【0022】
プロタミンの加水分解処理により得られる抗カンジダ活性を有するペプチドとしては、以下の(1)〜(6)に分類されるペプチドを挙げることができる。
(1)Ile Arg Arg Arg Arg Pro Arg Argで示される配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩。
(2)Ser Arg Arg Arg Arg Arg Arg Gly Gly Arg Arg Arg Argで示される配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩。
(3)Val Ser Arg Arg Arg Arg Arg Arg Gly Gly Arg Arg Arg Argで示される配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩。
(4)配列番号1のアミノ酸配列において1から6個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩。
(5)配列番号3のアミノ酸配列において1から4個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩。
(6)配列番号3の欠失配列が、Arg Arg Arg Arg Arg Arg Gly Gly Arg Arg Arg Arg(配列番号4)、Arg Arg Arg Arg Arg Gly Gly Arg Arg Arg Arg(配列番号5)、またはArg Arg Arg Arg Gly Gly Arg Arg Arg Arg(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩。
なお、異なる組成の抗カンジダ活性を有するプロタミン分解物(好ましくはプロタミン加水分解物)の2種以上を混合して用いることもできる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
《実施例1:菌糸形発育阻止活性の評価》
本実施例では、本発明の抗カンジダ活性組成物(口腔崩壊錠)のカンジダ菌(
Candida albicans;帝京大学医真菌研究センター保存のTIMM1768株)菌糸形発育阻止活性を評価した。
【0032】
本実施例で用いた抗カンジダ活性組成物(タブレットA、タブレットB)の組成を表1に示す。有効成分として、シナモンパウダー(エスビー食品株式会社)、低分子プロアントシアニジンオリゴノール(商品名:オリゴノール(登録商標)、株式会社アミノアップ社)、シロサケの白子由来のプロタミン塩酸塩(商品名:プロタミン、マルハニチロ株式会社)のブロメライン(株式会社天野エンザイム)による加水分解物(商品名:HAP100、マルハニチロ株式会社)を使用した。また、タブレットベース中の増粘安定剤として、プルラン(株式会社林原)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:メトセル F4M(登録商標)、ザ ダウ ケミカル コンパニー)を使用した。
また、比較例として、特許文献1、2に記載の菓子に相当する、市販のオーラルケアキャンディ2種類(商品名「すっきり健口習慣」(キャンディA)及び「UHAシタクリア」(キャンディB)、UHA味覚糖株式会社販売)を使用した。前記オーラルケアキャンディは、いずれも、有効成分としてシナモン、低分子プロアントシアニジン、及びメントールを含有する。
【0033】
【表1】
【0034】
各試料(タブレット又はハードキャンディ)は、1粒を半分に割り、薬包紙に包んでハンマーで粉状にしたものを天秤で量り取り(0.6g)、ウシ胎児血清(FCS)含有RPMI−1640培地5.4mLを加えて、よく懸濁し、30分間静置した後、再度よく懸濁し、その1mLに前記培地1mLを加えたものを、5%濃度試料とした。5%濃度試料を段階的に4倍希釈して、1.25%濃度、0.313%濃度、0.078%濃度の各試料を調製した。
【0035】
96穴平底プレートに10
3個/ウェルのカンジダ菌を植菌し、3時間の前培養を行った後、培地を除去し、各試料(200μL)を加え、通常の培養条件で1時間培養した。試料を除去し、培地で一回洗った後、培地(200μL)を入れ、37℃、5%CO
2条件下で16時間培養した。菌糸形発育については、鏡検後、アルコール固定して、プラスチック付着性の強い菌糸をクリスタルバイオレット(CV)で染色してその染色量から菌体量を求めた(Abe S, Satoh T, Tokuda Y, Tansho S, Yamaguchi H. A rapid colorimetric assay for determination of leukocyte-mediated inhibition of mycerial growth of
Candida albicans. Microbiol Immunol 1994; 38(5): 385-388.)。
【0036】
結果を
図1に示す。
カンジダ菌と各試料との接触が1時間である本試験系では、市販のオーラルケアキャンディ(キャンディA、キャンディB)は、いずれの濃度(最高濃度=5%)においても、菌糸形発育阻止活性が20%を超えなかった。
一方、本発明の抗カンジダ活性組成物(タブレットA、タブレットB)は、0.313%濃度、0.078%濃度においても、約20%の菌糸形発育阻止活性を示し、5%濃度では80%を超える菌糸形発育阻止活性を示した。
【0037】
比較例として使用した市販のオーラルケアキャンディは、特許文献1、2に記載の菓子と同じ有効成分(シナモン、低分子プロアントシアニジン、及びメントール)を含有しており、特許文献1、2に記載の菓子が約20時間のカンジダ菌との接触により高い発育阻止能を示した(特許文献1、2の実施例2)にもかかわらず、本試験系(1時間の接触)において前記オーラルケアキャンディの発育阻止能が低いことは、極めて意外な結果であった。
一方、本発明の抗カンジダ活性組成物は、口腔崩壊錠を想定した本試験系において高い菌糸形発育阻止活性を示し、プロタミン分解物とシナモンと低分子プロアントシアニジンとの組合せが、口腔崩壊錠の有効成分として、特許文献1、2に記載の組合せよりも有用であることを確認した。
【0038】
《実施例2:菌糸形発育阻止活性に対する増粘安定剤の影響(1)》
本実施例で用いた抗カンジダ活性組成物(参考例:タブレットa、タブレットb、実施例:タブレットC、タブレットD)の組成を表2、表3に示す。タブレットベース中の増粘安定剤として、キサンタン(商品名:モナートガムHP、DSP五協フード&ケミカル株式会社)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:メトセル F4M(登録商標)、ザ ダウ ケミカル コンパニー)を使用した。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
各試料(タブレット)は、1粒を半分に割り、薬包紙に包んでハンマーで粉状にしたものを天秤で量り取り(0.6g)、FCS含有RPMI−1640培地5.4mLを加えて、よく懸濁し、30分間静置した後、再度よく懸濁し、その1mLに前記培地1mLを加えたものを、5%濃度懸濁液試料とした。5%濃度試料を段階的に4倍希釈して、1.25%濃度、0.313%濃度、0.078%濃度の各試料を調製した。
【0042】
一方、同様に粉状にした各試料を天秤で量り取り(0.6g)、FCS含有RPMI−1640培地11.4mLを加えた後、15分おきに4回懸濁し、その後60分間静置した後、3500rpmで10分間遠心して得られた上清を、5%濃度上清試料とした。5%濃度試料を段階的に4倍希釈して、1.25%濃度、0.313%濃度、0.078%濃度の各試料を調製した。
【0043】
カンジダ菌菌糸形発育阻止活性の評価は、実施例1と同様にして実施した。結果を
図2及び表4に示す。
【0044】
タブレットa、タブレットb(参考例)は、本発明のタブレットC、タブレットDと全く同じ有効成分を含有しながら、菌糸形発育を抑制しないか、あるいは、低い発育阻止活性を示すにすぎなかった。
一方、本発明のタブレットC、タブレットDは、懸濁液、上清のいずれも、高い発育阻止活性を示したが、懸濁液の方が高い活性を示す傾向がみられた。
【0045】
【表4】
【0046】
《実施例3:菌糸形発育阻止活性に対する増粘安定剤の影響(2)》
本実施例で用いた抗カンジダ活性組成物(参考例:タブレットc、実施例:タブレットE、タブレットF、タブレットG、タブレットH)の組成を表5〜表7に示す。タブレットベース中の増粘安定剤として、キサンタン(商品名:モナートガムHP、DSP五協フード&ケミカル株式会社)、タラガム(ユニペクチン社)、ローカストビーンガム(カーギル社)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:メトセル K4M(登録商標)、ザ ダウ ケミカル コンパニー)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:メトセル F4M(登録商標)、ザ ダウ ケミカル コンパニー)を使用した。
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
各懸濁液試料の調製は、実施例1と同様にして行った。カンジダ菌菌糸形発育阻止活性の評価も、実施例1と同様にして実施した。結果を
図3に示す。
【0051】
増粘安定剤としてキサンタンを含有するタブレットc(参考例)は、菌糸形発育を抑制しないか、あるいは、20%未満の低い発育阻止活性を示すにすぎなかった。
一方、本発明のタブレットE(タラガム)、タブレットF(ローカストビーンガム)、タブレットG(メトセル K4M)、タブレットH(メトセル F4M)は、いずれも高い発育阻止活性を示した。
【0052】
《実施例4:
C. albicans以外のカンジダ菌に対する菌糸形発育阻止活性の評価》
本実施例では、本発明の抗カンジダ活性組成物(口腔崩壊錠)の
C. albicans以外のカンジダ菌(
C. parapsilosis、
C. krusei)菌糸形発育阻止活性を評価した。本実施例で用いた抗カンジダ活性組成物(タブレットJ)の組成を表8に示す。
【0053】
【表8】
【0054】
各試料(タブレット又はハードキャンディ)は、2粒を薬包紙に包んでハンマーで粉状にしたものを天秤で量り取り(2.6g)、FCS含有RPMI−1640培地3.9mLを加えた後、15分おきに4回懸濁し、その後60分間静置した後、3500rpmで10分間遠心して得られた上清を、40%濃度上清試料とした。
【0055】
10%ゼラチン溶液50μLでタンパク質コートした96穴平底プレートに、各種カンジダ菌の菌糸液(500個/ウェル)100μLと、所定濃度に調整した上清試料50μLとを入れ、37℃、5%CO
2条件下で16時間共培養を行った。例えば、前記の40%濃度上清試料50μLをそのまま96穴平底プレートに添加した場合の試料濃度は、10%である。
【0056】
顕微鏡(対物レンズ4×、接眼レンズ10×)で観察した16時間培養後の
C. parapsilosisの状態を
図4に、
C. kruseiの状態を
図5に示す。
C. kruseiは、抗真菌剤の1つであるフコナゾールに耐性があることが知られているが、本発明の抗カンジダ活性組成物は、これらに高い菌糸形発育阻止活性を示した。
【0057】
《参考例:プロタミン分解物・増粘安定剤吸着試験》
本参考例では、同じ有効成分であっても、増粘安定剤の違いにより、抗カンジダ活性が影響を受けることが判明したため、プロタミンと吸着しない増粘安定剤の探索を行った。
【0058】
プロタミン分解物(商品名:HAP100、マルハニチロ株式会社)の1,000ppm溶液30mLに対して、表9に示す各増粘安定剤238.1mgを添加し、加熱溶解後、室温で1時間振とうした。遠心分離(8,000×g、10分間)し、上清700μLを取り、そこにアセトニトリル700μLを加えよく撹拌した。遠心分離(3,000rpm、5分間)後の上清を0.45μmメンブレンフィルター(PTFE、ADVANTEC)でろ過し、HPLC分析に供した。
また、プロタミン分解物を蒸留水に溶解させ、検量線を作成し、増粘安定剤反応液上清中のプロタミン分解物含量を測定した。理論値との比からプロタミン分解物吸着率を計算した。
【0059】
なお、前記のHPLC分析の条件は、以下のとおりである:
カラム:TSKgel G3000 PWXL(ガードカラムTSKguardcolumn PWXL)
カラム温度:30℃
流速:0.8mL/分
検出:UV 220nm
溶出液:45%アセトニトリル水(0.1%TFA)
インジェクション:20μL
【0060】
結果を表9に示す。
酸性多糖類であるSUCCINOGLYCAN、キサンタン、ジェランガム、カラギーナンはプロタミン分解物と強い吸着が見られた。一方、中性多糖類である、ガラクトマンナン類(グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトセルK4M、メトセルF4M)でプロタミン分解物反応性が低いことが明らかになった。特に、タラガム、ローカストビーンガム、メトセルK4M、メトセルF4Mで吸着率が低かった。
以上のことから、酸性多糖類であるキサンタンが塩基性タンパク質であるプロタミン分解物と反応、吸着したため、キサンタンを配合した場合はプロタミン分解物の抗菌活性が低下したものと示唆された。従って、十分な抗菌性を発揮するためには、プロタミン分解物に配合する多糖類としては、中性多糖類が好ましいものと思われた。
【0061】
【表9】