特許第6886571号(P6886571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6886571-4−エチルフェノールの生成方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886571
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】4−エチルフェノールの生成方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/22 20060101AFI20210603BHJP
   A23F 3/40 20060101ALI20210603BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20210603BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20210603BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20210603BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   C12P7/22
   A23F3/40
   A23L27/10 C
   A23L2/00 B
   A23F3/16
   C12P7/56
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-184439(P2016-184439)
(22)【出願日】2016年9月21日
(65)【公開番号】特開2018-46772(P2018-46772A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】玉井 秀樹
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103976052(CN,A)
【文献】 特開2003−333990(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/143745(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/090729(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0169679(US,A1)
【文献】 特開2011−250736(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/126003(WO,A1)
【文献】 特開昭63−087961(JP,A)
【文献】 LOPEZ, A.M., et al.,"Survival and metabolic activity of probiotic bacteria in green tea.",LWT - FOOD SCIENCE AND TECHNOLOGY,2014年 1月,Vol.55, No.1,pp.314-322,doi: 10.1016/j.lwt.2013.08.021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
A23F 3/00− 5/50
A23L 2/00−35/00
C12Q 1/00− 3/00
C12N 9/00− 9/99
C12N 1/00− 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶抽出物をラクトバチルス・プランタラム及び/又はラクトバチルス・ペントサスにより発酵させる工程及びβ‐グルコシダーゼ活性を有する酵素で処理する工程を含む、4−エチルフェノールの生成方法。
【請求項2】
β‐グルコシダーゼ活性を有する酵素がアスペルギルス属に属する菌由来である、請求項1記載の4−エチルフェノールの生成方法。
【請求項3】
茶抽出物をラクトバチルス・プランタラム及び/又はラクトバチルス・ペントサスにより発酵させる工程及びβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素で処理する工程を含む、茶発酵物の製造方法。
【請求項4】
β−グルコシダーゼ活性を有する酵素がアスペルギルス属に属する菌由来である、請求項記載の茶発酵物の製造方法。
【請求項5】
4−エチルフェノール含有茶発酵物が得られる、請求項3又は4記載の茶発酵物の製造方法。
【請求項6】
請求項の何れか1項に記載の製造方法により得られる茶発酵物であって、4−エチルフェノールを含有し、乳酸を0.2重量%以上含む、茶発酵物。
【請求項7】
請求項記載の茶発酵物を含む飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−エチルフェノールの生成方法及び茶発酵物等に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の香気成分として3−メチルフェノール及び4−エチルフェノールを用いて、これらを特定の重量比で混合することや他の化合物を添加することによって、高温加熱により発現する風味付与及び塩味やスパイス感増強効果が得られ、さらに不快臭を軽減できることが知られている(引用文献1)。なお、引用文献1には4−エチルフェノールの生成方法については記載されていない
【0003】
引用文献2には、茶抽出液中で乳酸菌を培養することにより、「甘い香り」が強調されること、並びにγ−アミノ酪酸の含有量が増大することが記載されている。
【0004】
また、引用文献3には、蒸葉、粗揉葉、揉捻葉からなる群より選ばれる少なくとも1種の茶葉から得られた抽出液にβ−グリコシダーゼ活性を有する酵素を作用させて、従来の緑茶エキスとは異なる特定の香気成分組成にコントロールすることで、緑茶のフレッシュな香りを保持しながらも従来の緑茶エキスには無いフルーティーな特有の香りを持つ茶エキスが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−155481号公報
【特許文献2】特開2003−333990号公報
【特許文献3】特開2011−250736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、茶抽出物を乳酸菌で発酵させる工程及びβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素で処理する工程を含む4−エチルフェノールの生成方法、茶発酵物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、茶抽出物を乳酸菌により発酵させる工程及びβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素で処理する工程を含むことで、4−エチルフェノールが生成されることを見出し、さらに茶特有の香り、フローラルな香り及び適度な酸味を有する風味力価の高い茶発酵物を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]の態様に関する。
[1]茶抽出物を乳酸菌により発酵させる工程及びβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素で処理する工程を含む、4−エチルフェノールの生成方法。
[2]乳酸菌がラクトバチルス・プランタラム及び/又はラクトバチルス・ペントサスである、[1]記載の4−エチルフェノールの生成方法。
[3]β-グルコシダーゼ活性を有する酵素がアスペルギルス属に属する菌由来である、[1]又は[2]記載の4−エチルフェノールの生成方法。
[4]茶抽出物を乳酸菌により発酵させる工程及びβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素で処理する工程を含む、茶発酵物の製造方法。
[5]乳酸菌がラクトバチルス・プランタラム及び/又はラクトバチルス・ペントサスである、[4]記載の茶発酵物の製造方法。
[6]β-グルコシダーゼ活性を有する酵素がアスペルギルス属に属する菌由来である、[4]又は[5]記載の茶発酵物の製造方法。
[7][4]〜[6]の何れか1項に記載の4−エチルフェノール含有茶発酵物の製造方法。
[8][4]〜[7]の何れか1項に記載の製造方法により得られる茶発酵物であって、4−エチルフェノールを含有し、乳酸を0.2重量%以上含む、茶発酵物。
[9][8]記載の茶発酵物を含む飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、茶抽出物から簡便に4−エチルフェノールが生成できることが分かり、天然由来の4−エチルフェノールを生成することができるようになった。4−エチルフェノールを含有することで、フローラルな香りを有する茶発酵物を提供できる。さらに4−エチルフェノールと乳酸を含有し、茶特有の香り及びフローラルな香りと共に、適度な酸味があり、風味力価の高い茶発酵物を提供できる。また、簡便に該茶発酵物を製造できる製造方法を提供できる。さらに、該茶発酵物は希釈して使用でき、各種飲食品に少量添加するだけで、良好な風味を付与でき、風味良好な飲食品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施品1、並びに比較品1、3及び4のGC(ガスクロマトグラフ)による香気成分分析結果(チャート)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、茶抽出物を、乳酸菌で発酵させる工程及びβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素で処理する工程を含む。例えば、茶原料に加水し加熱する工程、乳酸菌を接種する工程及びβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素を添加する工程を含む方法を例示できる。
【0012】
本発明に記載の茶抽出物は、チャノキ(Camellia sinensis)の葉、茎等から製造された茶原料から抽出されたものであればよく、茶原料は不発酵茶、半発酵茶、発酵茶、後発酵茶等の何れでもよく、緑茶、烏龍茶、紅茶等が例示できる。二種類以上の茶原料を組み合わせて用いてもよい。なお、茶葉等から抽出して液体形態となっている茶と区別するため、本願では、抽出に供する茶葉等を“茶原料”とする。茶原料は乾燥品であり、一般的な乾燥品であれば水分含量は特に限定されないが、8重量%以下が好ましく、7重量%以下がより好ましく、緑茶であれば荒茶を使用すればよい。また、切断、破砕、細砕、粉砕等の処理を行った茶原料を用いてもよい
【0013】
前記茶原料に水性溶媒を添加し、加熱することで、茶由来成分を含む茶抽出物が得られる。抽出方法は、一般的な方法で行えばよく、水性溶媒を用いて、茶原料から茶由来成分を抽出できれば特に限定されない。水性溶媒は水が好ましく、無機塩、エタノール等を含有する水溶液でもよい。水性溶媒と原料との混合物が流動性を有していれば、水性溶媒と原料との比率は特に限定されないが、水性溶媒を80重量%以上含むのが好ましく、85重量%以上含むのがより好ましく、90重量%以上含むのがさらに好ましい。抽出温度は茶由来成分が抽出できる温度であれば特に限定されないが、15〜110℃が好ましく、30〜105℃がより好ましく、50〜100℃がさらに好ましく、60〜90℃が最も好ましい。抽出時間は、1分間〜12時間が好ましく、2分間〜6時間がより好ましく、5分間〜3時間がさらに好ましい。抽出は、常圧条件下、加圧条件下の何れでもよい。抽出後に固液分離してもよく、不織布によるろ過、遠心分離等により茶原料を含む混合物から液体を回収できる。市販の茶抽出物を使用してもよく、抽出後に濃縮したエキスを使用してもよい。
【0014】
本発明は、茶抽出物を乳酸菌により発酵させる工程を含む。乳酸菌は、β-グルコシダーゼ活性を有する酵素との併用で本発明品が得られれば特に限定されないが、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)及びラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)のうち、少なくとも1種を用いるのが好ましい。発酵条件は、本発明の茶発酵物が得られれば特に限定されず、静置で行うことができる。また、発酵温度は20〜40℃が好ましく、25〜35℃がより好ましく、発酵時間は10〜48時間が好ましく、12〜36時間がより好ましい。
【0015】
本発明は、茶抽出物をβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素で処理する酵素処理工程を含む。β-グルコシダーゼ活性を有する酵素は、乳酸菌による発酵との併用で本発明品が得られれば特に限定されないが、単糖配糖体を加水分解する酵素を例示でき、例えば、β−グルコシダーゼ製剤として、スミチームBGA(新日本化学工業株式会社製)等が使用でき、アスペルギルス属に属する菌由来の酵素が好ましく、アスペルギルス・ニガー由来の酵素がより好ましい。さらに、プロテアーゼ等の他の酵素を併用してもよい。
【0016】
酵素処理条件は、乳酸菌による発酵との併用で本発明品が得られる条件であれば特に限定されないが、例えば酵素添加量は、酵素製剤として、茶原料を100重量%とした場合に、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜3重量%である。また、処理条件は酵素の最適pH及び温度、並びにpH及び温度安定性を考慮して適宜設定できるが、例えば、pH2〜8、10〜70℃での処理が例示でき、pH3〜7、20〜60℃が好ましい。処理時間は処理条件に応じて適宜調整できるが、例えば、5分間〜30時間が例示でき、10分間〜24時間が好ましい。さらに、70〜120℃、1分間〜6時間又は80〜100℃、3分間〜3時間の加熱工程を追加で行うのが好ましく、酵素を失活させることができる。
【0017】
上記に記載した茶原料からの抽出工程、乳酸菌による発酵工程及びβ-グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理工程は、本発明の茶発酵物を製造できれば、並行して行ってもよい。
【0018】
上記に記載の方法により4−エチルフェノールを生成することができ、本発明の茶発酵物を製造することができる。本発明の茶発酵物は、茶発酵物全体を100重量%とした場合に、4−エチルフェノールを含むものが好ましく、2ppm以上含むものがより好ましく、3ppm以上含むものがさらに好ましく、4ppm以上含むものが特に好ましい。かつ、乳酸を含むものが好ましく、0.2重量%以上含むものがより好ましく、0.3重量%以上含むものがさらに好ましく、0.4重量%以上含むものが特に好ましい。茶発酵物は、さらに、ドラムドライ、エアードライ、スプレードライ、真空乾燥及び/又は凍結乾燥等を行い、乾燥品として利用しても良い。
【0019】
本発明の茶発酵物は、希釈して喫することができ、各飲食品に添加して使用することができる。各飲食品に添加することにより、茶特有の香り、フローラルな香り及び酸味が付与された各飲食品を製造できる。各飲食品への添加量は良好な官能が得られれば特に限定されないが、好ましくは0.1〜20%、より好ましくは0.5〜15%、さらに好ましくは1.0〜10%である。添加する飲食品は特に限定されないが、清涼飲料、ジュース、アルコール飲料等の飲料、洋菓子、和菓子、アイスクリーム等が例示できる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0021】
[実施例1]
(煎茶発酵物1)
煎茶原料10gと水道水90gを混合し、80℃で10分間処理した後、35℃まで冷却した。次いで、乳酸菌としてラクトバチルス・プランタラム菌体粉末(THT030701株、1×1010cfu/g、セティ株式会社製)を5×10cfu/g程度となるよう0.05g接種し、β−グルコシダーゼ製剤としてスミチームBGA(アスペルギルス属由来、新日本化学工業株式会社製)0.1gを添加し、35℃で20時間発酵処理及び酵素処理することで、煎茶発酵物である実施品1を95g得た。
【0022】
[実施例2]
(煎茶発酵物2)
実施例1のβ−グルコシダーゼ製剤に加え、プロテアーゼ製剤であるスミチームFP(新日本化学工業株式会社製)0.1gを添加し、それ以外は実施例1と同様に処理して、煎茶発酵物である実施品2を95g得た。
【0023】
[実施例3]
(煎茶発酵物3)
実施例1のβ−グルコシダーゼ製剤に加え、プロテアーゼ製剤であるスミチームACP(新日本化学工業株式会社製)0.1gを添加し、それ以外は実施例1と同様に処理して、煎茶発酵物である実施品3を95g得た。
【0024】
[比較例1]
実施例1記載の方法からβ−グルコシダーゼ製剤を除き、それ以外は実施例1と同様に処理して、比較品1を95g得た。
【0025】
[比較例2]
実施例1記載の方法から乳酸菌を除き、それ以外は実施例1と同様に処理して、比較品2を95g得た。
【0026】
[比較例3]
実施例1のβ−グルコシダーゼ製剤の代わりにプロテアーゼ製剤であるスミチームFPを添加し、それ以外は実施例1と同様に処理して、比較品3を95g得た。
【0027】
[比較例4]
実施例1のβ−グルコシダーゼ製剤の代わりにキシラナーゼ製剤であるスミチームX(新日本化学工業株式会社製)を添加し、それ以外は実施例1と同様に処理して、比較品4を95g得た。
【0028】
[評価試験1]
(官能評価)
実施品1〜3及び比較品1〜4について、官能評価を実施した。なお、官能評価は、各実施品又は比較品5gにミネラルウォーター95gを加えて20倍に希釈したものを検体として香気及び味を評価し、表1に示した。香気の評価は、「煎茶特有の爽やかな香り」が「有る」:○、「無い」:×、又は「フローラルな香り」が「有る」:○、「無い」:×とした。味の評価は、「酸味」が「適切」:○、「弱い」:△、「無い」:×、又は「風味」が「良好」:○、「不良」:×とした。
【0029】
実施品1〜3の煎茶発酵物は、何れも煎茶特有の爽やかな香りに加えフローラルな香りが有った。また、適度な酸味があり風味良好だった。一方、比較品1〜4は、何れも煎茶特有の爽やかな香りは有ったが、フローラルな香りは無く、味が薄く、好ましい風味のものではなかった。
【0030】
さらに、実施品における有効成分を解明するため、乳酸濃度及び香気成分についてさらに分析することとした。
【0031】
[評価試験2]
(乳酸濃度の測定)
乳酸濃度は、実施品1〜3及び比較品1〜4について、HPLCを用いて下記測定条件1で測定し、結果を表1に示した。
<HPLC測定条件1>
検出器:VIS検出器(430nm)
カラム1:InertSustain Phenyl
(内径4.6mm、長さ250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
カラム2:Hamilton PRP−X300
(内径4.1mm、長さ250mm、Hamilton製)
移動相:2mM 過塩素酸水溶液
移動相流速:0.65ml/分
ポストカラム反応液:ST3−R(昭和電工株式会社製)
ポストカラム反応液流速:0.35ml/分
カラム温度:30℃
標品:乳酸(食品添加物、和光純薬工業株式会社製)を蒸留水で適宜希釈し、検量線を作成した。
検体:各試料を蒸留水で、適宜希釈したもの。
【0032】
[評価試験3]
(香気成分の特定)
香気成分は、実施品1、並びに比較品1、3及び4について、GC(ガスクロマトグラフ)を用いて下記分析条件で分析し、結果を図1に示した。
<GC分析条件>
検出器:Flame Ionization Detector(FID)
カラム:DB−WAX(内径:0.25mm、長さ:30m、膜厚:0.25μm、Agilent J&W製)
カラム温度:40℃(5分間保持)→10℃/分で昇温→250℃(3分間保持)
キャリアガス:ヘリウム(100kPa、流量:1.3ml/分)
インジェクション量:1μl(スプリット比1:15)
インジェクタ温度:250℃
検体:各煎茶発酵物に同重量のジエチルエーテルを加えて抽出(分液)した後、ジエチルエーテル層を回収して検体とした。
【0033】
実施品と比較品のチャートを比較したところ、実施品のみに見られるピーク(リテンションタイム18.835)が確認でき、該物質が香気及び味に影響していると考えられた。該リテンションタイムから、該物質は4−エチルフェノールと推測されたため、4−エチルフェノール(一級、和光純薬工業株式会社製)を標品として用いてGC分析したところ、実施品のみに見られるピークと同じリテンションタイムにピークが見られた。
【0034】
さらに、4−エチルフェノールを標品として、HPLCを用いて下記測定条件2で測定した結果、実施品のみに見られるピークと標品とで、同じリテンションタイムにピークが見られ、本願発明を特徴付ける重要な香気成分が4−エチルフェノールであることが明らかになった。
【0035】
<HPLC測定条件2>
検出器:UV検出器(277nm)
カラム:InertSustain C18
(内径4.6mm、長さ250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
移動相A:16容量%アセトニトリル水溶液(0.1容量%リン酸含有)
移動相B:80容量%アセトニトリル水溶液(0.1容量%リン酸含有)
グラジエント:移動相Aから移動相Bへのグラジエント(30分間)
流速:1.0ml/分
カラム温度:40℃
標品:4−エチルフェノールを50容量%エタノールで適宜希釈し、検量線を作成した。
検体:各試料を50容量%エタノールで、適宜希釈したもの。
【0036】
[評価試験4]
(4−エチルフェノール(4−EP)濃度の測定)
実施品1〜3及び比較品1〜4について、HPLCを用いて上記HPLC測定条件2で4−EP濃度を測定し、結果を表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
評価試験2及び4の結果、乳酸菌による発酵に加え、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理を行って得られた実施品1〜3の煎茶発酵物は、香気成分である4−EPが検出され、その濃度は何れも9ppm以上であり、さらに乳酸濃度が何れも0.4%以上だった。一方、比較品1〜4は、乳酸が検出されたものもあったが、4−EPは何れも検出されなかった。
【0039】
評価試験1、2及び4より、実施品1〜3は、何れも乳酸菌による発酵に加え、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理を併用して得られた煎茶発酵物であるのに対し、比較品1又は2は、乳酸菌による発酵のみ又はβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理のみで、比較品3又は4は、乳酸菌による発酵は行っているが、β−グルコシダーゼ活性のない酵素による酵素処理を行って得られた煎茶発酵物であることから、本発明は、乳酸菌による発酵に加え、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理を併用することが重要であることが分かった。
【0040】
[実施例4]
(烏龍茶発酵物)
実施例3の煎茶原料の代わりに烏龍茶原料を用い、それ以外は実施例1と同様に処理した後、80℃で10分間加熱殺菌処理し、不織布を用いて固液分離して液部を回収することで、烏龍茶発酵物である実施品4を70g得た。
【0041】
[実施例5]
(紅茶発酵物)
実施例4の烏龍茶原料の代わりに紅茶原料を用い、それ以外は実施例4と同様に処理して、紅茶発酵物である実施品5を65g得た。
【0042】
[評価試験5]
前記評価試験1、2及び4に従って、官能評価、乳酸濃度及び4−EP濃度を測定し、結果を表2に示した。なお、香気評価については、「烏龍茶特有の芳ばしい香り」が「有る」:○、「無い」:×、又は「紅茶特有の甘い香り」が「有る」:○、「無い」:×とした。
【0043】
【表2】
【0044】
実施品4及び5の発酵物は、何れも各茶特有の香りと共にフローラルな香りが有った。また、適度な酸味があり風味良好だった。さらに、香気成分である4−EPが検出され、その濃度は7〜11ppmであり、乳酸濃度は何れも0.4%以上だった。
【0045】
よって、烏龍茶及び紅茶でも、煎茶と同様に、乳酸菌による発酵及びβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理を行うことで、本発明の茶発酵物が得られることが分かった。
【0046】
[実施例6]
煎茶10gと水道水90gを混合し、80℃で10分間加熱殺菌処理した後、35℃まで冷却した。次いで、乳酸菌としてラクトバチルス・プランタラムNBRC15891(実施例6−1)、ラクトバチルス・ペントサスNBRC12011(実施例6−2)又はラクトバチルス・ペントサスNBRC106467(実施例6−3)を1×10cfu/g程度となるよう接種し、β−グルコシダーゼ製剤としてスミチームBGA0.1g及びプロテアーゼ製剤としてスミチームACP0.1gを添加し、35℃で20時間酵素処理及び発酵処理することで、煎茶発酵物である実施品6−1〜6−3を各95g得た。
【0047】
[比較例5]
実施例6の乳酸菌の代わりに、乳酸菌としてラクトバチルス・カルバタスNBRC15884(比較例5−1)、ラクトバチルス・アシドフィラスNBRC13951(比較例5−2)、ラクトバチルス・カゼイNBRC15883(比較例5−3)、ラクトバチルス・パラカゼイNBRC3533(比較例5−4)、ラクトバチルス・ファーメンタムNBRC15885(比較例5−5)、ラクトバチルス・ブレビスNBRC13110(比較例5−6)、ラクトバチルス・サケイNBRC3541(比較例5−7)、ラクトバチルス・サケイNBRC107130(比較例5−8)、ラクトバチルス・パラプランタラムNBRC107151(比較例5−9)、ラクトバチルス・パラリメンタリウスNBRC107152(比較例5−10)、ストレプトコッカス・サーモフィラスNBRC13957(比較例5−11)、ロイコノストック・ラクティスNBRC107866(比較例5−12)又はロイコノストック・メセンテロイデスNBRC100496(比較例5−13)を接種し、それ以外は実施例6と同様に処理して、比較品5−1〜5−13を各95g得た。
【0048】
[評価試験6]
前記評価試験2及び4に従って、乳酸濃度及び4−EP濃度を測定し、結果を表3に示した。
【0049】
【表3】
【0050】
実施品6の発酵物は、何れも香気成分である4−EPが検出され、その濃度は4〜39ppmであり、乳酸濃度が0.4%以上だった。一方、比較品5−1〜5−13は、乳酸が検出されたものもあったが、4−EPは何れも検出されなかった。
【0051】
よって、乳酸菌による発酵は、ラクトバチルス・プランタラム及びラクトバチルス・ペントサスのような、β−グルコシダーゼとの併用で4−EPを生成できる乳酸菌を用いることが重要であることが分かった。
図1