(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛み合う外歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させるクランク軸と、前記外歯歯車の軸方向側部に配置されるキャリヤと、前記キャリヤに支持され前記外歯歯車を貫通する内ピンと、前記内ピンに外嵌される内ローラと、を備える偏心揺動型減速装置であって、
前記内歯歯車は、内歯歯車本体と、前記内歯歯車本体に支持される複数の外ピンとを有し、
前記外歯歯車は、第1貫通孔を有する第1外歯歯車と、前記第1外歯歯車に対して軸方向に並べられるとともに第2貫通孔を有する第2外歯歯車と、を含み、
前記内ローラは、前記第1貫通孔内に配置される第1内ローラと、前記第2貫通孔内に配置される第2内ローラと、を含み、
前記第1外歯歯車と前記第2外歯歯車の間に配置される規制部材を更に備え、
前記規制部材は、
前記第1内ローラ及び前記第2内ローラの軸方向の変位を規制する第1変位規制部と、
前記第1変位規制部の径方向外側に設けられ、前記第1外歯歯車及び前記第2外歯歯車の軸方向の変位を規制する第2変位規制部と、
前記第2変位規制部の径方向外側に設けられ、前記外ピンの径方向内側への離脱を防止する離脱防止部と、を有し、
前記外ピンの軸方向両側には、前記外ピンの径方向内側への離脱を防止するための部材が配置されていない偏心揺動型減速装置。
前記第1貫通孔と前記第1内ローラの接触範囲の軸方向中心と、前記第1外歯歯車と前記外ピンの接触範囲の軸方向中心とは、径方向から見て重なるように設けられる請求項1から5のいずれかに記載の偏心揺動型減速装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。
【0011】
図1は、本実施形態の偏心揺動型減速装置10を示す側面断面図である。偏心揺動型減速装置10は、クランク軸12により外歯歯車16−A、16−Bを揺動させることで内歯歯車18と外歯歯車16−A、16−Bの間に相対回転を発生させ、その相対回転を出力可能である。本実施形態では、内歯歯車18の軸心の位置にクランク軸12が配置されるセンタークランク型の偏心揺動型減速装置10を説明する。
【0012】
減速装置10は、主に、クランク軸12と、偏心軸受14−A、14−Bと、外歯歯車16−A、16−Bと、内歯歯車18と、キャリヤ20−A、20−Bと、内ピン22と、内ローラ24−A、24−Bと、ケーシング26と、主軸受28−A、28−Bと、規制部材30とを備える。本実施形態の減速装置10は規制部材30に多くの特徴があるが、先に周辺構造から説明する。
【0013】
クランク軸12は、回転中心線Lc周りに回転可能である。以下、クランク軸12の回転中心線Lcに沿った方向を軸方向Xとする。また、クランク軸12の回転中心線Lcを中心とする円の円周方向、半径方向に関して、単に「周方向」、「径方向」という。
【0014】
クランク軸12は、入力軸部32と、偏心部34−A、34−Bとを有する。入力軸部32の軸方向Xの一方側端部32aはモータ等の駆動源に接続される。入力軸部32は、駆動源から入力される動力により回転中心線Lc周りに回転させられる。以下、説明の便宜上、軸方向Xの一方側(
図1中右側)を入力側、他方側(
図1中左側)を反入力側として説明する。
【0015】
偏心部34−A、34−Bは、入力軸部32と一体的に回転可能に設けられる。本実施形態の偏心部34−A、34−Bは、入力軸部32と同じ部材の一部として設けられるが、入力軸部32とは別体に設けられてもよい。偏心部34−A、34−Bには、入力側に設けられる第1偏心部34−Aと、反入力側に設けられる第2偏心部34−Bとが含まれる。第1偏心部34−Aの軸心Scaと第2偏心部34−Bの軸心Scbは、クランク軸12の回転中心線Lcに対して偏心量eだけ偏心している。本実施形態では、第1偏心部34−Aと第2偏心部34−Bは回転中心線Lから互いに正反対の方向に偏心している。以下、共通点のある別々の構成要素に関して、名称の冒頭に「第1、第2」と付し、符号の末尾に「−A、−B」と付して区別した場合、総称するときはこれらを省略する。
【0016】
偏心軸受14−A、14−Bは、クランク軸12の偏心部34の径方向外側に設けられ、その偏心部34に対応する外歯歯車16−A、16−Bを回転自在に支持させる。偏心軸受14−A、14−Bは、クランク軸12の第1偏心部34−Aと第2偏心部34−Bのそれぞれに対応する第1偏心軸受14−Aと第2偏心軸受14−Bを含む。
【0017】
偏心軸受14は、転がり軸受である。本実施形態の偏心軸受14は、主に、内輪14aと、複数の転動体14bとを有する。本実施形態の転動体14bはころであり、外歯歯車16−A、16−Bとクランク軸12の偏心部34の間に配置される。転動体14bは、回転中心線Lc周りに周方向に間を置いて設けられる。本実施形態の偏心軸受14は、専用の外輪を有していない。この代わりに、外歯歯車16−A、16−Bの中央孔16b(後述する)の内周面が外輪の機能を果たす。
【0018】
外歯歯車16−A、16−Bは、偏心軸受14を介してクランク軸12の偏心部34に回転自在に支持される。外歯歯車16−A、16−Bは、クランク軸12の第1偏心部34−Aと第2偏心部34−Bのそれぞれに対応する第1外歯歯車16−Aと第2外歯歯車16−Bが含まれる。第2外歯歯車16−Bは、第1外歯歯車16−Aに対して軸方向Xに並べられる。第1外歯歯車16−Aと第2外歯歯車16−Bは位相が異なるだけで、単体の部材としては同一の部材である。外歯歯車16は、対応するクランク軸12の偏心部34によって、自らの軸心が回転中心線Lc周りを回転するように揺動させられる。
【0019】
外歯歯車16の外周部には複数の外歯部16aが周方向に間を置いて形成される。外歯歯車16には、自らの中央部を貫通する中央孔16bが形成され、中央孔16bの内側にはクランク軸12や偏心軸受14が配置される。第1外歯歯車16−Aには、自らの軸心から径方向にオフセットした位置にて周方向に間隔を空けて複数の第1貫通孔36−Aが形成される。第2外歯歯車16−Bにも、自らの軸心から径方向にオフセットした位置にて周方向に間隔を空けて複数の第2貫通孔36−Bが形成される。
【0020】
内歯歯車18は、複数の外歯歯車16の外周側に設けられ、外歯歯車16と噛み合う。内歯歯車18は、ケーシング26と一体化された内歯歯車本体18aと、内歯歯車本体18aに支持される複数の外ピン18bとを有する。
図2は、
図1のA−A線断面図である。
図1、
図2に示すように、内歯歯車本体18aには複数のピン溝18cが周方向に間隔を空けて形成され、ピン溝18cには外ピン18bが回転自在に収められる。外ピン18bは内歯歯車18の内歯を構成する。本実施形態の外ピン18bは円柱状をなす。内歯歯車18の内歯数(外ピン18bの数)は、本実施形態において、外歯歯車16の外歯数より一つ多い。
【0021】
図1を参照する。キャリヤ20−A、20−Bは、外歯歯車16の軸方向側部に配置される。詳しくは、キャリヤ20−A、20−Bは、複数の外歯歯車16に対して軸方向Xの両側に配置される。キャリヤ20−A、20−Bは、複数の外歯歯車16に対して入力側に配置される第1キャリヤ20−Aと、反入力側に配置される第2キャリヤ20−Bとを含む。
【0022】
本実施形態のキャリヤ20は、外歯歯車16が揺動して自転したとき、その自転成分と同期して回転することで、その自転成分を出力する出力部材として機能する。本実施形態のキャリヤ20は、円盤状をなしている。キャリヤ20には径方向の中央部を貫通する貫通穴20aが形成される。貫通穴20aの内周側にはクランク軸受38が配置され、キャリヤ20はクランク軸受38を介してクランク軸12を回転自在に支持する。本実施形態のクランク軸受38は玉軸受等の転がり軸受けである。
【0023】
内ピン22は、第1キャリヤ20−Aと第2キャリヤ20−Bのそれぞれに形成されるピン孔20bに両端部が圧入される。これにより、内ピン22は、第1キャリヤ20−Aと第2キャリヤ20−Bに支持されるとともに、第1キャリヤ20−Aと第2キャリヤ20−Bに一体化される。本実施形態の内ピン22は円柱状をなす。内ピン22は、外歯歯車16の複数の貫通孔36のそれぞれを軸方向Xに貫通する。なお、内ピン22は、第1キャリヤ20−A及び第2キャリヤ20−Bの一方に一体的に形成されてもよい。
【0024】
本実施形態の内ローラ24−A、24−Bは、内ピン22と別部材とされ、内ピン22に摺動自在に外嵌される。内ローラ24−A、24−Bは、第1外歯歯車16−Aの第1貫通孔36−A内に配置される第1内ローラ24−Aと、第2外歯歯車16−Bの第2貫通孔36−B内に配置される第2内ローラ24−Bとを含む。
【0025】
本実施形態の内ローラ24は円筒状の断面形状をなす。内ローラ24は、対応する外歯歯車16の貫通孔36と内ピン22との双方に転がり接触する。これにより、外歯歯車16の貫通孔36と内ピン22とが直接にすべり接触するより摩擦抵抗を軽減できる。内ローラ24の外径は、内ローラ24が挿通される外歯歯車16の貫通孔36の内径よりも小さくなるように設定される。
【0026】
ケーシング26は、全体として筒状をなす。ケーシング26の内周側には、外歯歯車16、キャリヤ20等の内部部品が配置される。
【0027】
主軸受28−A、28−Bは、ケーシング26とキャリヤ20の間に配置され、ケーシング26にキャリヤ20を回転自在に支持させる。主軸受28−A、28−Bは、ケーシング26と第1キャリヤ20−Aの間に配置される第1主軸受28−Aと、ケーシング26と第2キャリヤ20−Bの間に配置される第2主軸受28−Bとを含む。本実施形態の主軸受28は玉軸受等の転がり軸受である。
【0028】
以上の減速装置10の動作を説明する。
駆動源から入力される動力によりクランク軸12が回転中心線Lc周りに回転すると、クランク軸12により外歯歯車16が揺動する。このとき、外歯歯車16は、自らの軸心が回転中心線Lc周りを回転するように揺動する。外歯歯車16が揺動すると、外歯歯車16と内歯歯車18の噛合位置が順次ずれる。この結果、クランク軸12が一回転する毎に、外歯歯車16と内歯歯車18との歯数差に相当する分、外歯歯車16と内歯歯車18の間で相対回転(自転)が生じる。本実施形態では、内歯歯車18に対して外歯歯車16が自転し、その自転成分が出力部材となるキャリヤ20から出力される。このとき、外歯歯車16の自転成分は内ローラ24及び内ピン22を介してキャリヤ20に伝達される。クランク軸12の回転は、外歯歯車16と内歯歯車18の歯数差に応じた減速比で減速されて、出力部材となるキャリヤ20から出力される。
【0029】
規制部材30の説明に移る。
図3は、
図1の一部の拡大図である。
図2、
図3に示すように、規制部材30は、いわゆる差し輪とよばれる輪状部材である。規制部材30は、第1外歯歯車16−Aと第2外歯歯車16−Bの間であって、複数の内ピン22と複数の外ピン18bの間に配置される。規制部材30は、第1変位規制部30aと、第2変位規制部30bと、離脱防止部30cとを有する。
【0030】
第1変位規制部30aは、輪状部材である規制部材30の内周部を構成する輪状部分である。第1変位規制部30aは、第1内ローラ24−Aや第2内ローラ24−Bと軸方向Xに対向する。第1内ローラ24−Aや第2内ローラ24−Bは、第1外歯歯車16−Aや第2外歯歯車16−Bの揺動に伴い動いたとき、回転中心線Lcから自らの軸心までの径方向寸法が一定の範囲で増減するように変化する。第1変位規制部30aは、このように第1内ローラ24−Aや第2内ローラ24−Bが動くとき、第1内ローラ24−Aや第2内ローラ24−Bの径方向位置によらず、第1内ローラ24−Aや第2内ローラ24−Bの一部と軸方向Xに重なるように設けられる。第1変位規制部30aは、第1内ローラ24−A及び第2内ローラ24−Bの軸方向Xの端面に当接することにより、第1内ローラ24−A及び第2内ローラ24−Bの軸方向Xの変位(移動)を規制する。
【0031】
第2変位規制部30bは、第1変位規制部30aの径方向外側に設けられる輪状部分である。第2変位規制部30bは、第1外歯歯車16−Aや第2外歯歯車16−Bと軸方向Xに対向する。第2変位規制部30bは、第1外歯歯車16−Aや第2外歯歯車16−Bが揺動したとき、第1外歯歯車16−Aや第2外歯歯車16−Bの一部と軸方向Xに重なる箇所であって、第1内ローラ24−Aや第2内ローラ24−Bと軸方向Xに重ならない箇所に設けられる。第2変位規制部30bは、第1外歯歯車16−A及び第2外歯歯車16−Bの軸方向Xの端面に当接することにより、第1外歯歯車16−A及び第2外歯歯車16−Bの軸方向Xの変位(移動)を規制する。
【0032】
以上の規制部材30は、第1キャリヤ20−Aの軸方向Xの内端面との間で第1外歯歯車16−Aや第1内ローラ24−Aを軸方向Xに位置決めする。また、規制部材30は、第2キャリヤ20−Bの軸方向Xの内端面との間で第2外歯歯車16−Bや第2内ローラ24−Bを軸方向Xに位置決めする。
【0033】
規制部材30の離脱防止部30cは、第2変位規制部30bの径方向外側に設けられる。離脱防止部30cは、輪状部材である規制部材30の外周部を構成する輪状部分である。離脱防止部30cは、外ピン18bと径方向に対向する。離脱防止部30cは、外ピン18bに径方向内側から外周面が当接することにより、内歯歯車本体18aのピン溝18cからの外ピン18bの離脱を防止する。本実施形態の離脱防止部30cは、複数の外ピン18bのそれぞれに当接することにより、複数の外ピン18bそれぞれの離脱を防止している。本実施形態の離脱防止部30cの外周面は、全周に亘り連なる円形状をなしている。なお、規制部材30は、複数の外ピン18bのそれぞれに径方向内側から離脱防止部30cの外周面が当接することにより、径方向に位置決めされる。
【0034】
以上の減速装置10の効果を説明する。
規制部材30は、内ローラ24の変位を規制する第1変位規制部30aや、外歯歯車16の変位を規制する第2変位規制部30bの他に、外ピン18bの離脱を防止する離脱防止部30cを有する。よって、内ローラ24や外歯歯車16の変位を規制する規制部材30を用いて、外ピン18bの離脱を防止できる。これに伴い、特許文献1に記載のような、外ピン18bの離脱を防止するための外ピン押さえが不要となる。別の観点から見ると、本実施形態の減速装置10では、外ピン18bの軸方向両側には、外ピン18bの離脱を防止するための外ピン18bに専用の部材が配置されていないといえる。これにより、減速装置10の部品点数の削減を図れ、減速装置10の製品コストを削減できる。
【0035】
次に、減速装置10の他の特徴を説明する。
図2を参照する。減速装置10の軸方向Xに直交する断面において、クランク軸12の回転中心線Lcと同心であり、複数の内ピン22に外接する最大径の外接円Caを考える。この最大径の外接円Caは、内ピン22の外周面の径方向外側部分に外接している。規制部材30の内径(半径)Raは、この外接円Caの半径Rbより大きくなるように設定される。別の観点からみると、規制部材30は、複数の内ピン22と接触せずに、複数の内ピン22より径方向外側に設けられているといえる。これにより、外歯歯車16の揺動に伴い内ピン22が回転中心線Lc周りに回転したとき、規制部材30と内ピン22の間で回転抵抗が生じる事態を避けられ、内ピン22をスムーズに回転させられる。
【0036】
図3を参照する。規制部材30の離脱防止部30cは、第1外歯歯車16−Aの揺動時に第1外歯歯車16−Aの角部16cと規制部材30が軸方向Xに重なる箇所に少なくとも設けられる。ここでの「角部16c」とは、言及している外歯歯車16の外周部と軸方向端面とがなす角部16cである。外歯歯車16の外周部に面取り部が設けられる場合は、面取り部と軸方向端面とがなす角部である。第1外歯歯車16−Aと第2外歯歯車16−Bは位相が異なるだけであるので、規制部材30の離脱防止部30cと第2外歯歯車16−Bとの間でも同様の関係が成立する。第1外歯歯車16−Aは、その揺動時に回転中心線Lcから角部16cまでの径方向寸法が変化する。
図3では、この径方向寸法が最小となる場合を示す。前述した内容を別の観点からいうと、規制部材30の離脱防止部30cは、この径方向寸法が最小となるときの角部16cと軸方向Xに重なる箇所より径方向内側から径方向外側に向けて延びるように設けられる。なお、規制部材30の第1変位規制部30aや第2変位規制部30bは、第1外歯歯車16−Aの揺動時の位置によらず、その角部16cと軸方向Xに重ならない位置に設けられる。
【0037】
前述の離脱防止部30cの軸方向幅Waは、第2変位規制部30bの軸方向幅Wbより小さくなるように設定される。これは、離脱防止部30cは、第1外歯歯車16−Aや第2外歯歯車16−Bの角部16cから軸方向Xに隙間を空けて設けられていることを意味する。この利点を説明する。
【0038】
外歯歯車16は、通常、外ピン18bとの接触に伴う摩耗を防止するため、熱処理により高硬度化されている。このため、高硬度である外歯歯車16の角部16cと規制部材30が接触すると、規制部材30の摩耗により寿命の低下が懸念される。この対策として、規制部材30も外歯歯車16と同程度の硬度となるように熱処理するとなると、規制部材30のコストアップを招く。この点、本実施形態によれば、規制部材30の離脱防止部30cは、第1外歯歯車16−Aや第2外歯歯車16−Bの角部16cから軸方向Xに隙間を空けて設けられる。よって、外歯歯車16の角部16cと規制部材30の接触を避けられ、その接触に伴う摩耗を防止でき、規制部材30の寿命の低下を防止できる。特に、このような効果を規制部材30に熱処理を施すことなく得られ、熱処理に伴うコストアップを防止できる点で利点がある。また、樹脂を用いて規制部材30を構成できるようになる利点もある。
【0039】
なお、本実施形態では、第1変位規制部30aの軸方向幅Wcと第2変位規制部30bの軸方向幅Wbとは同じ(同等)である。
【0040】
前述の通り、外ピン18bの軸方向両側には、外ピン18bの離脱を防止するための部材が配置されておらず、主軸受28が配置される。主軸受28の外輪28aは、締まり嵌め、中間嵌め等によりケーシング26に一体化される。この主軸受28の外輪28aは、外ピン18bの軸方向端面に当接している。詳しくは、一対の主軸受28−A、28−Bそれぞれの外輪28aの軸方向端面は、外ピン18bの軸方向両側の端面に当接している。この利点を説明する。
【0041】
外ピン18bは、外歯歯車16との接触による摩耗を防ぐ観点から、焼入れ等の熱処理により高硬度化されている。この外ピン18bに当接する部材も、外ピン18bとの接触による摩耗を防ぐ観点から、焼入れ等の熱処理により高硬度化することが好ましい。ここで、特許文献1に記載の外ピン押さえのような、外ピン18bに専用の部材に熱処理を施すとなると、熱処理による歪みを除去するための平面研磨を要し、そのことも相まって部品コストの増大を招く。
【0042】
この点、主軸受28の外輪28aは、通常、主軸受28の転動体28bとの接触による摩耗を防ぐ観点から、もともと、焼入れ等の熱処理により高硬度化されている。よって、外ピン18bに当接する部材として熱処理により高硬度化された部材を準備するにあたり、外ピン18bに専用の部材を高硬度化する場合と比べ、熱処理工数の増大を抑えられ、減速装置10の製品コストの削減を図れる。
【0043】
また、外輪28aは、外ピン18bと同程度の硬さとなるように熱処理されている。よって、外輪28aと外ピン18bの間で摩耗粉が生じ難くなり、その摩耗粉による潤滑油の劣化を防止することで、減速装置10の寿命の向上を図れる。なお、ここでの同程度とは、たとえば、外ピン18bの硬度に対してビッカース硬さで150Hv以内の範囲である。
【0044】
図1を参照する。第1外歯歯車16−Aの第1貫通孔36−Aと第1内ローラ24−Aの接触範囲の軸方向中心をCb1とする。第1外歯歯車16−Aの外歯部16aと内歯歯車18の外ピン18bの接触範囲の軸方向中心をCb2とする。また、第1外歯歯車16−Aの中央孔16bと第1偏心軸受14−Aの転動体14bとの接触範囲の軸方向中心をCb3とする。
【0045】
このとき、第1外歯歯車16−Aと第1内ローラ24−Aの接触範囲の軸方向中心Cb1と、第1外歯歯車16−Aと外ピン18bの接触範囲の軸方向中心Cb2とは、径方向から見て重なるように設けられる。これは、これらの軸方向Xでの位置が一致又はほぼ一致することを意味する。これにより、これらが軸方向Xにずれている場合と比べ、第1外歯歯車16−Aの軸心が回転中心線Lcに対して傾斜するような転倒モーメントが第1外歯歯車16−Aに生じ難くなり、減速装置10の寿命の向上を図れる。
【0046】
また、同様の観点から、第1外歯歯車16−Aと第1内ローラ24−Aの接触範囲の軸方向中心Cb1と、第1外歯歯車16−Aと転動体14bの接触範囲の軸方向中心Cb3とも、径方向から見て重なるように設けられる。これにより、これらが軸方向Xにずれている場合と比べ、前述の転倒モーメントが第1外歯歯車16−Aに更に生じ難くなり、減速装置10の寿命の向上を効果的に図れる。
【0047】
なお、ここでは、第1外歯歯車16−A、外ピン18b、第1内ローラ24−A及び第1偏心軸受14−Aの間での関係について説明したが、第2外歯歯車16−B、外ピン18b、第2内ローラ24−B及び第2偏心軸受14−Bの間でも同様の関係が成立する。たとえば、第2外歯歯車16−Bと第2内ローラ24−Bの接触範囲の軸方向中心Cc1と、第2外歯歯車16−Bと外ピン18bの接触範囲の軸方向中心Cc2とも、径方向から見て重なるように設けられる。また、第2外歯歯車16−Bと第2内ローラ24−Bの接触範囲の軸方向中心Cc1と、第2外歯歯車16−Bと第2偏心軸受14−Bの転動体14bの接触範囲の軸方向中心Cc3とも、径方向から見て重なるように設けられる。
【0048】
図3を参照する。外ピン18bは、径方向から見て外歯歯車16の軸方向全範囲と重なるような軸方向寸法である。本実施形態の外ピン18bは、径方向から見て第1外歯歯車16−Aの軸方向全範囲及び第2外歯歯車16−Bの軸方向全範囲と重なるような軸方向寸法である。
【0049】
第1外歯歯車16−Aの外歯部16aは、径方向から見て外ピン18bと第1外歯歯車16−Aが重なる範囲の全域に亘り形成される。ここでの「全域」とは、外ピン18bと第1外歯歯車16−Aが径方向に重なる範囲と同じ領域と、その範囲とほぼ同じ領域との両方が含まれる。外歯部16aは、この外ピン18bと径方向に重なる範囲の全域に亘って、歯底から歯先にかけての少なくとも一部が形成されていればよい。たとえば、外ピン18bと第1外歯歯車16−Aが径方向に重なる範囲の一部では、外歯部16aの歯先側部分が切り欠かれていてもよい。これにより、外ピン18bと第1外歯歯車16−Aが径方向に重なる範囲の一部にしか第1外歯歯車16−Aの外歯部16aが形成されない場合と比べ、外ピン18bと第1外歯歯車16−Aの軸方向Xでの接触範囲を長くできる。この比較の対象となる場合とは、たとえば、特許文献1に記載のように、第1外歯歯車16−Aの外周部に切り欠きを形成した場合である。この外ピン18bと第1外歯歯車16−Aの接触範囲を長くすることで、両者の間での接触面圧を低減でき、減速装置10の寿命の向上を図れる。
【0050】
なお、ここでは、第1外歯歯車16−Aと外ピン18bの関係について説明したが、第2外歯歯車16−Bと外ピン18bの間でも同様の関係が成立する。たとえば、第2外歯歯車16−Bの外歯部16aは、径方向から見て外ピン18bと第2外歯歯車16−Bが重なる範囲の全域に亘り形成される。
【0051】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0052】
本実施形態では、センタークランク型の偏心揺動型減速装置を例に説明したが、その種類は特に限定されない。たとえば、内歯歯車18の軸心から径方向にオフセットした位置に複数のクランク軸が配置される振り分け型の偏心揺動型減速装置に適用されてもよい。
【0053】
本実施形態では、外歯歯車16の揺動により内歯歯車18に対して外歯歯車16を自転させ、その自転成分を出力部材となるキャリヤ20から出力する例を説明した。この他にも、外歯歯車16の揺動により外歯歯車16に対して内歯歯車18を自転させ、その自転成分を出力部材となるケーシング26から出力してもよい。
【0054】
実施形態では、二つの外歯歯車16が用いられる例を説明したが、外歯歯車16の数は特に限定されず、三つ以上の外歯歯車16が用いられてもよい。この場合、実施形態や本変形例で説明する規制部材30が各外歯歯車16の間に配置されていてもよい。
【0055】
規制部材30は輪状部材である例を説明したが、その形状はこれに限定されない。また、規制部材30の内径は、クランク軸12の回転中心と同心の外接円Caの半径より大きい例を説明したが、これに限られない。たとえば、規制部材30の内径は、この外接円Caの半径と同じでもよい。
【0056】
規制部材30の離脱防止部30cは、第2変位規制部30bより軸方向幅が小さい例を説明したが、第2変位規制部30bと同じ軸方向幅でもよい。また、規制部材30の第1変位規制部30aと第2変位規制部30bとは異なる軸方向幅でもよい。
【0057】
外ピン18bの軸方向両側に配置される部材として主軸受28を例示したが、外ピン18bの離脱を防止するための専用の部材でなければよく、その具体例は特に限定されない。たとえば、主軸受28の他にも、主軸受28の予圧の調整を目的として主軸受28と外ピン18bの間に配置される予圧調整部材でもよい。
【0058】
外歯歯車16と内ローラ24の接触範囲の軸方向中心、外歯歯車16と外ピン18bの接触範囲の軸方向中心、外歯歯車16と転動体の接触範囲の軸方向中心は、径方向から見て重なるように設けられる例を説明した。これに限定されず、これらは径方向から見て軸方向にずれていてもよい。
【0059】
外ピン18bは、径方向から見て、第1外歯歯車16−Aの全体や第2外歯歯車16−Bの全体と重なるような軸方向寸法である例を説明した。外ピン18bの軸方向寸法はこれに限定されない。また、第1外歯歯車16−Aの外歯部は、第1外歯歯車16−Aの軸方向Xの一部で切り欠いた形状でもよい。第2外歯歯車16−Bも同様である。