【実施例】
【0013】
(構成)
まず、
図1を用いて本実施例の歯科治療装置1の構成を説明する。本実施例の歯科治療装置1は、振動部2と流路4と光学系5とを覆うカバー10を備えている(
図2参照)。カバー10の基端には、後述する殺菌剤を供給する供給管44と電気を供給するコード55とが接続されている。カバー10の先端には、チップ部3が脱着可能に取り付けられている。このチップ部3を用いて、歯石又は歯垢の除去及び消毒・殺菌とが実行される。
【0014】
歯科治療装置1は、操作者が手で保持して、患者の口腔内で操作するものであるため、設計に際して、装置全体の小型化、操作性、安全面への配慮は基本的な要件である。
【0015】
本実施例の歯科治療装置1は、
図2に示すように、超音波振動を発生する振動子21によって振動する振動部2と、振動部2に接続されて超音波振動を伝達されるチップ部3と、チップ部3から殺菌剤を放出するための流路4と、チップ部3から殺菌剤を光分解するレーザ光を照射するための光学系5と、を備えている。
【0016】
振動部2は、ステンレスなどの腐食しにくい合金によって、略円筒形に形成される。振動部2の所定位置には、超音波振動を発生する振動子21が取り付けられている。振動子21は、圧電素子を組み合わせたものであり、コントローラ(不図示)から供給される所定周波数の電圧によって駆動されて振動する。振動方向はカバー10の軸方向(長手方向)となる。
【0017】
振動部2の内部の基端側からは、光源50と一体に組み立てられるシャフト部6が、振動部2の軸方向(長手方向)に沿って挿通されている。シャフト部6の外径は、振動部2の内径よりも小さくされることにより、シャフト部6が振動部2と直接に接触しないようにされている。
【0018】
シャフト部6は、
図3の説明図に示すように、全体として略円柱状に形成される部材であり、軸中心を貫通する孔61と、孔61の周りに配置された流路41、・・・と、を備えている。
【0019】
孔61は、シャフト部6の軸中心を軸方向に貫通する円形の貫通孔であり、孔61に光学系5を構成するファイバーロッド51が挿通される。ファイバーロッド51は、いわゆる光ファイバーであり、コア、クラッド、被覆の3重構造となっている。コアの屈折率はクラッドよりも高く、全反射や屈折により光を中心部のコアを通じて伝播させる構造になっている。
【0020】
流路41、・・・は、
図3(a)に示すように、4つの扇形の孔として形成され、それぞれ、9時、12時、15時、18時の方向に配置されている。なお、流路41、・・・の形状・配置は、この実施例の形態に限定されず、他の形状・配置にすることもできる。例えば、円形の孔であってもよいし、より多数の孔を設けることもできる。
【0021】
チップ部3は、合金などによって、先端が尖った中空の鉤形状(L字状)に形成される。チップ部3は、振動部2の先端側に接続されることによって振動し、歯Tに付着した歯石や歯垢を除去できるようになっている。なお、チップ部3の形状は、鉤形状に限定されず、直線状や円弧状などであってもよい。
【0022】
さらに、本実施例のチップ部3の内部には、チップ部3の基端31から先端32までレーザ光を伝達するライトガイド52が嵌め込まれている。ライトガイド22は、使用する殺菌剤よりも屈折率の高い樹脂によって形成されている。例えば、アクリル樹脂などを用いることができる。
【0023】
ライトガイド52は、チップ部3の内部に遊嵌状態で挿入されている。したがって、チップ部3の内表面とライトガイド52の外表面との間には殺菌剤が流れる流路43が形成されている。
【0024】
流路4は、供給管44が接続される取込口40と、シャフト部6の基端側の流路41と、振動部2の内部の先端側のスペーサ7、7及びファイバーロッド51以外の空間によって形成される流路42と、チップ部3の内部の流路43と、によって構成される。
【0025】
光学系5は、レーザ光を発生する半導体光源である光源50と、発生したレーザ光を集光するレンズ53、54と、シャフト部6内で集光されたレーザ光を伝達するファイバーロッド51と、チップ部3内でレーザ光を伝達するライトガイド52と、から構成される。すなわち、本実施例の光学系5は、殺菌剤の流路4から分離されている。
【0026】
光源50、レンズ53、54は、シャフト部6の基端側に、所定の相対位置関係で固定される。光源50は、半導体レーザ(LD)、又は、発光ダイオード(LED)等である。
【0027】
光源50で発生されるレーザ光の波長は、殺菌剤を光分解するのに適した範囲に設定する。例えば、殺菌剤として過酸化水素水を選択した場合には、レーザ光の波長は405nmとすることが好ましい。
【0028】
(作用)
次に、本実施例の歯科治療装置1の作用について説明する。本実施例の歯科治療装置1によれば、以下に説明するクリーニングと消毒・殺菌とを、同時に実施できる。クリーニング(歯石除去等)を実施するためには、コントローラを操作して、振動子21を振動させて超音波振動を発生させる。超音波振動は、振動部2を介してチップ部3に伝達される。そして、チップ部3の先端32を歯石等に押し当て、超音波振動によって歯石を粉砕する。
【0029】
これと同時に、消毒・殺菌を実施するためには、コントローラを操作して、光源50を点灯させる。光源50から放射された光は、レンズ53、54によって集光されて、ファイバーロッド51の基端に入射する。入射した光は、殺菌剤中ではなく、ファイバーロッド51中を伝達されて、ライトガイド52まで到達する。そして、ライトガイド52内を伝達された光は、ライトガイド52の先端から放射される。この光によって、消毒液中にヒドロキシラジカルを発生させ、ヒドロキシラジカルによって消毒(殺菌・滅菌)が行われる。
【0030】
(効果)
次に、本実施例の歯科治療装置1の効果を列挙して説明する。
【0031】
(1)本実施例の歯科治療装置1は、歯石又は歯垢の除去と歯の消毒とをする歯科治療装置1である。この歯科治療装置1は、超音波振動を発生する振動子21によって振動する振動部2と、振動部2に接続されて超音波振動を伝達されるチップ部3と、チップ部3から殺菌剤を放出するための流路4と、チップ部3から殺菌剤を光分解するレーザ光を照射するための光学系5であって、流路4と分離された光路を有する光学系5と、を備えている。
【0032】
したがって、殺菌剤によるレーザ光の散乱が生じにくくなるため、チップ部3の先端から高強度のレーザ光を照射して、効率よく殺菌剤を光分解できるようになる。
【0033】
(2)チップ部3には、光学系5としてチップ部3の先端までレーザ光を誘導するライトガイド52が配置され、光学系5の光源50の近傍からライトガイド52の基端部52aまで延設されるファイバーロッド51をさらに備えている。
【0034】
これにより、歯科治療装置1の基端側に光源50を配置し、かつ、先端側に振動子21を配置することにより、歯科治療装置1全体の小型化を達成しつつ、レーザ光の減衰を抑制できる。
【0035】
つまり、チップ部3を効率よく振動させるためには振動子21は先端側に位置するほうが好ましい。そうすると、装置全体を小型化するためには、光源50は基端側に配置することになる。そこで、基端側の光源50から先端側までレーザ光を伝達するファイバーロッド51を配置することにより、レーザ光の減衰を抑制しているのである。
【0036】
(3)振動部2の内部の基端側には、光源50と一体に組み立てられるシャフト部6が、振動部2の軸方向に沿って挿通され、シャフト部6には、ファイバーロッド51が挿通される孔61が軸中心に配置されるとともに、孔61の周りに流路41が配置されている。
【0037】
このため、このシャフト部6によって、光学系5の各要素の相対位置関係を維持しつつ、流路41も構成することができる。換言すると、振動部2内の狭い空間において、流路4と光路の両方を確保できる。
【0038】
(4)シャフト部6は、振動部2の内部と直接に接触しないように形成されている。これによって、振動部2の超音波振動がシャフト部6に伝達されて、光源50や集光レンズ53、54に不具合を生じることを防止できる。
【0039】
(5)振動部2の内部における先端側には、ファイバーロッド51を挟持するスペーサ部材62が配置されていることによって、狭い空間内でもファイバーロッド51の位置を維持しつつ、光路と流路4とを分離できる。
【0040】
(6)殺菌剤は、過酸化水素、カテキン類を含む殺菌剤、又はポリフェノール溶液から選択できる。これにより、カテキン類を含む殺菌剤による過酸化水素分解法によって、歯周を殺菌できる。あるいは、ポリフェノールにより口腔内の創傷治療促進、炎症時の酸化ストレス(好中球などの炎症性細胞が産生する活性酸素種)の軽減を行うことができる。
【0041】
(7)殺菌剤として過酸化水素を用いた場合に、レーザ光の波長が405nmとすることができる。これにより、効率よくヒドロキシラジカルを発生させることができる。さらに、この波長の光は、人体に対して安全であり、かつ、歯周病菌の増殖の抑制に有効であるため、いっそう消毒効果を助長することができる。
【0042】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0043】
例えば、レーザ光の波長は、400〜500nmの範囲で調整できるようにしてもよい。このように、歯周病の状況に応じて波長を変えることができれば、コストパフォーマンスのよい装置となる。
【0044】
さらに、実施例では、殺菌剤の流路とレーザ光の光路とが、完全に分離されているとして説明したが、これに限定されるものではない。ごく短い距離であれば、流路と光路とが分離されずに重なり合う領域が存在しても、本発明の技術思想の範囲に含まれる。