【実施例】
【0110】
[1]目視評価値の取得
<顔画像の取得>
20歳代から60歳代の各年齢層につき56人ずつ、合計280人の評価対象について、ステレオカメラを用いて撮影した顔のステレオ画像より、評価対象の顔の3次元モデルを作成した。なお、ここで、髪や耳、首などの部分は除去し、評価対象の顔面のみを表す3次元モデルとした。
【0111】
そして、3次元モデルを回転し、日常生活において他人の顔を見る際に頻出する6つの角度を設定して、顔画像を作成した。
図5に、(a)〜(g)の7つの顔画像を例示する。
【0112】
図5(a)は、評価対象の顔を真正面より見た場合の顔画像である。この状態の3次元モデルに対して、それぞれ異なる回転処理を行い、
図5(b)〜(g)の角度付きの顔画像を取得した。
図5(b)は、垂直方向に回転軸をとって3次元モデルを回転して取得したものであり、評価対象の顔を右45度の角度から見た場合の顔画像である。
図5(c)は、水平方向に回転軸をとって3次元モデルを回転して取得したものであり、評価対象の顔を正面上側から見下ろした場合の顔画像である。
図5(d)は、水平方向に回転軸をとって3次元モデルを回転して取得したものであり、対象の顔を正面下側から見上げた場合の顔画像である。
図5(e)は、
図5(b)と
図5(d)の両方の回転を3次元モデルに加えたものであり、評価対象の顔を右斜め下方より見上げた顔画像である。
図5(f)は、
図5(b)と
図5(c)の両方の回転を3次元モデルに加えたものであり、評価対象の顔を右斜め上方より見下ろした顔画像である。そして、
図5(g)は、垂直方向に回転軸をとって3次元モデルを回転して取得したものであり、評価対象の顔を右90度の角度から見た場合の顔画像である。
【0113】
<目視評価値の取得>
上記の通り3次元モデルより取得した評価対象の顔画像を、モニターを用いて112人の評価者へと提示し、顔の見た目の年齢印象の目視評価値の取得を行った。評価者への顔画像の提示の際には、視線解析装置を用いて、評価者の視線が顔画像のどの領域に何回、何秒間滞留するかの解析を行った。
図6に、評価者への顔画像の提示方法の模式図を示す。
【0114】
まず、モニターに
図6(a)に示すように、この後に2つの画像を表示することと、そして、それらを見てどちらの画像の方が年齢が高く見えるかの回答を求める指示とを提示した。
【0115】
次いで、
図6(b)に示すように、画面中央へ固視点とする記号を表示し、評価者へとそれを見るように促した後、
図6(c)に示すように、
図5(a)のような評価対象の顔を真正面から見た場合の顔画像を提示した。このように固視点を表示した後に顔画像を表示することで、それぞれの顔画像を提示する際の評価者の視線の初期位置を同一として、評価者の視線解析をより正確に行うことができる。
【0116】
一定時間経過後に、
図6(d)に示すように、再度
図6(b)と同様の固視点を表示した後、
図6(e)に示すように、
図5(b)〜(g)のような正面以外から評価対象の顔を見た場合の顔画像のうちの1つを表示した。そして、
図6(c)で表示した正面からの顔画像と、
図6(e)で表示した角度付きの顔画像との、どちらの方が評価対象の年齢が高く見えたかの回答を得た。
【0117】
図7に、各評価対象の顔画像に対して、112人の評価者より取得した目視評価値の集計結果を示す。これは、
図5(b)〜(g)のそれぞれの角度付きの顔画像について、真正面から見た顔画像よりも老けて見えると回答された割合を示したものである。すなわち、縦軸が、評価者が受けた年齢印象を表す指数となっており、この値が大きければ、その角度から見た顔画像の年齢印象は正面の顔よりも高く、値が小さければ、その角度から見た顔画像の年齢印象は正面の顔よりも低いといえる。
【0118】
この集計結果によれば、正面の顔の印象に比べ年齢印象が低かったのは、
図5(d)のような、評価対象の顔を下方より見た場合の顔画像であった。
【0119】
この結果より、
図5(b)、(d)、(e)、(f)、(g)のような角度のついた顔画像は、真正面からの顔画像と異なる物理的特徴量を有し、それが評価者の感じる年齢印象へと影響を及ぼしていること、すなわち、角度依存的に変化する物理的特徴量の中に、見た目の年齢印象の決定因子となっているものが存在することが推察される。
【0120】
[2]印象決定部位の抽出
ここでは、先に説明したように、
図5に示した、正面(a)、右45度(b)、上側(c)、下側(d)、右下(e)、右上(f)、右90度(g)の7つの角度から評価対象の顔を見た場合のそれぞれの顔画像を提示した際に、視線解析装置によって取得した評価者の視線情報の解析を行った。
【0121】
図8は、視線解析結果の集計のために、
図5に示した7つの角度からの顔画像のそれぞれについて設定した、目元の領域L1、鼻の領域L2、口元の領域L3、目の周囲の領域L4、頬の領域L5、額の領域L6の6つの領域を示す図である。
【0122】
これらのL1〜L6の各領域への評価者の視線の停留時間の測定を行い、集計した結果を
図9に示す。これを見ると、
図5(a)に示した正面からの顔画像については、評価者の視線は目元の領域L1への視線の停留時間が長いのに対し、その他の角度からの顔画像については、頬の領域L5への視線の停留時間が長い、という結果が得られた。
【0123】
この結果から、評価対象の顔を正面以外の角度から見る場合において、頬部位が年齢印象の判断に重要な領域であることが示唆された。
【0124】
[3]物理的特徴量の測定
先に説明したように、
図5(a)〜(g)に示したような7角度の顔画像についての年齢印象の目視評価値を取得した、20歳代から60歳代の各年齢層につき56人ずつ、合計280人の評価対象について、顔の立体形状を表す3次元モデルを作成した。そして、物理的特徴量の測定処理として、年齢層毎に相同モデリングと主成分分析を行い、観察角度毎の年齢印象の目視評価値と主成分分析によって得られた主成分得点との相関関係を解析した。
【0125】
図10に、60歳代の評価対象について、主成分分析によって得られた第9主成分と、
図5(a)〜(g)の各角度から見た場合の年齢印象の目視評価値との関係を示す。
図10(a)に、年齢印象の目視評価値と、第9主成分との相関係数を示す。
【0126】
図10(b)は、縦軸を正面(
図5(a))から顔を見た場合の年齢印象の目視評価値、横軸を第9主成分の主成分得点として、目視評価値と主成分得点との関係を示す図である。これを見ると、正面から見た場合の年齢印象の目視評価値と第9主成分との相関は弱いと言える。
図10(a)に示す相関係数も0.179と低い値となっている。また、
図10(c)は、第9主成分の主成分得点が低い場合の顔の3次元モデルを、
図10(d)は、第9主成分の主成分得点が高い場合の顔の3次元モデルを正面から見た場合の画像をそれぞれ示している。
【0127】
図10(e)は、縦軸を右45度の角度(
図5(b)から顔を見た場合の年齢印象の目視評価値、横軸を第9主成分の主成分得点として、目視評価値と主成分得点との関係を示す図である。これを見ると、第9主成分の主成分得点が高い場合に、目視評価値が低くなっている傾向が読み取れる。
図10(a)に示す相関係数も、−0.490と、正面から見た場合よりも大きな絶対値を持っている。
図10(f)は、第9主成分の主成分得点が低い場合の顔の3次元モデルを、
図10(g)は、第9主成分の主成分得点が高い場合の顔の3次元モデルを右45度の角度から見た場合の画像をそれぞれ示している。
図10(c)、(d)に示した正面から見た場合と比較すると、主成分得点が低い場合には頬の起伏の激しさが、主成分得点が高い場合には、頬が張った印象が、より強く感じられるものとなっている。
【0128】
これより、60歳代の評価対象について、顔の三次元モデルを右45度の角度から観察した場合、あるいは、顔を右45の角度から撮影した顔画像の解析を行い、頬の起伏に関する値を抽出することで、年齢印象の鑑別を行うことができるものと考えられる。
【0129】
図10(h)は、縦軸を下側(
図5(d))から顔を見た場合の年齢印象の目視評価値、横軸を第9主成分の主成分得点として、目視評価値と主成分得点との関係を示す図である。これを見ると、上記の右45度の角度から見た場合と同様、第9主成分の主成分得点が高い場合に、目視評価値が低くなっている傾向が読み取れる。
図10(a)に示す相関係数も、−0.288と、正面から見た場合よりも大きな絶対値を持っている。
図10(i)は、第9主成分の主成分得点が低い場合の顔の3次元モデルを、
図10(j)は、第9主成分の主成分得点が高い場合の顔の3次元モデルを下側から見た場合の画像をそれぞれ示している。
図10(c)、(d)に示した正面から見た場合と比較すると、
図10(f)、(g)と同様、主成分得点が低い場合には頬の起伏の激しさが、主成分得点が高い場合には、頬が張った印象が、より強く感じられるものとなっている。
【0130】
これより、60歳代の評価対象について、顔の三次元モデルを下側から観察した場合、あるいは、顔を下側から撮影した顔画像の解析を行い、頬の起伏に関する値を抽出することが、年齢印象の鑑別に有効であると考えられる。
【0131】
上記のように、60歳代の評価対象について、顔を正面から観察した場合には得られず、右45度の角度や下側などから観察した場合に得られる、年齢印象の決定因子が存在することが考察できる。
【0132】
図10に示した60歳代の場合と同様に、各年齢層について、年齢印象の目視評価値との間に相関関係が見られた主成分と、それに伴う顔の見た目について、以下に示す。
【0133】
図11(a)は、20歳代の評価対象の第8主成分得点と、
図5(f)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように20歳代の評価対象については、第8主成分得点が高いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第8主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図11(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図11(c)に示す。これらを見ると、主成分得点が高い場合に、眉骨、頬骨の大きさが大きく、頬がこけて見える様子が見受けられる。
【0134】
図12(a)は、20歳代の評価対象の第6主成分得点と、
図5(c)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように20歳代の評価対象については、第6主成分得点が高いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第6主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図12(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図12(c)に示す。これらを見ると、主成分得点が高い場合に、顔のほりが深く、鼻、口が前方へ突出して見える様子が見受けられる。
【0135】
図13(a)は、20歳代の評価対象の第9主成分得点と、
図5(e)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように20歳代の評価対象については、第9主成分得点が低いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第9主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図16(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図16(c)に示す。これらを見ると、主成分得点が低い場合には、鼻よりも口が前方へ突出して、主成分得点が高い場合には、口よりも鼻が前方へ突出して見える様子が見受けられる。
【0136】
図14(a)は、20歳代の評価対象の第3主成分得点と、
図5(d)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように20歳代の評価対象については、第3主成分得点が低いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第3主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図14(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図14(c)に示す。これらを見ると、主成分得点が低い場合には、顎の位置が口よりも後方に、主成分得点が高い場合には、顎の位置が口よりも前方に位置して見える様子が見受けられる。
【0137】
図15(a)は、20歳代の評価対象の第10主成分得点と、
図5(b)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように20歳代の評価対象については、第10主成分得点が高いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第10主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図15(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図15(c)に示す。これらを見ると、主成分得点が低い場合は、鼻は低く顎は大きく、主成分得点が高い場合には、鼻は高く顎は小さく見える様子が見受けられる。
【0138】
以上より、20歳代の評価対象について、顔を右上から観察した場合の頬のこけの様子、顔を上から観察した場合の顔のほりの深さ、顔を右下から観察した場合の口と鼻の前後の位置関係、顔を下から観察した場合の顎と口の前後の位置関係などの解析を行うことにより、年齢印象の鑑別ができる可能性が示唆された。
【0139】
図16(a)は、30歳代の評価対象の第1主成分得点と、
図5(b)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように30歳代の評価対象については、第1主成分得点が高いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第1主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図16(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図16(c)に示す。これらを見ると、主成分得点が低い場合よりも高い場合の方が、顔の大きさが大きく見える様子が見受けられる。
【0140】
図17(a)は、30歳代の評価対象の第4主成分得点と、
図5(b)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように30歳代の評価対象については、第4主成分得点が低いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第4主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図17(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図17(c)に示す。これらを見ると、主成分得点の大小により、顎の大きさの差異が大きく見える様子が見受けられる。
【0141】
図18(a)は、30歳代の評価対象の第1主成分得点と、
図5(c)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように30歳代の評価対象については、第1主成分得点が高いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第1主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図18(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図18(c)に示す。これらを見ると、主成分得点が低い場合よりも高い場合の方が、顔の大きさが大きく見える様子が見受けられる。
【0142】
図19(a)は、30歳代の評価対象の第9主成分得点と、
図5(d)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように30歳代の評価対象については、第9主成分得点が低いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第9主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図19(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図19(c)に示す。これらを見ると、主成分得点の大小により、頬の形状に特に大きな差異が現れる様子が見受けられる。
【0143】
以上より、30歳代の評価対象について、顔を右45度の角度から観察した場合の顔の大きさ、同じく顔を右45度の角度から観察した場合の顎の大きさ、顔を上側から観察した場合の顔の大きさ、顔を下側から観察した場合の頬の形状などの解析を行うことにより、年齢印象の鑑別ができる可能性が示唆された。
【0144】
図20(a)は、40歳代の評価対象の第5主成分得点と、
図5(e)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように40歳代の評価対象については、第5主成分得点が低いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第5主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図20(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図20(c)に示す。これらを見ると、主成分得点が高い場合に、顔が長く見える様子が見受けられる。
【0145】
図21(a)は、40歳代の評価対象の第2主成分得点と、
図5(c)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように40歳代の評価対象については、第2主成分得点が低いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第2主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図21(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図21(c)に示す。これらを見ると、主成分得点が高い場合に、顔のほりが深く見える様子が見受けられる。
【0146】
以上より、40歳代の評価対象について、顔を右下から観察した場合の顔の長さ、顔を上側から観察した場合の顔のほりの深さなどの解析を行うことにより、年齢印象の鑑別をできる可能性が示唆された。
【0147】
図22(a)は、50歳代の評価対象の第4主成分得点と、
図5(d)に示した角度からの年齢印象の目視評価値との対応を示すグラフである。ここに示すように50歳代の評価対象については、第4主成分得点が高いほど、推定年齢が高くなるという結果が得られた。また、第4主成分得点の平均から−3SD方向へ変形させた場合の顔を
図22(b)に、+3SD方向へ変形させた場合の顔を
図22(c)に示す。これらを見ると、主成分得点が低い場合には、顎の位置が口よりも前方に、主成分得点が高い場合には、顎の位置が口よりも後方に位置して見える様子が見受けられる。
【0148】
これより、50歳代の評価対象について、顔を下側から観察した場合の顎の位置などの解析を行うことにより、年齢印象の鑑別ができる可能性が示唆された。
【0149】
なお、本実施例においては、左右方向については、
図5に示した右45度(b)、右下(e)、右上(f)、右90度(g)のように、右側から顔を観察した場合の顔画像を用いたが、左側から顔を観察した場合においても同様の結果が得られるものと考えられる。したがって、本発明に係る年齢印象の鑑別は、左右方向についてはどちら側から顔を観察した場合の顔画像を用いても、同様に行うことができる。
【0150】
このように、同一の立体形状を持つ顔であっても、それを見る角度によって年齢印象の目視評価値は異なり、そして特定の角度から見た場合に年齢印象との相関関係を示す因子の存在が示唆された。このような因子を用いることで、年齢層毎の、また、顔を観察する角度毎の、詳細な年齢印象の鑑別を行うことができると考えられる。