【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度〜平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「高レベル廃液からの電解法と溶媒抽出法を用いた長寿命核種の分離回収技術の開発(1)」委託研究、及び「高レベル廃液からの電解法と溶媒抽出法を用いた長寿命核種の分離回収技術の開発(2)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1抽出溶媒が、NTAアミドをドデカン、オクタノール、ジクロロエタン、クロロホルム、トルエンからなる群より選ばれる1種以上の溶媒で溶解した抽出溶媒である、請求項1に記載のPd及びSeの分離方法。
前記第2抽出溶媒が、フェニレンジアミンをオクタノール、ジクロロエタン、ニトロベンゼン、クロロホルム、トルエンからなる群より選ばれる1種以上の溶媒で溶解した抽出溶媒である、請求項1又は2に記載のPd及びSeの分離方法。
第2溶媒抽出工程の後に、8M以上の過塩素酸、塩酸及び硫酸からなる群より選ばれる1種以上の水溶液を用いてSeを水相に逆抽出するSe逆抽出工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のPd及びSeの分離方法。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所で発生する使用済み燃料を再処理する際、核分裂生成物(FP)やマイナーアクチニド(MA)を含む高レベル放射性廃液が発生する。高レベル放射性廃液は現状、ガラス固化体として地層処分することとなっている。
【0003】
高レベル放射性廃液中で超長半減期を有し、含有量が多い放射性核種として、Pd(パラジウム)−107(半減期:650万年)、Se(セレン)−79(半減期:113万年)が挙げられる。これらの放射性核種を高レベル放射性廃棄物から分離回収して、処理・処分することができれば、廃棄物量及び処分場面の軽減、安全性の向上、さらには有用元素の資源化が可能となる。
【0004】
原子力の環境負荷軽減のため、エネルギー基本計画では放射性廃棄物の減容化・有害度軽減に資する技術開発が推進されている(非特許文献1)。また、従来から、溶媒抽出法、イオンクロマト法、溶融塩電解法等の高レベル放射性廃液から効率的に放射性核種を分離する技術が開発されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0005】
超長寿命核種を処理・処分するために、放射性廃液に含まれる長寿命核種の分離除去方法が求められている。長寿命核種は他の元素から分離除去され、核変換され、他の短半減期の核種又は安定な核種に変換される。核変換に際しては、できるだけ目的の元素以外の不純物を含まない方が好ましい。不純物への中性子等のビーム照射は2次的な放射能発生に繋がる可能性がある。
【0006】
従って、様々な分離技術を組み合わせて、他の元素からできるだけ分離し、単体として元素を回収する技術が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高レベル放射性廃液から長寿命核種を分離回収して、核変換して最終的に消滅処理するためには、それぞれを高い純度で分離する必要がある。特に、高レベル放射性廃液中で超長半減期を持つPd、及びSeを選択的に分離回収できるプロセス技術の開発が求められている。
【0010】
電解法を用いることで、高レベル放射性廃液の液性の調整や、化学試薬の添加を必要とせず、Pd及びSeを金属として回収することができる。一方、Pd及びSeの相互分離
法の開発は未解決であり、加えて高レベル放射性廃液に高濃度で存在するAg、Ru、Rh及びTeも同時に電解回収する可能性が高い。これは、それぞれ金属の標準電極電位が次のように近いためである(Pd: 0.915, Te: 0.5213, Se: 0.739, Ag: 0.799, Ru: 0.68, Rh: 0.758 V(vsSHE))。
【0011】
化学分離後の核変換を想定すると、元素単体としてターゲット試料を作製する必要がある。故に電解回収法を適用する場合、更なる相互分離技術の適用が求められる。即ち、PdとSeを元素単体として分離回収する方法が求められている。
本発明は、金属を含む廃液から、電解法によって金属として回収したPd及びSeをそれぞれ高い純度で相互分離する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究した結果、以下の工程を含む方法によりPdとSeとを分離できることを見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0013】
金属を含む廃液から電解法で回収した、少なくともPd及びSeを含む金属を酸性溶液で溶解する金属の溶解工程、
Pdを以下の式(1)で表される化合物が含まれる第1抽出溶媒で抽出する第1溶媒抽出工程、
【化1】
(式(1)中、R
1は、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基である。)
Seを以下の式(2)で表される化合物が含まれる第2抽出溶媒で抽出する第2溶媒抽出工程、
【化2】
(式(2)中、R
2は、それぞれ独立して、水素または炭素数0〜10のアルキル基である。)
を含む、Pd及びSeの分離方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長半減期核種を持つPdとSeとを核変換に供与できる純度で個別に回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の態様は、金属を含む廃液から電解法で回収した、少なくともPd及びSeを含む金属を酸性溶液で溶解する金属の溶解工程、
Pdを上記式(1)で表される化合物が含まれる第1抽出溶媒で抽出する第1溶媒抽出工程、
Seを上記式(2)で表される化合物が含まれる第2抽出溶媒で抽出する第2溶媒抽出工程、
を含む、Pd及びSeの分離方法である。
【0017】
回収するPd及びSeは高レベル放射性廃液に含まれる長寿命核種を含むものでもよい。
高レベル放射性廃液には様々な金属元素が含まれており、どの種類の原子炉からの廃液かによって液性も様々である。電解法を用いることで、高レベル放射性廃液の液性の調整や、化学試薬の添加を必要とせずに、Pd及びSeを金属として回収することができる。
本発明の分離方法は、Pd及びSeをAg、Ru、RhまたはTeと効率よく分離できるため、Ag、Ru、Rh及びTeを高濃度で含む高レベル放射性廃液から回収した金属に好ましく適用できる。
【0018】
本発明においては、廃液に対して電解法を用いて析出した金属からPd、Seを回収す
る。上記の電解法においては湿式電解法が好ましく、Pd及びSeのそれぞれに対応する標準電極電位に基づいて印加する電圧を調整して、Pd及びSeを還元させて、陰極に析出させる。
Pdの標準電極電位に基づく設定電位は通常0.915V(vsSHE,標準水素電極)以下であり、好ましくは0.000V(vsSHE)以上0.915V(vsSHE)以下である。上記範囲であれば、水素発生を抑制し、回収時の電気量を抑制できるので好ましい。
Seの標準電極電位に基づく設定電位は通常0.739V(vsSHE)以下であり、好ましくは0.000V(vsSHE)以上0.739V(vsSHE)以下である。上記範囲であれば、水素発生を抑制し、回収時の電気量を抑制できるので好ましい。
【0019】
電解法における電圧の印加時間は、単位体積あたりの電解時間が、通常1〜60min/mLであり、好ましくは1〜10min/mLである。上記範囲内であれば、経済性の観点から好ましい。
単位体積あたりの陰極及び陽極の面積は、析出する金属が付着できれば特に限定されないが、通常0.01〜100cm
2/mLであり、好ましくは0.1〜10cm
2/mLである。
電極には、白金、銀、金及びパラジウムを用いることができ、陰極には白金が不溶解性の観点から好ましく、陽極には白金が不溶解性の観点から好ましい。
【0020】
上記電解法では、陰極にPd及びSeを含む金属が析出する。この金属にはPd及びSeと標準電極電位が近い他の金属(Ag、Ru、Rh、Te)も含まれていると推測される。
【0021】
析出した金属は、溶解工程で酸性溶液により溶解される。ここで用いられる酸性溶液は、硝酸または塩酸が好ましい。用いられる酸性溶液の濃度は、通常0Mよりも大きく、10M以下であり、好ましくは0.2M以上2M以下である。この金属を溶解した酸性溶液は、続く第1溶媒抽出工程の水相となる。
【0022】
次に、第1溶媒抽出工程としてPdを第1抽出溶媒で抽出する。Pdの抽出剤としては以下の式(1)で表される化合物が用いられる。
【0023】
【化3】
(式(1)中、R
1は、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基である。)
【0024】
式(1)で表される化合物を溶媒に溶解し、第1抽出溶媒を調製する。第1抽出溶媒における式(1)で表される化合物の濃度は、通常0.001〜10Mであり、好ましくは0.1〜1Mである。
第1抽出溶媒に用いられる希釈剤としては、ドデカン、オクタノール、ジクロロエタン、クロロホルム、トルエンが挙げられる。
このようにして調整した第1抽出溶媒を有機相として、第1溶媒抽出工程を行う。
【0025】
第1溶媒抽出工程の後、有機相に抽出されたPdを、水相に逆抽出する工程を含んでいてもよい。Pdの逆抽出剤としては、チオ尿素を用いることができる。Pdの逆抽出剤におけるチオ尿素の濃度は、通常0.001M以上1M以下であり、好ましくは0.01M以上1M未満である。
チオ尿素の希釈剤としては、0〜0.2Mの硝酸、過塩素酸、または塩酸が用いられる。
【0026】
第1溶媒抽出工程の後の水相から、第2溶媒抽出工程としてSeを第2抽出溶媒で抽出する。Seの抽出剤としては、以下の式(2)で表される化合物を用いる。
【0027】
【化4】
(式(2)中、R
2は、それぞれ独立して、水素または炭素数0〜12のアルキル基である。)
【0028】
式(2)で表される化合物を溶媒に溶解し、第2抽出溶媒を調製する。第2抽出溶媒における式(2)で表される化合物の濃度は、通常0.001〜10Mであり、好ましくは0.01〜10Mである。
第2抽出溶媒に用いられる希釈剤としては、オクタノール、ジクロロエタン、ニトロベンゼン、クロロホルム、トルエンが挙げられる。なお、式(2)で表される化合物のひとつであるフェニレンジアミンはオクタノール中に0.1M程度の濃度でしか溶解しない。また、極性の低い溶媒には溶解しない。従って、0.1M以上の濃度のフェニレンジアミン溶液を調製するためには、オクタノール以外にはジクロロエタンやニトロベンゼンのような極性の高い溶媒を用いる必要がある。これらの希釈剤を用いる場合、フェニレンジア
ミンの濃度を0.1M以上溶解度以下とすることができる。
このようにして調整した第2抽出溶媒を有機相として、第2溶媒抽出工程を行う。
【0029】
第2溶媒抽出工程の後、有機相に抽出されたSeを、水相に逆抽出する工程を含んでいてもよい。Seの逆抽出剤としては、過塩素酸、塩酸、硫酸を用いることができる。Seの逆抽出剤の濃度は、通常5M以上であり、好ましくは8M以上である。また、Seの逆抽出剤の濃度の上限は、通常36M以下であり、好ましくは13M以下である。
【0030】
以上の条件を踏まえて、分離スキームを構築できる(
図3)。式(2)で表される化合物を溶解した抽出溶媒で抽出すると、SeだけでなくPdが同時に抽出される可能性があるため、第1溶媒抽出工程には式(1)で表される化合物を用いてPdのみの溶媒抽出を行う。第1溶媒抽出工程でPdを除いた後の水溶液から、Seを式(2)で表される化合物を溶解した第2抽出溶媒で抽出する。水相には、Ag、Ru、Rh、Te等が残る。なお、抽出したPd及びSeはそれぞれチオ尿素、高濃度酸で逆抽出する。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例の%は特に断りが無い場合、すべて質量基準である。
【0032】
<電解法によるPd及びSeの回収試験>
濃度が494ppmのPd、517ppmのSeを含む2M硝酸の模擬放射性廃液に対して、単位体積あたりの陰極及び陽極面積を0.2cm
2/mlとした電極を用いて、電位を制御しながら電圧を印加した。
電位を0.4V(vs. Ag/AgCl)で単位体積あたりの電解時間3min/mL, 電位を0.0V(vs. Ag/AgCl)で単位体積あたりの電解時間3min/mL,
電位を−0.2V(vs. Ag/AgCl)で単位体積あたりの電解時間3min/mL,
電位を−0.4V(vs. Ag/AgCl)で単位体積あたりの電解時間3min/mL,
で電解した後、溶液中のPd及びSeの濃度を分析した。
【0033】
電解後のPd濃度は1ppm、Se濃度は29ppmとなっており、Pdの回収率は99%、Seの回収率は94%であった。以上のように硝酸2M溶液からのPd及びSeの回収率は高く、湿式電解工程で回収することができることを確認した。
【0034】
<析出した金属の溶解工程>
次に、電解法により析出した金属を溶媒抽出工程に供するために、酸性溶液に溶解した。ここでは0.1〜6Mの硝酸を用いた。
【0035】
<第1溶媒抽出工程>
次に、第1溶媒抽出工程にてPdを溶媒抽出した。抽出剤として以下の構造を持つNTA(ニトリロトリアセト)アミド(C8)0.1Mをオクタノールに溶解して第1抽出溶媒を調製し、硝酸溶液からPdの回収を行った。ここではPd以外にもSe、Ag、Ru、Rh、Teといった元素の抽出実験も行った。また、ここで用いた金属溶液は和光純薬で販売される原子吸光用の標準溶液であるが、Ruのみ、ニトロシル錯体の溶液を利用した。
【0036】
【化5】
【0037】
図1は、濃度がそれぞれ200ppmのPd、Se、Ag、Ru、Rh及びTeを含む硝酸溶液と一定濃度の第1抽出溶媒を等量(5mL)ずつ混合、振とうし、実験後の水相、有機相の金属の分配比を測定した結果である。
図2の横軸、縦軸はそれぞれ硝酸濃度と分配比である。より具体的には、
図1は有機相が0.1MのNTAアミド(C8)のオクタノール溶媒と水相が0.1〜6Mの硝酸の例である。
【0038】
一般に、抽出分離するために、分配係数は10以上であることが望ましいとされる。分配係数10であれば、多段抽出において3段の抽出で99.9%の回収が可能である。
図1に示すように0.1Mの抽出剤濃度でも2M以下の硝酸濃度の溶液からPdを分配係数10かそれ以上で抽出することが可能である。
【0039】
Pd以外の元素では、分配比は0.2かそれ以下であり、Pdとの分離比は100以上である。なお、分離比(SF)は同じ条件での目的元素間の分配比(D)と分配比(D)の比で表される。この場合は次のように定義される。
SF=D(Pd)/D(Se)
従って、NTAアミドを用いることで、容易にPdとその他の元素を相互分離できる。なお、分配比0.2のSeは抽出される可能性がある。相互分離比は100程度なので、水相/有機相の体積比を変えること、及び2段以上の多段抽出分離を行うことで、90%以上の相互分離は可能となる。
【0040】
<Pdの逆抽出工程>
Pdの逆抽出工程では、0.01Mのチオ尿素を0.2Mの硝酸に溶解した水溶液を水相として用いて、有機相中のPdを水相に逆抽出した。Pdの回収量は100%であった。
【0041】
<第2溶媒抽出工程>
次に、第2溶媒抽出工程にてSeを溶媒抽出した。抽出剤として以下の構造を持つフェニレンジアミン0.1Mをオクタノールに溶解して、硝酸溶液からの回収を行った。なお、ここではSe以外にもPd、Ag、Ru、Rh、Teといった元素の抽出実験も行った。
【0042】
【化6】
【0043】
図2は、濃度がそれぞれ200ppmのPd、Se、Ag、Ru、及びTeを含む硝酸溶液と一定濃度の抽出溶媒を等量(5mL)ずつ混合、振とうし、実験後の水相、有機相の金属の分配比を測定した結果である。
図2の横軸、縦軸はそれぞれ硝酸濃度と分配比である。より具体的には、
図2は有機相が0.1Mのフェニレンジアミンのオクタノール溶媒と水相が0.1〜6Mの硝酸の例である。
【0044】
図2に示すように0.1Mの抽出剤濃度でも2M以下の硝酸濃度の溶液からSeを分配係数10かそれ以上で抽出することが可能である。
【0045】
Se以外の元素では、Pdの分配比が酸濃度増加とともに上昇する傾向がある。0.1Mフェニレンジアミン/オクタノール抽出溶媒で、2M硝酸溶液からのPd分配比は1を超えるため、Seとの共抽出を考える必要がある。酸濃度は1M以下にする必要がある。Pdの共抽出を考えるにあたっては、予めPdを除去した水溶液を用いるのが好ましい。
【0046】
<Seの逆抽出工程>
Seの逆抽出工程では高濃度の酸を用いる。ここでは、8Mの過塩素酸の水溶液を用いて、有機相中のSeを逆抽出した。Seの回収量は100%であった。
【0047】
表1は、
図3の分離スキームに沿って、濃度がそれぞれ200ppmのPd、Se、Ag、Ru、Rh及びTeを含む共存試料溶液(2M硝酸)を用いて相互分離を行った結果を示す。
【0048】
Pd、Se以外の元素として、Teを取り上げて、その他元素の代表とした。表1から、第1溶媒抽出後の有機相に85.7%のPdが、第2溶媒抽出後の有機相に84.9%のSeが回収されている。いずれの元素も抽出後水溶液に比較的高い元素量を残しているので、より高い抽出条件を施すことで回収量の増大も可能である。また、Pdの逆抽出後の水相における元素の純度は91.6%であり、Seの逆抽出後の水相における元素の純度は97.1%であった。
【0049】
【表1】