特許第6886314号(P6886314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886314
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/344 20060101AFI20210603BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   F04C2/344 331C
   F04C2/344 331D
   F04C15/00 E
   F04C15/00 B
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-44514(P2017-44514)
(22)【出願日】2017年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-145953(P2018-145953A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390004330
【氏名又は名称】日本オイルポンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】特許業務法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 和 彦
(72)【発明者】
【氏名】山 口 暁 弘
(72)【発明者】
【氏名】萱 野 憲次郎
【審査官】 大屋 静男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−119648(JP,A)
【文献】 特開2013−050067(JP,A)
【文献】 特開昭57−059087(JP,A)
【文献】 特開昭63−268991(JP,A)
【文献】 実開昭53−145205(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03C 1/00−99/00
F04C 2/30−2/352
11/00−15/06
18/30−18/352
18/48−18/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムリングと、カムリングの内径中心に対して回転中心が偏芯しているロータと、ロータの回転中心から半径方向外方に向かって形成されているベーン溝と、当該ベーン溝内を移動可能なベーンとを有するベーンポンプにおいて、
作動流体は非圧縮性であり、
カムリングには入口ポートと出口ポートが設けられており、
入口ポートと出口ポートはカムリングの内径中心に対して点対称となる位置に形成され、隣接するベーンとロータとカムリングにより画定される隙間領域の容積が最大となる瞬間を除き、入口ポート或いは出口ポートの何れかが当該隙間領域と連通する位置に形成され、カムリングの入口ポートと出口ポートの間の領域には補助ポートが形成されておらず、カムリングの内周面であって前記容積が最大となる隙間領域に対応する位置に連通溝が形成されており、
カムリングの開放端部を覆うサイドプレートを有しており、
カムリングの出口ポートにはサイドプレートの何れか一方側に連通する貫通孔が形成されており、
当該貫通孔が連通している側のサイドプレートには、貫通孔が連通する箇所から半径方向内方に向かう経路が形成されており、
ロータのベーン溝の半径方向内方端部はサイドプレートに形成された円環状の溝に連通しており、当該円環状の溝はサイドプレートに形成された前記経路に連通していることを特徴とするベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液体の様な非圧縮性の流体を作動流体とするベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
カムリングとロータが偏芯しており、ロータに加工されている放射状溝内をベーン(羽根)が自由に動くベーンポンプは従来から種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
ベーンポンプは有用な技術ではあるが、作動流体が液体の場合、液体には圧縮性や膨張性が無いので、いわゆる「閉じ込み」やキャビテーションが発生しないようなポート形状の工夫が必要である、という問題が存在する。
以下、図8を参照して、従来のベーンポンプにおける問題点を説明する。
【0003】
図8において、全体を符号100で示す従来のベーンポンプにおいては、中心が(カムリング内径が)偏芯している(図8では偏芯量を符号δで示す)カムリング101及びロータ102を有している。図示は省略されているが、ロータ102には半径方向に延在する複数のベーン溝(図示せず)が形成されており、当該ベーン溝内には図示しないベーンが挿入されている。図示しないベーンは、ベーン溝に沿って半径方向に移動可能に構成されている。
図8において、図示を省略したベーン及びベーン溝は、ロータ102においてロータ回転中心O1から半径方向外方へ延在する仮想線L1〜L6の各々に沿って設けられている。そしてベーンは、ベーン溝に対してプレッシャーローディングを行うことにより、半径方向外方に付勢されて突出し、ベーンの半径方向外方端部はカムリング101の内周面に摺動する。
【0004】
ある瞬間におけるカムリング101とロータ102の相対位置を示す図8において、仮想線L1で示すベーン(符号なし)と仮想線L2で示すベーン(符号なし)により画定された空間α(隙間、ポンプ室)は、ロータ102とカムリング101の間の隙間であり、ポンプ室である。図8で示す瞬間において、ポンプ室である隙間αは、入口ポート101Aとは連通しておらず、出口ポート101Bとも連通していない。
係る状態(入口ポート101Aとは連通しておらず、出口ポート101Bとも連通していない状態)でロータ102が回転(矢印R1方向)すると、隙間αは液体(作動流体)が供給されることなく拡大することになり、隙間α内に液体が存在しない空間(空洞)が発生してしまう。
当該空洞が発生した状態でさらに矢印R1側にロータ102が回転すると、空間αが出口ポート101B側に向かうに連れて隙間αが収縮して隙間αの圧力が高くなるため、当該空洞は急激に潰れる。そして当該空洞が急激に潰れることにより、大きな騒音が発生する。
【0005】
ここで、入口ポートの位置を調整して、隙間αが入口ポートと連通しなくなった瞬間から、それ以上は当該隙間αが拡大しない様に構成することが可能である。
しかし、その場合にはロータが回転して隙間αが出口ポート側に向かうに連れて当該隙間が収縮するので、隙間αが出口ポートに連通するまでは隙間αは収縮するが隙間α内の液体は排出されない状態が続き、圧力が急激に上昇する。その結果、所謂「閉じ込み」という現象を惹起して、やはり騒音が発生する。
【0006】
その様な騒音を防止するため、特許文献等では図示されてはいないが、作動流体が非圧縮性の液体である場合には、従来技術では、入口ポートと出口ポートの間の領域(図8では、仮想線L1と仮想線L3との間の領域)にポートを形成して、隙間空間αにおける圧力上昇を防止して、騒音の発生を防止していた。
しかし、その様なポート(仮想線L1と仮想線L3との間の領域に形成した図8では図示しないポート)を入口ポートと出口ポートとは別途形成することは、カムリング製造やポートの製造における労力及びコストを増加する。
さらに従来技術では、入口ポートと出口ポートとの間の領域に別途形成されたポートを複雑な形状に加工して、仮想線L1〜L6に沿って形成されたベーン溝内に、ポンプ吐出圧を導入してプレッシャーローディングを行う。しかし、その様な複雑な加工を行うことにより、製造のための労力及びコストがさらに増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−163040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、作動流体が非圧縮性の場合でも騒音の発生を防止することが出来て、しかも製造のための労力及びコストを低減することが出来るベーンポンプの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のベーンポンプ(10)は、カムリング(1)と、カムリング(1)の内径中心に対して回転中心が偏芯(δ1)しているロータ(2)と、ロータ(2)の回転中心から半径方向外方に向かって形成されているベーン溝(2A)と、当該ベーン溝(2A)内を移動可能なベーン(3:羽根)とを有するベーンポンプ(10)において、
作動流体は非圧縮性であり(例えば、水やクーラント等の液体)、
カムリング(1)には入口ポート(1A)と出口ポート(1B)が設けられており、
入口ポート(1A)と出口ポート(1B)はカムリング(1)の内径中心に対して点対称となる位置に形成され、隣接するベーン(3)とロータ(2)とカムリング(1)により画定(区画)される隙間領域(α1:図4参照:ロータ2とカムリング1の隙間:ポンプ室)の容積が最大となる瞬間を除き、入口ポート(1A)或いは出口ポート(1B)の何れかが当該隙間領域(α1)と連通する位置に形成され、カムリング(1)の入口ポート(1A)と出口ポート(1B)の間の領域には補助ポートが形成されておらず、カムリング(1)の内周面であって前記容積が最大となる隙間領域(α1:ポンプ室)に対応する位置に連通溝(1D)が形成されており、
カムリング(1)の開放端部(図7の上下端部)を覆うサイドプレート(4、5)を有しており、
カムリング(1)の出口ポート(1B)にはサイドプレート(4、5)の何れか一方(例えば、図7の上方のサイドプレート4)側に連通する貫通孔(1C)が形成されており、
当該貫通孔(1C)が連通している側(図7では上方)のサイドプレート(4)には、貫通孔(1C)が連通する箇所から半径方向内方に向かう経路(4A)が形成されており、
ロータ(2)のベーン溝(2A)の半径方向内方端部(2AA)はサイドプレート(4)に形成された円環状の溝(4B)に連通しており、当該円環状の溝(4B)はサイドプレート(4)に形成された前記経路(4A)に連通していることを特徴としている。
ここで、「カムリング(1)の内径中心」という文言は、「カムリング(1)の内周面の曲率中心」を意味している。
【0010】
発明において、駆動源については、DCモータ、ACモータの様な電動モータ、内燃機関、変速装置の出力軸その他、特に限定するものではない。
【発明の効果】
【0011】
上述の構成を具備する本発明によれば、隣接するベーン(3)とロータ(2)とカムリング(1)により画定(区画)される隙間領域(α1:図4参照:ポンプ室)の容積が最大となる瞬間を除き、入口ポート(1A)或いは出口ポート(1B)の何れかが当該隙間領域(α1)と連通する位置に形成されているので、隙間領域(α1:図4参照)が拡大する際には必ず入口ポート(1A)と連通しており、隙間領域(α1)が収縮する際には必ず出口ポート(1B)と連通する。
そのため、隙間領域(α1)が拡大する際には入口ポート(1A)から液体(作動流体)が供給されるので空洞が生じることがなく、空洞が潰れることによる騒音の発生が防止される。
また、隙間領域(α1)が収縮する際には出口ポート(1B)から液体が排出されるので、液体の圧力が(急激に)上昇してしまうことが無く、所謂「閉じ込み」現象の発生が防止されて、騒音の発生も防止される。
【0012】
そのため、カムリング(1)の入口ポート(1A)と出口ポート(1B)の間の領域に補助ポートを形成しなくても騒音の発生が防止され、カムリング(1)やポンプ本体に複雑な加工を施す必要が無い。
また、入口ポート(1A)と出口ポート(1B)はカムリング(1)の内径中心に対して点対称となる様に配置され、直径方向に配置されることになるため、流路に折曲部(エルボ)や湾曲部を形成する必要が無い。そのため、流路の抵抗が小さくなり、効率が向上する。
【0013】
ここで、隙間領域(α1:ポンプ室)が入口ポート(1A)と連通している際(隙間領域α1の容積が最大となる瞬間より前の状態)、入口ポート(1A)を介して隙間領域(α1)に流入する作動流体の流速が非常に速く(いわゆる「勢い良く」流入し)、流速が速い分だけ作動流体の圧力が低下し、隙間領域(α1)内の圧力が出口ポート(1B)側の昇圧された圧力に比較して遥かに低圧となってしまう場合が存在する。
その様な場合、当該隙間領域(α1:ポンプ室)が出口ポート(1B)と連通した直後(図5の状態)に、出口ポート(1B)に存在する高圧の作動流体の圧力が隙間領域(α1:ポンプ室)に作用し、当該隙間領域(α1)の圧力が急激に上昇して、騒音が発生してしまう。
また、隙間領域(α1)の作動流体の圧力が上昇することにより、当該上昇した圧力がベーン(3)の半径方向外方端部に作用し、ベーン(3)が半径方向内方に押し戻され、作動流体(液体)が隣接する隙間領域(例えば、図5に示す隙間領域α02)に漏洩してしまう場合がある。
これに対して、本発明によれば、カムリング(1)の内周面であって前記容積が最大となる隙間領域(α1)に対応する位置に連通溝(1D)を形成したので(することで)、隙間領域(α1)の圧力が(の)急激に(な)上昇しても(或いは当該急激な昇圧を回避する目的で)、連通溝(1D)を介して、隙間領域(α1)の圧力を入口ポート(1A)側に逃がすことが出来る。そのため、隙間領域(α1)の圧力が過大に上昇することがなく、騒音が発生することはない。そして、隙間領域(α1)の圧力が過大に上昇することが防止されるため、ベーン(3)が半径方向内方に押し戻されてしまうことも無い。
【0014】
そして本発明において、カムリング(1)の開放端部(図7の上下端部)を覆うサイドプレート(4、5)を有し、カムリング(1)の出口ポート(1B)にサイドプレート(4、5)の何れか一方(例えば、図7の上方のサイドプレート4)側に連通する貫通孔(1C)を形成し、貫通孔(1C)が連通している側(図7では上方)のサイドプレート(4)に貫通孔(1C)が連通する箇所から半径方向内方に向かう経路(4A)を形成し、ロータ(2)のベーン溝(2A)の半径方向内方端部(2AA)をサイドプレート(4)に形成された円環状の溝(4B)に連通し、当該円環状の溝(4B)をサイドプレート(4)に形成された前記経路(4A)に連通すれば、出口ポート(1B)を流れる昇圧された作動流体(液体)をロータ(2)のベーン溝(2A)の半径方向内方端部(2AA)に導入して、プレッシャーローディングを行うことが出来る。
その際に、カムリング(1)の入口ポート(1A)と出口ポート(1B)の間の領域にポート(補助ポート)を形成する必要が無く、当該補助ポートに複雑な加工を施す必要が無いので、カムリング(1)の製造がさらに容易となり、製造のための労力、コストをより一層節減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
図2図1のA2−A2矢視断面図である。
図3図2におけるカムリングとロータを示す説明図である。
図4図3で示すカムリングとロータの相対位置を模式的に示す説明図である。
図5】カムリングの内周面に連通溝の作用を示す説明図である。
図6図5の連通溝の断面形状と隙間領域(ポンプ室)内の作動流体の流速分布の関係を示す説明図である。
図7図3のA5矢視説明図である。
図8】従来のベーンポンプを示す平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。最初に図1図2を参照して、実施形態に係るベーンポンプについて説明する。
図1において、ベーンポンプ10はカムリング1とロータ2を有しており、ロータ2は電動モータ20の回転軸により回転駆動される。そして図1において、ベーンポンプ10と電動モータ20は一体的に構成されている。
電動モータ20は、モータシャフト23と、モータロータ24と、モータステータ25を備えている。モータシャフト23はブッシュ21A、21Bを介してモータハウジング22に回転自在に支持されており、ブッシュ21Bはベーンポンプ10のポンプケース6に設けられている。モータロータ24は円周方向に並ぶ複数の永久磁石を有し、モータシャフト23に固定されている。モータステータ25はモータハウジング22の内周に固定され、コイル(図示せず)が巻かれている。
ここで、駆動源については電動モータ20に限定されるものではなく、内燃機関、変速装置の出力軸、その他、種々のものが適用可能であり、特に限定するものではない。
モータロータ24とモータステータ25は同心円状に配置され、モータロータ24とモータステータ25の間には僅かな隙間が存在する。
図1において、符号26はステータ鉄心、符号27A、27Bはスラストワッシャ、符号28はフレームを示す。
【0017】
モータシャフト23はベーンポンプ10のポンプケース6の内部に延設され、モータシャフト23のベーンポンプ10側端部(図1では右側端部)はブッシュ21Cに回転自在に支持されている。ブッシュ21Cは、ベーンポンプ10のポンプカバー7に設けられており、ポンプカバー7はポンプケース6の開口部(図1では右側端部)を覆う様に設けられている。
ベーンポンプ10のロータ2は、連結手段23A(固定キー)によりモータシャフト23に連結されている。ロータ2の半径方向中心から半径方向外方に向かって複数のベーン溝2A(図2)が形成されており、ベーン溝2A内には半径方向に移動可能なベーン3(羽根)が設けられている。そしてベーンポンプ10のカムリング1はロータ2を収容しており、カムリング1の内周面(カム面)には、ロータ2の回転に伴ってベーン3の先端部が摺接する。
概略円柱形状のロータ2の回転中心と、ロータ2の外径より大径の内周面(カム面)を有するカムリング1の内径中心(カムリング1の内周面の曲率中心)との偏芯量は、図2において符号δ1で示されている。換言すると、図2図4において、ロータ2の回転中心とカムリング1の内径中心は、上下方向にδ1だけ偏芯している。
【0018】
カムリング1の内周面(カム面)は特定の周方向位置(例えば、図2における最下部位置)においてロータ2の外周面と最も接近し、外周面との隙間が最少となる。そして、カムリング1の入口ポート1A、前記特定の周方向位置(図2における最下部位置)及びその反対側の周方向位置(図2における最上部位置)、カムリング1の出口ポート1Bにより、作動流体流路(図2では、ポンプ室α01、α02、α1で示される空間)が構成される。
そして前記作動流体流路は、ロータ2の外周面とカムリング1の内周面とサイドプレート4、5(図1)の内面により画定されている。
【0019】
ロータ2の外周面には、半径方向に延在するベーン溝2Aが、ロータ2の円周方向に概略等間隔に複数(図示の実施形態では6本)の配列されている。6本のベーン溝2Aには各々ベーン3が収容され、ロータ2が回転する際にベーン3は常時半径方向外方に向かって付勢され、その先端部(半径方向外方の先端部)がカムリング1の内周面(カム面)に摺接する様に構成されている。
図1図2において、カムリング1、ロータ2の両側面(図1では左右両側、図2では紙面に垂直な側)には、プレート部材としてのサイドプレート4、5が配置されている。
上述した様に、隣接して配置されたベーン3と、ロータ2の外周面と、カムリング1の内周面と、サイドプレート4、5により、隙間領域α(ポンプ室:α1、α01、α02、・・・)が画定(区画)されている。
【0020】
図2において、カムリング1の外周には入口ポート1Aと出口ポート1Bが設けられており、入口ポート1Aと出口ポート1Bはカムリング1の内径中心に対して点対称(中心線に対して対称)となる位置に形成されている。
ポンプケース6において、カムリング1の入口ポート1Aに対応する位置には吸込流路6Aが設けられており、カムリング1の出口ポート1Bに対応する位置には吐出流路6Bが設けられている。吸込流路6Aは、配管アダプタ8の入口ポート8Aを介して図示しない非圧縮性作動流体供給源に連通しており、吐出流路6Bは、配管アダプタ9の出口ポート9Aを介して(ベーンポンプ10から吐出された)非圧縮性作動流体の供給先に連通している。
【0021】
図1図2において、電動モータ20を駆動してモータシャフト23を回転すると、モータシャフト23に連結されたロータ2が回転する(図2の矢印R1方向)。そして図2で示す様に、非圧縮性の作動流体(液体等)が、ポンプケース6の吸込流路6A、カムリング1の入口ポート1Aを介して流入し、隣接して配置されたベーン3とロータ2とカムリング1により画定されるポンプ室α01、α02に流入する。
図2で示す状態において、ポンプ室α01、α02は、カムリング1の入口ポート1Aと連通しているので、密閉空間には該当しない。
図2において、非圧縮性の作動流体の流れは、矢印Aで示されている。
【0022】
ポンプ室或いは空間αの位置は、ロータ2が回転するのに伴い、カムリング1の円周方向位置に対応して、図2において符号α01で示す位置、符号α02で示す位置、符号α1で示す位置・・・に順次移動し、当該移動をするに連れてポンプ室或いは空間αの大きさ(容積)も変化する。
作動流体は、隣接するベーン3とロータ2とカムリング1により画定されるポンプ室αにより出口ポート1Bへと移送され、ポンプ室αの容積の変動(拡縮)により作動流体は入口ポート1Aから吸い込まれ、ヘッドを付加されて出口ポート1Bから吐出される。
なお、図2図5における符号1Dはカムリング1の内周面に形成された連通溝であり、連通溝1Dの詳細は後述する。
【0023】
次に図3をも参照して、ポンプ室α1、カムリング1の入口ポート1A、出口ポート1Bについて説明する。
図2を参照して上述した様に、ロータ2が回転することにより(図2の矢印R1方向)、非圧縮性の作動流体は入口ポート1Aから、ベーン3A、3B、ロータ2、カムリング1により画定されたポンプ室α01(隙間領域)、ベーン3B、3C、ロータ2、カムリング1により画定されたポンプ室(隙間領域)α02に流入する(矢印A)。
【0024】
図3で示される瞬間において、ポンプ室α01、α02は入口ポート1Aと連通している。
一方、図3で示される瞬間には、ベーン3C、3D、ロータ2、カムリング1により画定されたポンプ室α1は入口ポート1Aとは連通しておらず、出口ポート1Bとも連通していない。換言すれば、図3で示される瞬間に、ポンプ室α1(ポンプ室α02の時計方向に隣接する隙間領域)は入口ポート1Aと非連通状態となる。一方、図3で示される瞬間には、ポンプ室α1は出口ポート1Bと非連通状態であるが、出口ポート1Bと連通する直前の状態である。さらに別の表現をすれば、図3で示される瞬間の直前までは、ポンプ室α1はカムリング1の入口ポート1Aと連通しており、図3で示される瞬間の直後には、ポンプ室α1は出口ポート1Bと連通する。
【0025】
図3で示される瞬間において、ポンプ室α1は入口ポート1A、出口ポート1Bのどちらにも連通していない。そして、図3で示される瞬間においては、ポンプ室α1は、その容積が最大となる位置に存在する。
すなわち図示のベーンポンプ10は、図3で示す瞬間(隣接するベーン3とロータ2とカムリング1により画定されるポンプ室α1(隙間領域)の容積が最大となる瞬間)を除き、入口ポート1A或いは出口ポート1Bの何れかがポンプ室α1(隙間領域)と連通する様に構成されている。
そして図1図3から明らかな様に、カムリング1の入口ポート1Aと出口ポート1Bの間の領域には、補助ポートは一切設けられていない。
なお、図3における符号1Cは貫通口であり、貫通口1Cについては図7を参照して後述する。
【0026】
図4をも参照して、ポンプ室α1と入口ポート1Aと出口ポート1Bの相対的な位置関係について、さらに説明する。ここで図4ではベーン3及びベーン溝2Aは図示されていないが、ロータ2の回転中心から半径方向外方へ延在する仮想線L1〜L6の各々がベーン3及びベーン溝2Aの位置を示している。
図2を参照して上述した様に、概略円柱形状のロータ2の回転中心O1と、ロータの外径より大径の内周面(カム面)を有するカムリング1の内径中心O2は、符号δ1で示す量だけ偏芯している。
図4で示す瞬間において、仮想線L1に位置するベーン(図示しない)と仮想線L2に位置するベーン(図示しない)とカムリング1とロータ2により画定されたポンプ室α1(隙間領域)は、カムリング1の入口ポート1Aと連通しておらず、出口ポート1Bとも連通していない。
【0027】
しかし、ロータ1が矢印R1方向に回転する中で、ポンプ室α1(隙間領域)が入口ポート1Aと出口ポート1Bの何れにも連通していないのは、図4で示す瞬間、すなわちポンプ室α1(隙間領域)の容積が最大となる瞬間だけである。
すなわち、図4に示す瞬間の直前まではポンプ室α1の容積は膨張(拡大)し、ポンプ室α1(隙間領域)は入口ポート1Aと連通している。そのため、隙間領域α1が拡大する際には入口ポート1Aから隙間領域α1に作動流体が供給される。
一方、図4に示す瞬間以降はポンプ室α1の容積が減少(収縮)するが、ポンプ室α1(隙間領域)は出口ポート1Bと連通した状態となる。そのため、隙間領域α1が収縮して非圧縮性の作動流体を加圧する際には出口ポート1Bと連通しており、ポンプ室α1内の作動流体が出口ポート1Bに排出される。
【0028】
そのため、ポンプ室α1(隙間領域)が拡大(膨張)する際には入口ポート1Aから作動流体が供給されるので、ポンプ室α1内に空洞が生じることがなく、図3図4で示す瞬間(ポンプ室α1の容積が最大となる瞬間)以降、ポンプ室α1の容積が減少して作動流体が加圧されても、空洞が潰れることによる騒音の発生が防止される。
また、図3図4で示す瞬間(ポンプ室α1の容積が最大となる瞬間)の直後にポンプ室α1は出口ポート1Bと連通するので、ポンプ室α1(隙間領域)が収縮する際には出口ポート1Bから作動流体が排出され、作動流体の圧力が上昇してしまうことが無く、所謂「閉じ込み」現象の発生が防止されて、騒音の発生も防止される。
【0029】
そのため、カムリング1の入口ポート1Aと出口ポート1Bの間の領域に補助ポートを形成しなくても騒音の発生が防止され、カムリング1やポンプ本体に複雑な加工を施す必要が無い。
また、入口ポート1Aと出口ポート1Bはカムリング1の内径中心に対して点対称(中心線に対して対称)となる様に配置され(直径方向に配置され)るので、流路に折曲部(エルボ)や湾曲部を形成する必要が無く、作動流体の流路における抵抗が小さくなり、効率が向上する。
【0030】
上述した様に、カムリング1の内周面には連通溝1Dが形成されている。
図5は、ポンプ室α1(隙間領域)の容積が最大となる瞬間(図2図4で示される瞬間)から収縮し、出口ポート1Bと連通した直後の状態を示している。図5において、ポンプ室α1の容積が最大となる瞬間(図2図4で示される瞬間)におけるベーン3C、3D(図3)の位置を、それぞれ仮想線L1、L2で示している。
図5の状態、すなわちポンプ室α1が出口ポート1Bと連通した直後の状態においては、ポンプ室α1の容積が最大となる瞬間に比較すると、ロータ2は矢印R1方向に僅かに回転し、ベーン3Dは吐出口1B側に僅かに進入している。
【0031】
ここで、ポンプ室α1が入口ポート1Aと連通している状態(ポンプ室α1の容積が最大となる瞬間以前の状態)では、吸入流路6A(図2)、入口ポート1Aを介してポンプ室α1に流入する(矢印A)作動流体の流速が非常に速いと、ポンプ室α1の圧力が低下する。そのため、高圧の出口ポート1Bの圧力との圧力差が遥かに大きくなる場合がある。
カムリング1の内周面に連通溝1Dが形成されていなければ、ポンプ室α1と出口ポート1Bの圧力の圧力差が大きいと、ポンプ室α1の容積が最大となる瞬間(図2図4の状態)から収縮して、図5で示す様にポンプ室α1が出口ポート1Bと連通した直後には、出口ポート1B内の吐出圧がポンプ室α1内に作用する(図5の矢印P1)。その結果、ポンプ室α1の作動流体の圧力が急激に上昇し、騒音が発生する。
また、ポンプ室α1(隙間領域)の作動流体の圧力が上昇することにより、当該上昇した圧力がベーン3の半径方向外方端部に作用して、ベーン3が半径方向内方に押し戻されてしまう場合がある。図5で示す状態でベーン3が半径方向内方に押し戻されると、カムリング1の内周面とベーン3の半径方向外方端部の間に隙間が形成されて、当該隙間から、作動流体(液体)が隣接するポンプ室(例えば、ポンプ室α02)に漏れてしまう。
【0032】
これに対して図示の実施形態では、図5に示す様に、カムリング1の内周面であって容積が最大となるポンプ室α1(隙間領域)に対応する位置に、連通溝1Dを形成している。連通溝1Dの入口ポート1A側の端部は、入口ポート1Aの近傍にあるが、入口ポート1Aと連通していない。また、連通溝1Dの出口ポート1B側の端部は、出口ポート1Bの近傍にあるが、出口ポート1Bと連通していない。
図5では、ポンプ室α1(隙間領域)と出口ポート1Bとは連通しており(連通部を符号Eで表示する)、ポンプ室α1と入口ポート1Aとはカムリング1の内周面の連通溝1Dを介して連通している。
図5には明確には示されないが、連通溝1Dは、比較的幅広で且つ浅い断面形状となる様に形成されている。連通溝1Dの断面形状を比較的幅広で且つ浅くした理由については、図6を参照して後述する。
【0033】
図5において、出口ポート1Bにおける吐出圧がポンプ室α1(隙間領域)に作用しても(矢印P1)、ポンプ室α1の作動流体の圧力は連通溝1Dを経由して入口ポート1A側に逃げる(矢印P2)。そのため、ポンプ室α1の圧力が過大に昇圧してしまうことはなく、騒音は発生しない。
ポンプ室α1の圧力が過大に昇圧しないため、ベーン3が半径方向内方に押し戻されることもなく、カムリング1の内周面とベーン3の半径方向外方端部の間に隙間が形成されてしまうことも防止される。そして、ポンプ室α1の圧力が隣接するポンプ室(例えば、ポンプ室α02)に作用することもない。
連通溝1Dにより、ポンプ室α1の圧力を入口ポート1A側に逃がす(矢印P2)際に、ポンプ室α1内の作動流体も入口ポート1A側(のポンプ室α02)へ漏れてしまい、その分だけポンプ効率は低下するが、当該作動流体の漏れ量は、連通溝1Dを経由してポンプ室α1からポンプ室α02に漏れてしまう作動流体の量や、ベーン3が半径方向内方に押し戻された場合における漏れ量に比較して、遥かに少ない。そのため、連通溝1Dを形成することにより、ポンプ効率が低下する恐れもない。
【0034】
上述した様に、カムリング1に形成する連通溝1Dの断面形状は、比較的幅広で且つ浅い形状である。
発明者の実験によると、連通溝1Dを幅が狭く深い断面形状とすると、例えば図5において、出口ポート1Bの吐出圧がポンプ室α1に作用した場合に、連通溝1Dを経由して、ポンプ室α1からポンプ室α02に漏れてしまう作動流体の量が多くなる。
それに対して、連通溝1Dを幅広で且つ浅い断面形状にすると、連通溝1Dを経由して漏れてしまう(ポンプ室α1の)作動流体の量は微小になる。
図6を参照して、係る実験結果を説明する。
【0035】
図6において、横軸はポンプ室α1内の作動流体流路の幅方向位置、図5におけるポンプ室α1における半径方向位置であり、図6で右端はロータ1の外周面の位置であり、図6の左端はカムリング1の内周面の位置を示している。図6における縦軸は作動流体の流速を示している。
図6(A)は連通溝1Dが比較的幅広で且つ浅い断面形状である場合における作動流体の流速分布であり、図6(B)は連通溝1Dの幅が狭く且つ深い断面形状である場合における作動流体の流速分布である。
【0036】
連通溝1Dが比較的幅広で且つ浅い断面形状の場合(図6(A)で示す場合)、流路の幅方向位置がカムリング1の内周面(図6(A)の左端)における作動流体の流速は殆どゼロである。したがって、カムリング1の内周面に形成される連通溝1Dを流れる作動流体の流量は微小であり、連通溝1Dを経由して入口ポート1A側(のポンプ室α02)へ漏れてしまう作動流体の流量も微小である。
一方、連通溝1Dの幅が狭く深い断面形状の場合(図6(B)の場合)、流路の幅方向位置によっては作動流体の流速はあまり変化せず、カムリング1の内周面(図6(B)で左端)における流速は図6(A)における同位置の流速(殆どゼロ)に比較してはるかに大きい。そのため、連通溝1Dを流れる作動流体の流速及び流量が大きくなり、連通溝1Dを経由して入口ポート1A側(のポンプ室α02)へ漏れてしまう作動流体の流量も多量になってしまう。
そのため、連通溝1Dは比較的幅広で且つ浅い断面形状であるのが好適である。
【0037】
次に主として図7を参照して、ベーン3を半径方向外方に付勢して突出させるためベーン溝2Aに対して圧力を供給する機構(プレッシャーローディングを行う機構)について説明する。
図7において、内部にロータ2を収容したカムリング1の開放端部(図7の上下両端部)は、サイドプレート4、5により覆われている。
カムリング1の出口ポート1Bにはサイドプレート4側に貫通する貫通孔1Cが穿孔されており、サイドプレート4には貫通孔1Cが連通する箇所から半径方向内方に向かう経路4Aが形成されている。
【0038】
サイドプレート4には、ベーン溝2Aの半径方向内方端部2AAに対向する位置に、半径方向内方端部2AAを連通する様に形成された円環状の溝4Bが設けられている。複数(図示の例では6本)のベーン溝2Aの半径方向内方端部2AAに連通する円環状の溝4Bは、サイドプレート4に形成された経路4Aにも連通している。
そのため、出口ポート1Bを流れる昇圧された作動流体は、カムリング1の貫通孔1C、サイドプレート4の経路4A、円環状の溝4Bを介して、ベーン溝2Aの半径方向内方端部2AAに供給される(導入される)。係る作動流体の流れは、図7において矢印Bで示されている。
【0039】
図1図4を参照して上述した様に、図3図4で示す瞬間よりもロータ2が回転することによりポンプ室α1の容積が収縮すると、ポンプ室α1内の作動流体は加圧されて出口ポート1Bから排出される(図7の矢印A)。
加圧されて出口ポート1Bから排出された作動流体の一部が貫通口1C、経路4A、円環状の溝4Bを流れ、ベーン溝2Aの半径方向内方端部2AAに供給される(導入される)ことにより、ベーン溝2A内のベーン3に対してプレッシャーローディングが為され、ベーン3は半径方向外方に付勢される。ベーン3を半径方向外方に付勢する力は、図7では矢印Fで示されている。
【0040】
出口ポート1Bの貫通孔1Cを介して、加圧されて吐出された作動流体の一部がベーン溝2Aの半径方向内方端部2AAに導入され、プレッシャーローディングが行われるので、カムリング1の入口ポート1Aと出口ポート1Bの間の領域にポートを形成する必要が無く、当該ポートに複雑な加工を施す必要が無い。
そのため、カムリング1やポンプ本体の製造がさらに容易となり、製造のための労力、コストをより一層節減することが可能になる。
【0041】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば、ロータに形成するベーン溝の数と、当該ベーン溝に配置するベーンの数は、図示の実施形態では「6」であるが、それ以外の数、例えば「8」、「10」、その他の数とすることも出来る。
また、ベーンポンプの駆動源としては、電動モータ、内燃機関、変速装置の出力軸、その他の各種機器が適用可能であり、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
1・・・カムリング
1A・・・入口ポート
1B・・・出口ポート
1C・・・貫通孔
1D・・・連通溝
2・・・ロータ
2A・・・ベーン溝
2AA・・・半径方向内方端部
3、3A、3B、3C、3D・・・ベーン(羽根)
4、5・・・サイドプレート
4A・・・経路
4B・・・円環状の溝
6・・・ポンプケース
6A・・・吸込流路
6B・・・吐出流路
7・・・ポンプカバー
8、9・・・配管アダプタ
8A・・・入口ポート
9A・・・出口ポート
10・・・ベーンポンプ
20・・・電動モータ
21A、21B、21C・・・ブッシュ
22・・・モータハウジング
23・・・モータシャフト
23A・・・連結手段
24・・・モータロータ
25・・・モータステータ
26・・・ステータ鉄心
27A、27B・・・スラストワッシャ
28・・・フレーム
α1、α01、α02・・・ポンプ室(隙間領域)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8