特許第6886860号(P6886860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6886860高圧噴射撹拌工法における地盤改良範囲確認方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886860
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】高圧噴射撹拌工法における地盤改良範囲確認方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20210603BHJP
   G01N 29/14 20060101ALI20210603BHJP
   G01N 29/42 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   E02D3/12 102
   G01N29/14
   G01N29/42
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-104114(P2017-104114)
(22)【出願日】2017年5月26日
(65)【公開番号】特開2018-199913(P2018-199913A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】392012261
【氏名又は名称】東興ジオテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 誠
(72)【発明者】
【氏名】堤 公平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宙
【審査官】 彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−002464(JP,A)
【文献】 特許第3673847(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0222619(US,A1)
【文献】 特開2011−226082(JP,A)
【文献】 特開2012−062626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
G01N 29/14
G01N 29/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造成管により流体を高圧噴射して地盤改良を行う高圧噴射撹拌工法における地盤改良範囲を確認する方法であって、
前記造成管と平行に延在するように計測体を地盤中に建て込み、
前記造成管から噴射された高圧噴射体が前記計測体に接触することにより該計測体に発生する弾性波を該計測体の頭部に取り付けられた弾性波センサにより検知し、
検知された弾性波の高周波成分を基に地盤改良範囲を確認することを含み、
前記高周波成分が50kHz〜1000kHzの範囲に含まれることを特徴とする
高圧噴射撹拌工法における地盤改良範囲確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧噴射撹拌工法において地盤改良範囲を確認する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良工法の一つとして高圧噴射撹拌工法が知られており、地盤に造成管を建て込み、造成管を回転しつつ硬化材を高圧噴射することにより地盤を切削して土粒子と硬化材を撹拌混合させ、硬化材を硬化させることによって地盤改良体を造成する。硬化材が到達した範囲が地盤改良範囲となる。当該工法には幾つかのバリエーションがあり、地盤切削のために水の高圧噴射を組み合わせる場合もある。よって高圧噴射撹拌工法において高圧噴射される流体(以下「高圧噴射体」と称する)としては、硬化材と水がある。
【0003】
高圧噴射撹拌工法における地盤改良範囲は、標準的な施工仕様により予め設定される。例えば、対象地盤の調査ボーリングにより得られるN値や粘着力を基に過去の実績から設定される。しかしながら、調査ボーリングは地盤改良範囲の一部若しくは点のみの情報であり十分とはいえない。従って、施工後にチェックボーリングを行って地盤改良体の径を確認することが行われているが、この方法は事後確認であるので、施工不良が判明した場合には、再施工となり、多くの日数や工事費用が必要となる。
【0004】
そこで、施工中に地盤改良範囲をリアルタイムで確認する方法として、特許文献1では、造成管と平行に地盤に建て込んだ建込み管内に集音マイクを挿入し、造成管の上昇に合わせて集音マイクを巻き上げ、高圧噴射体が建込み管に当たる音をモニタリングすることにより地盤切削状況を計測する方法が提示されている。
【0005】
なお、全く別の技術分野であるが、弾性波を用いたコンクリート構造物、鋼構造物、岩盤等の非破壊探査方法が知られている。特許文献2では、打撃ハンマにより探査対象物を打撃し、その反射波である弾性波をAEセンサや加速度計等のセンサにより受信し、受信データを基に探査対象物の内部の亀裂の位置や大きさを特定する方法が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−62626号公報
【特許文献2】特許第2877759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の集音マイクによる地盤改良範囲の確認方法では、集音マイクを挿入可能な管径の建込み管を建て込む必要がある上、集音マイクを造成管の上昇に合わせて巻き上げる設備及び制御が必要である。さらに、音声のモニタリングでは、雑音も感知するため高圧噴射体と建込み管との接触状況を明確に把握することが困難である。
【0008】
以上の現状に鑑み本発明は、高圧噴射撹拌工法において施工中にリアルタイムで地盤改良範囲を簡易かつ正確に確認することが可能な方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の構成を提供する。
・ 本発明の態様は、造成管により流体を高圧噴射して地盤改良を行う高圧噴射撹拌工法における地盤改良範囲を確認する方法であって、
前記造成管と平行に延在するように計測体を地盤中に建て込み、
前記造成管から噴射された高圧噴射体が前記計測体に接触することにより該計測体に発生する弾性波を該計測体の頭部に取り付けられた弾性波センサにより検知し、
検知された弾性波の高周波成分を基に地盤改良範囲を確認することを含み、
前記高周波成分が50kHz〜1000kHzの範囲に含まれること特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、頭部に弾性波センサを取り付けた計測体を、造成管と平行に延在するように地盤中に建て込み、計測体に対する高圧噴射体の接触によって発生する弾性波を、弾性波センサにより検知することで、高圧噴射体の到達位置をリアルタイムに確認することができる。計測体及びその頭部に取り付けられた弾性波センサのみで検知することにより、簡易な構成とすることができる。また、検知された弾性波の高周波成分に基づいて判定することにより、雑音の無い極めて明確な判定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、高圧噴射撹拌工法における地盤改良範囲確認方法の実施形態の一実施例を概略的かつ模式的に示した構成図である。
図2図2は、図1の実施例を用いて本発明の計測原理を説明する図であり、(a)は地盤中において噴射ノズルより上の位置から視た平面図であり、(b)は(a)の場合に得られる計測データを模式的に示している。
図3図3(a)〜(e)は、本発明による高圧噴射撹拌工法における地盤改良範囲確認方法の実施フローの一例を示した図である。
図4図4は、検知された弾性波の電圧信号から高周波成分を抽出した実測データの一例を示す。
図5図5は、図4の計測時の状況を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施例を示した図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、高圧噴射撹拌工法における地盤改良範囲確認方法の実施形態の実施例を概略的かつ模式的に示した構成図である。
【0013】
高圧噴射撹拌工法の造成管11は、削孔マシン13により地盤に建て込まれかつこれにより支持されており、施工状況に合わせて下降又は上昇及び回転させられる。図示しないが、造成管11の頭部には、高圧噴射体Jの供給ラインが接続され、施工状況に合わせて硬化材が供給される。地盤切削のために水が供給される場合もある。
【0014】
造成管11の先端近傍には、噴射ノズル12が形成されている。造成管11は、噴射ノズル12から高圧噴射体Jを高圧噴射しつつ回転することにより、周囲地盤を切削するとともに周囲地盤中に高圧噴射体Jを撹拌・混合させる。図示の例では噴射ノズル12は1つであるが、別の例では互いに反対側に2つの噴射ノズルを設けてもよい。また造成管11の回転は、一方向への連続回転でもよく、一周毎に方向を転換する揺動回転でもよい。
【0015】
高圧噴射体Jが硬化材である場合、造成管11を回転させつつ徐々に引き上げる。周囲地盤の土粒子と撹拌混合された硬化材が硬化することにより造成管11の周囲に地盤改良体Cが造成される。理想的には、造成管11から全方位に均等な距離で硬化材が到達することによってほぼ円柱状の地盤改良体が造成される。
【0016】
本発明では、造成管11と平行に延在するように計測体2A、2B、2C、2Dが地盤中に建て込まれている。地上に露出した各計測体の頭部には、それぞれ弾性波センサ3A、3B、3C、3Dが取り付けられている。高圧噴射体Jが計測体に到達して接触すると、その接触点において計測体に弾性波が発生する。弾性波とは、弾性体を構成する物質に発生する変形波である。発生した弾性波が計測体の頭部まで伝搬し、これを弾性波センサが検知する。
【0017】
弾性波センサは、例えばAEセンサ又は加速度計等であり、弾性波による変位、変位速度及び/又は変位加速度が電気信号に、例えば電圧信号に変換されて出力される。各弾性波センサから出力される電圧信号は、管理装置4へそれぞれ送信される。
【0018】
管理装置4は、一般的にコンピュータで構成される。管理装置4は、各弾性波センサが検知した弾性波に対応する電圧信号を受信し、これらを統合してデータ処理し、その結果を表示及び/又は記憶する。
【0019】
検知される弾性波に含まれる周波数はほぼ1kHz〜1000kHzの範囲に分布するが、本発明ではデータ処理によりこの範囲から高周波成分を抽出する。好適には、50kHz〜1000kHzの高周波成分を抽出する。有意な大きさの高周波成分が確認された場合、高圧噴射体Jが計測体に接触したと判定される。これにより、ユーザは施工状況をリアルタイムに把握することができる。その結果、ユーザは、リアルタイムで現地地盤状況に適した改良体配置の設定や変更を行ったり、施工仕様を確認したりすることが可能となる。
【0020】
計測体は、長尺の棒体又は管体であり、鋼、鉄、コンクリート等、弾性波を伝搬可能なものであればよい。ほとんどの固体材料は多かれ少なかれ弾性を有する弾性体であり弾性波を発生するので、計測体の材質は限定されない。しかしながら、地盤への建込み及び計測後の回収が容易であることから、鋼棒が計測体として好適である。計測体の横断面の形状及び大きさは建込み可能な程度であればよく、長さは対象地盤の深度により、すなわち造成管の長さにより決定される。
【0021】
図1の例では、4本の計測体2A、2B、2C、2Dが、造成管11からそれぞれ異なる距離にて90度間隔で配置されている。この例では、地盤改良体Cの径を確認するために、4本の計測体を改良予定範囲の径の長さの前後にそれぞれ配置している。計測体の数、各計測体の造成管11からの距離及び軸周りの角度位置については、必要に応じて適宜設定される。
【0022】
図2は、図1の実施例を用いて本発明の計測原理を説明する図であり、(a)は地盤中において噴射ノズルより上の位置から視た平面図であり、(b)は(a)の場合に得られる計測データを模式的に示している。
【0023】
図2(a)の平面図では、P0の角度位置で造成管11の噴射ノズル12から噴射を開始し、高圧噴射体Jを噴射しつつ造成管11が一定速度で一回転する様子を示している。地盤改良体C(この時点では未硬化)の外縁は、高圧噴射体Jの最大到達位置を示す。この例では、改良予定範囲を平面視した円周において、計測体2Aは円周のやや内側に、計測体2Bは円周の外側に接して、計測体2Cは円周のやや外側に、計測体2Dは円周上に配置されている。
【0024】
角度位置P1及びP4では、高圧噴射体Jがそれぞれ計測体2A及び2Dまで到達して接触し、これらの計測体に弾性波を発生させる。一方、角度位置P2及びP3では、高圧噴射体Jが計測体2B及び2Cまで到達しないので、弾性波は発生しない。
【0025】
各弾性波センサにより検知された弾性波の高周波成分をそれぞれ抽出し、重ね合わせることにより、図2(b)のような計測データが得られる。横軸は時間軸T、縦軸は電圧Vである。高圧噴射体Jが角度位置P1及びP4を通過する時点で弾性波が検知される。弾性波の電圧信号の高周波成分は、図示のようにほとんど幅のないほぼ1本の直線状のピークとして現れる。角度位置P2及びP3では弾性波を生じないので高周波成分は零である。このように、有意な大きさの弾性波が検知されるか否かによって高圧噴射体が予定の位置に到達したか否かを極めて明確に確認できる。すなわち、有意な大きさの弾性波が検知された場合、造成管から当該計測体までの範囲は改良範囲であると確認できる。
【0026】
図3(a)〜(e)は、本発明による高圧噴射撹拌工法における地盤改良範囲確認方法の実施フローの一例を示した図である。
【0027】
図3(a)では、先ず、削孔マシン13とケーシング14により計測体建て込み用の穴を削孔する。計測体の数及び各々の位置は、予定される地盤改良範囲に応じて、高圧噴射体Jの到達を確認したい位置に適宜配置する。
【0028】
図3(b)では、削孔した穴に計測体2Aを建て込む。計測体2Aの頭部は、地表から例えば1m程度露出するようにする。
【0029】
図3(c)では、削孔マシン13に造成管11をセットし、造成管11により予定の深度まで削孔する。計測体2Aの下端は、造成管11の下端と同じか又はそれより下に位置することが好ましい。
【0030】
図3(d)では、計測体2Aの頭部に弾性波センサ3Aを取付け、信号ラインを管理装置4に接続する。
【0031】
図3(e)では、造成管11に高圧噴射体Jを供給し、先端の噴射ノズル12から高圧噴射を開始する。同時に造成管11を、一定速度で一方向回転又は揺動回転させつつ上昇させる。高速噴射体Jが計測体2Aに接触した際に計測体2Aに弾性波が発生し、発生した弾性波が頭部まで伝搬し、これを弾性波センサ3Aが検知する。弾性波センサ3Aは検知した弾性波を電圧信号に変換し、管理装置4に送る。
【0032】
管理装置4では、受信した電圧信号の高周波数成分をフィルタリング等の処理を行って抽出する。その後、管理装置4は、高周波成分からなる電圧信号を時間軸に沿って表示画面に表示する。一例として、複数の弾性波センサの各々から電圧信号を得た場合は、高周波成分をそれぞれ抽出した後、それらを重ね合わせて1つの時間軸上に表示する。別の例として、複数の弾性波センサにそれぞれ対応する複数の時間軸を並べて表示し、各時間軸上に各高周波成分を表示してもよい。
【0033】
図4は、検知された弾性波の電圧信号から高周波成分を抽出した実測データの一例を示す。図5は、図4の計測状況を模式的に説明する図である。
【0034】
図4に示すように、高圧噴射体Jが計測体2Aの角度位置を通過する各時点P1、P2、P3、P4において、瞬間的に大きな振幅をもつ電圧信号が観測されている。
【0035】
図5に示すように、本例では造成管11が5rpmの一定速度で揺動回転を行いつつ噴射ノズル12から高圧噴射体Jを噴射している。角度位置P0が噴射の開始位置であり、その後の揺動の方向転換位置でもある。角度位置P0から45度離れた角度位置に1本の計測体2Aが配置されている。計測体2Aは、予定した地盤改良範囲の外縁よりやや内側に位置する。図5中に、造成管11が5rpmで60秒間揺動回転する際、計測体2Aの角度位置を高圧噴射体Jが通過する各時点P1、P2、P3、P4、P5の間の経過時間を示している。
【0036】
図4の計測データから、高圧噴射体Jが予定した地盤改良範囲に到達していることが確認できる。
【0037】
高圧噴射体Jが硬化材である場合、硬化材を噴射しつつ造成管11を上昇させていく間、計測データのモニタリングを継続する。仮に改良予定範囲において、地中障害等の影響で硬化材が計測管に到達せず電圧信号が検知されなくなったときは、造成管11の次の造成位置を予定位置から変更することにより、高圧噴射体Jが到達しなかった地点をカバーすることもできる。
【0038】
なお、造成管11に噴射ノズル12が2つ設けられている場合、弾性波の検知信号の数が2倍となる。また、回転速度を変更した場合、弾性波の検知信号の間隔が変化する。いずれの場合も検知信号が観測される時点は、規則的であるので容易に判別することができる。
【符号の説明】
【0039】
11 造成管
12 噴射ノズル
13 削孔マシン
14 ケーシング
2A、2B、2C、2D 計測体
3A、3B、3C、3D 弾性波センサ
4 管理装置
J 高圧噴射体
C 地盤改良体
図1
図2
図3
図4
図5