(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6は、Brix値(糖度)と重量変化との関係を示す表である。ここでは、水90kgと糖10kgの混合物(全100kg、初期Brix値10%)について、Brix値を10%から25%にまで煮詰めていく例を示している。そして、Brix値を1%ずつ上昇させるのに必要な蒸発水量の変化量および積算量、残りの水の量、および全体の量の変化を示している。たとえば、Brix値を10%から11%に上昇させるには、9.1kgの水を蒸発させ、全重量を90.9kg(糖10kg/Brix値11%×100)にすればよい。
【0007】
この図から明らかなように、Brix値を1%上げるのに必要な蒸発水量は、常に一定ではない。たとえば、Brix値を10%から11%に上げるのには、9.1kgの水分蒸発が必要であるが、Brix値を24%から25%に上げるのには、1.7kgの水分蒸発で足りる。つまり、Brix値が高くなるほど、蒸発水量の変化量は少なくなる。
【0008】
ところが、従来技術では、このようなBrix値と重量との関係は考慮されていない。そもそも、従来技術では、所定の重量(水分含有率)になるまで食材を加熱したり(特許文献1)、所定のBrix値になるまで食材を加熱したりしており(特許文献2)、調理途中の加熱は管理されていない。そのため、一定の火力で食材を加熱すれば、調理が進むに連れてBrix値が急激に上昇し、焦げ付きを生じさせるおそれがある。つまり、糖度が上がってきて食材中の水分が減少しているのに、火力を落とさないことで、焦げ付きを生じさせるおそれがある。また、食材によっては、一気にBrix値を上げると、急な浸透圧変化や糖の浸透不足などにより、仕上がりが良好でなくなるおそれもある。途中で火力を変更するにしても、その変更のタイミングが難しく、仕込み量(食材初期重量)の変化にも容易に対応できない。
【0009】
一方、特許文献3に記載の発明では、食材の焦げ付きを防止するために、重量変化の基準線を予め設定しておき、それに沿って重量変化させるように加熱制御されるが、Brix値を考慮したものではない。すなわち、重量を設定速度で変化させるものであり、重量変化の基準線はBrix値を考慮して設定される訳ではない。また、仕込み量が変わると、それに応じた基準線が必要となり、食材への糖の濃縮を制御することができない。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、食材の焦げ付きを防止することができると共に、糖の濃縮を制御し、所望の品質の食品を製造できる蒸気釜を提供することにある。また、仕込み量の変化にも容易に対応することができる蒸気釜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、食材が投入される調理釜と、この調理釜を加熱する蒸気ジャケットと、
前記調理釜内の食材の重量を検出する重量センサと、この重量センサの検出重量に基づき前記調理釜内の食材のBrix値を監視して、Brix値を設定速度で変化させるように前記蒸気ジャケットへの給蒸を制御する制御手段とを備え
、前記調理釜に投入される食材と投入量とに基づき、運転開始時のBrix値と水分量とが設定され、Brix値を設定速度で変化させるのに必要な水分量の変化となるように、前記重量センサの検出重量に基づき前記蒸気ジャケットへの給蒸を制御して、食材からの蒸発速度を調整する、蒸気釜であって、前記重量センサの検出重量に基づき、食材の容量変化に伴う前記蒸気ジャケットから食材への伝熱面積を監視し、この伝熱面積と、Brix値を設定速度で変化させるのに必要な蒸発速度とに基づき、前記蒸気ジャケット内の蒸気圧を調整することを特徴とする蒸気釜である。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、調理釜内の食材のBrix値を監視して、Brix値を設定速度で変化させるように、食材を加熱することができる。Brix値を監視して制御することで、食材の焦げ付きを防止することができると共に、糖の濃縮を制御し、所望の品質の食品を製造することができる。また、仕込み量の変化にも容易に対応することができる。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、食材の重量に基づきBrix値を監視して、Brix値を設定速度で変化させるように、食材を加熱することができる。重量センサを用いることで、簡易な構成で、Brix値を考慮した加熱制御が可能となる。
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、調理釜に投入される食材(水も投入される場合にはその水も食材の一種とする)と投入量とに基づき、運転開始時のBrix値と水分量とが設定される。そして、Brix値を設定速度で変化させるのに必要な水分量の変化となるように、食材からの蒸発速度を調整して、食材を加熱することができる。
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、食材の容量変化に伴う蒸気ジャケットから食材への伝熱面積を考慮した制御が可能である。また、その伝熱面積で且つ所望の蒸発速度で食材を加熱したい場合において、蒸気ジャケット内の蒸気圧の調整を容易に行うことができる。
【0019】
請求項2に記載の発明は、目標Brix値と前記設定速度とが設定され、設定速度で初期Brix値から目標Brix値まで加熱されるように、前記重量センサの検出重量に基づき前記蒸気ジャケットへの給蒸を制御することを特徴とする
請求項1に記載の蒸気釜である。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、予め、目標Brix値と設定速度とを設定しておくことで、食材の重量に基づき蒸気ジャケットへの給蒸を制御して、設定速度で初期Brix値から目標Brix値まで加熱することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明は、食材の加熱中、食材が追加投入されると、少なくとも初期Brix値を再設定し、再設定後の内容で、設定速度で初期Brix値から目標Brix値まで加熱されるように、前記重量センサの検出重量に基づき前記蒸気ジャケットへの給蒸を制御することを特徴とする
請求項2に記載の蒸気釜である。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、加熱中に食材が追加投入されても、少なくとも初期Brix値を再設定して、設定速度で初期Brix値から目標Brix値まで加熱することができる。
【0023】
請求項4に記載の発明は、設定タイミングで、前記設定速度を変更可能とされたことを特徴とする
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸気釜である。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、運転途中で、設定速度を変更して、食材の仕上がりを調整することができる。
【0025】
請求項5に記載の発明は、前記調理釜内の食材の温度を検出する品温センサを備え、前記品温センサの検出温度が設定温度になってから、Brix値を設定速度で変化させるように前記蒸気ジャケットへの給蒸を制御することを特徴とする
請求項1〜4のいずれか1項に記載の蒸気釜である。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、品温センサの検出温度が設定温度になってから、Brix値を設定速度で変化させる制御に切り替えることができる。これにより、食材からの蒸発が始まってから、Brix値を設定速度で変化させる制御に切り替えることができる。
【0027】
さらに、
請求項6に記載の発明は、前記調理釜内の食材の撹拌装置を備えることを特徴とする
請求項1〜5のいずれか1項に記載の蒸気釜である。
【0028】
請求項6に記載の発明によれば、蒸気ニーダとして構成することで、撹拌装置により調理釜内の食材を撹拌しながら加熱することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の蒸気釜によれば、食材の焦げ付きを防止することができると共に、糖の濃縮を制御し、所望の品質の食品を製造することができる。また、仕込み量の変化にも容易に対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明の一実施例の蒸気釜1を示す概略図である。
本実施例の蒸気釜1は、食材が投入される調理釜2と、この調理釜2を加熱する蒸気ジャケット3と、蒸気ジャケット3への給蒸手段4と、蒸気ジャケット3からのドレン排出手段5と、蒸気ジャケット3内の圧力を検出する圧力センサ6と、調理釜2内の食材の温度を検出する品温センサ7と、調理釜2内の食材の重量を検出する重量センサ8と、これらセンサ6〜8の検出信号に基づき給蒸手段4などを制御する制御手段(図示省略)とを備える。
【0033】
調理釜2は、上方へ開口した有底の中空容器である。図示例では、調理釜2は、上方へ開口した有底円筒状とされ、底壁は略半球状に下方へ膨出して形成されている。但し、調理釜2は、図示例に限らず、たとえば、軸線を左右方向へ沿って配置された横向き略円筒状で、その左右両端部が左右方向外側へ円弧状に膨出する端壁にて閉塞されると共に、左右両端部を除いた周側壁の上部に、上方へ開口するホッパーが設けられた構成とされてもよい。
【0034】
蒸気ジャケット3は、蒸気が供給されることで、調理釜2内を加熱する。蒸気ジャケット3は、本実施例では、調理釜2の略下半分に設けられる。具体的には、調理釜2は、略下半分が二重壁構造とされ、内外の壁体間の空間が蒸気ジャケット3とされる。
【0035】
給蒸手段4は、蒸気ジャケット3内へ蒸気を供給する。具体的には、給蒸手段4は、蒸気ジャケット3への給蒸路9を備え、この給蒸路9には、蒸気ジャケット3へ向けて順に、減圧弁10、給蒸開閉弁11および給蒸調整弁12が設けられる。減圧弁10は、二次側(つまり蒸気ジャケット3側)の蒸気圧を所定圧力に維持する。この所定圧力以下で、蒸気ジャケット3内の圧力は調整される。給蒸開閉弁11は、開閉を切り替えられる電磁弁から構成され、蒸気ジャケット3への給蒸の有無を切り替える。給蒸調整弁12は、開度調整可能な電動弁(たとえば比例弁)から構成され、蒸気ジャケット3への給蒸量を調整する。
【0036】
従って、蒸気ジャケット3への給蒸を実行するには、給蒸開閉弁11および給蒸調整弁12を開ければよい。その際、給蒸調整弁12の開度を調整することで、蒸気ジャケット3内の圧力を調整することができる。一方、蒸気ジャケット3への給蒸を停止するには、給蒸開閉弁11および給蒸調整弁12を閉じればよい。但し、給蒸開閉弁11と給蒸調整弁12との内、必ずしも両者を設置する必要はなく、特に給蒸開閉弁11の設置は省略可能である。
【0037】
ドレン排出手段5は、蒸気ジャケット3内へ供給された蒸気の凝縮水(ドレン)を外部へ排出する。具体的には、ドレン排出手段5は、蒸気ジャケット3下部からのドレン排出路13を備え、このドレン排出路13にはスチームトラップ14が設けられている。
【0038】
図示しないが、蒸気ジャケット3付きの調理釜2は、典型的には、台座から浮いた状態で、台座上の左右に設けられた支持脚に、左右両端部を支持される。具体的には、調理釜2の左右端壁の中央部には、左右方向外側へ突出して軸部が設けられており、その軸部が支持脚に回転自在に保持される。そして、調理釜2は、傾動機構により、前記軸部まわりに設定角度だけ傾動可能とされる。調理釜2に対する食材の投入や排出の際、調理釜2の開口部を前方へ傾けることで、容易に作業することができる。
【0039】
圧力センサ6は、蒸気ジャケット3内の圧力を検出する。図示例では、圧力センサ6は、給蒸路9の内、給蒸調整弁12よりも下流側に設けられるが、蒸気ジャケット3に設けられてもよい。
【0040】
品温センサ7は、調理釜2内の食材の温度を検出する。食材は、加熱に伴い容量を減少させるので、品温センサ7は、食材の容量変化に関わらず温度検出可能な位置に設けられる。
【0041】
重量センサ8は、調理釜2内の食材の重量を検出する。重量センサ8は、典型的にはロードセルを備えて構成され、たとえば調理釜2の前記支持脚に設けられる。その場合、重量センサ8の検出重量には、蒸気ジャケット3付きの調理釜2の重量(さらには支持脚の重量)も含まれるが、予めこれらの重量を制御器に設定しておくことで、調理釜2などの重量を差し引いた正味の食材重量を検出可能とされる。
【0042】
制御手段は、前記各センサ6〜8の検出信号などに基づき、前記各手段などを制御する制御器(図示省略)である。具体的には、給蒸開閉弁11、給蒸調整弁12の他、圧力センサ6、品温センサ7および重量センサ8などは、制御器に接続される。そして、制御器は、以下に述べるように、所定の手順(プログラム)に従い、調理釜2内の食材の加熱を図る。
【0043】
本実施例の蒸気釜1は、調理釜2内に食材が投入された状態で、給蒸手段4により食材を加熱する。その際、制御器は、調理釜2内の食材のBrix値を監視して、Brix値を設定速度で変化させるように蒸気ジャケット3への給蒸を制御する。特に、本実施例では、重量センサ8の検出重量に基づき調理釜2内の食材のBrix値を監視して、Brix値を設定速度で変化させるように蒸気ジャケット3への給蒸を制御する。但し、Brix値の増加には、食材からの水分蒸発が前提となるので、食材からの水分蒸発が始まるタイミングを品温センサ7で監視して、品温センサ7の検出温度が設定温度(制御移行温度)になってから、Brix値を設定速度で変化させるように蒸気ジャケット3への給蒸を制御するのが好ましい。以下、本実施例の蒸気釜1の運転内容の一例について、より具体的に説明する。
【0044】
図2は、本実施例の蒸気釜1の運転内容の一例を示すフローチャートである。
運転開始に先立ち、調理釜2内には、加熱しようとする食材が投入される。投入された食材の全重量は、重量センサ8により検出可能である。その際、制御器は、前述したとおり、調理釜2などの重量を除いた正味の食材重量を把握できる。なお、調理釜2に水も投入する場合、その水も食材の一種として扱うことにする。
【0045】
制御器には、たとえばタッチパネルのような設定器(図示省略)も接続されている。そして、この設定器を用いて、制御器には、加熱前の初期Brix値、加熱後の目標Brix値、Brix値の目標変化速度(Brix値/min)が設定される(ステップS1)。Brix値の目標変化速度を、単に設定速度ということがある。
【0046】
なお、Brix値の変化速度の単位を、説明の便宜上、Brix値/minとするが、これに限らず、たとえば、Brix値/10minとしたり、Brix値/15minとしたりしてもよい。また、Brix値の目標変化速度および/または目標Brix値は、実際の食材や配合などに応じて異なるので、通常、予め試験して求められた最適値が用いられる。
【0047】
図3は、初期Brix値の設定画面の一例を示す図である。この図に示すように、運転開始に先立ち、少なくとも初期Brix値を算出するのに必要な情報が、設定器により設定される。本実施例では、調理釜2内へ投入される食材ごとに、材料名、配合量、水分量、脂質量および糖質量が設定される。図示例では、食材として、薄力粉165kg、砂糖100kg、塩3kg、および水50kgが投入され、薄力粉については、水分23.1kg、脂質2.805kg、糖質125.235kgの内訳となり、砂糖については、糖質100kgとなり、水については、水分50kgとなる旨が示されている。なお、ここでいう糖質には、ショ糖以外も含まれる。つまり、糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたもので、糖類+三単糖以上の多糖類+糖アルコール+その他となる。
【0048】
各食材について、単位重量当たり、どれほどの水分、脂質、糖質などが含まれるかについては、たとえば日本食品標準成分表から知ることができる。もちろん、この表による数値と実際の食材とは多少異なり、加熱の仕上がり具合に影響を及ぼすが、実際の食材を用いた試験などにより、Brix値の目標変化速度を調整することで、所望の加熱調理が可能となる。
【0049】
食材ごとに、その配合量の他、水分、脂質および糖質などの各量を設定する際、食材名と配合量とを設定することで、各成分の量は自動で求められる構成とするのがよい。その場合、食材(食材名または種別コード)とその成分量(水分、脂質、糖質などの各割合、または単位重量当たりの各含有量)とを対応づけて記憶するデータベースを備える。そして、制御器は、設定器から食材と配合量とが設定されると、食材からデータベースを検索して、該当食材の成分量を取得し、その食材の投入量を考慮して、その食材の各成分の重量を求めることになる。
【0050】
いずれにしても、制御器には、食材ごとに、その配合量、水分、脂質および糖質などの量が設定され、その情報に基づき、制御器は、既知の方法により、初期Brix値を算出する。その他、制御器には、加熱により到達させようとする目標Brix値と、その加熱時におけるBrix値の目標変化速度とが設定されるのは、前述したとおりである。
【0051】
但し、初期Brix値は、場合により、食品(または個々の食材、以下同様)の種類とBrix値との関係を予め登録しておき、食品の種類に基づき初期Brix値が設定されるようにしてもよい。あるいは、初期Brix値(さらに運転中のBrix値)は、屈折式糖度計により調理する食品のBrix値を測定したものであってもよい。この場合、実測Brix値は、食品中の糖質、たんぱく質、塩類、酸など水に溶ける可溶性固形分の濃度を示すことになる。
【0052】
このようにして、調理釜2内に食材を投入すると共に各種設定を行った後、スタートボタンを押すなどして、運転開始を指示する(
図2のS2)。これにより、制御器は、給蒸開閉弁11や給蒸調整弁12を開けることで、蒸気ジャケット3内への給蒸を開始する。ここでは、まずは、給蒸調整弁12を全開として(S3)、品温が所定の制御移行温度になるまで、食材を加熱する(S4)。制御移行温度とは、典型的には、食材からの水分蒸発が生じる温度、言い換えれば食材に沸騰が生じる温度(約100℃)に設定される。
【0053】
図4は、品温が制御移行温度に達した後の状態を示すグラフであり、横軸が時間(min)、左縦軸がBrix値(%)、右縦軸が蒸発水量(kg/min)を示している。目標Brix値は水平線aで示され、初期Brix値から目標Brix値まで設定速度(Brix値/min)で一定変化させる場合のBrix値の変化状況が右肩上がりの斜線bで示され、単位時間当たりの食材からの蒸発水量(kg/min)が棒グラフで示される。
【0054】
なお、
図4において、蒸発水量を示す棒グラフは、当初、一定値で横ばいとなる。その理由は、蒸気ジャケット3から食材への伝熱面積には限界があり、蒸発水量にも限界があるからである。言い換えれば、給蒸調整弁12を全開にしても、調理釜2内の食材から単位時間内に蒸発させられる水分量には限界があり、加熱開始後しばらくはその状態が維持されるからである。そして、より詳細にいうと、蒸発水量が一定値で横ばいになる初期には、蒸気釜1の加熱能力の制限を受け、Brix値の上昇は目標変化速度を多少下回るものの、それ以降は目標Brix値の変化に沿って制御される。このようにして、加熱初期の加熱能力不足(蒸発量不足)が起こる場合でも、その影響を最小限にして、加熱時間が延長されるのを防ぐことができる。
【0055】
さて、品温が制御移行温度に達した後、
図4で右肩上がりの斜線bで示されるBrix値の変化に沿うように、食材を加熱していくことになる。前述したとおり、調理釜2に投入される食材と投入量とに基づき、運転開始時のBrix値と水分量とが分かるので、制御器は、Brix値を設定速度で変化させるのに必要な水分量の変化となるように、重量センサ8の検出重量に基づき蒸気ジャケット3への給蒸を制御して、食材からの蒸発速度を調整すればよい。本実施例では、以下のように制御される。
【0056】
まず、食材の重量を、重量センサ8により検出する(
図2のS5)。制御器は、投入された食材の重量と初期Brix値に基づいて、食材の重量変化から所定時間経過後の食材のBrix値を算出し、モニタする。また、制御器は、重量センサ8による検出重量から、蒸気ジャケット3から食材への伝熱面積を推定する(S6)。すなわち、食材は、加熱されるに従って容積を減少させるが、それに伴い、蒸気ジャケット3から食材への伝熱面積が変化するので、現時点における伝熱面積を求める。
【0057】
ここで、蒸気ジャケット3から食材への伝熱面積とは、食材と蒸気ジャケット3(調理釜2内面の内、蒸気ジャケット3が形成された箇所)との接触面積ということもできる。食材としては、主として液体または混錬物であるから、食材の重量と前記伝熱面積とには一定の関係があり、食材の重量から伝熱面積を求めることができる。なお、調理釜2内面の内、蒸気ジャケット3が形成されない箇所(主として調理釜2の略上半分)にも、蒸気ジャケット3からの伝熱により多少加熱面として作用する場合で、且つその箇所にも食材が接触し得る重量である場合には、そのことを考慮しつつ前記伝熱面積を算出してもよい。
【0058】
このような伝熱面積の演算に加えて、制御器は、
図4のBrix値の変化に沿うように、所定時間(たとえば今後1min)内に高めようとするBrix値の変化を重量変化に換算する。すなわち、Brix値の目標変化速度(Brix値/min)を、蒸発速度(kg/min)に換算する。ここでは、投入された食材重量と測定された食材重量とから、現在のBrix値を算出すると共に(S7)、Brix値の目標変化速度に相当する蒸発速度(kg/min)を算出する(S8)。すなわち、たとえば
図6に示されるように、Brix値をある値から別の値へ変化させるのに必要な蒸発水量(変化量)は計算することができるので、制御器は、Brix値の目標変化速度を蒸発速度に換算することができる。
【0059】
このようにして、食材と蒸気ジャケット3との接触面積と、今後の所定時間内にBrix値を所定に高めるのに必要な蒸発速度とが分かるので、これら情報に基づき、制御器は、次のようにして、蒸気ジャケット3内の蒸気圧を求める(S9)。
【0060】
図5は、伝熱面積および蒸発速度と、蒸気ジャケット3内圧力との関係を示す表である。具体例を示すと、伝熱面積がS3(たとえば0.70m
2)で、必要な蒸発速度がV32(たとえば0.76kg/min)である場合、蒸気ジャケット3内の圧力をP2(たとえば0.22MPa)にすればよい。あるいは、伝熱面積がS2で、必要な蒸発速度がV21である場合、蒸気ジャケット3内の圧力をP1にすればよい。
【0061】
制御器には、
図5のような情報が予めテーブル(あるいは数式)として登録されているので、制御器は、その情報を参照することで、伝熱面積と蒸発速度とから蒸気圧を特定することができる。従って、制御器は、所定時間経過するまで、圧力センサ6の検出圧力に基づき給蒸調整弁12の開度を調整して、蒸気ジャケット3内の圧力を設定圧力(
図5に基づき求められた蒸気ジャケット3内圧力)に調整する(S10、S11)。
【0062】
その後、制御器は、重量センサ8により食材の重量を検出し、目標Brix値(言い換えれば目標Brix値相当の重量)に到達するまで、上述の操作(S5〜S13)を繰り返す。但し、目標Brix値に到達せずS12での重量検出後、実質的な重量変化がないタイミングでS5の重量検出が必要となる場合は、S12の検出値をS5の検出値としてもよい。そして、目標Brix値に到達すれば、給蒸調整弁12を全閉して食材の加熱を終了する(S14)。なお、目標Brix値に達したか否かの監視は、食材の加熱中、常時あるいは所定周期などで行ってもよく、その場合、目標Brix値に達した時点で、給蒸調整弁12を閉じて食材の加熱を終了する。
【0063】
本実施例の蒸気釜1によれば、調理釜2内の食材のBrix値を監視して、Brix値を設定速度で変化させるように、食材を加熱することができる。Brix値を監視して制御することで、蒸発速度を調整して、食材の焦げ付きを防止することができると共に、糖の濃縮を制御し、所望の品質の食品を製造することができる。また、仕込み量の変化にも容易に対応することができる。
【0064】
ところで、仮に、目標Brix値まで蒸気圧(つまり加熱量)を調整せずに、食材を加熱した場合、
図7のようになる。すなわち、
図7は、蒸気ジャケット3内の圧力を一定に保持しつつ食材を加熱した場合を示すグラフであり、グラフの見方自体は上述した
図4と同様である。この図に示すように、仮に、蒸気圧を調整せずに加熱した場合、食材の水分が蒸発し濃縮が進むと、Brix値(曲線b´)は急上昇し、品質劣化や焦げ付きの原因となる。ところが、本実施例の蒸気釜1によれば、
図4に示されるように、目標Brix値(斜線b)に沿って、実際のBrix値を変化させることで、品質劣化や焦げ付きを防止することができる。
【0065】
一方、仮に、設定速度で重量を減少させるように食材を加熱しても、
図6に示すBrix値と重量との関係から明らかなように、Brix値が設定速度で減少する訳ではない。また、重量変化の基準線を予め設定しておき、それに沿って加熱するにしても、その基準線がBrix値を考慮したものでなければ同様である。また、設定速度で重量を変化させる場合、基準線は仕込み量(食材の初期投入量)に応じて異なるので、仕込み量が変わるごとに基準線が必要となり、仕込み量の変化に容易に対応することができない。ところが、本実施例の蒸気釜1によれば、Brix値に基づき制御することで、仕込み量の変化に関わりなく(つまり仕込み量が変わっても)、毎回同じ仕上りで加熱調理することができる。そして、仕上がり品質を所望に保つことができるので、食材の焦げ付きを防止することができると共に、糖の濃縮を制御し、所望の品質の食品を製造することができる。
【0066】
本発明の蒸気釜1は、前記実施例の構成(制御を含む)に限らず適宜変更可能である。特に、食材が投入される調理釜2と、この調理釜2を加熱する蒸気ジャケット3と、調理釜2内の食材のBrix値を監視して、Brix値を設定速度で変化させるように蒸気ジャケット3への給蒸を制御する制御手段とを備えるのであれば、その他の構成は適宜に変更可能である。
【0067】
たとえば、前記実施例において、運転途中(食材の加熱中)に、食材を追加投入してもよい。その場合、食材が追加投入されると、制御器は、少なくとも初期Brix値を再設定し、再設定後の内容で、設定速度で初期Brix値から目標Brix値まで加熱されるように、前記実施例と同様に、重量センサ8の検出重量に基づき蒸気ジャケット3への給蒸を制御する。
【0068】
ここで、追加投入される食材の種類や量は、
図3で述べたのと同様に、予め設定器から設定しておくのがよい。その際、どの食材がどの量だけ、どのタイミングで調理釜に投入されるのかも設定しておく。それにより、運転開始時点での初期Brix値に基づき食材の加熱を開始した後、設定タイミングで食材を追加すれば、それを重量変化により検知して(あるいは追加投入した旨の設定器による人為的な操作に基づき)、追加投入時点でのBrix値(これが新たな初期Brix値となる)を再計算した後、当初の目標Brix値(または再設定された目標Brix値)へ向けて、当初の設定速度(または再設定された設定速度)にて加熱を継続すればよい。そして、このような追加投入操作を、食材の加熱中、複数回、同様に実施してもよい。
【0069】
あるいは、これと同様のことを、前記実施例の一連の運転を複数回繰り返すことで行ってもよい。すなわち、第一回目の運転を完了した後、調理釜2内に食材を追加投入し、所定の設定を行った状態で、スタートボタンを押して、第二回目の運転を実行するようにしてもよい。この場合も、食材の追加投入を複数回行って、第三回目以降の運転を実施するようにしてもよい。
【0070】
また、前記実施例(およびその変形例)において、食材の加熱中、設定タイミングで、設定速度を変更可能としてもよい。この場合も、予め、設定器にて、変更のタイミングと、変更前後の設定速度を設定しておけばよい。たとえば、運転開始後、設定時間経過後に、設定速度を3Brix値/10minから、2Brix値/15minに変更して、目標Brix値まで食材を加熱するようにしてもよい。
【0071】
さらに、前記実施例において、蒸気釜1を蒸気ニーダとして構成してもよい。すなわち、蒸気釜1は、調理釜2内の食材の撹拌装置を備えてもよい。たとえば、調理釜2内の左右を架け渡すように軸を設け、その軸に径方向外側へ延出するアームを介して撹拌羽根を設けておき、食材の加熱中、撹拌羽根を回転させてもよい。