特許第6886641号(P6886641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6886641エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、塗料、土木建築用部材、硬化物及び複合材料、並びにエポキシ樹脂硬化剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886641
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、塗料、土木建築用部材、硬化物及び複合材料、並びにエポキシ樹脂硬化剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20210603BHJP
【FI】
   C08G59/50
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-509985(P2017-509985)
(86)(22)【出願日】2016年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2016059958
(87)【国際公開番号】WO2016158871
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2019年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-73533(P2015-73533)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-73541(P2015-73541)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】脇田 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】熊野 達之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 紗恵子
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−537158(JP,A)
【文献】 米国特許第04070400(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01314716(EP,A1)
【文献】 特開2006−131661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるアミノ化合物を含むエポキシ樹脂硬化剤であって、

1HN−H2C−A−CH2−NHR2 (1)

(式(1)中、Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基又は1,4−シクロヘキシレン基であり、R1及びR2は、水素原子又はアミノプロピル基である。R1とR2は同一でも異なっていてもよいが、R1とR2の少なくとも1つは、アミノプロピル基である。)
1、R2のいずれか1つがアミノプロピル基であり残り1つが水素原子である付加物(1付加物)と、
1、R2のいずれもがアミノプロピル基である付加物(2付加物)と、を含み、
エポキシ樹脂硬化剤中の前記1付加物と前記2付加物の合計の含有量が60〜100質量%である、エポキシ樹脂硬化剤。
【請求項2】
前記Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基又はp−フェニレン基である、請求項1に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項3】
前記Aは、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基又は1,4−シクロヘキシレン基である、請求項1に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項4】
エポキシ樹脂と、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂硬化剤と、
を含むエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物を含む塗料。
【請求項6】
請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物を含む土木建築用部材。
【請求項7】
請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化物と、
繊維と、
を含む複合材料。
【請求項9】
o−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種と、アクリロニトリルとを付加反応させて、シアノ化合物を得る工程と、
前記シアノ化合物を水素添加することにより、式(1)で示されるアミノ化合物を得る工程と、
を含む、前記アミノ化合物を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載のエポキシ樹脂硬化剤の製造方法。

1HN−H2C−A−CH2−NHR2 (1)

(式(1)中、Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基又は1,4−シクロヘキシレン基であり、R1及びR2は、水素原子又はアミノプロピル基である。R1とR2は同一でも異なっていてもよいが、R1とR2の少なくとも1つは、アミノプロピル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化剤、それを用いたエポキシ樹脂組成物、塗料、土木建築用部材、硬化物及び複合材料、並びにエポキシ樹脂硬化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、種々の硬化剤を用いて硬化させることにより、成形性、機械強度、密着性等に優れた硬化物を与えることから、注型材、接着剤、成形材、積層材、複合材等の形態で、様々な用途に用いられている。例えば、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化複合材料、特に炭素繊維を用いた炭素繊維強化複合材料は、軽量性と優れた力学特性を有するため、ゴルフクラブ、テニスラケット、釣り竿等のスポーツ分野を始め、航空機や車両等の構造材料、コンクリート構造物の補強等、幅広い分野で使用されている。近年は、優れた力学特性のみならず、導電性を有する、炭素繊維との複合材料が優れた電磁波遮断性を有することから、ノートパソコンやビデオカメラ等の電子電気機器の筐体等にも使用され、筐体の薄肉化、機器の重量軽減等に役立っている。このような炭素繊維強化複合材料は、エポキシ樹脂を強化繊維に含浸して得られるプリプレグを積層して得るのが一般的である。
【0003】
各種ポリアミノ化合物が、エポキシ樹脂硬化剤およびその原料として用いられていることは広く知られている。代表的なポリアミノ化合物として、芳香環を持った脂肪族ポリアミノ化合物(例えば、キシリレンジアミン等);脂肪族ポリアミノ化合物(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)等);脂環式ポリアミノ化合物(例えば、イソホロンジアミン(IPDA)、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等)等が挙げられる。これらのポリアミノ化合物は、それぞれのアミノ基の反応性、すなわち活性水素に起因する固有の特徴を有し、これらのポリアミノ化合物をそのままで或いはそれぞれのポリアミノ化合物に適した変性を加えた後にエポキシ樹脂硬化剤として用いられている。
【0004】
脂肪族ポリアミノ化合物の中でも、DETA、TETA等は、他のポリアミノ化合物と比較して、一般に、多く配合する場合には発熱量が多くなることが知られている。また、脂環式ポリアミノ化合物の中で、IPDAは、2つのアミノ基に反応性の差があるため、硬化が遅く、硬化促進剤が併用されるのが一般的である(非特許文献1)。
【0005】
さらに、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンは、硬化性は良好であるが、エポキシ樹脂との反応性が高く、発熱量が多くなる傾向にある。
【0006】
例えば、特許文献1においては、ポリアミノ化合物とフェネチル化ポリアミノ化合物とを含有するエポキシ樹脂硬化剤が提案されている。また、特許文献2においては、ポリアミノ化合物とスチレンとの付加反応により得られるアミノ化合物を、エポキシ樹脂硬化剤として用いる技術が提案されている。さらに、特許文献3においても、ポリアミノ化合物とスチレンとの反応により得られるポリアミノ化合物をエポキシ樹脂として用いる技術が提案されている。また、特許文献4においては、ポリアミノ化合物とアクリロニトリルとの付加反応により得られるアミノ化合物を、エポキシ樹脂として用いる技術が提案されている。
【0007】
さらに、例えば、特許文献5においては、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンやその変性物を含むポリアミン化合物と、炭素数が16〜18のアルキルアミン化合物を配合してなるエポキシ樹脂硬化剤が提案されている。特許文献6においては、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び/又はその変性物を含むポリアミン化合物、炭素数12のアルキル基を有する成分を含有するか若しくはヨウ素価が50以上である脂肪族アミン化合物、及び硬化促進剤とからなるエポキシ樹脂硬化剤が提案されている。また、芳香環を有さない他の脂肪族ポリアミノ化合物として、DETA、TETA、IPDAを原料とするエポキシ樹脂硬化剤等も用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−219115号公報
【特許文献2】特許第5140900号公報
【特許文献3】特許第5509743号公報
【特許文献4】特公昭47−001114号公報
【特許文献5】特開平08−003282号公報
【特許文献6】特開2001−163955号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】総説エポキシ樹脂、垣内弘著(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記したエポキシ樹脂やその硬化剤に関する技術は未だ改善の余地がある。まず、硬化発熱温度の抑制と硬化速度の向上とを両立させることについては未だ不十分である。エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応は、通常、発熱反応であり、大量の熱を遊離する。そして、硬化速度を向上させるため、樹脂単位当たりの硬化剤の配合量を多くすること等が試みられているが、硬化剤の配合量を増やすと発熱しやすくなるといった問題がある。かかる問題は、硬化物が肉厚である場合や、大形の成形体である場合等に顕著となる。激しい発熱が生じると、内部応力の歪みのために成形品にクラックが発生して不良品となったり、成形型のコンポーネントが劣化したりする。一方で、発熱を抑制するために硬化剤や硬化促進剤の添加量を少なくすると、成形サイクルが長くなり、生産性や経済性に劣るという問題が生じる。さらに、硬化剤や硬化促進剤の添加量が少ないと、硬化の程度が不十分となり、成形品の強度に劣る場合がある。特にプリプレグの用途とする際には、硬化速度が重要な要素となる傾向にある。硬化速度を向上させることによって硬化時間を短縮できれば、製品を成形する際の成形型(金型)の数を増やすことなく生産性を向上させることも期待できる。このような要望は、特に大形の成形品を製造する際に顕著となる。
【0011】
この点、例えば、特許文献1に開示されている技術は、硬化剤とエポキシ樹脂の硬化速度が遅く、プリプレグの成形等に用いる場合、生産性が低いといった問題がある。また、特許文献2に開示されている技術は、硬化速度が遅く、生産性が低下するという問題がある。さらに、未反応のアミノ化合物の残留量を低減させることが難しいので、かかる硬化剤を用いてエポキシ樹脂を硬化させる際に、残留する未反応のアミノ化合物に由来する激しい発熱が起こるという問題もある。さらに、特許文献3に開示されている技術は、硬化発熱温度に改善が見られるものの、機械物性に劣るという問題がある。さらに、特許文献4に開示されている技術は、良好な塗膜外観を与えるものの、機械物性に劣るという問題がある。
【0012】
また、特許文献5に開示されているエポキシ樹脂硬化剤は、硬化時の発熱抑制や硬化速度の向上が不十分であるという問題がある。それに加えて、保存中にアルキルアミン等の結晶が析出することによって硬化剤としても固化してしまい、保存安定性に劣るという問題もある。特許文献6に開示されているエポキシ樹脂硬化剤は、保存安定性はある程度改善されているが、やはり硬化時の発熱抑制や硬化速度の向上が不十分であるという問題がある。さらに、DETA、TETA及びIPDA等の脂肪族アミン化合物を原料とするエポキシ樹脂硬化剤においても、硬化時の発熱抑制や硬化速度の向上が不十分である。このように、過剰な発熱を伴わずに速硬化し、かつ、良好な機械物性を与えるエポキシ樹脂硬化剤は未だ実現されていない。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、過剰な発熱を伴わずに速硬化し、かつ、良好な機械物性を与えるエポキシ樹脂硬化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討した結果、少なくともアミノプロピル基を有する特定のアミノ化合物を含むエポキシ樹脂硬化剤を用いることで、意外にも、過剰な発熱を伴わずに速硬化させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
下記式(1)で示されるアミノ化合物を含むエポキシ樹脂硬化剤。

HN−HC−A−CH−NHR (1)

(式(1)中、Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基又は1,4−シクロヘキシレン基であり、R及びRは、水素原子又はアミノプロピル基である。RとRは同一でも異なっていてもよいが、RとRの少なくとも1つは、アミノプロピル基である。)
[2]
前記Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基又はp−フェニレン基である、上記[1]に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
[3]
前記Aは、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基又は1,4−シクロヘキシレン基である、上記[1]に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
[4]
エポキシ樹脂と、
上記[1]〜[3]のいずれかに記載のエポキシ樹脂硬化剤と、
を含むエポキシ樹脂組成物。
[5]
上記[4]に記載のエポキシ樹脂組成物を含む塗料。
[6]
上記[4]に記載のエポキシ樹脂組成物を含む土木建築用部材。
[7]
上記[4]に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。
[8]
上記[7]に記載の硬化物と、
繊維と、
を含む複合材料。
[9]
o−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種と、アクリロニトリルとを付加反応させて、シアノ化合物を得る工程と、
前記シアノ化合物を水素添加することにより、式(1)で示されるアミノ化合物を得る工程と、
を含む、前記アミノ化合物を含む、エポキシ樹脂硬化剤の製造方法。

HN−HC−A−CH−NHR (1)

(式(1)中、Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基又は1,4−シクロヘキシレン基であり、R及びRは、水素原子又はアミノプロピル基である。RとRは同一でも異なっていてもよいが、RとRの少なくとも1つは、アミノプロピル基である。)
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るエポキシ樹脂硬化剤は、硬化発熱温度が低く、かつ、硬化速度が速い。また、本発明に係るエポキシ樹脂硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物は、良好なエポキシ樹脂硬化物物性を与え、エポキシ樹脂土木・建築用途、及び繊維強化複合材料用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0018】
本実施形態のエポキシ樹脂硬化剤は、下記式(1)で表されるアミノ化合物を含むエポキシ樹脂硬化剤である。

HN−HC−A−CH−NHR (1)

(式(1)中、Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基又は1,4−シクロヘキシレン基であり、R及びRは、水素原子又はアミノプロピル基である。RとRは同一でも異なっていてもよいが、RとRの少なくとも1つは、アミノプロピル基である。)
【0019】
本実施形態のエポキシ樹脂硬化剤は、式(1)で表されるアミノ化合物を含むことにより、エポキシ樹脂を硬化させる際に、過剰な発熱を抑制でき、且つ、硬化速度が速い。従来のエポキシ樹脂硬化剤では、主成分としてメタキシリレンジアミン等が汎用されているが、かかる従来のエポキシ樹脂硬化剤では、大気中の二酸化炭素や水蒸気を吸収して、カルバミン酸塩や炭酸塩を生成し易いため、エポキシ樹脂硬化物物性の低下等が生じやすい。特に硬化物の白化現象を生じ、外観に劣るという欠点も起こりうる。この点、本実施形態のエポキシ樹脂硬化剤は、とりわけ速硬化性に優れ、外観や可撓性に優れた硬化物を与えることが可能である。
【0020】
本実施形態におけるアミノ化合物は、例えば、以下の方法によって得ることができる。まず、o−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン及びm−キシリレンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、これらを「キシリレンジアミン」と総称する場合がある。)、又は1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及び1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、これらを「ビス(アミノメチル)シクロヘキサン」と総称する場合がある。)と、アクリロニトリルを付加反応させてニトリル基を含むシアノ化合物を得る。次いで、このシアノ化合物を水素化することでアミノ化合物を得ることができる。この場合、アミノ化合物は、各付加物の混合物であってもよい。ここで、各付加物とは、式(1)において、R、Rのいずれか1つがアミノプロピル基であり残り1つが水素原子である付加物(1付加物)と、いずれもがアミノプロピル基である付加物(2付加物)とを意味する。本実施形態のエポキシ樹脂硬化剤中、2付加物の含有量は25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、85質量%以上であることが特に好ましい。エポキシ樹脂硬化剤中の2付加物の含有量が25質量%以上であると、速硬化性が発現しやすい傾向にある。
【0021】
本実施形態のエポキシ樹脂硬化剤中における式(1)で表される化合物(1付加物及び2付加物の合計)の総含有量は、速硬化性の発現の観点から、60〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%であることがより好ましく、80〜100質量%であることが更に好ましい。
【0022】
本実施形態のエポキシ樹脂硬化剤には、上記したアミノ化合物の他に、未反応のキシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が含まれていてもよい。エポキシ樹脂硬化剤中のキシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有量は、30質量%未満であることが好ましく、20質量%未満であることがより好ましく、5質量%未満であることが更に好ましい。キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有量の下限は特に限定されない。このキシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンの含有量を30質量%未満とすることにより、エポキシ樹脂硬化剤として用いてエポキシ樹脂組成物を調製する際に、エポキシ樹脂組成物の硬化遅延を一層抑制することができる傾向にある。
【0023】
本実施形態におけるエポキシ樹脂硬化剤の製造方法としては、特に限定されないが、キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンをアクリロニトリルと付加反応させてシアノ化合物を得る工程(第1工程)と、このシアノ化合物を水素添加することにより、式(1)で示されるアミノ化合物を得る工程(第2工程)とを含む方法が好ましい。
【0024】
キシリレンジアミンとしては、オルソ(o−)キシリレンジアミン、メタ(m−)キシリレンジアミン、パラ(p−)キシリレンジアミン等が挙げられる。これらの中でも、メタ(m−)キシリレンジアミンが好ましい。
【0025】
ビス(アミノメチル)シクロヘキサンとしては、1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられるが、これらの中でも、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好ましい。
【0026】
第1工程で行われる上記反応は、均一系反応であってもよいし、二層系反応等の不均一系反応であってもよいが、副生成物の抑制の観点から、均一系反応であることが好ましい。均一系反応は、無溶媒でも行えるが、反応温度を高い精度で制御できるという観点から、溶媒を用いることが好ましい。
【0027】
第1工程で使用される溶媒としては、特に限定されないが、例えば、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン等の芳香族系溶媒等を用いることが好ましい。これらの中でも、原料であるキシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンの溶解性や、第2工程においても使用可能である溶媒であるという観点から、アルコール系溶媒がより好ましく、イソプロパノールが更に好ましい。溶媒の使用量は、キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンとアクリロニトリルの総質量に対し、通常、0〜200質量%であることが好ましく、50〜180質量%であることがより好ましく、80〜160質量%であることが更に好ましい。
【0028】
第1工程におけるキシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンに対するアクリロニトリルの反応モル比(アクリロニトリル/キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサン)は0.5〜3.0であることが好ましく、0.8〜2.5であることがより好ましく、1.0〜2.0であることが更に好ましい。反応モル比の下限が0.5以上であることで、未反応のキシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンの量を抑制できるため、未反応キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンの除去が容易となる傾向にある。さらには、蒸留によってシアノ化合物を精製する場合においては、未反応のキシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンを効率よく除去できる傾向にある。一方、反応モル比の上限が3.0以下であることで、好ましくない副反応を効果的に抑制できる傾向にある。
【0029】
第1工程における反応温度は特に限定されないが、原料の溶解性及び溶媒等の沸点等の観点から、20〜85℃であることが好ましい。さらに、反応温度の制御容易性の観点から、25〜75℃であることがより好ましい。
【0030】
第1工程では、キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、アクリロニトリルが少なくとも用いられるが、キシリレンジアミン又はビス(アミノメチル)シクロヘキサンと、アクリロニトリルとの反応は発熱反応である。そのため、反応温度を一定に保つために、発熱により生じる温度上昇を制御することが好ましく、例えば、アクリロニトリルを一定の反応温度の範囲内で滴下して添加することによって温度上昇を制御することができる。アクリロニトリルの滴下に要する時間は特に限定されないが、反応温度が急激に上昇することがないように滴下することで、目的のシアノ化合物を簡便かつ高収率で得ることが可能となる傾向にある。
【0031】
第2工程は、第1工程で得られたシアノ化合物のニトリル基をアミノ基に還元する工程であり、例えば、不均一系接触水素化(水素添加)反応によって行うことができる。水素添加反応としては、特に限定されないが、遷移金属触媒の存在下で行う反応であることが好ましい。かかる触媒としては、スポンジニッケル、スポンジコバルト等のスポンジ金属触媒等や、コバルト、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等の触媒金属を炭素等の担体に担持した担持触媒が挙げられる。これらの中でも、反応時間の短縮及び反応選択性の観点から、スポンジニッケル触媒が好ましい。
【0032】
触媒の使用量は、通常は原料化合物の総量に対して10〜50質量%であることが好ましく、15〜45質量%であることがより好ましい。触媒の使用量を上記範囲とすることで、反応速度を好適な速度に制御することができ、かつ経済性にも優れる傾向にある。
【0033】
第2工程で使用される溶媒としては、反応選択性の観点から、イソプロパノール等のアルコール系溶媒やテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アンモニア系溶媒等が好ましく、アルコール系溶媒がより好ましく、イソプロパノールが更に好ましい。なお、第1工程で使用する溶媒が、第2工程でも使用できる溶媒である場合、第1工程で使用した溶媒を引き続き第2工程で使用することもできる。溶媒の使用量は、シアノ化合物の総質量に対して0〜200質量%であることが好ましく、50〜180質量%であることがより好ましく、80〜160質量%であることが更に好ましい。
【0034】
第2工程における反応温度は特に限定されないが、通常、30〜150℃であることが好ましく、40〜100℃であることがより好ましく、40〜80℃であることが更に好ましい。反応温度の下限を30℃以上とすることで、シアノ化合物の水素化反応速度を速めることができる傾向にある。反応温度の上限を150℃以下とすることで、好ましくない副反応を効果的に抑制できる傾向にある。なお、第2工程で用いる各成分の反応比率、触媒の種類や使用量等も考慮して、適宜に反応温度を選択することが好ましい。
【0035】
本実施形態のエポキシ樹脂硬化剤としては、式(1)で示されるアミノ化合物を単独で使用してもよいし、他のアミノ化合物と混合して使用してもよい。混合する他のアミノ化合物としては、脂肪族ポリアミン化合物(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等);芳香環を有する脂肪族ポリアミン化合物(例えば、キシリレンジアミン等);脂環式ポリアミン化合物(例えば、メンセンジアミン等);芳香族ポリアミン化合物(例えば、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等);その他ポリエーテル骨格のポリアミノ化合物(例えば、ノルボルナン骨格のポリアミノ化合物等)等が挙げられる。これらは変性せずに混合してもよいし、カルボキシル基を有する化合物との反応によるアミド変性、エポキシ化合物との付加反応によるアダクト変性、ホルムアルデヒドとフェノール類との反応によるマンニッヒ変性等の変性を行った後に混合してもよい。
【0036】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とを含むものである。本実施形態のエポキシ樹脂組成物に使用されるエポキシ樹脂は、本実施形態のエポキシ樹脂硬化剤のアミノ基由来の活性水素と反応して架橋することが可能なグリシジル基を持つエポキシ樹脂であり、飽和又は不飽和の脂肪族化合物や、脂環式化合物、芳香族化合物、あるいは複素環式化合物のいずれであってもよい。具体的には、ビスフェノールA型から誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールF型から誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つのエポキシ樹脂が挙げられる。この中でも、ビスフェノールA型から誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂が特に好ましい。
【0037】
さらに本実施形態のエポキシ樹脂組成物には、用途に応じて、充填剤、可塑剤等の改質成分、反応性又は非反応性の希釈剤、揺変性付与剤等の流動調整成分、顔料、粘着付与剤等の成分や、ハジキ防止剤、流展剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化促進剤等の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で用いることができる。
【0038】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対するエポキシ樹脂硬化剤の活性水素当量の比として、0.6〜1.2であることが好ましく、0.7〜1.0であることがより好ましい。活性水素当量の比が0.6以上であると、硬化物の架橋度を十分な程度とすることができる傾向にある。活性水素当量の比が1.2以下であると、親水性のアミノ基の導入を適切に抑制することができるため、耐水性が一層向上する傾向にある。
【0039】
エポキシ樹脂組成物は、特に船舶・橋梁・陸海上鉄構築物用防食塗料等の塗料分野、コンクリート構造物のライニング・補強・補修、建築物の床材、上下水道設備のライニング、舗装材、接着剤等の土木・建築分野、繊維強化複合材料用途等に広く利用されている。本実施形態のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物は、可撓性に優れ、脆性も低減できるので、良好な機械物性を有する成形体の提供を可能とする。特に、プリプレグ等の繊維強化複合材料分野等での要求特性は近年ますます厳しくなってきているが、本実施形態のエポキシ樹脂組成物を用いることにより、更なる機械的強度の向上や低弾性率化等の物性改良等も十分に期待できる。
【0040】
エポキシ樹脂組成物は、種々の用途に用いることができるが、その中でも、良好な塗膜外観を有するという観点から、塗料として好適に用いることができる。すなわち、本実施形態の塗料は、このエポキシ樹脂組成物を含む塗料である。塗料については、光沢や透明性といった、塗膜とした際の外観に優れることが特に望まれているが、本実施形態の塗料は、塗膜とした際にこのような外観にも優れている。
【0041】
また、エポキシ樹脂組成物は、良好な硬化物物性を有するという観点から、土木建築用部材として好適に用いることができる。すなわち、本実施形態の土木建築用部材は、このエポキシ樹脂組成物を含む土木建築用部材である。土木建築用部材については、機械的強度に優れることが特に望まれているが、本実施形態の土木建築用部材は、特に機械的強度にも優れている。
【0042】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、公知の方法で硬化させ、エポキシ樹脂硬化物(以下、「硬化物」ともいう。)とすることができる。硬化条件としては、本発明の効果を損なわない範囲で用途に応じて適宜選択され、特に限定されない。
【0043】
本実施形態のエポキシ樹脂複合材料(以下、「複合材料」ともいう。)は、上記硬化物と繊維とを含む。具体的には、エポキシ樹脂組成物と繊維基材からなり、繊維基材としては、ガラス、ボロン繊維織布等の無機質繊維の織布もしくは不織布、ポリエステル、アラミド等の有機質繊維の織布もしくは不織布等が挙げられる。そして、ストランド、織物、マット、ニット、ブレイド等の強化繊維基材を、樹脂注入に先立ち型内に配置する。強化繊維基材は、所望の形状に裁断、積層して、必要であればコア材等のその他の材料と共に直接型内に配置してもよい。さらには、裁断、積層後、ステッチや、少量の結着性樹脂を付与して加熱・加圧する方法等により、強化繊維基材を所望の形状に賦活したプリフォームを型内に配置してもよい。また、プリフォームには強化繊維基材と、コア材等の強化繊維基材以外の材料とを組み合わせたものを用いることもできる。
【実施例】
【0044】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例で採用した評価法は以下の通りである。
【0045】
<未反応アミン及び各付加物>
ガスクロマトグラフィー(以下、GC)を用いて分析した。
カラム:Agilent製 DB−1(長さ30m、内径0.53mm、Film厚1.5μm)
カラム温度:100℃/15分→(5℃/分)→150℃→(10℃/分)→280℃/15分
【0046】
<アミノ化合物の同定>
ガスクロマトグラフ/質量スペクトル(以下、GC/MS)を用いて同定した。
カラム:Agilent製 DB−1MS(長さ30m、内径0.25mm、Film厚0.25μm)
カラム温度:100℃/15分→(5℃/分)→150℃→(10℃/分)→280℃/15分
イオン源温度:200℃
インターフェイス温度:250℃
【0047】
<外観評価>
エポキシ樹脂組成物を、23℃、50%RHの条件下で、鋼板に200μmの厚みで塗装した。硬化7日後の塗膜外観(光沢、透明性)を目視で評価し、べたつき(乾燥性)は指触により評価した。
◎:優秀
○:良好
△:やや不良
×:不良
【0048】
<速硬化性、硬化発熱温度>
エポキシ樹脂組成物50gを100mLのポリプロピレン製カップに入れ、約1分間混合した後、直ちに白金熱電対で硬化発熱−時間曲線を測定した。この曲線の最高発熱温度までの時間により、速硬化性を評価した。
【0049】
<硬化物の機械物性評価>
エポキシ樹脂組成物を、23℃、50%RHの条件下で、7日間硬化させた後、80℃で1時間硬化させ、各試験片を作製した。具体的には以下のとおりに試験片を作製した。
2枚のアルミ板の間にエポキシ樹脂組成物を流し込み、上記条件で硬化させて1枚の板を作製した。その後、切削機で試験片の形に加工した。
引張強度:JIS K7161に準拠した。
曲げ弾性率:JIS K7171に準拠した。
【0050】
<合成例1>
(1)攪拌装置、温度計、アルゴン導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積100mLの丸底フラスコに、メタキシリレンジアミン(三菱瓦斯化学株式会社製、以下「MXDA」と記す。)9.5g、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)20.0gを仕込み、アルゴン気流下、十分に攪拌した後、アクリロニトリル(Aldrich製)7.4gを10分かけて滴下した。滴下終了後、65℃まで昇温させて1時間保持した後室温まで冷却した。
(2)管状縦型水素化反応器(ガラス製、内径10mmφ)に、コバルト含有量15質量%である水素化触媒(三つ葉型、直径1.2mmφ、ジョンソン・マッセイ・ジャパン製;HTC Co 2000)を7.0g充填し、水素気流下120℃で1時間保持した後、240℃まで昇温させて4時間以上保持し、還元、活性化させた。冷却後、攪拌機及びヒーターを備えたオートクレーブ(容量150mL、材質:SUS316L)に、2−プロパノール14.8g、上記触媒及び(1)の反応液を全量仕込み、気相部を水素置換した。水素で3.5MPaGに加圧後、攪拌しながら昇温を開始し、20分間で液温を80℃にした後、圧力を8.0MPaGに調整した。その後、液温80℃の条件下、圧力を8.0MPaGに保つように水素供給を随時行いながら反応を3時間継続させた。反応液を真空下で完全に濃縮し、濃縮物Aを17.2g得た。
濃縮物Aの粘度は53mPa・s/25℃であった。分子内にアミノプロピル基を2つ有する2付加物(下記式(i)に示すアミノ化合物)の含有量は濃縮物A全量に対し89質量%であった。分子内にアミノプロピル基を1つ有する1付加物(下記式(ii)に示すアミノ化合物)の含有量は濃縮物A全量に対し5質量%であった。
各々のアミノ化合物のGC/MSの同定データを以下に示す。
1付加物;MS(SCI)[M+H]194
2付加物;MS(SCI)[M+H]251
【0051】
【化1】
【0052】
【化2】
【0053】
<合成例2>
(1)攪拌装置、温度計、アルゴン導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積100mLの丸底フラスコに、MXDA9.5g、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)20.0gを仕込み、アルゴン気流下、十分に攪拌した後、アクリロニトリル(Aldrich製)3.7gを5分かけて滴下した。滴下終了後25℃で1時間保持した。
(2)管状縦型水素化反応器(ガラス製、内径10mmφ)に、コバルト含有量15質量%である水素化触媒(三つ葉型、直径1.2mmφ、ジョンソン・マッセイ・ジャパン製;HTC Co 2000)を5.3g充填し、水素気流下120℃で1時間保持した後、240℃まで昇温させて4時間以上保持し、還元、活性化させた。冷却後、攪拌機及びヒーターを備えたオートクレーブ(容量150mL、材質:SUS316L)に、2−プロパノール8.6g、上記触媒及び(1)の反応液を全量仕込み、気相部を水素置換した。水素で3.5MPaGに加圧後、攪拌しながら昇温を開始し、20分間で液温を80℃にした後、圧力を8.0MPaGに調整した。その後、液温80℃の条件下、圧力を8.0MPaGに保つように水素供給を随時行いながら反応を3時間継続させた。反応液を真空下で完全に濃縮し、濃縮物Bを13.2g得た。
濃縮物Bの粘度は37mPa・s/25℃であった。分子内にアミノプロピル基を2つ有する2付加物(上記式(i)に示すアミノ化合物)の含有量は濃縮物B全量に対し27質量%であった。分子内にアミノプロピル基を1つ有する1付加物(上記式(ii)に示すアミノ化合物)の含有量は濃縮物B全量に対し50質量%であった。また、メタキシリレンジアミンを濃縮物B全量に対し18質量%含んでいた。
各々のアミノ化合物のGC/MSの同定データを以下に示す。
MXDA;MS(SCI)[M−H]135
1付加物;MS(SCI)[M+H]194
2付加物;MS(SCI)[M+H]251
【0054】
<合成例3>
(1)攪拌装置、温度計、アルゴン導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積100mLの丸底フラスコに、MXDA14.3g、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)28.6gを仕込み、アルゴン気流下、十分に攪拌した後、アクリロニトリル(Aldrich製)11.1gを10分かけて滴下した。滴下終了後、65℃まで昇温させて1時間保持した後室温まで冷却した。
(2)攪拌機及びヒーターを備えたオートクレーブ(容量150mL、材質:SUS316L)に、スポンジニッケル触媒10.2g(ジョンソン・マッセイ・ジャパン製;A−4000)、(1)の反応液を全量仕込み、気相部を水素置換した。水素で3.5MPaGに加圧後、攪拌しながら昇温を開始し、20分間で液温を60℃にした後、圧力を8.0MPaGに調整した。その後、液温60℃の条件下、圧力を8.0MPaGに保つように水素供給を随時行いながら反応を3時間継続させた。反応液を真空下で完全に濃縮し、濃縮物Cを25.4g得た。
【0055】
<合成例4>
(1)攪拌装置、温度計、アルゴン導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積100mLの丸底フラスコに、MXDA14.3g、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)28.6gを仕込み、アルゴン気流下、十分に攪拌した後、アクリロニトリル(Aldrich製)5.6gを5分かけて滴下した。滴下終了後25℃で1時間保持した。
(2)攪拌機及びヒーターを備えたオートクレーブ(容量150mL、材質:SUS316L)に、スポンジニッケル触媒8.0g(ジョンソン・マッセイ・ジャパン製;A−4000)、(1)の反応液を全量仕込み、気相部を水素置換した。水素で3.5MPaGに加圧後、攪拌しながら昇温を開始し、20分間で液温を60℃にした後、圧力を8.0MPaGに調整した。その後、液温60℃の条件下、圧力を8.0MPaGに保つように水素供給を随時行いながら反応を3時間継続させた。反応液を真空下で完全に濃縮し、濃縮物Dを19.9g得た。
【0056】
各合成例で得られた濃縮物をそれぞれ硬化剤として用いて、エポキシ樹脂組成物を作製した(各実施例及び各比較例)。
【0057】
<実施例1>
200mLのポリプロピレン製カップに、合成例1で得られた濃縮物AとビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(商品名「エピコート828」、エポキシ当量186、三菱化学株式会社製、以下「エポキシ樹脂(エピコート828)」と記す。)を表1に示す割合で配合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。得られたエポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の外観、速硬化性、最高発熱温度及び機械物性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
<実施例2>
200mLのポリプロピレン製カップに、合成例2で得られた濃縮物Bとエポキシ樹脂(エピコート828)を表1に示す割合で配合した点以外は実施例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして、性能評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0059】
<比較例1>
200mLのポリプロピレン製カップに、MXDAとエポキシ樹脂(エピコート828)を表1に示す割合で配合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして、性能評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0060】
<比較例2>
200mLのポリプロピレン製カップに、エポキシ樹脂硬化剤(MXDAとアクリロニトリルの反応生成物、商品名「ガスカミン229(G−229)」、三菱瓦斯化学株式会社製)とエポキシ樹脂(エピコート828)を表1に示す割合で配合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。得られたエポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の外観、速硬化性、最高発熱温度を評価した。評価結果を表1に示す。
【0061】
<比較例3>
200mLのポリプロピレン製カップに、エポキシ樹脂硬化剤(MXDAとスチレンの反応生成物、商品名「ガスカミン240(G−240)」、三菱瓦斯化学株式会社製)とエポキシ樹脂(エピコート828)を表1に示す割合で配合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。そして、比較例2と同様にして、性能評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
<合成例5>
(1)攪拌装置、温度計、アルゴン導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積100mLの丸底フラスコに、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱瓦斯化学株式会社製、以下「1,3−BAC」と記す。)10.0g、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)20.0gを仕込み、アルゴン気流下、十分に攪拌した後、アクリロニトリル(Aldrich製)7.5gを10分かけて滴下した。滴下終了後、65℃まで昇温させて1時間保持した後室温まで冷却した。
(2)管状縦型水素化反応器(ガラス製、内径10mmφ)に、コバルト含有量15質量%である水素化触媒(三つ葉型、直径1.2mmφ、ジョンソン・マッセイ・ジャパン製;HTC Co 2000)を7.0g充填し、水素気流下120℃で1時間保持した後、240℃まで昇温させて4時間以上保持し、還元、活性化させた。冷却後、攪拌機及びヒーターを備えたオートクレーブ(容量150mL、材質:SUS316L)に、2−プロパノール14.8g、上記触媒及び(1)の反応液を全量仕込み、気相部を水素置換した。水素で3.5MPaGに加圧後、攪拌しながら昇温を開始し、20分間で液温を80℃にした後、圧力を8.0MPaGに調整した。その後、液温80℃の条件下、圧力を8.0MPaGに保つように水素供給を随時行いながら反応を3時間継続させた。反応液を真空下で完全に濃縮し、濃縮物Eを17.5g得た。
濃縮物Eの粘度は69mPa・s/25℃であった。分子内にアミノプロピル基を2つ有する2付加物(下記式(iii)に示すアミノ化合物)の含有量は濃縮物E全量に対し89質量%であった。分子内にアミノプロピル基を1つ有する1付加物(下記式(iv)に示すアミノ化合物)の含有量は濃縮物E全量に対し5質量%であった。
各々のアミノ化合物のGC/MSの同定データを以下に示す。
1付加物(立体異性体−1);MS(SCI)[M+H]200
1付加物(立体異性体−2);MS(SCI)[M+H]200
2付加物(立体異性体−1);MS(SCI)[M+H]257
2付加物(立体異性体−2);MS(SCI)[M+H]257
【0064】
【化3】
【0065】
【化4】
【0066】
<合成例6>
(1)攪拌装置、温度計、アルゴン導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積100mLの丸底フラスコに、1,3−BAC10.0g、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)20.0gを仕込み、アルゴン気流下、十分に攪拌した後、アクリロニトリル(Aldrich製)3.7gを5分かけて滴下した。滴下終了後25℃で1時間保持した。
(2)管状縦型水素化反応器(ガラス製、内径10mmφ)に、コバルト含有量15質量%である水素化触媒(三つ葉型、直径1.2mmφ、ジョンソン・マッセイ・ジャパン製;HTC Co 2000)を5.7g充填し、水素気流下120℃で1時間保持した後、240℃まで昇温させて4時間以上保持し、還元、活性化させた。冷却後、攪拌機及びヒーターを備えたオートクレーブ(容量150mL、材質:SUS316L)に、2−プロパノール8.6g、上記触媒及び(1)の反応液を全量仕込み、気相部を水素置換した。水素で3.5MPaGに加圧後、攪拌しながら昇温を開始し、20分間で液温を80℃にした後、圧力を8.0MPaGに調整した。その後、液温80℃の条件下、圧力を8.0MPaGに保つように水素供給を随時行いながら反応を3時間継続させた。反応液を真空下で完全に濃縮し、濃縮物Fを13.7g得た。
濃縮物Fの粘度は39mPa・s/25℃であった。分子内にアミノプロピル基を2つ有する2付加物(上記式(iii)に示すアミノ化合物)の含有量は濃縮物F全量に対し27質量%であった。分子内にアミノプロピル基を1つ有する1付加物(上記式(iv)に示すアミノ化合物)の含有量は濃縮物F全量に対し49質量%であった。また、1,3−BACを濃縮物F全量に対し19質量%含んでいた。
各々のアミノ化合物のGC/MSの同定データを以下に示す。
1,3−BAC(立体異性体−1);MS(SCI)[M+H]143
1,3−BAC(立体異性体−2);MS(SCI)[M+H]143
1付加物(立体異性体−1);MS(SCI)[M+H]200
1付加物(立体異性体−2);MS(SCI)[M+H]200
2付加物(立体異性体−1);MS(SCI)[M+H]257
2付加物(立体異性体−2);MS(SCI)[M+H]257
【0067】
<合成例7>
(1)攪拌装置、温度計、アルゴン導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積100mLの丸底フラスコに、1,3−BAC14.9g、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)29.8gを仕込み、アルゴン気流下、十分に攪拌した後、アクリロニトリル(Aldrich製)11.1gを10分かけて滴下した。滴下終了後、65℃まで昇温させて1時間保持した後室温まで冷却した。
(2)攪拌機及びヒーターを備えたオートクレーブ(容量150mL、材質:SUS316L)に、スポンジニッケル触媒10.4g(ジョンソン・マッセイ・ジャパン製;A−4000)、(1)の反応液を全量仕込み、気相部を水素置換した。水素で3.5MPaGに加圧後、攪拌しながら昇温を開始し、20分間で液温を60℃にした後、圧力を8.0MPaGに調整した。その後、液温60℃の条件下、圧力を8.0MPaGに保つように水素供給を随時行いながら反応を3時間継続させた。反応液を真空下で完全に濃縮し、濃縮物Gを26.0g得た。
【0068】
<合成例8>
(1)攪拌装置、温度計、アルゴン導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積100mLの丸底フラスコに、1,3−BAC14.9g、2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)29.8gを仕込み、アルゴン気流下、十分に攪拌した後、アクリロニトリル(Aldrich製)5.6gを5分かけて滴下した。滴下終了後25℃で1時間保持した。
(2)攪拌機及びヒーターを備えたオートクレーブ(容量150mL、材質:SUS316L)に、スポンジニッケル触媒8.2g(ジョンソン・マッセイ・ジャパン製;A−4000)、(1)の反応液を全量仕込み、気相部を水素置換した。水素で3.5MPaGに加圧後、攪拌しながら昇温を開始し、20分間で液温を60℃にした後、圧力を8.0MPaGに調整した。その後、液温60℃の条件下、圧力を8.0MPaGに保つように水素供給を随時行いながら反応を3時間継続させた。反応液を真空下で完全に濃縮し、濃縮物Hを20.5g得た。
【0069】
各合成例で得られた濃縮物をそれぞれ硬化剤として用いて、エポキシ樹脂組成物を作製した(各実施例及び各比較例)。
【0070】
<実施例3>
200mLのポリプロピレン製カップに、合成例5で得られた濃縮物Eとエポキシ樹脂(エピコート828)を表2に示す割合で配合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。得られたエポキシ樹脂組成物の硬化塗膜の外観、速硬化性、最高発熱温度及び機械物性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0071】
<実施例4>
200mLのポリプロピレン製カップに、合成例6で得られた濃縮物Fとエポキシ樹脂(エピコート828)を表2に示す割合で配合した点以外は実施例3と同様にして、エポキシ樹脂組成物を調製した。そして、実施例3と同様にして、性能評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0072】
<比較例4>
200mLのポリプロピレン製カップに、1,3−BACとエポキシ樹脂(エピコート828)を表2に示す割合で配合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。そして実施例3と同様にして、性能評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0073】
<比較例5>
200mLのポリプロピレン製カップに、イソホロンジアミン(IPDA)とエポキシ樹脂(エピコート828)を表2に示す割合で配合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。そして実施例3と同様にして、性能評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0074】
<比較例6>
200mLのポリプロピレン製カップに、ジエチレントリアミン(DETA;和光純薬工業株式会社製)とエポキシ樹脂(エピコート828)を表2に示す割合で配合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。そして、実施例3と同様にして、性能評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0075】
<比較例7>
200mLのポリプロピレン製カップに、トリエチレンテトラミン(TETA;東京化成工業株式会社製)とエポキシ樹脂(エピコート828)を表2に示す割合で配合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。そして、実施例3と同様にして、性能評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
以上より、各実施例のエポキシ樹脂硬化剤を用いることで、硬化時の発熱温度が抑制でき、かつ硬化速度が速いことが少なくとも確認された。さらには、これによって得られる硬化物の物性も優れていることが確認された。
【0078】
本出願は、2015年3月31日出願の日本国特許出願(特願2015−073533号及び特願2015−073541号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、大形や肉厚の成形品を過剰な発熱を伴わず、比較的低い温度で速硬化させることができる。また、得られたエポキシ樹脂硬化物も高い機械的物性や塗膜性能を有することから、熱硬化系樹脂硬化物として有用なものであり、工業的価値は高い。