特許第6886807号(P6886807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6886807高濃度セラミド配合油性スティック状外用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886807
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】高濃度セラミド配合油性スティック状外用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/42 20060101AFI20210603BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20210603BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20210603BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20210603BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   A61K8/42
   A61K8/34
   A61K8/37
   A61K8/02
   A61Q19/00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-228539(P2016-228539)
(22)【出願日】2016年11月25日
(65)【公開番号】特開2018-83783(P2018-83783A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年11月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593084649
【氏名又は名称】日本コルマー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金井 浩
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 一生
【審査官】 山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−053881(JP,A)
【文献】 特開2005−206573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00−8/99
A61Q1/00−90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1型セラミド、2型セラミド、3型セラミドからなるセラミド類と油剤からなり、上記セラミド類の合計が8重量%以上15重量%以下であって、かつ、上記油剤中、ジネオペンタン酸アルキルペンタンジオールが5重量%以上24重量%以下であって、さらに、高級アルコールであるオクチルドデカノールを5重量%以上24重量%以下の割合で含有することを特徴とする油性スティック状外用組成物
【請求項2】
ジネオペンタン酸アルキルペンタンジオールが、ジネオペンタン酸メチルペンタンジオール及び/またはジネオペンタン酸ジエチルペンタンジオールである請求項1に記載の油性スティック状外用組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセラミド類を高濃度配合した油性スティック状化粧料組成物に関するものであって、好ましくは実質的に無香料であることを特徴としている。
【背景技術】
【0002】
セラミドは、人の皮膚の角質細胞間脂質の構成成分として知られており、皮膚の水分保持機能やバリアー機能を維持することによるエモリエント(保湿)効果によって皮膚に潤いを与えることを期待して化粧料や食品等に配合されているが、その化学構造によってタイプ分けされている。
【0003】
近年は、同様な機能をもつ、ヒト型セラミド以外の合成された類似構造をもつ擬似セラミド、馬などの動物由来の天然セラミド、コンニャク等の植物由来の植物セラミド、酵母由来のバイオセラミドなども利用されており、これらもまた、同様に、その化学構造によってタイプ分けされている。
【0004】
人の皮膚は、通常水分保持能やバリアー機能を有し、健常な状態を保っているが、外的要因又は内的要因によりこれらの機能が低下すると、肌荒れや老化を助長する等の様々な皮膚トラブルを起こす。そのため水分保持能やバリアー機能の維持は、日常生活を営む上においても大変重要である。これらの機能に重要な役割を果たしているのは、角質細胞間脂質の構成成分のセラミドであることが一般に知られているため、日常的にセラミドを補うべく、安全性の高い機能性成分として医薬や化粧品等に応用することが試みられている。
【0005】
さらに、セラミドと類似の構造を有する物質も同様の効果を有することから、様々な類似構造物質が合成され、利用されている。(特許文献1)
概してセラミド類としては、天然型セラミド(タイプ1、2、3、4、5、6)、ヒドロキシセラミド、疑似セラミド、スフィンゴ糖脂質、セラミド及び糖セラミド含有エキス等を指すようになっている。
【0006】
しかしながら、セラミド及びセラミド類似物質は両親媒性物質でありながら、その特異的な化学構造のため、水性基剤及び油性基剤のいずれへの溶解性も極めて低く、保存中に結晶が析出するなど、組成物中に安定に配合することが困難であった。そこで、後述するように従来から様々な成分との組合せやその形態の工夫等により、セラミド類を化粧料等に安定に配合しようとの試みがなされている。
【0007】
また、医薬や化粧品等として慣用されている乳化物の主要な構造として、水中油型(O/W型)と油中水型(W/O型)が知られているところ、一般的にO/W型乳化物は、相対的に系の安定性や使用感に優れている一方で、皮膚のバリアー性や薬効成分の吸収性にやや劣るという問題点がある。
【0008】
他方で、W/O型乳化物は、O/W型乳化物と反対の性質をもち、相対的に皮膚のバリアー性や薬効成分の吸収性には優れているものの、系が不安定で水相と油相とが分離しやすいという欠点がある。水相と油相の分離を防止するためには固体状の油性基剤を多量に用いることで解決できるが、この場合にはべとついたり肌上でののびが少なくなったり使用感が悪くなったり、主に油性基剤由来の固有の臭気などの問題点がある。
【0009】
これらの問題点の具体的な解決策として、例えば、各種セラミド類を配合した経時的なセラミドの結晶析出のない化粧品を提供するために、アルキロイル乳酸及びその塩の少なくとも一方と、グリセリン及び重合度2以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの少なくとも一方を更に組み合わせたセラミド配合化粧品添加物が開示されている。(特許文献2)
【0010】
その他、セラミド類を溶解あるいは分散する技術として、1価の低級アルコール、油、水を含有させるもの(特許文献3)、脂肪族アルコールとグリセリルモノオレイルエーテルを含有させるもの(特許文献4)、乳酸アルキルを配合するもの(特許文献5)、ダイマージオール誘導体を含有させるもの(特許文献6)、リン脂質、常温で液状の高級アルコールを含有させるもの(特許文献7)などが開示されている。
【0011】
しかしながら、いずれの技術も、また、その他の試みも、優れたエモリエント効果を有するセラミド又はセラミド誘導体をその分散安定性を損なうことなく10重量%以上の高濃度を配合したスティック状外用剤を調製するには充分ではなかった。
【0012】
特に、セラミド類を溶解あるいは分散するために高級アルコールやエステル類などを配合する場合、固有の臭気が問題となり、配合量やその種類の選択が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−51676号公報
【特許文献2】特開2001−199872号公報
【特許文献3】特開2000−119178号公報
【特許文献4】特開2003−12486号公報
【特許文献5】特開2003−40728号公報
【特許文献6】特開2004−131420号公報
【特許文献7】特開2007−1950号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「化粧品分野における公知技術集2012年版(平成24年3月16日発行)」(日本化粧品工業連合会 特許委員会編)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
化学構造が異なる複数のヒト型セラミド類を高濃度配合しスティック状に成型した安定した油性外用組成物、さらに好ましくは、香料を含有しないものを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、
1型セラミド、2型セラミド、3型セラミドからなるセラミド類と油剤からなり、
上記セラミド類の合計が8重量%以上15重量%以下であって
上記油剤中、ジネオペンタン酸アルキルペンタンジオールが5重量%以上24重量%以下の割合で含有することを特徴とするスティック状油性外用組成物
【0017】
好ましくは、
当該ジネオペンタン酸アルキルペンタンジオールが、ジネオペンタン酸メチルペンタンジオール及び/またはジネオペンタン酸ジエチルペンタンジオールであるスティック状油性外用組成物。
【0018】
さらに好ましくは、
当該高級アルコールを5重量%以上24重量%以下含有することを特徴とするスティック状油性外用組成物。
【0019】
さらに好ましくは、
当該高級アルコールがオクチルドデカノールであるスティック状油性外用組成物。
【0020】
さらに好ましくは、
香料を含有しない前述のスティック状油性外用組成物。
【0021】
並びに、ジネオペンタン酸メチルペンタンジオールのみでセラミド類を溶解し、その後に他の成分原料を加えて混練した後に充填成型する前述のスティック状油性外用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
前述の構成によって、香料を含有する必要がない、セラミド類を高濃度配合しスティック状に成型した安定した油性外用組成物の提供を実現できることを見出し、発明を完成した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(A)セラミド類としては、抗しわ効果や保湿性等の有効性の点で、セラミド1(セラミドI)、セラミド2(セラミドII)、セラミド3(セラミドIII)が最も好ましい。これらのセラミド類は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。但し、合成、天然型を問わず、他のセラミド類を含有することを妨げない。
【0024】
(B)エステル油としては、ジネオペンタン酸メチルペンタンジオールが最も好ましい。但し、1種単独でも、または、ジネオペンタン酸ジエチルペンタンジオールのようなジネオペンタン酸アルキルペンタンジオール、デキストリン脂肪酸エステル、など慣用されている成分2種以上と組み合わせて使用することもできる。但し、合成または天然を問わず、その他の油脂を含有することを妨げない。
【0025】
(C)高級アルコールとしては、本発明においては、一般的に炭素数6以上のアルコールであって、常温で液状の性状であるものが望ましく、たとえば慣用されているイソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、デシルテトラデカノール等が挙げられる。中でも、オクチルドデカノールが最も好ましい。これらの高級アルコールは1種単独でも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。但し、その他の高級アルコールを含有することを妨げない。
【0026】
(D)その他の成分としては、スティック状に成型するにあたっての基剤、例えば、合成ワックス、ゲル化剤などを挙げることができる。但し、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、セラミド以外の生理活性成分や薬理活性成分、例えば、ビタミン類、アミノ酸やその重合物(ペプチド、蛋白質)、ポリフェノール、植物エキス、ローヤルゼリー、タンパク質、カルニチン、エラスチン、コラーゲン、ヒアルロン酸などを含有することを妨げない。
【実施例】
【0027】
以下の要領で評価用サンプルを調製し、成型後のセラミド結晶の析出度合評価、臭気評価、使用性評価及び総合評価を実施した。
【0028】
【表1】
セラミド類をジネオペンタン酸メチルペンタンジオールまたはセバシン酸ジエチルに40℃で緩やかに撹拌し溶解させた上で、残りの成分原料を混練し、その後に充填成型し、各スティック状油性外用剤サンプルを調製した。
【0029】
(安定性の検証)
各サンプルについて、成型直後(但し、室温まで自然冷却後)と6ヶ月後の2回、セラミド結晶の析出の有無及びその度合について、4段階で評価した。
【0030】
【表2】
【0031】
すべての実施例において、直後・6ヶ月後ともにセラミド結晶の析出がまったくみられないが、6ヶ月経過後には、全ての比較例においてセラミド結晶の析出がみられ、比較例によっては、成型直後の時点で相当のセラミド結晶の析出がみられた。
【0032】
(臭気評価)
各サンプルについて、成型直後(但し、室温まで自然冷却後)と6ヶ月後の2回、使用時に感じる臭気について、4段階で評価した。
【0033】
【表3】
【0034】
すべての実施例において、直後・6ヶ月後ともにまったく臭気を感じないが、全ての比較例において、レベル差はあるものの臭気を感じている。
【0035】
(使用性評価)
【0036】
【表4】
【0037】
すべての実施例において、非常に使い易いと評価されているが、他の比較例は、そのような良好な評価はみられない。
【0038】
(総合評価)
【0039】
【表5】
【0040】
すべての実施例において、非常に使い易いと評価されているが、他の比較例は、そのような良好な評価はみられない。
【0041】
(評価まとめ)
前述の評価をまとめると以下の通りとなる。
【0042】
【表6】
【0043】
実施例は、全ての評価項目において優れた評価を得ているが、比較例においては、何らかの点で評価に難がある結果、総合評価において良好な評価を得ることができていない。
【0044】
以上のことから、本発明の実施品は、油性スティック状外用組成物として著しく優秀であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
複数のヒト型セラミド類を高濃度配合し、かつ安定した無香料スティック状外用組成物を提供できる。