【実施例】
【0020】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0021】
[実施例1]
(煎茶発酵物1)
煎茶原料10gと水道水90gを混合し、80℃で10分間処理した後、35℃まで冷却した。次いで、乳酸菌としてラクトバチルス・プランタラム菌体粉末(THT030701株、1×10
10cfu/g、セティ株式会社製)を5×10
6cfu/g程度となるよう0.05g接種し、β−グルコシダーゼ製剤としてスミチームBGA(アスペルギルス属由来、新日本化学工業株式会社製)0.1gを添加し、35℃で20時間発酵処理及び酵素処理することで、煎茶発酵物である実施品1を95g得た。
【0022】
[実施例2]
(煎茶発酵物2)
実施例1のβ−グルコシダーゼ製剤に加え、プロテアーゼ製剤であるスミチームFP(新日本化学工業株式会社製)0.1gを添加し、それ以外は実施例1と同様に処理して、煎茶発酵物である実施品2を95g得た。
【0023】
[実施例3]
(煎茶発酵物3)
実施例1のβ−グルコシダーゼ製剤に加え、プロテアーゼ製剤であるスミチームACP(新日本化学工業株式会社製)0.1gを添加し、それ以外は実施例1と同様に処理して、煎茶発酵物である実施品3を95g得た。
【0024】
[比較例1]
実施例1記載の方法からβ−グルコシダーゼ製剤を除き、それ以外は実施例1と同様に処理して、比較品1を95g得た。
【0025】
[比較例2]
実施例1記載の方法から乳酸菌を除き、それ以外は実施例1と同様に処理して、比較品2を95g得た。
【0026】
[比較例3]
実施例1のβ−グルコシダーゼ製剤の代わりにプロテアーゼ製剤であるスミチームFPを添加し、それ以外は実施例1と同様に処理して、比較品3を95g得た。
【0027】
[比較例4]
実施例1のβ−グルコシダーゼ製剤の代わりにキシラナーゼ製剤であるスミチームX(新日本化学工業株式会社製)を添加し、それ以外は実施例1と同様に処理して、比較品4を95g得た。
【0028】
[評価試験1]
(官能評価)
実施品1〜3及び比較品1〜4について、官能評価を実施した。なお、官能評価は、各実施品又は比較品5gにミネラルウォーター95gを加えて20倍に希釈したものを検体として香気及び味を評価し、表1に示した。香気の評価は、「煎茶特有の爽やかな香り」が「有る」:○、「無い」:×、又は「フローラルな香り」が「有る」:○、「無い」:×とした。味の評価は、「酸味」が「適切」:○、「弱い」:△、「無い」:×、又は「風味」が「良好」:○、「不良」:×とした。
【0029】
実施品1〜3の煎茶発酵物は、何れも煎茶特有の爽やかな香りに加えフローラルな香りが有った。また、適度な酸味があり風味良好だった。一方、比較品1〜4は、何れも煎茶特有の爽やかな香りは有ったが、フローラルな香りは無く、味が薄く、好ましい風味のものではなかった。
【0030】
さらに、実施品における有効成分を解明するため、乳酸濃度及び香気成分についてさらに分析することとした。
【0031】
[評価試験2]
(乳酸濃度の測定)
乳酸濃度は、実施品1〜3及び比較品1〜4について、HPLCを用いて下記測定条件1で測定し、結果を表1に示した。
<HPLC測定条件1>
検出器:VIS検出器(430nm)
カラム1:InertSustain Phenyl
(内径4.6mm、長さ250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
カラム2:Hamilton PRP−X300
(内径4.1mm、長さ250mm、Hamilton製)
移動相:2mM 過塩素酸水溶液
移動相流速:0.65ml/分
ポストカラム反応液:ST3−R(昭和電工株式会社製)
ポストカラム反応液流速:0.35ml/分
カラム温度:30℃
標品:乳酸(食品添加物、和光純薬工業株式会社製)を蒸留水で適宜希釈し、検量線を作成した。
検体:各試料を蒸留水で、適宜希釈したもの。
【0032】
[評価試験3]
(香気成分の特定)
香気成分は、実施品1、並びに比較品1、3及び4について、GC(ガスクロマトグラフ)を用いて下記分析条件で分析し、結果を
図1に示した。
<GC分析条件>
検出器:Flame Ionization Detector(FID)
カラム:DB−WAX(内径:0.25mm、長さ:30m、膜厚:0.25μm、Agilent J&W製)
カラム温度:40℃(5分間保持)→10℃/分で昇温→250℃(3分間保持)
キャリアガス:ヘリウム(100kPa、流量:1.3ml/分)
インジェクション量:1μl(スプリット比1:15)
インジェクタ温度:250℃
検体:各煎茶発酵物に同重量のジエチルエーテルを加えて抽出(分液)した後、ジエチルエーテル層を回収して検体とした。
【0033】
実施品と比較品のチャートを比較したところ、実施品のみに見られるピーク(リテンションタイム18.835)が確認でき、該物質が香気及び味に影響していると考えられた。該リテンションタイムから、該物質は4−エチルフェノールと推測されたため、4−エチルフェノール(一級、和光純薬工業株式会社製)を標品として用いてGC分析したところ、実施品のみに見られるピークと同じリテンションタイムにピークが見られた。
【0034】
さらに、4−エチルフェノールを標品として、HPLCを用いて下記測定条件2で測定した結果、実施品のみに見られるピークと標品とで、同じリテンションタイムにピークが見られ、本願発明を特徴付ける重要な香気成分が4−エチルフェノールであることが明らかになった。
【0035】
<HPLC測定条件2>
検出器:UV検出器(277nm)
カラム:InertSustain C18
(内径4.6mm、長さ250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
移動相A:16容量%アセトニトリル水溶液(0.1容量%リン酸含有)
移動相B:80容量%アセトニトリル水溶液(0.1容量%リン酸含有)
グラジエント:移動相Aから移動相Bへのグラジエント(30分間)
流速:1.0ml/分
カラム温度:40℃
標品:4−エチルフェノールを50容量%エタノールで適宜希釈し、検量線を作成した。
検体:各試料を50容量%エタノールで、適宜希釈したもの。
【0036】
[評価試験4]
(4−エチルフェノール(4−EP)濃度の測定)
実施品1〜3及び比較品1〜4について、HPLCを用いて上記HPLC測定条件2で4−EP濃度を測定し、結果を表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
評価試験2及び4の結果、乳酸菌による発酵に加え、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理を行って得られた実施品1〜3の煎茶発酵物は、香気成分である4−EPが検出され、その濃度は何れも9ppm以上であり、さらに乳酸濃度が何れも0.4%以上だった。一方、比較品1〜4は、乳酸が検出されたものもあったが、4−EPは何れも検出されなかった。
【0039】
評価試験1、2及び4より、実施品1〜3は、何れも乳酸菌による発酵に加え、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理を併用して得られた煎茶発酵物であるのに対し、比較品1又は2は、乳酸菌による発酵のみ又はβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理のみで、比較品3又は4は、乳酸菌による発酵は行っているが、β−グルコシダーゼ活性のない酵素による酵素処理を行って得られた煎茶発酵物であることから、本発明は、乳酸菌による発酵に加え、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理を併用することが重要であることが分かった。
【0040】
[実施例4]
(烏龍茶発酵物)
実施例3の煎茶原料の代わりに烏龍茶原料を用い、それ以外は実施例1と同様に処理した後、80℃で10分間加熱殺菌処理し、不織布を用いて固液分離して液部を回収することで、烏龍茶発酵物である実施品4を70g得た。
【0041】
[実施例5]
(紅茶発酵物)
実施例4の烏龍茶原料の代わりに紅茶原料を用い、それ以外は実施例4と同様に処理して、紅茶発酵物である実施品5を65g得た。
【0042】
[評価試験5]
前記評価試験1、2及び4に従って、官能評価、乳酸濃度及び4−EP濃度を測定し、結果を表2に示した。なお、香気評価については、「烏龍茶特有の芳ばしい香り」が「有る」:○、「無い」:×、又は「紅茶特有の甘い香り」が「有る」:○、「無い」:×とした。
【0043】
【表2】
【0044】
実施品4及び5の発酵物は、何れも各茶特有の香りと共にフローラルな香りが有った。また、適度な酸味があり風味良好だった。さらに、香気成分である4−EPが検出され、その濃度は7〜11ppmであり、乳酸濃度は何れも0.4%以上だった。
【0045】
よって、烏龍茶及び紅茶でも、煎茶と同様に、乳酸菌による発酵及びβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素による酵素処理を行うことで、本発明の茶発酵物が得られることが分かった。
【0046】
[実施例6]
煎茶10gと水道水90gを混合し、80℃で10分間加熱殺菌処理した後、35℃まで冷却した。次いで、乳酸菌としてラクトバチルス・プランタラムNBRC15891(実施例6−1)、ラクトバチルス・ペントサスNBRC12011(実施例6−2)又はラクトバチルス・ペントサスNBRC106467(実施例6−3)を1×10
6cfu/g程度となるよう接種し、β−グルコシダーゼ製剤としてスミチームBGA0.1g及びプロテアーゼ製剤としてスミチームACP0.1gを添加し、35℃で20時間酵素処理及び発酵処理することで、煎茶発酵物である実施品6−1〜6−3を各95g得た。
【0047】
[比較例5]
実施例6の乳酸菌の代わりに、乳酸菌としてラクトバチルス・カルバタスNBRC15884(比較例5−1)、ラクトバチルス・アシドフィラスNBRC13951(比較例5−2)、ラクトバチルス・カゼイNBRC15883(比較例5−3)、ラクトバチルス・パラカゼイNBRC3533(比較例5−4)、ラクトバチルス・ファーメンタムNBRC15885(比較例5−5)、ラクトバチルス・ブレビスNBRC13110(比較例5−6)、ラクトバチルス・サケイNBRC3541(比較例5−7)、ラクトバチルス・サケイNBRC107130(比較例5−8)、ラクトバチルス・パラプランタラムNBRC107151(比較例5−9)、ラクトバチルス・パラリメンタリウスNBRC107152(比較例5−10)、ストレプトコッカス・サーモフィラスNBRC13957(比較例5−11)、ロイコノストック・ラクティスNBRC107866(比較例5−12)又はロイコノストック・メセンテロイデスNBRC100496(比較例5−13)を接種し、それ以外は実施例6と同様に処理して、比較品5−1〜5−13を各95g得た。
【0048】
[評価試験6]
前記評価試験2及び4に従って、乳酸濃度及び4−EP濃度を測定し、結果を表3に示した。
【0049】
【表3】
【0050】
実施品6の発酵物は、何れも香気成分である4−EPが検出され、その濃度は4〜39ppmであり、乳酸濃度が0.4%以上だった。一方、比較品5−1〜5−13は、乳酸が検出されたものもあったが、4−EPは何れも検出されなかった。
【0051】
よって、乳酸菌による発酵は、ラクトバチルス・プランタラム及びラクトバチルス・ペントサスのような、β−グルコシダーゼとの併用で4−EPを生成できる乳酸菌を用いることが重要であることが分かった。