特許第6886327号(P6886327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886327
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】バイオフィルム形成抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 35/04 20060101AFI20210603BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20210603BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20210603BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20210603BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20210603BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20210603BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20210603BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   A01N35/04
   C02F1/50 510C
   A01N25/00 102
   A01P1/00
   C11D7/50
   C11D7/26
   C02F1/50 520B
   C02F1/50 520F
   C02F1/50 520K
   C02F1/50 520P
   C02F1/50 520Z
   C02F1/50 532C
   C02F1/50 540B
   A61K31/11
   A61P31/04
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-66827(P2017-66827)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-168095(P2018-168095A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大石 峻
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健二
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−191601(JP,A)
【文献】 特開平06−023368(JP,A)
【文献】 特開2003−192581(JP,A)
【文献】 特表2010−512348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 35/04
A01N 25/00
A01P 1/00
A61K 31/11
A61P 31/04
C02F 1/50
C11D 7/26
C11D 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−ヒドロキシ−3−メチルベンズアルデヒド(A)と有機溶媒(B)とを含有し、かつ該(A)と該有機溶媒(B)との質量比(A)/(B)が0.3〜0.7である、バイオフィルム形成抑制用組成物。
【請求項2】
前記有機溶媒(B)が、SP値9.0以上11.0以下を有する、請求項1記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
【請求項3】
前記有機溶媒(B)が脂肪族エーテル系有機溶媒及びアミド系有機溶媒からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
【請求項4】
記(A)の合計含有量が0.1〜90質量%である、請求項1〜のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
【請求項5】
前記有機溶媒(B)の合計含有量が10〜99.9質量%である、請求項1〜のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物を、対象水に添加することを含む、バイオフィルム形成抑制方法。
【請求項7】
前記バイオフィルム形成抑制用組成物を添加された前記対象水中における4−ヒドロキシ−3−メチルベンズアルデヒド濃度が0.1〜1000ppmとなるように、該組成物が該対象水に添加される、請求項記載の方法。
【請求項8】
前記バイオフィルム形成抑制用組成物を添加された前記対象水中における有機溶媒の濃度が1〜5000ppmとなるように、該組成物が該対象水に添加される、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記対象水が水冷式冷却塔の冷却水である、請求項6〜8のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム形成抑制用組成物、及びバイオフィルム形成抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは、固体や液体の表面に付着した細菌やカビ等の微生物の群落が分泌物等と共に形成した構造体である。家庭又は工場の排水設備や水循環システムなどに発生したバイオフィルムは、配管のぬめりやつまり及び悪臭の原因となる。バイオフィルムはまた、下水管の腐食など、設備の劣化を引き起こす。海水の淡水化プラントで使用される逆浸透膜、製紙工場の配管設備などにおいても、バイオフィルム形成による弊害が問題視されている。さらに、バイオフィルムは微生物汚染の原因となる。温泉施設等に発生したバイオフィルムが感染症を引き起こす場合がある。医療分野では、透析等のチューブや内視鏡、コンタクトレンズ等の医療器具に形成されたバイオフィルムが感染源となることがある。また皮膚や口腔内でのバイオフィルム形成が疾病を引き起こすことがある。食品分野では、食品又は調理器具に形成されたバイオフィルムが腐敗や食中毒の原因となることがある。
【0003】
微生物がバイオフィルムを形成すると、通常の洗浄や殺菌方法に対して耐性となるため、その排除は容易ではない。排水設備や水循環システムにおけるバイオフィルム形成防止のためには、定期的な水の入れ替えや清掃が必要であるが、これらは当該設備やシステムのメンテナンスコストを上昇させる。
【0004】
水循環システム等におけるバイオフィルムには、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)等のPseudomonas属、Sphingomonas属、Sphingopyxis属などのグラム陰性微生物が存在する。さらに、水冷式冷却塔におけるバイオフィルムから、Klebsiella属、Flavobacterium属及びRoseomonas属微生物が見つかったという報告がある(非特許文献1及び2)。従来、排水設備や水循環システムなどにおけるバイオフィルム防止には、塩素系薬剤、有機窒素硫黄系薬剤などの殺菌剤が用いられている。しかし、塩素系薬剤には配管や機器への損傷の問題があり、有機窒素硫黄系薬剤には皮膚損傷などの問題がある。そのため、何れの薬剤も十分に殺菌できる濃度では使用することができず、バイオフィルム形成を長期間抑制することができない。
【0005】
特許文献1には、o−フタルアルデヒドと、p−フタルアルデヒドやm−フタルアルデヒド等のベンズアルデヒド化合物とを含有する工業用抗菌剤が開示されている。特許文献2には、サリチルアルデヒド、4−ヒドロキシベンズアルデヒド等の化合物を含有する抗菌組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−295906号公報
【特許文献2】特開2003−192581号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Biofouling, 2011, 27(4):393-402
【非特許文献2】Biocontrol Science, 2013, 18(4):205-209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、バイオフィルム形成を効果的に抑制することができる、バイオフィルム形成抑制用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定のベンズアルデヒド化合物と有機溶媒とを含有する組成物が、該ベンズアルデヒド化合物の取り扱い性を向上させるとともに、低濃度で使用した場合であっても、バイオフィルム形成を効果的に抑制することができることを見出した。
【0010】
したがって、本発明は、下記式(I)で表される化合物と有機溶媒とを含有する、バイオフィルム形成抑制用組成物を提供する。
また本発明は、該バイオフィルム形成抑制用組成物を対象水中に添加することを含む、バイオフィルム形成抑制方法を提供する。
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、
1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基、又は−CH2−R5であり、ただし、R1、R2、R3、及びR4の全てが同時に水素原子であることはなく;
5は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又は−NRabであり;
a及びRbは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイオフィルム形成抑制用組成物は、取り扱い性に優れ、かつ低濃度で使用した場合であってもバイオフィルムの形成を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のバイオフィルム形成抑制用組成物は、家庭又は工場設備などの様々な環境下におけるバイオフィルム形成の抑制に使用される。好ましくは、本発明のバイオフィルム形成抑制用組成物は、水の流れる配管、水を貯留するタンクやプール、水循環システム、及びそれらに付属する機器などの、そこに水を流す又は貯留することによって機能する設備におけるバイオフィルム形成の抑制に使用される。上記設備のなかでも、少なくともその一部がバイオフィルムの形成しやすい温度、例えば20℃以上、好ましくは25℃以上に達する設備で、本発明のバイオフィルム形成抑制用組成物が好適に使用される。本発明のバイオフィルム形成抑制用組成物が適用される設備の好適な例としては、水冷式冷却塔を用いた工場設備やビルの冷却システム、工業用の冷却プール、工業用の給水、貯水もしくは排水経路、流湯式暖房システム、排水処理設備、海水の淡水化プラントで使用される逆浸透膜、製紙工場の配管設備などが挙げられる。
【0015】
本明細書において、「対象水」とは、本発明のバイオフィルム形成抑制用組成物が適用される水をいう。好ましくは、「対象水」としては、上述した水を流す又は貯留することによって機能する設備に流れる又は貯留されている水、例えば、水冷式冷却塔を用いた工場設備やビルの冷却システムに用いられる水、工業用の冷却プールの水、工業用の給水、貯水もしくは排水経路内の水、流湯式暖房システムで使用される湯、排水処理設備の排水、海水の淡水化プラントで使用される逆浸透膜を通る水、製紙工場の配管設備内の水、などが挙げられ、好ましくは水冷式冷却塔の冷却水が挙げられる。本発明のバイオフィルム形成抑制用組成物は、上記対象水に対して添加される。
【0016】
上記のような設備に発生するバイオフィルムには、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)等のPseudomonas属、Sphingomonas属、Sphingopyxis属などのグラム陰性微生物が含まれている。さらに、Klebsiella属、Flavobacterium属及びRoseomonas属のグラム陰性微生物が、水冷式冷却塔におけるバイオフィルムに存在する微生物として報告されている(非特許文献1及び2)。
【0017】
(1.バイオフィルム形成抑制用組成物)
本発明のバイオフィルム形成抑制用組成物(以下、本発明の組成物ともいう)は、下記式(I)で表される化合物(以下、式(I)化合物ともいう)と有機溶媒とを含有する。
【0018】
【化2】
【0019】
式(I)中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基、又は−CH2−R5である。ただし、R1、R2、R3、及びR4の全てが同時に水素原子であることはない。
【0020】
式(I)において、R1〜R4についての炭素数1〜6の炭化水素基は、飽和していても不飽和であってもよく、又は直鎖であっても、分枝鎖であっても、環式基であってもよい。化合物の入手性の観点から、好ましくは、該炭化水素基は非置換である。該炭素数1〜6の炭化水素基の例としては、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、及び炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基が挙げられる。式(I)化合物の水溶性の観点からは、炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、及び炭素数2〜4の直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基が好ましい例として挙げられる。該炭素数1〜6の炭化水素基のさらに好ましい例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、1−プロペニル基、2−プロペニル(アリル)基、2−t−アミル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基などが挙げられる。式(I)中、該炭素数1〜6の炭化水素基は、R1〜R4についてそれぞれ独立に選択され得る。
【0021】
式(I)中、R5は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又は−NRabである。該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子が挙げられ、化合物の入手性の観点から、好ましくは塩素原子である。Ra及びRbは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基である。好ましくは、−NRabはジメチルアミノ基である。
【0022】
一実施形態において、R1は炭素数1〜6の炭化水素基、又は−CH2−R5であり、R2、R3及びR4は水素原子である。別の一実施形態において、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基であり、R3及びR4は水素原子である。別の一実施形態において、R1及びR2は水素原子であり、R3及びR4は、それぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基である。別の一実施形態において、R1、R2及びR4は水素原子であり、R3は炭素数1〜6の炭化水素基である。
【0023】
好ましい実施形態において、式(I)中、
1は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基、又は−CH2−R5であり、水溶性の観点からより好ましくは、炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、炭素数2〜4の直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基、又は−CH2−R5であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、又は−CH2−R5であり;
5はヒドロキシ基、ハロゲン原子又は−NRabであり;
a及びRbは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり;かつ、
2、R3及びR4は水素原子である。
さらに好ましい実施形態において、式(I)中、
1は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−プロペニル基、又は−CH2−R5であり;
5はヒドロキシ基、塩素原子又はジメチルアミノ基であり;かつ、
2、R3及びR4は水素原子である。
【0024】
別の好ましい実施形態において、式(I)中、
1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又は炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基であり、水溶性の観点からより好ましくは、炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又は炭素数2〜4の直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、1−プロペニル基、又は2−プロペニル基であり、なお好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、又はt−ブチル基であり;かつ、
3及びR4は水素原子である。
【0025】
別の好ましい実施形態において、式(I)中、
1及びR2は水素原子であり;かつ、
3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又は炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基であり、水溶性の観点からより好ましくは、炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又は炭素数2〜4の直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、1−プロペニル基、又は2−プロペニル基であり、なお好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0026】
別の好ましい実施形態において、式(I)中、
1、R2及びR4は水素原子であり;かつ、
3は、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又は炭素数2〜6の直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基であり、水溶性の観点からより好ましくは、炭素数1〜4の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、又は炭素数2〜4の直鎖もしくは分枝鎖アルケニル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、1−プロペニル基、又は2−プロペニル基であり、なお好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0027】
本発明に用いられる式(I)化合物の好ましい例としては、3−メチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、3−アリル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、3−クロロメチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、4−ヒドロキシ−3−ヒドロキシメチルベンズアルデヒド、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、及び2−メチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒドが挙げられ、より好ましくは4−ヒドロキシ−3−メチルベンズアルデヒドである。
【0028】
本発明に用いられる式(I)化合物は、上記に例示された式(I)化合物のうちのいずれか1種であってもよく、又はいずれか2種以上の組み合わせであってもよい。
【0029】
本発明に用いられる有機溶媒は、その種類は特に限定されず、脂肪族であっても芳香族であってもよい。上記式(I)化合物を溶解させ、安定化する観点からは、該有機溶媒のSP値は、好ましくは9.0以上、より好ましくは9.2以上、さらに好ましくは10.0以上であり、かつ好ましくは11.0以下、より好ましくは10.8以下である。あるいは、該有機溶媒のSP値は、好ましくは9.0〜11.0、より好ましくは9.2〜11.0、さらに好ましくは10.0〜11.0、さらに好ましくは10.0〜10.8である。
【0030】
本明細書において、SP値とは、物質間の相溶性の尺度であって、以下の方法で算出される値である:
SP値={(dΣG)/M}1/2
M:分子量〔単位:g/mol〕
d:密度〔単位:g/cm3
G:原子団又は基固有のHoyの凝集エネルギー定数〔単位:cal/mol〕
上記原子団又は基固有のHoyの凝集エネルギー定数Gは、色材協会誌,1971,vol.44(4):186−192(吉田豊彦執筆)に記載された値を参照する。
【0031】
好ましくは、当該有機溶媒としては、エーテル系有機溶媒、アミド系有機溶媒、アルコール系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、スルホキシド系有機溶媒、及びエステル系有機溶媒が挙げられ、より好ましくは、脂肪族エーテル系有機溶媒、及びアミド系有機溶媒が挙げられる。
脂肪族エーテル系有機溶媒の好ましい例としては、グリコールエーテル系有機溶媒及びグリセリルエーテル系有機溶媒が挙げられる。
グリコールエーテル系有機溶媒の好ましい例としては、モノ又はポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。該アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられ、“ポリ”は、好ましくは2以上3以下のアルキレングリコールの重合を表す。該アルキルエーテルのアルキル基としては、好ましくは炭素数1以上、かつ好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下、さらに好ましくは2以下のアルキル基、あるいは好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2のアルキル基が挙げられる。具体的には、エチレングリコールモノブチルエーテル、2−イソブトキシエタノール、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール、2−(2−イソブトキシエトキシ)エタノール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−p−プロパノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−メトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
グリセリルエーテル系有機溶媒の好ましい例としては、モノアルキルグリセリルエーテルが挙げられ、該アルキル基の炭素数は6〜10が好ましい。
アルコール系有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。
アミド系有機溶媒の好ましい例としては、ジアルキルホルムアミドが挙げられ、該アルキル基の炭素数は1〜3が好ましく、具体的には、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミドが好ましい。
ケトン系有機溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。
スルホキシド系有機溶媒としては、ジメチルスルホキシドが好ましい。
エステル系有機溶媒の例としては、蟻酸エチル、蟻酸ブチル、酢酸エチル、アジピン酸ジオクチルなどが挙げられる。
【0032】
本発明に用いられる有機溶媒の炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、かつ好ましくは14以下、より好ましくは12以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下である。あるいは、該有機溶媒の炭素数は、好ましくは3〜14、より好ましくは3〜8、さらに好ましくは3〜6、さらに好ましくは4〜6である。
【0033】
本発明に用いられる有機溶媒の好ましい例としては、ジメチルホルムアミド(10.2)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(10.64)、ヘキシレングリコール(9.97)、1−メトキシ−2−プロパノール(10.13)、ジアセトンアルコール(9.92)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(9.84)、1−ブタノール(9.88)、3−(2−エチルヘキシル)−1、2プロパンジオール(9.87)、2−プロパノール(9.71)、1−ペンタノール(9.57)、1−ヘキサノール(9.36)、及び1−オクタノール(9.08)が挙げられる。なお、上記において括弧内の数値はSP値である。
【0034】
本発明に用いられる有機溶媒は、上述した有機溶媒のうちのいずれか1種であってもよく、又はいずれか2種以上の組み合わせであってもよい。
【0035】
本発明の組成物中、上記式(I)化合物の合計含有量は、バイオフィルム形成抑制作用の観点からは、当該組成物の全量中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であって、かつ式(I)化合物の溶解性の観点からは、当該組成物の全量中、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。好適には、本発明の組成物中における式(I)化合物の合計含有量は、当該組成物の全量中、好ましくは0.1〜90質量%、より好ましくは0.5〜80質量%、さらに好ましくは1〜70質量%、さらに好ましくは3〜50質量%、さらに好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜30質量%である。
【0036】
本発明の組成物中、上記有機溶媒の合計含有量は、式(I)化合物の溶解性の観点からは、当該組成物の全量中、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、かつバイオフィルム形成抑制作用の観点からは、当該組成物の全量中、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、さらに好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。好適には、本発明の組成物中における当該有機溶媒の合計含有量は、当該組成物の全量中、好ましくは10〜99.9質量%、より好ましくは10〜99.5質量%、さらに好ましくは10〜99質量%、さらに好ましくは20〜97質量%、さらに好ましくは30〜90質量%、さらに好ましくは40〜80質量%である。
【0037】
好適には、本発明の組成物中における当該式(I)化合物の合計含有量及び当該有機溶媒の合計含有量は、該組成物の全量中、それぞれ、好ましくは0.1〜90質量%及び10〜99.9質量%、より好ましくは0.5〜80質量%及び10〜99.5質量%、さらに好ましくは1〜70質量%及び10〜99質量%、さらに好ましくは3〜50質量%及び20〜97質量%、さらに好ましくは5〜50質量%及び30〜90質量%、さらに好ましくは10〜30質量%及び40〜80質量%である。
【0038】
さらに、本発明の組成物中における、当該有機溶媒に対する式(I)化合物の質量比(式(I)化合物質量/有機溶媒質量)は、バイオフィルム形成抑制の観点からは、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上であり、式(I)化合物の溶解性の観点からは、好ましくは9以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下、さらに好ましくは0.7以下である。また、本発明の組成物中における当該有機溶媒に対する式(I)化合物の質量比は、好ましくは0.01〜9、より好ましくは0.05〜5、さらに好ましくは0.1〜3、さらに好ましくは0.1〜1、さらに好ましくは0.2〜0.7、さらに好ましくは0.3〜0.7、さらに好ましくは0.4〜0.7である。
【0039】
本発明の組成物中、当該式(I)化合物と当該有機溶媒との合計含有量は、バイオフィルム形成抑制、及び式(I)化合物の溶解性の観点から、該組成物の全量中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、かつ好ましくは100質量%以下である。
【0040】
本発明の組成物は、当該式(I)化合物と当該有機溶媒からなる組成物であってもよいが、その他の成分を含有していてもよい。当該その他の成分の例としては、水、抗菌抗カビ剤、防腐防黴剤、抗生物質、浸透促進剤、界面活性剤、消臭剤、芳香剤、キレート剤、本発明の組成物が適用される機器や設備の洗浄もしくは劣化防止のための物質、抗菌もしくは殺菌剤などが挙げられる。当該他の成分の種類やその濃度は、本発明の組成物のバイオフィルム形成抑制作用を阻害しない限り、特に限定されない。
【0041】
本発明の組成物は、任意成分として水を含んでいてもよい。当該組成物中の水の含有量は、バイオフィルム形成抑制の観点からは、好ましくは0質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、式(I)化合物の溶解性の観点からは、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0042】
(2.バイオフィルム形成抑制方法)
本発明はまた、本発明のバイオフィルム形成抑制用組成物を対象水に適用することによるバイオフィルム形成抑制方法を提供する。好ましくは、当該本発明の方法は、前記対象水におけるバイオフィルム形成抑制方法である。本発明の方法は、前記対象水に、上述した式(I)化合物と有機溶媒とを含有するバイオフィルム形成抑制用組成物を添加することを含む。本発明の方法において、該対象水に該本発明の組成物を添加する場合、式(I)化合物の溶解性の観点から、予め調製した本発明の組成物を該対象水に添加することが好ましい。例えば、式(I)化合物と該有機溶媒とを予め混合して本発明の組成物を調製し、得られた組成物を該対象水に添加してもよく、さらに得られた組成物を有機溶媒や水で希釈した希釈液を該対象水に添加してもよい。この本発明の組成物を添加された対象水を、以下の本明細書において、単に「処理液」とも呼ぶ。
【0043】
本発明のバイオフィルム形成抑制用組成物を、対象水に添加する具体的方法としては、(1)上述した水を流す又は貯留することによって機能する設備に流れる又は貯留されている対象水に、直接、本発明の組成物を、連続的に又は定期的に添加する方法、(2)該設備に流される又は貯留される前の対象水の一部又は全部に本発明の組成物を予め添加する方法(例えば、該設備内の対象水と入れ換える水に本発明の組成物を添加する方法、ろ過処理等の浄化処理をした後、再度該設備に戻す前の対象水に本発明の組成物を添加する方法、等)が挙げられる。
【0044】
当該処理液中における式(I)化合物の合計濃度は、バイオフィルム形成抑制の観点からは、該処理液全量中、好ましくは0.1ppm以上(質量ppm、本明細書において以下同様)、より好ましくは1ppm以上、より好ましくは5ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上、さらに好ましくは20ppm以上であり、かつ薬剤の高濃度化による環境負荷を抑制する観点からは、該処理液全量中、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下である。好適には、当該処理液中における式(I)化合物の合計濃度は、該処理液全量中、好ましくは0.1〜1000ppm、より好ましくは1〜500ppm、さらに好ましくは1〜300ppm、さらに好ましくは5〜300ppm、さらに好ましくは5〜100ppm、さらに好ましくは10〜100ppm、さらに好ましくは20〜50ppmである。
【0045】
なお好ましくは、本発明の方法において、式(I)化合物は、該処理液中におけるその濃度が、バイオフィルムの原因微生物の生育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)未満になる量で使用される。
【0046】
また、当該処理液中における当該有機溶媒の合計濃度は、式(I)化合物を溶解する観点からは、該処理液全量中、好ましくは1ppm以上、より好ましくは5ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上、さらに好ましくは20ppm以上、さらに好ましくは40ppm以上であり、かつバイオフィルム形成抑制の観点からは、該処理液全量中、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、さらに好ましくは1500ppm以下、さらに好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。好適には、当該処理液中における当該有機溶媒の合計濃度は、該処理液全量中、好ましくは1〜5000ppm、より好ましくは1〜3000ppm、さらに好ましくは5〜1500ppm、さらに好ましくは5〜1000ppm、さらに好ましくは5〜500ppm、さらに好ましくは10〜500ppm、さらに好ましくは20〜300ppm、さらに好ましくは20〜100ppm、さらに好ましくは40〜100ppmである。
【0047】
当該処理液中における当該式(I)化合物の合計濃度及び当該有機溶媒の合計濃度は、該処理液全量中、それぞれ、好ましくは0.1〜1000ppm及び1〜5000ppmであり、より好ましくは1〜500ppm及び1〜3000ppmであり、さらに好ましくは5〜300ppm及び5〜1000ppmであり、さらに好ましくは10〜100ppm及び10〜500ppmであり、さらに好ましくは20〜50ppm及び40〜100ppmである。
【0048】
本発明の方法において使用される本発明の組成物の量は、それが添加される対象水の量と比較してかなり少ない。したがって、本発明の方法で用いられる式(I)化合物及び当該有機溶媒の対象水に対する質量比と、上述した処理液中における式(I)化合物及び当該有機溶媒の好ましい濃度は、実質的に同じとみなすことができる。すなわち、対象水に添加する式(I)化合物の合計量は、対象水全量に対して、好ましくは0.1〜1000ppm、より好ましくは1〜500ppm、さらに好ましくは1〜300ppm、さらに好ましくは、5〜300ppm、さらに好ましくは5〜100ppm、さらに好ましくは10〜100ppm、さらに好ましくは20〜50ppmである。また、対象水に添加する当該有機溶媒の合計量は、対象水全量に対して、好ましくは1〜5000ppm、より好ましくは1〜3000ppm、さらに好ましくは5〜1500ppm、さらに好ましくは5〜1000ppm、さらに好ましくは5〜500ppm、さらに好ましくは10〜500ppm、さらに好ましくは20〜300ppm、さらに好ましくは20〜100ppm、さらに好ましくは40〜100ppmである。また、対象水に添加する式(I)化合物の合計量及び当該有機溶媒の合計量は、対象水全量に対して、それぞれ、好ましくは0.1〜1000ppm及び1〜5000ppmであり、より好ましくは1〜500ppm及び1〜3000ppmであり、さらに好ましくは5〜300ppm及び5〜1000ppmであり、さらに好ましくは10〜100ppm及び10〜500ppmであり、さらに好ましくは20〜50ppm及び40〜100ppmである。
【0049】
本発明において、当該処理液中における当該有機溶媒に対する式(I)化合物の質量比(式(I)化合物質量/有機溶媒質量)の好ましい範囲は、上述した本発明の組成物中でのそれらの質量比の好ましい範囲と同じである。
【0050】
本発明の方法において、当該処理液中における当該式(I)と当該有機溶媒の濃度は、常時上述した所定の範囲に維持しておく必要はなく、必要なときに、又は定期的に、上述した所定の範囲に調整し、一定時間維持すればよい。バイオフィルム形成抑制効果の観点からは、該処理液中における当該式(I)化合物及び有機溶媒の濃度を、上述した所定の範囲に、好ましくは2週間以上、より好ましくは1ヶ月以上、さらに好ましくは3ヶ月以上、なお好ましくは半年以上維持することが望ましい。該対象水中における式(I)化合物及び有機溶媒の濃度を上述した所定の範囲に維持する期間の上限は、特に制限されるものではないが、設備のメンテナンスの観点から、好ましくは10年以下、より好ましくは5年以下、さらに好ましくは2年以下である。対象水中に添加する式(I)化合物及び有機溶媒の量や頻度は、対象水の総容量及び入れ換わる容量、対象水を含む機器又は設備の使用頻度、内部温度、汚染状況又はメンテナンスのスケジュール、などにあわせて適宜設定することができる。
【0051】
本発明の方法において処理される対象水の温度及び処理液の温度は、該対象水及び処理液が用いられるシステムにあわせて適宜設定することができる。例えば、対象水及び処理液の温度は、それぞれ独立して設定され、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上、さらに好ましくは25℃以上であり、好ましくは60℃以下、より好ましくは55℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。
【0052】
また、本発明は、バイオフィルム形成抑制のための、当該式(I)化合物と当該有機溶媒との組み合わせの使用を提供する。好ましくは、上述した式(I)化合物と有機溶媒とを含有するバイオフィルム形成抑制用組成物が、バイオフィルム形成抑制に使用される。また好ましくは、当該使用は、対象水におけるバイオフィルム形成抑制のための使用である。該式(I)化合物と有機溶媒の種類、使用濃度、及び使用方法は、上述したとおりである。
【0053】
本発明はまた、例示的実施形態として以下の物質、製造方法、用途、方法等を包含する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0054】
〔1〕下記式(I)で表される化合物と有機溶媒とを含有する、バイオフィルム形成抑制用組成物:
【化3】
(式中、
1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の炭化水素基、又は−CH2−R5であり、ただし、R1、R2、R3、及びR4の全てが同時に水素原子であることはなく;
5は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、又は−NRabであり;
a及びRbは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である)。
〔2〕前記式(I)で表される化合物が、
好ましくは、3−メチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、3−アリル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、3−クロロメチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、4−ヒドロキシ−3−ヒドロキシメチルベンズアルデヒド、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、及び2−メチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒドからなる群より選ばれる1種以上であり、
より好ましくは、4−ヒドロキシ−3−メチルベンズアルデヒドである、
〔1〕記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔3〕前記有機溶媒が、
SP値が、好ましくは9.0以上、より好ましくは9.2以上、さらに好ましくは10.0以上であり、かつ好ましくは11.0以下、より好ましくは10.8以下であるか、あるいは、
SP値が、好ましくは9.0〜11.0、より好ましくは9.2〜11.0、さらに好ましくは10.0〜11.0、さらに好ましくは10.0〜10.8である、
〔1〕又は〔2〕記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔4〕前記有機溶媒が、
好ましくは、エーテル系有機溶媒、アミド系溶媒、アルコール系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、スルホキシド系有機溶媒、及びエステル系溶媒からなる群より選ばれる1種以上であり、
より好ましくは、脂肪族エーテル系有機溶媒及びアミド系溶媒からなる群より選ばれる1種以上である、〔3〕記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔5〕前記有機溶媒の炭素数が、
好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、かつ好ましくは14以下、より好ましくは12以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下であるか、あるいは、
好ましくは3〜14、より好ましくは3〜8、さらに好ましくは3〜6、さらに好ましくは4〜6である、
〔4〕記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔6〕好ましくは、前記有機溶媒が、ジメチルホルムアミド(10.2)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(10.64)、ヘキシレングリコール(9.97)、1−メトキシ−2−プロパノール(10.13)、ジアセトンアルコール(9.92)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(9.84)、1−ブタノール(9.88)、3−(2−エチルヘキシル)−1、2プロパンジオール(9.87)、2−プロパノール(9.71)、1−ペンタノール(9.57)、1−ヘキサノール(9.36)、及び1−オクタノール(9.08)(括弧内の数値はSP値である)からなる群より選ばれる1種以上である、〔1〕又は〔2〕記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔7〕好ましくは、前記式(I)で表される化合物の含有量が0.1質量%以上かつ90質量%以下である、〔1〕〜〔6〕のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔8〕好ましくは、前記有機溶媒の含有量が10質量%以上かつ99.9質量%以下である、〔1〕〜〔7〕のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔9〕好ましくは、前記式(I)で表される化合物及び前記有機溶媒の含有量が、それぞれ0.1〜90質量%及び10〜99.9質量%である、〔1〕〜〔8〕のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔10〕好ましくは、前記式(I)で表される化合物(A)と前記有機溶媒(B)との質量比(A)/(B)が0.01以上かつ9以下である、〔1〕〜〔9〕のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔11〕好ましくは、前記式(I)で表される化合物と前記有機溶媒の合計含有量が50質量%以上かつ好ましくは100質量%以下である、〔1〕〜〔10〕のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔12〕好ましくは、対象水中での前記式(I)で表される化合物の濃度が0.1ppm以上かつ1000ppm以下になる量で使用される、〔1〕〜〔11〕のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔13〕好ましくは、対象水中での前記有機溶媒の濃度が1ppm以上かつ5000ppm以下になる量で使用される、〔1〕〜〔12〕のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔14〕好ましくは、対象水中での前記式(I)で表される化合物の濃度及び前記有機溶媒の濃度が、それぞれ0.1〜1000ppm及び1〜5000ppmになる量で使用される、〔1〕〜〔13〕のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
〔15〕好ましくは、前記バイオフィルムが、水を流す又は貯留することによって機能する設備におけるバイオフィルム、又は該設備に流れる又は貯留される水におけるバイオフィルムである、〔1〕〜〔14〕のいずれか1項記載のバイオフィルム形成抑制用組成物。
【0055】
〔16〕〔1〕〜〔15〕のいずれか1項記載の式(I)で表される化合物と有機溶媒とを含有するバイオフィルム形成抑制用組成物を、対象水に添加することを含む、バイオフィルム形成抑制方法。
〔17〕好ましくは、前記バイオフィルム形成抑制用組成物を添加された前記対象水中における前記式(I)で表される化合物の濃度が0.1ppm以上かつ1000ppm以下となるように、該組成物が該対象水に添加される、〔16〕記載の方法。
〔18〕好ましくは、前記バイオフィルム形成抑制用組成物を添加された前記対象水中における前記有機溶媒の濃度が1ppm以上かつ5000ppm以下となるように、該組成物が該対象水に添加される、〔16〕又は〔17〕記載の方法。
〔19〕好ましくは、前記バイオフィルム形成抑制用組成物を添加された前記対象水中における前記式(I)で表される化合物及び前記有機溶媒の濃度が、それぞれ0.1〜1000ppm及び1〜5000ppmとなるように、該組成物が該対象水に添加される、〔16〕〜〔18〕のいずれか1項記載の方法。
〔20〕前記対象水全量に対して0.1〜1000ppmの前記式(I)で表される化合物が添加される、〔16〕記載の方法。
〔21〕前記対象水全量に対して1〜5000ppmの前記有機溶媒が添加される、〔16〕又は〔20〕記載の方法。
〔22〕前記対象水全量に対して0.1〜1000ppmの前記式(I)で表される化合物と、1〜5000ppmの前記有機溶媒が添加される、〔16〕、〔20〕又は〔21〕記載の方法。
〔23〕好ましくは、前記対象水中での前記式(I)で表される化合物又は有機溶媒の濃度を2週間以上維持することをさらに含む、〔17〕〜〔19〕のいずれか1項記載の方法。
〔24〕好ましくは、前記バイオフィルムが、水を流す又は貯留することによって機能する設備におけるバイオフィルム、又は該設備に流れる又は貯留される水におけるバイオフィルムである、〔16〕〜〔23〕のいずれか1項記載の方法。
〔25〕前記対象水が、好ましくは水を流す又は貯留することによって機能する設備に流れる又は貯留されている水であり、より好ましくは水冷式冷却塔の冷却水である、〔16〕〜〔24〕のいずれか1項記載の方法。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
(試薬及び培地)
A成分:式(I)化合物
4−ヒドロキシ−3−メチルベンズアルデヒド(シグマ社製)
B成分:有機溶媒(括弧内はSP値)
ジエチレングリコールモノメチルエーテル(10.64)(和光純薬)
3−(2エチルヘキシル)−1,2−プロパンジオール(9.87)(商品名、ペネトールGE−EH、アクティブ90% 花王株式会社)
ジメチルホルムアミド(10.2)(和光純薬)
培地
R2A培地(和光純薬)
【0058】
(試験液の調製)
表1に示すように式(I)化合物と有機溶媒とを混合し、試験液を調製した。
【0059】
【表1】
【0060】
試験例1 バイオフィルム抑制試験
1)試験菌懸濁液の調製
水冷式冷却塔から採取した冷却水より単離したバイオフィルム形成菌について、試験液無添加のR2A培地を用いて下記2)〜3)と同様の手順で培養し、バイオフィルム形成量(OD570)を測定した。OD570が0.7以上となる菌を選択し、R2A培地で30℃、24時間振とう培養した。得られた培養液の濁度(OD600)を測定し、R2A培地で希釈して105cfu/mLの懸濁液を調製した。
【0061】
2)培養
上記1)で調製した試験菌の懸濁液と表1記載の試験液を用いて培養液を調製し、96ウェルマイクロプレートの各ウェルに150μL添加して、培養を開始した。培養液中における式(I)化合物の濃度が30ppmとなるように試験液の添加量を調整した。対照として、試験液の代わりに水を添加した。
【0062】
3)バイオフィルム量の測定
上記96ウェルマイクロプレートを30℃、48時間静置培養した後、培養液を除き水で洗浄した。続いて、各ウェルを0.1%クリスタルバイオレットで染色した後、200μLのエタノールを添加し、吸光度(OD570)を測定することによってバイオフィルム(BF)形成量を求めた。
【0063】
4)結果
バイオフィルム形成抑制試験の結果を表2に示す。式(I)化合物の濃度が30ppmでバイオフィルム形成抑制効果があった。また、式(I)化合物によるバイオフィルム形成抑制効果は、A/Bの値が増加するにつれて向上した。
【0064】
【表2】