(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の角度は、想定される負荷状態のなかでも最も負荷が軽い軽負荷状態において前記モータが制御的にオーバーシュート、発振又は発散しない前記位相差に基づき設定され、
前記第2の角度は、想定される負荷状態のなかでも最も負荷が重い重負荷状態において前記モータが脱調しない前記位相差に基づき設定される、
請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るモータ制御装置及び空気調和装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、空気調和装置1は、制御部10と、インバータ20と、モータ30と、コンプレッサ40と、電源50と、シャント抵抗19と、2つの電流センサ35v,35wと、空調部60と、を備える。
【0015】
電源50は、図示しない商用電源から直流電圧Eを生成し、生成された直流電圧Eをインバータ20に印加する。
【0016】
シャント抵抗19は、過電流検出のために、電源50とインバータ20との間の接続線に介挿されている。シャント抵抗19は、この接続線に流れる電流を検出する電流検出信号Sp1をインバータ20に出力する。
【0017】
インバータ20は、制御部10からのPWM(Pulse Width Modulation)信号Su,Sv,Swに基づき、電源50から供給された直流電流を、3相、すなわちU相、V相、W相の交流電流Iu,Iv,Iwに変換し、その変換した交流電流Iu,Iv,Iwをモータ30に供給する。インバータ20は、例えば、IPM(Intelligent Power Module:高機能パワーモジュール)である。インバータ20は、シャント抵抗19からの電流検出信号Sp1を受けて過電流の有無を表す過電流検知信号Sp2を制御部10に出力する。
【0018】
モータ30は、3相ブラシレスモータである。モータ30は、インバータ20からのU相、V相、W相の交流電流Iu,Iv,Iwが供給されるコイル30cを有するステータ30dと、コイル30cに交流電流Iu,Iv,Iwが供給されることにより回転する永久磁石からなるロータ30aと、を備える。ロータ30aが回転することにより、コンプレッサ40は駆動される。
【0019】
電流センサ35v、35wは、それぞれモータ30に流れるV相、W相の電流Iv,Iwの値を検出し、その電流Iv,Iwの値を制御部10に出力する。電流センサ35v、35wは、例えば、変流器(CT:Current Transformer)センサ又はホール素子である。
【0020】
コンプレッサ40は、モータ30により駆動されることで、吸入した冷媒を圧縮し、その圧縮した冷媒を排出する。
【0021】
空調部60は、コンプレッサ40により圧縮された冷媒を利用して室内温度を調整する。詳しくは、空調部60は、室内空気と熱交換する室内用熱交換器63と、室外空気と熱交換する室外用熱交換器64と、冷媒の減圧を行う膨張弁65と、コンプレッサ40により圧縮された冷媒の流路を室外用熱交換器64及び室内用熱交換器63の何れかに切り替える四方弁66と、を備える。
【0022】
冷房運転時について説明すると、四方弁66は、コンプレッサ40により圧縮された冷媒を室外用熱交換器64に送り込む。室外用熱交換器64は、冷房運転時には冷媒を冷却するガスクーラとして機能し、室外空気と冷媒との間で熱交換させることで冷媒の熱を室外に排出する。その後、この冷媒は、膨張弁65で減圧膨張されたうえで室内用熱交換器63に送られる。室内用熱交換器63は、冷房運転時には蒸発器として機能し、冷媒を蒸発させることで室内空気と冷媒との間で熱交換させることで室内空気の温度を低下させる。これにより、室内温度の調整を図る。そして、室内用熱交換器63を経た冷媒は、四方弁66を介してコンプレッサ40に戻る。
【0023】
暖房運転時について説明すると、四方弁66は、コンプレッサ40により圧縮された冷媒を室内用熱交換器63に送り込む。室内用熱交換器63は冷媒を冷却するガスクーラとして機能し、室内空気と冷媒との間で熱交換させることで、室内空気の温度を上昇させる。これにより、室内温度の調整を図る。そして、膨張弁65は、室内用熱交換器63を経た冷媒を減圧膨張させたうえで室外用熱交換器64に送り込む。室外用熱交換器64は、蒸発器として機能し、冷媒を蒸発させることで室外空気と冷媒との間で熱交換させる。その後、四方弁66は、熱交換された冷媒をコンプレッサ40に戻す。
【0024】
制御部10は、マイクロコンピュータにより構成され、CPU(Central Processing Unit)等の処理部と、当該処理部が処理を実行するためのプログラムが記憶されるROM(Read Only Memory)等からなる記憶部10aを備える。
図1に示すように、制御部10は、ユーザによる図示しないリモコンの操作に基づき空気調和装置1の運転を指令する運転指令部11と、モータ30を制御するモータ制御装置の一例であるモータ制御部12と、を備える。運転指令部11は、例えば、図示しないセンサにより取得される室内温度及び室外温度、ユーザにより設定される目標温度に基づきモータ30の目標回転速度Sω0を演算し、その演算した目標回転速度Sω0をモータ制御部12に出力する。
【0025】
モータ制御部12は、ベクトル制御によりモータ30を制御する。モータ制御部12は、モータ30の起動時に、位置決めモード、同期運転モード及びフィードバック運転モードの順で制御モードを切り替える。位置決めモードは、モータ30の特定の相のコイル30cに直流電流を供給することによりロータ30aの位置を固定する制御モードである。また、同期運転モードは、後述する位相差Δθに応じてモータ30に所定の振幅の電流を流しながら、インバータ20の出力周波数を徐々に上げて、モータ30を所定の回転速度まで加速させる制御モードである。また、フィードバック運転モードは、モータ30の回転角度情報を用いてモータ30の回転速度を制御する制御モードである。
【0026】
図2を参照しつつ、制御モードがフィードバック運転モードにあるときのモータ制御部12の機能的構成について説明する。
モータ制御部12は、制御モードがフィードバック運転モードにあるとき、機能ブロックとして、速度制御部12aと、d軸電流指令演算部12bと、電流制御部12cと、電圧変換部12dと、PWM信号生成部12eと、トルク制御部12fと、角度・速度推定制御部12gと、電流変換部12hと、3相電流演算部12iと、を備える。
【0027】
3相電流演算部12iは、電流センサ35v、35wを通じてV相、W相の電流Iv,Iwの値を取得する。そして、3相電流演算部12iは、その取得した電流Iv,Iwの値に基づき、3相の電流Iu,Iv,Iwの和がゼロとなることを利用してU相の電流Iuの値を演算する。この際、3相電流演算部12iは、例えば、複数回にわたって電流Iv,Iwの値を取得し、その平均値をとる。また、3相電流演算部12iは、例えば、インバータ20からの過電流検知信号Sp2に基づき過電流が発生しているときにはそのときの電流Iv,Iwの値を含めずに平均値をとる。
【0028】
電流変換部12hは、3相電流演算部12iによって演算された3相の電流Iu,Iv,Iwを2相のq軸電流Iqとd軸電流Idに座標変換する。なお、q軸電流Iqはモータ30のトルク成分であり、d軸電流Idはモータ30の磁束成分である。
【0029】
角度・速度推定制御部12gは、電流変換部12hにより変換されたq軸電流Iq及びd軸電流Idと、後述する電流制御部12cにより演算されるq軸電圧指令値Vq及びd軸電圧指令値Vdとに基づき、モータ30の角度θ(回転位置)を推定する。また、角度・速度推定制御部12gは、推定されたモータ30の角度θを微分することで回転速度情報であるモータ30の回転速度ωを推定する。
【0030】
速度制御部12aは、モータ30の回転速度ωを運転指令部11からの目標回転速度Sω0に一致させるべく目標q軸電流Iq*を演算するフィードバック制御を行う。例えば、速度制御部12aは、目標回転速度Sω0と回転速度ωとの偏差ΔE(ΔE=Sω0−ω)を求める。そして、速度制御部12aは、偏差ΔEに基づくPI制御により、目標q軸電流Iq*を、Iq*=k1・ΔE+k2∫ΔEdtにより求める。なお、k1は比例要素のフィードバックゲインであり、k2は積分要素のフィードバックゲインである。また、速度制御部12aが行うフィードバック制御は、PI制御に限られず、P(比例)、I(積分)、D(微分)のうち少なくともいずれかを用いた制御であってもよい。
【0031】
トルク制御部12fは、角度・速度推定制御部12gからの回転速度ωと、電流変換部12hにより変換されたq軸電流Iq及びd軸電流Idとに基づき、トルク補正電流Iq*’を演算する。加算器14aは、このトルク補正電流Iq*’と速度制御部12aによって演算された目標q軸電流Iq*とを加算する。これにより目標q軸電流Iq*’’が演算される。このトルク補正電流Iq*’は、トルク脈動による負荷変動が生じた場合であってもモータ30の回転速度ωを安定させる値に設定される。
【0032】
d軸電流指令演算部12bは、予め記憶されるテーブルに基づき目標q軸電流Iq*’’に対応する目標d軸電流Id*を演算する。目標q軸電流Iq*’’に対する目標d軸電流Id*の設定により、モータ30の出力トルクを最大とする最大トルク制御、モータ30の磁束を減少させることでモータ30の誘起電圧を抑えてモータ30の回転速度ωを上げる弱め磁束制御等の各種制御が可能となる。
【0033】
電流制御部12cは、現在のq軸電流Iqを目標q軸電流Iq*’’に一致させるためのq軸電圧指令値Vqと、現在のd軸電流Idを目標d軸電流Id*に一致させるためのd軸電圧指令値Vdと、を演算する。この際、電流制御部12cは、上記速度制御部12aと同様の計算手法によりPI制御を行ってもよいし、その他PD、PID等のフィードバック制御を行ってもよい。
【0034】
電圧変換部12dは、q軸電圧指令値Vqとd軸電圧指令値VdをU相、V相、W相の電圧指令値Vu,Vv,Vwに座標変換する。
【0035】
PWM信号生成部12eは、電圧変換部12dにより座標変換されたU相、V相、W相の電圧指令値Vu,Vv,Vwに応じて直流電圧をパルス幅変調することでPWM信号Su,Sv,Swを生成する。PWM信号生成部12eは、このPWM信号Su,Sv,Swをインバータ20に出力する。以上、制御モードがフィードバック運転モードにあるときのモータ制御部12の機能的構成の説明を終了する。
【0036】
次に、
図3を参照しつつ、制御モードが同期運転モードにあるときのモータ制御部12の機能的構成について説明する。
モータ制御部12は、制御モードが同期運転モードにあるとき、機能ブロックとして、電流制御部12cと、電圧変換部12dと、PWM信号生成部12eと、電流変換部12hと、3相電流演算部12iと、角度演算部12mと、q軸電流ゼロ固定部12pと、位相差制御部14と、を備える。電流制御部12c、電圧変換部12d、PWM信号生成部12e、電流変換部12h及び3相電流演算部12iは、上述したフィードバック運転モードと同様の機能部であるため、それらの説明を省略する。
【0037】
角度演算部12mは、目標回転速度Sω0を積分することによりモータ30の角度θを演算し、その演算した角度θを電圧変換部12dおよび電流変換部12hに出力する。
【0038】
位相差制御部14は、位相差演算部12jと、補正値決定部12kと、d軸電流固定部12nと、加算器15と、を備える。
【0039】
位相差演算部12jは、電流変換部12hにより座標変換された2相のq軸電流Iq及びd軸電流Idと、電流制御部12cにより演算されるq軸電圧指令値Vq及びd軸電圧指令値Vdと、目標回転速度Sω0とに基づき位相差Δθを演算し、演算した位相差Δθを補正値決定部12kに出力する。位相差Δθは、
図5(a)〜(d)に示すように、電流ベクトルBとd軸とがなす角度である。このd軸は、ロータ30aに対応付けられたロータ軸に相当する。位相差演算部12jは、下記の式により位相差Δθを算出する。なお、ここでは、下記の式において、ωには目標回転速度Sω0が入力される。
【数1】
Ra:モータ巻き線抵抗
Ld:モータd軸インダクタンス
Lq:モータq軸インダクタンス
Ψf:ロータ(IPM)磁束鎖交数
Ra、Ld、Lq及びΨfは予め決まる固定値であり、上記式において、「^」は推定値を意味する。
【0040】
補正値決定部12kは、位相差演算部12jにより演算された位相差Δθに基づき補正値Fを決定し、その決定した補正値Fを加算器15に出力する。補正値決定部12kの処理内容については後述する。
【0041】
d軸電流固定部12nは、目標d軸電流Id*’の基礎値Cを加算器15に出力する。基礎値Cは、想定される負荷状態のなかでも最も負荷が重い重負荷状態でもモータ30のロータ30aが回転可能なd軸電流値に設定される。
【0042】
q軸電流ゼロ固定部12pは、目標q軸電流Iq*を0Aに固定したうえで電流制御部12cに出力する。
【0043】
加算器15は、基礎値Cと補正値Fとを加算することにより目標d軸電流Id*’を算出し、その算出した目標d軸電流Id*’を電流制御部12cに出力する。すなわち、加算器15は、以下の式により目標d軸電流Id*’を算出する。
Id*’=C+F
【0044】
図4のフローチャートに沿って、同期運転モードを実行するための同期運転処理の手順について説明する。
モータ制御部12は、同期運転処理を開始すると、基礎値Cを目標d軸電流Id*’として電流制御部12cに出力することによりモータ30を駆動させる(ステップS101)。すなわち、このとき、補正値Fは0Aである。そして、モータ制御部12は、モータ30の駆動開始から規定時間Tが経過するのを待ち(ステップS102:NO)、この規定時間Tが経過した旨判別したとき(ステップS102:YES)、位相差Δθを演算する(ステップS103)。この規定時間Tは、実験又はシミュレーションにより、
図5(a)に示す位相差Δθが同期運転モードの開始時の0°から、
図5(c)に示す第1の角度αを超えると予想される時間に設定される。
【0045】
次に、位相差制御部14は、位相差Δθが第1の角度α以上、かつ第2の角度β以下となるように位相差Δθを制御する(ステップS103〜S107)。
図5(a)〜(d)に示すように、第1の角度αは、d軸を基準として第2の角度βよりも小さい角度に設定されている。第1の角度αは、実験又はシミュレーションにより、想定される負荷状態のなかでも最も負荷が軽い軽負荷状態においてモータ30が制御的にオーバーシュート、発振又は発散しない位相差Δθに基づき設定される。第2の角度βは、実験又はシミュレーションにより、想定される負荷状態のなかでも最も負荷が重い重負荷状態においてモータ30が脱調しない位相差Δθに基づき設定される。よって、位相差Δθが第1の角度α以上、かつ第2の角度β以下の角度にあるときには、モータ30を制御する際にオーバーシュート、脱調、発振及び発散が発生しづらく、モータ30を安定的に動作させることができる。
【0046】
図4に戻って、補正値決定部12kは、演算した位相差Δθが第1の角度αよりも小さいか否かを判別する(ステップS104)。
補正値決定部12kは、位相差Δθが第1の角度αよりも小さい旨判別すると(ステップS104:YES)、補正値Fを予め設定される規定値Gだけ小さくすることにより目標d軸電流Id*’を小さくする(ステップS105)。目標d軸電流Id*’が小さくなることにより、モータ電流が小さくなり、これにより位相差Δθが大きくなる。規定値Gは、モータ電流の急激な変動によりモータ30の動作が不安定とならない程度の値に実験等により設定される。
すなわち、当該ステップS104においては、補正値決定部12kは、以下の式により現在の補正値Fから新たな補正値F’を算出し、その新たな補正値F’を補正値Fとして加算器15に出力する。
F’=F−G
【0047】
補正値決定部12kは、位相差Δθが第1の角度α以上である旨判別すると(ステップS104:NO)、位相差Δθが第2の角度βよりも大きいか否かを判別する(ステップS106)。
補正値決定部12kは、位相差Δθが第2の角度βよりも大きい旨判別すると(ステップS106:YES)、補正値Fを規定値Gだけ大きくすることにより目標d軸電流Id*’を大きくする(ステップS107)。目標d軸電流Id*’が大きくなることにより、モータ電流が大きくなり、これにより位相差Δθが小さくなる。
すなわち、当該ステップS107においては、補正値決定部12kは、以下の式により現在の補正値Fから新たな補正値F’を算出し、その新たな補正値F’を補正値Fとして加算器15に出力する。
F’=F+G
本例では、当該ステップS107における規定値Gと上記ステップS104における規定値Gは同一値に設定されているが、これに限らず、実験又はシミュレーションに基づき異なる値に設定されてもよい。
【0048】
補正値決定部12kは、上記ステップS107の処理後、同期運転モードが終了しているか否かを判別する(ステップS108)。
一方、補正値決定部12kは、位相差Δθが第2の角度β以下である旨判別すると(ステップS106:NO)、位相差Δθが第1の角度α以上、かつ第2の角度β以下であるとして、上記ステップS107の処理を経ることなく、すなわちモータ電流を現状に維持したまま上記ステップS108の処理に移行する。
補正値決定部12kは、同期運転モードが終了していない旨判別すると(ステップS108:NO)、上記ステップS103の処理に戻る。これにより、位相差制御部14は、同期運転モードにあるとき、ステップS103〜S108の処理を繰り返すことにより、位相差Δθを第1の角度α以上、かつ第2の角度β以下に制御する。
補正値決定部12kは、同期運転モードが終了した旨判別すると(ステップS108:YES)、当該フローチャートに係る同期運転処理を終了する。モータ制御部12は、同期運転処理の終了後、フィードバック運転モードを開始する。
【0049】
次に、
図5(a)〜(d)を参照しつつ、位置決めモード及び同期運転モードの際の作用について説明する。
位置決めモードの際、モータ制御部12は、位置決め電流を初期電流としてモータ30のコイル30cの特定の相に供給する。これにより、
図5(a)に示すように、モータ30のロータ30aは固定される。この際、電流ベクトルBは、d軸に沿った方向となり、位相差Δθは0°となる。この位置決め電流は、モータ30のロータ30aを磁力により固定することができる最小限の電流に設定され、例えば、上述した基礎値Cと同一の値に設定される。
【0050】
位置決めモードから同期運転モードに制御モードが切り替わると、モータ30の回転速度が徐々に上昇し、電流ベクトルBはd軸に対して回転する。これにより、
図5(b),(c)に示すように、位相差Δθは第1の角度αを超える。位相差Δθが第1の角度α以上、かつ第2の角度β以下にある場合、目標d軸電流Id*は現状維持される。
この状態から、例えば、負荷が軽くなった場合、
図5(b)に示すように、位相差Δθが第1の角度α未満となり得る。負荷が軽くなった場合、発生トルクに対して負荷トルクが小さくなり、発生トルクに使用されない電流が多い状態となっている。この場合、上記ステップS105の処理により、目標d軸電流Id*が現状よりも小さく設定される。これにより、
図5(c)に示すように、位相差Δθは、第1の角度α以上となるように大きくなる。
【0051】
一方、例えば、負荷が重くなった場合、
図5(d)に示すように、位相差Δθが第2の角度βより大きくなり得る。負荷が重くなった場合、負荷トルクが発生トルクに近い状態となっている。この場合、上記ステップS107の処理により、目標d軸電流Id*が現状よりも大きく設定される。これにより、
図5(c)に示すように、位相差Δθは、第2の角度β以下となるように小さくなる。
【0052】
次に、
図6を参照しつつ、第1の角度α及び第2の角度βの設定方法について説明する。第1の角度α及び第2の角度βの設定は、例えば、設計段階において設計者により行われる。
まず、第1の角度αの設定方法について説明する。
まず、モータ30が制御的にオーバーシュート、発振又は発散するおそれがある不安定範囲γaを実験又はシミュレーションにより認定する。不安定範囲γaは、d軸を基準として所定の角度に設定されている。すなわち、電流ベクトルBが不安定範囲γa内にあるときには、モータ30の挙動が不安定になり易く、制御的にオーバーシュート、発振又は発散するおそれがある。第1の角度αは、この不安定範囲γaに余裕範囲γ1を加算することにより設定される。
余裕範囲γ1は、不安定範囲γaに隣接し、不安定範囲γaよりもd軸から遠い範囲に形成される。余裕範囲γ1は、電流ベクトルBが余裕範囲γ1内にあるときにモータ30が制御的にオーバーシュート、発振又は発散するおそれがない範囲に設定される。電流ベクトルBが余裕範囲γ1内にあるときに上記ステップS105に係る目標d軸電流Id*’を小さくする処理が行われる。このため、第1の角度α以上の電流ベクトルBが例えば負荷が軽くなることにより余裕範囲γ1を過ぎて不安定範囲γa内となることが抑制される。
【0053】
次に、第2の角度βの設定方法について説明する。
まず、モータ30が脱調するおそれがある不安定範囲γbを実験又はシミュレーションにより認定する。一般的に、負荷が重くなり負荷トルクが駆動トルクよりも大きくなった場合に、ロータ30aをコイル30cに引き付けることができなくなり、モータ30が脱調した状態となる。不安定範囲γbは、q軸を基準として所定の角度に設定されている。すなわち、電流ベクトルBが不安定範囲γb内にあるときにはモータ30が脱調するおそれがある。第2の角度βは、この不安定範囲γbとの間に余裕範囲γ2を挟むように設定される。
余裕範囲γ2は、不安定範囲γbに隣接し、不安定範囲γbよりもd軸に近い範囲に形成される。余裕範囲γ2は、電流ベクトルBが余裕範囲γ2内にあるときにモータ30が脱調するおそれがない範囲に設定される。電流ベクトルBが余裕範囲γ2内にあるときに上記ステップS107に係る目標d軸電流Id*’を大きくする処理が行われる。このため、第2の角度β以下の電流ベクトルBが例えば負荷が重くなることにより余裕範囲γ2を過ぎて不安定範囲γb内となることが抑制される。
以上のように、余裕範囲γ1,γ2が設定されることにより、より確実にモータ30が脱調、発振及び発散することが抑制される。
【0054】
(効果)
以上、説明した一実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0055】
(1)モータ制御部12は、目標モータ電流である目標d軸電流Id*及び目標q軸電流Iq*に応じたモータ電流をインバータ20を介してモータ30に供給する。モータ制御部12は、同期運転モードにおいて、目標d軸電流Id*'を調整することにより、モータ30のロータ30aに対応付けられたロータ軸であるd軸とモータ30に供給される電流の電流ベクトルBとがなす角度である位相差Δθを第1の角度α以上、かつ第1の角度αより大きい第2の角度β以下に制御する位相差制御部14を備える。
この構成によれば、負荷変動に関わらず、位相差制御部14により位相差Δθが第1の角度α以上、かつ第2の角度β以下に制御される。これにより、同期運転モードにおいて、モータ30を制御する際のオーバーシュート、発振、発散及び脱調を抑制でき、モータ30を安定的に動作させることができる。また、負荷に対して過剰なモータ電流が供給されることが抑制されるため、無駄な消費電力を低減することができるとともに、モータ30の駆動時の騒音、振動が抑制される。さらに、より精度高くモータ30の制御を行うことができる。
(2)第1の角度αは、想定される負荷状態のなかでも最も負荷が軽い軽負荷状態においてモータ30が制御的にオーバーシュート、発振又は発散しない位相差Δθに基づき設定され、第2の角度βは想定される負荷状態のなかでも最も負荷が重い重負荷状態においてモータ30が脱調しない位相差Δθに基づき設定される。
この構成によれば、位相差Δθが第1の角度αよりも小さくなることが抑制され、これにより、モータ30が制御的にオーバーシュート、発振又は発散することを抑制できる。また、位相差Δθが第2の角度βよりも大きくなることが抑制され、これにより、モータ30が脱調することを抑制できる。
【0056】
(3)位相差制御部14は、位相差Δθを演算する位相差演算部12jと、位相差演算部12jにより演算された位相差Δθに基づき補正値Fを決定する補正値決定部12kと、基礎値Cに補正値Fを加算することにより目標d軸電流Id*’を生成する加算部の一例である加算器14aと、を備える。
この構成によれば、簡易な構成にて、同期運転モードにおいて、モータ30を安定的に動作させることができる。
【0057】
(4)補正値決定部12kは、演算された位相差Δθが第1の角度αよりも小さい場合、補正値Fを現状よりも規定値Gだけ小さくし、演算された位相差Δθが第2の角度βよりも大きい場合、補正値Fを現状よりも規定値Gだけ大きくする。規定値Gは、モータ電流の急激な変動によりモータ30の動作が不安定とならない程度の値に設定される。
この構成によれば、位相差Δθを制御する際に、モータ電流の急変が抑制されるため、モータ30の動作が不安定となることが抑制される。
【0058】
(5)基礎値Cは、想定される負荷状態のなかでも最も負荷が重い重負荷状態においてモータ30のロータ30aが回転可能なモータ電流に対応する値に設定される。モータ制御部12は、ロータ30aの位置を固定する位置決めモードから同期運転モードに切り替わったとき基礎値Cを目標d軸電流Id*’に設定する。
この構成によれば、同期運転モードの開始後、円滑にロータ30aを回転させることができ、迅速に位相差演算部12jにより位相差Δθを演算可能となる。
【0059】
(6)空気調和装置1は、モータ制御部12と、インバータ20と、モータ30と、モータ30により駆動されるコンプレッサ40と、コンプレッサ40により圧縮された冷媒を利用して温度を調整する空調部60と、を備える。
この構成によれば、空気調和装置1においては動作環境又は動作条件により負荷変動が発生し易いものの、この負荷変動に応じて位相差Δθが第1の角度α以上、かつ第2の角度β以下となるようにモータ電流が制御され、モータ30を安定的に動作させることができる。
【0060】
(変形例)
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
【0061】
上記実施形態においては、位相差制御部14は、目標q軸電流Iq*を0Aに固定し、目標d軸電流Id*’を調整することで位相差Δθを第1の角度α以上、かつ第2の角度β以下に制御していたが、これに限らず、目標q軸電流Iq*のみ又は目標q軸電流Iq*及び目標d軸電流Id*’の両方を調整することにより位相差Δθを第1の角度α以上、かつ第2の角度β以下に制御してもよい。
【0062】
上記実施形態においては、
図4の同期運転処理において、モータ制御部12は、モータ30を駆動させた後(ステップS101)、規定時間Tが経過したとき(ステップS102:YES)、位相差Δθを演算していたが(ステップS103)、当該ステップS102の処理が省略されてもよい。この場合、例えば、モータ制御部12は、モータ30を駆動させるとともに(ステップS101)、位相差Δθの演算を開始し、その位相差Δθが第1の角度αを超えた旨判別したときにステップS104以降の処理に移行してもよい。
【0063】
上記実施形態においては、ロータ30aに対応付けられたロータ軸はd軸であったが、これに限らず、q軸であってもよい。
【0064】
上記実施形態においては、モータ制御部12は、同期運転モードを開始した後、基礎値Cを目標d軸電流Id*’として電流制御部12cに出力していたが、同期運転モードを開始した後、目標d軸電流Id*’をゼロから基礎値Cまで徐々に上昇させてもよい。
【0065】
上記実施形態においては、位相差演算部12jは、計算式により位相差Δθを演算していたが、q軸電流及びd軸電流等に対応する位相差Δθが記憶されたデータテーブルを参照して位相差Δθを求めてもよい。
【0066】
上記実施形態においては、モータ制御部12は、電流センサ35v、35wの検出結果に基づきモータ30を制御していたが、電流センサ35v、35wを省略してもよい。この場合、モータ制御部12は、シャント抵抗19からの電流検出信号Sp1とPWMスイッチングパターンとに基づき3相の交流電流Iu,Iv,Iwを復元してもよい。
【0067】
上記実施形態においては、モータ30は回転角度センサレスであったが、回転角度センサが設けられていてもよい。
【0068】
上記実施形態において、モータ制御部12は、空気調和装置1に搭載されるモータ30を駆動させていたが、空気調和装置1に限らず、その他の機器に搭載されるモータ30を駆動させてもよい。