(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記移動フーリエ変換の結果から、所定の周波数帯域における前記エネルギー減衰曲線の平均を求めることにより、前記所定の周波数帯域に対応するエネルギー減衰曲線を求め、
該エネルギー減衰曲線から得られる回帰直線の傾きに応じて、前記対象空間における前記所定の周波数帯域の音の減衰時間を求める、
請求項1又は請求項2に記載の減衰時間分析方法。
前記移動フーリエ変換の結果から、複数の異なる周波数帯域又は複数の異なる周波数における前記エネルギー減衰曲線の平均を求めることにより、前記複数の異なる周波数帯域又は前記複数の異なる周波数に対応するエネルギー減衰曲線を求め、
該エネルギー減衰曲線から得られる回帰直線の傾きに応じて、前記対象空間における、前記複数の異なる周波数帯域又は前記複数の異なる周波数の音の減衰時間を求める、
請求項1又は請求項2に記載の減衰時間分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
<減衰時間分析システムの構成>
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る減衰時間分析システム100の構成の一例を示すブロック図である。減衰時間分析システム100は、対象空間の音の減衰時間を計算する。対象空間の音とは、対象空間において発せられた音であって、例えば、人の声や楽器によって発せられた音である。
【0017】
対象空間における音の減衰時間は、減衰特性を規定する物理量である。また、音の減衰時間は、減衰という過渡状態の特性を表すだけでなく、音が発せられた後に定常状態のエネルギーが減衰するという過程を辿るため、定常状態のエネルギーの大きさにも関係する。対象空間で発せられた音により発生する音場の一例としては、室内音場が挙げられる。
なお、減衰という現象は、例えば、有限物体中の振動場をはじめとする、あらゆる波動場に共通の現象であり、それらの減衰時間についても、音場の減衰時間と同様の規定が可能である。
【0018】
音場の性質を把握するためには、減衰時間を正確に計算する必要がある。一般的に、減衰特性は周波数に依存するため、音場の応答信号を各周波数帯域へ帯域分割することにより、各帯域に関する減衰時間を求めることができる。具体的には、帯域雑音を用いる方法とインパルスを用いる方法とが、減衰時間を求める方法として挙げられる。
【0019】
帯域雑音を用いる方法では、まず、帯域フィルタを雑音信号に対して施すことにより帯域制限された雑音信号をソース(例えば、スピーカ又は加振器)から出力し、音場が定常状態になった後に、帯域制限された雑音信号を停止させる。このとき、センサ(例えば、マイクロホン又は振動ピックアップ)により雑音信号に対する応答信号を収録し、応答信号から得られるエネルギー減衰曲線を観測し、エネルギー減衰曲線の勾配から、減衰時間を求める。
【0020】
また、インパルスを用いる方法では、まず、ソースからインパルス信号を出力し、ソースとセンサとの間のインパルス応答を測定する。次に、インパルス応答を帯域フィルタに通して帯域インパルスh
b(t)を求める。また、インパルス応答h
b(t)に対して以下の式(1)に示されるシュレーダー積分を行うことにより、エネルギー減衰曲線G
b(t)が得られる。そして、エネルギー減衰曲線G
b(t)の勾配から、減衰時間を求める。
【0022】
上述したように、帯域雑音を用いる方法及びインパルスを用いる方法を用いて減衰時間を求める場合には、帯域フィルタを用いる必要がある。しかし、帯域フィルタは狭帯域であるほど適切な特性の実現が難しいため、遮断特性が劣化することが多い。また、帯域フィルタはトランジェントが長いために原信号との畳み込みに時間を要する。
【0023】
そこで、本実施形態では、対象空間を単一正弦波で励起した音場のエネルギー減衰曲線から、所望の帯域における減衰時間を推定する。具体的には、本実施形態では、対象空間における音のインパルス応答の移動フーリエ変換を計算する。そして、移動フーリエ変換結果に応じて、特定の周波数に対応するエネルギー減衰曲線を求め、エネルギー減衰曲線から、対象空間における特定の周波数の音の減衰時間を求める。以下、具体的に説明する。
【0024】
減衰時間分析システム100は、機能的には、
図1に示されるように、受付部10、減衰時間分析装置20、及び出力部40を含んだ構成で表すことができる。
【0025】
受付部10は、外部から入力された情報を受け付ける。受付部10は、入力装置(図示省略)から入力された、対象空間における音のインパルス応答h(t)を受け付ける。また、受付部10は、入力装置から入力された特定の周波数を取得する。対象空間における音のインパルス応答h(t)は、例えば、対象空間に設置されたスピーカからインパルス信号を出力させ、マイクによって測定することにより、予め測定される。
【0026】
減衰時間分析装置20は、CPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ、ネットワークインタフェース等を含んだコンピュータによって実現される。減衰時間分析装置20は、機能的には、
図1に示されるように、応答結果取得部22と、移動フーリエ変換解析部24と、解析結果記憶部26と、周波数設定部27と、エネルギー曲線生成部28と、減衰レベル曲線生成部30と、平滑化部32と、分析区間設定部34と、回帰計算部36と、減衰時間計算部38とを含んだ構成で表すことができる。
【0027】
応答結果取得部22は、受付部10によって受け付けられた、対象空間における音のインパルス応答h(t)を取得する。
【0028】
対象空間における音のインパルス応答h(t)が取得されている場合、対象空間を周波数fの単一正弦波で励起したときのエネルギー減衰曲線G(f,t)とインパルス応答h(t)との間には、以下の式(2)の関係が成立する(例えば、参考文献(山田祐生、「室内音場の減衰周波数特性ならびに減衰密度に関する一考察」、日本音響学会講演論文集2016秋)を参照。)。
【0030】
上記式(2)の関係は、インパルス応答h(t)の移動フーリエ変換を求めた後、特定の周波数f
1の成分を抽出することにより、周波数f
1の単一正弦波で励起した音場のエネルギー減衰曲線が得られることを示している。なお、移動フーリエ変換とは、積分開始点tを可変とし、各tについてフーリエ変換を行うことである。上記式(2)における積分部分が、tについてのフーリエ変換に対応する。
【0031】
そのため、本実施形態では、インパルス応答h(t)の移動フーリエ変換を計算し、各周波数fについて、時間tを変数とするエネルギー減衰曲線G(f,t)を予め取得する。次に、各周波数fのエネルギー減衰曲線G(f,t)から、減衰時間の計算対象である特定の周波数f
1のエネルギー減衰曲線を取得する。そして、エネルギー減衰曲線G(f
1,t)に応じて、特定の周波数f
1の減衰時間を計算する。これにより、帯域フィルタを用いることなく、特定の周波数f
1の減衰時間を取得することができる。
【0032】
そこで、移動フーリエ変換解析部24は、応答結果取得部22によって取得されたインパルス応答h(t)に対して、移動フーリエ変換を行う。そして、移動フーリエ変換解析部24は、インパルス応答h(t)に対する移動フーリエ変換結果を解析結果記憶部26に格納する。
【0033】
解析結果記憶部26には、移動フーリエ変換解析部24によって得られた移動フーリエ変換結果が格納される。
図2に、インパルス応答に対する移動フーリエ変換結果の一例を示す。
図2に示されるように、インパルス応答に対する移動フーリエ変換によって、各周波数について時間を変数とするエネルギー減衰曲線が得られる。なお、
図2に示されるエネルギー減衰曲線は、レベル(dB)表示されている。
【0034】
周波数設定部27は、受付部10によって受け付けられた情報に応じて、特定の周波数f
1を設定する。例えば、減衰時間分析装置20の操作者によって、特定の周波数f
1に関する情報が受付部10へ入力される。
【0035】
エネルギー曲線生成部28は、解析結果記憶部26に格納された移動フーリエ変換結果から、周波数設定部27によって設定された特定の周波数f
1に対応するエネルギー減衰曲線G(f
1,t)を取得する。
【0036】
減衰レベル曲線生成部30は、エネルギー曲線生成部28によって取得されたエネルギー減衰曲線G(f
1,t)を対数表示させた、当該エネルギー減衰曲線G(f
1,t)の減衰レベル曲線を計算する。上記式(2)によって得られるエネルギー減衰曲線G(f
1,t)を対数表示(10log
10G(f,t))すると、減衰レベル曲線GL(f
1,t)が得られる。減衰レベル曲線の一例を
図3に示す。
図3に示されるように、減衰レベル曲線GLは、大局的には直線的に降下する形状となる。
【0037】
平滑化部32は、減衰レベル曲線生成部30によって計算された減衰レベル曲線GL(f
1,t)に対して時間平均処理を行い、減衰レベル曲線GL(f
1,t)の平滑化波形を得る。具体的には、平滑化部32は、所定の時間窓を設定し、減衰レベル曲線GL(f
1,t)を表す波形に対して時間窓内の値を平均することで、減衰レベル曲線GL(f
1,t)の平滑化波形を得る。
図3に示されるように、減衰レベル曲線GLは振動(揺らぎ)を伴うため、平滑化部32によって時間平均処理を施した平滑化波形Mを、以降の処理において用いる。
【0038】
分析区間設定部34は、平滑化部32によって得られた減衰レベル曲線の平滑化波形に対して、分析区間を設定する。具体的には、分析区間設定部34は、減衰レベル曲線の平滑化波形の減衰のレベル範囲に応じた時間範囲を表す所定の分析区間を設定する。分析区間は、例えば、予め設定されたレベル範囲(例えば、−5dB〜−35dB等)に応じて設定される。上記
図3に示される例では、減衰レベル曲線GLの平滑化波形Mの値が−10dB〜−35dBである分析区間が設定されている。
【0039】
回帰計算部36は、分析区間設定部34によって設定された分析区間における平滑化波形に基づいて、分析区間における平滑化波形の回帰直線を計算する。例えば、回帰計算部36は、分析区間における平滑化波形の勾配を最小二乗法によって求める。上記
図3に示される例では、分析区間に対して回帰直線Rが得られている。
【0040】
減衰時間計算部38は、回帰計算部36によって計算された回帰直線の傾きに基づいて、対象空間における特定の周波数の音の減衰時間を計算する。回帰計算部36によって計算された回帰直線Rの勾配を求めることにより、対象空間を特定の周波数である単一正弦波によって励起した場合の、対象空間の音の減衰時間が得られる。
【0041】
出力部40は、減衰時間計算部38によって計算された、対象空間における特定の周波数f
1の音の減衰時間を結果として出力する。出力部40は、例えば、ディスプレイ等によって実現され、特定の周波数f
1の音の減衰時間が表示される。
【0043】
次に、
図4を参照して、減衰時間分析システム100の作用を説明する。減衰時間分析システム100が起動し、受付部10によって対象空間におけるインパルス応答h(t)の入力が受け付けられると、減衰時間分析装置20は、
図4に示す減衰時間分析処理ルーチンを実行する。
【0044】
ステップS100において、応答結果取得部22は、受付部10によって受け付けられた、対象空間における音のインパルス応答h(t)を取得する。
【0045】
ステップS102において、移動フーリエ変換解析部24は、上記ステップS100で取得されたインパルス応答h(t)に対して、移動フーリエ変換を行う。そして、移動フーリエ変換解析部24は、インパルス応答h(t)に対する移動フーリエ変換結果を解析結果記憶部26へ格納する。
【0046】
ステップS103において、周波数設定部27は、受付部10によって受け付けられた情報に応じて、特定の周波数f
1を設定する。
【0047】
ステップS104において、エネルギー曲線生成部28は、上記ステップS102で解析結果記憶部26へ格納された移動フーリエ変換結果から、上記ステップS103で設定された特定の周波数f
1に対応するエネルギー減衰曲線G(f
1,t)を取得する。
【0048】
ステップS106において、減衰レベル曲線生成部30は、上記ステップS104で取得されたエネルギー減衰曲線G(f
1,t)に基づいて、エネルギー減衰曲線GL(f
1,t)の減衰レベル曲線GL(f
1,t)を計算する。
【0049】
ステップS108において、平滑化部32は、上記ステップS106で得られた減衰レベル曲線GL(f
1,t)に対して時間平均処理を行い、減衰レベル曲線GL(f
1,t)の平滑化波形を得る。
【0050】
ステップS110において、分析区間設定部34は、上記ステップS108で得られた減衰レベル曲線の平滑化波形に対して、分析区間を設定する。
【0051】
ステップS112において、回帰計算部36は、上記ステップS110で設定された分析区間における平滑化波形に基づいて、分析区間における平滑化波形の回帰直線を計算する。
【0052】
ステップS114において、減衰時間計算部38は、上記ステップS112で計算された回帰直線の傾きに基づいて、対象空間における特定の周波数f
1の音の減衰時間を計算する。
【0053】
出力部40は、減衰時間計算部38によって計算された、対象空間における特定の周波数f
1の音の減衰時間を結果として出力する。
【0054】
以上詳細に説明したように、第1の実施形態では、対象空間における音のインパルス応答の移動フーリエ変換の結果から、特定の周波数に対応するエネルギー減衰曲線を求め、当該エネルギー減衰曲線から得られる回帰直線の傾きに応じて、対象空間における特定の周波数の音の減衰時間を求める。これにより、周波数に応じた帯域フィルタを用いることなく、対象空間における特定の周波数の音の減衰時間を求めることができる。また、平滑化波形を用いて回帰直線を求めることにより、エネルギー減衰曲線から得られる減衰レベル曲線の時間変化が急激な場合であっても、対象空間における特定の周波数の音の減衰時間を精度よく求めることができる。
【0055】
従来手法を用いる場合には、複数の異なる周波数の音の減衰時間を計算する際には周波数毎に帯域フィルタを用意する必要がある。しかし、本実施形態によれば、対象空間におけるインパルス応答の移動フーリエ変換を求めておくことにより、対象空間における所望の周波数の音の減衰時間を求めることができる。
【0056】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態に係る減衰時間分析システムの構成は、第1の実施形態と同様の構成となるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0057】
第2の実施形態では、対象空間における音のインパルス応答の移動フーリエ変換の結果から、所定の周波数帯域におけるエネルギー減衰曲線の平均を求める。そして、所定の周波数帯域に対応するエネルギー減衰曲線から得られる回帰直線の傾きに応じて、対象空間における所定の周波数帯域の音の減衰時間を求める点が第1の実施形態と異なる。
【0058】
第2の実施形態の周波数設定部27は、受付部10によって受け付けられた情報に応じて、特定の周波数帯域f
1〜f
2を設定する。
【0059】
例えば、減衰時間分析装置20の操作者は、減衰時間を得たい特定の周波数帯域f
1〜f
2を設定し、特定の周波数帯域f
1〜f
2に関する情報を受付部10へ入力する。そして、周波数設定部27は、受付部10によって受け付けられた情報に応じて、特定の周波数帯域f
1〜f
2を設定する。
【0060】
エネルギー曲線生成部28は、解析結果記憶部26に格納された移動フーリエ変換結果から、周波数設定部27によって設定された特定の周波数帯域f
1〜f
2に対応するエネルギー減衰曲線を取得する。
【0061】
具体的には、エネルギー曲線生成部28は、上記式(2)の両辺を特定の周波数帯域f
1〜f
2について平均する。エネルギー曲線生成部28は、以下の式(3)の計算を実行することにより、積分範囲に該当する周波数帯域に対するエネルギー減衰曲線が近似的に得られる(例えば、参考文献(Takayuki Hidaka,Yoshinari Yamada, and Takehiko Nakagawa, ”A new definition of boundary point between early reflections and latereverberation in room impulse responses.”J.Acoust.Soc.Am. 122(1), 2007)を参照。)。
【0063】
上記式(3)により得られるエネルギー減衰曲線に対して、上記第1の実施の形態と同様に、エネルギー減衰曲線の減衰レベル曲線の平滑化波形を得て、分析区間を設定し、回帰直線を求めることで、特定の周波数帯域に関する減衰時間を求めることができる。
【0064】
なお、第2の実施の形態に係る減衰時間分析システムの他の構成及び作用については、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0065】
以上詳細に説明したように、第2の実施形態では、対象空間における音のインパルス応答の移動フーリエ変換の結果から、所定の周波数帯域におけるエネルギー減衰曲線の平均を求めることにより、所定の周波数帯域に対応するエネルギー減衰曲線を求める。そして、該エネルギー減衰曲線から得られる回帰直線の傾きに応じて、対象空間における所定の周波数帯域の音の減衰時間を求める。これにより、周波数帯域に応じた帯域フィルタを用いることなく、対象空間における特定の周波数帯域の音の減衰時間を求めることができる。
【0066】
従来手法を用いる場合には、周波数帯域の帯域幅を変更する場合、周波数帯域に応じた帯域フィルタを用意しなければならない。一方、第2の実施形態によれば、上記式(2)の移動フーリエ変換を一度求めておけば、上記式(3)で平均する周波数帯域f
1〜f
2を変えれば対応することができ、より詳細で多面的な減衰分析が可能となる。
【0067】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。なお、第3の実施形態に係る減衰時間分析システムの構成は、第1の実施形態と同様の構成となるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0068】
第3の実施形態では、対象空間における音のインパルス応答の移動フーリエ変換の結果から、複数の異なる周波数帯域におけるエネルギー減衰曲線の平均を求めることにより、複数の異なる周波数帯域に対応するエネルギー減衰曲線を求める。そして、複数の異なる周波数帯域に対応するエネルギー減衰曲線から得られる回帰直線の傾きに応じて、対象空間における、複数の異なる周波数帯域の音の減衰時間を求める点が第1又は第2の実施形態と異なる。
【0069】
第3の実施形態の周波数設定部27は、受付部10によって受け付けられた情報に応じて、複数の異なる周波数帯域f
11〜f
12,…,f
n1〜f
n2を設定する。
【0070】
例えば、減衰時間分析装置20の操作者は、減衰時間を得たい複数の異なる周波数帯域f
11〜f
12,…,f
n1〜f
n2を設定し、複数の異なる周波数帯域f
11〜f
12,…,f
n1〜f
n2に関する情報を受付部10へ入力する。そして、周波数設定部27は、受付部10によって受け付けられた情報に応じて、複数の異なる周波数帯域f
11〜f
12,…,f
n1〜f
n2を設定する。
【0071】
エネルギー曲線生成部28は、解析結果記憶部26に格納された移動フーリエ変換結果から、周波数設定部27によって設定された複数の異なる周波数帯域f
11〜f
12,…,f
n1〜f
n2に対応するエネルギー減衰曲線を取得する。
【0072】
具体的には、エネルギー曲線生成部28は、以下の式(4−1),式(4−2)の計算を実行することにより、複数の異なる周波数帯域に対するエネルギー減衰曲線Gc(t)を近似的に生成する。
【0074】
上記式(4−1)により得られるエネルギー減衰曲線Gc(t)に対して、上記第1の実施の形態と同様に、エネルギー減衰曲線の減衰レベル曲線の平滑化波形を得て、分析区間を設定し、回帰直線を求めることで、複数の異なる周波数帯域に関する減衰時間を求めることができる。
【0075】
以上詳細に説明したように、第3の実施形態では、対象空間における音のインパルス応答の移動フーリエ変換の結果から、複数の異なる周波数帯域におけるエネルギー減衰曲線の平均を求めることにより、複数の異なる周波数帯域に対応するエネルギー減衰曲線を求める。そして、複数の異なる周波数帯域に対応するエネルギー減衰曲線から得られる回帰直線の傾きに応じて、対象空間における、複数の異なる周波数帯域の音の減衰時間を求める。これにより、複数の異なる周波数帯域に応じた帯域フィルタを用いることなく、対象空間において、複数の異なる周波数帯域の音が重ね合された音の減衰時間を求めることができる。
【0076】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。なお、第4の実施形態に係る減衰時間分析システムの構成は、第1の実施形態と同様の構成となるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0077】
第4の実施形態では、対象空間における音のインパルス応答の移動フーリエ変換の結果から、複数の異なる周波数におけるエネルギー減衰曲線の平均を求めることにより、複数の異なる周波数に対応するエネルギー減衰曲線を求める。そして、複数の異なる周波数に対応するエネルギー減衰曲線から得られる回帰直線の傾きに応じて、対象空間における、複数の異なる周波数の音の減衰時間を求める点が第1〜第3の実施形態と異なる。
【0078】
第4の実施形態の周波数設定部27は、受付部10によって受け付けられた情報に応じて、複数の異なる周波数f
1,f
2,…,f
nを設定する。
【0079】
例えば、減衰時間分析装置20の操作者は、減衰時間を得たい複数の異なる周波数f
1,f
2,…,f
nを設定し、複数の異なる周波数f
1,f
2,…,f
nに関する情報を受付部10へ入力する。そして、周波数設定部27は、受付部10によって受け付けられた情報に応じて、複数の異なる周波数f
1,f
2,…,f
nを設定する。
【0080】
エネルギー曲線生成部28は、解析結果記憶部26に格納された移動フーリエ変換結果から、周波数設定部27によって設定された複数の異なる周波数f
1,f
2,…,f
nに対応するエネルギー減衰曲線を取得する。
【0081】
具体的には、エネルギー曲線生成部28は、以下の式(5)の計算を実行することにより、複数の異なる周波数f
1,f
2,…,f
nに対するエネルギー減衰曲線Gs(t)を近似的に生成する。
【0083】
図5に、複数の異なる周波数f
1,f
2,…,f
nに対するエネルギー減衰曲線Gs(t)の一例(対数表示)を示す。
図5(a)は400[Hz]正弦波のエネルギー減衰曲線であり、
図5(b)は500[Hz]正弦波のエネルギー減衰曲線であり、
図5(c)は600[Hz]正弦波のエネルギー減衰曲線である。また、
図5(d)は、400[Hz]、500[Hz]、及び600[Hz]の正弦波を重ね合わせた音のエネルギー減衰曲線である。上記式(5)を用いることにより、上記
図5(a)〜(c)の各エネルギー減衰曲線から、上記
図5(d)のエネルギー減衰曲線が得られる。
【0084】
上記式(5)により得られるエネルギー減衰曲線Gs(t)に対して、上記第1の実施の形態と同様に、エネルギー減衰曲線の減衰レベル曲線の平滑化波形を得て、分析区間を設定し、回帰直線を求めることで、複数の異なる周波数に関する減衰時間を求めることができる。
【0085】
以上詳細に説明したように、第4の実施形態では、対象空間における音のインパルス応答の移動フーリエ変換の結果から、複数の異なる周波数におけるエネルギー減衰曲線の平均を求めることにより、複数の異なる周波数に対応するエネルギー減衰曲線を求める。そして、複数の異なる周波数に対応するエネルギー減衰曲線から得られる回帰直線の傾きに応じて、対象空間における、複数の異なる周波数の音の減衰時間を求める。これにより、複数の異なる周波数に応じた帯域フィルタを用いることなく、対象空間において、複数の異なる周波数の音が重ね合された音の減衰時間を求めることができる。また、跳々の周波数が重なり合った音の減衰時間を求めることができる。
【0086】
<シミュレーション実験例>
次に、本実施形態の手法によって得られたシミュレーション結果を
図6に示す。
【0087】
図6の結果は、60dB減衰時間を表す残響時間についてのシミュレーション結果である。
図6の結果では、オクターブ帯域毎((a)〜(f))に残響時間が求められている。
図6の細線は、単一周波数成分の残響時間を表す。また、太線は、本実施形態の手法によって求められた残響時間を表す。なお、
図6の太線の残響時間は、各周波数帯域の平均のエネルギー減衰曲線から求めた残響時間である。また、丸印は、帯域フィルタによって得られた残響時間を表す。
図6に示されているように、本実施形態の手法によって得られた残響時間は、帯域フィルタによって得られた残響時間と対応している。このことから、本実施形態によれば、帯域フィルタを用いずに精度よく減衰時間を得られることがわかる。
【0088】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0089】
例えば、上記実施形態では、インパルス応答の移動フーリエ変換の結果から、特定の周波数に対するエネルギー減衰曲線を求め、エネルギー減衰曲線の減衰レベル曲線を計算し、減衰レベル曲線の平滑化波形の減衰のレベル範囲に応じた所定の分析区間に基づいて、分析区間における平滑化波形の回帰直線の傾きを計算する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、減衰レベル曲線の平滑化波形を求めずに、エネルギー減衰曲線の回帰直線の傾きに応じて、対象空間における特定の周波数の音の減衰時間を求めてもよい。
【0090】
また、上記ではプログラムがプログラム記憶部(図示省略)に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、プログラムは、CD−ROM、DVD−ROM及びマイクロSDカード等の記録媒体の何れかに記録されている形態で提供することも可能である。