特許第6886614号(P6886614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886614
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】大豆を原料とする発酵ゲル
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20210101AFI20210603BHJP
   A23L 11/60 20210101ALI20210603BHJP
   A23C 11/10 20210101ALI20210603BHJP
   A23L 11/65 20210101ALI20210603BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20210603BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20210603BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20210603BHJP
   A23K 10/12 20160101ALI20210603BHJP
   A23K 10/14 20160101ALI20210603BHJP
【FI】
   A23L11/00 Z
   A23C11/10
   C12N1/20 E
   A23K10/30
   A23K20/163
   A23K10/12
   A23K10/14
【請求項の数】4
【全頁数】4
(21)【出願番号】特願2016-257866(P2016-257866)
(22)【出願日】2016年12月13日
(65)【公開番号】特開2018-93848(P2018-93848A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】592073525
【氏名又は名称】石原 一興
(74)【代理人】
【識別番号】100134119
【弁理士】
【氏名又は名称】奥町 哲行
(72)【発明者】
【氏名】石原 一興
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−039925(JP,A)
【文献】 特開2010−200611(JP,A)
【文献】 特開2006−028047(JP,A)
【文献】 特開2001−346521(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−0772585(KR,B1)
【文献】 日本食品科学工学会誌,2005年,Vol.52, No.3,p.140-143
【文献】 愛知県産業技術研究所 研究報告,2005年,p.138-141
【文献】 岡山大学農学部学術報告,1981年,No.58,p.65-73
【文献】 Journal of Food Science,1997年,Vol.62, No.3,p.457-461
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23C
A23K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆を原料とする豆乳あるいは大豆飲料等少なくとも大豆の可溶液性成分を含む液体(以下、大豆液という)にブドウ糖あるいは果糖あるいは乳糖あるいは麦芽糖を0.1パーセント以上1パーセント以下の濃度になるように含有させたものを、これらの糖を資化し乳酸発酵できるが蔗糖を資化し乳酸発酵できない乳酸菌により発酵させることによってその冷蔵下で20日間経過後のpHが5以上に維持されるヨーグルト状のゲルを得る食品または動物用の餌を製造する方法であって、
前記乳酸菌が、エンテロコッカス デュランス(Enterococcus durans)NBRC100479またはペディオコッカス アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)NBRC3885であることを特徴とする食品または動物用の餌を製造する方法。
【請求項2】
前項記載の糖を含有させる方法が、これらの糖あるいはこれらの糖を含む食物または食物原料の添加である請求項1記載の食品または動物用の餌を製造する方法。
【請求項3】
請求項1記載の糖を含有させる方法が、大豆液に蔗糖分解酵素あるいはグルコシルトランスフェラーゼあるいはフルクトシルトランスフェラーゼあるいはアミラーゼを添加し大豆液中に含まれる蔗糖を分解しブドウ糖あるいは果糖あるいは麦芽糖を生成する事である、請求項1記載の食品または動物用の餌を製造する方法。
【請求項4】
請求項1記載の食品または動物用の餌を製造する方法に使用するためのスターターであって、
エンテロコッカス デュランス(Enterococcus durans)NBRC100479またはペディオコッカス アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)NBRC3885と、果糖またはブドウ糖、乳糖、麦芽糖のうち1つ以上の糖を含むことを特徴とする豆乳あるいは大豆飲料を乳酸発酵させるためのスターター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、豆乳や大豆粉を水に溶いた大豆飲料などを発酵させたヨーグルト状の食品あるいは動物の餌に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より豆乳や大豆飲料を乳酸菌等で発酵し多くのヨーグルト状の食品が製造され、様々な研究がなされてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、こうした発酵製品は、pHが低く多くがpH5未満である。このため、大豆の臭いと酸味とが適合せず、香料を添加し臭いをマスキングしなければ食べにくいものであった。近年は、消費者の食の安心の要求は強くなっており食品添加物を使用しない製品を望む傾向が強くなっている。従前の技術として、発酵終了前の温度を急激に変化させることにより一定のpHの範囲で発酵を停止する方法も発明されているが、現実の流通温度においては時間経過とともに徐々に製品のpHが低下するなどの解決すべき課題が残されている。従って、製造後、時間経過してもpHの低下がより少ない、できれば低下しないことが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明はこうした課題を解決するための有効な手段となるものである。大豆に含まれる低分子の糖は殆どが蔗糖である。従来より得られてきた乳酸菌により豆乳や大豆飲料を原料としたヨーグルト状の食品は、大豆中の蔗糖を発酵して生成する酸により大豆のたんぱく質がゲル化したものである。本発明は以下の知見に基づくものである。すなわち、豆乳や大豆飲料に蔗糖を発酵原料とできない乳酸菌を加えた場合は、ほとんどpHの低下はなくヨーグルト状のゲルを生成することはできない。蔗糖は資化発酵できないが、大豆に含まれないブドウ糖や果糖あるいは乳糖あるいは麦芽糖であれば資化し発酵できる乳酸菌を用い、これらの糖を豆乳あるいは大豆飲料に含むようにすれば、酸を生成しヨーグルト状にすることができる。これらの糖を乳酸菌が消費すれば酸の生成は停止するのでこれらの糖の量を制限することにより酸の生成を調節することができ、持続的にpHを一定に保つことが可能となる。
【発明の効果】
【0005】
このように、本発明は、蔗糖を資化発酵できないが大豆にほとんど含まれないブドウ糖、乳糖、果糖、麦芽糖は発酵できる乳酸菌を用い、豆乳や大豆飲料にこれらの糖を一定量含ませることにより、pHを保ち、食べ易いヨーグルト状の食品や動物の餌を製造する方法であり、この方法によって製造される食品や動物の餌である。蔗糖は発酵しないが、ブドウ糖、果糖、乳糖などは発酵できる乳酸菌として、エンテロコッカス デュランス、テトラジェノコッカス属の細菌およびペディオコッカス属の細菌を提示することができる。また、豆乳や豆乳飲料に含まれるようにする果糖、ブドウ糖、乳糖、麦芽糖などは、これら糖自体でなくともハチミツ、果汁などこれらの糖を含む食物や食物原料の添加、あるいは、豆乳や豆乳飲料を蔗糖分解酵素あるいはでんぷん分解酵素で処理し果糖やブドウ糖などを生成させる方法をとることも可能である。
【0006】
以下に実例を詳述する。
(1)市販の豆乳(有機豆乳、製造者;株式会社東京めいらく製)に殺菌した10パーセントブドウ糖液を豆乳の60分の1容加え、これにエンテロコッカス デュランス(Enterococcus durans)NBRC100479を生菌数約10/ml加え、40℃で10時間発酵させると、ヨーグルト状に凝固した。風味、良好であった。pHは5.7、冷蔵下で20日間経過後のpHは5.6で大きな変化はなく、食感は軟らかく保たれ離水も少なく風味も良好のままであった。ブドウ糖を豆乳の100分の1容加えた場合は、ヨーグルト状に凝固するための発酵時間が2時間長くかかったが、pHは5.7から5.8で20日経過後も大きな変化はなかった。また、ブドウ糖を加えない場合は12時間以上40℃で保温しても液体のままで全く凝固しなかった。
【0007】
(2)上記例と同様に果糖を用いた場合も、同様の結果となった。
【0008】
(3)市販の大豆飲料(まるごと大豆飲料・スゴイダイズ、製造者;大塚食品株式会社、大阪市中央区)と果糖を用いた場合も、上記(2)と同様の結果となった。
【0009】
(4)大豆粉末(豆汁生活、販売者;株式会社リブレライフ、東京都中央区)90gを約50℃に加温した殺菌水910gに溶き、無菌的に3000g10分間の遠心分離を行い不溶物を除去したものに上記(2)と同様の発酵を行うとヨーグルト状のゲルとなり、風味、食感とも良好であった。
【0010】
(5)酵母エキス2%、ブドウ糖2%、リン酸水素2ナトリウム0.6%を水に溶解し、殺菌したものを培地として、エンテロコッカス デュランスまたはテトラジェノコッカス ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)NRBC12172またはペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)NBRC3885を1000ml培養し、無菌的に、遠心分離により集菌、豆乳50mlに解き分散させ凍結乾燥物を作った。これを粉末化したもの4gと100℃、10分で乾熱殺菌したブドウ糖粉末200gを混合し、豆乳あるいは大豆乳発酵用のスターターを作成した。この粉末スターター2gを市販豆乳900mlに加え、40℃で12時間保温するとヨーグルト状発酵物となった。冷却後pHは5.5で風味、食感とも良好であった。この状態は2週間以上持続できた。