特許第6886377号(P6886377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886377
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】歯科治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 17/20 20060101AFI20210603BHJP
   A61C 17/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   A61C17/20
   A61C17/00 E
   A61C17/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-184619(P2017-184619)
(22)【出願日】2017年9月26日
(62)【分割の表示】特願2013-139406(P2013-139406)の分割
【原出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2018-11995(P2018-11995A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2017年9月26日
【審判番号】不服2019-17010(P2019-17010/J1)
【審判請求日】2019年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】593213504
【氏名又は名称】株式会社エーゼット
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】菅野 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】庭野 吉己
(72)【発明者】
【氏名】菅野 稔
【合議体】
【審判長】 内藤 真徳
【審判官】 倉橋 紀夫
【審判官】 莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−235979号公報(JP,A)
【文献】 米国特許第5860948号明細書(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 17/20
A61C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯石又は歯垢の除去と歯の消毒とをする歯科治療装置であって、
超音波振動を発生する振動子によって振動するとともに、振動部とは離間して振動部の軸方向に挿通されるシャフト部(後記)に、直接に接触しないように構成される振動部と、
前記振動部に接続されて前記超音波振動を伝達するとともに過酸化水素水と後記レーザ光を先端から出すためのチップ部と、
前記チップ部から過酸化水素水を放出するためシャフト部内及びチップ部に設けられた流路と、
チップ部から見て振動部よりも遠い側に配置され、シャフト部と一体に組み立てられる過酸化水素水を光分解するレーザ光を照射するためのレーザ光源並びにレーザ光学レンズ系と、
レーザ光源並びにレーザ光学レンズ系からのレーザ光を伝達するための前記流路と分離され、シャフト部内及びチップ部に設けられた光路と、を備え、
前記光路は、レーザ光源からのレーザ光が光ファイバからなる光路に入射されるよりも前に、過酸化水素水を光分解するレーザ光が過酸化水素水中を通らないように前記レーザ光源並びにレーザ光学レンズ系からのレーザ光を伝達し、過酸化水素水の流路をシャフト部内の光ファイバ及びチップ部内に遊嵌されるライトガイドからなる光路と分離したこと
を特徴とする歯科治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科診療において、歯周病の予防、治療に用いられる歯科治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、歯周ポケットに病原細菌が繁殖することによって発症する炎症性疾患、いわゆる歯周病が問題となっている。この歯周病を治療するために、歯石や歯垢を超音波振動を利用して歯科用スケーラーによってクリーニング(清掃)することが実施されている。
【0003】
歯石や歯垢には多くの細菌が付着しているため、歯石や歯垢の除去を行う場合、歯石等を除去される部分や除去した部分を消毒することが好ましい。細菌を消毒・殺菌処理するために、例えば、オートクレーブ装置が利用されている。このオートクレーブ装置では、高圧・高温の液体内に消毒・殺菌処理される物を数10分間浸漬して殺菌処理を行う。
【0004】
上述したクリーニングと消毒・殺菌処理とを同時に行うことができる装置として、特許文献1の歯石除去・消毒装置が知られている。この歯石除去・消毒装置では、超音波振動によって歯石の粉砕を行うのと同時に、消毒用液を先端部から供給して光を照射することによってヒドロキシラジカルを発生させて消毒を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−75602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の歯石除去・消毒装置では、レーザ光が過酸化水素水中を通るように構成されているため、レーザ光が過酸化水素水によって散乱されて大きく減衰してしまうという問題があった。
【0007】
すなわち、従来は、図5に示すように、光源aで発生したレーザ光は、集光レンズb、cで集光され、流路d内の殺菌剤中を伝達されるように構成されていた。このため、レーザ光は殺菌剤によって散乱され、大きく減衰されて振動部eの先端fまで到達していたのである。
【0008】
そこで、本発明は、レーザ光の減衰が生じにくい歯科治療装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の歯科治療装置は、歯石又は歯垢の除去と歯の消毒とをする歯科治療装置であって、超音波振動を発生する振動子によって振動する振動部と、前記振動部に接続されて前記超音波振動を伝達されるチップ部と、前記チップ部から殺菌剤を放出するための流路と、前記チップ部から前記殺菌剤を光分解するレーザ光を照射するための光学系であって、前記流路と分離された光路を有する光学系と、備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明の歯科治療装置は、歯石又は歯垢の除去と歯の消毒とをする歯科治
療装置である。この歯科治療装置は、超音波振動を発生する振動子によって振動する振動部と、振動部に接続されて超音波振動を伝達されるチップ部と、チップ部から殺菌剤を放出するための流路と、チップ部から殺菌剤を光分解するレーザ光を照射するための光学系であって、流路と分離された光路を有する光学系と、を備えている。この構成によって、殺菌剤によるレーザ光の散乱が生じにくくなるため、チップ部の先端から高強度のレーザ光を照射して、効率よく殺菌剤を光分解できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】歯科治療装置の全体構成を説明する斜視図である。
図2】実施例の振動部とシャフト部の構成を説明する断面図である。
図3】シャフト部の構成を模式的に説明する説明図である。(a)は断面図であり、(b)は先端側の側面図である。
図4】スペーサ部材の構成を説明する説明図である。(a)は断面図であり、(b)は斜視図である。
図5】従来例の振動部とシャフト部の構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0013】
(構成)
まず、図1を用いて本実施例の歯科治療装置1の構成を説明する。本実施例の歯科治療装置1は、振動部2と流路4と光学系5とを覆うカバー10を備えている(図2参照)。カバー10の基端には、後述する殺菌剤を供給する供給管44と電気を供給するコード55とが接続されている。カバー10の先端には、チップ部3が脱着可能に取り付けられている。このチップ部3を用いて、歯石又は歯垢の除去及び消毒・殺菌とが実行される。
【0014】
歯科治療装置1は、操作者が手で保持して、患者の口腔内で操作するものであるため、設計に際して、装置全体の小型化、操作性、安全面への配慮は基本的な要件である。
【0015】
本実施例の歯科治療装置1は、図2に示すように、超音波振動を発生する振動子21によって振動する振動部2と、振動部2に接続されて超音波振動を伝達されるチップ部3と、チップ部3から殺菌剤を放出するための流路4と、チップ部3から殺菌剤を光分解するレーザ光を照射するための光学系5と、を備えている。
【0016】
振動部2は、ステンレスなどの腐食しにくい合金によって、略円筒形に形成される。振動部2の所定位置には、超音波振動を発生する振動子21が取り付けられている。振動子21は、圧電素子を組み合わせたものであり、コントローラ(不図示)から供給される所定周波数の電圧によって駆動されて振動する。振動方向はカバー10の軸方向(長手方向)となる。
【0017】
振動部2の内部の基端側からは、光源50と一体に組み立てられるシャフト部6が、振動部2の軸方向(長手方向)に沿って挿通されている。シャフト部6の外径は、振動部2の内径よりも小さくされることにより、シャフト部6が振動部2と直接に接触しないようにされている。
【0018】
シャフト部6は、図3の説明図に示すように、全体として略円柱状に形成される部材であり、軸中心を貫通する孔61と、孔61の周りに配置された流路41、・・・と、を備えている。
【0019】
孔61は、シャフト部6の軸中心を軸方向に貫通する円形の貫通孔であり、孔61に光学系5を構成するファイバーロッド51が挿通される。ファイバーロッド51は、いわゆる光ファイバーであり、コア、クラッド、被覆の3重構造となっている。コアの屈折率はクラッドよりも高く、全反射や屈折により光を中心部のコアを通じて伝播させる構造になっている。
【0020】
流路41、・・・は、図3(a)に示すように、4つの扇形の孔として形成され、それぞれ、9時、12時、15時、18時の方向に配置されている。なお、流路41、・・・の形状・配置は、この実施例の形態に限定されず、他の形状・配置にすることもできる。例えば、円形の孔であってもよいし、より多数の孔を設けることもできる。
【0021】
チップ部3は、合金などによって、先端が尖った中空の鉤形状(L字状)に形成される。チップ部3は、振動部2の先端側に接続されることによって振動し、歯Tに付着した歯石や歯垢を除去できるようになっている。なお、チップ部3の形状は、鉤形状に限定されず、直線状や円弧状などであってもよい。
【0022】
さらに、本実施例のチップ部3の内部には、チップ部3の基端31から先端32までレーザ光を伝達するライトガイド52が嵌め込まれている。ライトガイド22は、使用する殺菌剤よりも屈折率の高い樹脂によって形成されている。例えば、アクリル樹脂などを用いることができる。
【0023】
ライトガイド52は、チップ部3の内部に遊嵌状態で挿入されている。したがって、チップ部3の内表面とライトガイド52の外表面との間には殺菌剤が流れる流路43が形成されている。
【0024】
流路4は、供給管44が接続される取込口40と、シャフト部6の基端側の流路41と、振動部2の内部の先端側のスペーサ7、7及びファイバーロッド51以外の空間によって形成される流路42と、チップ部3の内部の流路43と、によって構成される。
【0025】
光学系5は、レーザ光を発生する半導体光源である光源50と、発生したレーザ光を集光するレンズ53、54と、シャフト部6内で集光されたレーザ光を伝達するファイバーロッド51と、チップ部3内でレーザ光を伝達するライトガイド52と、から構成される。すなわち、本実施例の光学系5は、殺菌剤の流路4から分離されている。
【0026】
光源50、レンズ53、54は、シャフト部6の基端側に、所定の相対位置関係で固定される。光源50は、半導体レーザ(LD)、又は、発光ダイオード(LED)等である。
【0027】
光源50で発生されるレーザ光の波長は、殺菌剤を光分解するのに適した範囲に設定する。例えば、殺菌剤として過酸化水素水を選択した場合には、レーザ光の波長は405nmとすることが好ましい。
【0028】
(作用)
次に、本実施例の歯科治療装置1の作用について説明する。本実施例の歯科治療装置1によれば、以下に説明するクリーニングと消毒・殺菌とを、同時に実施できる。クリーニング(歯石除去等)を実施するためには、コントローラを操作して、振動子21を振動させて超音波振動を発生させる。超音波振動は、振動部2を介してチップ部3に伝達される。そして、チップ部3の先端32を歯石等に押し当て、超音波振動によって歯石を粉砕する。
【0029】
これと同時に、消毒・殺菌を実施するためには、コントローラを操作して、光源50を点灯させる。光源50から放射された光は、レンズ53、54によって集光されて、ファイバーロッド51の基端に入射する。入射した光は、殺菌剤中ではなく、ファイバーロッド51中を伝達されて、ライトガイド52まで到達する。そして、ライトガイド52内を伝達された光は、ライトガイド52の先端から放射される。この光によって、消毒液中にヒドロキシラジカルを発生させ、ヒドロキシラジカルによって消毒(殺菌・滅菌)が行われる。
【0030】
(効果)
次に、本実施例の歯科治療装置1の効果を列挙して説明する。
【0031】
(1)本実施例の歯科治療装置1は、歯石又は歯垢の除去と歯の消毒とをする歯科治療装置1である。この歯科治療装置1は、超音波振動を発生する振動子21によって振動する振動部2と、振動部2に接続されて超音波振動を伝達されるチップ部3と、チップ部3から殺菌剤を放出するための流路4と、チップ部3から殺菌剤を光分解するレーザ光を照射するための光学系5であって、流路4と分離された光路を有する光学系5と、を備えている。
【0032】
したがって、殺菌剤によるレーザ光の散乱が生じにくくなるため、チップ部3の先端から高強度のレーザ光を照射して、効率よく殺菌剤を光分解できるようになる。
【0033】
(2)チップ部3には、光学系5としてチップ部3の先端までレーザ光を誘導するライトガイド52が配置され、光学系5の光源50の近傍からライトガイド52の基端部52aまで延設されるファイバーロッド51をさらに備えている。
【0034】
これにより、歯科治療装置1の基端側に光源50を配置し、かつ、先端側に振動子21を配置することにより、歯科治療装置1全体の小型化を達成しつつ、レーザ光の減衰を抑制できる。
【0035】
つまり、チップ部3を効率よく振動させるためには振動子21は先端側に位置するほうが好ましい。そうすると、装置全体を小型化するためには、光源50は基端側に配置することになる。そこで、基端側の光源50から先端側までレーザ光を伝達するファイバーロッド51を配置することにより、レーザ光の減衰を抑制しているのである。
【0036】
(3)振動部2の内部の基端側には、光源50と一体に組み立てられるシャフト部6が、振動部2の軸方向に沿って挿通され、シャフト部6には、ファイバーロッド51が挿通される孔61が軸中心に配置されるとともに、孔61の周りに流路41が配置されている。
【0037】
このため、このシャフト部6によって、光学系5の各要素の相対位置関係を維持しつつ、流路41も構成することができる。換言すると、振動部2内の狭い空間において、流路4と光路の両方を確保できる。
【0038】
(4)シャフト部6は、振動部2の内部と直接に接触しないように形成されている。これによって、振動部2の超音波振動がシャフト部6に伝達されて、光源50や集光レンズ53、54に不具合を生じることを防止できる。
【0039】
(5)振動部2の内部における先端側には、ファイバーロッド51を挟持するスペーサ部材62が配置されていることによって、狭い空間内でもファイバーロッド51の位置を維持しつつ、光路と流路4とを分離できる。
【0040】
(6)殺菌剤は、過酸化水素、カテキン類を含む殺菌剤、又はポリフェノール溶液から選択できる。これにより、カテキン類を含む殺菌剤による過酸化水素分解法によって、歯周を殺菌できる。あるいは、ポリフェノールにより口腔内の創傷治療促進、炎症時の酸化ストレス(好中球などの炎症性細胞が産生する活性酸素種)の軽減を行うことができる。
【0041】
(7)殺菌剤として過酸化水素を用いた場合に、レーザ光の波長が405nmとすることができる。これにより、効率よくヒドロキシラジカルを発生させることができる。さらに、この波長の光は、人体に対して安全であり、かつ、歯周病菌の増殖の抑制に有効であるため、いっそう消毒効果を助長することができる。
【0042】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0043】
例えば、レーザ光の波長は、400〜500nmの範囲で調整できるようにしてもよい。このように、歯周病の状況に応じて波長を変えることができれば、コストパフォーマンスのよい装置となる。
【0044】
さらに、実施例では、殺菌剤の流路とレーザ光の光路とが、完全に分離されているとして説明したが、これに限定されるものではない。ごく短い距離であれば、流路と光路とが分離されずに重なり合う領域が存在しても、本発明の技術思想の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1 歯科治療装置
2 振動部
21 振動子
3 チップ部
4 流路
41 流路
5 光学系
50 光源
51 ファイバーロッド
52 ライトガイド
6 シャフト部
61 孔
62 スペーサ
図1
図2
図3
図4
図5