【文献】
熱の実験室−新館 第38回 過冷却水を作ってみよう,株式会社八光電機,2021年 4月21日,URL,https://www.hakko.co.jp/expe/new/exnew3801.php,https://www.hakko.co.jp/expe/new/exnew3802.php,https://www.hakko.co.jp/expe/new/exnew3803.php
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記注入管は二重管とされ、外管及び内管の一方から前記結晶剤が前記背面地盤へ投入され、他方から前記過冷却溶液が前記背面地盤へ注入される、請求項2又は請求項3に記載の止水方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された山留め工法では、地下水の流れが速い場合、地盤に注入された薬液が流失するため、所望の止水薬液層を形成することが難しい。
【0005】
本発明は上記事実を考慮して、山留め壁の背面地盤における地下水の流れを堰き止めることができる止水体及び止水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様の止水体は、過冷却溶液が山留め壁の背面地盤中で固化して形成されている。
【0007】
一態様の止水体は、山留め壁の背面地盤へ浸透させた過冷却溶液を、結晶剤によって固化して形成される。過冷却溶液は結晶剤と触れることで即座に固化し始めるため、地下水の流れがある場所でも過冷却溶液が流失する前に固化させることができる。したがって、山留め壁の背面地盤における地下水の流れを堰き止め、山留め壁からの漏水を抑制できる。
【0008】
これに対して例えば2液混合型の薬剤を用いて止水体を形成する場合、2液が混合又は固化反応する前に地下水によって流されてしまい、固化させることが難しい。
請求項1の止水方法は、山留め壁の背面地盤へ投入した結晶剤と、前記背面地盤へ注入した、前記背面地盤の温度より融点が高い過冷却溶液と、を接触させることにより、前記過冷却溶液を地盤中で固化させて止水体を形成する。
【0009】
請求項2の止水方法は、山留め壁を横方向から穿孔して背面地盤へ注入管を挿入する工程と、前記注入管から前記背面地盤へ結晶剤を投入した後に前記結晶剤に向って過冷却溶液を注入する工程、又は、前記注入管から前記背面地盤へ過冷却溶液を注入しながら前記過冷却溶液が浸透した前記背面地盤へ結晶剤を投入する工程と、を有する。
【0010】
請求項2の止水方法では、注入管から山留め壁の背面地盤へ結晶剤を投入した後に、結晶剤に向って過冷却溶液を注入する。この場合、過冷却溶液は注入した直後に固化し始める。又は、背面地盤へ過冷却溶液を注入しながら、結晶剤を投入する。この場合、過冷却溶液は結晶剤を投入した直後に固化し始める。
【0011】
このように過冷却溶液の固化反応が即座に始まるため、地下水の流れが速い場所でも、過冷却溶液を流失することなく固化させることができる。したがって、山留め壁の背面地盤における地下水の流れを堰き止め、山留め壁からの漏水を抑制できる。
【0012】
請求項3の止水方法は、山留め壁の背面地盤を上方向から掘削して注入管を挿入する工程と、前記注入管から前記背面地盤へ結晶剤を投入した後に前記結晶剤に向って過冷却溶液を注入する工程、又は、前記注入管から前記背面地盤へ過冷却溶液を注入しながら前記過冷却溶液が浸透した前記背面地盤へ結晶剤を投入する工程、又は、前記注入管から前記背面地盤へ前記過冷却溶液を注入した後に前記過冷却溶液が浸透した前記背面地盤へ結晶剤を投入する工程と、を有する。
【0013】
請求項3の止水方法では、注入管から山留め壁の背面地盤へ結晶剤を投入した後に結晶剤に向って過冷却溶液を注入する。この場合、過冷却溶液は注入した直後に固化し始める。又は、背面地盤へ過冷却溶液を注入しながら、結晶剤を投入する。この場合、過冷却溶液は結晶剤を投入した直後に固化し始める。
【0014】
このように過冷却溶液の固化反応が即座に始まるため、地下水の流れが速い場所でも、過冷却溶液を流失することなく固化させることができる。したがって、山留め壁の背面地盤における地下水の流れを堰き止め、山留め壁からの漏水を抑制できる。
【0015】
また、地下水の流れが穏やかな場所では、注入管から背面地盤へ過冷却溶液を注入した後に、過冷却溶液が浸透した前記背面地盤へ結晶剤を投入することができる。
【0016】
請求項4の止水方法は、前記注入管は二重管とされ、外管及び内管の一方から前記結晶剤が前記背面地盤へ投入され、他方から前記過冷却溶液が前記背面地盤へ注入される。
【0017】
請求項4の止水方法では、二重管から結晶剤と過冷却溶液とが背面地盤へそれぞれ投入、注入される。このため、結晶剤投入用の管体と過冷却溶液用の管体とを別々に設ける必要がない。
【0018】
請求項5の止水方法は、前記過冷却溶液には凝固点を下げる界面活性剤が添加されている。
【0019】
請求項5の止水方法では、界面活性剤により過冷却溶液の凝固点が下げられている。過冷却溶液は、融点よりも温度が低く凝固点に温度が近くなればなる程、過冷却状態が不安定になり、結晶剤を与えなくても刺激を受けると固化しやすくなる。すなわち、意図しないタイミングで固化しやすくなる。界面活性剤により過冷却溶液の凝固点を下げることで、温度が低い状態でも過冷却状態を安定させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る止水体及び止水方法によると、山留め壁の背面地盤における地下水の流れを堰き止めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
(止水体)
第1実施形態に係る止水体10は、
図5(C)に示すように過冷却溶液としての酢酸ナトリウム3水和物(CH
3COONa・3H
2O)が山留め壁40の背面地盤G1中で固化して形成された難透水性物質である。
【0023】
(過冷却溶液)
図1に示すように、過冷却溶液は融点よりも高い温度域では過冷却溶液以外の液体と同様に、液体状態を保持する(A〜B)。そして過冷却溶液は、融点以下の温度域に冷却されても固体化せず液体状態を保持する(B〜C)。この現象のことを「過冷却」といい、この状態のことを「過冷却状態」という。液体状態(A〜C)の過冷却溶液は、粘度がセメントよりも低く、地盤における透水層若しくは不透水層へ圧入することで地盤へ浸透させることができる。
【0024】
過冷却状態の過冷却溶液は振動等の刺激が与えられると、刺激が与えられた箇所から結晶化が始まり、凝固熱を発しながら固化する(C〜D)。なお、過冷却状態の過冷却溶液を固化させるためには、刺激を与える方法の他、結晶剤(結晶化した固体状の過冷却溶液)を過冷却状態の過冷却溶液中に投入する方法や、結晶剤に向かって過冷却状態の過冷却溶液を注入する方法や、凝固点まで冷却する方法などがある。
【0025】
なお、過冷却状態の過冷却溶液は、刺激を与えず、また結晶剤と接触させずに冷却を続けると液体の状態が保持される。液体状態を保持しながら冷却を続けるとやがて凝固点に達し固化する。この融点と凝固点の差を過冷却度と言う。過冷却度が小さくなればなる程、過冷却状態が不安定になり、過冷却度が大きい状態と比較して、より弱い刺激によって固化する。換言すると、過冷却状態の過冷却溶液が2種類ある場合、凝固点が高い過冷却溶液のほうが、凝固点が低い過冷却溶液よりも不安定な状態であり、意図しない刺激で固化する蓋然性が高い。
【0026】
一旦固化した過冷却溶液は、融点まで加熱されない限り、固体の状態が保持される(D〜E)。第1実施形態における止水体10は、土粒子の間へ浸透した固体の状態の過冷却溶液により地下水の流れを遮断するものである。
【0027】
なお、本実施形態における「融点」とは、固化した状態の過冷却溶液が融解する温度のことであり、「凝固点」とは、液体化した状態の過冷却溶液が固化する温度のことである。
【0028】
第1実施形態における過冷却溶液は、酢酸ナトリウム無水に対して水を100:66の割合(分子量比)で混合、加熱融解させて生成された酢酸ナトリウム3水和物を含んでいる。この酢酸ナトリウム3水和物を含んだ過冷却溶液は、地盤中温度(セ氏10〜20℃)で過冷却状態を維持する物質であり、融点は約58.0℃である。また、凝固点は0℃以下である。この凝固点は、後述する界面活性剤により調整されている。これにより過冷却溶液は地盤中で、融点よりも温度が低く、且、凝固点よりも温度が高い過冷却状態が維持され、刺激あるいは結晶剤の投入により固化できる。また、固化した後は地盤が58.0℃以上に熱せられない限り融解しない。
【0029】
(界面活性剤)
過冷却溶液には、酢酸ナトリウム3水和物の他、界面活性剤として、オキシカルボン酸塩系のフローリック(登録商標)Tが添加されている。これにより、過冷却溶液の凝固点が任意の温度(本実施形態においては0℃以下)に調整されている。
【0030】
この界面活性剤を用いると、例えば過冷却溶液の凝固点を低くすることができる。過冷却溶液の凝固点が低くなれば過冷却状態での安定性が高くなるので、意図しない刺激(路面を走る車両の振動や、微細な地震動など)を受けて固化することを抑制できる。
【0031】
(止水方法)
第1実施形態における止水方法は、
図4(A)に示すように、地盤Gにセメント改良体の山留め壁40を配置し、さらに山留め壁40の内側の地盤を掘削して形成された背面地盤G1に適用される。この背面地盤G1には透水層GHが形成されており、山留め壁40は透水層GHを流れる地下水から常時水圧を受けている。
【0032】
山留め壁40にひび割れやラップ不良がある場合、そこから透水層GHの地下水が山留め壁40の表面に染み出してくる(漏出)ことがある。本実施形態における止水方法は、このような山留め壁40からの地下水の漏出を抑制するために背面地盤G1の土質を部分的に改良して地下水の流れを堰き止める止水体10(
図5(C)参照)を形成する止水方法である。なお、山留め壁40はセメント改良体に限られず、鋼製矢板(シートパイル)やコンクリートなどにより形成されていてもよい。
【0033】
止水体10を形成するには、まずコアビット等を用いて山留め壁40を横方向から穿孔して
図4(B)に示す貫通孔40Aを形成し、貫通孔40Aから背面地盤G1の透水層GHへ注入管42を挿入する。
【0034】
注入管42は二重管であり、円筒状の内管42Aと、内管42Aを囲繞する円筒状の外管42Bとを備えている。内管42Aの内部には予め結晶剤32が収納されており、結晶剤32は、
図4(C)に示すように注入管42を所定の深度(水平深度D)まで挿入した後、背面地盤G1(透水層GH)へ投入される。
【0035】
結晶剤32の投入後、
図5(A)に示すように外管42B(外管42Bと内管42Aとの間の空間)から結晶剤32に向かって過冷却状態(15℃)の過冷却溶液を注入(噴射)する。
【0036】
ここで、結晶剤32は酢酸ナトリウム3水和物が固化した結晶体であり、注入された過冷却溶液と接触して過冷却溶液を固化させる。さらに過冷却溶液は、結晶剤32と接触した部分から固化反応が伝播する。
【0037】
これにより、
図5(A)、(B)に示すように注入管42を透水層GHから引き抜きながら過冷却溶液の注入を続けることで過冷却溶液が固化して形成された固化体34を大きくすることができる。
【0038】
そして
図5(C)に示すように、透水層GHにおける山留め壁40と接触する部分まで注入された過冷却溶液が固化することで、透水層GHには山留め壁40と密着した止水体10が形成される。
【0039】
(作用・効果)
第1実施形態における止水方法においては、背面地盤G1に投入された結晶剤32に向かって過冷却状態(15℃)の過冷却溶液を注入するため、注入された過冷却溶液は、結晶剤32と触れて即座に固化し始める。このため、過冷却溶液が透水層GHを流れる地下水によって流失する前に、過冷却溶液を固化させることができる。これにより山留め壁40の背面地盤G1における地下水の流れを堰き止め、山留め壁40からの漏水を抑制できる。
【0040】
なお、過冷却状態ではない(融点よりも温度が高い、例えば60℃)過冷却溶液を地盤Gへ注入する場合、過冷却溶液を固化させるためには地盤Gの地熱(10〜20℃)によって融点(58℃)以下まで冷やす必要がある。このため、過冷却溶液が冷やされて温度が融点以下になるまでは、固化させることができない。したがって、地下水の流れが強い場所では過冷却溶液が固化する前に流失する虞がある。なお、地下水の流れが弱い場所には過冷却状態ではない過冷却溶液を注入してもよい。
【0041】
また、第1実施形態における止水方法においては、セメントよりも粘度が小さい過冷却溶液を地盤Gへ浸透させることで止水体10が形成される。このため、過冷却溶液の注入(噴射)圧力を大きくしたり、注入管42の引き抜き速度を小さく(注入時間を長く)することで、止水体10の大きさを大きくすることができる。
【0042】
このようにすれば、上下が不透水層に挟まれた透水層GHの厚み分の高さを備えた止水体10を形成することができ、地下水を堰き止める効果を高められる。
【0043】
なお、第1実施形態における止水体10は透水層GHに形成するものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば不透水層内に部分的に形成された水脈を閉塞するように形成してもよい。以下に示す第2実施形態においても同様である。
【0044】
また、本実施形態における注入管42は二重管とされ、背面地盤G1に対して内管42Aから結晶剤32を投入し、外管42Bから過冷却溶液を注入するものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば内管42Aから過冷却溶液を注入し、外管42Bから結晶剤32を投入してもよい。又は、結晶剤32を投入する管体と過冷却溶液を注入する管体とを別々に背面地盤G1へ挿入してもよい。以下に示す第2実施形態においても同様である。
【0045】
[第2実施形態]
(止水方法)
第1実施形態の止水方法においては
図4(C)に示すように、まず山留め壁40の背面地盤G1へ結晶剤32を投入し、その後
図5(A)に示すように結晶剤32に向かって過冷却溶液を注入(噴射)しているが、第2実施形態に係る止水方法においては、
図6(A)に示すように、まず山留め壁40の背面地盤G1(透水層GH)へ過冷却溶液を注入し、また注入しながら
図6(B)に示すように過冷却溶液が浸透した部分へ結晶剤32を投入する。
【0046】
さらに
図6(C)に示すように、注入管42を引き抜きながら過冷却溶液を透水層GHへ注入し、過冷却溶液が浸透した部分へ断続的に結晶剤32を投入する。これにより、
図5(C)に示した止水体10と同様の止水体が形成される。
【0047】
(作用・効果)
第2実施形態に係る止水方法においては
図6(B)に示すように、過冷却溶液が浸透した部分へ結晶剤32を投入する。投入された結晶剤32は周囲の過冷却溶液を固化させて即座に結晶剤32よりも大きな固化体34になり、地下水によって流され難くなる。
【0048】
また、第2実施形態に係る止水方法においては、過冷却溶液を注入しながら結晶剤32を断続的に投入する。これにより、過冷却溶液の固化起点が複数形成されるため固化反応が促進される。このため、地下水の流れが速くても、過冷却溶液が流失しにくい。なお、このように過冷却溶液を注入しながら結晶剤32を断続的に投入する実施形態は、第1実施形態において適用することもできる。
【0049】
[第3実施形態]
(止水方法)
第1、第2実施形態の止水方法においては、
図4(B)に示すように山留め壁40に形成した貫通孔40Aから背面地盤G1へ横方向に注入管42を挿入したが、第3実施形態の止水方法においては
図7(B)に示すように、地盤掘削装置20に取付けられたロッド44を用いて地盤Gを上方向から掘削し、
図7(C)に示す止水体12を形成する。
【0050】
図7(A)に示すように、地盤Gには山留め壁40が構築されている。山留め壁40は、山留め壁40によって囲まれる地盤(掘削側地盤G2)の平面形状が略L字形状となるように形成されており、山留め壁40の外側の地盤(背面地盤G1)に対して入隅部40Bを備えている。
【0051】
この背面地盤G1に止水体を形成するには、
図7(B)に示すように、山留め壁40の形成後、掘削側地盤G2を掘削する前に、まず地盤掘削装置20に取付けられたロッド22を用いて背面地盤G1を掘削する。ロッド22の先端(下端部)には図示しない掘削用ビットが取付けられており、ロッド22を回転させることで掘削用ビットが背面地盤G1を掘削しロッド22が地盤Gに挿入される。
【0052】
掘削用ビットを用いて背面地盤G1を所定の深さH1まで掘削した後、ロッド22を回転させつつ引き抜きながら、ロッド22の先端部において掘削用ビットよりも後端(上端部)寄りに形成された図示しない注入(噴射)ノズルから背面地盤G1へ向かって、横向きに過冷却状態(15℃)の過冷却溶液を注入(噴射)する。これにより地盤Gにおける空隙部分又は地下水部分が過冷却溶液に置換され、過冷却溶液が背面地盤G1に浸透する。
【0053】
地盤Gの温度は一般に10〜20℃であり、過冷却溶液の融点(約58.0℃)よりも温度が低く、且、凝固点(0℃以下)よりも温度が高い状態であるため、過冷却溶液は過冷却状態が維持される。
【0054】
なお、第3実施形態におけるロッド22は本発明における注入管の一例である。また本実施形態において掘削用ビット及び注入(噴射)ノズルは同一のロッド22に設けられているが、それぞれ別のロッドに設けてもよい。
【0055】
過冷却溶液が背面地盤G1に浸透することで、ロッド22及びロッド22により掘削された掘削孔22Aの周囲に浸透体30が形成される。浸透体30は、
図7(A)に示すように、山留め壁40の入隅部40Bに密着するようにして形成される。
【0056】
浸透体30を所定の深さH2まで形成した後、掘削孔22Aへ結晶剤32(
図4(C)参照)を投入する。この結晶剤32と、浸透体30を形成する過冷却溶液とが接触することで過冷却溶液が固化し、背面地盤G1に
図7(C)に示す止水体12が形成される。なお、止水体12を形成する範囲(深さH2〜深さH1)は、透水層GHの上端から下端までの部分(高さ方向の全範囲)が含まれる範囲とされている。
【0057】
(作用・効果)
第3実施形態に係る止水方法においては、
図7(A)に示すように、山留め壁40の入隅部40Bに密着するようにして止水体12が形成される。このため、地下水からの水圧を受けやすく、また地下水が滞留しやすい入隅部40Bにおける止水性を向上させることができる。
【0058】
また、止水体12は、掘削側地盤G2を掘削する前に形成される。このため、入隅部40Bにおける止水性を予め確保してから掘削側地盤G2が掘削される。このため、山留め壁40からの漏水を予防することができる。
【0059】
なお、第3実施形態において止水体12は、掘削側地盤G2を掘削する前に形成したが、掘削側地盤G2を掘削した後に形成してもよい。また、止水体12は入隅部40Bに形成したが、地下水流の状況次第では、山留め壁40におけるその他の部分に密着するように形成してもよい。
【0060】
また、第3実施形態において止水体12を形成する範囲(深さH2〜深さH1)は、透水層GHの高さ方向の全範囲が含まれる範囲とされているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば止水体12は透水層GHの高さ方向の一部を含むように形成してもよいし、透水層GHの深さに関わらず例えば地表面GLまで形成してもよい。
【0061】
止水体12をこのように形成しても、山留め壁40の背面地盤G1における地下水の流れを堰き止め、山留め壁40からの地下水の漏出を抑制する効果を得ることができる。
【0062】
また、第3実施形態においては背面地盤G1へ過冷却溶液を注入した後に過冷却溶液が浸透した背面地盤G1へ結晶剤32を投入するものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば第1実施形態と同様に背面地盤G1へ結晶剤32を投入してから過冷却溶液を注入してもよいし、第2実施形態と同様に背面地盤G1へ過冷却溶液を注入しながら結晶剤32を投入してもよい。
【0063】
結晶剤32を投入してから結晶剤32に向かって過冷却溶液を注入すれば、背面地盤G1に注入された過冷却溶液を即座に固化させることができるので、地下水の流れが速い場合においても止水体12を形成しやすい。また、結晶剤32を断続的に投入することで、過冷却溶液の固化反応が促進される。
【0064】
(変形例)
上述の第1〜第3実施形態における過冷却溶液に用いられている酢酸ナトリウム3水和物は、酢酸ナトリウム無水に対して水が100:66の割合で混合、加熱融解させて生成されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0065】
例えば、酢酸ナトリウム無水と水との混合比を変えてもよい。水の混合比を大きくすると、過冷却溶液の過冷却状態における安定性が高くなる。
【0066】
酢酸ナトリウム無水と水の混合比を変えた過冷却溶液の具体例として、
図2、
図3には、酢酸ナトリウム無水に対する水の分子量比を100:66、75、80、90とした酢酸ナトリウム3水和物に関するデータが示されている。
【0067】
図2に示されたデータは、硅砂5号(粒径約5mm程度の硅砂)を35%の間隙率で充填した柱状体に、酢酸ナトリウム無水に対する水の分子量比を100:66、75、80、90とした酢酸ナトリウム3水和物を浸透させ、固化させた試験体の一軸圧縮強度である。また、
図3に示されたデータは、一軸圧縮強度試験において各試験体に圧力をかけた際に発生する圧縮応力と歪みの関係である。
【0068】
酢酸ナトリウム無水に対する水の分子量比が多くなると、
図2に示されるように、一軸圧縮強度が小さくなる。これにより、止水性が低下する。一方で、
図3に示されるように、圧縮応力に対する歪みが多くなる。すなわち、酢酸ナトリウム3水和物における水の混合割合が多くなると、止水体の止水性が低下する一方で、展性が高く脆性破壊しにくくなる。
【0069】
このように、酢酸ナトリウム無水と水との混合比を変えることにより、求められる性能に応じた止水体を形成することができる。
【0070】
なお、第1〜第3実施形態においては、過冷却溶液に酢酸ナトリウム3水和物を用いたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば硫酸ナトリウム10水和物(Na
2SO
4・10H
2O、融点32.0〜38.0℃)、チオ硫酸ナトリウム5水和物(Na
2S
2O
3・5H
2O、融点48.3℃)、リン酸2ナトリウム12水和物(Na
2HPO
4・12H
2O、融点35.0℃)、塩化カルシウム6水和物(CaCl
2・6H
2O、融点30.0℃)、酢酸カルシウム1水和物(C
4H
6CaO
4・H
2O、融点100〜150℃)、酢酸マグネシウム4水和物(C
4H
6MgO
4・4H
2O、融点79.0℃)、酢酸カリウム(C
2H
3KO
2、融点292℃)、フッ化カリウム4水和物(KF・4H
2O、融点18.5℃)、エリスリトール(C
5H
12O
4、融点119℃)、マンニトール(C
6H
14O
6、融点167℃)など、地盤Gの温度よりも融点が高い各種の物質を用いることができる。
【0071】
これらの過冷却溶液は、界面活性剤を添加することで凝固点を任意の温度に調整し、地盤中において安定した過冷却状態を維持することができる。なお、過冷却溶液に界面活性剤を添加することは必ずしも必要ではなく、地盤の温度、過冷却状態を安定に保つ必要性などに応じて適用の有無を選択することができる。