(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886685
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】過熱水蒸気生成装置及び当該装置に用いられる導体管の製造方法
(51)【国際特許分類】
F22B 37/10 20060101AFI20210603BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20210603BHJP
F22B 37/04 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
F22B37/10 X
H05B6/10 311
F22B37/04
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-35507(P2017-35507)
(22)【出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-141582(P2018-141582A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110158
【氏名又は名称】トクデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】外村 徹
(72)【発明者】
【氏名】北野 孝次
(72)【発明者】
【氏名】藤本 泰広
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌義
(72)【発明者】
【氏名】玉置 幸男
【審査官】
西塚 祐斗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−122804(JP,A)
【文献】
特開平05−290960(JP,A)
【文献】
特開2012−163229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 37/10
F22B 37/04
H05B 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状に巻回された円管状の導体管を、当該導体管の巻回部分の内側又は外側に設けられた誘導コイルを有する磁束発生機構により誘導加熱し、前記導体管内を流れる水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成装置であって、
前記導体管の巻回部分において、互いに隣り合う隣接部の互いに対向する面が、周方向全体に亘って、導電性を有する接合要素によって接合されており、
前記接合要素は、前記互いに隣り合う隣接部により形成される凹部内に収まっており、前記磁束発生機構の誘導コイルと前記接合要素との距離が、前記磁束発生機構の誘導コイルと前記導体管との距離よりも大きく、
前記接合要素の厚さは、前記導体管の管厚以上である過熱水蒸気生成装置。
【請求項2】
前記接合要素は、溶接接合により形成されたものである、請求項1記載の過熱水蒸気生成装置。
【請求項3】
前記接合要素の材質が、前記導体管の材質と同一である、請求項1又は2記載の過熱水蒸気生成装置。
【請求項4】
前記磁束発生機構は、前記導体管の巻回部分の内側及び外側の両方に設けられており、
前記接合要素は、前記巻回部分の外面側に設けられている、請求項1乃至3の何れか一項に記載の過熱水蒸気生成装置。
【請求項5】
過熱水蒸気生成装置に用いられるものであって、誘導コイルを有する磁束発生機構によって誘導加熱されることにより内部を流れる水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成するための導体管の製造方法であり、
螺旋状に巻回された円管状の導体管の巻回部分の全体において、互いに隣り合う隣接部の互いに対向する面を接合要素によって溶接接合するとともに、
前記接合要素は、前記互いに隣り合う隣接部により形成される凹部内に収まっており、前記磁束発生機構の誘導コイルと前記接合要素との距離を、前記磁束発生機構の誘導コイルと前記導体管との距離よりも大きくし、
前記接合要素の厚さは、前記導体管の管厚以上とする、過熱水蒸気生成装置に用いられる導体管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、螺旋状に巻回した導体管を誘導加熱することによって当該導体管内を流れる水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の流体加熱装置では、特許文献1に示すように、二次コイルを形成する螺旋状に巻回した導体管において、巻回部分の互いに隣接する導体管同士を短絡させて短絡回路を構成して、電気的リアクタンスを低減させて加熱効率を向上させたものが知られている。
【0003】
ここで、上記の短絡回路は、巻回部分の周方向の一部に螺旋の軸方向に延びる電気接続部材を溶接等により接続することにより、或いは、巻回部分の互いに隣接する導体管同士を部分的に溶接接合することにより構成されている。
【0004】
しかしながら、接合部である電気接続部材や溶接部分には、短絡電流が集中するために高温になったり、導体管の巻回部分の熱膨張による変形によって応力が発生したりして、接合部や導体管が破損するおそれが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−71624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、導体管に短絡回路を構成して電気的リアクタンスを低減させつつ、接合部及び導体管における破損の可能性を小さくすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る過熱水蒸気生成装置は、螺旋状に巻回された円管状の導体管を、当該導体管の巻回部分の内側又は外側に設けられた磁束発生機構により誘導加熱し、前記導体管内を流れる水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成装置であって、前記導体管の巻回部分において、互いに隣り合う隣接部の互いに対向する面が、周方向略全体に亘って、導電性を有する接合要素によって接合されており、前記接合要素の厚さは、前記導体管の管厚以上であることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、導体管の巻回部分において互いに隣り合う隣接部が、周方向略全体に亘って接合要素により接合(全周接合)されているので、部分的に接合した場合の熱膨張による接合部への応力集中を避けることができ、接合部及び導体管における破損の可能性を小さくすることができる。また、導体管は円管状をなすものであり、互いに隣り合う隣接部の間には凹部が形成されるため、当該凹部に接合要素を設けることにより、接合要素と導体管の外側周面との接触面積を増やすことができる。この構成によっても、接合部への応力集中をさせることができる。
【0009】
ここで、磁束発生機構の誘導コイルからの導体管と接合要素との距離が同じであれば、接合要素の厚さは、導体管の管厚と同じ値であることが理想的である。
しかし、導体管は円管状をなすものであり、互いに隣り合う隣接部の間に接合要素を設ける構成では、誘導コイルからの接合要素の距離は、導体管に比べて大きくなる。誘導コイルからの距離が大きいと磁気結合が弱まり、誘導起電圧が低くなるため、この部分の発熱量は低下する。
このように導体管と接合要素とに温度差が発生すると、熱伸び差により機械応力がかかり、割れ等の破損原因となるため、できる限り発熱量の均一化を図ることが重要である。
接合要素の厚さを導体管の管厚以上にすることで、接合要素の抵抗値を低下させることができ、電流が増加することで接合要素の発熱量を増加させることができる。その結果、導体管と接合要素との発熱量の均一化を図ることができる。
【0010】
前記接合要素としては、溶接接合により形成されたものであることが考えられる。溶接接合の場合には、互いに隣り合う隣接部の間の凹部に溶融金属材料を盛り易い構造のため、その溶接作業を容易にすることができる。
【0011】
厚さの大小による調整によって発熱量の均一化しやすくするためには、前記溶接要素の材質の比抵抗が、前記導体管の材質の比抵抗と略同一であることが望ましい。
【0012】
導体管の巻回部分への全周接合の作業性を考慮した場合には、前記接合要素は、前記巻回部分の外面側に設けられていることが望ましい。また、電磁誘導の磁気結合を良くするためには、前記磁束発生機構は、前記導体管の巻回部分の内側及び外側の両方に設けられていることが望ましい。
【0013】
前記接合要素は、前記互いに隣り合う隣接部により形成される凹部内に収まっていることが望ましい。この構成であれば、導体管の巻回部分の外側又は内側に配置される磁束発生機構の径方向のサイズが大きくなってしまうことを防ぐことができる。
【0014】
また、本発明に係る導体管の製造方法は、過熱水蒸気生成装置に用いられるものであって、誘導加熱されることにより内部を流れる水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成するための導体管の製造方法であり、螺旋状に巻回された円管状の導体管の巻回部分の略全体において、互いに隣り合う隣接部の互いに対向する面を溶接接合するとともに、前記溶接接合の肉盛厚は、前記導体管の管厚以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、導体管の巻回部分において互いに隣り合う隣接部が、周方向全体に亘って接合要素により接合されているので、導体管に短絡回路を構成して電気的リアクタンスを低減させつつ、接合部及び導体管における破損の可能性を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の過熱水蒸気生成装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】同実施形態の導体管の巻回部分を示す部分拡大断面図である。
【
図3】同実施形態の導体管の外面側の溶接部位を示す模式図である。
【
図4】同実施形態の導体管及び誘導コイルの位置関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明に係る過熱水蒸気生成装置100の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
この過熱水蒸気生成装置100は、
図1に示すように、水又は水蒸気を加熱して100℃超(200℃〜2000℃)の過熱蒸気を生成するものであり、螺旋状に巻回された円管状の導体管2と、当該導体管2を誘導加熱するための磁束発生機構3とを有している。
【0019】
導体管2は、1本の金属製の管から形成され、螺旋状に巻回された巻回部分2xを有するものであり、一方の端部には、水又は水蒸気が導入される導入ポートP1が形成され、他方の端部には、生成された過熱水蒸気を導出する導出ポートP2が形成されている。導入ポートP1には、水又は水蒸気を導体管2に供給するための外部配管が接続され、導出ポートP2には、生成された過熱水蒸気を利用側(例えば熱処理室)に供給するための外部配管が接続される。
【0020】
磁束発生機構3は、鉄心31と、当該鉄心31に沿って巻回された誘導コイル32とを備えている。この誘導コイル32には、図示しない交流電源が接続されており、制御された電力が供給されるものである。交流電源により電力が供給される誘導コイル31が一次コイルとなり、当該一次コイルにより給電された結果、導体管2に誘導電流が流れて、導体管2が二次コイルとなる。
【0021】
本実施形態の誘導コイル32は、導体管2の巻回部分2xと同軸上に配置されており、巻回部分2xの内側に配置された内側誘導コイル32aと、巻回部分の外側に配置された外側誘導コイル32bとを有する。このように巻回部分2xの内外両方に誘導コイル32a、32bを配置することによって、電磁誘導の磁気結合を良くして、導体管2に誘導電流が流れやすくなり、水蒸気の加熱効率(過熱水蒸気の生成効率)を向上させることができる。
【0022】
そして、本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、導体管2の巻回部分2xにおいて、互いに隣り合う隣接部20の互いに対向する面が、周方向略全体に亘って、導電性を有する接合要素4によって接合されている。つまり、接合要素4は、導体管2の巻回部分2の螺旋全周に亘って設けられている。
【0023】
具体的に接合要素4は、溶接接合により形成されたもの(以下、接合溶接部ともいう。)である。つまり、導体管2の巻回部分2xにおいて、互いに隣り合う隣接部20の互いに対向する面は、螺旋全体に亘って全周接合されている(
図2参照)。また、接合要素4の材質の比抵抗と導体管2の材質の比抵抗とは略同一としてある。ここで、接合要素4の材質と導体管2の材質とは同じであることが望ましい。これにより、比抵抗を同一にできるだけでなく、熱膨張率も同一であり温度上昇時に発生する熱応力を低減することができる。また、溶接接合は、一定の送り速度でトーチと溶接部位との距離を一定に保つことが重要であることから、自動溶接機を用いて行うことが望ましい。なお、導体管2の隣接部20の間には最初から開先が存在するので、開先加工の必要はない。
【0024】
さらに、
図3に示すように、接合要素4の厚さは、導体管2の管厚以上である。つまり、接合要素4である溶接接合による肉盛厚さが、導体管2の管厚以上である。接合要素4は、互いに隣り合う隣接部20により形成される凹部20M内に収まっている。より具体的に接合要素4は、互いに隣り合う隣接部20の接触箇所20c又はその近傍から、凹部20M内に収まる範囲において所定厚さで形成されている。つまり、螺旋の軸方向(巻回部分2xの中心軸方向)に直交する方向において、導体管2の外端部分が、接合要素4の外端部分よりも外側に位置するように構成されている。
【0025】
図3等では、接合要素4は、導体管2の巻回部分2の内面側及び外面側の両方に設けられているが、導体管2の巻回部分2xへの全周接合の作業性を考慮した場合には、接合要素4は、巻回部分2xの外面側のみに設けられていることが望ましい。
【0026】
図4に示すように、巻回部分2xの隣接部20における接触箇所と肉盛り部(接合溶接部4)との間には、作業上少しの隙間ができる場合があるが、その隙間寸法をΔとすると、0<Δ<数mm程度となる。例えば、1時間に1200℃で240kgの過熱水蒸気を発生させるための導体管2は、直径が48.3mm、管厚は3.7mmである。この導体管2の巻回部分2xを全周溶接して、肉盛厚さを5mmとした場合に、Δは約2.5mmとなった。
【0027】
水蒸気を通流させる程の寸法である導体管2であれば、管厚と肉盛厚さとが等しい場合、磁束発生機構3の誘導コイル32からの距離は接合溶接部4の方が大きくなる。導体管2の肉厚をt、接合溶接部4の肉盛厚さをTとすれば、T>tとすることで接合溶接部4の電流を増加させて発熱量を増加させることができる。
【0028】
T=tのときに、導体管2の誘起電圧が、接合溶接部4よりも高くなる場合を〇印として以下の表に示す。
【0030】
発熱量は誘起電圧だけでなく、導体管2及び接合溶接部4の抵抗値にも関係する。すなわち、抵抗値が低ければ大きな電流が流れることで発熱量は増加する。
【0031】
誘起電圧が発生する接合溶接部4の周長が、導体管2の巻回部分2xよりも長くなる場合を「〇」、短くなる場合を「×」としてまとめた表を以下に示す。
【0033】
表2の「〇」の位置における肉盛厚さTの最大値は、導体管2の直径をΦとした場合に、(T+Δ)<Φ/2の範囲となる。
【0034】
<本実施形態の効果>
このように構成した過熱水蒸気生成装置100によれば、導体管2の巻回部分2xにおいて互いに隣り合う隣接部20が、周方向略全体に亘って接合要素4により接合(全周接合)されているので、部分的に接合した場合の熱膨張による接合部への応力集中を避けることができ、接合部及び導体管における破損の可能性を小さくすることができる。また、導体管2は円管状をなすものであり、互いに隣り合う隣接部20の間には凹部20Mが形成されるため、当該凹部20Mに接合要素4を設けることにより、接合要素4と導体管2の外側周面との接触面積を増やすことができる。この構成によっても、接合部への応力集中をさせることができる。
【0035】
接合要素4の厚さTを導体管2の管厚t以上にしているので、接合要素4の抵抗値を低下させることができ、電流が増加することで発熱量を増加させることができる。
【0036】
また、接合要素4は、溶接接合により形成されたものであるので、互いに隣り合う隣接部20の間の凹部20Mに溶融金属材料を盛り易い構造のため、その溶接作業を容易にすることができる。
【0037】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記各実施形態に限られるものではない。
【0038】
例えば、前記実施形態では、接合要素4が接合溶接により形成されたものであったが、ロー付けにより形成されたものであっても良い。また、導体管とは別に設けられた接続用部材を巻回部分の隣接部に沿って巻き付けて当該接続用部材を導体管2に溶接又はロー付け等により接続することによって、前記接続用部材を接合要素4としても良い。
【0039】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0040】
100・・・過熱水蒸気生成装置
2 ・・・導体管
20 ・・・隣接部
20M・・・凹部
3 ・・・磁束発生機構
4 ・・・接合要素
t ・・・管厚
T ・・・肉盛厚さ