特許第6886799号(P6886799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社竹中工務店の特許一覧

<>
  • 特許6886799-床スラブ構造 図000002
  • 特許6886799-床スラブ構造 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886799
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】床スラブ構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/48 20060101AFI20210603BHJP
   E04B 5/43 20060101ALI20210603BHJP
   E04H 1/04 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   E04B5/48 B
   E04B5/43 Z
   E04H1/04 C
   E04H1/04 F
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-210981(P2016-210981)
(22)【出願日】2016年10月27日
(65)【公開番号】特開2018-71160(P2018-71160A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】中川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】立本 良
(72)【発明者】
【氏名】織井 史郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】大知 啓介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸顕
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊司
(72)【発明者】
【氏名】待永 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】植田 健二
【審査官】 兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−097342(JP,A)
【文献】 特開2002−285722(JP,A)
【文献】 特開2006−009249(JP,A)
【文献】 特開2002−303053(JP,A)
【文献】 特開2003−129602(JP,A)
【文献】 特開2010−285797(JP,A)
【文献】 特開2000−291197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/43,5/48
E04H 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の居住空間と共用廊下とが水平方向に沿って隣接する状態で並び、前記居住空間に対して前記共用廊下が存在する側を共用廊下側とし、その反対側を奥側として、
各居住空間の居住床スラブ上面が、各居住空間の前記奥側から前記共用廊下側に向けて排水勾配を有するように傾斜し、前記居住床スラブ上に前記居住床スラブの上面に沿って配設される排水経路を備えている床スラブ構造であって、
前記共用廊下の廊下床スラブが、前記居住床スラブの共用廊下側端部より上方に位置するように段差部を設けて構築され、前記居住床スラブの上面に沿って配設される前記排水経路が、前記廊下床スラブの下方に取り出され、
前記居住床スラブが、各居住空間の前記奥側に構築の奥側梁と各居住空間の前記共用廊下側に構築の廊下側梁とに亘って設けられ、前記廊下側梁が、前記奥側梁に比べて梁せいが小さく梁幅が大きく形成されることで、前記廊下側梁の上面が、前記奥側梁の上面よりも下方に位置するように構築され、前記排水経路が、前記廊下側梁の上面より上方において前記段差部を貫通し、
前記段差部の上下高さが、前記排水経路の上下高さよりも高く設定され、当該排水経路が、前記居住床スラブ上面と前記廊下床スラブ下面の間を通って前記段差部を貫通する床スラブ構造。
【請求項2】
前記居住床スラブの上面は、前記居住空間と前記共用廊下とが並ぶ方向の全幅に亘って前記排水勾配を有するように傾斜している請求項1に記載の床スラブ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の各居住空間の居住床スラブ上面が、各居住空間の奥側から共用廊下側に向けて排水勾配を有するように傾斜している床スラブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
マンションなどの集合住宅では、各居住空間の居住床スラブ上面が、居住空間の奥側から共用廊下側に向けて排水勾配を有するように傾斜され、排水経路となる排水管が、その居住床スラブ上に配置される場合がある。
その場合、共用廊下の廊下床スラブの上面は、居住床スラブの共用廊下側端部の上面と同じ高さで連続するように構築されるのが一般的で、居住床スラブ上に配置の排水管は、通常、廊下床スラブの上面に取り出される(例えば、特許文献1および2参照)。
また、特殊な例としては、廊下床スラブが、居住床スラブの共用廊下側端部より上方に位置するように段差部を設けて構築されたものもある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−128144号公報(特に段落[0017]参照)
【特許文献2】特開2003−129602号公報(特に図3参照)
【特許文献3】特開2006−9249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、マンションなどの集合住宅では、その施工時に、共用廊下の廊下床スラブが各種物品の搬入動線や作業用の通路として使用されるため、上記特許文献1および2に記載の従来構造では、廊下床スラブの上面に取り出された排水管が、物品搬入や通行の邪魔になり、作業効率の低下を招いたり、作業の安全性を阻害するおそれがある。また、場合によっては、排水管を不測に損傷する可能性もある。
ちなみに、上記特許文献3には、廊下床スラブが、居住床スラブの共用廊下側端部より上方に位置する記載はあるものの、排水管と廊下床スラブとの配置関係については何の記載もない。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目したもので、その目的は、建物の施工時、共用廊下の廊下床スラブを各種物品の搬入動線や作業用の通路として使用しても、居住床スラブからの排水経路が邪魔になることも、不測に損傷することもない床スラブ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、建物の居住空間と共用廊下とが水平方向に沿って隣接する状態で並び、前記居住空間に対して前記共用廊下が存在する側を共用廊下側とし、その反対側を奥側として、各居住空間の居住床スラブ上面が、各居住空間の前記奥側から前記共用廊下側に向けて排水勾配を有するように傾斜し、前記居住床スラブ上に前記居住床スラブの上面に沿って配設される排水経路を備えている床スラブ構造であって、前記共用廊下の廊下床スラブが、前記居住床スラブの共用廊下側端部より上方に位置するように段差部を設けて構築され、前記居住床スラブの上面に沿って配設される前記排水経路が、前記廊下床スラブの下方に取り出され、前記居住床スラブが、各居住空間の前記奥側に構築の奥側梁と各居住空間の前記共用廊下側に構築の廊下側梁とに亘って設けられ、前記廊下側梁が、前記奥側梁に比べて梁せいが小さく梁幅が大きく形成されることで、前記廊下側梁の上面が、前記奥側梁の上面よりも下方に位置するように構築され、前記排水経路が、前記廊下側梁の上面より上方において前記段差部を貫通し、前記段差部の上下高さが、前記排水経路の上下高さよりも高く設定され、当該排水経路が、前記居住床スラブ上面と前記廊下床スラブ下面の間を通って前記段差部を貫通する点にある。
【0007】
本構成によれば、共用廊下の廊下床スラブが、居住床スラブの共用廊下側端部より上方に位置するように段差部を設けて構築され、居住床スラブ上の排水経路が、廊下床スラブの下方に取り出されるので、建物の施工時、共用廊下の廊下床スラブを各種物品の搬入動線や作業用の通路として使用しても、居住床スラブからの排水経路が邪魔になることはなく、各種の物品搬入や作業を安全かつ効率良く行うことができ、また、排水経路を不測に損傷することもない。
【0009】
加えて、居住床スラブが、各居住空間の奥側に構築の奥側梁と共用廊下側に構築の廊下側梁とに亘って設けられ、廊下側梁の上面が、奥側梁の上面よりも下方に位置するように構築されるので、居住床スラブからの排水経路は、廊下側梁の上面より上方において段差部を貫通することになる。
言い換えると、排水経路が廊下側梁を貫通することはなく、したがって、廊下側梁の強 度低下を招くことも、また、強度低下回避のための後処理も不要となる。
【0011】
加えて、段差部の上下高さが、排水経路の上下高さよりも高く設定され、当該排水経路が、居住床スラブ上面と廊下床スラブ下面の間を通って段差部を貫通するので、排水経路の貫通処理が、廊下床スラブや廊下側梁などと無関係に段差部のみで合理的に処理可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】床スラブ構造を示す縦断側面図
図2】床スラブ構造の要部を示す縦断側面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による床スラブ構造の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の床スラブ構造は、例えば、タワーマンションを一例とする各種の集合住宅などのように、複数の居住空間と共用廊下とを有する建物に適用される。
建物がタワーマンションの場合、例えば、図1に示すように、タワーマンションTMの中心部に平面視で矩形のエレベータやエレベータパーキング用などの吹抜け部EHが配置され、吹抜け部EHの周囲に共用廊下Cが配置されて、多数の住戸の居住空間Rが、その共用廊下Cから外側に向けて配置される。
各居住空間Rへは、玄関である出入口Dを介して共用廊下C側から出入可能で、居住空間Rの最奥部にはバルコニーBが設けられ、このような多数の居住空間Rが、多層階に亘って配置されている。
【0016】
各居住空間Rの居住床スラブ1は、図1に示すように、バルコニー(居住空間の奥)B側に構築の奥側梁2と共用廊下C側に構築の廊下側梁3とに亘って配設され、例えば、複数枚の長尺状のスパンクリートを図1の紙面に直交する方向に配置し、その上にコンクリートを打設した合成床板で構成される。
奥側梁2と廊下側梁3に関しては、廊下側梁3の上面が奥側梁2の上面よりも下方に位置するように構築され、それによって、居住床スラブ1の上面が、居住空間Rの奥であるバルコニーB側から共用廊下C側に向けて、排水勾配を有するように傾斜した構造に構築される。
共用廊下Cの廊下床スラブ5は、吹抜け部EH側に構築の吹抜け部側梁4と廊下側梁3とに亘って配設され、例えば、現場打ちコンクリートで構成される。
【0017】
廊下側梁3と吹抜け部側梁4に関しては、廊下側梁3の上面が吹抜け部側梁4の上面よりも下方に位置するように構築され、かつ、居住床スラブ1と廊下床スラブ5に関しては、廊下床スラブ5が居住床スラブ1の共用廊下C側の端部の上面よりも上方に位置するように、例えば、コンクリート製の段差部6を設けて、廊下床スラブ5の上面が水平になるように構築される。
各居住空間Rの居住床スラブ1の上面には、図2に示すように、当該居住空間Rからの排水経路である排水管7が配置されて共用廊下Cの廊下床スラブ5の下方に取り出され、当該居住空間Rへの給水経路である給水管8も、廊下床スラブ5の下方を通って居住床スラブ1の上面に配置される。
【0018】
居住床スラブ1と廊下床スラブ5の間の段差部6は、その上下高さが排水管7や給水管8の上下高さよりも高く設定されて、排水管7と給水管8が、居住床スラブ1の上面と廊下床スラブ5の下面との間を通って段差部6を貫通するように構築される。
廊下床スラブ5の下方には、上述した排水管7や給水管8に加えて、下層階のスプリンクラー用給水管9や各種の電線(図示せず)なども配置され、これら各種の配管や電線などの設備配管類10が集約して配置される。
居住床スラブ1の上方には、排水管7や給水管8を覆うように、床材12が水平に配設され、居住床スラブ1の下方には、スプリンクラー用給水管9や電線、廊下側梁3などを覆い隠すように、下層階の天井材13が中間に段差を有する状態で水平に、つまり、バルコニーB側の天井が高く、出入口D側の天井が低くなるように配設される。
そして、廊下床スラブ5の下方には、設備配管類10を覆う廊下天井材14が、出入口D側の天井材13と同じ高さに配設され、それによって、廊下床スラブ6の下方に設備配管類10を集約して配設するための大きな空間が確保されるとともに、吹抜け部EHの側壁側には、各階の設備配管類10を集合した集合設備配管類11を覆う状態で廊下壁材15が配設される。
【0019】
〔別実施形態〕
(1)先の実施形態では、タワーマンションを建物TMの一例として説明したが、タワーマンション以外にも、各種の集合住宅やホテルなどの建物TMに適用可能である。
その場合、居住空間Rの最奥部にバルコニーBを備えている必要も、共用廊下Cに隣接して吹抜け部EHを備えている必要もなく、居住空間Rと共用廊下Cを備えた建物TMであれば適用可能である。
【0020】
(2)先の実施形態では、居住空間Rの奥側梁2と廊下側梁3とに亘って居住床スラブ1を配設した例を示したが、この居住床スラブ1に関しては、必ずしも奥側梁2と廊下側梁3とに亘って配設した構造でなくてもよい。
仮に、奥側梁2と廊下側梁3とに亘って配設する場合、奥側梁2と廊下側梁3の上面を同じ高さにし、居住床スラブ1の厚みの変化によって居住床スラブ1の上面に排水勾配を設けることもできる。
【0021】
(3)先の実施形態では、居住床スラブ1をスパンクリートとコンクリートからなる合成床板で構成した例を示したが、スパンクリートのみで、または、現場打ちコンクリートによって居住床スラブ1を構成することもできる。廊下床スラブ5に関しても、先に示した現場打ちコンクリートに限らず、スパンクリートやスパンクリートを使用した合成床板で構成することもでき、両床スラブ1、5を繋ぐ段差部6についても同様で、特にコンクリート製に限るものではない。
その段差部6に関し、段差部6の上下高さを排水管7や給水管8の上下高さよりも高く設定した例を示したが、段差部6の高さを排水管7や給水管8の高さよりも低く設定することも可能である。その場合には、排水管7や給水管8は、居住床スラブ1、廊下床スラブ5、あるいは、廊下側梁3の一部と段差部6を貫通することになる。
【0022】
(4)先の実施形態では、居住床スラブ1の上面が、居住空間Rの最奥部から共用廊下C側に向けて全面的に排水勾配を有するように傾斜した例を示したが、必ずしも居住空間Rの最奥部から傾斜した構成にする必要はない。例えば、居住空間Rのうち、共用廊下C側に台所、洗面所、浴室、トイレなどの水まわり設備が集約された間取りの場合、居住床スラブ1の上面のうち、これら水まわり設備の下方に位置する居住床スラブ1の部位のみに共用廊下C側へ向かう排水勾配を設けて実施することもできる。
したがって、本発明において「居住空間の奥」とは、居住空間Rの最奥部を意味するものではなく、共用廊下Cに隣接する出入口Dよりも居住空間Rの奥側という意味である。
【符号の説明】
【0023】
1 居住床スラブ
2 奥側梁
3 廊下側梁
5 廊下床スラブ
6 段差部
7 排水経路
10 設備配管類
TM 建物
R 居住空間
B バルコニー(居住空間の奥)
C 共用廊下
図1
図2