(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記ガス循環源の起動、または前記ガス循環源および前記極低温冷凍機の起動と同期して前記初期冷却を開始することを特徴とする請求項1に記載の極低温冷却システム。
前記規定の流量パターンは、前記初期冷却の開始から前記移行タイミングまでの間少なくとも一時的に、前記極低温冷却システムにおける上限の冷却ガス流量で前記冷却ガスが前記冷却ガス流路に流れるように予め定められていることを特徴とする請求項1または2に記載の極低温冷却システム。
前記規定の流量パターンは、前記移行タイミングから前記初期冷却の完了までの間少なくとも一時的に、前記極低温冷却システムの冷却能力を前記目標冷却温度で最大化する冷却ガス流量で前記冷却ガスが前記冷却ガス流路に流れるように予め定められていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温冷却システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0011】
図1は、実施の形態に係る極低温冷却システム10を概略的に示す図である。極低温冷却システム10は、冷却ガスを循環させることによって被冷却物11を目標温度に冷却するように構成された循環冷却システムである。冷却ガスは、例えばヘリウムガスがよく用いられるが、冷却温度に応じた適切なそのほかのガスが利用されることもありうる。
【0012】
被冷却物11は、一例として、超伝導電磁石である。超伝導電磁石は、例えば、粒子線治療装置またはそのほかの装置に用いられる粒子加速器、またはそのほかの超伝導装置に搭載される。なお、言うまでもないが、被冷却物11は、超伝導電磁石には限られない。被冷却物11は、極低温冷却が望まれるそのほかの機器または流体であってもよい。
【0013】
目標冷却温度は、所定の下限温度から所定の上限温度までの温度域から選択される所望の極低温である。下限温度は例えば、極低温冷却システム10によって冷却可能な最低の温度であり、例えば4Kであってもよい。上限温度は例えば、超伝導臨界温度以下の温度域から選択される所望の極低温である。超伝導臨界温度は、使用される超伝導材料に応じて定まるが、例えば、液体窒素温度以下、または30K以下、または20K以下、または10K以下の極低温である。したがって、目標冷却温度は、例えば、4Kから30Kの温度域、または例えば10Kから20Kの温度域から選択される。
【0014】
極低温冷却システム10は、冷却ガスを循環させるガス循環源12と、被冷却物11を冷却するために冷却ガスが流れる冷却ガス流路14とを備える。ガス循環源12は、供給する冷却ガス流量をガス循環源制御信号S1に従って制御するように構成されている。ガス循環源12は、一例として、回収した冷却ガスを昇圧して送出する圧縮機を備える。冷却ガス流路14は、ガス供給ライン16と、被冷却物ガス流路18と、ガス回収ライン20とを備える。ガス循環源12と冷却ガス流路14により、冷却ガスの循環回路が構成されている。
図1において冷却ガス流路14に沿って描かれているいくつかの矢印は、冷却ガスの流れ方向を示している。
【0015】
ガス循環源12は、ガス回収ライン20から冷却ガスを回収するようガス回収ライン20に接続されるとともに、昇圧した冷却ガスをガス供給ライン16に供給するようガス供給ライン16に接続されている。また、ガス供給ライン16は、冷却ガスを被冷却物ガス流路18に供給するよう被冷却物ガス流路18に接続され、ガス回収ライン20は、冷却ガスを被冷却物ガス流路18から回収するよう被冷却物ガス流路18に接続されている。
【0016】
ガス供給ライン16、被冷却物ガス流路18、及び/またはガス回収ライン20は、フレキシブル管であってもよいし、または、剛性管であってもよい。
【0017】
極低温冷却システム10は、極低温冷却システム10の冷却ガスを冷却する極低温冷凍機22を備える。極低温冷凍機22は、圧縮機24と、冷凍機ステージ28を備えるコールドヘッド26とを備える。
【0018】
極低温冷凍機22の圧縮機24は、極低温冷凍機22の作動ガスをコールドヘッド26から回収し、回収した作動ガスを昇圧して、再び作動ガスをコールドヘッド26に供給するよう構成されている。圧縮機24とコールドヘッド26により作動ガスの循環回路すなわち極低温冷凍機22の冷凍サイクルが構成され、それにより冷凍機ステージ28が冷却される。作動ガスは通例、ヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。極低温冷凍機22は、一例として、ギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかの極低温冷凍機であってもよい。
【0019】
極低温冷凍機22の圧縮機24は、ガス循環源12とは別個に設けられている。極低温冷凍機22の作動ガス循環回路は、極低温冷却システム10の冷却ガス循環回路から流体的に隔離されている。
【0020】
被冷却物ガス流路18は、冷却ガスを流すために被冷却物11の周囲または内部に設けられている。被冷却物ガス流路18は、入口18aと、出口18bと、入口18aから出口18bへと延びるガス管18cとを備える。ガス供給ライン16が被冷却物ガス流路18の入口18aに接続し、ガス回収ライン20が被冷却物ガス流路18の出口18bに接続している。よって、冷却ガスは、ガス供給ライン16から入口18aを通じてガス管18cに流入し、さらに、ガス管18cから出口18bを通じてガス回収ライン20へと流出する。
【0021】
ガス管18cは、ガス管18c内を流れる冷却ガスと被冷却物11との熱交換により被冷却物11が冷却されるように、被冷却物11に物理的に接触するとともに被冷却物11に熱的に結合されている。一例として、ガス管18cは、被冷却物11の周囲を取り巻くように被冷却物11の外表面に接触配置されたコイル状の冷却ガス配管である。
【0022】
被冷却物ガス流路18がガス供給ライン16とは別の配管部材として構成される場合には、入口18aは、ガス供給ライン16を被冷却物ガス流路18に接続するためにガス管18cの一端に設けられた管継手であってもよい。被冷却物ガス流路18がガス供給ライン16から連続する一体の配管部材として構成される場合には、入口18aは、ガス管18cが被冷却物11との物理的接触を開始する場所を指してもよく、この接触開始点が被冷却物ガス流路18の入口18aとみなされてもよい。また、被冷却物ガス流路18が被冷却物11の内部を通る場合には、入口18aは文字通り、被冷却物ガス流路18が被冷却物11に入る部位を指してもよい。
【0023】
同様に、被冷却物ガス流路18がガス回収ライン20とは別の配管部材として構成される場合には、出口18bは、ガス回収ライン20を被冷却物ガス流路18に接続するためにガス管18cの他端に設けられた管継手であってもよい。被冷却物ガス流路18がガス回収ライン20から連続する一体の配管部材として構成される場合には、出口18bは、ガス管18cが被冷却物11との物理的接触を終了する場所を指してもよく、この接触終了点が被冷却物ガス流路18の出口18bとみなされてもよい。また、被冷却物ガス流路18が被冷却物11の内部を通る場合には、出口18bは文字通り、被冷却物ガス流路18が被冷却物11から出る部位を指してもよい。
【0024】
言い換えれば、ガス供給ライン16とガス回収ライン20はともに、被冷却物11と物理的に接触していない。ガス供給ライン16は、被冷却物ガス流路18の入口18aから、被冷却物11から離れる方向に延び、ガス回収ライン20は、被冷却物ガス流路18の出口18bから、被冷却物11から離れる方向に延びている。極低温冷凍機22とその冷凍機ステージ28も、被冷却物11から離れて配置されている。
【0025】
ガス供給ライン16は、ガス循環源12から冷凍機ステージ28を経由して被冷却物ガス流路18に冷却ガスを供給するようにガス循環源12を被冷却物ガス流路18の入口18aに接続する。ガス供給ライン16は、ガス供給ライン16を流れる冷却ガスと冷凍機ステージ28との熱交換により冷却ガスが冷却されるように、冷凍機ステージ28に物理的に接触するとともに冷凍機ステージ28に熱的に結合されている。したがって、冷却ガスは、ガス循環源12からガス供給ライン16に流入し、冷凍機ステージ28によって冷却され、ガス供給ライン16から被冷却物ガス流路18へと流出する。
【0026】
以下では説明の便宜上、ガス供給ライン16のうちガス循環源12から冷凍機ステージ28までの部分をガス供給ライン16の上流部16aと称し、ガス供給ライン16のうち冷凍機ステージ28から被冷却物ガス流路18の入口18aまでの部分をガス供給ライン16の下流部16bと称することがある。すなわち、ガス供給ライン16は、上流部16aと下流部16bとを備える。
【0027】
また、ガス供給ライン16のうち冷凍機ステージ28に配置される部分をガス供給ライン16の中間部16cと称することができる。一例として、ガス供給ライン16の中間部16cは、冷凍機ステージ28の周囲を取り巻くように冷凍機ステージ28の外表面に接触配置されたコイル状の冷却ガス配管である。
【0028】
したがって、冷却ガスは、ガス供給ライン16の中間部16cの出口(すなわち下流部16bの入口)16dで冷却ガス流路14における最低到達温度をとる。
【0029】
ガス回収ライン20は、被冷却物ガス流路18からガス循環源12に冷却ガスを回収するように被冷却物ガス流路18の出口18bをガス循環源12に接続する。したがって、冷却ガスは、被冷却物ガス流路18からガス回収ライン20に流入し、ガス回収ライン20からガス循環源12へと流出する。
【0030】
また、極低温冷却システム10は、熱交換器30を備える。熱交換器30は、ガス供給ライン16とガス回収ライン20との間で、それぞれを流れる冷却ガスが互いに熱交換をするように構成されている。熱交換器30は、極低温冷却システム10の冷却効率を向上するのに役立つ。
【0031】
熱交換器30は、ガス供給ライン16(より具体的には上流部16a)上に高温入口30aと低温出口30bを備え、ガス回収ライン20上に低温入口30cと高温出口30dを備える。供給側の冷却ガス、つまりガス循環源12から高温入口30aを通じて熱交換器30に流入する高温の冷却ガスは、熱交換器30にてガス回収ライン20によって冷却され、低温出口30bを通じて冷凍機ステージ28に向かう。これに伴い、回収側の冷却ガス、つまり被冷却物ガス流路18から低温入口30cを通じて熱交換器30に流入する低温の冷却ガスは、熱交換器30にてガス供給ライン16によって加熱され、高温出口30dを通じてガス循環源12に向かう。
【0032】
極低温冷却システム10は、真空環境34を画定する真空容器32を備える。真空容器32は、周囲環境36から真空環境34を隔離するよう構成されている。真空容器32は、例えばクライオスタットなどの極低温真空容器である。真空環境34は例えば極低温真空環境であり、周囲環境36は例えば室温大気圧環境である。
【0033】
被冷却物11は、真空容器32の中、すなわち真空環境34に配置されている。極低温冷却システム10の主要な構成要素のうち被冷却物ガス流路18、極低温冷凍機22の冷凍機ステージ28、および熱交換器30は、真空環境34に配置されている。一方、ガス循環源12と極低温冷凍機22の圧縮機24は、真空容器32の外、すなわち周囲環境36に配置されている。よって、ガス供給ライン16とガス回収ライン20は、ガス循環源12に接続される一端部が周囲環境36に配置され、残りの部分が真空環境34に配置されている。
【0034】
極低温冷却システム10は、冷凍機ステージ28に設置された温度センサ38を備える。温度センサ38は、極低温冷却システム10の冷却ガス流路14、具体的にはガス供給ライン16において1つだけ設けられている。よって、温度センサ38は、被冷却物ガス流路18にも被冷却物11にも設けられていない。温度センサ38は、ガス回収ライン20にも設けられていない。
【0035】
なお、温度センサ38の設置場所は冷凍機ステージ28には限られない。温度センサ38は、被冷却物ガス流路18を含む冷却ガス流路14の任意の場所に設置されてもよい。また、複数の温度センサ38が冷却ガス流路14において互いに異なる場所に設置されてもよい。
【0036】
極低温冷却システム10は、極低温冷却システム10を制御する制御装置40を備える。制御装置40は、ガス流量制御部42を備える。ガス流量制御部42は、タイマー44と、初期冷却設定46とを備える。制御装置40は、周囲環境36に配置されている。制御装置40は、ガス循環源12、例えば圧縮機に設置されていてもよい。
【0037】
極低温冷却システム10の制御装置40は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、
図1では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0038】
ところで、極低温冷却システム10の初期冷却は、被冷却物11を室温から目標冷却温度に急速に冷却する極低温冷却システム10の制御処理であり、極低温冷却システム10の起動に際して行われる。初期冷却により、被冷却物11が室温から目標冷却温度に冷却される。初期冷却の完了後に、極低温冷却システム10は、被冷却物11を目標冷却温度に維持する定常冷却に移行する。初期冷却での降温速度(例えば、初期冷却における被冷却物11の平均の降温速度)は、定常冷却での降温速度より大きい。
【0039】
制御装置40は、極低温冷却システム10の起動と同期して被冷却物11の初期冷却を開始するように構成されている。例えば、制御装置40は、極低温冷却システム10の起動と同時に、または極低温冷却システム10の起動時点から予め定められた遅延時間が経過したときに、被冷却物11の初期冷却を開始する。
【0040】
典型的には、極低温冷却システム10の起動とは、ガス循環源12の起動、または、ガス循環源12および極低温冷凍機22の起動を意味する。よって、制御装置40は、ガス循環源12の起動と同期して被冷却物11の初期冷却を開始するように構成されていてもよい。あるいは、制御装置40は、ガス循環源12および極低温冷凍機22の起動と同期して初期冷却を開始するように構成されていてもよい。
【0041】
極低温冷却システム10は、メインスイッチ48を備える。メインスイッチ48は、例えば操作ボタンまたはスイッチのような人手により操作可能な操作具を備え、操作されたとき制御装置40にシステム起動指令信号S2を出力するように構成されている。操作者がメインスイッチ48を操作することにより、極低温冷却システム10が起動され、その運転が開始される。メインスイッチ48は、極低温冷却システム10の起動スイッチとして機能するだけでなく、極低温冷却システム10の停止スイッチを兼ねていてもよい。
【0042】
メインスイッチ48は、周囲環境36に配置されている。メインスイッチ48は、制御装置40またはその筐体に設置されていてもよい。あるいは、メインスイッチ48は、ガス循環源12に備えられた圧縮機の起動スイッチとして、当該圧縮機に設置されていてもよい。メインスイッチ48は、極低温冷凍機22の起動スイッチとして、極低温冷凍機22に、例えば圧縮機24に設置されていてもよい。
【0043】
あるいは、上位の制御装置が制御装置40とは別に設けられている場合には、その上位の制御装置がシステム起動指令信号S2を制御装置40に出力するように構成されていてもよい。たいてい、被冷却物11は粒子加速器そのほか上位の装置またはシステムの一部であり、そうした上位のシステムには上位の制御装置が備えられている。
【0044】
制御装置40は、受信したシステム起動指令信号S2に応じて初期冷却を開始するように構成されている。制御装置40は、被冷却物11の初期冷却を実行するようにガス循環源12を制御するように構成されている。初期冷却の間、制御装置40は、規定の流量パターンに従って冷却ガス流路14に冷却ガスが流れるようにガス循環源12を制御する。制御装置40は、初期冷却に後続して、またはそのほか適切なタイミングで、被冷却物11の定常冷却を実行するようにガス循環源12を制御してもよい。
【0045】
ガス流量制御部42は、初期冷却設定46と初期冷却の開始からの経過時間とに基づいて目標冷却ガス流量を決定するように構成されている。ガス流量制御部42は、決定された目標冷却ガス流量で冷却ガスが冷却ガス流路14に流れるようにガス循環源12を制御するように構成されている。ガス流量制御部42は、ガス循環源12によって目標冷却ガス流量が冷却ガス流路14に送出されるようにガス循環源制御信号S1を生成し、ガス循環源制御信号S1をガス循環源12に出力するように構成されている。
【0046】
タイマー44は、任意の時刻から経過時間を計ることができるように構成されている。タイマー44は、システム起動指令信号S2に応じて経過時間を計るように構成されている。タイマー44は、初期冷却の開始からの経過時間を算出することができる。
【0047】
初期冷却設定46は、規定の流量パターンに従って初期冷却の開始から完了まで各時刻の目標冷却ガス流量を予め定めている。初期冷却設定46は、経過時間と目標冷却ガス流量の対応関係を表す関数、ルックアップテーブル、マップ、またはそのほかの形式を有してもよい。初期冷却設定46は、(例えば極低温冷却システム10の製造業者によって)予め作成され、制御装置40に、またはこれに付随する記憶装置に保存されている。
【0048】
目標冷却ガス流量は例えば、極低温冷却システム10が被冷却物11を目標温度に冷却するのに十分な冷却能力を提供するように設定されている。目標冷却ガス流量は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0049】
冷却ガス流量は質量流量で表すのが便利である。知られているように、質量流量は冷却ガス流路14の各場所で一定であるから、ガス循環源12から送出される冷却ガス流量は、被冷却物ガス流路18を流れる冷却ガス流量に等しい。ただし、適用可能である場合には、流量パターンは、体積流量そのほかの流量と時間との関係として記述されてもよい。
【0050】
図2(a)および
図2(b)は、比較例に係る初期冷却に使用されうる冷却ガスの流量パターンを例示する図である。
図3(a)から
図3(d)は、実施の形態に係る初期冷却に使用されうる冷却ガスの流量パターンを例示する図である。これらの流量パターンは、冷却ガスの目標の質量流量と初期冷却の開始からの経過時間との関係を表している。各図において初期冷却の開始時点と完了時点をそれぞれT0、Tcと表記している。
【0051】
図2(a)に示される流量パターンは、極低温冷却システム10における上限の冷却ガス流量に固定されている。ここで、上限の冷却ガス流量は例えば、極低温冷却システム10の最大定格流量m_maxであってもよい。
【0052】
図2(b)に示される流量パターンは、極低温冷却システム10の定常冷却に用いられる冷却ガス流量に固定されている。この固定された流量は、極低温冷却システム10の冷却能力を定常冷却での目標冷却温度(以下、定常運転冷却温度Tfともいう)で最大化する冷却ガス流量であってもよく、最適流量m_optと呼ぶことができる。定常運転冷却温度Tfは通例、初期冷却での目標冷却温度に一致する。最適流量m_optは、最大定格流量m_maxより小さい。
【0053】
後述するように、最適流量m_optは冷却温度に依存して異なる値となる。よって、冷却温度がTa(K)であるときの最適流量は温度Taの関数としてm_opt(Ta)と表記しうる。定常運転冷却温度Tfでの最適流量はm_opt(Tf)と表される。
【0054】
比較例に係る流量パターンでは、冷却ガス流路14に流れる冷却ガスの質量流量が時間とともに変化しない。これに対して、実施の形態に係る初期冷却においては、冷却ガス流路14に流れる冷却ガスの質量流量が規定の流量パターンに従って時間とともに変化する。規定の流量パターンは、冷却ガスの質量流量が時間とともに減少するように設定されている。
【0055】
規定の流量パターンは、初期冷却の開始T0から移行タイミングTまで第1平均流量m1で冷却ガスが冷却ガス流路14に流れ、移行タイミングTから初期冷却の完了Tcまで第2平均流量m2で冷却ガスが冷却ガス流路14に流れるように予め定められている。第2平均流量m2は、移行タイミングTから初期冷却の完了Tcまで第1平均流量m1が維持された場合に比べて極低温冷却システム10の冷却能力が増加するように、第1平均流量m1より小さくなっている。
【0056】
規定の流量パターンは、初期冷却の開始T0から移行タイミングTまでの間少なくとも一時的に、極低温冷却システム10における上限の冷却ガス流量で冷却ガスが冷却ガス流路14に流れるように予め定められている。ここで、上限の冷却ガス流量は例えば、極低温冷却システム10の最大定格流量m_maxにあたるが、これに限られない。
【0057】
規定の流量パターンは、移行タイミングTから初期冷却の完了Tcまでの間少なくとも一時的に、極低温冷却システム10の冷却能力を目標冷却温度で最大化する冷却ガス流量(すなわち、最適流量m_opt(Tf))で冷却ガスが冷却ガス流路14に流れるように予め定められている。
【0058】
説明の便宜上、以下では、初期冷却の開始T0から移行タイミングTまでの期間を初期冷却の前半と称し、移行タイミングTから初期冷却の完了Tcまでの期間を初期冷却の後半と称することがある。
【0059】
移行タイミングTは、第1基準時刻T1以降かつ第2基準時刻T2以前に予め定められている。移行タイミングTは、第1基準時刻T1から第2基準時刻T2までの期間から選択される。第1基準時刻T1と第2基準時刻T2によって、初期冷却の前半から後半への移行期間が定められているとも言える。後述するが、第1基準時刻T1と第2基準時刻T2は移行タイミングTの設定の目安を与えている。
【0060】
図3(a)に示される規定の流量パターンは、冷却ガスの質量流量が初期冷却の開始T0から完了Tcまで一定の勾配で減少するように定められている。すなわち、規定の流量パターンは、初期冷却の開始T0から完了Tcまで一定の質量流量減少速度を有する。規定の流量パターンは、初期冷却の開始T0では最大定格流量m_maxを有し、初期冷却の完了Tcでは最適流量m_optを有する。ただし、流量パターンの流量初期値と終了値はこれらに限られない。例えば流量初期値は最大定格流量m_maxより小さくてもよい。
【0061】
よって、
図3(a)に示される流量パターンは、初期冷却の前半では第1平均流量m1を有し、初期冷却の後半では第2平均流量m2を有する。第2平均流量m2は第1平均流量m1より小さい。第1平均流量m1は最大定格流量m_maxより小さい。第2平均流量m2は、初期冷却の目標冷却温度での最適流量m_optより大きい。
【0062】
図3(b)に示される規定の流量パターンは、冷却ガスの質量流量が初期冷却の間少なくとも一時的に非一定の勾配で減少するように定められている。規定の流量パターンは、初期冷却の前半では一定値に固定され、初期冷却の後半では時間とともに減少する勾配で冷却ガスの質量流量が減少するように定められている。規定の流量パターンは、初期冷却の前半では最大定格流量m_maxを有し、初期冷却の完了Tcでは初期冷却の目標冷却温度での最適流量m_optを有する。
【0063】
規定の流量パターンは、初期冷却の間少なくとも一時的に、各時刻での予想冷却温度で極低温冷却システム10の冷却能力を最大化する冷却ガス流量で冷却ガスが冷却ガス流路14に流れるように予め定められていてもよい。
図3(b)に示される規定の流量パターンは、初期冷却の後半で、各時刻での予想冷却温度に最適な冷却ガス流量となるように定められている。
【0064】
よって、
図3(b)に示される流量パターンも、初期冷却の前半では第1平均流量m1を有し、初期冷却の後半では第2平均流量m2を有し、第2平均流量m2は第1平均流量m1より小さい。第1平均流量m1は最大定格流量m_maxに等しい。第2平均流量m2は、目標冷却温度での最適流量m_optより大きい。
【0065】
図3(c)に示される規定の流量パターンも、上述の流量パターンと同様に、冷却ガスの質量流量が時間とともに減少するように定められている。規定の流量パターンは、初期冷却の前半で一時的に第1の一定値に固定され、初期冷却の後半で一時的に第2の一定値に固定されている。第2の一定値は第1の一定値より小さい。より具体的には、規定の流量パターンは、初期冷却の開始T0から第1基準時刻T1まで第1の一定値としての最大定格流量m_maxをとり、第2基準時刻T2から初期冷却の完了Tcまで第2の一定値としての最適流量m_optをとることができる。規定の流量パターンは、冷却ガスの質量流量が第1基準時刻T1から第2基準時刻T2まで一定(非一定でもよい)の勾配で減少するように定められている。
【0066】
よって、
図3(c)に示される流量パターンも、初期冷却の前半では第1平均流量m1を有し、初期冷却の後半では第2平均流量m2を有し、第2平均流量m2は第1平均流量m1より小さい。
【0067】
図3(d)に示されるように、規定の流量パターンは、冷却ガスの質量流量が第1基準時刻T1から第2基準時刻T2まで中間の一定値に固定されていてもよい。中間の一定値m3は、第1の一定値(例えば最大定格流量m_max)より小さく、第2の一定値(例えば最適流量m_opt)より大きい。同様に、
図3(d)に示される流量パターンも、初期冷却の前半では第1平均流量m1を有し、初期冷却の後半では第2平均流量m2を有し、第2平均流量m2は第1平均流量m1より小さい。
【0068】
例示した規定の流量パターンは、冷却ガス流量が時間とともに単調に減少しているが、これは必須ではない。規定の流量パターンは、一時的に冷却ガス流量が増加する局面を有してもよい。
【0069】
図4(a)および
図4(b)は、極低温冷却システム10の冷却能力曲線を複数の冷却温度について示すグラフである。冷却ガス流路14に流れる冷却ガスの質量流量に対する極低温冷却システム10の冷却能力の変化が示されている。これらの冷却能力曲線は本発明者らによる計算結果である。
図4(a)には、室温から初期冷却の目標冷却温度までの温度範囲全体から選択されたいくつかの代表温度について極低温冷却システム10の冷却能力がプロットされている。
図4(b)は、100K以下の温度範囲についての
図4(a)の拡大図であり、いくつかの代表温度について極低温冷却システム10の冷却能力がプロットされている。
【0070】
図から理解されるように、冷却能力曲線は、ある特定の質量流量で極大となる。冷却能力を最大化する最適な質量流量は冷却温度によって異なり、具体的には、冷却温度が低いほど最適質量流量も小さくなっている。なお、ある1つの冷却温度についての冷却能力曲線において、最適質量流量よりも小さい質量流量で冷却能力が低下するのは、そうした小流量では冷却ガスと被冷却物11との熱交換により冷却ガスが被冷却物11から運び去ることのできる熱量が小さくなるためである。また、最適質量流量よりも大きい質量流量で冷却能力が低下するのは、極低温冷凍機22の冷凍能力による制約のためである。冷却ガス流量が増すほど冷却ガスと冷凍機ステージ28との熱交換が不十分となり、被冷却物11へと流れる冷却ガスの温度が高くなりうる。
【0071】
図4(a)には、極低温冷却システム10における上限の冷却ガス流量(例えば、最大定格流量m_max)が例示されている。室温または比較的高い温度域(
図4(a)では、290Kから110Kの範囲)では、冷却能力の極大値を与える質量流量よりも冷却システムの上限流量が小さくなっている。よって、この高温域では、上限の冷却ガス流量を冷却ガス流路14に流すことによって、極低温冷却システム10は最大の冷却能力を達成することができる。
【0072】
一方、初期冷却の目標冷却温度を含む比較的低い温度域(
図4(b)では、およそ100K以下)では、冷却能力の極大値を与える最適な質量流量が極低温冷却システム10の上限流量よりも小さくなっている。例えば、冷却温度が70K、50K、30K、20Kであるときの最適な質量流量(m_opt(70K)、m_opt(50K)、m_opt(30K)、m_opt(20K))は、最大定格流量m_maxよりも小さくなっている。
【0073】
よって、この低温域では、上限の冷却ガス流量から最適流量へと冷却ガス流量を低減することによって、極低温冷却システム10は最大の冷却能力を達成することができる。
図4(b)には、複数の冷却能力曲線の極大値を結ぶ線を破線で示す。冷却による温度低下とともにこの破線に従って冷却ガスの質量流量を低減することによって、極低温冷却システム10は冷却温度ごとに最大の冷却能力を達成することができる。
【0074】
極低温冷却システム10においてある流量パターンに従って初期冷却を実行する場合の温度変化は予測可能である。例えば、適切な熱力学モデルを用いてシミュレーションをすることによって、初期冷却中の各時刻における被冷却物11の温度を算出することができる。とくに、初期冷却の間は被冷却物11が不使用状態またはアイドリング状態にあるので、被冷却物11の発熱量は一定とみなすことができ、計算が比較的簡単に行える。このような熱力学的演算には種々の公知の手法を利用することができるので、ここでは詳述しない。
【0075】
計算結果として、予想冷却温度の時間変化を得ることができる。上述の冷却能力曲線を参照することにより、予想冷却温度から冷却ガスの最適流量を求めることができる。したがって、各時刻での予想冷却温度から、極低温冷却システム10の冷却能力を各時刻で最大化する冷却ガス流量を与える流量パターンを決定することができる。このようにして、
図3(b)に例示される流量パターンを予め定めることができる。
【0076】
図4(a)から理解されるもう1つの大切なことは、初期冷却の目標冷却温度の近傍の極低温域(
図4(a)および
図4(b)では、およそ40K以下)では、極低温冷却システム10の上限流量で冷却ガスを流しても冷却能力が生じない(すなわち加熱が生じる)ということである。したがって、
図2(a)に示される比較例に係る流量パターンのように上限流量で冷却ガスを流し続けたとしても、目標冷却温度(上述のように、例えば30K以下)に被冷却物11を冷却することができない。そうすると、極低温冷却システム10の初期冷却を完了することができないことになる。
【0077】
図5は、実施の形態に係る極低温冷却システム10の初期冷却の制御方法を例示するフローチャートである。
図5に示される制御ルーチンは、制御装置40によって、極低温冷却システム10の起動に際して実行される。
【0078】
まず、メインスイッチ48が操作されたか否かが判定される(S10)。制御装置40のガス流量制御部42は、システム起動指令信号S2がメインスイッチ48からガス流量制御部42に入力されたか否かを判定する。システム起動指令信号S2の入力が無い場合には(S10のN)、初期冷却を行う必要がないので、処理は終了される。
【0079】
システム起動指令信号S2が入力された場合には(S10のY)、極低温冷却システム10の初期冷却が開始される。この場合、タイマー44を使用して、初期冷却の開始からの経過時間が測定される(S12)。次に、初期冷却設定46に規定された流量パターンを使用して、経過時間から目標冷却ガス流量が決定される(S14)。ガス流量制御部42は、初期冷却設定46の流量パターンに従って、経過時間に対応する目標冷却ガス流量を決定する。
【0080】
ガス流量制御部42は、決定された目標冷却ガス流量を被冷却物ガス流路18に流すようにガス循環源12を制御する(S16)。ガス流量制御部42は、決定された目標冷却ガス流量から、この目標流量を実現するガス循環源制御信号S1を生成する。ガス循環源制御信号S1は、ガス循環源12が冷却ガス流路14に供給する冷却ガスの流量を決定するガス循環源12の動作パラメータを表す。ガス循環源制御信号S1は例えば、ガス循環源12を駆動するモータの回転数を表してもよい。あるいは、ガス循環源制御信号S1は、決定された目標冷却ガス流量を表すガス流量指示信号であってもよい。この場合、ガス循環源12は、供給する冷却ガス流量をガス流量指示信号に従って制御するように構成されていてもよい。
【0081】
ガス流量制御部42は、初期冷却の開始からの経過時間が初期冷却完了時間(Tc)に達したか否かを判定する(S18)。初期冷却完了時間に達していない場合には(S18のN)、ガス流量制御部42は、初期冷却を継続する。すなわち、ガス流量制御部42は、上述のS12からS18を再び実行する。初期冷却完了時間に達した場合には(S18のY)、ガス流量制御部42は、初期冷却を終了する。
【0082】
このようにして、極低温冷却システム10の起動に際して初期冷却を自動的に実行することができる。ガス流量制御部42は、システム起動指令信号S2に応じて極低温冷却システム10の初期冷却を開始し、規定の流量パターンに従ってガス循環源制御信号S1を生成し、ガス循環源制御信号S1をガス循環源12に出力する。ガス循環源12は、ガス循環源制御信号S1に従って動作し、それにより被冷却物ガス流路18に目標冷却ガス流量を流すことができる。初期冷却が完了すれば、被冷却物11の定常冷却を開始することができる。
【0083】
なお、初期冷却設定46は、使用可能な複数の目標冷却温度それぞれに対応する複数の流量パターンを備えてもよい。初期冷却の目標冷却温度は、例えば極低温冷却システム10の使用者によって設定される。ガス流量制御部42は、設定された目標冷却温度に対応する流量パターンを選択してもよい。ガス流量制御部42は、選択された流量パターンに従って目標冷却ガス流量を決定してもよい。
【0084】
また、上述の制御処理では、メインスイッチ48の操作とともに極低温冷却システム10の初期冷却が自動的に開始されるが、これは必須ではない。メインスイッチ48の操作から独立して、例えば極低温冷却システム10の使用者による手動の設定により、初期冷却が開始されてもよい。あるいは、上位の制御装置による制御のもとで、初期冷却が自動的に開始されてもよい。
【0085】
図6(a)は、極低温冷却システム10の初期冷却での温度変化を示し、
図6(b)は、初期冷却に使用される流量パターンを示す。
図6(a)および
図6(b)には、実施例に係る初期冷却の温度変化を2つの比較例に係る温度変化とともに示す。これらの温度変化グラフは本発明者らによる計算結果である。なお、この結果は、演算負荷を低減しつつ現実に生じる温度変化を良好に模擬すべく、例えば被冷却物11の材料の熱容量を温度によらず一定とするなどいくつかの仮定のもとで得たものである。
【0086】
実施例に使用される流量パターンは、
図3(b)に示されるものと同様に、初期冷却の前半では冷却ガス流量が最大定格流量m_maxに固定され、初期冷却の後半では予想冷却温度に基づく最適流量m_optに予め設定されている。比較例1に使用される流量パターンは、
図2(a)に示されるものと同様に、冷却ガス流量が最大定格流量m_maxに常時固定されている。比較例2に使用される流量パターンは、
図2(b)に示されるものと同様に、冷却ガス流量が定常運転冷却温度Tfでの最適流量m_opt(Tf)に常時固定されている。
【0087】
比較例1では、冷却ガスが大きな流量で流れるので、高温域での降温速度が比較的大きくなる。しかしながら、大流量の冷却ガスは、低温域では上述のように冷却能力を発生することができないので、比較例1では、定常運転冷却温度Tfまで温度を下げることができない。初期冷却は完了しない。
【0088】
比較例2では、冷却ガスが小さな流量で流れるので、高温域での降温速度も小さくなる。比較例1とは異なり、定常運転冷却温度Tfまで温度を下げることは可能であり、初期冷却を完了できる。しかし、高温域での降温速度が小さいので、初期冷却の完了までに比較的長い時間がかかってしまう。
【0089】
実施例によれば、初期冷却の前半では冷却ガスを大流量で流すので、高温域での降温速度を大きくすることができる。とくに、最大定格流量m_maxで冷却ガスを流すことにより、極低温冷却システム10に利用可能な最大の冷却能力を発揮することができる。初期冷却の後半では冷却ガス流量は時間とともに最適流量で変化する。よって、初期冷却の後半でも大きな冷却能力を利用することができる。したがって、初期冷却の所要時間を短くすることができる。図示されるように、初期冷却の所要時間が、実施例では比較例2に対してΔTだけ短縮されている。
【0090】
以上説明したように、実施の形態に係る極低温冷却システム10によれば、初期冷却が規定の流量パターンに従って実行される。規定の流量パターンは、初期冷却の開始T0から移行タイミングTまで第1平均流量m1で冷却ガスが冷却ガス流路14に流れ、移行タイミングTから初期冷却の完了Tcまで第2平均流量m2で冷却ガスが冷却ガス流路14に流れるように予め定められている。第2平均流量m2は、移行タイミングTから初期冷却の完了Tcまで第1平均流量m1が維持された場合に比べて極低温冷却システム10の冷却能力が増加するように、第1平均流量m1より小さくなっている。
【0091】
このようにすれば、初期冷却の前半と後半の両方で極低温冷却システム10の冷凍能力を増加させ、被冷却物11を効率的に冷却することができるので、初期冷却の所要時間を短くすることができる。
【0092】
また、例えば、測定温度を用いる冷却ガス流量のフィードバック制御のような他の手法では、温度測定センサとフィードバック制御系を要するので、構成がより複雑となる。これに対し、実施の形態によれば、フィードバックを用いずにオープンループで冷却ガス流量が制御されるので、比較的簡単な制御系を採用することができ、故障リスクの低減や低コスト化といった利点も得られる。
【0093】
また、制御装置40は、ガス循環源12の起動、またはガス循環源12および極低温冷凍機22の起動と同期して初期冷却を開始する。このようにすれば、ガス循環源12など極低温冷却システム10の構成要素の起動と初期冷却が自動的にまとめて行われるので、それらを個別に行う場合に比べて、作業者にとって極低温冷却システム10の操作性がよくなる。
【0094】
規定の流量パターンは、初期冷却の前半において少なくとも一時的に、極低温冷却システム10における上限の冷却ガス流量で冷却ガスが冷却ガス流路14に流れるように予め定められている。上述のように、初期冷却の前半、すなわち極低温冷却システム10の温度が比較的高い状態での冷却能力を高め、被冷却物11を効率的に冷却することができる。
【0095】
規定の流量パターンは、初期冷却の後半において少なくとも一時的に、極低温冷却システム10の冷却能力を目標冷却温度で最大化する冷却ガス流量で冷却ガスが冷却ガス流路14に流れるように予め定められている。このようにすれば、上述のように、初期冷却の後半での冷却能力を高め、被冷却物11を効率的に冷却することができる。
【0096】
仮に、移行タイミングTが遅すぎる場合には、比較例1のように極低温域での冷却が妨げられ、初期冷却に長時間を要しうる。また、移行タイミングTが早すぎる場合には、比較例2のように高温域での降温速度が大きくなり、初期冷却の所要時間が延長されうる。そのため、移行タイミングTは適切に設定されることが望まれる。移行タイミングTは、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。移行タイミングTの目安は、以下に述べるようにして与えることもできる。
【0097】
移行タイミングTは、第1基準時刻以降T1かつ第2基準時刻T2以前に予め定められている。第1基準時刻T1は、被冷却物11から初期冷却により取り除かれるべき熱量の、第1代表温度Tr1での極低温冷却システム10の冷却能力に対する比として表されてもよい。第2基準時刻T2は、被冷却物11から初期冷却により取り除かれるべき熱量の、第2代表温度Tr2での極低温冷却システム10の冷却能力に対する比として表されてもよい。第1代表温度Tr1と第2代表温度Tr2は、室温から目標冷却温度までの温度域から選択され、第2代表温度Tr2は、第1代表温度Tr1より低くてもよい。
【0098】
すなわち、移行タイミングTは、「第1基準時刻T1≦移行タイミングT≦第2基準時刻T2」となるように設定され、この不等式は、次のように記述することができる。
【数1】
ここで、T
RTは室温、T
Lは目標温度、Miは冷却対象構成部品(例えば被冷却物11)の質量、c
piは冷却対象構成部品の(定圧)比熱である。iは構成部品の種類を表している。Q
cryocooler(Tr1)は第1代表温度Tr1での極低温冷凍機22の冷凍能力、Q
cryocooler(Tr2)は第2代表温度Tr2での極低温冷凍機22の冷凍能力を示している。第2代表温度Tr2が第1代表温度Tr1より低い場合は一般に、Q
cryocooler(Tr1)>Q
cryocooler(Tr2)である。
【0099】
要するに、第1基準時刻T1は、被冷却物11が第1代表温度Tr1に冷却されるまでの時間の目安を与えている。第2基準時刻T2は、被冷却物11が第2代表温度Tr2に冷却されるまでの時間の目安を与えている。例えば、第1代表温度Tr1は、液体窒素温度またはその近傍の温度であってもよい。第2代表温度Tr2は、定常冷却において被冷却物11を維持すべき温度範囲の上限温度またはその近傍の温度であってもよい。このようにすれば、移行タイミングTを適切に設定することが容易となる。なお上記の不等式における極低温冷凍機22の冷凍能力は、ある1つの代表温度での値である必要はなく、ある温度範囲での冷凍能力の平均値であってもよい。
【0100】
図7は、実施の形態に係る極低温冷却システム10の他の一例を概略的に示す図である。図示される極低温冷却システム10は、冷却ガスの流路構成に関して
図1に示される極低温冷却システム10と相違し、その余については概ね共通する。以下では、相違する構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
【0101】
極低温冷却システム10は、ガス循環源12と、冷却ガス流路14とを備える。冷却ガス流路14は、ガス供給ライン16、被冷却物ガス流路18、およびガス回収ライン20を備える。極低温冷却システム10は、極低温冷凍機22と、熱交換器30と、真空環境34を画定する真空容器32とを備える。極低温冷凍機22は、冷凍機ステージ28を有するコールドヘッド26を備える。ガス循環源12は、周囲環境36に配置されている。
【0102】
上述のように、冷却ガスと極低温冷凍機22の作動ガスはともにヘリウムガスであってもよい。このように冷却ガスと作動ガスが同じガスである場合には、極低温冷却システム10には1つの共通の圧縮機が設けられてもよい。すなわち、ガス循環源12は、冷却ガス流路14に冷却ガスを流すだけでなく、極低温冷凍機22に作動ガスを循環させる圧縮機としても機能する。
【0103】
この場合、冷却ガスの流量制御のために、ガス循環源12は、被冷却物ガス流路18に流れる冷却ガス流量を制御するように構成された流量制御バルブ50を備えてもよい。流量制御バルブ50は、供給する冷却ガス流量をガス循環源制御信号S1に従って制御するように構成されている。
【0104】
ガス循環源12から極低温冷凍機22に作動ガスを供給するために冷凍機供給ライン52が設けられ、極低温冷凍機22からガス循環源12に作動ガスを回収するために冷凍機回収ライン54が設けられている。冷凍機供給ライン52は、周囲環境36においてガス供給ライン16から分岐してコールドヘッド26に接続し、冷凍機回収ライン54は、周囲環境36においてガス回収ライン20から分岐してコールドヘッド26に接続している。
【0105】
流量制御バルブ50は、周囲環境36においてガス供給ライン16に設置されている。あるいは、流量制御バルブ50は、周囲環境36においてガス回収ライン20に設置されてもよい。このようにすれば、汎用の流量制御弁を流量制御バルブ50として採用することができ、流量制御バルブ50を真空環境34に設置する場合に比べて製造コストの点で有利である。ただし、流量制御バルブ50は真空環境34に設置されてもよい。
【0106】
また、極低温冷却システム10は、ガス流量制御部42、タイマー44および初期冷却設定46を備える制御装置40と、メインスイッチ48とを備える。
【0107】
このようにしても、既述の実施の形態と同様に、極低温冷却システム10の冷凍能力を増加させ、被冷却物11を効率的に冷却することができるので、初期冷却の所要時間を短くすることができる。フィードバックを用いずにオープンループで冷却ガス流量が制御されるので、比較的簡単な制御系を採用することができ、故障リスクの低減や低コスト化といった利点も得られる。
【0108】
図1に示される極低温冷却システム10のように、ガス循環源12と極低温冷凍機22の圧縮機24が別々に設けられている場合にも、極低温冷却システム10は、冷却ガス流路14に流量制御バルブ50を備えてもよい。流量制御バルブ50は例えば、周囲環境36においてガス供給ライン16に配置されてもよい。
【0109】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0110】
ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。