(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リーダを通過する鉄道車両の複数の制輪子の各々に取り付けられた少なくとも1つの摩耗検知RFタグから前記リーダで読み取られた信号のデータを受信するコンピュータを備え、
前記コンピュータは、前記複数の制輪子に夫々取り付けられた複数の前記摩耗検知RFタグからの複数の前記信号が前記リーダで読み取られた順番に基づいて、前記複数の信号と前記複数の制輪子との間の対応関係を決定する、鉄道車両の制輪子摩耗検知システム。
前記複数の制輪子の各々に取り付けられた前記少なくとも1つの摩耗検知RFタグは、1つの前記制輪子の周方向一方側の位置において制動面から所定の距離の位置に取り付けられた第1摩耗検知RFタグと、前記1つの制輪子の周方向他方側の位置において前記制動面から前記所定の距離の位置に取り付けられた第2摩耗検知RFタグとを含み、
前記コンピュータは、前記第1摩耗検知RFタグから前記リーダが読み取る信号が最初に欠落した時点(t2)と、前記第2摩耗検知RFタグから前記リーダが読み取る信号が最初に欠落した時点(t3)との間の時間差(Δt2)を算出し、前記時間差(Δt2)から前記制輪子の偏摩耗量及び偏摩耗速度の少なくとも1つを算出する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉄道車両の制輪子摩耗検知システム。
前記複数の制輪子の各々に取り付けられた前記少なくとも1つの摩耗検知RFタグは、1つの前記制輪子の車幅方向一方側の面において制動面から所定の距離の位置に取り付けられた第1摩耗検知RFタグと、前記1つの制輪子の車幅方向他方側の面において前記制動面から前記所定の距離の位置に取り付けられた第2摩耗検知RFタグとを含み、
前記コンピュータは、前記第1摩耗検知RFタグから前記リーダが読み取る信号が最初に欠落した時点(t2)と、前記第2摩耗検知RFタグから前記リーダが読み取る信号が最初に欠落した時点(t3)との間の時間差(Δt2)を算出し、前記時間差(Δt2)から前記制輪子の偏摩耗量及び偏摩耗速度の少なくとも1つを算出する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉄道車両の制輪子摩耗検知システム。
前記コンピュータは、1つの前記摩耗検知RFタグから前記リーダが読み取る信号が欠落した後に、前記1つの摩耗検知RFタグから正常に信号が読み取られた場合には、前記1つの摩耗検知RFタグからの信号の読み取りの欠落が誤りであると判定する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の鉄道車両の制輪子摩耗検知システム。
前記コンピュータは、前記制輪子の摩耗限度に至る前までに、制輪子交換の作業計画を事前に作成する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の鉄道車両の制輪子摩耗検知システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。なお、以下の説明では、鉄道車両が走行する方向であって車体が延びる方向が車両長手方向(前後方向)であり、それに直交する横方向が車幅方向(左右方向)である。
【0011】
図1は、実施形態に係る鉄道車両の制輪子摩耗検知システム1の模式図である。
図1に示すように、鉄道車両10は、複数の車両が連結されてなる編成車両であり、各車両は、車体11及び台車12を備える。台車12は、車輪16の踏面に制輪子20を押圧して生じる摩擦によりブレーキを作動させる踏面ブレーキ装置を有する。制輪子摩耗検知システム1は、RFID(Radio frequency identifier)を利用して鉄道車両10の制輪子20の摩耗を自動で検知し、制輪子の保守負担を軽減するためのシステムである。制輪子摩耗検知システム1は、多数の制輪子摩耗検知ユニット2A〜Dと、車体RFタグ3と、4つのリーダ4A〜Dと、データ処理装置5と、サーバ6と、データベース7とを備える。
【0012】
制輪子摩耗検知ユニット2A〜Dは、複数のRFタグを有し、鉄道車両10の制輪子20に取り付けられるもので、詳細な構成は後述する。車体RFタグ3は、鉄道車両10の車体11に取り付けられるもので、例えば床下面に貼り付けられる。リーダ4A〜Dは、制輪子摩耗検知ユニット2A〜Dの各RFタグの識別情報を含む信号を非接触で読み取る。リーダ4A〜Dは、レール8A,8Bの近傍に設置されており、一例として、車庫の入口に配置される。なお、リーダ4A〜Dは車庫の入口だけでなく、営業線に設置されてもよく、設置場所は特に限定されない。リーダ4A〜Dのうち何れか(例えば、リーダ4B)は、車体RFタグ3の識別情報を含む信号も非接触で読み取る。なお、車体RFタグ3の識別情報を含む信号を読み取るリーダをリーダ4A〜Dとは別に専用に設けてもよい。
【0013】
具体的には、リーダ4Aは、レール8Aの車幅方向外側に設置され、リーダ4Bは、一対のレール8A,8Bの間においてレール8A寄りに設置され、リーダ4Cは、一対のレール8A,8Bの間においてレール8B寄りに設置され、リーダ4Dは、レール8Bの車幅方向外側に設置される。なお、リーダ4B,4Cの代わりに、レール8A,8B間の中央に1つのリーダを設置してもよい。リーダ4A〜Dは、対応する制輪子摩耗検知ユニット2A〜Dにリーダ4A〜Dの通信面の法線が向くように水平面に対して傾斜した状態で設置される。
【0014】
データ処理装置5は、各リーダ4A〜Dが読み取った信号を処理し、ネットワーク(例えば、インターネット)を介してサーバ6に送信する。即ち、本実施形態では、コンピュータが、ネットワークを介してデータ処理装置5とサーバ6とに分散されている。なお、ネットワークはインターネットに限定されるものでなく、LANやWAN、衛星通信回線、携帯電話網など、その他各種通信ネットワークでもよい。サーバ6は、データ処理装置5から受信した信号のデータを解析し、その解析データに基づいて制輪子20の保守計画を作成して保守管理センター(図示せず)に送信する。サーバ6の解析データ等は、データベース7に過去情報として蓄積保存される。
【0015】
データ処理装置5は、車体RFタグ3からリーダ4Bで読み取られた信号のデータに基づいて、制輪子摩耗検知ユニット2A〜Dからリーダ4A〜Dで読み取られた信号に対応する車両特定情報を決定する。ここで、車両特定情報とは、車両番号や編成番号、台車等、当該制輪子と対応付けることができるような情報である。リーダ4A〜Dの通信エリア内には、据え置き型のテストRFタグ(図示せず)を設定しておき、当該テストRFタグから正しく信号を受信できなくなると、データ処理装置5がリーダ4A〜Dに異常が発生したと判定する。
【0016】
図2は、
図1に示す鉄道車両10の台車12の車幅方向から見た側面図である。
図2に示すように、台車12は、二次サスペンション13(例えば、空気バネ)を介して車体11を支持する台車枠14を備える。台車枠14の車両長手方向の両側には、車幅方向に沿って延びた車軸15が配置されている。車軸15の車幅方向両側の部分には、車輪16が夫々固定されている。車軸15の車幅方向の両端部は、軸受(図示せず)を介して軸箱17に収容されている。軸箱17は、軸梁18を介して台車枠14に連結されている。台車枠14と軸箱17との間には、一次サスペンション19(例えば、コイルバネ)が介設されている。車輪16の踏面に対向する位置には、制輪子20が配置されている。制輪子20は、アクチュエータ(図示せず)に駆動されて車輪16の踏面に接触又は離反する。
【0017】
図3は、
図2に示す台車12における制輪子摩耗検知ユニット2A〜Dが取り付けられた制輪子20の車幅方向から見た側面図である。
図4は、
図3に示す制輪子摩耗検知ユニット2Aの車幅方向から見た平面図である。
図5は、
図3のV−V線断面図である。
図3乃至5に示すように、制輪子20は、金属又は樹脂からなる摩擦材で形成された制輪子本体21と、制輪子本体21の背面に固定された台金22と、台金22の背面に設けられた取付板23とを備える。制輪子本体21の制動面21aは、車幅方向から見て車輪16の踏面に沿った円弧形状を有する。
【0018】
制輪子摩耗検知ユニット2A(第1の制輪子摩耗検知ユニット)は、制輪子20のうち車幅方向外側に向いた外側面20aの下部に取り付けられ、制輪子摩耗検知ユニット2B(第2の制輪子摩耗検知ユニット)は、制輪子20のうち車幅方向内側に向いた内側面20bの上部に取り付けられる。即ち、制輪子20の外側面20aのうち上部は、台車12の車幅方向外側から見て制輪子20以外の台車部品(軸梁18等)により覆われるため(
図1参照)、制輪子摩耗検知ユニット2Aは、制輪子20の外側面20aのうち車幅方向外側に向けて露出した下部に取り付けられる。各制輪子20に取り付けられる制輪子摩耗検知ユニット2A〜Dの構成は、基本的には同じであるため、以下、代表して制輪子摩耗検知ユニット2Aについて説明する。
【0019】
制輪子摩耗検知ユニット2Aは、初期摩耗検知RFタグ31(第1摩耗検知RFタグ)と、限度摩耗検知RFタグ32(第2摩耗検知RFタグ)と、参照RFタグ33と、ベースシート34とを備える。RFタグ31〜33は、例えば基材、アンテナ、ICチップ等から構成されるが、アンテナはRFタグから離れた位置にあってもよい。各RFタグ31〜33は、その長手方向が制輪子20の厚さ方向に直交する向きに配置されている。初期摩耗検知RFタグ31は、制輪子20の摩耗限度24よりも制動面21a側の位置に取り付けられ、それ自身が破壊されることにより制輪子の摩耗の進展を検知できる。
【0020】
限度摩耗検知RFタグ32は、制輪子20の摩耗限度24の位置に取り付けられ、初期摩耗検知RFタグ31と同様にそれ自身が破壊されることにより制輪子の摩耗の進展を検知できる。参照RFタグ33は、制輪子20の摩耗限度24を超えた位置、即ち、摩耗限度24から背面側(制動面21aとは反対側)に離れた位置に取り付けられる。参照RFタグ33は、上記のRFタグ31,32とは異なり、それ自身が破壊されることによって制輪子の摩耗の進展を検知するものではなく、破壊されていないことにより制輪子摩耗検知システム1が正常に動作していることを示す。
【0021】
この構成によれば、データ処理装置5は、限度摩耗検知RFタグ32及び参照RFタグ33からの信号がリーダ4Aで正常に読み取られ且つ初期摩耗検知RFタグ31からの信号をリーダ4Aでの読み取りが欠落した場合に、制輪子20に初期摩耗検知RFタグ31が取り付けられた部位まで摩耗が生じたと判定できる。ここで、欠落とは、ICチップの破損だけでなく、アンテナの破損による信号途絶の場合も含まれる。また、データ処理装置5は、参照RFタグ33からの信号がリーダ4Aで正常に読み取られ且つ第1及び第2摩耗検知RFタグ31,32からの各信号のリーダ4Aでの読み取りが欠落した場合に、制輪子20に摩耗限度24に達する摩耗が生じたと判定できる。
【0022】
他方、データ処理装置5は、第1及び/又は第2摩耗検知タグ31,32からの信号だけでなく参照RFタグ33からの信号のリーダ4Aでの読み取りも欠落した場合に、第1及び第2摩耗検知RFタグ31,32にエラーが発生したと判定できる。よって、摩耗検知RFタグ31,32からリーダ4Aで読み取る信号の欠落要因が、制輪子20の摩耗の進行によるものであるか又は摩耗検知タグ31,32のエラーによるものであるかを判別でき、制輪子20の摩耗を高精度に検知できる。
【0023】
また、初期摩耗検知RFタグ31が制輪子20の摩耗限度24よりも制動面21a側の位置に取り付けられ、限度摩耗検知RFタグ32が摩耗限度24の位置に取り付けられるので、制輪子20の摩耗の進行具合を段階的に把握することができる。よって、サーバ6は、制輪子20の摩耗進行の傾向を知ることができると共に、制輪子20の保守計画を事前かつタイムリーに立てることができる。
【0024】
ベースシート34には、初期摩耗検知RFタグ31、限度摩耗検知RFタグ32及び参照RFタグ33が互いに径方向(車輪16の径方向)に所定間隔をあけて一列に配設されており、例えば一枚のシール状に形成されている。ベースシート34の表面34aには、各RFタグ31〜33が設けられている。即ち、各RFタグ31〜33の裏面がベースシート34の表面34aに固定され、各RFタグ31〜33の表面(裏面の反対面)が通信面である。ベースシート34の裏面34bには、制輪子20に貼り付けられる接着層が形成されている。制輪子摩耗検知ユニット2Aを制輪子20に貼り付ける前の保管時には、ベースシート34の裏面34bの接着層は剥離紙(図示せず)により保護されている。
【0025】
この構成によれば、初期摩耗検知RFタグ31、限度摩耗検知RFタグ32及び参照RFタグ33のハンドリングが容易になる。また、ベースシート34上の各RFタグ31〜33の間隔を制輪子20上の取付間隔と合致させておき、ベースシート34を制輪子20に貼り付けることで、ベースシート34と共に各RFタグ31〜33をワンタッチで制輪子に取り付けることができ、取付作業性が向上する。また、各RFタグ31〜33と制輪子20との間にベースシート34が介在するため、制輪子20からの熱が各RFタグ31〜3に直接伝達されず、各RFタグ31〜33への熱負荷を低減できる。また、平面視においてベースシート34の面積は各RFタグ31〜33の合計面積よりも大きいので、ベースシート34によって放熱性が高まり、各RFタグ31〜33への熱負荷を低減できる。
【0026】
ベースシート34には、耐熱性材料を用いた耐熱性シートを用いると好ましい。その耐熱性材料としては、例えば、フッ素樹脂やポリイミド樹脂等を用いることができる。こうすれば、制輪子20から各RFタグ31〜33への熱伝達がベースシート34により抑制されるため、高価な耐熱性のRFタグを用いずともRFタグの熱損傷を防止できる。
【0027】
ベースシート34には、初期摩耗検知RFタグ31と限度摩耗検知RFタグ32との間において第1破断予定部35が形成されており、限度摩耗検知RFタグ32と参照RFタグ33との間において第2破断予定部36が形成されている。第1及び第2破断予定部35,36は、ベースシート34の他の部位に比べて破断し易いように構成されている。例えば、第1及び第2破断予定部35,36は、ベースシート34にミシン目のように複数の孔を互いに間隔をあけて一列に設けた構成とされうる。また、第1及び第2破断予定部35,36は、ベースシート34の他の部分よりも薄肉とすることで構成されてもよい。
【0028】
この構成によれば、制輪子20の摩耗により初期摩耗検知RFタグ31が破壊されるとき、その破壊時の荷重でベースシート34が第1破断予定部35において破断されるため、当該荷重が限度摩耗検知RFタグ32及び参照RFタグ33に伝達されることを防止できる。また同様に、制輪子20の摩耗により限度摩耗検知RFタグ32が破壊されるときにも、その破壊時の荷重でベースシート34が第2破断予定部36において破断されるため、当該荷重が参照RFタグ33に伝達されることを防止できる。
【0029】
なお、第1及び第2破断予定部35,36のそれぞれに隣接するようにミシン目をさらに設けて、初期摩耗検知RFタグ31と限度摩耗検知RFタグ32との間のベースシート34、及び、限度摩耗検知RFタグ32と参照RFタグ33との間のベースシート34を取り除く構成としてもよい。これにより、破壊時の荷重が限度摩耗検知RFタグ32や参照RFタグ33に伝達されることを防止できる。
【0030】
ベースシート34には、制輪子20の厚さ方向(車輪の径方向)に並ぶ目盛37が付されている。本実施形態では、ベースシート34において、制輪子20の摩耗限度24の位置に配置される限度摩耗検知RFタグ32に対応する位置に目盛37のゼロ点が付され、当該ゼロ点から参照RFタグ33側に向けて昇順に参照RFタグ33を越える位置まで目盛37が付されている。例えば、摩耗限度24の位置が制輪子20の背面側の端縁からの距離で定義されている場合、当該距離と同じ値を示す目盛37上の位置が制輪子20の背面側の端縁に一致させた状態でベースシート34を制輪子20に貼れば、限度摩耗検知RFタグ32が摩耗限度24の位置に一致する。なお、制輪子20から食み出す部分(
図4の斜線部分)がある場合には、当該食み出し部分をハサミ等で除去すればよい。
【0031】
この構成によれば、ベースシート34の目盛37を見るだけで各RFタグ31〜33を制輪子20上の所定の位置に取り付けることができる。よって、制輪子摩耗検知ユニット2Aとは別に定規等を使用する必要が無く、取付作業性や取付精度が向上する。また、目盛37のゼロ点が制輪子20の摩耗限度24に対応する位置に付されているので、摩耗限度24の位置が異なる制輪子に対しても制輪子摩耗検知ユニット2Aを共用でき、制輪子摩耗検知ユニット2Aの品種を低減できる。なお、制輪子摩耗検知ユニット2Aを制輪子の種別ごと用意する場合には、目盛37は設けられなくてもよい。
【0032】
参照RFタグ33の識別番号は、第1法則に従って決められ、限度摩耗検知RFタグ32の識別番号は、第1法則とは異なる第2法則に従って決められ、初期摩耗検知RFタグ31の識別番号は、第1及び第2法則とは異なる第3法則に従って決められている。例えば、参照RFタグ33の識別番号は「3n」(nは自然数)とし、限度摩耗検知RFタグ32の識別番号は「3n−1」とし、初期摩耗検知RFタグ31の識別番号は「3n−2」としえる。
【0033】
このようにすれば、リーダ4Aで読み取った識別番号が第1〜第3法則の何れに属するものであるかを見るだけで、当該識別番号が、初期摩耗検知RFタグ31のものであるか、限度摩耗検知RFタグ32のものあるか、参照RFタグ33のものであるかを簡単に判別できる。よって、第1及び第2摩耗検知RFタグ31,32及び参照RFタグ33の各識別番号を事前にデータベース7に登録しておかずに済み、システムの導入作業を簡素化できる。
【0034】
図6は、
図1に示す鉄道車両の車体RFタグ及び制輪子摩耗検知ユニット2A〜Dの配置図である。
図6は、
図1に示す鉄道車両10がリーダ4A〜Dを通過する際の制輪子摩耗検知ユニット2A〜Dとリーダ4A〜Dとの関係を示す模式図である。
図8は、
図1に示すデータ処理装置5のデータ取得のフローチャートである。
図9は、
図8に示す読取時間表の一例を示す図面である。なお、
図6及び7において各制輪子摩耗検知ユニット2A〜Dの符号に付した下付き数字は、数字「1」が鉄道車両10の進行方向の先頭に位置する制輪子を意味し、その数字が大きくなるほど進行方向に対して後側に位置する制輪子を意味する。また、
図6において、第1車両10A(ID=5001)の車両長手方向両端部(即ち台車近傍)に設けられた車体RFタグを3Aとし、第2車両10B(ID=5002)の車両長手方向両端部(即ち台車近傍)に設けられた車体RFタグを3Bとする。
【0035】
以下、
図6,7及び9を適宜参照しながら
図8の流れに沿ってデータ取得の流れについて説明する。鉄道車両10がリーダ4A〜Dを通過すると、鉄道車両10の多数の制輪子20に夫々取り付けられた多数の制輪子摩耗検知ユニット2A
n〜D
nからの各信号がリーダ4A〜Dにて時間間隔をあけて順番に読み取られる(ステップS1)。具体的には、先ず検知ユニット2A
n〜D
n(nは自然数)の各RFタグ31〜33からの信号(ID)が読み取れたら(ステップS2:YES)、車体RFタグ3Aからの信号(車体ID)がリーダ4Bにて読み取られる(ステップS3)。そして、データ処理装置5は、当該信号の車体IDに変化があれば(ステップS4:YES)、その車体IDと共に各制輪子摩耗検知ユニット2A
n〜D
nの各RFタグ31〜33のIDを保存し、
図9に示す読取時間表50を作成する(ステップS6)。当該信号の車体IDに変化がなければ(ステップS4:NO)、車体IDを更新したうえで(ステップS5)、ステップS6に進む。
【0036】
このように、データ処理装置5は、複数の制輪子20に夫々取り付けられた複数の制輪子摩耗検知ユニット2A
n〜D
n(nは自然数)の各RFタグ31〜33からの各信号がリーダ4A〜Dで読み取られた時間の順番に基づいて、各信号と各制輪子20との間の対応関係を決定して読取時間表50を作成する。即ち、データ処理装置5は、リーダ4Aが最初に読み取った3つの信号を、先頭から1番目の輪軸(第1軸)の制輪子摩耗検知ユニット2A
1の各RFタグ31〜33からの信号であると決定する。
【0037】
そして、データ処理装置5は、それから時間をあけてリーダ4Aが読み取った3つの信号を、先頭から2番目の制輪子摩耗検知ユニット2A
2の各RFタグ31〜33からの信号であると決定する。以降も同様にして、データ処理装置5は、受信した信号が先頭から何番目の制輪子摩耗検知ユニット2A
nからの信号であるかを決定する。このようにすれば、制輪子摩耗検知ユニット2A
n〜D
nの各RFタグ31〜33と各制輪子20のロケーションとの対応関係を予め把握しておく必要がなくなり、システムの導入及び管理を大幅に簡素化できる。
【0038】
また、データ処理装置5は、車体RFタグ3A,Bからリーダ4Bで読み取られた信号のデータに基づいて、制輪子摩耗検知ユニット2A
n〜D
nの各RFタグ31〜33からリーダ4A〜Dで読み取られた各信号に対応する編成番号又は車両番号も決定して読取時間表50を作成する。このようにすれば、制輪子摩耗検知ユニット2A
n〜D
nの各RFタグ31〜33と編成番号又は車両番号との対応関係を予め把握しておく必要がなくなり、システムの導入及び管理を更に簡素化できる。
【0039】
そして、データ処理装置5は、
図9のX
1箇所に示すように参照RFタグ33からの信号に欠落があった場合には(ステップS7:YES)、その制輪子摩耗検知ユニット2A
4に異常(例えば、意図しない破損等)があるとして、エラーを発報する(ステップS8)。
【0040】
また、データ処理装置5は、
図9のX
2箇所に示すように制輪子摩耗検知ユニット2A
8の限度摩耗検知RFタグ32からの信号に欠落があった場合には(ステップS9:YES)、その制輪子の摩耗が摩耗限度24に達したとして、制輪子交換を発報する(ステップS10)。
【0041】
図10は、
図1に示すサーバ6の摩耗特性解析のフローチャートである。以下、
図1及び3を適宜参照しながら
図10の流れに沿って、サーバ6による制輪子20の摩耗特性の解析について説明する。先ず、サーバ6では、解析対象とする制輪子に関する車体ID、左右位置及び軸位が指定される(ステップS11)。そして、サーバ6は、指定の制輪子20の制輪子摩耗検知ユニット2A,Bの各RFタグ31〜33の取得データを読取時間表50から抽出する(ステップS12)。
【0042】
そして、サーバ6は、指定の制輪子20の制輪子摩耗検知ユニット2A,Bの各RFタグ31〜33のIDの組合せを最初に検知した時刻t1を抽出する(ステップS13)。次いで、その指定の制輪子20の制輪子摩耗検知ユニット2A,Bの初期摩耗検知RFタグ31からの信号(ID)が最初に欠落した時刻t2を抽出する(ステップS14)。
【0043】
そして、サーバ6は、指定の制輪子20の制輪子摩耗検知ユニット2A,Bの各RFタグ31〜33のIDの組合せを最初に信号を読み取った時点t1と、その時点t1よりも後においてその指定の制輪子20の制輪子摩耗検知ユニット2A,Bの初期摩耗検知RFタグ31からの信号(ID)が最初に欠落した時点t2との間の時間差Δt1(=t2−t1)を算出し、制輪子20の初期の制動面21aから初期摩耗検知RFタグ31の位置までの距離(基準摩耗量L)を時間差Δt1で除算することで摩耗速度V(=L/Δt1)を算出する(ステップS15)。
【0044】
また、サーバ6は、初期摩耗検知RFタグ31の位置から摩耗限度24の位置までの距離L2を摩耗速度Vで除算することで、制輪子20の摩耗が摩耗限度24に達するまでの残寿命時間T
rem(=L2/V)を求める(ステップS15)。これによれば、サーバ6が、制輪子20の摩耗が摩耗限度24に至る前に制輪子交換の作業計画を事前に作成して制輪子の保守管理者に送信することができ、保守作業の効率が向上する。
【0045】
また、制輪子摩耗検知ユニット2Aは、制輪子20の車幅方向外側を向いた外側面20aに取り付けられ、制輪子摩耗検知ユニット2Bは、制輪子20の車幅方向内側を向いた内側面20bに取り付けられている。更に、制輪子摩耗検知ユニット2Aは、制輪子20の周方向一方側(下側)の位置に取り付けられ、制輪子摩耗検知ユニット2Bは、制輪子20の周方向他方側(上側)の位置に取り付けられる。
【0046】
サーバ6は、制輪子摩耗検知ユニット2A,Bの各初期摩耗検知RFタグ31からリーダ4A,Bが読み取る各信号が最初に欠落した各時刻のうち早い方の時刻t2と、制輪子摩耗検知ユニット2A,Bの各初期摩耗検知RFタグ31からリーダ4A,Bが読み取る各信号が最初に欠落した各時刻のうち遅い方の時刻t3との間の時間差Δt2(=t3−t2)から、制輪子20の車幅方向及び周方向の偏摩耗量Δh1(=V・Δt2)を求めると共に、その偏摩耗速度ΔV1(=Δh1/L)を求める(ステップS16)。
【0047】
制輪子摩耗検知ユニット2A及び制輪子摩耗検知ユニット2Bを前記のような位置に取り付けることで、1つの制輪子20あたりの制輪子摩耗検知ユニット2A,2Bの数の増加を抑制しながらも、制輪子20の車幅方向及び周方向における偏摩耗の傾向把握が可能になる。また、制輪子20の摩耗が摩耗限度まで達したときも前記同様に、制輪子摩耗検知ユニット2Aの限度摩耗検知RFタグ32の破損時期と制輪子摩耗検知ユニット2Bの限度摩耗検知RFタグ32の破損時期とから制輪子20の偏摩耗量及び偏摩耗速度が求められる。なお、制輪子摩耗検知ユニット2Aに対して同一面上の周方向反対側の位置に設ける制輪子摩耗検知ユニットと、制輪子摩耗検知ユニット2Aに対して車幅方向反対面の周方向同一位置に設ける制輪子摩耗検知ユニットとを用い、車幅方向の偏摩耗と周方向の偏摩耗とを別々に検出してもよい。
【0048】
そして、サーバ6は、制輪子摩耗検知ユニット2A,Bの初期摩耗検知RFタグ31からリーダ4A,Bが最初に信号を読み取った時刻t1と、制輪子摩耗検知ユニット2A,Bの何れかの限度摩耗検知RFタグ32からリーダ4A,Bが読み取る信号が最初に欠落した時刻t4との間の時間差Δt3を算出し、その時間差Δt3を制輪子20のトータル寿命T
totalとしてデータベース7に保存する(ステップS17)。
【0049】
また、サーバ6は、リーダ4A〜Dから受信した各データ及びその各データに基づく前述した演算結果の過去情報をデータベース7に保存する。そして、サーバ6は、前述した残寿命時間T
remを求める際には、データベース7に保存された過去情報に基づいて残寿命時間T
remを補正する。一例として、過去情報が、車種の特性により通常よりも速く摩耗する傾向が把握されている場合には、残寿命時間T
remを短縮するように補正する。他例として、過去情報が、冬季は夏季よりも遅く摩耗する傾向が把握されている場合には、冬季には夏季よりも残寿命時間T
remを延ばすように補正する。このように個別要因を反映した過去の実績を利用した補正を行うことで、高精度な寿命推定を行うことが可能となる。
【0050】
また、サーバ6は、1つの制輪子摩耗検知ユニット2Aの初期摩耗検知RFタグ31(又は限度摩耗検知RFタグ32)からリーダ4Aが読み取る信号が欠落した後に、同一の初期摩耗検知RFタグ31(又は限度摩耗検知RFタグ32)から正常に信号が読み取られた場合には、その初期摩耗検知RFタグ31(又は限度摩耗検知RFタグ32)からの信号の読み取りの欠落が誤りであると判定する。これにより、初期摩耗検知RFタグ31(又は限度摩耗検知RFタグ32)からの信号の欠落が、一時的要因(例えば、雨)によるものである場合に、サーバ6が当該信号の欠落の情報を訂正し、初期摩耗検知RFタグ31(又は限度摩耗検知RFタグ32)が未だ破壊されていないと把握することができる。
【0051】
なお、前述した実施形態では、データ処理装置5が読取時間表を作成してサーバ6が摩耗特性を解析したが、サーバ6が読取時間表の作成と摩耗特性の解析とで演算を分散させたが、データ処理装置5又はサーバ6の何れか一方のみが読取時間表の作成と摩耗特性の解析との両方を行ってもよい。即ち、読取時間表の作成と摩耗特性の解析とを行うコンピュータがあればよい。
【0052】
(第1変形例)
図11は、第1変形例の制輪子摩耗検知ユニット102を示す
図5相当の図面である。
図11に示すように、制輪子摩耗検知ユニット102では、初期摩耗検知RFタグ31、限度摩耗検知RFタグ32及び参照RFタグ33のうち制輪子20に対向する裏面に、制輪子20に貼り付けられる接着層が形成され、ベースシート134の裏面には、各RFタグ31〜33の表面に着脱自在に貼り付けられる粘着層が形成されている。制輪子摩耗検知ユニット102を制輪子20に貼り付ける前の保管時には、各RFタグ31〜33の裏面の接着層は剥離紙(図示せず)により保護されている。
【0053】
この構成によれば、ベースシート134と共に各RFタグ31〜33の裏面を制輪子20に貼り付けた後に、ベースシート134を各RFタグ31〜33から剥がして取り除くことができる。よって、制輪子20の摩耗により第1又は第2摩耗検知RFタグ31,32が破壊されるときの荷重がベースシート134を介して参照RFタグ33に伝達されることを確実に防止できる。
【0054】
(第2変形例)
図12は、第2変形例の制輪子摩耗検知ユニット202を示す平面図である。
図12に示すように、制輪子摩耗検知ユニット202では、ベースシート34上において、各RFタグ31〜33は、その長手方向が制輪子20の厚さ方向に向くように配置されている。これによれば、制輪子20の周方向において各RFタグ31〜33の位置を互いにずらし、制輪子20の厚さ方向において各RFタグ31〜33同士を重ねるように配置することが可能となる。よって、制輪子摩耗検知ユニット202は、厚さ方向寸法の小さい制輪子に適用しやすい。
【0055】
(第3変形例)
図13は、第3変形例の制輪子摩耗検知ユニット302A,302Bを制輪子20に取り付けた状態を車両長手方向から見た正面図である。
図13に示すように、制輪子摩耗検知ユニット302A,302Bが制輪子20に取り付けられた状態において、各RFタグ31〜33の通信面の法線が鉛直方向下向き成分を有するように構成されている。例えば、各RFタグ31〜33は、ベースシート34に対して所定の角度(例えば、90°)を形成するように固定されている。この構成によれば、各RFタグ31〜33から信号を読み取るリーダ4A,4Bが制輪子20よりも低い位置に設置された場合に、良好な感度で信号を読み取ることができる。