特許第6886315号(P6886315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000002
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000003
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000004
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000005
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000006
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000007
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000008
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000009
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000010
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000011
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000012
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000013
  • 特許6886315-車輪駆動装置 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886315
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】車輪駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/04 20060101AFI20210603BHJP
   B60K 7/00 20060101ALI20210603BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20210603BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20210603BHJP
   F16H 57/029 20120101ALI20210603BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20210603BHJP
【FI】
   B60K17/04 H
   B60K7/00
   F16H1/32 A
   F16H57/04 J
   F16H57/029
   F16J15/3204 201
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-45126(P2017-45126)
(22)【出願日】2017年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-144778(P2018-144778A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】林 文捷
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 真吾
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−71810(JP,A)
【文献】 特開2006−83878(JP,A)
【文献】 特開2002−130433(JP,A)
【文献】 特開2016−178787(JP,A)
【文献】 実開昭51−15605(JP,U)
【文献】 特開2014−104557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/04
B60K 7/00
F16H 1/32
F16H 57/029
F16H 57/04
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から伝達される回転を減速する減速機構と、
前記減速機構で減速された回転が伝達され、タイヤが一体化されている回転体と、
前記回転体を回転自在に支持する固定部材と、
前記回転体と前記固定部材の間に配置され、前記減速機構が収納される空間を封止するオイルシールと、
前記オイルシールにより封止される封入空間に封入される潤滑剤と、を備える車輪駆動装置であって、
前記潤滑剤は、混和ちょう度の異なる少なくとも2種類の潤滑剤を含み、
前記潤滑剤の封入量は、前記封入空間の容積の35%以下であり、
前記減速機構は、
偏心体と、
前記偏心体により揺動させられる外歯歯車と、
前記偏心体と前記外歯歯車の間に配置される偏心体軸受と、を有し、
前記潤滑剤は、
前記偏心体軸受に塗布される硬質潤滑剤と、
前記硬質潤滑剤より混和ちょう度の大きい軟質潤滑剤と、を含む車輪駆動装置。
【請求項2】
前記回転体と前記固定部材との間にて前記オイルシールより前記封入空間寄りの位置に配置される主軸受を備え、
前記潤滑剤は、
前記主軸受に塗布される硬質潤滑剤と、
前記硬質潤滑剤より混和ちょう度の大きい軟質潤滑剤と、を含む請求項1に記載の車輪駆動装置。
【請求項3】
駆動源から伝達される回転を減速する減速機構と、
前記減速機構で減速された回転が伝達され、タイヤが一体化されている回転体と、
前記回転体を回転自在に支持する固定部材と、
前記回転体と前記固定部材の間に配置され、前記減速機構が収納される空間を封止するオイルシールと、
前記オイルシールにより封止される封入空間に封入される潤滑剤と、を備える車輪駆動装置であって、
前記回転体と一体的に回転し、前記オイルシールの配置箇所から漏れ出した潤滑剤を振り切る振り切り板を備え、
前記回転体は、前記タイヤが外周部に装着されるホイールを有し、
前記振り切り板の外周端部は、前記タイヤと前記ホイールとの境界面より径方向外側にオフセットした位置に設けられる車輪駆動装置。
【請求項4】
駆動源から伝達される回転を減速する減速機構と、
前記減速機構で減速された回転が伝達され、タイヤが一体化されている回転体と、
前記回転体を回転自在に支持する固定部材と、
前記回転体と前記固定部材の間に配置され、前記減速機構が収納される空間を封止するオイルシールと、
前記オイルシールにより封止される封入空間に封入される潤滑剤と、を備える車輪駆動装置であって、
前記回転体と一体的に回転し、前記オイルシールの配置箇所から漏れ出した潤滑剤を振り切る振り切り板を備え、
前記オイルシールの配置箇所から漏れ出した潤滑剤を吸収する潤滑剤吸収材を備え、
前記振り切り板は、前記回転体に着脱可能に固定され、前記回転体に対する前記潤滑剤吸収材の位置を保持している車輪駆動装置。
【請求項5】
駆動源から伝達される回転を減速する減速機構と、
前記減速機構で減速された回転が伝達され、タイヤが一体化されている回転体と、
前記回転体を回転自在に支持する固定部材と、
前記回転体と前記固定部材の間に配置され、前記減速機構が収納される空間を封止するオイルシールと、
前記オイルシールにより封止される封入空間に封入される潤滑剤と、を備える車輪駆動装置であって、
前記オイルシールの配置箇所から漏れ出した潤滑剤を受けるオイルパンを備え、
前記固定部材と一体化され、前記オイルパンを支持するパン支持部材を備え、
前記オイルパン及び前記パン支持部材は、前記タイヤの走行方向に長い長尺部材であり、
前記オイルパンは、前記パン支持部材の長手方向に引き抜き可能である車輪駆動装置。
【請求項6】
前記オイルパンは、前記パン支持部材に対して磁石の磁力により保持される請求項に記載の車輪駆動装置。
【請求項7】
前記パン支持部材の長手方向の端部に、前記パン支持部材の長手方向の外側に向かって上方に傾斜している傾斜部を有する請求項またはに記載の車輪駆動装置。
【請求項8】
駆動源から伝達される回転を減速する減速機構と、
前記減速機構で減速された回転が伝達され、タイヤが一体化されている回転体と、
前記回転体を回転自在に支持する固定部材と、
前記回転体と前記固定部材の間に配置され、前記減速機構が収納される空間を封止するオイルシールと、
前記オイルシールにより封止される封入空間に封入される潤滑剤と、を備える車輪駆動装置であって、
前記オイルシールの配置箇所から漏れ出した潤滑剤を受けるオイルパンを備え、
前記オイルパンには、
前記タイヤの走行方向に延びる第1オイルパンと、
前記タイヤの軸方向に延びる第2オイルパンとが含まれ、
前記第1オイルパン及び前記第2オイルパンの一方は、受けた潤滑剤を他方のオイルパンに誘導可能に設けられる車輪駆動装置。
【請求項9】
駆動源から伝達される回転を減速する減速機構と、
前記減速機構で減速された回転が伝達され、タイヤが一体化されている回転体と、
前記回転体を回転自在に支持する固定部材と、
前記回転体と前記固定部材の間に配置され、前記減速機構が収納される空間を封止するオイルシールと、
前記オイルシールにより封止される封入空間に封入される潤滑剤と、を備える車輪駆動装置であって、
前記オイルシールの配置箇所から漏れ出した潤滑剤を受けるオイルパンを備え、
前記回転体と一体的に回転し、前記オイルシールの配置箇所から漏れ出した潤滑剤を振り切る振り切り板を備え、
前記オイルパンは、前記振り切り板の外周端部の鉛直下方に配置される車輪駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、搬送台車等の車輪を駆動する車輪駆動装置として、減速機構が内部に組み込まれたものが知られている。この種の車輪駆動装置は、例えば、クリーンルームのように、クリーン性を要求される場所に用いられる場合がある。この場合、車輪駆動装置の内部に封入される潤滑剤の漏れ対策が要求されることがある。この対策を講じた車輪駆動装置として、特許文献1には、回転体を回転自在に支持する軸受をシール付軸受とし、そのシール付軸受より外部空間側にシール部材を配置したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−71810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が検討したところ、特許文献1の技術では、潤滑剤漏れへの対策が不十分であり、改良の余地があるとの認識を得た。
【0005】
本発明のある態様は、こうした状況に鑑みてなされ、その目的の1つは、潤滑剤の漏れ対策を効果的に図れる車輪駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は車輪駆動装置に関し、駆動源から伝達される回転を減速する減速機構と、前記減速機構で減速された回転が伝達され、タイヤが一体化されている回転体と、前記回転体を回転自在に支持する固定部材と、前記回転体と前記固定部材の間に配置され、前記減速機構が収納される空間を封止するオイルシールと、前記オイルシールにより封止される封入空間に封入される潤滑剤と、を備える車輪駆動装置であって、前記潤滑剤は、混和ちょう度の異なる少なくとも2種類の潤滑剤を含み、前記潤滑剤の封入量は、前記封入空間の容積の35%以下である。
【0007】
本発明の他の態様は車輪駆動装置に関し、駆動源から伝達される回転を減速する減速機構と、前記減速機構で減速された回転が伝達され、タイヤが一体化されている回転体と、前記回転体を回転自在に支持する固定部材と、前記回転体と前記固定部材の間に配置され、前記減速機構が収納される空間を封止するオイルシールと、前記オイルシールにより封止される封入空間に封入される潤滑剤と、を備える車輪駆動装置であって、前記回転体と一体的に回転し、前記オイルシールの配置箇所から漏れ出した潤滑剤を振り切る振り切り板を備える。
【0008】
本発明の他の態様は車輪駆動装置に関し、駆動源から伝達される回転を減速する減速機構と、前記減速機構で減速された回転が伝達され、タイヤが一体化されている回転体と、前記回転体を回転自在に支持する固定部材と、前記回転体と前記固定部材の間に配置され、前記減速機構が収納される空間を封止するオイルシールと、前記オイルシールにより封止される封入空間に封入される潤滑剤と、を備える車輪駆動装置であって、前記オイルシールの配置箇所から漏れ出した潤滑剤を受けるオイルパンを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、潤滑剤の漏れ対策を効果的に図れる車輪駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の車輪駆動装置を示す正面断面図である。
図2】第1実施形態の減速機構を周辺構造とともに示す拡大図である。
図3】第1実施形態の封入空間内での潤滑剤の分布を説明するための図である。
図4】第1オイルシールの配置箇所から潤滑剤が辿る経路を説明するための図である。
図5図1の一部の拡大図である。
図6図1の車輪駆動装置の一部を反車体側から見た部分断面図である。
図7図1の車輪駆動装置の一部を反車体側から見た外観図である。
図8】第1実施形態の第1オイルパンと第2オイルパンを示す平面図である。
図9図8のA−A線断面図である。
図10図10(a)〜(c)のそれぞれは、パン支持部材を反回転体側から見た図、回転体側から見た図、走行方向Yの片側から見た図である。
図11】第1実施形態の第1オイルパンとパン支持部材の一部を示す図である。
図12】第2実施形態の車輪駆動装置の一部の正面断面図である。
図13】第2実施形態の車輪カバーの周方向端部を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。また、共通点のある別々の構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2」等と付し、符号の末尾に「−A、−B」等と付すことで区別し、総称するときはこれらを省略する。
【0012】
(第1の実施の形態)
図1は、第1実施形態の車輪駆動装置10を示す正面断面図である。本実施形態の車輪駆動装置10は、搬送台車の車体12に組み付けられており、搬送台車のタイヤ14の駆動に用いられる。本実施形態の搬送台車は有軌道台車であり、本実施形態のタイヤ14は床面に敷設されたレール16に設けられた走行面16a上を走行する。以下、タイヤ14の回転中心線Laに沿った方向をタイヤ14の軸方向Xとし、その回転中心線a周りの周方向、径方向に関して、単に「周方向」、「径方向」として説明する。タイヤ14の走行方向は、この軸方向Xと直交する水平方向となる。
【0013】
車輪駆動装置10は、主に、入力軸18と、減速機構20と、回転体22と、キャリア24−A、24−Bと、第1オイルシール26と、を備える。本実施形態の車輪駆動装置10は、大きく分けて、回転体22の内周側の封入空間28(後述する)に封入される潤滑剤(本図では不図示)と、封入空間28の外部構造とに主な特徴がある。先に前者から説明する。
【0014】
入力軸18は、駆動源の出力軸30から伝達される回転を受けるためのものである。本実施形態での駆動源は、モータであるが、モータと減速装置が一体化されたギヤモータ等でもよい。入力軸18には、車体12から車幅方向外側に突出する駆動源の出力軸30が接続される。入力軸18は、出力軸30と一体的に回転可能に設けられ、駆動源の回転が出力軸30から伝達される。なお、入力軸18の回転中心線はタイヤ14の回転中心線Laと同軸に設けられる。
【0015】
図2は、減速機構20を周辺構造とともに示す拡大図である。減速機構20は、駆動源から伝達される回転を減速するためのものである。本実施形態の減速機構20は偏心揺動型減速機構である。減速機構20は、主に、偏心体32−A、32−Bと、外歯歯車34と、偏心体軸受36と、内歯歯車38とを有する。
【0016】
偏心体32は、入力軸18に一体的に形成され、入力軸18と一体的に回転可能に設けられる。偏心体32−A、32−Bには、軸方向Xに隣り合う第1偏心体32−Aと第2偏心体32−Bが含まれる。第1偏心体32−Aと第2偏心体32−Bのそれぞれの軸芯は、タイヤ14の回転中心線Laを挟んで正反対の方向に偏心している。
【0017】
外歯歯車34は、第1偏心体32−A、第2偏心体32−Bのそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車34は、偏心体軸受36を介して対応する偏心体32−A、32−Bに支持されており、その偏心体32−A、32−Bにより揺動させられる。詳しくは、外歯歯車34は、対応する偏心体32−A、32−Bがタイヤ14の回転中心線La周りに回転したとき、自らの軸芯がタイヤ14の回転中心線La周りを回転するように揺動させられる。
【0018】
外歯歯車34には、外歯歯車34の軸芯を軸方向Xに貫通する中央孔34aが形成される。外歯歯車34の中央孔34aの内側には対応する偏心体32−A、32−Bや偏心体軸受36が配置される。
【0019】
外歯歯車34には軸方向Xに貫通する複数のピン孔34bが形成される。ピン孔34bは、外歯歯車34の軸芯からオフセットした位置に周方向に間を空けて設けられる。ピン孔34bには内ピン40が遊びを持って挿通される。内ピン40の外周側には内ピン40に回転自在に支持される内ローラ42が設けられる。内ピン40の両端部は、一対のキャリア24に固定されており、その一対のキャリア24に支持される。
【0020】
偏心体軸受36は、第1偏心体32−A、第2偏心体32−Bのそれぞれに対応して個別に設けられる。偏心体軸受36は、対応する偏心体32−A、32−Bと外歯歯車34との間に設けられる。
【0021】
本実施形態の偏心体軸受36はローラ軸受である。偏心体軸受36は、複数の第1転動体36aと、リテーナ36bと、第1内輪36cと、第1外輪36dと、を有する。第1転動体36aは、タイヤ14の回転中心線La周りに間を空けて設けられる。リテーナ36bは、複数の第1転動体36aの相対位置を保持するとともに複数の第1転動体36aを回転自在に支持する。
【0022】
本実施形態の第1内輪36cは、偏心体32とは別の部材により構成され、偏心体32の外周面に締まり嵌め等により一体化される。第1内輪36cの外周面は、第1転動体36aが周方向に転動する第1内側転動面36eを構成する。
【0023】
本実施形態の第1外輪36dは、外歯歯車34の中央孔34aの内周面が構成している。第1外輪36dは、外歯歯車34と同じ部材の一部により構成されることになる。第1外輪36dの内周面は、第1転動体36aが周方向に転動する第1外側転動面36fを構成する。
【0024】
内歯歯車38には、外歯歯車34が内接噛合している。本実施形態の内歯歯車38は、ケーシング46(後述する)の内周部に支持される複数の外ピン38aと、複数の外ピン38aのそれぞれに回転自在に支持される複数の外ローラ38bとを有する。複数の外ローラ38bのそれぞれは内歯歯車38の内歯を構成する。内歯歯車38の内歯数(外ローラ38bの数)は、本実施形態において、外歯歯車34の外歯数より一つ多い。
【0025】
図1を参照する。回転体22には、減速機構20で減速された回転が伝達される。回転体22は、タイヤ14が一体化されている。回転体22は、全体として環状をなしており、その内周側には減速機構20やキャリア24が配置される。
【0026】
回転体22は、走行面16a上に接するタイヤ14の他に、タイヤ14が装着されるホイール44と、減速機構20の内歯歯車38が内周部に設けられるケーシング46とを有する。
【0027】
タイヤ14は、ホイール44の外周部に接着等により装着される。タイヤ14は、軟素材を用いて構成され、ホイール44は、タイヤ14の軟素材より硬質な硬素材を用いて構成される。この一例を挙げると、軟素材はウレタンゴム等の弾性体であり、硬素材は鋼等の金属である。
【0028】
ケーシング46は、減速機構20のケーシングであり、減速機構20で減速された回転を取り出すための出力部材を兼ねている。ケーシング46は、ホイール44の内周側に配置され、ボルトB1によりホイール44と一体化される。
【0029】
キャリア24−A、24−Bには、外歯歯車34より車体側に配置される内側キャリア24−Aと、外歯歯車34より反車体側に配置される外側キャリア24−Bとが含まれる。本明細書での車体側とは、言及している構成要素(ここでは外歯歯車34)を基準として、軸方向Xの車体12側をいい、反車体側とは、車体12とは軸方向Xの反対側をいう。内側キャリア24−Aは、後述する車輪カバー48にキャリアボルトB2により固定される。外側キャリア24−Bは、車輪カバー48の一部に嵌め合いにより固定される。
【0030】
図2を参照する。回転体22のケーシング46と内側キャリア24−Aとの間と、回転体22のケーシング46と外側キャリア24−Bとの間には、回転体22を回転自在に支持する主軸受50が設けられる。内側キャリア24−Aと外側キャリア24−Bは、主軸受50を介して回転体22を回転自在に支持する固定部材として機能する。
【0031】
本実施形態の主軸受50はローラ軸受である。主軸受50は、複数の第2転動体50aと、第2内輪50bと、第2外輪50cとを有する。第2転動体50aは、タイヤ14の回転中心線La周りに間を空けて設けられる。本実施形態の第2内輪50bは、キャリア24とは別の部材により構成され、キャリア24の外周面に締まり嵌め等により一体化される。第2内輪50bの外周面は、第2転動体50aが周方向に転動する第2内側転動面50dを構成する。本実施形態の第2外輪50cは、回転体22のケーシング46とは別の部材により構成され、ケーシング46の内周面に締まり嵌め等により一体化される。第2外輪50cの内周面は、第2転動体50aが周方向に転動する第2外側転動面50eを構成する。第2内輪50bと第2外輪50cの間に形成される空間は軸方向Xの両側に向かって開放している。
【0032】
内側キャリア24−Aには径方向の中央部を貫通する第1貫通穴24aが形成される。第1貫通穴24aの内側には第1入力軸軸受52−Aが設けられ、内側キャリア24−Aは第1入力軸軸受52−Aを介して入力軸18を回転自在に支持する。第1貫通穴24aは、第1入力軸軸受52−Aより車体側に配置される軸カバー54により覆われており、入力軸18は軸カバー54を軸方向Xに貫通している。軸カバー54と入力軸18の間には第2オイルシール56が設けられ、第1貫通穴24aは軸カバー54と第2オイルシール56により封止される。
【0033】
外側キャリア24−Bには径方向の中央部を貫通する第2貫通穴24bが形成される。第2貫通穴24bの内側には第2入力軸軸受52−Bが設けられ、外側キャリア24−Bは第2入力軸軸受52−Bを介して入力軸18を回転自在に支持する。第2貫通穴24bは、第2入力軸軸受52−Bや入力軸18より反車体側に配置されるシールキャップ58により封止される。
【0034】
第1オイルシール26は、回転体22のケーシング46と内側キャリア24−Aの間や、回転体22のケーシング46と外側キャリア24−Bの間に配置される。第1オイルシール26は、減速機構20が収納される空間を封止することで潤滑剤(本図では不図示)が封入される封入空間28を形成する。本実施形態の第1オイルシール26は軸方向Xに複数個を並べて配置されるが、その個数は特に限られない。第1オイルシール26は、リング状をなす弾性体により構成される。第1オイルシール26のタイヤ14の回転中心線Laに沿った断面形状は、第1オイルシール26により封止される封入空間28側に向かって開放する溝状をなす。
【0035】
以上の車輪駆動装置10の動作を説明する。
駆動源の回転が出力軸30から入力軸18に伝達されると入力軸18が回転する。入力軸18が回転すると、入力軸18の回転が減速機構20で減速されて回転体22のケーシング46に伝達される。回転体22に減速機構20から回転が伝達されると、回転体22に一体化されているタイヤ14が回転することで、タイヤ14が走行面16a上を走行する。
【0036】
ここで、入力軸18が回転すると、減速機構20では、入力軸18とともに偏心体32が回転中心線La周りに回転する。偏心体32がその回転中心線La周りに回転すると、外歯歯車34の軸心がその回転中心線La周りを回転するように外歯歯車34が揺動する。外歯歯車34が揺動すると、外歯歯車34と内歯歯車38の噛合位置が順次ずれる。この結果、内歯歯車38は、入力軸18が一回転する毎に、外歯歯車34との歯数差に相当する分、外歯歯車34に対して相対回転(自転)し、その自転成分を回転体22のケーシング46に伝達する。このとき、入力軸18の回転、つまり、駆動源から伝達される回転は、外歯歯車34と内歯歯車38の歯数差に応じた減速比で減速されて、内歯歯車38から回転体22に伝達される。
【0037】
図3は、封入空間28内での潤滑剤60−A、60−Bの分布を説明するための図である。封入空間28は、回転体22とキャリア24に囲まれて画定される空間であって、第1オイルシール26の他に、軸カバー54、第2オイルシール56、シールキャップ58等により封止される閉空間である。この封入空間28は、潤滑剤60−A、60−B以外の物体により画定される閉空間としても捉えられる。ここでの潤滑剤60−A、60−B以外の物体とは、入力軸18、減速機構20、回転体22、キャリア24、第1オイルシール26、主軸受50、入力軸軸受52、軸カバー54、第2オイルシール56、シールキャップ58等である。
【0038】
封入空間28には、減速機構20が収納される収納空間28aと、回転体22とキャリア24の間に設けられる隙間空間28bとが含まれる。本実施形態の収納空間28aは、回転体22の内周側にて一対のキャリア24の間に形成される。隙間空間28bは、収納空間28aの偏心体32や偏心体軸受36より径方向外側にて収納空間28aより軸方向Xに広がるように設けられ、その軸方向Xの末端位置には第1オイルシール26が設けられる。隙間空間28bには、第1オイルシール26より収納空間28a寄りの位置に主軸受50が設けられる。主軸受50は、回転体22とキャリア24の間にて第1オイルシール26より封入空間28寄りの位置に配置されることになる。
【0039】
本実施形態の潤滑剤60−A、60−Bはグリースである。潤滑剤60−A、60−Bには、混和ちょう度の異なる硬質潤滑剤60−Aと、軟質潤滑剤60−Bとが含まれる。本図でダブルハッチングを付した箇所は硬質潤滑剤60−Aを示し、ドット模様を付した箇所は軟質潤滑剤60−Bを示す。ここでの「混和ちょう度」とは、グリースの硬さや流動性を示す特性値のことである。この混和ちょう度は、規定の円錐の先端を規定の方法でグリースの上に侵入させ、その侵入深さを10倍した数値をミリメートル単位で表したものである。「混和ちょう度」は、規定の条件のもとでグリースを60回混和した直後の測定値である。米国潤滑グリース協会(NLGI)では、混和ちょう度の数値範囲に基づいて混和ちょう度番号を用いてグリースを分類しており、日本工業規格(JIS)もこれに従っている。本実施形態では、このJIS K2220に規定の条件に従って測定される混和ちょう度や、JIS K2220に規定される混和ちょう度番号を用いて潤滑剤60を特定する。
【0040】
硬質潤滑剤60−Aは、混和ちょう度が小さいものが用いられ、軟質潤滑剤60−Bは硬質潤滑剤60−Aより混和ちょう度が大きいものが用いられる。つまり、硬質潤滑剤60−Aは、軟質潤滑剤60−Bより高粘度で流動性が小さく、硬い潤滑剤であり、軟質潤滑剤60−Bは、硬質潤滑剤60−Aより低粘度で流動性が大きく、軟らかい潤滑剤である。硬質潤滑剤60−Aには、小さい混和ちょう度範囲の混和ちょう度番号の潤滑剤が用いられる。軟質潤滑剤60−Bには、硬質潤滑剤60−Aが用いている混和ちょう度番号に対応する混和ちょう度範囲より大きい混和ちょう度範囲の混和ちょう度番号の潤滑剤が用いられる。詳しくは、本実施形態において、硬質潤滑剤60−Aは混和ちょう度番号2号の潤滑剤が用いられ、その混和ちょう度範囲は265〜295[1/10mm]となる。本実施形態において、軟質潤滑剤60−Bは混和ちょう度番号00号の潤滑剤が用いられ、その混和ちょう度範囲は400〜430[1/10mm]となる。
【0041】
本実施形態の車輪駆動装置10は、潤滑剤60−A、60−Bの封入量と、潤滑剤60−A、60−Bが封入される封入空間28の容積(以下、封入空間容積という)との関係に一つの特徴がある。この「潤滑剤60−A、60−Bの封入量」は、硬質潤滑剤60−Aと軟質潤滑剤60−Bの合計での封入量を意味する。この「封入空間容積」には、封入空間28を形成する前述の「潤滑剤60−A、60−B以外の物体」(入力軸18、減速機構20等)が占める部分は含まれない。
【0042】
潤滑剤60−A、60−Bの封入量は、封入空間容積の35%以下に設定される。より好ましくは、封入空間容積の30%以下に設定される。これは、本発明者の実験的な検討結果に基づき設定されている。この実験では、種々の減速機構を組み込んだ車輪駆動装置10を用いて、封入空間容積に対する潤滑剤60−A、60−Bの封入量を様々に変更した条件のもと、第1オイルシール26の配置箇所からの潤滑剤の漏れの有無を確認した。この実験では、回転速度2680[rpm]で30秒の入力軸18の正回転と、同じ回転速度で30秒の入力軸18の逆回転とを2日間に亘り繰り返す条件のもと、潤滑剤の漏れの有無を確認した。この種々の減速機構には、本実施形態の偏心揺動型減速機構の他に、平行軸歯車減速機構、直交軸歯車減速機構、遊星歯車減速機構等が含まれる。この結果、潤滑剤60の封入量が封入空間容積の40%の場合、潤滑剤の漏れが確認された。一方、潤滑剤60の封入量が封入空間容積の35%以下の場合、潤滑剤の漏れが見られなかった。この実験結果に基づき、前述の潤滑剤60の封入量を設定している。
【0043】
ここで、本発明者は、前述の実験的な検討において、単一種類の潤滑剤のみを封入空間28内に封入した場合、潤滑剤60−A、60−Bの封入量を封入空間容積の35%以下にすると、封入空間28内の複数の要潤滑箇所で所要の潤滑性を安定して得られないとの知見を得た。これは、単一種類の潤滑剤のみを用いて潤滑剤60の封入量を封入空間容積の35%以下にした場合、要潤滑箇所の全体に潤滑剤を行き渡らせ難くなるためと考えられる。なお、ここでの要潤滑箇所とは、封入空間28内で特に潤滑が必要な箇所として予め定められた箇所をいう。本実施形態では、偏心体軸受36と主軸受50を要潤滑箇所として定めている。
【0044】
そこで、本実施形態では、前述のように、流動性の小さい硬質潤滑剤60−Aと、流動性の大きい軟質潤滑剤60−Bとを併用している。これにより、軟質潤滑剤60−Bを流動させることにより一部の要潤滑箇所に軟質潤滑剤60−Bを行き渡らせつつ、軟質潤滑剤60−Bが行き渡り難い他の要潤滑箇所では、硬質潤滑剤60−Aを塗布することで、軟質潤滑剤60−Bの流動状態によらず潤滑性を確保できる。この結果、封入空間28内の複数の要潤滑箇所で所要の潤滑性を安定して得つつも、潤滑剤60−A、60−Bの封入量を封入空間容積の35%以下に設定する設計が許容されるようになった。また、この結果、同様の所要の潤滑性を安定して得つつ、潤滑剤60−A、60−Bの封入量を封入空間容積の30%以下に設定する設計も許容されるようになった。
【0045】
ここで、偏心体軸受36は、偏心体32の回転に伴い大荷重が作用するため、潤滑性の確保が必要となる。また、偏心体軸受36は、封入空間28内で他の箇所より周速度が大きいため、その遠心力等により潤滑剤が振り切られることで潤滑切れを起こし易い。そこで、本実施形態では、封入空間28内で特に潤滑が必要な要潤滑箇所の一つとして、偏心体軸受36を定めている。本実施形態での偏心体軸受36は、前述した、軟質潤滑剤60−Bを流動させた場合でも、軟質潤滑剤60−Bが行き渡り難い要潤滑箇所に該当する。
【0046】
この要潤滑箇所として定めた偏心体軸受36には硬質潤滑剤60−Aを塗布している。詳しくは、偏心体軸受36の第1転動体36aが転がり接触する箇所に硬質潤滑剤60−Aを塗布している。より詳しくは、複数の第1転動体36aの全てに関して、その第1転動体36aの外周面に硬質潤滑剤60−Aを塗布している。また、第1転動体36aが転動する第1内側転動面36eや第1外側転動面36fに関して、その周方向の全周に亘り連続して硬質潤滑剤60−Aを塗布している。これにより、潤滑切れの生じ易い偏心体軸受36において所要の潤滑性を安定して得られるようになる。なお、この他にも、複数の第1転動体36aそれぞれとリテーナ36bとに関して、複数の第1転動体36aそれぞれとリテーナ36bとの接触箇所にも硬質潤滑剤60−Aを塗布している
【0047】
また、主軸受50は、タイヤ14の走行時に大荷重が作用し易いため、潤滑性の確保が必要となる。そこで、本実施形態では、封入空間28内で特に潤滑が必要な要潤滑箇所の一つとして、主軸受50を定めており、主軸受50にも硬質潤滑剤60−Aを塗布している。詳しくは、主軸受50の第2転動体50aが転がり接触する箇所に硬質潤滑剤60−Aを塗布している。より詳しくは、複数の第2転動体50aの全てに関して、その第2転動体50aの外周面に硬質潤滑剤60−Aを塗布している。また、第2転動体50aが転動する第2内側転動面50dや第2外側転動面50eに関して、その周方向の全周に亘り連続して硬質潤滑剤60−Aを塗布している。このように主軸受50に硬質潤滑剤60−Aを塗布した場合、要潤滑箇所となる主軸受50での潤滑性の確保の他に、次の効果を得られる。
【0048】
回転体22が静止した状態にあるとき、軟質潤滑剤60−Bは、図3に示すように、封入空間28の隙間空間28bの下側部分に存在しており、隙間空間28bの他の部分には存在していない状態になる。この状態のもとで回転体22が回転すると、軟質潤滑剤60−Bは、遠心力等を受けて、この軟質潤滑剤60−Bが存在していない隙間空間28bの他の部分を満たすように流動しようとする。このとき、軟質潤滑剤60−Bの一部は、隙間空間28b内で第1オイルシール26側に向けて流動しようとする。この影響を受けて、第1オイルシール26には、封入空間28とは軸方向Xの反対側、つまり、外部空間側に向かう動圧が軟質潤滑剤60−Bから付与される。
【0049】
ここで、主軸受50に硬質潤滑剤60−Aが塗布されている場合、硬質潤滑剤60−Aの体積の分だけ、主軸受50の内部で軟質潤滑剤60−Bが流動可能な通路面積が減少することになる。これにより、硬質潤滑剤60−Aが塗布されていない場合と比べて、主軸受50の内部を第1オイルシール26側に向けて軟質潤滑剤60−Bが流動し難くなり、主軸受50より第1オイルシール26側の空間28cが軟質潤滑剤60−Bで満たされるのを遅らせることができる。この結果、回転体22が回転し始めた初期段階において、第1オイルシール26に軟質潤滑剤60−Bから付与される動圧を軽減でき、第1オイルシール26の配置箇所からの潤滑剤の漏れを抑制できる。
【0050】
この潤滑剤60−A、60−Bの封入量の下限値は、潤滑剤60−A、60−Bの漏れ対策との関係では特に限定するものではないが、封入空間容積の25%以上に設定されていてもよい。この条件を満たしていれば、封入空間28内で潤滑が必要とされる箇所全体に潤滑剤60−A、60−Bを行き渡らせ易くなり、その潤滑が必要とされる箇所全体で所要の潤滑性を確保し易くなる。ここでの潤滑が必要とされる箇所とは、本実施形態でいえば、偏心体軸受36、主軸受50の他に、減速機構20の歯車の噛合箇所、入力軸軸受52等である。
【0051】
本実施形態の車輪駆動装置10によれば、潤滑剤60−A、60−Bの封入量を封入空間容積の35%以下に設定しているため、第1オイルシール26の配置箇所からの潤滑剤の漏れ対策を効果的に図れる。
【0052】
次に、車輪駆動装置10の封入空間28の外部構造に関する説明に移る。
第1オイルシール26の配置箇所から潤滑剤60が外部に漏れ出した場合に潤滑剤60が辿る経路の一例を考える。図4は、第1オイルシール26の配置箇所から潤滑剤60が辿る経路を説明するための図である。この外部に漏れ出した潤滑剤60は、回転体22の内周部を軸方向外側に向けて伝いつつ、その回転体22の側面部22aにまで伝わる(矢印Pa1参照)。この回転体22の側面部22aにまで伝わった潤滑剤60は、回転体22が静止しているとき、その自重によって、その外周端部まで伝いつつ、そこから回転体22の走行面16aとの接触面22bに向けて伝おうとする(矢印Pa2参照)。この回転体22の接触面22bにまで潤滑剤60が伝わると悪影響が懸念されるため、その対策が求められる。
【0053】
図5は、図1の一部の拡大図である。そこで、本実施形態の車輪駆動装置10は、図1図5に示すように、回転体22に固定され、回転体22と一体的に回転可能な振り切り板62を備える。本実施形態の振り切り板62は、回転体22の軸方向X両側それぞれの側面部22aに個別に固定される。この振り切り板62は、第1オイルシール26の配置箇所から漏れ出した潤滑剤60を振り切るためのものである。
【0054】
振り切り板62は、全体として、径方向外側に延びるリング形をなす板体である。本実施形態の振り切り板62は、平板状のリング形をなすリング部62aと、リング部62aの外周端部から軸方向Xの反回転体側に屈曲された屈曲部62bとを有する。本明細書での反回転体側とは、言及している構成要素(ここではリング部62a)を基準として、軸方向Xの回転体22がある側とは反対側をいう。
【0055】
リング部62aは、回転体22の側面部22aに重ね合わせられ、リング部62aを貫通するボルトB1により回転体22の側面部22aに着脱可能に固定される。リング部62aの内周面は、本実施形態において、振り切り板62と軸方向Xに隣接する回転体22の一部分の内周面22cと揃えた位置に設けられる。屈曲部62bは、反回転体側に向かうにつれて拡径するようなテーパー状をなしている。本実施形態の屈曲部62bは、タイヤ14の回転中心線La周りに全周に亘り連続する截頭錐状をなしている。
【0056】
振り切り板62の外周端部62cは、本実施形態において、タイヤ14とホイール44との境界面64より径方向内側にオフセットした位置に設けられる。振り切り板62の外周端部62cは、回転体22の接触面22bより径方向内側にオフセットした位置に設けられるとも捉えられる。本実施形態での振り切り板62の外周端部62cとは屈曲部62bの外周端部である。
【0057】
第1オイルシール26の配置箇所から外部に漏れ出した潤滑剤60は、回転体22の外面を伝う途中で振り切り板62の外面に伝わる。振り切り板62の外面に伝わった潤滑剤60は、回転体22が回転したとき、回転体22と一体的に振り切り板62が回転することで、振り切り板62の外周端部62cから径方向外側に向かう方向Pbに振り切られる。これにより、回転体22の接触面22bに伝わる前に、その潤滑剤60を回転体22から分離させられる。よって、本実施形態によれば、潤滑剤60が漏れ出した場合でも、回転体22の接触面22bに潤滑剤60が伝わることによる悪影響の発生を防止でき、潤滑剤60の漏れ対策を効果的に図れる。
【0058】
また、振り切り板62は、リング部62aから反回転体側に屈曲された屈曲部62bを有している。かりに、振り切り板62が屈曲部62bを有していない場合を考える。回転体22から潤滑剤60を分離させるためには、振り切り板62の外周端部62cを回転体22の側面部22aから離れた位置に配置する必要がある。振り切り板62が屈曲部62bを有していない場合、この条件を満たすうえでは、本図の例でいえば、少なくとも、タイヤ14とホイール44の境界面64より径方向外側にオフセットした位置に振り切り板62の外周端部62c(リング部62aの外周端部)を配置する必要がある。このため、振り切り板62の外径寸法が余計に増大する。
【0059】
この点、振り切り板62が屈曲部62bを有している場合、回転体22の側面部22aの形状によらず、回転体22の側面部22aから離れた位置に振り切り板62の外周端部62cを配置できる。よって、回転体22から潤滑剤60を分離させるうえで、振り切り板62の外径寸法を縮小でき、振り切り板62の小型化を図れる。また、振り切り板62の外径寸法の縮小により、潤滑剤60の振り切り箇所となる振り切り板62の外周端部62cでの周速度を低減できる。これにより、振り切り板62から振り切られた潤滑剤60の速度を抑えられ、その潤滑剤60を受けた箇所の周りへの潤滑剤60の飛び散りを抑制できる。
【0060】
次に、車輪駆動装置10の他の特徴を説明する。
図1に示すように、車輪駆動装置10は、回転体22を覆う車輪カバー48を備える。図6は、図1の車輪駆動装置10の一部を反車体側から見た部分断面図である。図1図6に示すように、車輪カバー48は、回転体22を外周側から覆う外周カバー部48aと、回転体22を軸方向Xから覆うサイドカバー部48b、48cと、回転体22が下向きに突き出る開口部48dを有する。
【0061】
外周カバー部48aの軸方向Xに直交する断面形状は下向きに開放する円弧状をなしている。外周カバー部48aの周方向両端部48eには、一方の周方向端部48eから他方の周方向端部48eに向かって張り出す内鍔部48fが設けられる。
【0062】
サイドカバー部48b、48cには、回転体22より軸方向Xの車体12側に配置される内側サイドカバー部48bと、回転体22より軸方向Xの反車体側に配置される外側サイドカバー部48cとが含まれる。内側サイドカバー部48bには内側キャリア24−AがキャリアボルトB2により固定され、外側サイドカバー部48cには外側キャリア24−Bの一部が嵌め合いにより固定される。このように、車輪カバー48は、キャリア24(固定部材)と一体化される部材として機能する。
【0063】
内側サイドカバー部48bの径方向内側には軸方向Xに延びる筒状部48gが設けられる。筒状部48gの内側には入力軸18が挿通される。筒状部48gの車体側端部は車体12に突き当てられ、ボルトにより接続される。これにより、車輪カバー48は車体12に組み付けられる。
【0064】
図5図6に示すように、開口部48dは、車輪カバー48の下端部に形成され、下向きに開放している。開口部48dは、外周カバー部48aの周方向両端部48eのそれぞれと、各サイドカバー部48bそれぞれの下縁部48hとが形成している。サイドカバー部48bの開口部48dを形成する下縁部48hと回転体22との間には第1隙間66が形成される。外周カバー部48aの開口部48dを形成する周方向端部48eと回転体22との間には第2隙間68が形成される。第1隙間66は回転体22の軸方向の両側に形成され、第2隙間68は回転体22の走行方向の両側に形成される。
【0065】
第1オイルシール26の配置箇所から外部に漏れ出した潤滑剤60が辿る経路を考える。この外部に漏れ出した潤滑剤60が辿る経路には、車輪カバー48と回転体22との間にある第1隙間66を通る第1経路と、車輪カバー48と回転体22との間にある第2隙間68を通る第2経路とがある。第1経路では、回転体22の側面部22aを伝わる潤滑剤60の他に、車輪カバー48のサイドカバー部48bの内面を伝わり落ちる潤滑剤60が通ろうとする。第2経路では、車輪カバー48の外周カバー部48aの内周面を伝わり落ちる潤滑剤60が通ろうとする。この車輪カバー48のサイドカバー部48bの内面や外周カバー部48aの内周面に付着する潤滑剤60は、振り切り板62により振り切られたものであり、第1オイルシール26の配置箇所から漏れ出した潤滑剤60の一部となる。つまり、第1経路、第2経路の何れを通る潤滑剤60も、第1オイルシール26の配置箇所から漏れ出したものとなる。
【0066】
車輪駆動装置10は、この第1オイルシール26の配置箇所から漏れ出した潤滑剤60を受けるためのオイルパン70、72を備える。オイルパン70、72には、前述した第1隙間66を通る潤滑剤60を受ける第1オイルパン70と、前述した第2隙間68を通る潤滑剤60を受ける第2オイルパン72とが含まれる。また、車輪駆動装置10は、この第1オイルパン70を支持するパン支持部材74を備える。
【0067】
図5に示すように、本実施形態の第1オイルパン70は、回転体22の軸方向の片側にて前述した第1隙間66より下方に配置される。本実施形態の第1オイルパン70は、タイヤ14とホイール44の境界面64より径方向内側にオフセットした位置に配置される。本実施形態の第1オイルパン70は、回転体22の軸方向の両側の第1隙間66のそれぞれに対応して個別に設けられる(図1参照)。
【0068】
図7は、図1の車輪駆動装置10の一部を反車体側から見た外観図である。第1オイルパン70は、タイヤ14の走行方向Yに長い長尺部材である。言い換えると、第1オイルパン70は、タイヤ14の走行方向Yに延びている。図5図7図8に示すように、第1オイルパン70は、潤滑剤60を受ける第1パン部70aを有する。第1パン部70aは、上向きに開放する箱状をなし、その内側で受けた潤滑剤を貯溜可能である。第1パン部70aは、振り切り板62の外周端部62cの鉛直下方に配置されている。これにより、振り切り板62の外周端部62cから径方向外側に向かう方向Pbに振り切られた潤滑剤60を第1パン部70aにより受けられる。また、第1パン部70aの長手方向の両端部70bは、車輪カバー48の外周カバー部48aの外周面の下方に配置される。
【0069】
図8は、第1オイルパン70と第2オイルパン72を示す平面図である。図6図8に示すように、本実施形態の第2オイルパン72は、回転体22より走行方向Yの片側にて第2隙間68より下方に配置される。本実施形態の第2オイルパン72は、回転体22の走行方向Yの両側の第2隙間68のそれぞれに対応して個別に設けられる。
【0070】
第2オイルパン72は、タイヤ14の軸方向Xに延びている。第2オイルパン72は、潤滑剤60を受ける第2パン部72aと、車輪カバー48に固定される第2固定部72bとを有する。第2パン部72aは、軸方向Xに沿って長い長尺状であり、上向きに開放する溝状をなす。本実施形態の第2パン部72aの長手方向の両端部72cは、その長手方向の両外側に向かって開放した形状である。
【0071】
図9は、図8のA−A線断面図である。本実施形態の第2パン部72aは、第1オイルパン70の第1パン部70aより上方に配置される。これにより、第2パン部72a内の潤滑剤60が長手方向の端部72cから第1パン部70a内に方向Pcに伝わり落ちる。このように、第2オイルパン72は、第2オイルパン72内の潤滑剤を第1オイルパン70内に誘導可能に設けられる。
【0072】
図6に示すように、第2固定部72bは、車輪カバー48の内鍔部48fに下側から重ね合わせられる板状をなし、ボルトB3により着脱可能に固定される。第2オイルパン72は、車輪カバー48の外周カバー部48aの周方向端部48eに固定されることになる。
【0073】
図10(a)〜(c)のそれぞれは、パン支持部材74を反回転体側から見た図、回転体側から見た図、走行方向Yの片側から見た図である。パン支持部材74は、タイヤ14の走行方向Yに沿って長い長尺部材である。図5図10に示すように、パン支持部材74は、第1オイルパン70が内側に収納されるパン収納部74aを有する。パン収納部74aは、パン支持部材74の長手方向に沿って延びるとともに上向きに開放する溝状をなす。パン収納部74aは、前述した第1隙間66より下方に配置される。また、パン収納部74aは、タイヤ14とホイール44の境界面64より径方向内側にオフセットした位置に配置される。
【0074】
パン収納部74aは、第1オイルパン70を支持する底壁部74bと、底壁部74bの回転体側から立ち上がる内側壁部74cと、底壁部74bの反回転体側から立ち上がる外側壁部74dとを有する。外側壁部74dは、内側壁部74cより上向きに延びており、車輪カバー48のサイドカバー部48bより反回転体側に配置される。外側壁部74dは、車輪カバー48のサイドカバー部48bと軸方向Xに重ね合わせられ、ボルトB4により着脱可能に車輪カバー48に固定される。パン支持部材74は、車輪カバー48とともにキャリア24と一体化されることになる。第1オイルパン70は、このキャリア24と一体化されるパン支持部材74に支持される。
【0075】
本実施形態の第1オイルパン70やパン支持部材74は、鋼材等の軟磁性体を素材として構成される。図5図7に示すように、第1オイルパン70の第1パン部70aの下面には磁石76が接着等により取り付けられる。本実施形態の磁石76は、第1パン部70aの長手方向に沿って長い板状の長尺体である。本実施形態の磁石76は、第1パン部70aの長手方向の一端部から他端部にかけての範囲で第1パン部70aに取り付けられる。磁石76は、パン支持部材74を磁力により吸着している。これにより、第1オイルパン70は、パン支持部材74に対して磁石76の磁力により保持される。
【0076】
パン収納部74aは、底壁部74bの長手方向両側の端部から立ち上がる傾斜部74eを有する。傾斜部74eは、底壁部74bより長手方向に直交する幅方向での寸法が小さい板状をなす。
【0077】
図11は、第1オイルパン70とパン支持部材74の一部を示す図である。パン支持部材74の傾斜部74eは、パン支持部材74の長手方向の外側に向かって上方に傾斜している。ここでの長手方向の外側とは、パン収納部74a内の空間よりパン支持部材74の長手方向の外側を意味する。
【0078】
第1オイルパン70の一端部をパン支持部材74の長手方向の一方側に向かう引き抜き方向Pdに引く場合を考える。図11(a)に示すように、第1オイルパン70の一端部がパン支持部材74の傾斜部74eに当接するまで引いた後、同じ方向に第1オイルパン70を強く引くと、第1オイルパン70が傾斜部74eにより上向きに移動するように案内される。このとき、第1オイルパン70がパン支持部材74の底壁部74bから離れるため、磁石76による保持力が弱まり、第1オイルパン70を引き抜き易くなる。このまま第1オイルパン70を引き続き引き抜き方向Pdに引くことで、パン支持部材74から第1オイルパン70を引き抜ける。第1オイルパン70を引き抜くとき、第1オイルパン70は、パン支持部材74のパン収納部74aに対するスライドを伴いつつ、パン支持部材74から引き抜かれる。
【0079】
このように、第1オイルパン70は、パン支持部材74の長手方向の一方側に向かう引き抜き方向Pdに引き抜き可能である。本実施形態の第1オイルパン70は、パン支持部材74に対してボルトやピン等により固定されておらず、引き抜く作業のみでパン支持部材74から引き抜き可能である。ここでの「引き抜き可能」には、第1オイルパン70がパン支持部材74にボルト、ピン等により固定されており、これらボルト、ピン等を取り外したうえで引き抜く場合も含まれる。もちろん、第1オイルパン70は、本実施形態のように、引き抜く作業のみでパン支持部材74から引き抜き可能である態様が好ましい。
【0080】
なお、パン支持部材74内から引き抜いた第1オイルパン70は、引き抜き方向Pdと逆向きに動かすことでパン支持部材74内に押し込むことができる。このように、第1オイルパン70は、パン支持部材74のパン収納部74aに対してパン支持部材74の長手方向に抜き差し可能であるともいえる。
【0081】
図8図11に示すように、第1オイルパン70は、第1パン部70aの内壁面とは別の箇所に設けられ、第1オイルパン70をパン支持部材74から引き抜くときに物体を引っ掛け可能な掛け部70cを有する。ここでの物体とは、作業者の指や工具等である。この掛け部70cは、第1オイルパン70の引き抜き方向Pd側の端部に設けられる。詳しくは、第1パン部70aは、潤滑剤貯溜室を形成するとともに底壁部から立ち上がる立壁部70dを引き抜き方向Pd側の端部に有する。掛け部70cは、第1パン部70aの立壁部70dの上端部から引き抜き方向Pdに延びる板状をなす。掛け部70cには物体を挿通させるための掛け穴70eが形成され、その掛け穴70eに物体を挿通させることで物体を引っ掛けられる。
【0082】
以上の車輪駆動装置10の効果を説明する。
車輪駆動装置10は、第1オイルシール26から漏れ出した潤滑剤60を受けるオイルパン70、72を備える。よって、第1オイルシール26から漏れ出した潤滑剤の床面への落下をオイルパン70、72により防止でき、潤滑剤60の漏れ対策を効果的に図れる。
【0083】
第1オイルパン70の着け外しをするうえで、車輪駆動装置10の軸方向Xの両側では作業スペースを確保し難いことが多い。たとえば、車輪駆動装置10より車体側には車体12があり、反車体側には構造物が存在することが多いためである。ここでの構造物とは、本例でいえば、搬送台車との間で荷物が受け渡しされる格納棚である。一方、車輪駆動装置10に対して走行方向Yの何れかの側の空間であれば、第1オイルパン70の着け外しに用いる作業スペースを確保し易い。本実施形態では、タイヤ14の走行方向Yとなるパン支持部材74の長手方向に第1オイルパン70を引き抜き可能である。よって、車輪駆動装置10の周囲の構造物との干渉を避けつつ、第1オイルパン70を引き抜く作業をし易くなる。また、車輪駆動装置10の分解作業を伴うことなく第1オイルパン70を着け外しできる利点もある。
【0084】
第1オイルパン70は、パン支持部材74に磁石76の磁力により保持される。よって、パン支持部材74から第1オイルパン70を容易に着け外ししつつ、車輪駆動装置10の走行時の振動に伴うパン支持部材74からの第1オイルパン70の離脱を防止できる。
【0085】
パン支持部材74の傾斜部74eは、パン支持部材74の長手方向の外側に向かって上方に傾斜している。よって、第1オイルパン70を強く引くことで、パン支持部材74の傾斜部74eにより案内させつつ、第1オイルパンをパン支持部材74から引き抜き可能となる。
【0086】
第1オイルパン70は、パン支持部材74から第1オイルパン70を引き抜くときに物体が引っ掛けられる掛け部70cを有する。よって、第1オイルパン70の掛け部70cに指等の物体を引っ掛けることで、第1オイルパン70に引き抜き力を付与し易くなり、第1オイルパン70を引き抜くときの作業性が良好になる。
【0087】
オイルパン70、72には、第1オイルパン70と第2オイルパン72とが含まれている。よって、第1隙間66と第2隙間68の何れを通る潤滑剤もオイルパン70、72で受けることができ、オイルパン70、72を用いて広範囲で潤滑剤60の漏れ対策を図れる。
【0088】
また、第2オイルパン72は、第1オイルパン70内に潤滑剤60を誘導可能に設けられる。よって、第2オイルパン72で受けた潤滑剤60も第1オイルパン70内に集められる。このため、潤滑剤60の回収作業時、第1オイルパン70の潤滑剤のみを回収すればよくなり、その回収作業に要する作業工数を削減できる。
【0089】
第1オイルパン70は、振り切り板62の外周端部62cの鉛直下方に配置される。よって、振り切り板62で振り切られた潤滑剤を第1オイルパン70で受けて第1オイルパン70内に集められる。
【0090】
第1オイルパン70の一部(両端部)は、車輪カバー48の外周カバー部48aの外周面の下方に配置される。よって、第1オイルパン70が車輪カバー48の内部や開口部48dの下方にのみ配置される場合と比べ、第1オイルパン70内の潤滑剤の貯溜状態を外部から目視し易くなる。この結果、車輪駆動装置10から第1オイルパン70を取り外すことなく、第1オイルパン70内の潤滑剤の回収の要否を容易に判断できる。
【0091】
なお、図10に示すように、パン支持部材74の内側壁部74cの上部には、下向きに凹むパン用凹部74fが形成される。第1パン部70aのパン用凹部74fの内側には、第2オイルパン72の第2パン部72aが配置され、第2オイルパン72との干渉が避けられている。また、第1パン部70aの内側壁部74cの上部には、下向きに凹む振り切り板用凹部74gが形成される。第1パン部70aの振り切り板用凹部74gの内側には、振り切り板62の屈曲部62bの一部が配置され、振り切り板62の屈曲部62bとの干渉が避けられている。
【0092】
(第2の実施の形態)
図12は、第2実施形態の車輪駆動装置10の一部の正面断面図である。第2実施形態の車輪駆動装置10は、第1実施形態のオイルパン70、72を備えていない。また、第2実施形態の車輪駆動装置10は、第1実施形態と比べて、主に、振り切り板62の点と、後述する潤滑剤吸収材78を備える点とで異なる。
【0093】
第2実施形態の振り切り板62は、第1実施形態の屈曲部62bを有しておらず、リング部62aの外周端部が振り切り板62の外周端部62cとなる。振り切り板62の外周端部62cは、タイヤ14とホイール44との境界面64より径方向外側にオフセットした位置に設けられる。本実施形態の振り切り板62の外周端部62cは、タイヤ14の走行面16aと接触する接触面22bより径方向内側にオフセットした位置に設けられる。これにより、回転体22のタイヤ14の側面部22aから離れた位置で、振り切り板62の外周端部62cから潤滑剤60が方向Pbに振り切られる。つまり、本実施形態でも、回転体22の接触面22bに伝わる前に、その潤滑剤60を回転体22から分離させられる。よって、本実施形態によっても、潤滑剤60が漏れ出した場合でも、回転体22の接触面22bに潤滑剤60が伝わることによる悪影響の発生を防止でき、潤滑剤60の漏れ対策を効果的に図れる。
【0094】
図13は、車輪カバー48の周方向端部48eを示す側面断面図である。図12図13を参照する。潤滑剤吸収材78は、第1オイルシール26の配置箇所から漏れ出した潤滑剤60を吸収するためのものである。潤滑剤吸収材78には、回転体22に取り付けられる第1潤滑剤吸収材78−Aと、車輪カバー48に取り付けられる第2潤滑剤吸収材78−Bとが含まれる。潤滑剤吸収材78は、液体を吸収する性質を持つ素材により構成される。この素材とは、たとえば、織布、不織布等である。
【0095】
第1潤滑剤吸収材78は、第1オイルシール26の配置箇所から漏れ出した潤滑材が回転体22の外面を伝う経路に設けられる。この経路として、第1オイルシール26と回転体22との継ぎ目80があり、本実施形態の第1潤滑剤吸収材78は、この継ぎ目80を塞ぐように設けられる。第1潤滑剤吸収材78は、図示はしないが、回転体22の軸方向X両側に個別に設けられる。
【0096】
第1潤滑剤吸収材78は、振り切り板62により回転体22に対する位置が保持される。詳しくは、振り切り板62は、リング部62aの他に、リング部62aの内周端部から回転体側に屈曲された押さえ部62dを有する。押さえ部62dは、回転体22の内周部との間に第1潤滑剤吸収材78を挟み込んでおり、回転体22に対する第1潤滑剤吸収材78の位置を保持している。このように、振り切り板62は、回転体22に着脱可能に固定され、第1潤滑剤吸収材78の位置を保持する保持部材として機能する。この保持部材の機能を振り切り板62が兼ねているため、回転体22から振り切り板62を着け外しするときに、第1潤滑剤吸収材78−Aも回転体22から着け外しできる。なお、この保持部材は振り切り板62とは別体に設けられてもよい。
【0097】
第2潤滑剤吸収材78−Bは、車輪カバー48の外周カバー部48aの内周面に付着した潤滑剤60が伝う経路上に設けられる。この経路として、車輪カバー48の内鍔部48fの上面があり、本実施形態の第2潤滑剤吸収材78−Bは、この内鍔部48fの上面の上に設けられる。第2潤滑剤吸収材78−Bは、車輪カバー48の内鍔部48f上に配置され、ボルトB5の頭部との間で挟み込まれることで、車輪カバー48に対する位置が保持される。この車輪カバー48の内周面に付着する潤滑剤60は、振り切り板62により振り切られたものであり、第1オイルシール26の配置箇所から漏れ出した潤滑剤60の一部となる。つまり、第1潤滑剤吸収材78、第2潤滑剤吸収材78−Bのいずれも、第1オイルシール26の配置箇所から漏れ出した潤滑剤60を吸収するものとなる。
【0098】
以上の車輪駆動装置10によれば、第1オイルシール26の配置箇所から潤滑剤60が漏れ出した場合でも、その潤滑剤60を潤滑剤吸収材78により吸収することで、潤滑剤60の周囲への拡散を防止できる。
【0099】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0100】
車輪駆動装置10は搬送台車に組み込まれる例を説明したが、その組み込み相手は特に限定されない。また、この搬送台車は有軌道台車を例に説明したが、無軌道台車でもよい。
【0101】
減速機構20は、偏心揺動型減速機構を例に説明したが、その種類は特に限定されない。たとえば、遊星歯車機構、平行軸歯車機構、直交軸歯車減速機構、撓み噛み合い型減速機構等の何れかを含んでもよい。
【0102】
偏心体32は、入力軸18と別体である例を説明したが、入力軸18と同じ単一の部材の一部として設けられてもよい。偏心体軸受36の第1内輪36cは、偏心体32とは別の部材により構成される例を説明したが、偏心体32と同じ部材の一部により構成されていてもよい。偏心体軸受36の第1外輪36dは、外歯歯車34と同じ部材の一部により構成される例を説明したが、外歯歯車34とは別の部材により構成されてもよい。
【0103】
硬質潤滑剤60−Aにはちょう度番号2号の潤滑剤が用いられ、軟質潤滑剤60−Bにはちょう度番号00号の潤滑剤が用いられる例を説明したが、これに限られない。たとえば、硬質潤滑剤60−Aと軟質潤滑剤60−Bは同じちょう度番号の潤滑剤を用いることとし、軟質潤滑剤60−Bは硬質潤滑剤60−Aより大きい混和ちょう度の潤滑剤を用いてもよい。また、この他にも、硬質潤滑剤60−Aと軟質潤滑剤60−Bが用いる潤滑剤のちょう度番号は特に限定されない。この場合でも、軟質潤滑剤60−Bには、硬質潤滑剤60−Aが用いているちょう度番号に対応する混和ちょう度範囲よりも大きい混和ちょう度範囲のちょう度番号の潤滑剤が用いられていてもよい。
【0104】
また、潤滑剤60には、混和ちょう度の異なる2種類の潤滑剤が含まれる例を説明したが、3種類以上の潤滑剤が含まれていてもよい。つまり、潤滑剤60は、混和ちょう度の異なる少なくとも2種類の潤滑剤が含まれていればよい。また、潤滑剤60はグリースの例を説明したが、その種類はこれに限定されず、たとえば、軟質潤滑剤60−Bを潤滑油にしてもよい。
【0105】
潤滑剤60の封入量を封入空間容積の35%以下に設定する場合、偏心体軸受36と主軸受50の両方に硬質潤滑剤60−Aを塗布する例を説明したが、いずれか一方のみに塗布してもよいし、他の要潤滑箇所等に塗布してもよい。
【0106】
また、振り切り板62やオイルパン70、72の何れか一方又は両方と組み合わせる場合、潤滑剤60の封入量は封入空間容積の35%超に設定してもよい。また、オイルパン70、72は、振り切り板62と組み合わせる場合を例に説明したが、振り切り板62と組み合わせずに用いてもよい。
【0107】
振り切り板62は、回転体22の側面部22aに固定される例を説明したが、第1オイルシール26の配置箇所から漏れ出した潤滑剤60が回転体22の外面を伝う経路上に固定されていれば、その位置は特に限定されない。たとえば、振り切り板62は、回転体22の側面部22aの他にも回転体22の外周部に固定されていてもよい。
【0108】
第1オイルパン70は、引き抜く作業のみでパン支持部材74から引き抜き可能である例を説明した。このパン支持部材74の引き抜き方向Pdは、パン支持部材74の長手方向である例を説明したが、これに限定されず、たとえば、パン支持部材74の長手方向と交差する鉛直方向等でもよい。また、第1オイルパン70は、パン支持部材74や、キャリア24等の固定部材にボルト等を用いて固定されていてもよい。
【0109】
パン支持部材74は傾斜部74eを有する構成を例に説明したが、傾斜部74eを有さない構成としてもよい。なお、第1オイルパン70がパン支持部材74に固定されていない場合、パン支持部材74の傾斜部74eは、第1オイルパン70を案内する機能の他に、第1オイルパン70との当接により第1オイルパン70の長手方向での相対変位を規制する機能を発揮する。
【0110】
磁石76は、第1オイルパン70の下面に取り付けられる例を説明したが、その取り付け位置は特に限定されない。たとえば、第1オイルパン70の他の箇所に取り付けてもよいし、パン支持部材74に取り付けてもよい。
【0111】
第1オイルパン70の掛け部70cは物体を引っ掛け可能な形状であれば、その具体的な形状は特に限定されない。たとえば、第1パン部70aから突出する取っ手となる凸部や、第1パン部70aの外壁面に設けられた物体を引っ掛け可能な窪み等でもよい。
【0112】
パン支持部材74は車輪カバー48に固定される例を説明したが、キャリア24に固定されていてもよい。また、パン支持部材74は、キャリア24と一体化される部材が他にあれば、その一体化される部材に固定されてもよい。
【0113】
第2オイルパン72は、第2オイルパン72内の潤滑剤を第1オイルパン70内に誘導可能に設けるため、第2パン部72aの長手方向の端部72cを長手方向の外側に向かって開放した形状にする例を説明したが、その具体的構造は特に限定されない。たとえば、第2パン部72aの端部72cの底壁部に貫通穴を設け、その貫通穴から第1オイルパン70内に誘導可能にしてもよい。
【0114】
また、第2オイルパン72は、その第2オイルパン72で受けた潤滑剤を第1オイルパン70に誘導可能に設けられる例を説明した。この他にも、第1オイルパン70が、その第1オイルパン70で受けた潤滑剤を第2オイルパン72で誘導可能に設けられてもよい。この場合、第2オイルパン72内に集めた潤滑剤60を回収し易くするため、第2オイルパン72をパン支持部材74により支持させ、第2オイルパン72をパン支持部材74に対して引き抜き可能にしてもよい。
【0115】
第1オイルパン70や第2オイルパン72は、潤滑剤60を受けることができるものであれば、その形状は特に限定されるものではない。また、第1オイルパン70と第2オイルパン72の両方を併用する場合を例に説明したが、いずれか一方のみが用いられていてもよい。
【符号の説明】
【0116】
10…車輪駆動装置、14…タイヤ、20…減速機構、22…回転体、28…封入空間、32−A、32−B…偏心体、34…外歯歯車、36…偏心体軸受、44…ホイール、46…ケーシング、48…車輪カバー、48a…外周カバー部、48b…サイドカバー部、48d…開口部、50…主軸受、60−A…硬質潤滑剤、60−B…軟質潤滑剤、62…振り切り板、62a…リング部、62b…屈曲部、64…境界面、66…第1隙間、68…第2隙間、70…第1オイルパン、70c…掛け部、72…第2オイルパン、74…パン支持部材、74e…傾斜部、76…磁石、78…潤滑剤吸収材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13