(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886931
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】静止誘導機器
(51)【国際特許分類】
H01F 30/10 20060101AFI20210603BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
H01F30/10 F
H01F27/28 128
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-17216(P2018-17216)
(22)【出願日】2018年2月2日
(65)【公開番号】特開2019-134126(P2019-134126A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2020年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】杉田 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 諒介
(72)【発明者】
【氏名】宮島 和宏
(72)【発明者】
【氏名】土肥 学
(72)【発明者】
【氏名】工藤 直道
【審査官】
秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−275448(JP,A)
【文献】
特開2009−277914(JP,A)
【文献】
特開昭62−112308(JP,A)
【文献】
特開2014−160786(JP,A)
【文献】
特開2001−284143(JP,A)
【文献】
特開平08−222453(JP,A)
【文献】
実開昭57−113424(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 30/10
H01F 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル導体を巻き回したコイルと、前記コイルが挿入される鉄心とを有し、前記コイル導体にタップ線が接続された静止誘導機器であって、
前記コイルは、断面形状を矩形とし、
前記コイルは、前記コイル導体間に絶縁物から成るスペーサを配置することで前記コイル導体を前記コイル導体の厚さ以上径方向に突出させたタップ引出部を備え、
前記タップ引出部を、矩形のコーナー部に配置し、
前記スペーサは、前記タップ引出部の両側に配置した2つの四角形のスペーサであり、
前記四角形のスペーサ上に前記タップ引出部の前記コイル導体を巻き回し、
前記タップ引出部の前記コイル導体に前記タップ線を接続した静止誘導機器。
【請求項2】
請求項1に記載の静止誘導機器において、
前記タップ引出部の前記コイル導体と前記タップ線を覆う絶縁物を貼り付けた静止誘導機器。
【請求項3】
請求項1に記載の静止誘導機器において、
下の段の前記コイル導体と前記タップ引出部のコイル導体との空間に絶縁物を詰めた静止誘導機器。
【請求項4】
コイル導体を巻き回したコイルと、前記コイルが挿入される鉄心とを有し、前記コイル導体にタップ線が接続された静止誘導機器であって、
前記コイルは、断面形状を矩形とし、
前記コイルは、前記コイル導体間に絶縁物から成るスペーサを配置することで前記コイル導体を前記コイル導体の厚さ以上径方向に突出させたタップ引出部を備え、
前記タップ引出部を、矩形のコーナー部に配置し、
前記スペーサは、前記タップ引出部の両側に配置した2つの三角形のスペーサであり、
前記三角形のスペーサの斜面に沿って前記タップ引出部の前記コイル導体を巻き回し、
前記タップ引出部の前記コイル導体に前記タップ線を接続した静止誘導機器。
た静止誘導機器。
【請求項5】
請求項1または4に記載の静止誘導機器において、
前記タップ線は、前記コイル導体との接続部分をL字状に曲げて、前記コイル導体との接触面積を大きくした静止誘導機器。
【請求項6】
請求項1または4に記載の静止誘導機器において、
前記タップ引出部と前記タップ線をそれぞれ複数有し、
それぞれの前記タップ引出部において、前記タップ線を、前記コイル導体の巻き回し方向の異なる位置で前記コイル導体に接続した静止誘導機器。
【請求項7】
巻線が少なくとも第一の層と第二の層とに巻き回されたコイルと、前記コイルが挿入された鉄心と、を有する静止誘導機器であって、
前記第一の層は、第一のターン数で巻き回される部分と前記第一のターン数の次のターン数である第二のターン数で巻き回される隣り合う部分とを有し、前記隣り合う部分の巻線と前記第二の層の巻線との間に、絶縁物が配置され、前記絶縁物は、少なくとも前記隣り合う部分のうち二個所に接触し、
前記隣り合う部分の巻線のうち前記二個所の間には、タップ引き出し線が接続されることを特徴とする静止誘導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器やリアクトルなどの静止誘導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器用のコイルは、巻型、シート状の導体と絶縁物から成る低圧用コイル、丸線または平角線導体と絶縁物から成る高圧用コイルで構成されている。コイルの製作は、導体をコイル軸方向に巻き付けていく巻線作業と導体と導体の間の段上がりに絶縁物を巻き付ける絶縁処理作業がメインとなる。さらに、高圧用コイルには通常巻回数によって電圧を調整するためのタップ線を接続する必要があるため、上記の作業に加えてタップ線の接続と引き出し作業が必要となる。導体の巻回数が多くタップ線の接続及び引き出し作業が必要な高圧用コイルの製作は低圧用コイルの製作と比較して工数が多くかかっているため、コイル製作にかかる工数を低減するには、高圧用コイルの製作にかかる工数を低減するのが有効である。高圧用コイルの製作にかかる工数を低減することで、生産のリードタイムが短縮でき、製品競争力の強化につながる。
【0003】
タップ線を有したコイルの構造の一例として、特許文献1には、「タップ引出し部が必ずコイルの外周ターンとなるように1段当たりの巻き回数を減じさせた段を組み合わせてコイルを形成する。また、導体の引出しも巻線作業を中断することなく、連続で行えるよう、タップ引出し部となる回数のところでコイル外周から一部突出させたターンを形成させ、その後のタップ端子の接続を容易にする。」(「課題を解決するための手段」参照)と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−160786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高圧用コイル製作工程で、最もネックとなるのがタップ線の接続と引き出し作業である。タップ線の接続と引き出し作業は、高圧用コイルの巻線作業途中に所定の巻回数まで巻き終えた段階で巻線作業を中断し、コイルに巻き付ける導体を共線として折り返して引き出すか、タップ線用の導体を用意してその導体をコイル巻線導体に対して巻き付け、折り返して引き出すという方法がある。この場合、タップ線の接続と引き出しの作業のために巻線作業を適宜中断しなければならないため、巻線作業を全巻回数分巻き終えるまで作業を連続的に行うことができず、工数悪化を招いている。
【0006】
特許文献1記載の方法によれば、コイルの巻線作業を中断することなく連続的に作業を行うことができるが、巻線途中にタップ引出し部の導体が径方向に突出するように巻癖をつけるのに加え、導体を突出させる高さの調整が必要である。
【0007】
本発明は、巻線とタップ線接続の作業工数を低減でき、安価で容易に製造できるコイル構造を有する静止誘導機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための,本発明の「静止誘導機器」の一例を挙げるならば、
コイル導体を巻き回したコイルと、前記コイルが挿入される鉄心とを有し、前記コイル導体にタップ線が接続された静止誘導機器であって、
前記コイルは、断面形状を矩形とし、前記コイルは、前記コイル導体間に絶縁物から成るスペーサを配置することで前記コイル導体を前記コイル導体の厚さ以上径方向に突出させたタップ引出部を備え、
前記タップ引出部を、矩形のコーナー部に配置し、前記スペーサは、前記タップ引出部の両側に配置した2つの四角形のスペーサであり、前記四角形のスペーサ上に前記タップ引出部の前記コイル導体を巻き回し、前記タップ引出部の前記コイル導体に前記タップ線を接続したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、巻線作業を途中で中断することなく連続的に作業を行え、タップ線接続と引き出し及びその絶縁処理作業をまとめて行うことができるので作業工数の低減を図ることができる。また、絶縁物スペーサを挿入するだけの安価で容易な構造のため、原価を悪化させることなく製品競争力の高い製品を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】コイルを有する変圧器中身の一例を示す図である。
【
図2A】実施例1の、タップ線を接続する前のコイルの外観を示す斜視図である。
【
図2B】実施例1の、タップ線を接続したコイルの外観を示す斜視図である。
【
図3】
図2Bに示すコイルのタップ引出部の構造を示す正面図と、スペーサの斜視図である。
【
図4】
図2Bに示すコイルのタップ引出部とタップ線の接続を示す斜視図である。
【
図5】
図4に示すコイルのタップ引出部とタップ線の接続において、絶縁物を取り付けた斜視図である。
【
図6】実施例2のコイルのタップ引出部の構造を示す正面図と、スペーサの斜視図である。
【
図7】実施例3のコイルのタップ引出部とタップ線の接続を示す斜視図である。
【
図8】実施例4のコイルのタップ引出部の構造を示す正面図と、スペーサの斜視図である。
【
図9】従来の共線によるタップ線引き出し方法を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。なお、実施の形態を説明するための各図において、同一の構成要素にはなるべく同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【実施例1】
【0012】
本発明の実施例を説明するに先立ち、本発明が適用される変圧器の一例を説明する。
図1に、三相三脚型の油入変圧器の中身を示す。変圧器中身は、長方形のリング状の内鉄心2aを2つ並べて配置し、内鉄心2aの外側を囲むように外鉄心2bを配置して変圧器鉄心を構成する。そして、変圧器鉄心の3つの脚部に、それぞれコイル1を設ける。油入変圧器では、変圧器中身は、図示していないタンクに入れられ、タンクには絶縁油が満たされる。なお、本発明は、油入変圧器に限らず、モールド型変圧器にも適用でき、更にはリアクトル装置を含む静止誘導機器全般に適用できる。
【0013】
図2Aは、本発明の実施例1の油入変圧器用コイルの外観を示す、タップ線を接続する前の斜視図である。また、
図2Bは、タップ線を接続した油入変圧器用コイルの外観を示す斜視図である。本実施例におけるコイル10は、巻枠11、低圧用コイル12、高圧用コイル13で構成されている。低圧用コイル12は、例えばシート状導体を巻枠11に巻厚方向に巻回して構成される。高圧用コイル13は、平角線導体であるコイル導体14を軸方向に螺旋状に巻き付け、コイル径方向に複数段積層して構成される。タップ線接続と引き出しのために、高圧用コイル最外層のタップ引き出し部分の導体をコイル径方向に突出させ、タップ線15を接続する構造としている。
【0014】
この構造は、
図3(a)に示すように、タップ引出部25の導体14の下に絶縁物を重ねて作製したスペーサ26を、2個並べて挿入することで、タップ引出部25の導体14を下の段の導体から導体の厚さ以上浮かせ、導体14をコイル径方向に突出させている。タップ線接続位置は、コイルのコーナー部に集中させることで、スペーサ挿入分の導体突出によるコイル縦横寸法の増大を防ぐことができる。
図3(b)はスペーサ26の斜視図であり、板状の絶縁物27を積層し、クラフトテープ28を貼り付けて作製している。スペーサ26は、四角形の1つの絶縁物で構成しても良い。
【0015】
図4はコイルのタップ引出部25とタップ線15の接続を示す斜視図であり、スペーサ26を挿入することにより径方向に突出させた導体14の上部にタップ線15を接続することで、タップ線の引き出しを行うことができる。そして、
図5に示すように、2つのスペーサ26の間にできる空間に絶縁物29を挿入し、接続部の上からもタップ線を覆うように絶縁物29を被せ、テープで貼り付けて固定することで絶縁処理を施す。絶縁物29として、U字状の絶縁物を用いても良い。
【0016】
従来は
図9に示すように、矢印で示す方向に導体41を所定の巻回数まで巻いた時点で巻線作業を中断し、巻線している導体をタップ線42として引き出すか、新たなタップ線を用意しその線を巻線に対して折り返して接続し引き出す。その後、引き出したタップ線の上に乗り上げて導体41の巻線を続けていく必要があるため、巻線作業を途中で中断する必要があり、接続はロウ付けや溶接を行うため熱が下がるまで待つ必要がありその分作業効率は悪化する。
【0017】
本実施例によれば、タップ引出部を突出させた状態で全巻回数まで巻き終えた導体に対してタップ線の接続、引き出し作業を行うことが可能となる。そして、巻線作業を中断する必要がなく、導体の突出高さはスペーサのサイズで決まるため、この構造にするための複雑な調整等を必要せずに、工数低減を実現することが可能となる。
【0018】
なお、コイルが複数のタップ引出部25とタップ線15を有する場合には、
図2Bに示すように、それぞれのタップ引出部25において、タップ線15を、コイル導体の巻き回し方向の異なる位置にずらしてコイル導体14に接続することにより、タップ線15の重なりを防ぐことができる。
【0019】
本実施例の巻線構造であれば、作業を中断することなく巻線作業、タップ線接続と引き出し作業をそれぞれ連続的に行うことができる。この巻線構造は、絶縁物のスペーサを用意するだけでできるため、安価で容易な構造であり、製品の原価を上げることなく工数を下げることで製品競争力を高めることができる。本実施例は、タップ線を有するコイルを備える静止誘導機器全般に適用可能である。
【実施例2】
【0020】
図6に、本発明の実施例2のコイルのタップ引出部の構造を示す。
図6(a)はタップ引出部の構造を示す正面図、
図6(b)はスペーサの斜視図である。
【0021】
本実施例では、タップ引出部の両側に配置する2つのスペーサの形状を、
図6(b)に示す三角形とする。そして、
図6(a)に示すように、三角形の斜面に沿うように導体14を巻き付ける。スペーサ26の形状を四角形から三角形にすることで導体14の外側への突出を抑えることができる。四角形のスペーサの場合、タップ引き出し位置をコイルのコーナー部としているためスペーサの角部で余分な空間ができてしまうが、三角形のスペーサにすることで突出を抑え、余分な空間ができないようにすることができる。
【0022】
導体間に空間があると径方向の短絡機械力に対して弱くなる恐れがあるので、必要な部分以外に空間は作らずに、タップ引出部の空間には可能な限り絶縁物を詰めるのが好ましい。
【0023】
本実施例によれば、実施例1の効果に加えて、コイルのコーナー部に配置するタップ引出部のスペーサを三角形としたので、導体の突出を抑え、余分な空間ができないようにすることができる。
【実施例3】
【0024】
図7に、本発明の実施例3のコイルのタップ引出部とタップ線の接続を示す斜視図を示す。
【0025】
本実施例では、タップ線35を、導体14との接続部分においてL字状に曲げている。タップ線35の接続部分をL字状に曲げることで、導体14との接触面積が大きくなり接続面を大きくとることができる。これにより、導体14とタップ線35との断線のリスクを下げることができ、より信頼性の高いコイル構造とすることができる。
【実施例4】
【0026】
図8に、本発明の実施例4のコイルのタップ引出部の構造を示す。
図8(a)はタップ引出部の構造を示す正面図、
図8(b)はスペーサの斜視図である。
【0027】
本実施例では、タップ引出部に配置するスペーサの形状を、
図8(b)に示す、両側に斜面を有し中央部が所定の厚さの1つのスペーサ36とする。そして、
図8(a)に示すように、スペーサ36の斜面に沿うように導体14を巻き付ける。
【0028】
スペーサ36の形状を1つのスペーサとすることで、コイルのコーナー部へのスペーサの取り付けが容易となる。また、スペーサ36の両側に斜面を設けることで導体14の外側への突出を抑えることができる。さらに、タップ引出部の導体と下の段の導体との間に空間がなくなるので径方向の短絡機械力に対する強度を増やすことができる。
【符号の説明】
【0029】
1 コイル
2a 内鉄心
2b 外鉄心
10 コイル
11 巻枠
12 低圧用コイル
13 高圧用コイル
14 コイル導体
15,35 タップ線
25 タップ引出部
26,36 スペーサ
27 板状絶縁物
28 クラフトテープ
29 絶縁物
41 コイル導体
42 コイル導体引き出しタップ線