(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケーシングに取り付けられて軸方向機外側に配置されている静止環と、前記ケーシングに貫設された回転軸に取り付けられて軸方向機内側に配置されている回転環との摺動により被密封流体を機内領域に密封するメカニカルシールを備える軸封装置において、
前記機内領域のうちの前記メカニカルシールの軸方向機内側の側方を含む後方領域と、
前記機内領域のうちの前記静止環と前記回転環との間の摺動部の径方向外方を含む前方領域と、
前記後方領域に開口している一端を含み、前記回転軸に対して垂直に延在し、前記回転軸と共に回転することにより、前記後方領域から被密封流体を導入する第1導入流路と、
一端が前記第1導入流路の他端に接続され、他端が前記前方領域に開口しており、前記第1導入流路から流入する被密封流体を前記前方領域へ導く第2導入流路と、
一端が前記前方領域に開口し、他端が前記後方領域に開口しており、被密封流体を前記前方領域から前記後方領域へ導く導出流路と、
前記後方領域において前記ケーシングの内周部に設けられており、冷却用流体が流入する冷却ジャケットと、
を有する軸封装置。
前記第1導入流路は、前記回転環の軸方向機内側に形成され、または、前記回転環の軸方向機内側の側方に当該回転環と連結して設けられている背面側環状部材に形成された、径方向に延びる放射状の孔から構成されている、請求項1に記載の軸封装置。
前記第2導入流路は、前記回転環または前記背面側環状部材の径方向外方に当該回転環または当該背面側環状部材と連結して設けられている筒状部材の内周面と当該回転環または当該背面側環状部材の外周面との間に形成された、軸方向に延びる環状の間隙から構成されている、請求項2に記載の軸封装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、メカニカルシールにおける静止環と回転環との間の摺動部の冷却を低コストで実現でき、かつ、適用される機器の熱効率を損なわないものにできる軸封装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
ケーシングに取り付けられて軸方向機外側に配置されている静止環と、前記ケーシングに貫設された回転軸に取り付けられて軸方向機内側に配置されている回転環との摺動により被密封流体を機内領域に密封するメカニカルシールを備える軸封装置において、
前記機内領域のうちの前記メカニカルシールの軸方向機内側の側方を含む後方領域と、
前記機内領域のうちの前記静止環と前記回転環との間の摺動部の径方向外方を含む前方領域と、
前記前方領域と前記後方領域との間に形成され、被密封流体が流れる第1導入流路、第2導入流路および導出流路と、
前記後方領域において前記ケーシングの内周部に設けられており、冷却用流体が流入する冷却ジャケットと、
を有し、
前記第1導入流路は、前記後方領域に開口し、かつ、前記第2導入流路と接続され、
前記第2導入流路は、前記第1導入流路と接続され、かつ、前記前方領域に開口し、
前記導出流路は、前記前方領域に開口し、かつ、前記後方領域に開口している、ものである。
【0011】
この構成によれば、被密封流体を前記後方領域と前記前方領域との間に溜めこみつつ、循環させることが可能となる。
【0012】
そして、その被密封流体が、前記前方領域を流動する際に、前記摺動部において発生した熱を吸収することにより、前記摺動部が冷却される。
【0013】
また、前記後方領域において、被密封流体は前記前方領域において吸収した熱を前記冷却ジャケットを介して前記冷却用流体に放出することにより、前被密封流体が冷却される。これにより、前記前方領域に向かって流れる前の段階にある被密封流体の温度を所定の温度以下にした状態で維持できる。したがって、前記前方領域において、被密封流体と前記摺動部とで熱交換を確実に行わせ、前記摺動部を継続して冷却できる。
【0014】
そのため、前記摺動部を冷却するために、当該摺動部において発生する熱を除去するための付帯設備を別途設置する必要があるフラッシング等の従来の冷却手段を採用せずに済む。よって、前記摺動部の冷却を低コストで実現できる。
【0015】
さらに、前記軸封装置によれば、被密封流体を前記後方領域と前記前方領域との間で循環させて、熱交換を行わせ、前記摺動部を冷却することとなる。つまり、主として前記前方領域と前記後方領域との間で閉じた熱サイクルを回すことができるので、前記軸封装置が適用された機器熱効率を損なわないものにできる。
【0016】
本発明の別の態様によれば、
前記第1導入流路は、前記回転環の軸方向機内側に形成され、または、前記回転環の軸方向機内側の側方に当該回転環と連結して設けられている背面側環状部材に形成された、径方向に延びる放射状の孔から構成される。
【0017】
この構成によれば、前記回転軸の回転により前記第1導入流路にポンピング作用が生じて、被密封流体を前記後方領域から前記前方領域へ強力に流動させることができる。そのため、被密封流体を前記後方領域と前記前方領域との間で円滑に循環させることができる。
【0018】
本発明の更なる態様によれば、
前記第2導入流路は、前記回転環または前記背面側環状部材の径方向外方に当該回転環または当該背面側環状部材と連結して設けられている筒状部材の内周面と当該回転環または当該背面側環状部材の外周面との間に形成された、軸方向に延びる環状の間隙から構成される。
【0019】
この構成によれば、低コストかつ簡易に前記第2導入流路を形成することができる。
【0020】
本発明のまた別の態様によれば、
前記回転軸の外周面と前記冷却ジャケットの内周面との間にラビリンスシールが設けられる。
【0021】
この構成によれば、被密封流体を、前記所定の温度以下に保持しつつ、前記後方領域および前記前方領域に溜めこむことが可能となる。そして、概ねこれらの後方領域および前方領域中に溜めこまれた被密封流体のみを用いて、前記静止環と前記回転環との間の摺動部を冷却できる。よって、前記後方領域において冷却された被密封流体が軸封部よりも機内側の領域に流入して、前記軸封装置が適用された機器の熱効率に悪影響が生じることを抑制できる。また、軸封部よりも機内側の領域に存在する高温の被密封流体が前記後方領域に流入して、当該後方領域における冷却作用に悪影響が生じることを抑制できる。
できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、メカニカルシールにおける静止環と回転環との間の摺動部の冷却を低コストで実現でき、かつ、適用される機器の熱効率を損なわないものにできる軸封装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1に、本発明の第1実施形態に係る軸封装置1の断面図を示す。
図2に、
図1の部分拡大図を示す。
【0026】
以下の説明において、軸方向機内側、軸方向機外側とは、それぞれ、
図1に示す機内領域Aの側、機外領域Bの側を指す。つまり、
図1において、前者は右側であり、後者は左側である。
【0027】
軸封装置1は、ポンプ、ブロワ、圧縮機、攪拌機を含む回転機器等の機器に適用されるものである。軸封装置1は、例えば、約200℃以上の高温の流体を扱うボイラー給水用ポンプに適用され得る。
図1および
図2に示すように、軸封装置1は、所定の機器に適用され、ケーシング2と当該ケーシング2に貫設された回転軸3との間をシールできるように構成されている。
【0028】
本実施形態において、ケーシング2は、本体ケース(機器のケース)5と、シールケース7とを有している。
【0029】
本体ケース5は筒状に形成されており、その内部には、本体ケース5に対して回転自在に支持された状態の回転軸3が貫設されている。
【0030】
シールケース7は、ケーシング2および回転軸3に対して用いられる後述のメカニカルシール10を含む軸封部を収容するためのもの(スタフィングボックス)である。シールケース7は、筒状の部材の軸方向機外側の端面に底部49が取り付けられることにより、有底の筒状に形成されている。シールケース7は、メカニカルシール10を収容した状態で回転軸3を包囲しかつ本体ケース5の軸方向機外側の開口部を閉塞するように、本体ケース5にOリング8を介して連結されている。
【0031】
なお、シールケース7が別途設けられておらず、本体ケース5の軸方向機外側の端部がスタフィングボックスとなっていてもよい。また、シールケース7と底部49は、別体ではなく、一体であってもよい。
【0032】
回転軸3は、ケーシング2の内部空間(本体ケース5およびシールケース7の各々の内部空間)を通ってケーシング2の外部空間へ突出するように配置されている。回転軸3の外周面とケーシング2の内周面との間には、環状空間が形成されている。
【0033】
回転軸3には、ケーシング2の内部空間と外部空間との間にわたって回転軸3を包囲するように、スリーブ21がOリング23を介して外嵌されている。スリーブ21の軸方向機外側の端部には、回転軸3の径方向に螺進可能なセットスクリュー24が螺合されている。スリーブ21は、セットスクリュー24が締め付けられてその先端が回転軸3の外周面に当接することにより、回転軸3に対して相対回転不能に固定されている。
【0034】
軸封装置1は、メカニカルシール10を備えている。メカニカルシール10は、静止環11と、回転環12とを有している。メカニカルシール10は、ケーシング2と回転軸3との間をシールするために、静止環11と回転環12とを相対摺動可能に接触させるように構成されている。メカニカルシール10は、静止環11と回転環12との摺動により、被密封流体を機内領域A(ケーシング2の内部)に密封し、被密封流体が機外領域B(ケーシング2の外部)に漏れることを防止する。ここで、静止環11と回転環12とが互いに接触する部分が、摺動部13である。
【0035】
メカニカルシール10は、当該メカニカルシール10が適用された前記所定の機器において取り扱われる流体を被密封流体として、この被密封流体が、回転軸3の径方向に関して、静止環11と回転環12との間の摺動部13の外周側(機内領域Aの側)から内周側(機外領域Bの側)へ漏れることを防止できるインサイド形のメカニカルシールである。
【0036】
静止環11は、ケーシング2に取り付けられており、軸方向機外側に配置されている。本実施形態において、静止環11は、環状の摺動部材11aおよび筒状の補強部材11bから構成されている。摺動部材11aの材質は、カーボンやSiCであり、補強部材11bの材質は、チタン等の金属である。摺動部材11aは、その後端側(軸方向機外側)が補強部材11bに焼嵌め等によって内嵌固定されている。
【0037】
静止環11は、補強部材11bを介してシールケース7に取り付けられている。静止環11は、シールケース7内において、回転軸3に外嵌固定されたスリーブ21と隙間を有する状態でスリーブ21を包囲し、シールケース7にOリング16を介して連結(内嵌)されている。
【0038】
静止環11は、補強部材11bを介してシールケース7に取り付けられている。静止環11は、シールケース7内において、回転軸3に外嵌固定されたスリーブ21と隙間を有する状態でスリーブ21を包囲し、シールケース7にOリング16を介して連結(内嵌)されている。
【0039】
静止環11は、軸方向において回転環12と対向するように軸方向機外側に配置されている。静止環11は、第1シール面(摺動面)17を有している。より具体的には、摺動部材11aの先端面(軸方向機内側の端面)が第1シール面17となる。
【0040】
静止環11は、固定ピン19により、シールケース7に対して回り止めされている。本実施形態において、補強部材11bは、ピン孔18を有している。ピン孔18には、底部49の内壁に固定された固定ピン19が挿通されている。
【0041】
静止環11は、付勢部材30により、軸方向において回転環12の側に押圧されている。つまり、付勢部材30は、静止環11と回転環12との間に摺動部13が形成されるように、静止環11を回転環12に接近する方向に付勢するものである。本実施形態において、付勢部材30は、コイルスプリングであり、その伸縮方向が回転軸3の軸方向となるように底部49の内壁に形成された軸方向に延びるスプリング穴に保持されている。そして、付勢部材30は、補強部材11bの背面(軸方向機外側の側面)を押圧している。こうして、静止環11(補強部材11bおよびこれに内嵌固定された摺動部材11a)が、シールケース7に対して、相対回転不能とされるとともに、回転軸3の軸方向へ相対移動可能とされている。
【0042】
回転環12は、スリーブ21を介して回転軸3に取り付けられており、軸方向機内側に配置されている。本実施形態において、回転環12は、環状の摺動部材12aおよび筒状の補強部材12bから構成されている。摺動部材12aの材質は、カーボンやSiCであり、補強部材12bの材質は、チタン等の金属である。摺動部材12aは、その後端側(軸方向機内側)が補強部材12bに焼嵌め等によって内嵌固定されている。
【0043】
回転環12は、筒状の取付部材であるスリーブ21を介して、回転軸3に取り付けられている。回転環12は、シールケース7内において、回転軸3に外嵌固定されたスリーブ21を包囲するように、スリーブ21にOリング25を介して連結(外嵌)されている。
【0044】
回転環12は、軸方向において静止環11と対向するように軸方向機内側に配置されている。回転環12は、第1シール面17に対応する第2シール面(摺動面)26を有している。より具体的には、摺動部材12aの先端面(軸方向機外側の端面)が第2シール面26となる。
【0045】
回転環12の第2シール面26は、第1シール面17と摺接可能な形状とされている。第2シール面26は、付勢部材30によって回転環12の側に軸方向に押圧されている静止環11の第1シール面17と対向しかつ接触するように配置されている。このように第2シール面26が第1シール面17と接触した状態で回転軸3が回転することにより、静止環11と回転環12との間に摺動部13が形成される。
【0046】
回転環12は、固定ピン28により、スリーブ21に対して回り止めされている。本実施形態において、補強部材12bは、ピン孔27を有している。ピン孔27には、スリーブ21の外周壁に固定された固定ピン28が挿通されている。こうして、回転環12(補強部材12bおよびこれに内嵌固定された摺動部材12a)が、スリーブ21(回転軸3)に対して、回転軸3の軸方向に相対移動不能とされるとともに、一体的に回転可能とされている。
【0047】
これにより、メカニカルシール10は、回転軸3の回転に伴って静止環11の第1シール面17を回転環12の第2シール面26に摺接させて、静止環11と回転環12との間の摺動部13を生じさせる。したがって、被密封流体を機内領域Aに密封し、被密封流体が機外領域Bへ漏れることを防止できる。
【0048】
図3に、
図1の別の部分拡大図を示す。
【0049】
図1、
図2および
図3に示すように、軸封装置1は、メカニカルシール10のほか、冷却機構40を備えている。冷却機構40は、メカニカルシール10における静止環11と回転環12との間の摺動部13を冷却するためのものである。冷却機構40は、導入流路51と、導出流路56とを有している。導入流路51は、第1導入流路43と第2導入流路55とから構成される。
【0050】
本実施形態において、冷却機構40は、静止環11と回転環12との間の摺動部13を冷却するために、機内領域Aに存在する被密封流体を用いる。被密封流体は、例えば水であり、被密封流体はスタフィングボックス内の環状空間に溜めこまれた状態でケーシング2内に存在し得るものである。
【0051】
後方領域41は、機内領域Aのうち、メカニカルシール10の軸方向機内側の側方を含む領域であり、導入流路51の入口51aおよび導出流路56の出口56bが臨む領域である。
【0052】
後方領域41には、導入流路51の入口51a付近の領域であって、スリーブ21の軸方向機内側の端部の内周面と回転軸3の外周面との間に形成された環状の領域である、冷却機構40の入口領域47が含まれる。
【0053】
後方領域41は、導入流路51(第1導入流路43および第2導入流路55)および導出流路56を間に挟んで、後述する前方領域42と連通している。
【0054】
後方領域41は、その径方向の幅が軸方向機内側に向かうに従って狭くなるように形成されている。
【0055】
本実施形態において、後方領域41は、シールケース7および冷却ジャケット61の内周面と、回転軸3の外周面との間に形成されている環状の領域である。後方領域41は、軸方向機内側に連続して形成されている環状の隙間66を介して、本体ケース5内の機器領域35と連通している。こうして、前記所定の機器で取り扱われる流体が被密封流体として機器領域35から後方領域41に導入され得るようになっている。
【0056】
前方領域42は、機内領域Aのうち、メカニカルシール10の静止環11と回転環12との間の摺動部13の径方向外方を含む領域であり、導入流路51の出口51bおよび導出流路56の入口56aが臨む領域である。
【0057】
前方領域42には、導入流路51の出口51b付近の領域であって、静止環11と回転環12との間の摺動部13と径方向外方において対向する領域である、対向領域48が含まれる。
【0058】
前方領域42は、導入流路51(第1導入流路43および第2導入流路55)および導出流路56を間に挟んで、後方領域41と連通している。
【0059】
本実施形態において、前方領域42は、シールケース7内において、シールケース7の内周面とメカニカルシール10の外周面との間に形成されている環状の領域である。
【0060】
第1導入流路43、第2導入流路55および導出流路56は、後方領域41と前方領域42との間に形成されている。
【0061】
第1導入流路43は、回転環12(補強部材12b)に形成された、径方向に延びる放射状の孔から構成されている。第1導入流路43は、径方向内側において後方領域41に開口し、かつ、径方向外側において第2導入流路55と接続されている。第1導入流路43は、後方領域41に存在する被密封流体を第2導入流路55へ導くためのものである。
【0062】
第1導入流路43は、回転部材である回転環12に形成されているため、回転軸3の回転により第2導入流路55にポンピング作用が生じて、被密封流体は、後方領域41から前方領域42へ強力に流動する。
【0063】
本実施形態において、第1導入流路43は、スリーブ21とこれに外嵌された補強部材12bとにわたって設けられている。第1導入流路43は、スリーブ21および補強部材12bに連続的に貫設された貫通孔から構成されている。
【0064】
第1導入流路43は、スリーブ21および補強部材12bの軸方向機内側において径方向に直線状に延在するように形成されている。第1導入流路43は、その延在方向の全域にわたって略一定の流路断面積を有している。第1導入流路43は、1つまたは複数設けられている。第1導入流路43は、スリーブ21および補強部材12bに複数備えられる場合、周方向に所定間隔ごとに配置される。
【0065】
第1導入流路43の延在方向一端部(径方向内側の端部)は、開口部からなり、スリーブ21の内周面に備えられている。第1導入流路43の延在方向他端部(径方向外側の端部)は、開口部からなり、補強部材12bの外周面に備えられている。そして、第1導入流路43の一端部は、導入流路51の入口51aとなり、後方領域41と連通するとともに、第1導入流路43の他端部は、第2導入流路55と連通している。
【0066】
第2導入流路55は、回転環12(補強部材12b)の径方向外方に回転環12と連結して設けられている筒状部材としてのフローガイド44の内周面と回転環12の外周面との間に形成された、軸方向に延びる環状の間隙から構成されている。第2導入流路55は、軸方向機内側において前記第1導入流路43と接続され、かつ、軸方向機外側において前記前方領域42に開口している。第2導入流路55の一端部は、第1導入流路43と連通するとともに、第2導入流路55の他端部は、導入流路51の出口51bとなり、前方領域42と連通している。第2導入流路55は、第1導入流路43を流れてきた被密封流体を前方領域42(対向領域48)へ導くためのものである。
【0067】
第2導入流路55は、その延在方向の全域にわたって略一定の流路断面積を有している。
【0068】
第2導入流路55は、筒状部材としてのフローガイド44を追加するだけで、低コストかつ簡易に形成されている。
【0069】
導出流路56は、筒状部材としてのフローガイド44の外周面とケーシング2(シールケース7)の内周面との間に形成された、軸方向に延びる環状の間隙から構成されている。導出流路56は、軸方向機外側において前方領域42に開口し、かつ、軸方向機内側において後方領域41に開口している。導出流路56の一端部は、入口56aとなり、前方領域42と連通するとともに、導出流路56の他端部は、出口56bとなり、後方領域41と連通している。導出流路56は、前方領域42に存在する被密封流体を後方領域41へ導くためのものである。
【0070】
ここで、導出流路56は、連続して形成された軸方向機外側の第1導出流路56Aと軸方向機内側の第2導出流路56Bとから構成され、第1導出流路56Aは、その径方向の幅が軸方向機内側に向かうに従って狭くなるように形成され、第2導出流路56Bは、その径方向の幅が一定に形成されている。本実施形態において、導出流路56の外周側の流路壁は、シールケース7の内周面によって構成される。そして、第1導出流路56Aの径方向外方のシールケース7の内周面はテーパ内周面53であり、第2導出流路56Bの径方向外方のシールケース7の内周面は直線状内周面であることにより、第1導出流路56Aは、その延在方向の軸方向機内側に向かうに従って流路断面積が徐々に小さくなるように形成され、第2導出流路56Bは、その延在方向の全域にわたって流路断面積が略一定となるように形成されている。つまり、導出流路56は、軸方向機内側(後方領域41側)が絞られるように構成されている。
【0071】
導出流路56は、回転部材であるフローガイド44の径方向外方に形成されているため、回転軸3の回転により遠心力でシールケース7の内周面に到達した被密封流体は、テーパ内周面53に沿って軸方向機内側(後方領域41側)へ誘導される。
【0072】
フローガイド44は、機内領域Aを径方向に区画することにより、第2導入流路55および導出流路56をそれぞれ形成すべく、回転環12に取り付けられている。すなわち、フローガイド44は、機内領域A(前方領域42)の一部領域を複数の領域(ここでは、第2導入流路55および導出流路56)に分割するためのものである。
【0073】
本実施形態において、フローガイド44は、軸方向断面視でL字状を呈する筒状体から構成されており、スリーブ21とこれに外嵌された補強部材12bの軸方向機内側の側方から回転環12の径方向外方にわたって設けられている。
【0074】
フローガイド44は、連結部57と、ガイド部58とを有している。
【0075】
連結部57は、径方向に延在するように設けられている。連結部57は、スリーブ21および補強部材12bの軸方向機内側の側方(後方領域41側)においてそれらの側面に密着した状態で連結されている。
【0076】
ガイド部58は、連結部57の径方向外側の端部を基点として軸方向機外側へ延在するように設けられている。ガイド部58は、回転環12の径方向外方においてその外周面と隙間を有する状態で設けられている。ガイド部58は、回転軸3の径方向に関して、回転環12(摺動部材12aおよび補強部材12b)と所定間隔隔てて配置されるとともに、シールケース7と所定間隔隔てて配置されている。
【0077】
フローガイド44は、また、屈曲部59を有している。屈曲部59は、ガイド部58の軸方向機外側の端部を基点として軸方向機外側へ延在するように設けられている。屈曲部59は、その内径が第1導入流路43側から対向領域48側に向かうに従って小さくなるように先端が径方向内側に倒れ込む形状の環状に形成されている。屈曲部59は、対向領域48の手前付近まで延びるように、ガイド部58の軸方向機外側の端部に設けられている。屈曲部59は、第2導入流路55を流れる被密封流体を対向領域48に向かって流れやすくするためのものである。
【0078】
こうして、フローガイド44によって、機内領域Aが区画され、第2導入流路55および導出流路56に分割される。より具体的には、回転環12とフローガイド44(ガイド部58)との間の環状の領域に第2導入流路55が形成され、フローガイド44(ガイド部58)とシールケース7との間の環状の領域に導出流路56が形成される。
【0079】
熱交換部45は、後方領域41に存在する被密封流体を冷却するために当該被密封流体と熱交換を行うためのものである。熱交換部45は、冷媒としての冷却用流体Sが流入する冷却ジャケット61を備えており、例えば、タンクジャケット式の冷却ジャケット61を用いることができる。冷却ジャケット61は、後方領域41においてケーシング2(本体ケース5)の内周部に設けられている。本実施形態において、冷却ジャケット61は、径方向外側が開放された凹部を有する筒状のものであり、後方領域41の少なくとも一部を包囲するように、本体ケース5の内周面にOリングを介して内嵌されている。冷却ジャケット61は、本体ケース5の内周部の一部として備えられていてもよいし、シールケース7の内周部に設けられていてもよい。
【0080】
熱交換部45は、冷媒としての冷却用流体S(本実施形態においては、冷却水)を冷却用流体供給路63、冷却ジャケット61、冷媒冷却用流体排出路64の順に適宜流通させて、後方領域41に接する冷却ジャケット61中の冷却用流体Sと後方領域41中の被密封流体とが熱交換を行うように構成されている。
【0081】
このような構成により、軸封装置1においては、まず、前記所定の機器で取り扱われる流体(被密封流体)が後方領域41と前方領域42との間に溜めこまれる。そして、その状態が維持されたまま、前記所定の機器の運転により回転軸3と共に回転環12(摺動部材12aおよび補強部材12b)が回転すると、後方領域41の入口領域47に存在する被密封流体に遠心力が与えられる。
【0082】
そのため、入口領域47に存在する被密封流体が、第1導入流路43に径方向内側の一端部(導入流路51の入口51a)から流れ込む。この被密封流体は、第1導入流路43を流れて、その径方向外側の他端部を経て、第2導入流路55に送り出される。第2導入流路55に送り出された被密封流体は、フローガイド44に案内されつつ対向領域48に向かって第2導入流路55を流れる。
【0083】
対向領域48に到達した被密封流体は、静止環11と回転環12との間の摺動部13に触れた後、前方領域42の外周側を軸方向機内側へ転回するように導出流路56に向かって流れる。導出流路56に到達した被密封流体は、フローガイド44に案内されつつ後方領域41に向かって導出流路56を流れる。
【0084】
このような被密封流体の流動が、回転軸3が回転しているときに繰り返しつくりだされる。つまり、被密封流体が、後方領域41(入口領域47)、導入流路51(第1導入流路43および第2導入流路55)、前方領域42(対向領域48)、導出流路56、後方領域41の順に、後方領域41と前方領域42との間を循環することとなる。そして、被密封流体の循環時、後方領域41においては、被密封流体が、熱交換部45(冷却ジャケット61)と熱交換を行って、所定の温度以下となるように冷却されることとなる。
【0085】
したがって、被密封流体を、略前記所定の温度以下の状態で、後方領域41から第1導入流路43および第2導入流路55を介して前方領域42の対向領域48に到達させることが可能となる。よって、回転軸3の回転に伴って静止環11および回転環12が相対摺動することにより摺動部13に熱が生じるが、対向領域48において、被密封流体と摺動部13とで熱交換を行って、この摺動部13を冷却できる。
【0086】
すなわち、被密封流体を後方領域41と前方領域42との間に溜めこみつつ、回転軸3の回転により第1導入流路43等を用いて被密封流体の流れを引き起し、被密封流体を後方領域41と前方領域42との間で循環させることが可能となる。そして、その被密封流体が、前方領域42を流動する際に、対向領域48において摺動部13に接触して、摺動部13において発生した熱を吸収することにより、摺動部13が冷却される。つまり、対向領域48は、被密封流体が熱を吸熱する吸熱領域となる。
【0087】
また、後方領域41において、被密封流体は前方領域42において吸収した熱を冷却ジャケット61を介して冷却用流体Sに放出することにより、被密封流体が冷却される。つまり、後方領域41は、被密封流体が熱を放熱する放熱領域となる。これにより、前方領域42(対向領域48)に向かって流れる前の段階にある被密封流体の温度を、前記所定の温度以下にした状態で維持できる。したがって、前方領域42(対向領域48)において、被密封流体と摺動部13とで熱交換を確実に行わせ、摺動部13を継続して冷却できる。
【0088】
そのため、軸封装置1によれば、メカニカルシール10における静止環11と回転環12との間の摺動部13を冷却するために、この摺動部13において発生する熱を除去するための付帯設備を別途設置する必要があるフラッシング等の従来の冷却手段を採用せずに済む。よって、摺動部13の冷却を低コストで実施できる。
【0089】
さらに、軸封装置1によれば、被密封流体を後方領域41と前方領域42との間で循環させて、熱交換を行わせ、摺動部13を冷却することとなる。つまり、主として前方領域42と後方領域41との間で閉じた熱サイクルを回すことができるので、軸封装置1が適用された機器の熱効率を損なわないものにできる。
【0090】
また、本実施形態においては、第1導入流路43は、回転環12の軸方向機内側に形成された、径方向に延びる放射状の孔から構成されている。したがって、回転軸3の回転により第1導入流路43にポンピング作用が生じて、被密封流体を後方領域41から前方領域42へ強力に流動させることができる。そのため、被密封流体を後方領域41と前方領域42との間で円滑に循環させることができる。
【0091】
また、本実施形態においては、第2導入流路55は、回転環12にそれと連結して設けられている筒状部材としてのフローガイド44の内周面と回転環12の外周面との間に形成された、軸方向に延びる環状の間隙から構成されている。したがって、低コストかつ簡易に第2導入流路55を形成することができる。
【0092】
また、本実施形態において、後方領域41が、被密封流体を回転軸3の外周面と冷却ジャケット61の内周面との環状の隙間66を介して導入し得るように構成されている。
【0093】
そして、
図3に示すように、隙間66には、ラビリンスシール67が設けられている。
【0094】
ラビリンスシール67は、複数の環状凸部68と複数の環状凹部69とを有し、環状を呈するように構成されている。複数の環状凸部68は、軸方向に並置され、各々が回転軸3に向かって突出するように冷却ジャケット61の内周面に設けられている。複数の環状凹部69は、各々が隣り合う環状凸部68の間に位置するように冷却ジャケット61の内周面に設けられている。このように、ラビリンスシール67は、クランク状に曲折した断面形状を有している。つまり、冷却ジャケット61の内周面にラビリンスシール用のフィンが設けられている。
【0095】
被密封流体が、隙間66を通って、一旦本体ケース5側(機器領域35)から後方領域41および前方領域42に導入されると、これら両者間で被密封流体の入れ替わりが起きるのを阻害できる(即ち、後方領域41および前方領域42中の被密封流体を本体ケース5側から極力隔離できる)ようになっている。つまり、機内領域Aの軸封部の領域(スタフィングボックス内)とそれよりも機内側の領域との間での被密封流体の流動を遮ることができるようになっている。
【0096】
したがって、被密封流体を、前記所定の温度以下に保持しつつ、後方領域41および前方領域42に溜めこむことが可能となる。そして、概ねこれらの後方領域41および前方領域42中に溜めこまれた被密封流体のみを用いて、静止環11と回転環12との間の摺動部13を冷却できる。よって、後方領域41において冷却された被密封流体が軸封部よりも機内側の領域に流入して、軸封装置1が適用された機器の熱効率に悪影響が生じることを抑制できる。また、軸封部よりも機内側の領域に存在する高温の被密封流体が後方領域41に流入して、後方領域41における冷却作用に悪影響が生じることを抑制できる。
【0097】
なお、第1導入流路43は、本実施形態においてはスリーブ21および補強部材12bに設けているが、回転軸の回転に伴い前述のような送出作用(ポンピング作用)を奏し得る回転部材に設ければよい。
【0098】
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0099】
図4に、本発明の第2実施形態に係る軸封装置71を示す。
図5に、
図4の部分拡大図を示す。なお、以下では、第1実施形態に係る軸封装置1と実質的に同一の構成には、同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0100】
本実施形態に係る軸封装置71は、第1実施形態に係る軸封装置1に備えるメカニカルシール10が静止形であるのに対して当該軸封装置71に備えるメカニカルシール80が回転形である点で、第1実施形態に係る軸封装置1と相違する。なお、軸封装置71におけるメカニカルシール80は、メカニカルシール10と同様にインサイド形である。
【0101】
図4および
図5に示すように、メカニカルシール80において、静止環11は、シールケース7に固定されるように、ケーシング2に取り付けられている。回転環12は、スリーブ21を介して回転軸3に取り付けられている。回転環12の軸方向機内側の側方には、環状カラー82と、背面側環状部材としてのスプリングリテーナ83と、付勢部材30とが備えられている。
【0102】
環状カラー82は、シールケース7内において、スリーブ21に外嵌固定され、かつ、回転環12(補強部材12b)の軸方向機内側の側方においてその側面に密着した状態で連結されている。
【0103】
スプリングリテーナ83は、スリーブ21に外嵌固定され、かつ、環状カラー82の軸方向機内側の側方においてその側面と所定間隔離間した状態で設けられている。
【0104】
付勢部材30は、静止環11と回転環12との間に摺動部13が形成されるように、回転環12を静止環11に接近する方向に付勢するものである。付勢部材30は、スプリングリテーナ83に形成された軸方向に延びるスプリング穴に保持されている。そして、付勢部材30は、回転環12(補強部材12b)の背面(軸方向機内側の側面)を押圧している。こうして、回転環12(補強部材12bおよびこれに内嵌固定された摺動部材12a)および環状カラー82が、スリーブ21(回転軸3)に対して、回転軸3の軸方向に相対移動可能とされるとともに、一体的に回転可能とされている。
【0105】
これにより、メカニカルシール80は、回転軸3の回転に伴って回転環12の第2シール面26を静止環11の第1シール面17に摺接させて、静止環11と回転環12との間の摺動部13を生じさせる。したがって、被密封流体を機内領域Aに密封し、被密封流体が機外領域Bへ漏れることを防止できる。
【0106】
そして、冷却機構40が、導入流路51と、導出流路56とを有している。導入流路51は、第1導入流路85と第2導入流路55とから構成される。
【0107】
第1導入流路85は、スプリングリテーナ83に形成された、径方向に延びる放射状の孔から構成されている。第1導入流路85は、径方向内側において後方領域41に開口し、かつ、径方向外側において第2導入流路55と接続されている。第1導入流路85は、後方領域41に存在する被密封流体を第2導入流路55へ導くためのものである。
【0108】
本実施形態において、第1導入流路85は、スリーブ21と、これに外嵌されたスプリングリテーナ83とに設けられている。第1導入流路85は、スリーブ21とスプリングリテーナ83とに連続的に貫設された貫通孔から構成されている。
【0109】
第1導入流路85は、スリーブ21の軸方向機内側およびスプリングリテーナ83の軸方向中央側において径方向に直線状に延在するように形成されている。第1導入流路85は、その延在方向の全域にわたって略一定の流路断面積を有している。第1導入流路85は、1つまたは複数設けられている。第1導入流路85は、スリーブ21およびスプリングリテーナ83に複数備えられる場合、周方向に所定間隔ごとに配置される。
【0110】
第1導入流路85の延在方向一端部(径方向内側の端部)は、開口部からなり、スリーブ21の内周面に備えられている。第1導入流路85の延在方向他端部(径方向外側の端部)は、開口部からなり、スプリングリテーナ83の外周面に備えられている。そして、第1導入流路85の一端部91は、導入流路51の入口51aとなり、後方領域41と連通するとともに、第1導入流路85の他端部は、第2導入流路55と連通している。
【0111】
フローガイド86は、軸方向断面視でL字状を呈する筒状体から構成されており、スリーブ21とこれに外嵌されたスプリングリテーナ83の軸方向機内側の側方から回転環12の径方向外方にわたって設けられている。
【0112】
フローガイド86は、連結部95と、ガイド部96とを有している。
【0113】
連結部95は、径方向に延在するように設けられている。連結部95は、スリーブ21およびスプリングリテーナ83の軸方向機内側の側方(後方領域41側)においてそれらの側面に密着した状態で連結されている。
【0114】
ガイド部96は、連結部95の径方向外側の端部を基点として軸方向機外側へ延在するように設けられている。ガイド部96は、回転環12の径方向外方においてその外周面と隙間を有する状態で設けられている。ガイド部96は、回転軸3の径方向に関して、回転環12(摺動部材12aおよび補強部材12b)と所定間隔隔てて配置されるとともに、シールケース7と所定間隔隔てて配置されている。
【0115】
こうして、フローガイド86によって、機内領域Aが区画され、第2導入流路55および導出流路56に分割される。より具体的には、回転環12とフローガイド86(ガイド部96)との間の環状の領域に第2導入流路55が形成され、フローガイド86(ガイド部96)とシールケース7との間の環状の領域に導出流路56が形成される。
【0116】
このような構成により、第1実施形態による作用効果と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、第2実施形態においても、メカニカルシール80における静止環11と回転環12との間の摺動部13の冷却を低コストで実施できる。さらに、軸封装置71が適用された機器の熱効率を損なわないものにできる。
【0117】
なお、上述の教示を考慮すれば、本発明が多くの変更形態および変形形態をとり得ることは明らかである。したがって、本発明が、添付の特許請求の範囲内において、本明細書に記載された以外の方法で実施され得ることを理解されたい。
【0118】
例えば、第1導入流路43または85は、回転環12やスプリングリテーナ83に形成されていなくてもよく、回転環12の軸方向機内側の側方に設けられている他の背面側環状部材(例えば環状カラー82)に形成されていてもよい。また、軸封装置1または71において、スリーブ21が設けられていなくてもよく、メカニカルシール10または80の回転部材がスリーブ21を介することなく回転軸3に直接取り付けられていてもよい。また、ラビリンスシール用のフィンは、冷却ジャケット61の内周面ではなく回転軸3の外周面に設けられていてもよいし、冷却ジャケット61の内周面および回転軸3の外周面の双方に設けられていてもよい。