特許第6886381号(P6886381)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886381
(24)【登録日】2021年5月18日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】液圧システム
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/08 20060101AFI20210603BHJP
【FI】
   F15B11/08 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-190723(P2017-190723)
(22)【出願日】2017年9月29日
(65)【公開番号】特開2019-65936(P2019-65936A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】三井 広明
(72)【発明者】
【氏名】豊田 敏久
(72)【発明者】
【氏名】山田 治生
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−166199(JP,A)
【文献】 特開2005−036870(JP,A)
【文献】 米国特許第9080310(US,B2)
【文献】 特許第5805217(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00−11/22;21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド側室およびヘッド側室を含む、片ロッドの液圧シリンダと、
回転機械により駆動される、第1ポートおよび第2ポートを有する可変容量型のポンプと、
前記ポンプの1回転当りの吐出容量を第1設定値と前記第1設定値よりも小さな第2設定値との間で切り換える流量調整装置と、
前記第1ポートを前記ロッド側室と接続するロッド側供給ラインと、
前記ポンプ、前記ロッド側供給ラインおよび前記液圧シリンダと共に閉回路を形成するように、前記第2ポートを前記ヘッド側室と接続するヘッド側供給ラインと、
前記ロッド側供給ラインから分岐してタンクへつながる第1タンクラインと、
前記第1タンクラインに設けられた、前記タンクから前記ロッド側供給ラインへ向かう流れは許容するがその逆の流れは禁止し、かつ、前記ヘッド側供給ラインの圧力が第1設定圧よりも高くとなったときに逆流防止機能を解除する第1パイロットチェック弁と、
前記ヘッド側供給ラインから分岐してタンクへつながる第2タンクラインと、
前記第2タンクラインに設けられた、前記タンクから前記ヘッド側供給ラインへ向かう流れは許容するがその逆の流れは禁止し、かつ、前記ロッド側供給ラインの圧力が第2設定圧よりも高くとなったときに逆流防止機能を解除する第2パイロットチェック弁と、を備え、
前記流量調整装置には、前記ロッド側供給ラインの圧力および前記ヘッド側供給ラインの圧力が導かれ、
前記流量調整装置は、前記ヘッド側供給ラインの圧力が前記ロッド側供給ラインの圧力よりも高いときに前記ポンプの吐出容量を前記第1設定値に切り換え、前記ロッド側供給ラインの圧力が前記ヘッド側供給ラインの圧力よりも高いときに前記ポンプの吐出容量を前記第2設定値に切り換えるように構成されている、液圧システム。
【請求項2】
前記第1設定値と前記第2設定値の比は、前記液圧シリンダのヘッド側室とロッド側室の受圧面積比と等しい、請求項1に記載の液圧システム。
【請求項3】
前記回転機械は、サーボモータであり、
前記ポンプの第1ポートおよび第2ポートは、前記回転機械の回転方向によって吐出側と吸込側とが切り換わる、請求項1または2に記載の液圧システム。
【請求項4】
前記ポンプの第1ポートおよび第2ポートは、前記ポンプの斜板または斜軸が基準線を超えて両方向に傾倒することによって吐出側と吸込側とが切り換わる、請求項1または2に記載の液圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片ロッドの液圧シリンダとポンプとが閉回路を形成するように接続された液圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、片ロッドの液圧シリンダとポンプとが閉回路を形成するように接続された液圧システムが知られている。例えば、特許文献1には、図5(a)および(b)に示すような液圧システム100が開示されている。
【0003】
この液圧システム100では、片ロッドの液圧シリンダ120とポンプ110とがロッド側供給ライン131およびヘッド側供給ライン132により閉回路を形成するように接続されている。ロッド側供給ライン131からは第1タンクライン141が分岐しており、ヘッド側供給ライン132からは第2タンクライン151が分岐している。第1タンクライン141および第2タンクライン151には、パイロットチェック弁142,152がそれぞれ設けられている。
【0004】
第1タンクライン141に設けられたパイロットチェック弁142は、ヘッド側供給ライン132の圧力が高くなったときに逆流防止機能を解除し、第2タンクライン151に設けられたパイロットチェック弁152は、ロッド側供給ライン131の圧力が高くなったときに逆流防止機能を解除する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−257448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された液圧システム100では、液圧シリンダ120の伸長動作時に図5(a)に示すようにシリンダに働く負荷の方向が短縮方向である場合には、負荷に対抗してヘッド側供給ライン132の圧力が高くなり、液圧シリンダ120の速度は、ポンプ110の吐出流量で制御される。このとき、前記液圧シリンダ120のヘッド側室とロッド側室の受圧面積差分の流量の作動液が第1タンクライン141のパイロットチェック弁142を経由してタンク160から吸引される。
【0007】
しかしながら、図5(b)に示すようにシリンダに働く負荷の方向が伸長方向に反転すると、負荷に対抗してロッド側供給ライン131の圧力が高くなり、液圧シリンダ120の速度はポンプ110の吸込流量で制御されるようになる。このとき、前記液圧シリンダ120のヘッド側室とロッド側室の受圧面積差分の流量の作動液が第2タンクライン151のパイロットチェック弁152を経由してタンク160から吸引される。このように液圧シリンダ120の伸長動作時に負荷の方向が短縮方向から伸長方向に反転したときには、ヘッド側室およびロッド側室の圧力が急変することにより機械的なショックが発生するだけでなく、液圧シリンダ120の速度が変化する。より詳しくは、負荷の方向が短縮方向から伸長方向に反転した直後は、ロッドから排出される流量に対してポンプ吸込流量(理論流量)が不足するので負荷に対抗する力が発生せず、液圧シリンダ120の速度が負荷により増速される。その増速の結果でポンプ110に流入する流量がポンプ110の理論吐出流量(理論吸込流量)と一致するとロッド側に圧力が生じて液圧シリンダ120の速度が一定となる。シリンダに働く負荷(外力)に対抗する力が消失した瞬間、並びに、ポンプ110に流入する流量がポンプ吸込流量と一致した瞬間にショックが発生する。このような負荷の方向の反転による液圧シリンダの速度の変化は、負荷の方向が伸長方向から短縮方向に反転したときにも生じる。
【0008】
また、液圧シリンダ120の短縮動作時に負荷の方向が図6(a)に示すように伸長方向である場合には、負荷に対抗してロッド側供給ライン131の圧力が高くなり、液圧シリンダ120の速度は、ポンプ110の吐出流量で制御される。このとき、第2タンクライン151のパイロットチェック弁152が開かれ、液圧シリンダ120のヘッド側室とロッド側室の受圧面積差分の流量の作動液が第2タンクライン151を通じてタンク160へ流れ込む。
【0009】
しかしながら、負荷の方向が図6(b)に示すように短縮方向に反転すると、負荷に対抗してヘッド側供給ライン132の圧力が高くなり、液圧シリンダ120の速度は、ポンプ110の吸込流量で制御される。このとき、第2タンクライン151のパイロットチェック弁152が閉じられて、ヘッド側からの流量が全てポンプ110の吸込側に流入する。また、ヘッド側供給ライン132の圧力により第1タンクライン141のパイロットチェック弁142が開かれて、液圧シリンダ120のヘッド側室とロッド側室の受圧面積差分の流量の作動液が第1タンクライン141を通じてタンク160へ流れ込む。すなわち、液圧シリンダ120の短縮動作時に負荷の方向が伸長方向から短縮方向に反転したときには、機械的なショックが発生するだけでなく、液圧シリンダ120の速度が変化する。より詳しくは、ポンプ110へ流れ込む流量が急激に増加し、ポンプ110の理論吐出(吸込)流量を超える分だけ吸込側圧力が急上昇すると同時に液圧シリンダ120の速度が急減速する。したがって、液圧シリンダ120の短縮動作時に負荷の方向が伸長方向から短縮方向に反転したときには、液圧シリンダの速度の急変およびショックが発生してしまう。このような負荷の方向の反転による液圧シリンダの速度の変化は、負荷の方向が短縮方向から伸長方向に反転したときにも生じる。
【0010】
上述したような液圧シリンダの伸長動作時および短縮動作時に負荷の方向が反転した場合の液圧シリンダ120の速度の変化を抑制するには、ポンプ110を駆動する回転機械の回転数を瞬時に変化させることが考えられる。しかし、例えば回転機械がエンジンである場合にはそのような制御は困難である。また、回転機械がサーボモータである場合であっても、シリンダのストローク速度を検出する装置と前記ポンプの両ポートの圧力を検出するセンサとが必要であり液圧システムの構成が複雑となる。
【0011】
そこで、本発明は、液圧シリンダの伸長動作時および短縮動作時に負荷の方向が反転しても、回転機械の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダの速度の変化を抑制することができる液圧システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明の液圧システムは、ロッド側室およびヘッド側室を含む、片ロッドの液圧シリンダと、回転機械により駆動される、第1ポートおよび第2ポートを有する可変容量型のポンプと、前記ポンプの1回転当りの吐出容量を第1設定値と前記第1設定値よりも小さな第2設定値との間で切り換える流量調整装置と、前記第1ポートを前記ロッド側室と接続するロッド側供給ラインと、前記ポンプ、前記ロッド側供給ラインおよび前記液圧シリンダと共に閉回路を形成するように、前記第2ポートを前記ヘッド側室と接続するヘッド側供給ラインと、前記ロッド側供給ラインから分岐してタンクへつながる第1タンクラインと、前記第1タンクラインに設けられた、前記タンクから前記ロッド側供給ラインへ向かう流れは許容するがその逆の流れは禁止し、かつ、前記ヘッド側供給ラインの圧力が第1設定圧よりも高くとなったときに逆流防止機能を解除する第1パイロットチェック弁と、前記ヘッド側供給ラインから分岐してタンクへつながる第2タンクラインと、前記第2タンクラインに設けられた、前記タンクから前記ヘッド側供給ラインへ向かう流れは許容するがその逆の流れは禁止し、かつ、前記ロッド側供給ラインの圧力が第2設定圧よりも高くとなったときに逆流防止機能を解除する第2パイロットチェック弁と、を備え、前記流量調整装置には、前記ロッド側供給ラインの圧力および前記ヘッド側供給ラインの圧力が導かれ、前記流量調整装置は、前記ヘッド側供給ラインの圧力が前記ロッド側供給ラインの圧力よりも高いときに前記ポンプの吐出容量を前記第1設定値に切り換え、前記ロッド側供給ラインの圧力が前記ヘッド側供給ラインの圧力よりも高いときに前記ポンプの吐出容量を前記第2設定値に切り換えるように構成されている、ことを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、液圧シリンダの伸長動作時に負荷の方向が短縮方向から伸長方向に反転した場合には、負荷に対抗してロッド側供給ラインの圧力が高くなり、シリンダの速度がヘッド側への供給流量により制御されていた状態から、ロッド側からの排出流量により制御される状態に変わる。このとき、ポンプの吐出(吸込)容量が減少してポンプの吐出(吸込)流量が減少することで、ポンプ吸込流量をロッド側からの排出流量と一致させることができる。また、このとき、タンクから吸引される作動液の通路が第1タンクラインから第2タンクラインに切り換えられる。このようにして、回転機械の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダの速度の変化(増速)を抑制することができる。
【0014】
逆に、液圧シリンダの伸長動作時に負荷の方向が伸長方向から短縮方向に反転した場合には、負荷に対抗してヘッド側供給ラインの圧力が高くなり、シリンダの速度がロッド側からの排出流量による制御から、ヘッド側への供給流量による制御へと変化する。このとき、ポンプの吐出(吸込)容量が増加し、したがって吐出(吸込)流量が増加することで、ポンプ吐出流量をヘッド側への供給流量と一致させることができる。また、このとき、タンクから吸引される作動液の通路が第2タンクラインから第1タンクラインに切り換えられる。このようにして、回転機械の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダの速度の変化(減速)を抑制することができる。
【0015】
一方、液圧シリンダの短縮動作時に負荷の方向が伸長方向から短縮方向に反転した場合には、負荷に対抗してヘッド側供給ラインの圧力が高くなりポンプの吐出(吸込)容量が増加し、吐出(吸込)流量が増加する。このとき、タンクへ流れ込む作動液の通路が第2タンクラインから第1タンクラインに切り換えられる。このようにして、回転機械の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダの速度の変化(減速)を抑制することができる。
【0016】
逆に、液圧シリンダの短縮動作時に負荷の方向が短縮方向から伸長方向に反転した場合には、負荷に対抗してロッド側供給ラインの圧力が高くなるのでポンプの吐出容量が減少し、ポンプ吐出(吸込)流量が減少する。このとき、タンクへ流れ込む作動液の通路が第1タンクラインから第2タンクラインに切り換えられる。このようにして、回転機械の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダの速度の変化(増速)を抑制することができる。
【0017】
しかも、流量調整装置にはロッド側供給ラインの圧力およびヘッド側供給ラインの圧力が導かれており、これらの圧力により流量調整装置が制御されるので、流量調整装置を電気的に制御する必要がない。
【0018】
前記第1設定値と前記第2設定値の比は、前記液圧シリンダのヘッド側室とロッド側室の受圧面積比と等しくてもよい。この構成によれば、液圧シリンダの速度の変化を顕著に抑制することができる。
【0019】
例えば、前記回転機械は、サーボモータであり、前記ポンプの第1ポートおよび第2ポートは、前記回転機械の回転方向によって吐出側と吸込側とが切り換わってもよい。あるいは、前記ポンプの第1ポートおよび第2ポートは、前記ポンプの斜板または斜軸が基準線を超えて両方向に傾倒することによって吐出側と吸込側とが切り換わってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、液圧シリンダの伸長動作時および短縮動作時に負荷の方向が反転しても、回転機械の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダの速度の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る液圧システムの概略構成図である。
図2】(a)および(b)は液圧シリンダの伸長動作時の作動液の流れを示す図であり、(a)は負荷の方向が短縮方向である場合、(b)は負荷の方向が伸長方向である場合を示す。
図3】(a)および(b)は液圧シリンダの短縮動作時の作動液の流れを示す図であり、(a)は負荷の方向が伸長方向である場合、(b)は負荷の方向が短縮方向である場合を示す。
図4】変形例の液圧システムの概略構成図である。
図5】(a)および(b)は従来の液圧システムの概略構成図であり、液圧シリンダの伸長動作時の作動液の流れを示す。
図6】(a)および(b)は従来の液圧システムの概略構成図であり、液圧シリンダの短縮動作時の作動液の流れを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、本発明の一実施形態に係る液圧システム1を示す。この液圧システム1は、片ロッドの液圧シリンダ4と、閉回路を形成するように液圧シリンダ4と接続されたポンプ2と、ポンプ2を駆動する回転機械3を含む。閉回路を流れる作動液は、典型的には油であるが、油以外の液体であってもよい。
【0023】
液圧シリンダ4は、ピストンによって互いに隔てられたロッド側室41およびヘッド側室42を含む。ピストンからは、ロッド側室41を貫通するようにロッドが延びている。
【0024】
ポンプ2は、第1ポート21と第2ポート22を有する。第1ポート21は、ロッド側供給ライン51により液圧シリンダ4のロッド側室41と接続されており、第2ポート22は、ヘッド側供給ライン52により液圧シリンダ4のヘッド側室42と接続されている。これらのロッド側供給ライン51およびヘッド側供給ライン52により、ポンプ2と液圧シリンダ4の間の上述した閉回路が形成されている。
【0025】
本実施形態では、ポンプ2が、斜板23を有する可変容量型の斜板ポンプであり、回転機械3がサーボモータである。そして、ポンプ2の第1ポート21および第2ポート22は、回転機械3の回転方向によって吐出側と吸込側とが切り換わる。また、サーボモータの回転速度および回転角度が制御されることにより、液圧シリンダ4の速度および位置が制御される。
【0026】
ただし、ポンプ2は、斜軸ポンプであってもよい。あるいは、ポンプ2は、回転方向が一方向のままでも斜板または斜軸が基準線(斜板ポンプの場合はポンプの中心線と直交する線、斜軸ポンプの場合はポンプ2の中心線)を超えて両方向に傾倒することによって第1ポート21および第2ポート22の吐出側と吸込側との切り換えが可能な両傾転ポンプであってもよい。この場合、回転機械3はエンジンであってもよい。
【0027】
また、本実施形態では、ポンプ2からタンク11までドレンライン24が延びている。ポンプ2の駆動時、ドレンライン24を通じてポンプ2からタンク11へ僅かな量の作動液が流れる。
【0028】
ポンプ2の1回転当りの吐出容量は、流量調整装置8により調整される。なお、流量調整装置8については、後述にて詳細に説明する。
【0029】
ロッド側供給ライン51からは第1タンクライン6が分岐しており、ヘッド側供給ライン52からは第2タンクライン7が分岐している。第1タンクライン6および第2タンクライン7は、タンク11へつながっている。
【0030】
第1タンクライン6には、第1パイロットチェック弁61が設けられている。第1パイロットチェック弁61は、タンク11からロッド側供給ライン51へ向かう流れは許容するがその逆の流れは禁止する。また、第1パイロットチェック弁61にはパイロットライン62を通じてヘッド側供給ライン52の圧力が導かれ、第1パイロットチェック弁61は、ヘッド側供給ライン52の圧力が第1設定圧P1よりも高くなったときに逆流防止機能を解除する。
【0031】
第2タンクライン7には、第2パイロットチェック弁71が設けられている。第2パイロットチェック弁71は、タンク11からヘッド側供給ライン52へ向かう流れは許容するがその逆の流れは禁止する。また、第2パイロットチェック弁71にはパイロットライン72を通じてロッド側供給ライン51の圧力が導かれ、第2パイロットチェック弁71は、ロッド側供給ライン51の圧力が第2設定圧P2よりも高くなったときに逆流防止機能を解除する。なお、第2パイロットチェック弁71の第2設定圧P2は、第1パイロットチェック弁61の第1設定圧P1と等しくても異なってもよい。
【0032】
上述した流量調整装置8は、ポンプ2の吐出容量を第1設定値q1と第1設定値q1よりも小さな第2設定値q2との間で切り換える。例えば、第1設定値q1と第2設定値q2の比は、液圧シリンダ4のヘッド側室42とロッド側室41の受圧面積比と等しい。
【0033】
流量調整装置8には、パイロットライン8e,8fを通じてロッド側供給ライン51の圧力およびヘッド側供給ライン52の圧力が導かれる。そして、流量調整装置8は、ヘッド側供給ライン52の圧力がロッド側供給ライン51の圧力よりも高いときにポンプ2の吐出容量を第1設定値q1に切り換え、ロッド側供給ライン51の圧力がヘッド側供給ライン52の圧力よりも高いときにポンプ2の吐出容量を第2設定値q2に切り換えるように構成されている。
【0034】
より詳しくは、流量調整装置8は、ポンプ2の斜板23と連結された、軸方向に摺動可能なサーボピストン81を含む。流量調整装置8には、サーボピストン81の小径端部が露出する第1受圧室82と、サーボピストン81の大径端部が露出する第2受圧室83が形成されている。
【0035】
第1受圧室82は、出力ライン8cにより高圧選択弁84の出力ポートと接続されている。高圧選択弁84の2つの入力ポートは、入力ライン8a,8bによりそれぞれロッド側供給ライン51およびヘッド側供給ライン52と接続されている。つまり、高圧選択弁84は、ロッド側供給ライン51の圧力とヘッド側供給ライン52の圧力の高い方を選択して出力する。
【0036】
第2受圧室83は、中継ライン8gにより切換弁85と接続されている。切換弁85は、出力ライン8dにより高圧選択弁84の出力ポートと接続されているとともに、タンクライン8hによりタンク11と接続されている。切換弁85は、一対のパイロットポートを有し、これらのパイロットポートは、上述したパイロットライン8e,8fによりそれぞれロッド側供給ライン51およびヘッド側供給ライン52と接続されている。
【0037】
切換弁85は、パイロットライン8fを通じて導かれるヘッド側供給ライン52の圧力がパイロットライン8eを通じて導かれるロッド側供給ライン51の圧力よりも高いときは、第2受圧室83をタンク11と連通させる第1位置(図1の左側位置)に位置する。これにより、サーボピストン81が最も第2受圧室83側に移動し、ポンプ2の傾転角が最大となってポンプ2の吐出容量が第1設定値q1となる。
【0038】
逆に、パイロットライン8eを通じて導かれるロッド側供給ライン51の圧力がパイロットライン8fを通じて導かれるヘッド側供給ライン52の圧力よりも高いときは、切換弁85は、第2受圧室83を高圧選択弁84の出力ポートと連通させる第2位置(図1の右側位置)に位置する。これにより、サーボピストン81が最も第1受圧室82側に移動し、ポンプ2の傾転角が最小となってポンプ2の吐出容量が第2設定値q2となる。
【0039】
なお、図例では、切換弁85のスプリングがパイロットライン8f側に配置されているが、スプリングはパイロットライン8e側に配置されていてもよい。
【0040】
次に、液圧システム1の動作を、液圧シリンダ4の伸長動作時と短縮動作時とに分けて説明する。
【0041】
(1)液圧シリンダ4の伸長動作時
図2(a)に示すように、液圧シリンダ4の伸長動作時に負荷の方向が短縮方向である場合には、負荷に対抗してヘッド側供給ライン52の圧力が高くなり、液圧シリンダ4の速度は、ポンプ2の吐出流量で制御される。ポンプ2の吐出容量は、ヘッド側供給ライン52の圧力がロッド側供給ライン51の圧力よりも高いことから、流量調整装置8によって第1設定値q1が選択される。このとき、ヘッド側供給ライン52の圧力によりチェック弁61が開かれ、液圧シリンダ4のヘッド側室42とロッド側室41との受圧面積差分の流量の作動液が第1タンクライン6の第1パイロットチェック弁61を経由してタンク11から吸引される。
【0042】
なお、タンク11から吸引される流量をQi、ヘッド側室42への流入量をQh、ロッド側室41の流出量Qr、ポンプ2からのドレン量をαとすると、Qi=Qh+α−Qrとなる。
【0043】
逆に、図2(b)に示すように、液圧シリンダ4の伸長動作時に負荷の方向が伸長方向である場合には、負荷に対抗してロッド側室41の圧力が高くなり、液圧シリンダ4の速度は、ポンプ2の吸込流量で制御される。ポンプ2の吐出容量は、ロッド側供給ライン51の圧力がヘッド側供給ライン52の圧力よりも高いことから、流量調整装置8によって第2設定値q2に切り換えられる。このとき、ロッド側供給ライン51の圧力によりチェック弁71が開かれ、液圧シリンダ4のヘッド側室42とロッド側室41との受圧面積差分の流量の作動液が第2タンクライン7の第2パイロットチェック弁71を経由してタンク11から吸引される。なお、このときもQi=Qh+α−Qrが成立する。
【0044】
以上から、液圧シリンダ4の伸長動作時に負荷の方向が短縮方向から伸長方向に反転した場合には、負荷に対抗する力の方向が変化し、ロッド側供給ライン51の圧力が高くなるためにポンプ2の小さい方の吐出容量が選択され、ポンプ2の吐出流量が減少する。即ち、このとき、シリンダ速度がヘッド側への供給流量による制御からロッド側からの排出流量による制御に切り換わると同時にポンプ吐出流量も減少するので、結局、回転機械3の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダ4の速度の変化(増速)を抑制することができる。さらに、このとき液圧シリンダ4のヘッド側室42とロッド側室41との受圧面積差分の流量の作動液は、タンク11から吸引される作動液の通路が第1タンクライン6から第2タンクライン7に切り換えられることによってポンプ2の吐出流量の不足分が補填される。
【0045】
逆に、液圧シリンダ4の伸長動作時に負荷の伸長方向から短縮方向に反転した場合には、ヘッド側供給ライン52の圧力が高くなるためにポンプ2の大きい方の吐出容量が選択されポンプ2の吐出流量が増加する。即ち、このとき、シリンダ速度がロッド側からの排出流量による制御からヘッド側への供給流量による制御に切り換わると同時に、ポンプ吐出流量が増加するので、結局、回転機械3の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダ4の速度の変化(減速)を抑制することができる。さらに、このとき液圧シリンダ4のヘッド側室42とロッド側室41との受圧面積差分の流量の作動液は、タンク11から吸引される作動液の通路が第2タンクライン7から第1タンクライン6に切り換えられることによってポンプ2の吸込流量の不足分が補填される。
【0046】
(2)液圧シリンダ4の短縮動作時
図3(a)に示すように、液圧シリンダ4の短縮動作時に負荷の方向が伸長方向である場合には、負荷に対抗してロッド側供給ライン51の圧力が高くなり、液圧シリンダ4の速度は、ポンプ2の吐出流量で制御される。ポンプ2の吐出容量は、ロッド側供給ライン51の圧力がヘッド側供給ライン52の圧力よりも高いことから、流量調整装置8によって第2設定値q2が選択される。このとき、ロッド側供給ライン51の圧力により第2タンクライン7の第2パイロットチェック弁71が開かれ、液圧シリンダ4のヘッド側室42とロッド側室41との受圧面積差分の流量の作動液が第2タンクライン7を通じてタンク11へ流れ込む。
【0047】
なお、タンク11へ流れ込む流量をQoとすると、Qo=Qh−Qr−αとなる。
【0048】
逆に、図3(b)に示すように、液圧シリンダ4の短縮動作時に負荷の方向が短縮方向である場合には、負荷に対抗してヘッド側室42の圧力が高くなり、液圧シリンダ4の速度は、ポンプ2の吸込流量で制御される。ポンプ2の吐出容量は、ヘッド側供給ライン52の圧力がロッド側供給ライン51の圧力よりも高いことから、流量調整装置8によって第1設定値q1が選択される。このとき、ヘッド側供給ライン52の圧力により、第1タンクライン6の第1パイロットチェック弁61が開かれて、液圧シリンダ4のヘッド側室42とロッド側室41との受圧面積差分の流量の作動液が第1タンクライン6を通じてタンク11へ流れ込む。なお、このときもQo=Qh−Qr−αが成立する。
【0049】
以上から、液圧シリンダの短縮動作時に負荷の方向が伸長方向から短縮方向に反転した場合には、負荷に対抗する力の方向が変化し、ヘッド側供給ライン52の圧力が高くなるためにポンプ2の大きい方の吐出容量が選択され、ポンプ2の吐出流量が増加する。即ち、このとき、シリンダ速度がロッド側への供給流量による制御からヘッド側からの排出流量への制御に切り換わると同時に、ポンプ吐出流量も増加するので、結局、回転機械3の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダ4の速度の変化(減速)を抑制することができる。さらに、このとき、液圧シリンダ4のヘッド側室42とロッド側室41との受圧面積差分の流量の作動液は、タンク11へ流れ込む作動液の通路が第2タンクライン7から第1タンクライン6に切り換えられることによって、タンク11へ流れ込む。
【0050】
逆に、液圧シリンダ4の短縮動作時に負荷の短縮方向から伸長方向に反転した場合には、ロッド側供給ライン51の圧力が高くなるためにポンプ2の吐出容量が小さい方が選択され、ポンプ2の吐出流量が減少する。即ち、このとき、シリンダ速度がヘッド側からの排出流量による制御からロッド側への供給流量による制御に切り換わると同時に、ポンプ吐出流量も減少するので、結局、回転機械3の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダ4の速度の変化(増速)を抑制することができる。さらに、このとき、ヘッド側室42とロッド側室41との受圧面積差分の流量の作動液は、タンク11へ流れ込む作動液の通路が第1タンクライン6から第2タンクライン7に切り換えられることによって、タンク11へ流れ込む。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の液圧システム1では、液圧シリンダ4の伸長動作時および短縮動作時に負荷の方向が反転しても、回転機械3の回転数を瞬時に変化させることなく液圧シリンダ4の速度の変化を抑制することができる。しかも、流量調整装置8にはロッド側供給ライン51の圧力およびヘッド側供給ライン52の圧力が導かれており、これらの圧力により流量調整装置8の動作が制御されるので、流量調整装置8を電気的に制御する必要がない。
【0052】
さらに、本実施形態では、第1設定値q1と第2設定値q2の比が液圧シリンダ4のヘッド側室42とロッド側室41の受圧面積比と等しいので、液圧シリンダ4の速度の変化を顕著に抑制することができる。
【0053】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0054】
例えば、流量調整装置8は、図1に示す構成を有するものに限定されず、図4に示すような構成を有してもよい。具体的に、図4に示す構成では、高圧選択弁84(図1参照)が採用されておらず、第1受圧室82が第1導圧ライン8jによりヘッド側供給ライン52と接続されており、切換弁85が第2導圧ライン8kによりロッド側供給ライン51と接続されている。つまり、切換弁85は、第2受圧室83をタンク11と連通させるかロッド側供給ライン51と連通させるかを切り換える。
【符号の説明】
【0055】
1 液圧シリンダ
11 タンク
2 ポンプ
21 第1ポート
22 第2ポート
3 回転機械
4 液圧シリンダ
41 ロッド側室
42 ヘッド側室
51 ロッド側供給ライン
52 ヘッド側供給ライン
6 第1タンクライン
61 第1パイロットチェック弁
7 第2タンクライン
71 第2パイロットチェック弁
8 流量調整装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6