(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
計測対象物までの距離を計測する測距装置と、前記測距装置による距離の計測結果に基づいて、前記測距装置の前方の計測空間領域内の障害物の有無を判定する障害物判定部と、を備えた障害物判定装置であって、
前記測距装置の傾きを検知する傾き検知部と、前記傾き検知部の検知結果に基づき前記測距装置の傾きの変化が生じたか否かを判定する傾き変化判定部と、前記測距装置の単位時間当たりの傾き変化量を判定する傾き変化量判定部と、をさらに備え、
前記計測空間領域は、前記傾き変化判定部が、前記測距装置の傾きにピッチ方向及び/又はロール方向への変化が生じたと判定した場合に、前記計測空間領域の前方方向及び/又は幅方向への深度に応じて、前記計測空間領域の底面の位置が段階的又は連続的に変化するように変更され、且つ前記傾き変化量判定部が判定した単位時間当たりの傾き変化量が大きい程、前記底面の位置を段階的又は連続的に変化させる度合いが大きく設定されることを特徴とする障害物判定装置。
前記計測空間領域は、前記傾き変化判定部が、前記測距装置の傾きに前記底面の位置の変化の要因となった方向への変化がなくなったと判定した場合、前記計測空間領域の前方方向及び/又は幅方向への深度に応じた前記底面の位置の変化を元に戻すように変更されることを特徴とする請求項1に記載の障害物判定装置。
前記計測空間領域は、前記傾き変化判定部が、前記測距装置の傾きに前傾方向への変化が生じたと判定した場合に、前記計測空間領域の前方方向への深度に応じて前記底面の位置が段階的又は連続的に高くなるように変更されることを特徴とする請求項1又は2に記載の障害物判定装置。
前記計測空間領域は、前記傾き変化判定部が、前記測距装置の傾きに後傾方向への変化が生じたと判定した場合に、前記計測空間領域の前方方向への深度に応じて前記底面の位置が段階的又は連続的に低くなるように変更されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の障害物判定装置。
前記計測空間領域は、前記傾き変化判定部が、前記測距装置の傾きに前傾方向への変化が生じたと判定した場合に、前記計測空間領域の前方方向への深度に応じて前記底面の位置が段階的又は連続的に低くなるように変更されることを特徴とする請求項1又は2に記載の障害物判定装置。
前記計測空間領域は、前記傾き変化判定部が、前記測距装置の傾きに前記底面の位置の変化の要因となった方向への変化がなくなったと判定した場合に、その後の一定期間、段階的又は連続的に変化するように変更された前記底面の位置が維持されることを特徴とする請求項2に記載の障害物判定装置。
前記計測空間領域は、前記傾き変化判定部が、前記測距装置の傾きに後傾方向への変化が生じたと判定した場合に、前記計測空間領域の前方方向への深度に応じて前記底面の位置が段階的又は連続的に高くなるように変更されることを特徴とする請求項1,2,5,6のいずれか1項に記載の障害物判定装置。
前記計測空間領域は、前記傾き変化判定部が、前記測距装置の傾きに左ロール方向又は右ロール方向への変化が生じたと判定した場合に、前記計測空間領域の左方向又は右方向への深度に応じて、前記計測空間領域の底面の位置が段階的又は連続的に高くなるように変更されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の障害物判定装置。
前記計測空間領域は、その3次元形状が段階的又は連続的に変更されることで、前記計測空間領域の底面の位置が段階的又は連続的に変化されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の障害物判定装置。
計測対象物までの距離を計測する測距装置からの計測結果に基づいて、前記測距装置の前方の計測空間領域内の障害物の有無を判定する障害物判定ステップを有する障害物判定方法であって、
傾き検知部が、前記測距装置の傾きを検知する傾き検知ステップと、前記検知ステップでの検知結果に基づき前記測距装置の傾きの変化が生じたか否かを判定する傾き変化判定ステップと、前記測距装置の単位時間当たりの傾き変化量を判定する傾き変化量判定ステップと、をさらに有し、
前記計測空間領域は、前記傾き変化判定ステップにおいて、前記測距装置の傾きに前傾方向及び/又はロール方向への変化が生じたと判定した場合に、前記計測空間領域の前方方向及び/又は幅方向への深度に応じて、前記計測空間領域の底面の位置が段階的又は連続的に変化するように変更され、且つ前記傾き変化量判定ステップにおいて判定した単位時間当たりの傾き変化量が大きい程、前記底面の位置を段階的又は連続的に変化させる度合いが大きく設定されることを特徴とする障害物判定方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る障害物判定装置は、測距装置を用いて障害物を判定する装置であり、地面を障害物として誤検知することを防ぐようにした装置である。この障害物判定装置は、主に移動体に設置される。この移動体は、工場や公共施設の施設内、或いはそれらの施設や駐車場等の敷地内で移動させる移動体や、公道を走行する自動車や自動二輪車等の移動体などである。特に敷地内や施設内で自動的に移動させる移動体には、自律走行型の制御機構を有する、所謂、自律走行装置がある。自動車等の運転者による運転を基本とする移動体も自律走行型の制御を搭載することで、自律走行、或いは運転者の運転補助としての自律走行が可能になる。また、上記障害物判定装置が搭載される移動体は、人や物を運搬する運搬目的だけでなく、移動しながら周囲を監視するためにも用いることができ、その場合の移動体は監視ロボットとも呼べる。以下、図面を参照しながら、本発明の様々な実施形態について説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、
図1〜
図4Bを参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る障害物判定装置の一構成例を示すブロック図で、
図2は、
図1の障害物判定装置を備えた移動体の一構成例を示す外観図である。
【0029】
図1で例示するように、本実施形態に係る障害物判定装置1は、光学式の計測機構により計測対象物Mまでの距離を計測する光学式測距装置(以下、単に測距装置)10、及び障害物判定部17を備える。
【0030】
具体的には、測距装置10は、レーザ光源から出力される測定光に変調を加えて光学窓を通して対象物に照射し、計測対象物Mからの反射光を、光学窓を通して受光素子で検出して距離を測定する。測定光の変調方式としてAM(Amplitude Modify)方式とTOF(Time of Flight)方式が実用化されており、測距装置10はいずれの方式を採用してもよい。AM方式は、正弦波でAM変調された測定光とその反射光を光電変換して、それらの信号間の位相差を計算し、位相差から距離を演算する。TOF方式は、パルス状に変調された測定光とその反射光を光電変換し、それらの信号間の遅延時間から距離を演算する方式である。
【0031】
測距装置10は、測定光を縦方向及び横方向に2次元的に走査して、反射光を受光することで一定の計測空間領域(計測範囲)内における計測対象物Mまでの距離を計測する。つまり、測距装置10はこの計測範囲におけるエリアセンサであるとも言える。このような測距装置10として代表的なものは3D−LIDAR(Light Detection and Ranging
又はLaser Imaging Detection and Ranging)やレーザレンジファインダなど挙げられる
が、計測方向を限ってもよければ、鉛直方向(/水平方向)に走査するように設置された2D−LIDARを採用することもできる。この場合、水平方向(/垂直方向)に所定間隔でこのような2D−LIDARを配置することで、上述のような計測空間領域をカバーすることができる。なお、レーザレンジファインダはTOF方式を採用した測距センサであり、走査軸を1軸、2軸もたせることで、それぞれ2次元平面の計測、3次元的な計測が可能となる。また、LIDARはレーザレンジファインダの一種であるとも言える。
【0032】
また、この他、光を走査することなく発光部から赤外光などの光を照射し、受光素子に2次元受光センサを使用して、2次元受光センサの受光結果により一定の計測空間領域内における対象物までの距離を計測するようにすることもできる。2次元受光センサとしては、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor)が挙げられる。このような測距装置としては、例えば、近
赤外線LED(Light Emitting Diode)をパルス発光させ、CCDで反射光の到着時間を読み取って3次元測点画像を得るTOFカメラが挙げられる。
【0033】
本構成例の測距装置10は、測定光を出力する発光部12と、発光部12から発光された測定光の反射光を受光する受光部15と、発光された測定光の光路を駆動走査し、反射光を受光部15に導くためのミラー等の光路調整部を備えた光学機構部13と、発光部12から発光された測定光及びその反射光を通過させる光学窓16と、発光部12の発光駆動及び上記光路調整部の駆動制御を行う駆動制御部11と、受光部15で光電変換された出力信号及び駆動制御部11からの光路駆動情報に基づいて、計測対象物Mまでの距離を算出し、距離情報の計測結果として出力する距離算出部14と、を有する。
【0034】
障害物判定部17は、測距装置10による距離の計測結果に基づいて、測距装置10の前方の計測空間領域内の障害物の有無を判定する。障害物判定部17は、障害物判定装置1の前方の計測空間領域内に物体(障害物として認識すべき物体)があると判定された場合、その物体を障害物として判定する。上記計測空間領域は、所謂、計測エリア(障害物検知エリア)として基本的に所定の領域に定められており、計測対象点(測点)の座標空間を示す領域であると言える。なお、上記計測空間領域の分解能(計測精度)については特に問わず、単に分解能が良ければ計測できる距離や方向の精度が上がるに過ぎない。この計測空間領域については本実施形態の主たる特徴であり、後述する。
【0035】
障害物判定部17における障害物の判定方法は問わないが、例えば測距装置10で距離が計測された(無限遠ではなく有限であった)測点のそれぞれについて直交座標(少なくとも1つの方向の座標は距離とする)を得て、各座標のうち上記計測空間領域内の座標が存在した場合、障害物有りと判定すればよい。好ましくは、上記計測空間領域内に所定数だけ計測された測点が存在した場合にはじめて、障害物有りと判定する。
【0036】
上述のような障害物判定装置1は、
図2で例示するように、障害物を検知しながら障害物との衝突を回避して自動走行する自律走行装置など移動体2に搭載される。この例では、測距装置10が本体部20に取り付けられており、本体部20の内部に障害物判定部17を構成するユニットが搭載されている。
【0037】
また、例示した移動体2は、本体部20に4輪の車輪21が取り付けられてなり、図示しないが、移動体2を走行させる駆動部やその制御を行う駆動制御部(区別のために車輪駆動制御部と呼ぶ)が設けられている。上記駆動部は、例えば複数の車輪21を回転駆動するためのモータ及び/又はエンジン等により構成される。無論、例示するような車輪21に限らず、例えばクローラーなどを駆動させてもよい。
【0038】
上記車輪駆動制御部は、障害物判定部17による判定結果に基づいて障害物との衝突を回避する動作を行わせるように上記駆動部を制御する。ここでは障害物判定部17により物体が上記計測空間領域にあると判定されると、その情報が上記車輪駆動制御部に出力され、そこで、その物体(障害物)との衝突を回避するように、例えば走行している移動体2の走行方向を変更させたり、減速させたり、障害物の手前で停止させるような制御を行う。この制御に基づいて上記駆動部に、走行方向の変更、減速、停止などの動作を行わせることができ、これにより障害物との衝突を回避することができる。
【0039】
その他、移動体2には、地図情報を記憶する記憶部や位置情報取得部などを設けることで、予定ルートに沿った移動が可能になる。この位置情報取得部としては、GPS(Global Positioning System)、ロシアのGLONASS(Global Navigation Satellite System)、EUのガリレオ、中国の北斗等のGNSS(Global Navigation Satellite System)をはじめ、日本の準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System:QZSS)、インドのIRNSS(Indian Regional Navigational Satellite System)などの衛星測位システムを用いて移動体2の位置を取得するユニットが挙げられる。
【0040】
次に、
図3A〜
図4Bを併せて参照しながら、本実施形態の主たる特徴について説明する。
図3Aは、移動体1における通常時の計測空間領域の例を示す進行方向断面図、
図3Bは、従来の障害物判定装置を備えた移動体において
図3Aの計測空間領域が地形変化により変化した例を示す模式図である。
図3C,
図3Dはそれぞれ、
図3A,
図3Bの計測空間領域の進行方向に垂直な面の断面図である。
図4A,
図4Bはいずれも、
図2の移動体において
図3Aの計測空間領域が地形変化により変化した例を示す模式図である。
【0041】
本実施形態に係る障害物判定装置1は、測距装置10の傾き(傾斜)を検知する傾き検知部18を備える。なお、測距装置10での測距結果は障害物の判定に用いられるため、検知対象の傾きは障害物判定装置の傾きを意味する。傾き検知部18は、測距装置10の傾きを検知できればよいため、測距装置10内部に設けるに限らず、測距装置10が搭載された移動体2の本体部20に設けることもできる。傾き検知部18としては、加速度センサ、ジャイロセンサ、3軸地磁気センサ等の傾斜センサをはじめとして様々なものが挙げられ、傾斜センサに磁性流体を使用したものであってもよい。なお、加速度センサを採用した場合には重力加速度の方向を検知すればよく、ジャイロセンサを採用した場合には傾斜速度(角速度)を積分すればよく、3軸地磁気センサを採用した場合には傾き方向の変化をみるとよい。
【0042】
また、障害物判定部17は、測距装置10から入力される傾きの値が不確定で信頼性が低いような場合には、本実施形態や後述の他の実施形態の特徴としての処理とは独立の制御として、障害物との衝突を予見して減速させるような判定結果を、上記車輪駆動制御部に出力させることが好ましい。
【0043】
本発明の主たる特徴として、上記計測空間領域は、傾き検知部18での検知結果が、測距装置10の傾きにピッチ方向(前傾又は後傾方向)及び/又はロール方向(左下又は右下方向)への変化が生じたことを示した場合に、上記計測空間領域の前方方向及び/又は幅方向への深度に応じて、上記計測空間領域の底面の位置が段階的又は連続的に変化するように変更される。無論、上記底面の位置の変化とは上方向又は下方向への変化を指す。また、元々上記底面の位置が深度に応じて段階的又は連続的に変化するように設定されていた場合にも、傾き変化の検知をトリガとして変化の度合いを変えることや傾向を変える(上方向への変化から下方向への変化への変更又はその逆の変更)など、上記計測空間領域を変更する。また、以下では基本的に説明しないが、計測空間領域の設定は障害物判定部17が行えばよいし、上記の傾きに変化が生じたことの判定は、例えば予め定められた時間内の傾きの検知結果を参照すればよい。
【0044】
本実施形態の主たる特徴として、上記計測空間領域は、傾き検知部18での検知結果が、測距装置10の傾きに前傾方向(つまり前傾姿勢の方向)への変化が生じたことを示した場合に、上記計測空間領域の前方方向への深度に応じて(つまり上記深度が大きくなるに連れて)、上記計測空間領域の底面の位置が段階的又は連続的に高くなるように変更される。
【0045】
ここで、前方方向への深度とは、基本的に光学窓16からの前方方向への距離を指すが、例えば光学機構部13又は発光部12から光学窓16までの光路の距離を加算した値などを用いてもよい。移動体2が水平な地面に置かれている場合で且つその地面及び移動体2の進行方向に垂直な面内に測距装置10の光学窓16が載置されている場合(以下、便宜上、モデル配置と呼ぶ)、上記底面の位置とは、例えば上記地面からの計測空間領域の底端の高さを意味する。つまり、モデル配置の場合、上記底面の位置とは上記計測空間領域の上記地面からのオフセット量を意味する。また、左右方向に均等な領域をもたせるために上記計測空間領域はその底面の高さも含め、基本的に光学窓16の面に垂直な中心軸に対して左右対称とする。
【0046】
具体例を挙げて説明する。
図3A,
図3Cに示す計測空間領域D0は測距装置10で計測可能な領域内で定義された直方体の領域であり、上記モデル配置における計測空間領域D0の断面形状はその上面及び下面が地面Gに平行となっている。なお、測距装置10には計測限界距離が定められていて、計測限界距離よりも遠い位置にある物体については精度良く距離を計測することはできないため、計測空間領域D0のように深度の大きさ(深さ)に限度をもたせている。また、移動体2の進行速度や旋回径などによって手前方向にも計測限界距離を決めておくことができ、この距離より近い位置に障害物が存在してしまうような場面であっても、基本的にその距離より遠くの段階で事前に検知済みとなるため問題ない。
【0047】
例示した計測空間領域D0であっても、地面Gが平坦な場合であれば上記モデル配置となるため問題が生じない。しかし、地面Gには通常、段差や未舗装路の凸凹がある。
図3B,
図3Dで例示するように、地面Gに窪み(凹部)Guが存在し、その窪みGuに従来の移動体2pの車輪21pが落ちた場合、本体部21pと共に測距装置10pが傾き、計測空間領域D0の後方部分D0aは問題ないが、前方部分D0bが地面Gと重複し、測距装置10が地面Gを計測対象物(つまり障害物)として検知してしまう。そして、地面Gを障害物として検知してしまうと、走行上障害になるものがないような場面でも安全のために停止等の回避動作を行うことになり、ユーザビリティが低下してしまう。
【0048】
このような誤検知の原因は、移動体2pの本体部21p(車体)及び測距装置10pが窪み等による凹凸や段差などにより前傾した時点で、測距装置10から離れた位置(奥行方向)にある計測領域がより大きく地面Gの方向にずれることにある。本実施形態ではこの点に着目し、傾き検知部18で傾きの前傾方向への変化を検知するように構成すると共に、そのような変化が生じた場合、変化後(前傾後)の車体による計測空間領域D0の地面Gからの高さを考慮して、
図4Aの計測空間領域D1のように、計測空間領域D0の底面の高さ方向の設定座標を上方向に持ち上げるように変形する。これにより、地面Gを検知せず地面Gの上にある物体だけが検知できるようになり、障害物判定部17が地面Gを障害物と判定しなくなる。
【0049】
具体的には、計測空間領域D1は、計測空間領域D0と同様に測距装置10で計測可能な領域内で定義された領域であるが、計測空間領域D0において深度が大きくなるに連れて(光学窓16からの垂直方向距離が遠くになる程)その底面の位置が段階的に高くなる(その底面を浮かせる)ように変更された領域である。この変更は、上述のように傾き検知部18での検知結果が測距装置10の傾きに前傾方向への変化が生じたことを示した場合に実行される。段階的に高くする場合、深度に応じて高くする度合いは計測空間領域D1で例示したように一定割合であってもよい(つまり深度に比例して高くしてもよい)が、一定割合でなくてもよい。また、ここでは図示しないが、深度が大きくなるに連れて、段階的ではなく連続的に(滑らかなスロープ状に)高くなるように変更してもよい。
【0050】
また、本実施形態における前傾変化検知場面での変更後の計測空間領域は、
図4Aで例示したように、上記深度に依らず(計測対象距離に依らず)その上面の位置が一定の高さになるように設定されているが、これに限らない。なお、ここでの一定の高さとは、上記モデル配置時の地面からの高さが一定であることを意味する。例えば、変更後の計測空間領域は、前方方向への深度が深い程、上記計測空間領域の上面の位置が段階的又は連続的に高くなるように設定されてもよい。
図4Bに示す計測空間領域D2はそのように設定された一例である。
【0051】
計測空間領域D2では、前傾方向への傾き変化により地面Gを障害物と誤検知することを避けるためにその下面の位置を高くしただけでなく、上面の位置も合わせて高くしている。よって、前傾方向への傾き変化が検知された場面(以下、前傾変化検知場面)でも、計測空間領域の体積をある程度一定に保てるだけでなく、ある程度の高さに釣り下がっているような障害物を遠くの位置から検知することができる。無論、下面の位置の高さの変化度合いと上面の位置の高さの変化度合いとは異なってもよい。
【0052】
また、底面や上面の位置を変更する前の計測空間領域(
図3A,
図3Cの例では計測空間領域D0)が直方体であることを前提に説明したが、これに限らず、任意の形状に設定することができる。例えば、上記前の計測空間領域として、底面が幅方向に同じ高さをもつ直方体ではなく、底面の高さが幅方向に異なるような領域(但し、上述のように基本的に左右対称とする)を採用することもできる。その場合にも、変更後の計測空間領域として、同じ幅方向位置について、深度に応じて上記底面の位置を変更する(本実施形態では高くする)ことが可能である。
【0053】
より具体的な例を挙げると、上記前の計測空間領域として、光学窓16の光出射点を中心として前方に放射状に設けた測点群において、前方方向の深度の下限及び上限を設け、幅及び高さ方向については上記中心を通り光学窓16に垂直な中心軸を中心とする矩形領域内といった限界を設けたものや、この限界を設けないようにしたもの(但し地面に接しないようにしておく)などを採用してもよい。後者は、横倒しにした円錐の先端を除いたような形状(横方向や上方向から見れば扇形)に該当する。前傾変化検知場面での変更後の計測空間領域は、変更前の計測空間領域の形状に基づくものであり、例えば、変更前の計測空間領域が横倒しにした円錐の先端を除いたような形状であればその底面(円錐の底面ではなく計測空間領域の底面)の位置を段階的に高くなるように変更したものとなる。
【0054】
以上、本実施形態によれば、測距装置10の前方の計測空間領域を、地面を検出し難いように前傾方向への傾き変化に応じて変更することにより、複雑な構成とアルゴリズムを必要とすることなく単純なアルゴリズムで、衝撃による前傾方向への揺れが生じた場合や地面の凹部に遭遇した場合でも地面を障害物と誤判定しないようにできる。また、本実施形態では、
図4Bのような例を除き計測空間領域を狭めているものの、測距装置10から遠い程狭めているため、実質的に衝突回避処理への影響が少ないと言える。
図4Bの例で示したような、ある程度の高さに釣り下がっているような障害物を遠くの位置から検知することができないが、より接近すると検知できるため、その物体への衝突を回避することができる。
【0055】
また、前傾変化検知場面における上記底面の位置の高さは、ある程度の余裕を見て上記底面の位置を高く設定するようにしておけば、傾きが大幅に前傾方向に変化した場合でも、地面の誤検知が生じない。但し、この場合、地面上の高さの低い物体の検知もできなくなる可能性が生じ得る。従って、このような事態を避けるために前傾変化検知場面における上記底面の位置の高さを一定値に決めておくのではなく、傾き検知部18での検知結果が示す傾きの前傾方向への変化の度合いが強い程(換言すれば単位時間当たりの傾き変化量が大きい程)、上記底面の位置を段階的又は連続的に高く変化させる度合いが大きく設定されることが好ましい。これは前傾変化の度合いに合わせて底面の高さを調整することで実現できる。
【0056】
以上、本実施形態では、計測空間領域の設定変更が前傾変化検知場面で実行されるため、変化後、更なる前傾方向への変化の発生時にも同様に実行される。但し、
図4Aの例のように窪みGuを前輪が通過した(脱した)場面など、傾きが後傾方向に変化して元に戻り、その後、傾きの変化がなくなるような場面もある。現実的にはそのような場面にも対応させる必要が生じる。
【0057】
よって、計測空間領域は、測距装置10の傾きに底面の位置の変化の要因となった方向への変化がなくなったことを示した場合、上記計測空間領域の前方方向への深度に応じた底面の位置の変化を元に戻すように変更されることが好ましい。
【0058】
また、以上では、測距装置として光学式の測距装置を例に挙げたが、後述の実施形態も含め、センシングのために放射されるものとしては、レーザ光、赤外光、可視光などに限ったものではなく、超音波、電磁波などを採用することもできる。つまり、上記障害物判定装置は、光学式測距装置の代わりに超音波、電磁波などを放射して測距する測距装置を備えることができる。特に指向性をもたせるなどの工夫により、超音波などでも測点毎の物体の有無がセンシングできる。但し、耐天候性の高さと測距精度が高いことから、レーザを用いることが好ましい。
【0059】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について、
図5A及び
図5Bを参照しながら説明する。
図5A,
図5Bはいずれも、本実施形態に係る障害物判定装置を備えた移動体において
図3Aの計測空間領域が地形変化により変化した例を示す模式図である。なお、本実施形態について第1の実施形態との重複箇所の説明を一部省略して説明するが、第1の実施形態で説明した様々な応用例が適用できる。
【0060】
本実施形態における計測空間領域は、
図5Aの計測空間領域D3で例示するように、傾き検知部18での検知結果が、地面Gの突出部Goなどにより測距装置10の傾きに後傾方向への変化が生じたことを示した場合(以下、後傾変化検知場面)に、計測空間領域の前方方向への深度に応じて、計測空間領域の底面の位置が段階的に低くなるように変更される。
【0061】
計測空間領域D3は、後傾変化検知場面での車体による計測空間領域D0の地面Gからの高さを考慮して、計測空間領域D0の底面の高さ方向の設定座標を下方向に下げるように変更(変形)したものである。これにより、移動体2が後傾姿勢になるような場面でも、地面Gに設置された低い物体を障害物として漏れなく検知できるようになる。また、
図6Aの例で後述するが、深度が大きくなるに連れて、段階的ではなく連続的に低くなるように変更してもよい。
【0062】
また、本実施形態における後傾変化検知場面での変更後の計測空間領域は、
図5Aで例示したように、上記深度に依らず上記計測空間領域の上面の位置が一定の高さになるように設定されているが、第1の実施形態と同様にこれに限ったものではない。例えば、後傾変化検知場面での変更後の計測空間領域は、前方方向への深度が深い程、上記計測空間領域の上面の位置が段階的又は連続的に低くなるように設定されてもよい。
図5Bに示す計測空間領域D4はそのように設定された一例である。
【0063】
計測空間領域D4では、後傾方向への傾き変化により地面G上の低い物体の検知漏れを避けるためにその下面の位置を低くしただけでなく、上面の位置も合わせて低くしている。よって、後傾変化検知場面でも、計測空間領域の体積をある程度一定に保てるだけでなく、ある程度の高さに釣り下がっているが障害物として検知しなくても移動体2が通過できるような物体を、検知してしまうような事態を防ぐことができる。無論、下面の位置の高さの変化度合いと上面の位置の高さの変化度合いとは異なってもよい。
【0064】
また、後傾変化検知場面による変化前後の計測空間領域は計測空間領域D0,D3,D4で例示したような直方体に限らず、第1の実施形態での応用例と同様に、任意の形状に設定することができる。例えば、上記前の計測空間領域として、底面が幅方向に同じ高さをもつ直方体ではなく、底面の高さが幅方向に異なるような領域(但し、上述のように基本的に左右対称とする)を採用することもできる。その場合にも、変更後の計測空間領域として、同じ幅方向位置について、深度に応じて上記底面の位置を変更する(本実施形態では低くする)ことが可能である。
【0065】
以上、本実施形態によれば、測距装置10の前方の計測空間領域を、地面を検出し難いように前傾方向への傾き変化に応じて変更することにより、複雑な構成とアルゴリズムを必要とすることなく単純なアルゴリズムで、衝撃による後傾方向への揺れが生じた場合や地面の凸部(突出部)に遭遇した場合でも地面Gに設置された低い物体を障害物として早めに漏れなく検知できるようにできる。また、本実施形態では、
図5Bのような例を除き計測空間領域を拡げているため、実質的に衝突回避処理への影響が少ないと言える。また、
図5Bの例では、ある程度の高さに釣り下がっているような障害物を遠くの位置から検知してしまうことを防ぐこともできる。
【0066】
また、後傾変化検知場面における上記底面の位置の高さは、ある程度の余裕を見て上記底面の位置を低く設定するようにしておけば、傾きが大幅に後傾方向に変化した場合でも、低い物体の検知漏れが生じない。但し、この場合、逆に地面を障害物と誤検知してしまうようになる可能性が生じ得る。従って、このような事態を避けるために後傾変化検知場面における上記底面の位置の高さを一定値に決めておくのではなく、傾き検知部18での検知結果が示す傾きの後傾方向への変化の度合いが強い程、上記底面の位置を段階的又は連続的に低く変化させる度合いが大きく設定されることが好ましい。これは後傾変化の度合いに合わせて底面の低さを調整することで実現できる。
【0067】
以上、本実施形態では、計測空間領域の設定変更が後傾変化検知場面で実行されるため、変化後、更なる後傾方向への変化の発生時にも同様に実行される。但し、
図5Aの例のように突出部Goを前輪が通過した(脱した)場面など、傾きが前傾方向に変化して元に戻り、その後、傾きの変化がなくなる場面もあり、現実的にはそのような場面にも対応させる必要が生じる。
【0068】
よって、本実施形態でも、計測空間領域は、測距装置10の傾きに上記底面の位置の変化の要因となった方向への変化がなくなったことを示した場合、上記計測空間領域の前方方向への深度に応じた上記底面の位置の変化を元に戻すように変更されることが好ましい。
【0069】
また、本実施形態と第1の実施形態の双方の機能は共存させることができる。但し、上述のような底面位置を戻す処理を、本実施形態と第1の実施形態の双方に適用して併用する場合、傾きの変化が生じた場合にそれを少しの時間だけ記憶させておけばよい。これにより、元に戻った場面であるのか、傾き変化がなかったところから傾き変化が生じた場面であるのかの判断は可能である。
【0070】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態について、
図6A及び
図6Bを参照しながら説明する。
図6A,
図6Bは、それぞれ本実施形態に係る障害物判定装置を備えた移動体において
図3Aの計測空間領域が下り坂、上り坂への進入により変化し、元に戻った例を示す模式図である。本実施形態について、第1,第2の実施形態との重複箇所の説明を基本的に省略し、相違点を中心に説明するが、第1,第2の実施形態で説明した様々な応用例が適用できる。
【0071】
本実施形態における計測空間領域は、傾き検知部18での検知結果が、測距装置10の傾きに前傾方向への変化が生じたことを示した場合(前傾変化検知場面)に、上記計測空間領域の前方方向への深度に応じて底面の位置が段階的又は連続的に低くなるように変更される。
【0072】
逆に、本実施形態における計測空間領域は、傾き検知部18での検知結果が、測距装置10の傾きに後傾方向への変化が生じたことを示した場合(後傾変化検知場面)に、上記計測空間領域の前方方向への深度に応じて上記底面の位置が段階的又は連続的に高くなるように変更される。なお、本実施形態における障害物判定装置1では、前傾変化検知場面での処理と後傾変化検知場面での双方の処理を実行する例を示すが、いずれか一方のみを採用することもできる。
【0073】
また、第1の実施形態にて説明したように、傾きの変化が生じたことは予め定められた時間内の検知結果を参照して判定できるが、第1の実施形態に対応して予め定められた時間と第2の実施形態に対応して予め定められた時間とは同じでよいものの、第3の実施形態に対応するように予め定められた時間は検出対象の相違を考慮してそれより長くしておくことが好ましい。
【0074】
また、本実施形態においても、上記計測空間領域は、測距装置10の傾きに底面の位置の変化の要因となった方向への変化がなくなったことを示した場合、上記計測空間領域の前方方向への深度に応じた底面の位置の変化を元に戻すように変更されることが好ましい。これにより、傾きに変化のない状態(平坦な地面、一定勾配の上り/下り坂を走行する状態)に移行した場合に元の障害物判定処理に戻すことができる。
【0075】
具体例を挙げて説明する。まず、
図6Aを参照し、移動体2が平坦な道路を走行し(移動体2aで示す位置)、その後、分岐点をGdhで示した一定勾配の下り坂に前輪が進入し(移動体2bで示す位置)、その後、後輪もその下り坂に進入する(移動体2cで示す位置)場面について説明する。
【0076】
移動体2が移動体2bの位置に差し掛かると、前傾変化が検知される(つまり前傾変化検知場面となる)。前傾変化検知場面に差し掛かると、計測空間領域Da1(計測空間領域D0と同じ)の底面及び上面を、計測空間領域Da2のように前方方向への深度が大きくなるに連れて連続的に低くなるように変更する。ここでは底面が下り坂の斜面と水平になるように変更することが好ましい。つまり、本実施形態でも、傾き検知部18での検知結果が示す傾きの変化の度合いが強い程、上記底面の位置を段階的又は連続的に変化させる度合いが大きく設定されることが好ましい。これは前傾変化の度合いに合わせて底面の低さを調整することで実現できる。
【0077】
その後、測距装置10の傾きに変化がなくなったことを示した場合(つまり前傾変化検知場面を過ぎた場合)、計測空間領域Da2を、計測空間領域Da1と同じ計測空間領域Da3になるように(底面が下り坂の斜面と水平になるように)元に戻す。なお、計測空間領域Da3を、移動体2が移動体2cの位置に来た時点での領域として図示しているが、実際には、より手前で計測空間領域Da3にする。また、移動体2が平坦な道路から下り坂に進入した例を挙げたが、前傾変化検知場面の後、傾きの変化が見られなくなるような他の場面(例えば上り坂から勾配が弱くなった上り坂へ進入する場面や下り坂から勾配がさらに増した下り坂へ進入する場面など)でも同様の処理を行えばよい。
【0078】
次に、
図6Bを参照し、移動体2が平坦な道路を走行し(移動体2dで示す位置)、その後、分岐点をGuhで示した一定勾配の上り坂に前輪が進入し(移動体2eで示す位置)、その後、後輪もその上り坂に進入する(移動体2fで示す位置)場面について説明する。
【0079】
移動体2が移動体2eの位置に差し掛かると、後傾変化が検知される(つまり後傾変化検知場面となる)。後傾変化検知場面に差し掛かると、計測空間領域Db1(計測空間領域D0と同じ)の底面及び上面を、計測空間領域Db2のように前方方向への深度が大きくなるに連れて連続的に高くなるように変更する。ここでは底面が上り坂の斜面と水平になるように変更することが好ましい。つまり、この場合でも、傾き検知部18での検知結果が示す傾きの変化の度合いが強い程、上記底面の位置を段階的又は連続的に変化させる度合いが大きく設定されることが好ましい。これは後傾変化の度合いに合わせて底面の高さを調整することで実現できる。
【0080】
その後、測距装置10の傾きに変化がなくなったことを示した場合(つまり後傾変化検知場面を過ぎた場合)、計測空間領域Db2を、計測空間領域Db1と同じ計測空間領域Db3になるように(底面が上り坂の斜面と水平になるように)元に戻す。なお、計測空間領域Db3を、移動体2が移動体2fの位置に来た時点での領域として図示しているが、実際には、より手前で計測空間領域Db3にする。また、移動体2が平坦な道路から上り坂に進入した例を挙げたが、後傾変化検知場面の後、傾きの変化が見られなくなるような他の場面(例えば上り坂から勾配がさらに増した上り坂へ進入する場面や下り坂から勾配が弱くなった下り坂へ進入する場面など)でも同様の処理を行えばよい。
【0081】
なお、地面の勾配の変化に応じて上面及び底面を変更した例を挙げたが、無論、
図4Aや
図5Aで例示したように底面だけを変更してもよい。また、本実施形態においても、変更前後の計測空間領域として直方体のような幅方向に高さが同じ領域を採用せずに、幅方向に高さが異なるような領域を採用することができる。
【0082】
以上、本実施形態によれば、測距装置10の前方の計測空間領域を、地面を検出し難いように前傾方向への傾き変化に応じて変更することにより、複雑な構成とアルゴリズムを必要とすることなく単純なアルゴリズムで、地面の傾斜が変化する場面に遭遇した場合でも地面を障害物と誤判定しないように、或いは地面の低い物体の検出漏れを防ぐようにすることができる。
【0083】
また、本実施形態での処理は、地面の勾配が変化した前後での処理であり、第1,第2の実施形態の処理とは逆の方向に底面を変化させている。しかし、工夫により、本実施形態の機能は第1及び/又は第2の実施形態の機能を共存させることもできる。
【0084】
簡単にそのような例について説明すると、底面の高さを変更する要因となる傾きの変化が所定期間続いたか否かで、処理を分ければよい。なお、この所定期間としては、例えば第3の実施形態に対応するように予め定められた時間とし、且つ第1の実施形態に対応して予め定められた時間はそれより短くしておくとよい。傾きの変化が所定期間未満の場合、第1/第2の実施形態のような窪み又は突出部を乗り越える場面と判定し、計測空間領域D0(Da1/Db1)を例えば
図4A(又は
図4B)又は
図5A(又は
図5B)のように変更すればよい。そして、所定期間経過した段階で本実施形態のような勾配が下がる又は上がる地面を通過する場面と判定し、計測空間領域D0(Da1/Db1)を
図6A又は
図6Bのように変更すればよい。
【0085】
また、このように傾き変化の継続時間を見た処理を採用する場合、当然、所定期間経過してしまうような場面に遭遇する。そして、そのような場面には、一旦、地面上の低い物体を検知し難くなるような処理が実行される場面や、一旦地面を検知し易くなるような処理が実行される場面が含まれる。
【0086】
前者の場面とは、例えば
図6Aのように地面の勾配が下がる場合、一旦、
図4Aの計測空間領域D1や
図4Bの計測空間領域D2に変更されることになり、地面上の低い物体を遠くから検知し難くなる。しかし、この場合、近くではその低い物体の検知は可能であり、障害物検知の点ではさほど問題とならない。
【0087】
後者の場面とは、例えば
図6Bのように地面の勾配が上がる場合、一旦、
図5Aの計測空間領域D3や
図5Bの計測空間領域D4に変更されることになり、地面を検知し易くなる。しかし、例えば第5,第6の実施形態で後述するような手前の停止判定用の計測空間領域と奥の減速判定用の計測空間領域とに分けるなどすることで、奥での判定は停止しないようにするなどの工夫を施すことで、対処可能である。
【0088】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態について、
図7〜
図9を参照しながら説明する。
図7は、本発明の第4の実施形態に係る障害物判定装置を搭載した移動体における計測空間領域の例を示す進行方向に垂直な面の断面図、
図8A〜
図8C,
図9はいずれも、
図7の計測空間領域が地形変化により変化した例を示す模式図である。以下、本実施形態について第1の実施形態との相違点を中心に説明するが、第1等の実施形態で説明した様々な応用例が適用できる。
【0089】
本実施形態における計測空間領域は、計測空間領域は、傾き検知部18での検知結果が、測距装置10の傾きに左ロール方向又は右ロール方向(左下又は右下に傾く方向)への変化が生じたことを示した場合に、上記計測空間領域の左方向又は右方向への深度に応じて、上記計測空間領域の底面の位置が段階的又は連続的に高くなるように変更される。
【0090】
具体的に説明すると、本実施形態では、特に
図7の計測空間領域D5で例示するような横長(幅方向に長い)の計測空間領域が通常時の計測空間領域(計測空間領域D0に対応)として適している。
図3Cで例示したような幅方向に短い計測空間領域D0の場合、左右のロールによりその底面の位置で地面を検出してしまうような事態が生じ難いためである。
【0091】
ここでは、
図8Aで例示するように、地面Gの轍などの窪みGuに左側の車輪21が嵌り(或いは右側の車輪21が突出部に乗り上げ)、測距装置10の傾きに左ロール方向(左側が下に傾くようなロール方向)への変化が生じた場合(以下、左ロール変化検知場面)について説明する。左ロール変化検知場面では、計測空間領域は、計測空間領域D6で例示するように、その左方向への深度に応じて(その左方向への深度が大きくなるに連れて)、底面の位置が段階的に高くなるように設定される。これにより、地面を障害物と誤判定しないようにできる。
【0092】
また、左ロール変化検知場面では、
図8Bの計測空間領域D7で例示するように、本体部20の右側に対応する領域も併せて底面の位置が右方向の深度に応じて段階的に低くなる(左方向の深度に応じて底面が段階的に高くなる)ように設定してもよい。これにより、地面上の低い物体の検知漏れがなくなる。なお、
図8A,
図8Bのいずれの例でも段階的に高さを変化させているが、上述したように連続的に変化させるようにしてもよい。
【0093】
また、左ロール変化検知場面は、
図8Cで例示するように地面Gに段差Gsがある場合にも生じる。この場面、或いは上述した窪みGuや突出部が存在する場面では、計測空間領域を
図8Cの部分領域D8l,D8c,D8rのように幅方向に複数に分割して、各部分領域毎に高さを変えるようにしてもよい。中央に位置する部分領域D8cでは底面の高さを変えず、左側に位置する部分領域D8lでは左方向の深度に応じて底面が連続的に高くなるようにし、右側に位置する部分領域D8rでは右方向の深度に応じて底面が連続的に低くなる(左方向の深度に応じて底面が連続的に高くなるとも言える)ようにしている。この例においても、地面を障害物と誤判定せず、且つ地面上の低い物体の検知漏れを無くすことができる。なお、この例では中心と左右端とで計3つに分割しているが、分割数はこれに限らず、2であっても4以上であってもよい。但し、中心を設けた場合には、少なくとも中心の部分領域は高さを変えないようにする。
【0094】
以上、左ロール方向への傾き変化の例を挙げたが、右ロール方向への変化に対しては同様に右方向への深度を対応させれば、説明ができる。
【0095】
以上、本実施形態によれば、測距装置10の前方の計測空間領域を、地面を検出し難いようにロール方向への傾き変化に応じて変更することにより、複雑な構成とアルゴリズムを必要とすることなく単純なアルゴリズムで、衝撃によるロール方向への揺れが生じた場合や地面の凹部や凸部や段差に遭遇した場合でも、地面を障害物と誤判定しないようにできる。また、
図8B,
図8Cの例のような計測空間領域を採用することで、地面上の低い物体を見逃すこともなくなる。
【0096】
また、ロール方向への傾き変化検知時における上記底面の位置の高さの設定は、或る程度の余裕を見て上記底面の位置を高くするようにしておけば、傾きがある程度、ロール方向に変化した場合でも、地面の誤検知が生じないため、問題ない。但し、この場合、地面上の高さの低い物体の検知もできなくなる可能性が生じ得る。従って、このような事態を避けるために、傾き検知部18での検知結果が示す傾きのロール方向への変化の度合いが強い程、上記底面の位置を段階的又は連続的に高くさせる度合いが大きく設定されることが好ましい。このような設定の例は
図8Cで例示済みである。
【0097】
また、本実施形態でも、第1/第2の実施形態で説明した上面の位置の変更例と同様の考え方で、本実施形態においても計測空間領域の上面が左方向又は右方向の深さに応じて高くなるように設定することができる。このような設定の例も
図8Cで例示済みである。
【0098】
以上、本実施形態では、計測空間領域の設定変更が左/右ロール変化検知場面で実行されるため、変化後、更なる左/右ロール方向への変化の発生時にも同様に実行される。但し、
図8A,
図8Bの窪みGuや
図8Cの段差Gsを脱した場合など、傾きが逆のロール方向に変化して元に戻り、その後、傾きの変化がなくなる場面もあり、現実的にはそのような場面にも対応させる必要が生じる。
【0099】
よって、計測空間領域は、測距装置10の傾きに底面の位置の変化の要因となった方向への変化がなくなったことを示した場合、上記計測空間領域の左/右方向への深度に応じた底面の位置の変化を元に戻すように変更されることが好ましい。
【0100】
また、本実施形態での処理は、以上の説明から明らかなように第1〜第3の実施形態の処理とは独立した処理である。よって、障害物判定装置1には、第1〜第3の実施形態の機能を組み込まずに本実施形態の機能のみを組み込むこともできるが、双方の処理に対応できることが好ましいため、第1〜第3の実施形態の機能と共に本実施形態の機能を組み込むことが好ましいと言える。
【0101】
例えば、本実施形態と第1の実施形態を併用する場合、第1の実施形態でのように前傾変化検知場面でそれに対応した処理を実行し、本実施形態でのようにロール変化検知場面でそれに対応した処理を実行するようにすれば、両者が同時に発生した場面でも対応できる。例えば、前傾且つ右ロール方向への傾き変化検知場面では、
図9で例示する計測空間領域D9のように、計測空間領域の底面を、前方方向への深度に応じて上方向に上げ且つ右方向の深度に応じて上方向に上げることができる。
【0102】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態について、
図10A〜
図10Cを参照しながら説明する。
図10A,
図10Bはいずれも、本実施形態に係る障害物判定装置を搭載した移動体における計測空間領域の例を示す進行方向に垂直な面の断面図である。
図10Cは、
図10Aの計測空間領域が地形変化により変化した例を示す模式図である。なお、本実施形態では、第1の実施形態との重複箇所の説明を基本的に省略するが、第1等の実施形態で説明した様々な応用例が適用できる。
【0103】
本実施形態に係る移動体は、移動体2のように障害物判定装置1を備える。本実施形態で用いる計測空間領域は、その手前側の少なくとも上部に設けた第1領域と、他の領域である(少なくとも奥側を含むように設けた)第2領域と、を有する。そして、上記車輪駆動制御部は、上記第1領域で障害物があると判定された場合に移動体2を停止させるよう上記駆動部を制御し、上記第2領域で障害物があると判定された場合に移動体2を減速させるように上記駆動部を制御する。
【0104】
上記第1領域、上記第2領域としては、それぞれ
図10Aで例示する部分領域D10a、部分領域D10bが挙げられるが、それぞれ
図10Bで例示する部分領域D11a、部分領域D11bのように上記第1領域は手前側も少し浮かせてもよい。
【0105】
また、本実施形態のように第1領域、第2領域に分けられた計測空間領域は、
図3Aの計測空間領域D0(
図6A,
図6Bの計測空間領域Da1,Db1)や
図7の計測空間領域D5に適用することができるが、様々な傾き変化検知場面で用いる計測空間領域(
図4A〜
図5Bの計測空間領域D1〜D4、
図6A,
図6Bの計測空間領域Da2,Db2、
図8A,
図8B,
図8Cの計測空間領域D6,D7,D8l・D8c・D8r等)にも適用することができる。無論、傾き変化未検知場面では使用せずに傾き変化検知場面でのみ使用することもできる。
【0106】
以上、本実施形態によれば、減速判定を行うための領域と、停止判定を行うための領域とで奥行距離に基づき分けているため、減速のための判定をし易くして危険性を考慮しつつも、いきなり移動体2が停止するようなことがなく安定した走行が可能になる。特に
図10Bで例示したように停止判定を行うための領域を少し浮かせておくことで、
図6Bでの例のように地面の勾配が上がった場合にいきなり停止するような事態をより避けることができる。また、本実施形態のように計測空間領域を分けた例ではより精度が求められるため、測距装置としては指向性の高い光学式の測距装置10がより好ましいと言える。
【0107】
また、本実施形態では、前方方向の深度(計測距離)によって領域を2つに分割した例を挙げたが、それ以上の数に分けて、減速の度合いを変えてもよいし、ロール方向にも同様の考え方で領域分割するようにしてもよい。
【0108】
さらに、本実施形態では、傾き変化未検知場面から第1領域(停止判定領域)、第2領域(減速判定領域)に分けた計測空間領域を使用しておき、傾き変化検知場面になった場合に、その計測空間領域内での停止判定領域と減速判定領域の境界を変更するようにしてもよい。例えば、通常は
図10Aの部分領域D10a,D10bでなる計測空間領域を使用しておき、前傾変化検知場面で
図10Cの部分領域D12a,D12bのように奥行方向に境界を移動させてもよいし、或いは
図10Bの部分領域D11a,D11bのように停止判定領域を持ち上げるように境界を移動させてもよい。これにより、前傾変化検知場面で地面を障害物と検知したとしても直ぐに移動体2が停止してしまうような事態を防ぐことができ、換言すれば、変更後の計測空間領域の底面をそれほど上げないように設定しておくことができる。また、前傾変化検知場面が解消した場合には境界も元に戻すとよい。
【0109】
ここでは、第1の実施形態に係る前傾変化検知場面のみ例示したが、第3の実施形態における前傾変化検知場面をはじめ、後傾変化検知場面や左/右ロール変化検知場面でも同様に、その検知前の計測空間領域として使用することができる。さらに、そのような場面における変更後の計測空間領域についても、同様の停止し難くするような考え方、或いは他の考え方で、境界を変化させることができる。
【0110】
例えば、第4の実施形態における左/右ロール変化検知場面は、基本的に第1の実施形態の前傾変化検知場面と同様の考え方が適用でき、その効果は、幅方向に遠い物体の検知によって停止し難くなるといったものである。また、第3の実施形態における前傾変化検知場面(
図6A参照)や第2の実施形態に係る後傾変化検知場面では、例えば、検知前の計測空間領域として分割した領域を使用することにより、或いは上述の例と同様の境界移動を行うことにより、地面上の低い物体を早くから減速判定領域のみに入れるようにでき、その物体により停止してしまうようなことを避けることができるといった効果がある。また、第3の実施形態における後傾変化検知場面(
図6B参照)では、計測空間領域Db1の奥側を減速判定領域として使用することで、移動体2が移動体2dの位置に来た段階で停止せずに減速するだけで済む。また、移動体2eの位置に来た段階で、底面が持ち上げられた計測空間領域Db2の奥側の減速判定領域を、
図10Cの例とは逆に狭くすることで、停止判定に至る物体の近さ及び高さを、移動体2dの位置でのそれと変わらないようにすることができる。
【0111】
なお、本実施形態での処理は、以上の説明から明らかなように第1〜第4の実施形態の処理とは独立した処理として実行することもできる。よって、障害物判定装置1には、第1〜第4の実施形態の機能を組み込まずに本実施形態の機能のみを組み込むこともできる。但し、双方の処理に対応できることが好ましいため、障害物判定装置1には第1〜第4の実施形態の機能と共に本実施形態の機能を組み込むことが好ましいと言える。
【0112】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態について、
図11を参照しながら説明する。
図11は、本実施形態に係る障害物判定装置を備えた移動体において
図3Aの計測空間領域が上り坂への進入により変化した例を示す模式図である。なお、本実施形態では、第3の実施形態との重複箇所の説明を基本的に省略するが、第3等の実施形態で説明した様々な応用例が適用できる。
【0113】
本実施形態における計測空間領域は、その前提として、第1の実施形態等で説明したように、測距装置10の傾きに底面の位置の変化の要因となった方向への変化がなくなったことを示した場合、上記計測空間領域の前方方向への深度に応じた底面の位置の変化を元に戻すように変更される。そして、本実施形態における計測空間領域は、傾き検知部18での検知結果が、測距装置10の傾きに前傾方向への変化が生じたことを示した場合に、一定期間、その底面の位置が維持されるようにする。
【0114】
図6Aの例と同じ場面について、
図11を参照しながら説明する。移動体2が移動体2gの位置から移動して移動体2hの位置に差し掛かると、前傾変化が検知される(つまり前傾変化検知場面となる)。前傾変化検知場面に差し掛かると、計測空間領域Dc1(計測空間領域Da1と同じ)の底面及び上面を、計測空間領域Dc2のように前方方向への深度が大きくなるに連れて連続的に低くなるように変更する。ここでは
図6Aの計測空間領域Da2と同様に地面と水平にしてもよいが、
図11で例示したように底面が下り坂の斜面を検知する程度まで下げてもよい。本実施形態でも、傾き検知部18での検知結果が示す傾きの変化の度合いが強い程、上記底面の位置を段階的又は連続的に変化させる度合いが大きく設定されることが好ましい。
【0115】
その後、測距装置10の傾きに変化がなくなったことを示した場合(つまり前傾変化検知場面を過ぎた場合)でも、一定期間経過するまでは計測空間領域Dc2を維持する。ここでは、移動体2が移動体2iの位置に来るまで計測空間領域Dc2を維持した例(計測空間領域Dc3として図示)を挙げている。なお、移動体2は自身で車速が分かっているため、上記一定期間としては例えば1mなど、一定距離を進む期間として定義しても問題ない。一定期間を経過すると、図示しないが、計測空間領域Dc1と同じ計測空間領域になるように(底面が下り坂の斜面と水平になるように)元に戻す。また、移動体2が平坦な道路から下り坂に進入した例を挙げたが、前傾変化検知場面の後、傾きの変化が見られなくなるような他の場面(例えば上り坂から勾配が弱くなった上り坂へ進入する場面や下り坂から勾配がさらに増した下り坂へ進入する場面など)でも同様の処理を行えばよい。
【0116】
以上、本実施形態によれば、前傾変化検知場面でわざと地面を障害物と判定させて、停止(計測空間領域を停止判定領域として使用する場合)又は減速(計測空間領域を減速判定領域として使用する場合)させることができる。
【0117】
但し、本実施形態は、第5の実施形態を併せて適用することが好ましい。この場合、前傾変化検知場面において、わざと減速判定領域で地面を障害物と判定させ、減速させること、つまり地面の勾配が下方向に変化しはじめた段階で減速させ、移動体2を安全な速度で走行させることができる。これにより、本実施形態の計測空間領域を停止判定領域のみで使用する場合に比べ、下り坂での急停止によりスリップするような事態を避けることができる。
【0118】
また、本実施形態は、第3の実施形態における前傾変化検知場面やそれに第5の実施形態を適用した例に限らず、第3の実施形態における後傾変化検知場面や、第1,第2,第4の実施形態でも同様に適用することができる。但し、それらの適用に際しては、傾き検知部18での検知結果が測距装置10の傾きに変化が生じたことを示した場合(各例の傾き変化検知場面)に、一定期間、その底面の位置が維持されるようにする。また、それらの適用により得られる効果は、適用先の例に応じて異なる。
【0119】
例えば、
図6Bの例では、計測空間領域Db1を停止又は減速判定領域として使用することで、それぞれ移動体2が移動体2dの位置に来た段階で停止又は減速する。そして、移動体2eの位置に来た段階の計測空間領域Db2を一定期間、維持することは、地面上の低い物体が存在しても早い段階(遠い位置)から検知しないことを意味する。一方で、移動体2eの位置では、勾配が上がって車速が落ち、回避行動の猶予も増えている。よって、本実施形態を適用することで、遠い位置から地面上の低い物体を検知しないで済むといった効果が得られる。
【0120】
図4A,
図4Bの例では、計測空間領域D1,D2を一定期間維持してから戻すことで、窪みGuのような凹部が連続するような地面の場合にも頻繁に制御が切り替わることが無くなるといった効果が得られる。
図5A,
図5Bの例では、計測空間領域D3,D4を一定期間維持してから戻すことで、突出部Goのような凸部が連続するような地面の場合にも頻繁に制御が切り替わることが無くなるといった効果が得られる。
図8A等の例では、計測空間領域D6等を一定期間維持してから戻すことで、窪みGu等の轍に入ったり出たりするような地面の場合にも頻繁に制御が切り替わることが無くなるといった効果が得られる。
【0121】
(その他)
以上、本発明に係る障害物判定装置や移動体について説明したが、本発明は、その処理手順を説明したように障害物判定方法としての形態も採り得る。この障害物判定方法は、計測対象物までの距離を計測する測距装置による距離の計測結果に基づいて、上記測距装置の前方の計測空間領域内の障害物の有無を判定する障害物判定ステップを有する。また、この障害物判定方法は、傾き検知部が、上記測距装置の傾きを検知する傾き検知ステップをさらに有する。そして、上記計測空間領域は、上記傾き検知ステップでの検知結果が、上記測距装置の傾きに前傾方向及び/又はロール方向への変化が生じたことを示した場合に、上記計測空間領域の前方方向及び/又は幅方向への深度に応じて、上記計測空間領域の底面の位置が段階的又は連続的に変化するように変更される。その他の応用例は障害物判定装置や移動体について説明した通りであり、その説明を省略する。