特許第6886572号(P6886572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886572
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】乾燥卵具材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20210603BHJP
【FI】
   A23L15/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-11670(P2017-11670)
(22)【出願日】2017年1月8日
(65)【公開番号】特開2018-110574(P2018-110574A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大隅 賢
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−211923(JP,A)
【文献】 特開2017−201957(JP,A)
【文献】 特開2002−051747(JP,A)
【文献】 特開2014−147357(JP,A)
【文献】 特開昭62−000257(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103125980(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00−17/00
A23L 17/10−17/50
A23L 3/36−3/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥卵具材と加熱液体との接触により凝固せしめて喫食する、かき玉子用乾燥卵具材の製造方法であって、
卵液と液体とを混合した混合物を100重量%とした場合に、25〜45重量%の卵液を含む混合物をゾル状態で凍結し、減圧下にて乾燥する、かき玉子用乾燥卵具材の製造方法。
【請求項2】
加熱液体が加熱した水、茶又は乳である、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
(a)加熱液体により凝固せしめられる乾燥卵、及び(b)未凝固卵を含む乾燥卵、であって、請求項1又は2に記載の方法で得られた、かき玉子用乾燥卵具材。
【請求項4】
請求項記載のかき玉子用乾燥卵具材を用いた食品であって乾燥卵具材と加熱液体との接触により凝固せしめて喫食する食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥卵具材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱湯中にかき卵液を注加してかき卵を製造した後、最終的に凍結乾燥して成形乾燥かき卵製品を製造する方法が知られていた(特許文献1)。
【0003】
また、溶き卵、調味料などを添加混合した卵液を、容器に充填し、真空凍結乾燥機内に装備されている棚加熱装置で加熱凝固させた後、その状態のまま真空凍結乾燥処理する即席卵とじ類の製造法が知られていた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2606951号公報
【特許文献2】特開平03−94659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来法は、卵液を完全に加熱凝固させた後、凍結乾燥して乾燥卵としていたため、復元性が悪く、喫食時の食感も悪かった。本発明は、湯等の浸透性が良く、喫食時の食感が優れた乾燥卵具材及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、卵液と液体とを混合した混合物をゾル状態で凍結し、減圧下にて乾燥することで、加熱液体により凝固せしめて喫食する、乾燥卵具材が製造できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]の態様に関する。
[1]加熱液体により凝固せしめて喫食する、乾燥卵具材の製造方法であって、卵液と液体とを混合した混合物をゾル状態で凍結し、減圧下にて乾燥する、乾燥卵具材の製造方法。
[2]卵液と液体との混合物を100重量%とした場合に、25〜45重量%の卵液を含む、[1]に記載の乾燥卵具材の製造方法。
[3]加熱液体が加熱した水、茶又は乳である、[1]又は[2]記載の製造方法。
[4](a)未凝固の卵を含む乾燥卵、及び(b)加熱液体により凝固せしめられる乾燥卵、であって、[1]〜[3]の何れかに記載の方法で得られた、乾燥卵具材。
[5][4]記載の乾燥卵具材を用いた、加熱液体を使用して喫食する食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乾燥卵具材は、未凝固の卵を含む状態で乾燥させ、喫食段階で湯等により完全に加熱凝固させるため、湯等の浸透性が良く、また喫食時に調理したてのフレッシュ感があり、ほとんどざらつきが無く、柔らかいといった優れた食感を有する。また簡便に該乾燥卵具材を製造できる製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、加熱液体により凝固せしめて喫食する、乾燥卵具材の製造方法であって、卵液と液体とを混合した混合物をゾル状態で凍結し、減圧下にて乾燥する、乾燥卵具材の製造方法である。
【0010】
本発明で用いる卵液は、卵を溶いたものであれば特に限定されないが、鶏卵が好ましく、一般的な液卵が利用できる。
【0011】
本発明で卵液と混合する液体は、可食性液体であれば特に限定されず、水でも良いが、例えばブイヨン、味噌、塩等で調味された液体が好ましく、スープベースが例示できる。卵液と混合する際の該液体の温度は、混合物がゾル状態を維持できる温度であれば特に限定されないが、80℃未満が好ましく、75℃以下がより好ましく、70℃以下がさらに好ましく、常温でも良い。なお、常温とは20℃±15℃(5〜35℃)を意味する。
【0012】
本発明では、前記卵液と液体とを混合して、ゾル状態の混合物とすれば良い。ゾル状態を維持できれば、混合物を加熱しても良く、加熱する場合は全体が均一になるように撹拌下で、80℃未満で加熱するのが好ましく、75℃以下がより好ましく、70℃以下がさらに好ましい。凍結する混合物はゾル状態であることが必要であって、混合物中の卵が全て加熱凝固してかき玉子となった状態ではないことが必要である。混合時や混合後(凍結前)に80℃以上に加熱すると、喫食時の食感が悪くなり、本発明の乾燥卵具材が得られない。
【0013】
前記卵液と液体との混合物は、本発明の乾燥卵具材が得られれば混合割合は特に限定されないが、該混合物を100重量%とした場合に、卵液を25〜45重量%含むのが好ましく、30〜40重量%がより好ましい。該混合割合であれば、喫食段階で加熱液体と接触させた際、適度な大きさのかき玉子が得られ、好ましくはかき玉子の一辺が約5mm以上である。卵液が20重量%以下の場合は、喫食段階で加熱液体と接触させた際、過小な粒状に凝固してしまい、適度な大きさのかき玉子が得られず、食感もあまり感じられない。また、50重量%以上では、過大な塊になってしまい、適度な大きさのかき玉子が得られず、食感もざらつきがあり固い。
【0014】
本発明では、前記卵液と液体との混合物をゾル状態で凍結すれば良く、凍結温度は特に限定されないが、−30〜−10℃が好ましく、−25〜−15℃がより好ましい。真空凍結乾燥は一般的な条件で行えば良いが、減圧時の密閉系内の気圧は250Pa以下が好ましく、100Pa以下がより好ましい。
【0015】
本発明の乾燥卵具材は、前記の製造方法で得ることができ、卵と液体のゾル状態の混合物の乾燥物であり、未凝固の卵を含んでいるため、単に凍結乾燥前の状態に復元しただけでは喫食に適さず、加熱液体により卵を凝固せしめて喫食するものである。未凝固の卵とは、加熱により凝固していない又は変性していない卵を意味する。乾燥卵具材中の未凝固卵の割合は本発明の乾燥卵具材であれば特に限定されないが、50重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。加熱液体とは、卵を熱凝固せしめる液体であれば温度や種類は特に限定されないが、例えば80℃以上、85℃以上、90℃以上等の加熱した水(熱湯)、茶又は豆乳、牛乳等の乳が例示できる。
【0016】
本発明の乾燥卵具材は、様々な食品に利用することができ、加熱液体を使用して喫食する食品であれば特に限定されないが、例えば乾燥卵具材そのものをブロック状の即席スープとして利用でき、また、ラーメン、粥、茶漬けの素等の具材としても利用できる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、各原料及び素材の%は別記がない限り全て重量%である。
【0018】
[実施例1]
65℃で調製したスープベースと卵液とを、卵液が混合物全体の25〜45%の割合になるように撹拌混合し、ゾル状態の混合物を凍結用の型(縦57mm×横42mm×深さ23mm)に充填し、−20℃以下の冷凍庫にて凍結した。これらを真空凍結乾燥機にて乾燥することにより、ブロック状の乾燥卵具材(実施品1−1〜1−5)を得た。
【0019】
[比較例1]
卵液の割合を15、20、50〜60%とし、それ以外は実施例1と同様に処理して、ブロック状の乾燥卵具材(比較品1−1〜1−5)を得た。
【0020】
[実施例2]
65℃で調製したスープベースと卵液とを、卵液が35%の割合になるように撹拌混合し、撹拌条件下でゾル状態を維持しながら到達温度が65〜75℃まで加熱後、ゾル状態の混合物を凍結用の型(縦57mm×横42mm×深さ23mm)に充填し、−20℃以下の冷凍庫にて凍結した。これらを真空凍結乾燥機にて乾燥することにより、ブロック状の乾燥卵具材(実施品2−1〜2−3)を得た。
【0021】
[比較例2]
到達温度を80及び85℃とし、それ以外は実施例2と同様に処理して、ブロック状の乾燥卵具材(比較品2−1及び2−2)を得た。なお、混合物はゾル状態を維持できなかった。
【0022】
[実施例3]
卵液の割合を45%とし、それ以外は実施例2と同様に処理して、ブロック状の乾燥卵具材(実施品3−1〜3−3)を得た。
【0023】
[比較例3]
到達温度を80及び85℃とし、それ以外は実施例3と同様に処理して、ブロック状の乾燥卵具材(比較品3−1及び3−2)を得た。なお、混合物はゾル状態を維持できなかった。
【0024】
[評価試験]
実施品1−1〜1−5、2−1〜2−3及び3−1〜3−3、並びに比較品1−1〜1−5、2−1、2−2、3−1及び3−2について、熱湯100mL入りのカップに各々投入し、1分放置後攪拌し、湯の浸透性、かき玉子の形状及び食感について評価した。
【0025】
湯の浸透性の評価は、「○:湯が速やかに内部まで浸透する」、「△:湯がゆっくりと内部に浸透する」「×:湯が内部に浸透しない」によって表した。かき玉子の形状の評価は、「○:卵が加熱凝固し一辺が5mm以上の適度なかき玉子を形成している」、「△:卵が加熱凝固し適度な大きさと過小なかき玉子とが混在している」「×:卵は加熱凝固するがかき玉子の大きさが過小又は過大で、適切ではない」によって表した。かき玉子の食感の評価は、「○:滑らかで柔らかい」、「×:かき玉子の食感があまり感じられない又はざらつきがあり固い」によって表した。
【0026】
【表1】
【0027】
表1の実施品1−1〜1−5より、乾燥卵具材の製造において混合物中の卵液の割合が25〜45%の場合に、加熱液体と接触させた際に、湯の浸透性に優れ、かつ食感に優れたかき玉子となることが分かった。また、卵液の割合が25〜40%の場合に、加熱液体と接触させた際に、前記に加えて一辺が5mm以上という形状にも優れたかき玉子となることが分かった。なお、卵液の割合が20%以下の場合は、かき玉子の大きさが過小で、食感もあまり感じられなかった。また、卵液の割合が50%以上の場合は、かき玉子の大きさが過大で、食感もざらつきがあり固かった。
【0028】
表1の実施品2−1〜2−3及び3−1〜3−3より、乾燥卵具材の製造において混合物を加熱しても、75℃以下であれば、加熱液体と接触させた際に、湯の浸透性、食感及び形状の全てで優れたかき玉子となることが分かった。