(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
最も径方向外側のリップは、その基端部分における前記段差部との隙間よりも先端部分における前記段差部との隙間のほうが大きくなるように径方向外側に広がっている、ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アウター側シール部材の密封性が低下するのを抑制できる車輪用軸受装置を提供する。また、舗装路が整備されていない走行環境に適応でき、かつ回転抵抗の少ない車輪用軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の発明は、
内周に外側転走面が形成された外方部材と、
外周に内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材の両転走面間に転動自在に介装される複数の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材によって形成された環状空間のアウター側開口端を塞ぐアウター側シール部材と、を備える車輪用軸受装置において、
前記内方部材を構成するハブ輪に車輪取付フランジが形成されるとともに当該車輪取付フランジの基端部分にインナー側へ突出する段差部が形成されており、
前記アウター側シール部材を構成する弾性部材に複数のリップが形成されるとともに当該複数のリップのうち最も径方向外側のリップが前記段差部の外周面に沿うように延びているラビリンスリップであり、前記ラビリンスリップを除く少なくとも一つのリップが前記段差部のインナー側面に接触しているメインリップである、としたものである。
【0009】
第二の発明は、第一の発明に係る車輪用軸受装置において、
径方向外側から二番目のリップは、その先端縁が前記段差部のインナー側面に近接しているラビリンスリップである、としたものである。
【0010】
第三の発明は、第一又は第二の発明に係る車輪用軸受装置において、
最も径方向外側のリップは、その基端部分における前記段差部との隙間よりも先端部分における前記段差部との隙間のほうが大きくなるように径方向外側に広がっている、としたものである。
【0011】
第四の発明は、第一から第三のいずれかの発明に係る車輪用軸受装置において、
最も径方向外側のリップは、その先端部分が径方向外側へ湾曲している、としたものである。
【0012】
第五の発明は、第一から第四のいずれかの発明に係る車輪用軸受装置において、
前記メインリップは、前記段差部のインナー側面に設けられた別部材に接触している、としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
第一の発明に係る車輪用軸受装置は、内方部材を構成するハブ輪に車輪取付フランジが形成されるとともに当該車輪取付フランジの基端部分にインナー側へ突出する段差部が形成されている。そして、アウター側シール部材を構成する弾性部材に複数のリップが形成されるとともに当該複数のリップのうち最も径方向外側のリップが段差部の外周面に沿うように延びているラビリンスリップであり、ラビリンスリップを除く少なくとも一つのリップが段差部のインナー側面に接触しているメインリップである。かかる車輪用軸受装置によれば、環状空間のアウター側開口端につながる隙間路の入口をラビリンスリップが覆い、かつ開口面積を狭めるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップに到達するのを減らすことができる。また、メインリップが段差部のインナー側面に接触するので、泥水や砂塵等の異物が侵入するのを防ぐことができる。従って、アウター側シール部材の密封性が低下するのを抑制できる。また、舗装路が整備されていない走行環境に適応でき、かつ回転抵抗を少なくできる。
【0015】
第二の発明に係る車輪用軸受装置において、径方向外側から二番目のリップは、その先端縁が段差部のインナー側面に近接しているラビリンスリップである。かかる車輪用軸受装置によれば、環状空間のアウター側開口端につながる隙間路の途中でラビリンスリップが通路面積を狭めるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップに到達するのを更に減らすことができる。
【0016】
第三の発明に係る車輪用軸受装置において、最も径方向外側のリップは、その基端部分における段差部との隙間よりも先端部分における段差部との隙間のほうが大きくなるように径方向外側に広がっている。かかる車輪用軸受装置によれば、車輪取付フランジに大きな外力が掛かって傾きが生じても、最も径方向外側のリップと段差部の外周面が干渉するのを防ぐことができる。
【0017】
第四の発明に係る車輪用軸受装置において、最も径方向外側のリップは、その先端部分が径方向外側へ湾曲している。かかる車輪用軸受装置によれば、外方部材を伝って流れてきた泥水がリップを乗り越えにくくなるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップに到達するのを更に減らすことができる。
【0018】
第五の発明に係る車輪用軸受装置において、メインリップは、段差部のインナー側面に設けられた別部材に接触している。かかる車輪用軸受装置によれば、ハブ輪にメインリップが接触しないので、ハブ輪側の錆に起因した摩耗による密封性の低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、
図1から
図4を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置1について説明する。
図1は、車輪用軸受装置1を示す斜視図である。
図2は、車輪用軸受装置1の構造を示す断面図である。
図3および
図4は、車輪用軸受装置1の一部構造を示す断面図である。
【0021】
車輪用軸受装置1は、車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2と、内方部材3と、転動体4と、インナー側シール部材5と、アウター側シール部材6と、を備える。なお、本明細書において、「インナー側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、「径方向外側」とは、内方部材3の回転軸Aから遠ざかる方向を表し、「径方向内側」とは、内方部材3の回転軸Aに近づく方向を表す。更に、「軸方向」とは、内方部材3の回転軸Aに沿う方向を表す。
【0022】
外方部材2は、転がり軸受構造の外輪部分を構成するものである。外方部材2のインナー側端部における内周には、嵌合面2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部における内周には、嵌合面2bが形成されている。更に、外方部材2の軸方向中央部における内周には、二つの外側転走面2c・2dが形成されている。外側転走面2cは、後述する内側転走面3cに対向する。外側転走面2dは、後述する内側転走面3dに対向する。加えて、外方部材2の外周には、車体取付フランジ2eが一体的に形成されている。車体取付フランジ2eには、複数のボルト穴2fが設けられている。
【0023】
内方部材3は、転がり軸受構造の内輪部分を構成するものである。内方部材3は、ハブ輪31と内輪32で構成されている。
【0024】
ハブ輪31には、そのインナー側端部から軸方向中央部まで小径段部3aが形成されている。小径段部3aは、ハブ輪31の外径が小さくなった部分を指し、その外周面が回転軸Aを中心とする円筒形状となっている。また、ハブ輪31には、そのインナー側端部からアウター側端部まで貫かれた自在継手取付穴3bが形成されている。自在継手取付穴3bは、ハブ輪31の中心に設けられた貫通穴を指し、その内周面が凹部と凸部が交互に並ぶ凹凸形状(スプライン穴)となっている。但し、従動仕様については、自在継手取付穴3bが形成されていない。更に、ハブ輪31の外周には、内側転走面3cが形成されている。内側転走面3cは、前述した外側転走面2cに対向する。加えて、ハブ輪31の外周には、車輪取付フランジ3eが一体的に形成されている。車輪取付フランジ3eには、回転軸Aを中心とする同心円上に等間隔で複数のボルト穴3fが設けられ、それぞれのボルト穴3fにはハブボルト33が圧入されている。
【0025】
内輪32の外周には、嵌合面3gが形成されている。また、内輪32の外周には、内側転走面3dが形成されている。内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに嵌合されることにより、ハブ輪31の外周に内側転走面3dを構成する。内側転走面3dは、前述した内側転走面2dに対向する。
【0026】
転動体4は、転がり軸受構造の転動部分を構成するものである。転動体列4Rを構成している転動体4は、保持器によって円形にかつ等間隔にならべられている。これらの転動体4は、外方部材2の外側転走面2c・2dと内方部材3の内側転走面3c・3dの間に転動自在に介装されている。
【0027】
インナー側シール部材5は、外方部材2と内方部材3の間に形成された環状空間Sのインナー側開口端を密封するものである。
【0028】
インナー側シール部材5は、スリンガ51を含んでいる。スリンガ51は、内輪32の嵌合面3gに嵌合(外嵌)される。スリンガ51は、軸方向断面が略L字状に折り曲げられた形状となっている。これにより、スリンガ51は、円筒状の嵌合部51aと、その端部から外方部材2に向かって延びる円板状の側板部51bと、が形成されている。
【0029】
インナー側シール部材5は、シールリング52を含んでいる。シールリング52は、外方部材2の嵌合部2aに嵌合(内嵌)される。シールリング52は、芯金53と弾性部材54で構成されている。芯金53は、軸方向断面が略L字状に折り曲げられた形状となっている。これにより、芯金53は、円筒状の嵌合部53aと、その端部から内輪32に向かって延びる円板状の側板部53bと、が形成されている。なお、嵌合部53aと側板部53bには、弾性部材54が例えば加硫接着により一体的に形成されている。
【0030】
弾性部材54に形成されたリップ54a・54bは、いわゆるメインリップであって、その先端縁がスリンガ51の側板部51bに接触している。また、リップ54cは、いわゆるグリースリップであって、その先端縁がスリンガ51の嵌合部51aに接触又は近接している。このようにして、インナー側シール部材5は、泥水や砂塵等の異物が環状空間Sに侵入するのを防ぐとともに、グリースが環状空間Sから漏出するのを防いでいる。
【0031】
アウター側シール部材6は、外方部材2と内方部材3の間に形成された環状空間Sのアウター側開口端を密封するものである。
【0032】
アウター側シール部材6は、外方部材2の嵌合面2bに嵌合(内嵌)される。アウター側シール部材6は、芯金62と弾性部材63で構成されている。芯金62は、例えばSUS430やSUS304等のステンレス鋼板、あるいはSPCC等の冷間圧延鋼板で構成されている。芯金62は、軸方向断面が略L字状に折り曲げられた形状となっている。これにより、芯金62は、円筒状の嵌合部62aと、その端部からハブ輪31に向かって延びる円板状の側板部62bと、が形成されている。なお、側板部62bには、弾性部材63が例えば加硫接着により一体的に形成されている。
【0033】
弾性部材63は、例えばNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、HNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、ACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。弾性部材63に形成されたリップ63aは、いわゆるメインリップであって、その先端縁が車輪取付フランジ3eに形成された段差部3hのインナー側面3iに接触している。また、弾性部材63に形成されたリップ63bも、いわゆるメインリップであって、その先端縁がインナー側面3iの一部である円弧面に接触している。更に、弾性部材63に形成されたリップ63cは、いわゆるグリースリップであって、その先端縁がインナー側面3iにつながる軸周面3jに接触又は近接している。このようにして、アウター側シール部材6は、泥水や砂塵等の異物が環状空間Sに侵入するのを防ぐとともに、グリースが環状空間Sから漏出するのを防いでいる。なお、弾性部材63には、その他のリップ63d・63eが形成されている。これらリップ63d・63eについては後述する。
【0034】
ここで、ハブ輪31に形成されている段差部3hについて詳しく説明する。段差部3hは、車輪取付フランジ3eの基端部分におけるインナー側へ突出している部位を指す。より詳細に説明すると、段差部3hは、車輪取付フランジ3eのアウター側シール部材6に対向する部分におけるインナー側へ突出している部位を指す。段差部3hのインナー側面3iは、内方部材3の回転軸Aに対して垂直な平面となっており、その径方向内側の一部に一定曲率の円弧面が形成されることによってインナー側面3iと軸周面3jが滑らかにつながっている。なお、段差部3hの外周面3mは、一定曲率で傾斜しており、インナー側面3iの外縁からボルト座面3nまで滑らかにつながっている。但し、段差部3hの外周面3mについては、その形状を限定するものではない。例えば回転軸Aに対して平行となる外周面3mでもよく、回転軸Aに対して一定角度で傾く外周面3mでもよい。
【0035】
次に、
図5を用いて、車輪用軸受装置1を車体に取り付けるための構造について説明する。
図5は、車輪用軸受装置1の取付構造を示す断面図である。
【0036】
車輪用軸受装置1は、パイロット2gと車体取付フランジ2eを用いて車体に取り付けられる。具体的に説明すると、車輪用軸受装置1は、円筒形状であるパイロット2gをナックルNの丸円に嵌め合わせるとともに、車体取付フランジ2eの端面をナックルNの端面に当接させた状態で、ナックルボルト34を介して取り付けられる。このとき、ナックルボルト34は、車体取付フランジ2eのボルト穴2fにアウター側から挿通され、ナックルNのボルト穴Nhに螺合される。あるいは、ナックルNのボルト穴Nhにインナー側から挿通され、車体取付フランジ2eのボルト穴2fに螺合される。なお、車輪用軸受装置1は、インホイールモータを構成するケースに取り付けられる場合がある。この場合は、車体取付フランジ2eの端面をケースの端面に当接させた状態で、ケースボルトを介して取り付けられる。このとき、ケースボルトは、車体取付フランジ2eのボルト挿通穴2fにアウター側から挿通され、ケースのボルト締結穴に螺合される。
【0037】
次に、
図6を用いて、第一実施形態に係るアウター側シール部材6について詳しく説明する。
図6は、アウター側シール部材6の詳細を示す断面図である。なお、本明細書において、「隙間路P」とは、外方部材2と内方部材3の一部である車輪取付フランジ3eとの間に形成された隙間(通路)を表す。隙間路Pは、アウター側シール部材6を隔てて環状空間Sのアウター側開口端につながっている。
【0038】
上述したように、アウター側シール部材6は、芯金62を有している。芯金62には、嵌合部62aが形成されており、この嵌合部62aが外方部材2の内周に形成された嵌合面2bに嵌合(内嵌)される。また、芯金62には、側板部62bが形成されており、この側板部62bが内方部材3を構成するハブ輪31に向けて延びている。側板部62bは、その先端部分が転動体4に近接する方向に斜めに曲げられ、更に軸周面3jに対して垂直となるように折り曲げられた形状となっている。そして、弾性部材63は、このような形状である側板部62bの一面全体(段差部3hのインナー側面3iに対向する面全体)に接着されている。なお、弾性部材63には、径方向外側から順に五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cが形成されている。
【0039】
リップ63dは、五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち最も径方向外側に形成されているものである。リップ63dは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、車輪取付フランジ3eに形成された段差部3hの外周面3mに対して一定の小さな隙間Cをあけて沿っている。本車輪用軸受装置1においては、段差部3hの外周面3mが円弧形状であるから、リップ63dも円弧形状に形成されて一定の小さな隙間Cをあけて沿っている。従って、リップ63dは、隙間路Pの入口を覆い、かつ開口面積を狭める「ラビリンスリップ」である。なお、リップ63dは、隙間路Pから泥水や砂塵等の異物が侵入するのを減らすことで、内側のリップ63e・63a・63b・63cが破損したり摩耗したりするのを防ぐ機能を果たしている。
【0040】
リップ63eは、五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち径方向外側から二番目に形成されているものである。リップ63eは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iに近接している。従って、リップ63eは、隙間路Pの通路面積を狭める「ラビリンスリップ」である。なお、リップ63eは、隙間路Pから泥水や砂塵等の異物が侵入するのを減らすことで、内側のリップ63a・63b・63cが破損したり摩耗したりするのを防ぐ機能を果たしている。
【0041】
リップ63aは、五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち径方向外側から三番目に形成されているものである。リップ63aは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iに接触している。従って、リップ63aは、隙間路Pを塞ぐ「メインリップ」である。なお、リップ63aは、外部から環状空間Sへ向かう方向に対して締付力が高まるので、泥水や砂塵等の異物が環状空間Sに侵入するのを防ぐ機能を果たしている。
【0042】
リップ63bは、五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち径方向外側から四番目に形成されているものである。リップ63bは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iの一部である円弧面に接触している。従って、リップ63bは、隙間路Pを塞ぐ「メインリップ」である。なお、リップ63bは、外部から環状空間Sへ向かう方向に対して締付力が高まるので、泥水や砂塵等の異物が環状空間Sに侵入するのを防ぐ機能を果たしている。
【0043】
リップ63cは、五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち径方向外側から五番目に形成されているものである。リップ63cは、アウター側からインナー側へ向かうにつれて径方向内側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iにつながる軸周面3jに接触又は近接している。従って、リップ63cは、隙間路Pを塞ぐ「グリースリップ」である。なお、リップ63cは、環状空間Sから外部へ向かう方向に対して締付力が高まるので、グリースが環状空間Sから漏出するのを防ぐ機能を果たしている。
【0044】
以上のように、本車輪用軸受装置1は、内方部材3を構成するハブ輪31に車輪取付フランジ3eが形成されるとともに当該車輪取付フランジ3eの基端部分にインナー側へ突出する段差部3hが形成されている。そして、アウター側シール部材6を構成する弾性部材63に複数のリップ63d・63e・63a・63b・63cが形成されるとともに当該複数のリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち最も径方向外側のリップ63dが段差部3hの外周面3mに沿うように延びているラビリンスリップであり、ラビリンスリップを除く少なくとも一つのリップ(63a又は/および63b)が段差部3hのインナー側面3iに接触しているメインリップである。かかる車輪用軸受装置1によれば、環状空間Sのアウター側開口端につながる隙間路Pの入口をラビリンスリップ(63d)が覆い、かつ開口面積を狭めるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63e・63a・63b・63cに到達するのを減らすことができる。また、メインリップ(63a・63b)が段差部3hのインナー側面3iに接触するので、泥水や砂塵等の異物が侵入するのを防ぐことができる。従って、アウター側シール部材6の密封性が低下するのを抑制できる。また、舗装路が整備されていない走行環境に適応でき、かつ回転抵抗を少なくできる。
【0045】
また、本車輪用軸受装置1において、径方向外側から二番目のリップ63eは、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iに近接しているラビリンスリップである。かかる車輪用軸受装置1によれば、環状空間Sのアウター側開口端につながる隙間路Pの途中でラビリンスリップ(63e)が通路面積を狭めるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63a・63b・63cに到達するのを更に減らすことができる。
【0046】
次に、
図7を用いて、その他の実施形態に係るアウター側シール部材6について説明する。
図7の(A)から(C)は、その他のアウター側シール部材6を示す断面図である。
【0047】
図7の(A)に示すように、最も径方向外側のリップ63dは、やや反りが強く、より径方向外側に広がっていてもよい。この場合においても、リップ63dの形状は、あらゆる条件をパラメータとした解析によって定められる。
【0048】
このように、最も径方向外側のリップ63dは、その基端部分における段差部3hとの隙間Cbよりも先端部分における段差部3hとの隙間Ctのほうが大きくなるように径方向外側に広がっているとしてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、車輪取付フランジ3eに大きな外力が掛かって傾きが生じても(
図5における矢印D参照)、最も径方向外側のリップ63dと段差部3hの外周面3mが干渉するのを防ぐことができる。
【0049】
加えて、
図7の(B)に示すように、最も径方向外側のリップ63dは、より長く形成され、その先端部分がボルト座面3nに対して一定の小さな隙間をあけて沿っていてもよい。この場合、リップ63dは、その先端縁がハブボルト33の頭部周面に近接することとなる。
【0050】
このように、最も径方向外側のリップ63dは、その先端部分がボルト座面3nに沿うように延びているとしてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63e・63a・63b・63cに到達するのを更に減らすことができる。
【0051】
加えて、
図7の(C)に示すように、ハブ輪31の段差部3hのインナー側面3iと軸面3jに嵌合される別部材64を備え、この別部材64に少なくとも一つのメインリップ(63a又は/および63b)の先端縁が接触し、少なくとも一つのグリースリップ(63c)の先端縁が接触又は近接するとしてもよい。別部材64は、例えばSUS430やSUS304等のステンレス鋼板、あるいはSPCC等の冷間圧延鋼板で構成されている。別部材64は、軸方向断面が略L字状に折り曲げられた形状となっている。
【0052】
このように、ラビリンスリップ(63d・63e)を除く少なくとも一つのリップ(63a又は/および63b)は、その先端縁が別部材64のインナー側面に接触しているメインリップであり、ラビリンスリップ(63d・63e)とメインリップ(63a・63b)を除く少なくとも一つのリップ63cは、その先端縁が別部材64の軸周面に接触又は近接しているグリースリップであるとしてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、ハブ輪31にメインリップ(63a・63b)やグリースリップ(63c)が接触等しないので、ハブ輪31側の錆に起因した摩耗による密封性の低下を防ぐことができる。
【0053】
更に加えて、
図6の拡大図において二点鎖線で示すように、最も径方向外側のリップ63dは、やや長く形成されており、その先端部分における反りが強く、径方向外側に湾曲していてもよい。この場合においても、
図7の(B)に示したように、リップ63dは、その先端縁がハブボルト33の頭部周面に近接することとなる。
【0054】
このように、最も径方向外側のリップ63dは、その先端部分が径方向外側へ湾曲していてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、外方部材2を伝って流れてきた泥水がリップ63dを乗り越えにくくなるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63e・63a・63b・63cに到達するのを更に減らすことができる。
【0055】
次に、
図8を用いて、第二実施形態に係るアウター側シール部材6について詳しく説明する。
図8は、アウター側シール部材6の詳細を示す断面図である。なお、以下においても、「隙間路P」とは、外方部材2と内方部材3の一部である車輪取付フランジ3eとの間に形成された隙間(通路)を表す。隙間路Pは、アウター側シール部材6を隔てて環状空間Sのアウター側開口端につながっている。
【0056】
本実施形態に係るアウター側シール部材6においても、芯金62を有している。芯金62には、嵌合部62aが形成されており、この嵌合部62aが外方部材2の内周に形成された嵌合面2bに嵌合(内嵌)される。また、芯金62には、側板部62bが形成されており、この側板部62bが内方部材3を構成するハブ輪31に向けて延びている。側板部62bは、その先端部分が転動体4に近接する方向に斜めに曲げられ、更に軸周面3jに対して垂直となるように折り曲げられた形状となっている。更に、芯金62には、外方部材2のアウター側端面に沿って径方向外側へ延びる円板状の止板部62cが形成されている。止板部62cは、その先端部分がインナー側へ折り曲げられた形状となっている。そして、弾性部材63は、このような形状である側板部62bと止板部62cの一面全体(段差部3hのインナー側面3iに対向する面全体)に接着されている。なお、弾性部材63には、径方向外側から順に五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cが形成されている。
【0057】
リップ63dは、五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち最も径方向外側に形成されているものである。リップ63dは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、車輪取付フランジ3eに形成された段差部3hの外周面3mに対して一定の小さな隙間Cをあけて沿っている。本車輪用軸受装置1においては、段差部3hの外周面3mが円弧形状であるから、リップ63dも円弧形状に形成されて一定の小さな隙間Cをあけて沿っている。従って、リップ63dは、隙間路Pの入口を覆い、かつ開口面積を狭める「ラビリンスリップ」である。なお、リップ63dは、第一実施形態に係るリップ63dと同様の機能を果たしている。
【0058】
リップ63eは、五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち径方向外側から二番目に形成されているものである。リップ63eは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iに近接している。従って、リップ63eは、隙間路Pの通路面積を狭める「ラビリンスリップ」である。なお、リップ63eは、第一実施形態に係るリップ63eと同様の機能を果たしている。
【0059】
リップ63aは、五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち径方向外側から三番目に形成されているものである。リップ63aは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iに接触している。従って、リップ63aは、隙間路Pを塞ぐ「メインリップ」である。なお、リップ63aは、第一実施形態に係るリップ63aと同様の機能を果たしている。
【0060】
リップ63bは、五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち径方向外側から四番目に形成されているものである。リップ63bは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iの一部である円弧面に接触している。従って、リップ63bは、隙間路Pを塞ぐ「メインリップ」である。なお、リップ63bは、第一実施形態に係るリップ63bと同様の機能を果たしている。
【0061】
リップ63cは、五つのリップ63d・63e・63a・63b・63cのうち径方向外側から五番目に形成されているものである。リップ63cは、アウター側からインナー側へ向かうにつれて径方向内側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iにつながる軸周面3jに接触又は近接している。従って、リップ63cは、隙間路Pを塞ぐ「グリースリップ」である。なお、リップ63cは、第一実施形態に係るリップ63cと同様の機能を果たしている。
【0062】
このようなアウター側シール部材6を備えた車輪用軸受装置1においても、以下の効果を奏することとなる。
【0063】
即ち、かかる車輪用軸受装置1によれば、環状空間Sのアウター側開口端につながる隙間路Pの入口をラビリンスリップ(63d)が覆い、かつ開口面積を狭めるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63e・63a・63b・63cに到達するのを減らすことができる。また、メインリップ(63a・63b)が段差部3hのインナー側面3iに接触するので、泥水や砂塵等の異物が侵入するのを防ぐことができる。従って、アウター側シール部材6の密封性が低下するのを抑制できる。また、舗装路が整備されていない走行環境に適応でき、かつ回転抵抗を少なくできる。
【0064】
また、かかる車輪用軸受装置1によれば、環状空間Sのアウター側開口端につながる隙間路Pの途中でラビリンスリップ(63e)が通路面積を狭めるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63a・63b・63cに到達するのを更に減らすことができる。
【0065】
次に、
図9を用いて、その他の実施形態に係るアウター側シール部材6について説明する。
図9の(A)から(C)は、その他のアウター側シール部材6を示す断面図である。
【0066】
図9の(A)に示すように、最も径方向外側のリップ63dは、やや反りが強く、より径方向外側に広がっていてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、車輪取付フランジ3eに大きな外力が掛かって傾きが生じても(
図5における矢印D参照)、最も径方向外側のリップ63dと段差部3hの外周面3mが干渉するのを防ぐことができる。
【0067】
加えて、
図9の(B)に示すように、最も径方向外側のリップ63dは、より長く形成され、その先端部分がボルト座面3nに対して一定の小さな隙間をあけて沿っていてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63e・63a・63b・63cに到達するのを更に減らすことができる。
【0068】
加えて、
図9の(C)に示すように、ハブ輪31の段差部3hのインナー側面3iと軸面3jに嵌合される別部材64を備え、この別部材64に少なくとも一つのメインリップ(63a又は/および63b)の先端縁が接触し、少なくとも一つのグリースリップ(63c)の先端縁が接触又は近接するとしてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、ハブ輪31にメインリップ(63a・63b)やグリースリップ(63c)が接触等しないので、ハブ輪31側の錆に起因した摩耗による密封性の低下を防ぐことができる。
【0069】
更に加えて、
図8の拡大図において二点鎖線で示すように、最も径方向外側のリップ63dは、やや長く形成されており、その先端部分における反りが強く、径方向外側に湾曲していてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、外方部材2を伝って流れてきた泥水がリップ63dを乗り越えにくくなるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63e・63a・63b・63cに到達するのを更に減らすことができる。
【0070】
次に、
図10を用いて、第三実施形態に係るアウター側シール部材6について詳しく説明する。
図10は、アウター側シール部材6の詳細を示す断面図である。なお、以下においても、「隙間路P」とは、外方部材2と内方部材3の一部である車輪取付フランジ3eとの間に形成された隙間(通路)を表す。隙間路Pは、アウター側シール部材6を隔てて環状空間Sのアウター側開口端につながっている。
【0071】
本実施形態に係るアウター側シール部材6においても、芯金62を有している。芯金62には、嵌合部62aが形成されており、この嵌合部62aが外方部材2の外周に形成された嵌合面2bに嵌合(外嵌)される。また、芯金62には、側板部62bが形成されており、この側板部62bが外方部材2のアウター側端面に沿っている。側板部62bは、その先端部分が外方部材2のアウター側端面から離間する方向に斜めに曲げられ、更に突出部3pの外周面(「軸周面」と表してもよい)3qに対して垂直となるように折り曲げられた形状となっている。更に、芯金62には、外方部材2の外周面に対して垂直に延びる円板状の折返部62dが形成されている。折返部62dは、嵌合部62aの端部から径方向外側へ向かった後に折り返された形状となっている。そして、弾性部材63は、このような形状である側板部62bの一面全体(段差部3hのインナー側面3iに対向する面全体)に加え、折返部62dや嵌合部62aを取り囲むように接着されている。なお、弾性部材63には、径方向外側から順に四つのリップ63d・63a・63b・63cが形成されている。
【0072】
リップ63dは、四つのリップ63d・63a・63b・63cのうち最も径方向外側に形成されているものである。リップ63dは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、車輪取付フランジ3eに形成された段差部3hの外周面3mに対して一定の小さな隙間Cをあけて沿っている。本車輪用軸受装置1においては、段差部3hの外周面3mが円弧形状であるから、リップ63dも円弧形状に形成されて一定の小さな隙間Cをあけて沿っている。従って、リップ63dは、隙間路Pの入口を覆い、かつ開口面積を狭める「ラビリンスリップ」である。なお、リップ63dは、第一実施形態に係るリップ63dと同様の機能を果たしている。
【0073】
リップ63aは、四つのリップ63d・63a・63b・63cのうち径方向外側から二番目に形成されているものである。リップ63aは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iに接触している。従って、リップ63aは、隙間路Pを塞ぐ「メインリップ」である。なお、リップ63aは、第一実施形態に係るリップ63aと同様の機能を果たしている。
【0074】
リップ63bは、四つのリップ63d・63a・63b・63cのうち径方向外側から三番目に形成されているものである。リップ63bは、インナー側からアウター側へ向かうにつれて径方向外側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iの一部である円弧面に接触している。従って、リップ63bは、隙間路Pを塞ぐ「メインリップ」である。なお、リップ63bは、第一実施形態に係るリップ63bと同様の機能を果たしている。
【0075】
リップ63cは、四つのリップ63d・63a・63b・63cのうち径方向外側から四番目に形成されているものである。リップ63cは、アウター側からインナー側へ向かうにつれて径方向内側へ傾くように延びており、その先端縁が段差部3hのインナー側面3iにつながる軸周面3jに接触又は近接している。従って、リップ63cは、隙間路Pを塞ぐ「グリースリップ」である。なお、リップ63cは、第一実施形態に係るリップ63cと同様の機能を果たしている。
【0076】
このようなアウター側シール部材6を備えた車輪用軸受装置1においても、以下の効果を奏することとなる。
【0077】
即ち、かかる車輪用軸受装置1によれば、環状空間Sのアウター側開口端につながる隙間路Pの入口をラビリンスリップ(63d)が覆い、かつ開口面積を狭めるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63a・63b・63cに到達するのを減らすことができる。また、メインリップ(63a・63b)が段差部3hのインナー側面3iに接触するので、泥水や砂塵等の異物が侵入するのを防ぐことができる。従って、アウター側シール部材6の密封性が低下するのを抑制できる。また、舗装路が整備されていない走行環境に適応でき、かつ回転抵抗を少なくできる。
【0078】
ところで、本実施形態に係るアウター側シール部材6は、弾性部材63が折返部62dや嵌合部62aを取り囲むように接着されている。こうして、アウター側シール部材6には、外方部材2の外周面から径方向外側へ突出した堰部63fが形成されている。堰部63fは、外方部材2を伝って流れる泥水がリップ63d・63a・63b・63cまで到達するのを低減している。
【0079】
加えて、本実施形態に係るアウター側シール部材6を採用する場合、外方部材2の内側にアウター側シール部材6を収容するためのスペースが不要となるので、外方部材2の外側転走面2cからアウター側端面までの距離を短く設計することができる。従って、車輪用軸受装置1の軸方向長さを短縮できる。
【0080】
次に、
図11を用いて、その他の実施形態に係るアウター側シール部材6について説明する。
図11の(A)から(C)は、その他のアウター側シール部材6を示す断面図である。
【0081】
図11の(A)に示すように、最も径方向外側のリップ63dは、やや反りが強く、より径方向外側に広がっていてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、車輪取付フランジ3eに大きな外力が掛かって傾きが生じても(
図5における矢印D参照)、最も径方向外側のリップ63dと段差部3hの外周面3mが干渉するのを防ぐことができる。
【0082】
加えて、
図11の(B)に示すように、最も径方向外側のリップ63dは、より長く形成され、その先端部分がボルト座面3nに対して一定の小さな隙間をあけて沿っていてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63d・63a・63b・63cに到達するのを更に減らすことができる。
【0083】
加えて、
図11の(C)に示すように、ハブ輪31の段差部3hのインナー側面3iと軸面3jに嵌合される別部材64を備え、この別部材64に少なくとも一つのメインリップ(63a又は/および63b)の先端縁が接触し、少なくとも一つのグリースリップ(63c)の先端縁が接触又は近接するとしてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、ハブ輪31にメインリップ(63a・63b)やグリースリップ(63c)が接触等しないので、ハブ輪31側の錆に起因した摩耗による密封性の低下を防ぐことができる。
【0084】
更に加えて、
図10の拡大図において二点鎖線で示すように、最も径方向外側のリップ63dは、やや長く形成されており、その先端部分における反りが強く、径方向外側に湾曲していてもよい。かかる車輪用軸受装置1によれば、外方部材2を伝って流れてきた泥水がリップ63dを乗り越えにくくなるので、泥水や砂塵等の異物が内側のリップ63e・63a・63b・63cに到達するのを更に減らすことができる。