(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記π共役系導電性高分子(a)が、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、およびポリチオフェンビニレン類からなる群から選択される1種以上を構成単位として有する重合体である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
前記可溶化高分子(b)がアニオン基を有し、前記アニオン基が、スルホン酸基、リン酸基およびカルボキシ基から選択される1種以上である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
前記可溶化高分子(b)が、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリル酸アルキレンスルホン酸、および2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸からなる群から選択される1種以上に基づく単量体単位を有する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪硬化性組成物≫
本発明の実施の形態に係る硬化性組成物は、π共役系導電性高分子(a)(以下、導電性高分子(a)ともいう。)と、可溶化高分子(b)と、硬化性オルガノポリシロキサンとを含む。さらに有機溶媒(c)を含むことが好ましい。また、必要に応じて、硬化性オルガノポリシロキサン以外の、硬化反応に寄与する硬化成分(架橋剤、触媒等)を含有する。
硬化性組成物は、導電性高分子(a)と、可溶化高分子(b)とを含む導電性高分子組成物(I)と、硬化性オルガノポリシロキサンを含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物(II)とを混合して製造することができる。
導電性高分子組成物(I)は有機溶媒(c)の一部を含有してもよい。
硬化性オルガノポリシロキサン組成物(II)は有機溶媒(c)の一部を含有してもよい。
硬化成分は、硬化性オルガノポリシロキサン組成物(II)に含有させてもよく、別途添加してもよい。
【0010】
[有機溶媒(c)]
有機溶媒(c)は、非水溶性有機溶媒(c1)を主成分とすることが好ましい。非水溶性有機溶媒以外の有機溶媒(c2)を含んでもよい。
非水溶性有機溶媒とは、20℃における水100gに対する溶解量が2g以下の有機溶媒を意味する。非水溶性有機溶媒は、低極性の有機溶媒であり、シリコーン等の疎水性の高い樹脂の溶解性に優れる。
一方、水溶性有機溶媒とは、20℃における水100gに対する溶解量が2g超の有機溶媒を意味する。
硬化性組成物が媒体(溶媒または分散媒)を含む場合、水を実質的に含まないことが好ましい。固形分を除いた残りの媒体の総質量に対して、非水溶性有機溶媒(c1)の含有量が10〜100質量%であり、残りが有機溶媒(c2)であることが好ましい。
【0011】
非水溶性有機溶媒(c1)としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系有機溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂肪族炭化水素系有機溶媒;クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン系有機溶媒が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
非水溶性有機溶媒(c1)が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、およびトリクロロエチレンからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0012】
有機溶媒(c2)は、非水溶性有機溶媒以外の有機溶媒であり、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の極性溶媒;クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等の鎖状エーテル類;3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物;アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物;からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0013】
<導電性高分子組成物(I)>
導電性高分子組成物(I)は、導電性高分子(a)と、可溶化高分子(b)とを含有する。
可溶化高分子(b)は、アニオン基および電子吸引基の少なくとも一方を有するとともに、クロロシリル基含有化合物と縮合可能な官能基(以下、官能基(X)ともいう。)を有し、官能基(X)の一部はクロロシリル基含有化合物誘導体と縮合している。
可溶化高分子(b)の、官能基(X)およびクロロシリル基含有化合物誘導体が導入される前の高分子を可溶化高分子前駆体(b’’)ともいう。
可溶化高分子前駆体(b’’)に官能基(X)が導入された高分子を官能基(X)含有高分子(b’)ともいう。
導電性高分子組成物において、可溶化高分子(b)中のアニオン基および電子吸引基の一部は、導電性高分子(a)に配位しており、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)とは複合体を形成している。
導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の複合体は、おおよそ数十ナノメータの粒子径を持つ微粒子をなし、該微粒子が媒体中に分散された分散液は、可視光領域では透明であって媒体中に溶解しているように見える。したがって、本発明では分散液と溶液、分散媒と溶媒とは厳密には区別されないものとする。
【0014】
[π共役系導電性高分子(a)]
導電性高分子(a)は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば使用できる。例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、およびポリチオフェンビニレン類からなる群から選択される1種以上に基づく構成単位を有する単独重合体またはブロック共重合体が挙げられる。重合の容易さ、空気中での安定性の点からは、ポリピロール類、ポリチオフェン類およびポリアニリン類が好ましい。
導電性高分子(a)は無置換のままでも、充分な導電性を得ることができるが、置換基を有していてもよい。例えば、導電性をより高めるために、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基等の置換基が導入されていてもよい。
【0015】
ポリピロール類の例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
【0016】
ポリチオフェン類の例としては、ポリ(チオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)等が挙げられる。
【0017】
ポリアニリン類の例としては、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
ポリアセチレン類の例としては、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン等が挙げられる。
ポリフェニレン類の例としては、ポリパラフェニレン、ポリナフチレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリピレン、等が挙げられる。
ポリフェニレンビニレン類の例としては、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン等が挙げられる。
これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
中でも、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、およびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選ばれる1種以上に基づく構成単位を有する単独重合体またはブロック共重合体が、抵抗値、反応性の点から好適に用いられる。
ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)は、導電性がより高い上に、耐熱性が向上する点から、より好ましい。
ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)のようなアルキル置換化合物は溶媒溶解性や、疎水性樹脂を添加した場合の相溶性及び分散性をより向上させるためより好ましい。アルキル基の中では導電性に悪影響を与えることが少ないため、メチル基が好ましい。
【0019】
[可溶化高分子(b)]
可溶化高分子(b)は、導電性高分子(a)と複合体を形成して、導電性高分子(a)の水分散性を高める高分子化合物であり、具体的には、アニオン基及び電子吸引基の少なくとも一方を有する高分子化合物である。
【0020】
[アニオン基を有する高分子化合物]
アニオン基を有する高分子化合物(以下、「ポリアニオン」という。)は、一分子中に複数のアニオン基を有する高分子化合物である。
本発明において、アニオン基と電子吸引基の両方を有する高分子化合物は、ポリアニオンに含まれるものとする。
【0021】
ポリアニオンは公知の方法で製造できる。例えば、アニオン基を有する単量体を重合する方法、またはアニオン基を有する単量体とアニオン基を有さない単量体を共重合する方法により得ることができる。これらの単量体は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、アニオン基を有さない高分子を得た後、硫酸、発煙硫酸、スルファミン酸等のスルホン化剤によりスルホン化することにより得ることもできる。さらに、アニオン基を有する高分子をいったん得た後に、さらにスルホン化することにより、アニオン基含量のより多いポリアニオンを得ることもできる。
【0022】
アニオン基を有する単量体は、重合可能な官能基と、アニオン基とを有する。
アニオン基としては、−O−SO
3−X
+、−SO
3−X
+、−COO
−X
+、−O−PO
4−X
+、−PO
4−X
+(各式においてX
+は水素イオンまたはアルカリ金属イオンを表す。)等が挙げられる。これらの中でも、導電性高分子(a)へのドーピング効果に優れる点から、硫酸エステル基(−O−SO
3−X
+)、スルホ基(−SO
3−X
+)、カルボキシ基(−COO
−X
+)が好ましく、−SO
3−X
+、−COO
−X
+がより好ましい。
アニオン基は、隣接して又は一定間隔をあけてポリアニオンの主鎖に配置されていることが好ましい。
アニオン基を有する単量体は、導電性高分子にドープされて複合体を形成するポリアニオンの単量体として公知のものを用いることができる。
【0023】
スルホ基を含有する単量体の好ましい例としては、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリル酸アルキレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸などが挙げられる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよく、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化ナトリウムなどの塩基で中和した塩の状態で使用してもよい。
【0024】
リン酸基を含有する単量体としては、例えば、3−クロロ−2−アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)アシッドホスフェート、モノ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)アシッドホスフェート、モノ(2−ヒドロキシプロピルアクリレート)アシッドホスフェート、モノ(2−ヒドロキシプロピルメタクリレート)アシッドホスフェート、モノ(3−ヒドロキシプロピルアクリレート)アシッドホスフェート、モノ(3−ヒドロキシプロピルメタクリレート)アシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェートなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせていてもよく、塩基で中和された塩の状態で使用してもよい。
【0025】
カルボキシ基を含有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびそれらの酸無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;等を挙げることができる。これらの単量体は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよく、塩基で中和された塩の状態で使用してもよい。
【0026】
アニオン基を有する単量体と共重合可能な、アニオン基を含まない他の単量体は、公知の化合物を適宜使用できる。例えば国際公開第2014/125827号の段落[0038]に記載の単量体が挙げられる。
【0027】
ポリアニオンの中でも、スルホ基を含有する単量体に基づく単量体単位を有する単独重合体または共重合体が好ましい。
具体的には、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリル酸アルキレンスルホン酸、および2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸からなる群から選択される1種以上に基づく単量体単位を有する単独重合体または共重合体が好ましく、スチレンスルホン酸に基づく単量体単位を有する単独重合体または共重合体がより好ましく、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0028】
ポリアニオンは置換基を有してもよい。置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、シアノ基、フェニル基、フェノール基、エステル基、アルコキシル基等が好ましい。溶媒への溶解性、耐熱性及び樹脂への相溶性等を考慮すると、アルキル基、ヒドロキシ基、フェノール基、エステル基がより好ましい。
アルキル基は、極性溶媒又は非極性溶媒への溶解性及び分散性、樹脂への相溶性及び分散性等を高くすることができ、ヒドロキシ基は、他の水素原子等との水素結合を形成しやすくでき、有機溶媒への溶解性、樹脂への相溶性、分散性、接着性を高くすることができる。また、シアノ基及びヒドロキシフェニル基は、極性樹脂への相溶性、溶解性を高くすることができ、しかも、耐熱性も高くすることができる。
上記置換基の中では、アルキル基、ヒドロキシ基、エステル基、シアノ基が好ましい。
【0029】
[電子吸引基を有する高分子化合物]
電子吸引基を有する高分子化合物は、電子吸引基を有する単量体に基づく単量体単位を有する単独重合体または共重合体である。電子吸引基として、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、カルボニル基、アセチル基から選ばれる少なくとも1種を有することが好ましい。特にシアノ基は極性が高く、導電性高分子(a)の溶媒溶解性をより高めることができる点で好ましい。また、バインダ樹脂との相溶性、分散性をより高くできる点で好ましい。
電子吸引性基を有する高分子化合物の具体例としては、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ヒドロキシ基あるいはアミノ基含有樹脂をシアノエチル化した樹脂(例えば、シアノエチルセルロース)、ポリビニルピロリドン、アルキル化ポリビニルピロリドン、ニトロセルロースなどが挙げられる。
【0030】
可溶化高分子(b)の分子量は、官能基(X)およびクロロシリル基含有化合物誘導体が導入される前の状態(可溶化高分子前駆体(b’’))で2万〜100万が好ましい。上記下限値以上であると導電性高分子(a)の可溶化効果が充分に得られやすく、上限値以下であると優れた導電性が得られやすい。
【0031】
可溶化高分子(b)中のアニオン基および電子吸引基の合計の含有量は、可溶化高分子前駆体(b’’)におけるアニオン基および電子吸引基の合計が、導電性高分子(a)の単量体単位1モルに対して0.1〜20モルの範囲であることが好ましく、1〜12モルの範囲であることがより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、導電性高分子(a)の可溶化効果が充分に得られやすい。一方、上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子(a)の相対的な含有量が充分に確保でき、優れた導電性が得られやすい。
ここで、導電性高分子(a)の単量体単位とは、導電性高分子(a)の構成単位を形成する繰り返し単位を意味する。例えば、導電性高分子(a)が「ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)」に基づく構成単位からなる重合体である場合、導電性高分子(a)の単量体単位の1モルは、「3、4−エチレンジオキシチオフェン」に基づく単位の1モルである。
【0032】
[クロロシリル基含有化合物と縮合可能な官能基]
可溶化高分子(b)には、クロロシリル基含有化合物と縮合可能な官能基(X)が導入されている。
官能基(X)としては、クロロシリル基含有化合物との縮合反応が容易である観点から、ヒドロキシ基およびシラノール基のいずれか一方または両方が好ましい。
可溶化高分子(b)の官能基(X)は、該可溶化高分子(b)中のアニオン基および電子吸引基とは異なることが好ましい。可溶化高分子(b)中のアニオン基および電子吸引基は、ヒドロキシ基およびシラノール基以外の基であることが好ましい。
【0033】
官能基(X)がヒドロキシ基およびシラノール基の一方または両方である場合、ヒドロキシ基を含む単量体および/またはアルコキシシリル基を含む単量体と、アニオン基を有する単量体および/または電子吸引基を有する単量体とを共重合することで、可溶化高分子前駆体(b’’)に、ヒドロキシ基および/またはシラノール基が導入された中間体を得ることができる。アルコキシシリル基は水中で容易に加水分解し、シラノールを生成することができる。
ヒドロキシ基を含む単量体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、2,3−ジヒドロキシプロピルアクリレート、プロピレングリコールモノアクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどが挙げられる。
アルコキシシリル基を含む単量体としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
ヒドロキシ基を含む単量体とアルコキシシリル基を含む単量体の合計は、アニオン基を有する単量体および電子吸引基を有する単量体の合計の1モルに対して、0.001から0.5モルが好ましい。0.001モルより多いとクロロシリル基含有化合物との縮合により有機溶媒に対する溶解性が充分得られやすく、0.5モルより少ないと導電性高分子(a)へのドーピングが充分になりやすく、導電率の高い導電性高分子複合体が得られやすい。
【0034】
また、可溶化高分子前駆体(b’’)に、ヒドロキシ基を導入する方法としては、可溶化高分子前駆体(b’’)のアニオン基に、オキシラン基およびオキセタン基の少なくとも一方を有する有機化合物(以下、オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物ともいう。)を反応させる方法が好ましい。
すなわち、可溶化高分子(b)の官能基(X)は、オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物から誘導される基の一部であることが好ましい。
オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物を、可溶化高分子前駆体(b’’)のアニオン基に開環付加させることにより、可溶化高分子前駆体(b’’)にヒドロキシ基を導入することができる。
また、アルコキシシリル基を有する、オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物を、水中で、可溶化高分子前駆体(b’’)のアニオン基に開環付加させることにより、可溶化高分子前駆体(b’’)にヒドロキシ基およびシラノール基を導入することができる。
オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物としては、オキシラン基若しくはオキセタン基を分子中に有していればどのような分子構造を持つ化合物でもよい。
オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物は、1分子中に1個のオキシラン基またはオキセタン基を有することが、凝集やゲル化を低減しやすい点で好ましい。
また、オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物は、導電性高分子の疎水性をより高め、低極性の有機溶媒との親和性をより高めるためには、アルキル基またはアルキレン基を有することが好ましく、1分子中のアルキル基とアルキレン基の炭素原子数の合計が6以上であることが好ましい。
オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物の分子量は、有機溶媒への分散性向上効果に優れる点で、50〜2,000が好ましく、70〜300がより好ましい。
オキシラン基含有有機化合物は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。オキセタン基含有有機化合物は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。オキシラン基含有有機化合物の1種以上とオキセタン基含有有機化合物の1種以上とを併用してもよい。
【0035】
可溶化高分子前駆体(b’’)と反応させる、オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物の量は、可溶化高分子前駆体(b’’)に対して、オキシラン基とオキセタン基含有化合物の合計が、質量比で1.0〜200倍であることが好ましく、5.0〜100倍がより好ましい。
また可溶化高分子前駆体(b’’)中のアニオン基の合計のモル比に対して、反応させるオキシラン基とオキセタン基の合計のモル比が、0.5〜200倍であることが好ましく、2.0〜100倍がより好ましい。
また可溶化高分子前駆体(b’’)中のアニオン基の当量に対して、付加したオキシラン基とオキセタン基の合計の当量比が、0.05〜20倍であることが好ましく、0.1〜10倍がより好ましい。
オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物の使用量が上記範囲の下限値以上であると、有機溶媒への分散性向上効果に優れ、上限値以下であると、余剰のオキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物が除去しにくい。
オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物の付加量が上記範囲の下限値以上であると、有機溶媒への分散性向上効果に優れ、上限値以下であると、余剰のオキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物が除去しにくい。
【0036】
単官能オキシラン基含有有機化合物の例としては、プロピレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシヘブタン、1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデ力ン、1,3−ブタジエンモノオキシド、1,2−エポキシテ卜ラデ力ン、グリシジルメチルエーテル、1,2−エポキシオクタデ力ン、1,2−エポキシヘキサデ力ン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert−ブチルグリシジルエーテル、1,2−エポキシエイコサン、2−(クロロメチル)−1,2−エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシ−9−デ力ン、2−(クロロメチル)−1,2−エポキシブタン、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−1H,1H,2H,2H,3H,3H−トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキシド、グリシジルブチレート、1,2−エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2−エポキシシクロドデ力ン、1−メチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロペンタデカン、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシ−1H,1H,2H,2H,3H,3H−ヘプタデカフルオロブタン、3,4−エポキシテトラヒドロフラン、ステアリン酸グリシジル、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシ琥珀酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキシド、α−ピネンオキシド、2,3−エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3−[2−(パーフルオロヘキシル)エトキシ]−1,2−エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5−へプタメチル−3−(3−グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10−エポキシ−1,5−シクロドデカジエン、4−tert−ブチル安息香酸グリシジル、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフエニル)プロパン、2−tert−ブチル−2−[2−(4−クロロフェニル)エチル]オキシラン、スチレンオキシド、グリシジルトリチルエーテル、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−フェニルプロピレンオキシド、コレステロール−5α,6α−エポキシド、スチルベンオキシド、3−メチル−3−フェニルグリシド酸エチル、N−プロピル−N−(2,3−エポキシプロピル)ペルフルオロ−n−オクチルスルホンアミド、(2S,3S)−1,2−エポキシ−3−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)−4−フェニルブタン、パルテノリド、N−グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4−グリシジルオキシ力ルバゾール、7,7−ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]などを例示できる。
【0037】
多官能オキシラン基含有化合物の例としては、1,7−オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4−ジエポキシブタン、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、イソシアヌル酸トリグリシジル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2:3,4−ジエポキシブタン、ポリエチレングリコール#200ジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどを例示できる。
【0038】
単官能オキセタン基含有化合物の例としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(=オキセタンアルコール)、2−エチルヘキシルオキセタン、(3−エチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート、(3−エチル−3−オキセタニル)メタアクリレートなどを例示できる。
【0039】
多官能オキセタン基含有化合物としては、キシリレンビスオキセタン、3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン、1,4−ベンゼンジカルボン酸,ビス{[3−エチル−3−オキセタニル]メチル}エステルなどを例示できる。
【0040】
[クロロシリル基含有化合物]
可溶化高分子(b)において、導入された官能基(X)の一部は、クロロシリル基含有化合物誘導体と縮合している。
クロロシリル基含有化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
R−Si(CH
3)
mCl
(3−m) ・・・(1)
(式中、Rは置換基を有してもよい炭素数6〜30のアルキル基、またはフェニル基であり、mは0、1、または2を表す。)
一般式(1)において、Rは炭素数8〜20のアルキル基がより好ましい。Rとしてのアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、直鎖状が好ましい。
一般式(1)において、mは0または1が好ましく、0がより好ましい。
クロロシリル基含有化合物中の塩素原子は、官能基(X)との縮合反応により消失し、または縮合反応後に置換され、可溶化高分子(b)中には残存していない場合がある。クロロシリル基含有化合物誘導体とは、このような、クロロシリル基含有化合物中の塩素原子が消失または置換された誘導体を意味する。塩素原子の置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、イソプロペノキシ基、メトキシ基、エトキシ基、またはアセトキシ基等が挙げられる。
【0041】
官能基(X)とクロロシリル基含有化合物とを縮合反応させる際の、クロロシリル基含有化合物の使用量は、官能基(X)含有高分子(b’)と導電性高分子(a)とを含有する前駆複合体の1質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜5.0質量部がより好ましい。クロロシリル基含有化合物の使用量が上記範囲の下限値以上であると有機溶媒への分散性が良好になりやすい。上限値以下であるとクロロシリル基含有化合物の縮合体に由来する異物が生成しにくくなる。
【0042】
導電性高分子組成物(I)は、固形分のほかに有機溶媒(c)を含んでもよい。
導電性高分子組成物(I)中の有機溶媒(c)は非水溶性有機溶媒(c1)を含むことが好ましい。導電性高分子組成物(I)中の有機溶媒(c)の総質量に対する非水溶性有機溶媒(c1)の含有量が10〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%がより好ましい。
【0043】
<導電性高分子組成物(I)の製造方法>
導電性高分子組成物(I)は、導電性高分子(a)と、官能基(X)含有高分子(b’)とを含有する前駆複合体を製造し、該前駆複合体にクロロシリル基含有化合物を縮合させる方法で製造できる。
前駆複合体において、官能基(X)含有高分子(b’)中のアニオン基および電子吸引基の一部は、導電性高分子(a)に配位している。
【0044】
前駆複合体は、以下の方法によって製造することができる。
(1)導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体を分散させた水分散液(または水溶液)からの製造方法
導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体を分散させた水分散液は、導電性高分子(a)を構成する単量体(a’)と、可溶化高分子前駆体(b’’)とを含む水溶液または水分散液中で、酸化剤の存在下で単量体(a’)を重合させることで得られる。
市販品の導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体の水分散液を用いてもよい。市販品の例としては、Heraeus社のPEDOT/PSS水分散液(商品名:Clevios)、アグファ社のPEDOT/PSS水分散液(商品名:Orgacon)などを挙げることができる。
【0045】
前駆複合体を得る方法としては、例えば、上記水分散液に、オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物を溶剤と共に添加し、可溶化高分子前駆体(b’’)のアニオン基に、オキシラン基および/またはオキセタン基を開環付加反応させる。このとき、開環付加によって生じたヒドロキシ基にさらにオキシラン基および/またはオキセタン基が開環付加してもよい。
上記反応で得られた反応液を濃縮、濾別あるいは乾固して、濃縮物または固体の前駆複合体が得られる。その後、好適には、得られた濃縮物あるいは固体を、有機溶媒(c)に溶解または分散させて前駆複合体分散液を得る。
【0046】
(2)凍結乾燥された導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体の固形物からの製造方法
前記固形物に、オキシラン基および/またはオキセタン基含有化合物が溶解する溶剤、および水の一方または両方を適量添加後、可溶化高分子前駆体(b’’)のアニオン基に、オキシラン基および/またはオキセタン基を開環付加反応させる。この反応で前駆複合体が生成する。
その後は上記(1)の方法と同様にして、前駆複合体分散液を得る。
【0047】
前駆複合体にクロロシリル基含有化合物を縮合させて、導電性高分子組成物を得る工程は、以下の方法で行うことができる。
上記手法で得た、前駆複合体分散液中には、水や上記反応で使用したアルコール類など、クロロシリル基含有化合物と縮合可能な化合物が存在する場合がある。従って、前処理として、このような官能基(X)含有高分子(b’)由来ではない化合物であって、クロロシリル基含有化合物と縮合可能な化合物を除去する処理を、必要に応じて行う。例えば水や上記反応で使用したアルコール類などよりも高沸点の溶媒を加え、蒸留等の操作で、沸点の低い水やアルコール類等を除去する方法が挙げられる。また、脱水剤等を用いてもよい。
必要に応じて前記の前処理を行った前駆複合体分散液に、クロロシリル基含有化合物を添加し、加熱して所定の温度に保持して縮合反応させる。加熱温度は20〜90℃、保持時間は0.5〜10時間が好ましい。次に、縮合反応後に残存したクロロシリル基は、水分等で容易に塩酸を発生するため、塩素原子を置換する後処理を行うことが好ましい。例えば、反応後に、水、アセトン、メタノール、エタノール、酢酸等を添加して、残存したクロロシリル基を、シラノール基、イソプロペノキシシリル基、メトキシシリル基、エトキシシリル基、アセトキシシリル基等に変換することが好ましい。このとき、縮合反応後の液温が高く、アセトン、メタノール、エタノール、酢酸等の添加が難しい場合には、液温を20〜60℃に低下させてもよい。水、アセトン、メタノール、エタノール、酢酸等の使用量は縮合反応に用いたクロロシリル基含有化合物100質量部に対して100〜10000質量部が好ましい。
こうして得た導電性高分子組成物は、残存した塩酸を除去するために、さらに、窒素ガスを吹き込みながら加熱や、減圧等の操作を行ってもよい。また、樹脂(d)として、例えば付加型シリコーンのように活性水素により硬化反応が阻害される樹脂と混合する場合には、蒸留等の操作により上記の後処理で使用した水、メタノール、エタノール、酢酸等を除去してもよい。
こうして得た導電性高分子組成物は、有機溶媒中での分散性を保ち、高い導電性を得るため、ホモジナイザや高圧ホモジナイザで処理してもよく、他の有機溶媒を加えてもよい。
【0048】
上記の製造方法によれば、前駆複合体に、クロロシリル基含有化合物誘導体を導入することにより疎水性が増し、非水溶性有機溶媒(低極性の有機溶媒)にも分散可能な導電性高分子となる。したがって、非水溶性有機溶媒を主溶媒成分とする溶媒に、導電性高分子が分散した導電性高分子組成物(I)が得られる。このような導電性高分子組成物は、シリコーンのように一般的に低極性の溶媒にしか溶解しない樹脂に配合して用いることができる。
特に官能基(X)を導入するための化合物として、オキシラン基含有有機化合物および/またはオキセタン基含有有機化合物を用いると、導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体に、オキシラン基および/またはオキセタン基が導入されることにより該複合体の疎水性が増す効果と、さらに官能基(X)にクロロシリル基含有化合物誘導体を導入することにより疎水性が増す効果の両方が得られ、導電性高分子の非水溶性有機溶媒(低極性の有機溶媒)への分散性を充分に向上させることができる。
また特に、導電性高分子(a)/可溶化高分子前駆体(b’’)複合体として、ポリスチレンスルホン酸とポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の複合体(以下、「PEDOT−PSS」ともいう。)を用いると、組成物の熱安定性が高く、塗膜成形後の透明性が高い点で好ましい。
【0049】
<硬化性オルガノポリシロキサン組成物(II)>
硬化性オルガノポリシロキサン組成物(II)は、シロキサン結合を主骨格とし、ケイ素原子に有機基が結合しているオルガノポリシロキサンであって、硬化反応に寄与する官能基を有する硬化性オルガノポリシロキサンを含有する。
硬化性オルガノポリシロキサン組成物(II)は、好ましくは有機溶剤(c)を含む液状組成物である。
硬化性オルガノポリシロキサン組成物(II)中の有機溶剤(c)は前記非水溶性有機溶媒(c1)を含むことが好ましい。硬化性オルガノポリシロキサン組成物(II)に含まれる有機溶剤のうち、非水溶性有機溶媒(c1)の割合は10〜100質量%が好ましく、20〜100質量%がより好ましい。
硬化性オルガノポリシロキサン組成物(II)は、さらに必要に応じて、硬化成分(架橋剤、触媒、開始剤等)を含有してもよい。
【0050】
硬化性オルガノポリシロキサンと、その硬化に寄与する硬化成分は、シリコーン皮膜の材料として公知のものを用いることができる。例えば、付加硬化型オルガノポリシロキサン、縮合硬化型オルガノポリシロキサン、または電離放射線硬化型オルガノポリシロキサンが挙げられる。
以下に、硬化性オルガノポリシロキサンと硬化成分との組み合わせの例を挙げる。
【0051】
(II−1)付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物
付加硬化型オルガノポリシロキサン組成物の固形分は、以下の化合物の組み合わせから主に構成される。
a)分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
b)分子中に少なくとも3個のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン、および
c)主として白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属変性体若しくは錯体からなる付加反応触媒(ヒドロシリル化触媒)。
【0052】
(II−2)縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物
縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の固形分は、以下の例1〜例3のいずれかの化合物の組み合わせから主に構成される。
[例1]
a)分子中に少なくとも2個のシラノール基を有するオルガノポリシロキサン、
b)分子中に少なくとも3個の加水分解性基を有するオルガノシランまたはオルガノポリシロキサン、および
c)縮合触媒。
[例2]
a)分子中に少なくとも2個のシラノール基を有するオルガノポリシロキサン、
b)分子中に少なくとも3個のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン、および
c)縮合触媒。
[例3]
a)分子中に少なくとも3個の加水分解性基を有するオルガノポリシロキサン、および
b)縮合触媒。
【0053】
(II−3)電離放射線硬化型オルガノポリシロキサン組成物
電離放射線硬化型オルガノポリシロキサン組成物の固形分は、以下の例1〜例6のいずれかの化合物を含み、光開始剤を用いて紫外線によって硬化され、あるいは電子線によって硬化される。
[例1]
アクリルアミド基含有オルガノポリシロキサン:分子中に、CH
2=C(R
1)−C(=O)−N(R
2)−R
3−(式中、R
1は水素原子またはメチル基、R
2は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R
3は炭素数2〜8の二価の炭化水素基)で表されるアクリルアミド官能基を含むオルガノポリシロキサン。
[例2]
2個以上のメルカプトアルキル基含有オルガノポリシロキサン:一分子中に、CH
2=C(R
11)−S−R
12−(式中、R
11は水素原子またはメチル基、R
12は炭素数2〜8の二価の炭化水素基)で表されるメルカプトアルキル官能基を、少なくとも2個含むオルガノポリシロキサン。
[例3]
2個以上のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン:一分子中にアルケニル基(−C
nH
2n−1(nは2以上の数。))を、少なくとも2個含むオルガノポリシロキサン。
[例4]
アルケニル基含有オルガノポリシロキサン:一分子中にアルケニル基(−C
nH
2n−1(nは2以上の数。))を、1個有するオルガノポリシロキサン。
[例5]
アクリル基またはメタクリル基含有オルガノポリシロキサン:分子中にアクリル基(CH
2CHCO−)またはメタクリル基(CH
2C(CH
3)CO−)を含むオルガノポリシロキサン。
[例6]
a)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、および
b)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン。
【0054】
硬化性組成物は、硬化成分として、さらにアリル基含有イソシアヌレートおよびその誘導体からなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。アリル基含有イソシアヌレートは1分子中にトリアジン環を有すると共に、少なくとも1個のアリル基を有する化合物である。
アリル基含有イソシアヌレートおよびその誘導体は付加型シリコーンの硬化性に寄与する。具体例としては、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルメチルイソシアヌレート、LDAIC、DD−1(いずれも四国化成工業社製)が挙げられ、反応性の点でトリアリルイソシアヌレートが好ましい。
硬化性組成物にアリル基含有イソシアヌレートまたはその誘導体を含有させる場合、その含有量は、硬化性オルガノポリシロキサンの総質量に対して0.1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0055】
硬化性組成物は、導電性高分子(a)、可溶化高分子(b)、硬化性オルガノポリシロキサン、有機溶媒(c)、および硬化成分のほかに、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で公知の添加剤の1種以上を含んでもよい。
添加剤の例としては、酸化防止剤、オゾン老化防止剤、紫外線吸収剤、熱光安定剤、耐水化剤、防腐防菌剤、殺虫殺菌剤、可塑剤、分散剤、重合禁止剤、消泡剤、界面活性剤、消泡剤、難燃剤、顔料、染料、が挙げられる。
添加剤の合計の含有量は、導電性高分子(a)、可溶化高分子(b)、および硬化性オルガノポリシロキサンの合計100質量部に対して10質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
【0056】
硬化性組成物において、硬化性オルガノポリシロキサンの総質量100質量部に対して、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の質量は1〜500質量部が好ましく、5〜100質量部がより好ましく、10〜50質量部がさらに好ましい。
導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の質量の比率が、上記範囲の下限値以上であると、硬化性組成物の硬化物において、導電性が充分に高くなり良好な帯電防止性が得られる。上記範囲の上限値以上であると硬化性組成物を塗布したときに均一な塗膜が得られやすい。
【0057】
≪帯電防止シリコーン皮膜≫
本発明の実施の形態に係る帯電防止シリコーン皮膜は、上述の硬化性組成物の硬化物からなる膜である。硬化性組成物が固形の場合には、それを、有機溶媒を主とする溶媒中に可溶若しくは分散させた溶液から塗料を調製する。
塗料は、紙、プラスチック、鉄、セラミックス、ガラスに代表される基体上に供給される。供給方法としては、刷毛やバーコーターを使う塗布法、塗料中に基体を浸漬するディップ法、塗料を基体上に滴下して基体を回転させて塗料を拡げるスピンコート法などの種々の手法を例示できる。
基体上の塗料の硬化法は、硬化性オルガノポリシロキサンの種類に応じて、加熱硬化させる方法、常温で空気中の水分と反応させて硬化させる方法、紫外線などの光や電子線(電離放射線)を照射して硬化させる方法など、公知の方法を用いることができる。
【0058】
本発明の実施の形態に係る硬化性組成物を硬化させることによって、帯電防止性能に優れたシリコーン皮膜を得ることができる。
また特許文献4〜8に記載されているようなアミン化合物を用いなくても、有機溶媒を媒体として、π共役系導電性高分子と、硬化性オルガノポリシロキサンとを均一に混合することができるため、硬化性オルガノポリシロキサンの良好な硬化性が得られ、帯電防止性と剥離性に優れた帯電防止シリコーン皮膜が得られる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0060】
<製造例>
(製造例1)・・・ポリスチレンスルホン酸(可溶化高分子前駆体(b’’))の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、その溶液を12時間攪拌した。得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形物を得た。得られたポリスチレンスルホン酸についてGPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)システムを用いて、昭和電工製プルランを標準物質として重量平均分子量を測定した結果、分子量は30万であった。
【0061】
(製造例2)・・・PEDOT−PSS水溶液の製造
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。これにより得られた混合溶液を20℃に保ち攪拌を行いながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくりと添加し、3時間攪拌して反応させた。
本例において反応に用いた、3,4−エチレンジオキシチオフェンの単量体単位1モルに対して、ポリスチレンスルホン酸中のアニオン基は2モルであった。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。次に、得られた溶液に、200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.2質量%の青色のPEDOT−PSSの水溶液を得た。
【0062】
<前駆複合体の製造>
(製造例3)
400gのメタノールと50gのC12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテルとを混合した。次に、その混合液に、製造例2で得られた100gのPEDOT−PSSの水溶液を加え、室温で24時間攪拌して紺色の析出物を得た。この析出物を濾過回収し、メチルエチルケトンに分散させ、0.6質量%の前駆複合体分散液を得た。
本例において、PEDOT−PSS中のポリスチレンスルホン酸の質量に対して、用いたC12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテルの質量は57.8倍である。
また、回収した前駆複合体の重量から、C12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテルの付加量を推定すると、PEDOT−PSSを構成するポリスチレンスルホン酸中のアニオン基の当量に対して、付加したC12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテル中のオキシラン基の当量は約0.38倍であった。
【0063】
(製造例4)
製造例3のC12、C13混合高級アルコールグリシジルエーテルを1,2−エポキシヘキサデカンに変えた以外は、製造例3と同じ条件にて、0.6質量%の前駆複合体分散液を得た。
本例において、PEDOT−PSS中のポリスチレンスルホン酸の質量に対して、用いた1,2−エポキシヘキサデカンの質量は57.8倍である。
また、回収した前駆複合体の重量から、1,2−エポキシヘキサデカンの付加量を推定すると、PEDOT−PSSを構成するポリスチレンスルホン酸中のアニオン基の当量に対して、付加した1,2−エポキシヘキサデカン中のオキシラン基の当量は約1.0倍であった。
【0064】
<導電性高分子組成物(I)の製造>
(製造例5)
製造例3で得た前駆複合体分散液100gにトルエン100gを加え、ロータリーエバポレーターで約100gの溶媒を留去した。再びトルエン100gを加え、ロータリーエバポレーターで約100gの溶媒を留去した。こうして得たトルエン溶液を三口フラスコに移し、温度計及び還流冷却器を取り付け、窒素気流下、オクタデシルトリクロロシラン(Aldrich社製)0.5gを加え、60℃で3時間加熱した。液温を40℃まで下げたのち、アセトン10gを加え、窒素ガスを毎秒1mLの速度で吹き込みながら60℃まで昇温し、3時間加熱して、残存するクロロシリル基をイソプロペノキシシリル基に変換した。反応混合物をナスフラスコに移し、トルエン100gを加え、ロータリーエバポレーターで約100gの溶媒を留去した。再びトルエン100gを加え、ロータリーエバポレーターで溶媒を約110g留去し、トルエンを加えて全量を100gに合わせた。高圧ホモジナイザ(吉田機械興業社製ナノヴェイタ)で処理し、メチルエチルケトンで2倍に希釈し、導電性高分子組成物200gを得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.50質量%、有機溶媒の含有量は99.50質量%、(c1)/(c2)の質量比は99.0/100である。
本例におけるオクタデシルトリクロロシランの使用量は、前駆複合体の1質量部に対して0.83質量部である。
【0065】
(製造例6)
オクタデシルトリクロロシランを0.7gに代えた他は、製造例5と同様な操作を行い、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.58質量%、有機溶媒の含有量は99.42質量%、(c1)/(c2)の質量比は98.8/100である。
本例におけるオクタデシルトリクロロシランの使用量は、前駆複合体の1質量部に対して1.17質量部である。
(製造例7)
製造例3で得た前駆複合体分散液を製造例4で得た前駆複合体分散液に代え、オクタデシルトリクロロシランを0.7gに変えた他は、実施例1と同様な操作を行い、導電性高分子組成物を得た。
本例で得られた導電性高分子組成物における導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の含有量は0.58質量%、有機溶媒の含有量は99.42質量%、(c1)/(c2)の質量比は98.8/100である。
本例におけるオクタデシルトリクロロシランの使用量は、前駆複合体の1質量部に対して1.17質量部である。
【0066】
<帯電防止シリコーン皮膜の評価方法>
(剥離強度)
皮膜の表面に2.5cm×15cmのポリエステル粘着テープ(商品名:ニットーNo.31B、日東電工(株)製)を載せ、次いで、その粘着テープ上で2kgのローラーを用いて圧着し、剥離剤層にポリエステル粘着テープを貼り合せた。その後、室温で20時間放置し、又は85℃で20時間加熱処理して試験片を作成した。そして、引張試験機を用いて、剥離剤層からポリエステル粘着テープを180°の角度で剥離(剥離速度0.3m/分)し、剥離強度を測定した。剥離強度が小さい程、剥離剤層に粘着シートを貼り合わせた後に、粘着シートを容易に剥離できる(すなわち、軽剥離となる)。
【0067】
(残留接着率)
上記剥離強度の測定と同様に、剥離剤層にポリエステル粘着テープを貼り合わせた。室温で20時間放置し、または85℃で20時間加熱処理した後、剥離剤層からポリエステル粘着テープを剥がした。さらに、そのポリエステル粘着テープを未処理のPETフィルム(商品名:ルミラー、東レ(株)製)に2kgのローラーを用いて圧着した。次いで、引張試験機を用いて、剥離試験と同様にPETフィルムからポリエステル粘着テープを剥離(剥離速度0.3m/分)し、剥離強度Xを測定した。また、剥離剤層に貼り合せていないポリエステル粘着テープを未処理のPETフィルムに2kgのローラーを用いて圧着し、引張試験機を用いてPETフィルムからポリエステル粘着テープを剥離し、剥離強度Yを測定した。測定後、剥離強度X/剥離強度Y)×100(%)の式より、残留接着率を求めた。残留接着率が高い程、剥離剤層のシリコーンが粘着テープへ移行することが少なく、剥離剤層に貼り合せることによるポリエステル粘着テープの接着力低下が抑制されていることを示す。
【0068】
(表面抵抗率)
三菱化学社製ハイレスタMCP−HT450を用い、プローブMCP−HTP12、印加電圧10Vで測定した。なお、表中の「OVER」とは、表面抵抗率が高すぎて、測定できないことを意味している。
【0069】
<帯電防止シリコーン皮膜の製造>
各例で使用した塗料の主要な成分の配合を表1、2に示し、皮膜の評価結果を表3〜5に示す。
(実施例1)
製造例5で得られた導電性高分子組成物60gに、付加硬化型シリコーン(KS−3703(製品名)、信越化学工業社製、固形分30質量%、トルエン溶液)5gと、ヘキサン60gとを加え、白金触媒(CAT−PL−50T(製品名)、信越化学工業社製)0.1gを添加して、塗料(硬化性組成物)を作製した。
本例の塗料において、硬化性オルガノポリシロキサンの総質量100質量部に対して、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の質量は20質量部である。
得られた塗料を、厚さ38μmのPETフィルムに、バーコーター(No.12)によって塗布し、120℃の熱風式乾燥機中で1分間加熱して皮膜を形成した。得られた皮膜について、上記の方法で、剥離強度、残留接着率、表面抵抗率を評価した。
【0070】
(実施例2)
実施例1において、導電性高分子組成物の使用量を90gに変えた以外、実施例1と同条件で塗料を作製し、皮膜を形成した。
本例の塗料において、硬化性オルガノポリシロキサンの総質量100質量部に対して、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の質量は30質量部である。
【0071】
(実施例3)
実施例1において、導電性高分子組成物の使用量を120gに変えた以外、実施例1と同条件で塗料を作製し、皮膜を形成した。
本例の塗料において、硬化性オルガノポリシロキサンの総質量100質量部に対して、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の質量は40質量部である。
【0072】
(実施例4)
製造例5で得た導電性高分子組成物を、製造例6で得た導電性高分子組成物に変えた他は、実施例1と同条件で塗料を作製し、皮膜を形成した。
本例の塗料において、硬化性オルガノポリシロキサンの総質量100質量部に対して、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の質量は23質量部である。
【0073】
(実施例5)
製造例5で得た導電性高分子組成物を、製造例7で得た導電性高分子組成物に変えた他は、実施例1と同条件で塗料を作製し、皮膜を形成した。
本例の塗料において、硬化性オルガノポリシロキサンの総質量100質量部に対して、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の質量は23質量部である。
【0074】
(実施例6)
製造例5で得られた導電性高分子組成物60gに、付加硬化型シリコーン(KS−847H(製品名)、信越化学工業社製、固形分濃度30質量%、トルエン溶液)5g、ヘキサン60gを加え、実施例1と同じ白金触媒(CAT−PL−50T(製品名))0.1gを添加して、塗料を作製し、皮膜を形成した。
本例の塗料において、硬化性オルガノポリシロキサンの総質量100質量部に対して、導電性高分子(a)と可溶化高分子(b)の合計の質量は20質量部である。
【0075】
(実施例7)
製造例5で得られた導電性高分子組成物90gに、実施例1と同じ付加硬化型シリコーン(KS−3703(製品名))5g、ヘキサン60g、トリアリルイソシアヌレート0.15gを加え、実施例1と同じ白金触媒(CAT−PL−50T(製品名))0.1gを添加して、塗料を作製し、皮膜を形成した。
【0076】
(比較例1)
実施例1において、製造例5で得られた導電性高分子組成物を、製造例2で得られたPEDOT−PSSの水溶液に変えた他は、実施例1と同じようにして塗料を作製したが、PEDOT−PSSの凝集や分離が起こり、皮膜の形成に使用できなかった。
【0077】
(比較例2)
実施例1において、製造例5で得られた導電性高分子組成物を、製造例3で得られた前駆複合体分散液に変えた他は、実施例1と同じようにして塗料を作製したが、PEDOT−PSSが凝集し、皮膜の形成に使用できなかった。
【0078】
(比較例3)
実施例1において、製造例5で得られた導電性高分子組成物を、製造例4で得られた前駆複合体分散液に変えた他は、実施例1と同じようにして塗料を作製したが、PEDOT−PSSが凝集し、皮膜の形成に使用できなかった。
【0079】
(比較例4)
実施例1において、製造例5で得られた導電性高分子組成物を、トルエン30g及びメチルエチルケトン30gの混合物に変えた他は、実施例1と同条件で塗料を作製し、皮膜を形成した。
【0080】
(実施例8)
製造例5で得られた導電性高分子組成物60gに、無溶剤UV硬化型シリコーン(X−62−7205(製品名)信越化学工業社製)1g、ヘキサン60g、ジアセトンアルコール7gを加え、光開始剤(ダロキュア1173(製品名)、チバスペシャリティーケミカルズ社製、固形分5質量%)0.15gを添加して、塗料を作製した。この塗料をPETフィルム上にNo.12のバーコーターを用いて塗布し、窒素雰囲気下で800mJ/cm
2の水銀灯照射を行い、皮膜を形成した。得られた皮膜について、上記の方法で、剥離強度、残留接着率、表面抵抗率を評価した。結果を表2に示す。
【0081】
(比較例5)
実施例8において、製造例5で得られた導電性高分子組成物の代わりに、製造例2で得られたPEDOT−PSS水溶液30gと水30gの混合物に変えた他は、実施例8と同じようにして塗料を作製したが、PEDOT−PSSの凝集や分離が起こり、皮膜の形成に使用できなかった。
【0082】
(実施例9)
製造例5で得られた導電性高分子組成物60gに、縮合硬化型シリコーン溶液(KS−723B(製品名)、信越化学工業社製、固形分30質量%、トルエン溶液)4g、ヘキサン60gを加え、縮合触媒(CAT−PS−8S(製品名)、信越化学工業社製)0.04gを添加して、塗料を作製した。この塗料をPETフィルム上にNo.12のバーコーターを用いて塗布し、120℃で1分間乾燥して皮膜を形成した。得られた皮膜について、上記の方法で、剥離強度、残留接着率、表面抵抗率を評価した。結果を表3に示す。
【0083】
(比較例6)
実施例9において、製造例5で得られた導電性高分子組成物を、製造例2で得られたPEDOT−PSS水溶液60gの混合物に変えた他は、実施例9と同じようにして塗料を作製したが、PEDOT−PSSの凝集や分離が起こり、皮膜の形成に使用できなかった。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
<評価結果>
実施例1〜9で得られた皮膜は、表面抵抗率が低くて高い導電性を示し帯電防止性に優れる。また、室温または85℃で20時間経過後の剥離強度が小さくて良好な剥離性を示し、残留接着率も良好であった。
比較例1、5、6では、官能基(X)が導入される前のPEDOT−PSSの溶液と、硬化性シリコーン溶液とを混合させたところ、凝集や分離が生じ、均一な塗料が得られなかった。
比較例2、3では、PEDOT−PSSに官能基(X)を導入した後、オクタデシルトリクロロシランと反応させる前の前駆複合体の分散液と、硬化性シリコーン溶液とを混合させたところ、凝集や分離が生じ、均一な塗料が得られなかった。
比較例4の塗料は、導電性成分であるPEDOT−PSSを含有しないため、表面抵抗率が高すぎて、測定不能であった。
かかる効果が得られる理由は以下のように考えられる。
製造例3及び4で得られた前駆複合体は、ポリアニオンにエポキシ化合物を付加開環して得られたものである。従って、該前駆複合体は、エポキシ化合物が開環したヒドロキシ基を多数含有すると考えられる。製造例5、6及び7では、オクタデシルトリクロロシランが上記ヒドロキシ基と縮合反応してケイ素原子に結合したオクタデシル基を含有する複合体が生成し、そのためより疎水性の溶媒への分散が可能になり、シリコーン溶液と混合したときに均一な塗料が得られたと考えられる。