように形成されていればよい。
【0097】
絶縁体層208は、水素ガスを選択的に通過させる機能(つまり、水素ガスを容易に通過させるが、水素ガス以外のガスは容易には通過させない機能)を有している。この結果、気体感応性絶縁膜203が直接ガスに触れることが無いため、センサ動作の信頼性向上の点で有効である。なお、絶縁体層208は、例えばシリコン酸化膜で構成されている。
【0098】
絶縁体層208の水素ガスを選択的に通過させる機能は、絶縁体層208の膜厚に依存する。例えば、絶縁体層208がシリコン酸化膜である場合、その膜厚が薄すぎると、第2の電極205中の電子が絶縁体層208を透過して染み出し、外部から来た分子と相互作用して、分子の吸着、または分子から水素原子の解離等を引き起こす可能性がある。こうなれば、水素ガス以外のガスの通過を抑制しているとは言いがたい。したがって、絶縁体層208の膜厚は、金属酸化物層の抵抗値を変化させるために必要な数の水素分子を所定時間以内に透過させる膜厚とするのがよい。
【0099】
水素ガス以外のガスを通過させないための絶縁体層208の厚さは、後述するように、例えば8.5nmとしてもよい。絶縁体層208の下限の厚さは、例えば、非特許文献5の開示に基づいて、0.5nmとしてもよい。
【0100】
図10Aは、非特許文献5に記載の、DG−SOI(Double Gate−Silicon On Insulator)構造を有する構造体700の断面図である。構造体700として、シリコン基板701の上下主面に、シリコン酸化膜702、703を形成し、さらにシリコン酸化膜702、703の露出面にポリシリコン膜704、705を堆積してなる構造体を想定する。計算のために、シリコン基板701の厚さtsおよびポリシリコン膜の厚さtgをいずれも5nmとし、シリコン酸化膜702、703の厚さtoxを制御する。
【0101】
図10Bは、構造体700において、シリコン酸化膜702、703の厚さtoxを変えて、シリコン基板701中の電子の存在確率(P
s1〜P
s4)を計算した結果を示している。
図10Bにおいて、Ps1〜Ps4は、
図10Aに示したDG−SOI構造におけるシリコン基板701内の電子のエネルギー準位に対応したものであり、それぞれの軌道にある電子の存在確率を示している。Ps1〜Ps4のいずれにおいても、toxが0.5nm以下であると、シリコン基板701中の電子の存在確率は1より顕著に小さくなる。これは、シリコン基板701中の電子がシリコン酸化膜702、703を通り抜けてポリシリコン膜704、705に漏れ出ていることを意味している。Ps1〜Ps4のいずれにおいても、toxが0.5nm以上であれば、シリコン基板701中の電子の存在確率はほぼ1となる。これは、シリコン基板701中の電子がシリコン酸化膜702、703を通り抜けることができずポリシリコン膜704、705に漏れ出ないことを意味している。
【0102】
当該計算結果から、電子は、膜厚toxが0.5nm以上のシリコン酸化膜を実質的に通り抜けることができない。従って、第2の電極205上に厚さ0.5nm以上のシリコン酸化膜を堆積することで、第2の電極205中の電子が外部に存在する分子と相互作用することを防止できる。その結果、第2の電極205表面に外部のガスが吸着することはなく、また触媒作用を有する第2の電極205で水素原子を有する分子から水素原子が解離されることもない。
【0103】
なお、シリコン酸化膜の厚さは、厚ければ厚いほどよいというものでもない。シリコン酸化膜が厚すぎると、シリコン酸化膜を通過して第2の電極205に達した水素分子によって気体感応性絶縁膜203が抵抗変化を起こすまでの時間がかかるようになる。そのため、所望の応答時間(例えば、燃料電池自動車に用いられる気体センサに求められる目安として、1秒以内)を実現するためには、シリコン酸化膜の厚さに上限がある。
【0104】
気体センサ200において、高抵抗状態に設定された気体感応性絶縁膜203を低抵抗状態に遷移させるために第2電極205に到達する必要がある水素分子の個数は、気体センサ200の材料及び寸法に依存する。本発明者らが検討した気体センサの一具体例では、当該個数は2200個である。つまり、当該気体センサには、1秒以内に少なくとも2200個の水素分子がシリコン酸化膜を通過し、第2の電極205へ到達することが求められる。
【0105】
シリコン酸化膜表面に水素分子密度N
0の水素ガスが存在し、t秒間にシリコン酸化膜を透過する水素分子数をnとすると、nは次式で与えられる。
【0107】
図10Cは、式1を基に、水素分子密度N
0が0.1%の場合に、シリコン酸化膜を1秒間に透過する水素分子数とシリコン酸化膜の膜厚との関係を計算した結果を示すグラフである。破線は、気体感応性絶縁膜203の抵抗変化に必要な水素分子数の一例である2200を表している。
図10Cから分かるように、シリコン酸化膜厚が8.5nm以下であれば、抵抗変化に必要な2200個の水素分子が1秒以内に第2の電極205の表面に到達する。
【0108】
このように、シリコン酸化膜の厚さtoxを所望の範囲内とすることにより、水素分子がポリシリコン膜704、705から漏れ出すのを抑制し、かつ、抵抗変化に必要な2200個の水素分子を所望の応答時間内に第2の電極205の表面に到達させることができる。一例として、燃料電池自動車に用いられる気体センサの場合、シリコン酸化膜の厚さtoxを0.5nm以上8.5nm以下としてもよい。これにより、水素分子がポリシリコン膜704、705から漏れ出すのを抑制し、かつ、抵抗変化に必要な2200個の水素分子を所望の応答時間内(燃料電池自動車に用いられる気体センサの場合、1秒以内)に第2の電極205の表面に到達させることができる。
【0109】
(第3の実施形態)
図11A、
図11B、
図11C、および
図11Dは、第3の実施形態に係る気体センサの一構成例を示す断面図である。以下、本実施形態に係る気体センサ300、400、500、600が第1の実施形態に係る気体センサ100と異なる点についてのみ説明する。
【0110】
[構成1]
図11Aに示す気体センサ300は、基板101の上に形成された層間絶縁膜102の上に、気体感応性絶縁膜303が第1の電極304および第2の電極305よりも広い領域で形成されている。なお、基板101、層間絶縁膜102は第1の実施形態に示した気体センサ100の基板101、層間絶縁膜102と同様であるため、説明を省略する。
【0111】
これにより、気体感応性絶縁膜303の上には最小限の幅の第1の電極304および団2の電極305を配置すればよいので、気体感応性絶縁膜303に効率よく局所領域307を形成することができる。したがって、効率よく第1の電極304および第2の電極305を配置して気体センサ300を形成することができる。
【0112】
[構成2]
図11Bに示す気体センサ400は、基板101の上に形成された層間絶縁膜102の上に、気体感応性絶縁膜403が第1の電極404および第2の電極405の少なくとも一方の端面と接した構造をしている。つまり、第1の電極404および第2の電極405の一方は、気体感応性絶縁膜403と同層に配置され、他方は気体感応性絶縁膜403の上に配置されている。そして、平面視において、第1の電極404が配置された領域と第2の電極405が配置された領域との間には、気体感応性絶縁膜403が露出した領域が設けられている。なお、基板101、層間絶縁膜102は第1の実施形態に示した気体センサ100の基板101、層間絶縁膜102と同様であるため、説明を省略する。
【0113】
これにより、気体感応性絶縁膜403と同層に配置された第1の電極404または第2の電極405の端面と、気体感応性絶縁膜403上に配置された第2の電極405または第1の電極404との間に局所領域407が形成される。また、局所領域407を形成したい部分以外の気体感応性絶縁膜403の表面は、第1の電極404または第2の電極405で覆われているので、局所領域407が形成された部分以外で気体感応性絶縁膜403が他の気体と反応するのを抑制することができる。
【0114】
[構成3]
図11Cに示す気体センサ500は、基板101の上に形成された層間絶縁膜102の上に、気体感応性絶縁膜503が第1の電極504および第2の電極505の両方の端面と接した構造をしている。つまり、第1の電極504および第2の電極505は、気体感応性絶縁膜503と同層に配置され、平面視において、第1の電極504が配置された領域と第2の電極505が配置された領域との間には、気体感応性絶縁膜503が露出した領域が設けられている。なお、基板101、層間絶縁膜102は第1の実施形態に示した気体センサ100の基板101、層間絶縁膜102と同様であるため、説明を省略する。
【0115】
これにより、第1の電極504が配置された領域と第2の電極505が配置された領域との間で露出した気体感応性絶縁膜503において、第1の電極504端面と第2の電極505の端面との間に電圧を印加することにより、気体感応性絶縁膜503の内部に容易に局所領域507を形成することができる。また、局所領域507を形成したい部分以外の気体感応性絶縁膜503の表面は、第1の電極504または第2の電極505で覆われているので、局所領域507が形成された部分以外で気体感応性絶縁膜503が他の気体と反応するのを抑制することができる。
【0116】
[構成4]
図11Dに示す気体センサ600は、基板101の上に形成された層間絶縁膜102の上に、気体感応性絶縁膜として第1の酸化物層603Aおよび第2の酸化物層603Bの2層を備えている。なお、気体感応性絶縁膜は、2層以上の層で構成されていてもよい。基板101、層間絶縁膜102は第1の実施形態に示した気体センサ100の基板101、層間絶縁膜102と同様であるため、説明を省略する。
【0117】
第1の酸化物層603Aおよび第2の酸化物層603Bは、層間絶縁膜102の一部の上にこの順に積層されている。また、層間絶縁膜102の上には、第1の酸化物層603Aに連続するように、第1の電極604が形成されている。つまり、第1の酸化物層603Aの端部は、第1の電極604の端部と接続している。また、第2の酸化物層603Bの上の少なくとも一部には、第2の電極605が形成されている。
【0118】
さらに、第1の酸化物層603Aおよび第2の酸化物層603B内には、第2の電極605と接して配置され、第1の電極604に接していない局所領域607を有している。
【0119】
局所領域607は、少なくとも一部が第2の酸化物層603Bに形成され、電気パルスの印加に応じて酸素不足度が可逆的に変化する。局所領域607は、酸素欠陥サイトから構成されるフィラメントを含むと考えられる。
【0120】
言い換えると、気体感応性絶縁膜603は、少なくとも第1の金
属酸化物を含む第1の酸化物層603Aと、第2の金
属酸化物を含む第2の酸化物層603Bとの積層構造を含む。そして、第1の酸化物層603Aは、第1の電極604と第2の酸化物層603Bとの間に配置され、第2の酸化物層603Bは、第1の酸化物層603Aと第2の電極605との間に配置されている。第2の酸化物層603Bの厚みは、第1の酸化物層603Aの厚みよりも薄くてもよい。この場合、後述の局所領域607が第1の電極604と接しない構造を容易に形成できる。第2の酸化物層603Bの抵抗値は、第1の酸化物層603Aの抵抗値よりも高いため、気体感応性絶縁膜603に印加された電圧の多くは第2の酸化物層603Bに印加される。
【0121】
また、本開示中において、第1の酸化物層603Aと第2の酸化物層603Bを構成する金属が同一である場合に、「酸素不足度」に替わって「酸素含有率」という用語を用いることがある。「酸素含有率が高い」とは、「酸素不足度が小さい」ことに対応し、「酸素含有率が低い」とは「酸素不足度が大きい」ことに対応する。ただし、本実施形態に係る気体感応性絶縁膜603は、第1の酸化物層603Aと第2の酸化物層603Bとを構成する金属は同一である場合に限定されるものではなく、異なる金属であってもよい。すなわち、第1の酸化物層603Aと第2の酸化物層603Bとは異なる金属の酸化物であってもよい。
【0122】
第1の酸化物層603Aを構成する第1の金属
酸化物と、第2の酸化物層603Bを構成する第2の金属
酸化物とが同一である場合、酸素含有率は酸素不足度と対応関係にある。すなわち、第2の金
属酸化物の酸素含有率が第1の金
属酸化物の酸素含有率よりも大きいとき、第2の金
属酸化物の酸素不足度は第1の金
属酸化物の酸素不足度より小さい。局所領域607の酸素不足度は、第2の酸化物層603Bの酸素不足度よりも大きく、第1の酸化物層603Aの酸素不足度と異なる。
【0123】
局所領域607は、上述したように、第1の電極604と第2の電極605との間に初期ブレイク電圧を印加することによって、第1の酸化物層603Aと第2の酸化物層603Bの少なくともいずれかの内部に形成される。例えば、気体センサ600では、第1の電極604と第2の電極605との距離が短い領域に電流が流れやすいと考えられる。したがって、初期ブレイクにより、第2の電極605と接し、第2の酸化物層603Bを貫通して第1の酸化物層603Aに一部侵入し、第1の電極604と接していない領域に局所領域607が形成される。
【0124】
(第4の実施形態)
第4の実施形態に係る燃料電池自動車800は、上述した第1〜第3の実施形態で説明したいずれかの気体センサを備えている。燃料電池自動車800は、当該気体センサにて車内の水素ガスを検出する。
【0125】
図12は、本実施形態に係る燃料電池自動車800の一構成例を示す側面図である。
【0126】
燃料電池自動車800は、客室810、荷室820、ガスタンク室830、燃料タンク831、気体センサ832、配管840、燃料電池室850、燃料電池851、気体センサ852、モータ室860、モータ861を備える。
【0127】
燃料タンク831は、ガスタンク室830内に設けられており、燃料ガスとして、水素ガスを保持している。気体センサ832は、ガスタンク室830での燃料ガス漏れを検出する。
【0128】
燃料電池851は、燃料極、空気極および電解質を有した基本単位となるセルが積み重なって燃料電池スタックとして構成されている。燃料電池851は、燃料電池室850内に設けられている。燃料タンク831内の水素ガスは、配管840を通して燃料電池室850内の燃料電池851へ送り込まれ、この水素ガスと大気中の酸素ガスとを燃料電池851内で反応させることにより発電する。気体センサ852は、燃料電池室850での水素ガス漏れを検出する。
【0129】
モータ861は、モータ室860内に設けられており、燃料電池851が発電した電力で回転し、燃料電池自動車800を走行させる。
【0130】
前述したように、本開示に係る気体センサでは、一例として0.01mW程度の非常に小さい消費電力で、水素ガスを検出できる。そのため、前記気体センサの優れた省電力性を活かして、前記燃料電池自動車の待機電力を大幅に増やすことなく、水素ガス漏れを常時監視することができる。
【0131】
例えば、燃料電池自動車800におけるイグニッションキーの操作状態にかかわらず、気体センサ832、852に所定の電圧を常時印加し、気体センサ832、852に流れる電流量に基づいて、ガスタンク室830内の燃料タンク831の外部、及び燃料電池室850内の燃料電池851の外部に水素ガスがあるか否かを判定してもよい。
【0132】
これにより、例えば、イグニッションキーの操作を受けた時点で、水素ガス漏れの有無が既に判定されているため、イグニッションキーの操作を受けてから水素ガス漏れの有無を判定するため、気体センサを駆動する場合と比べ、燃料電池自動車の始動時間を短縮できる。また、前記燃料電池自動車の走行後、例えば前記燃料電池自動車をガレージに格納した後も、水素ガス漏れを監視し続けることにより、安全性を向上できる。
【0133】
(その他の実施形態)
以上、本開示のいくつかの態様に係る気体センサ、水素ガス検出方法、及び燃料電池自動車について、実施形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施形態に施したものや、各々の実施形態における構成要素を組み合わせて構築される形態が、本開示の範囲内に含まれてもよい。
【0134】
例えば、上述した気体センサは、さらに、第1の電極と第2の電極との間に所定の電圧が印加されたときに感応性絶縁膜に流れる電流を測定する測定回路を備えてもよい。また、さらに、第1の電極と第2の電極との間に所定の電圧を常時印加する電源回路を備えてもよい。
【0135】
このような構成によれば、測定回路や電源回路を備えるモジュール部品として、利便性が高い気体センサが得られる。