特許第6886965号(P6886965)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886965
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】携帯型核酸抽出器具及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20210603BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20210603BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20210603BHJP
【FI】
   C12N15/10 110Z
   C12Q1/6806 Z
   C12M1/00 A
【請求項の数】40
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-506348(P2018-506348)
(86)(22)【出願日】2016年8月10日
(65)【公表番号】特表2018-523478(P2018-523478A)
(43)【公表日】2018年8月23日
(86)【国際出願番号】US2016046243
(87)【国際公開番号】WO2017027538
(87)【国際公開日】20170216
【審査請求日】2019年5月8日
(31)【優先権主張番号】62/203,707
(32)【優先日】2015年8月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518025434
【氏名又は名称】ステム アーツ プロジェクツ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】オーメン, エイブラハム
(72)【発明者】
【氏名】ラッシュ, アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ピスカテリ, ヘザー
(72)【発明者】
【氏名】レヴィン, セス
(72)【発明者】
【氏名】ハッチ, ブランドン
【審査官】 長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】 湘央医学技術専門学校・湘央生命科学技術専門学校[online],バイオ通信No.1042「バイオ体験入学&仕事の学び場 その5」,公開日:2012年8月30日, [検索日:2020年5月1日],<https://sho-oh.ac.jp/blog/bio/2012/08/no10425.html>
【文献】 札幌科学技術専門学校[online],遺伝子工学実習見学〜ようこそ、魅惑のDNAワールドへ,公開日:2014年10月20日, [検索日:2020年5月1日],<https://s-kagisen.ac.jp/201410201129/>
【文献】 analytikjena[online],innuSPEED Tissue DNA Kit,公開日:2011年, [検索日:2020年5月1日],< https://www.analytik-jena.co.jp/fileadmin/content/pdf_life_science/Manual/Manual_innuSPEED_Tissue_DNA_Kit.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/10
C12M 1/00
C12Q 1/6806
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柄、
柄に取り付けられた棒、並びに
に取り付けられた先端部
を含む携帯型核酸抽出器具であって、
柄、棒、及び先端部が一体として形成されており、
柄、棒、及び先端部を形成する材料が、核酸と結合するように構成されており、且つポリスチレン、官能化ポリスチレン及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される、核酸抽出用の携帯型核酸抽出器具、
第1のボトルに入った溶解緩衝液、
第2のボトルに入った結合緩衝液、
第3のボトルに入った洗浄緩衝液、
第4のボトルに入った溶出緩衝液、並びに
少なくとも3本のキット試料チューブ
を含む容器
を含む携帯型核酸抽出キット。
【請求項2】
容器が、第5のボトルに入ったエタノールをさらに含む、請求項1に記載の携帯型核酸抽出キット。
【請求項3】
携帯型核酸抽出器具が、核酸と結合するように構成されている核酸結合性媒体をさらに含む、請求項1に記載の携帯型核酸抽出キット。
【請求項4】
柄、
柄に取り付けられた棒、並びに
に取り付けられた先端部
を含む、核酸抽出用の携帯型核酸抽出器具であって、
柄、棒、及び先端部が一体として形成されており、
柄、棒、及び先端部を形成する材料が、核酸と結合するように構成されており、且つポリスチレン、官能化ポリスチレン及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される、核酸抽出用の携帯型核酸抽出器具
【請求項5】
核酸と結合するように構成されている、先端部に取り付けられた核酸結合性媒体
をさらに含む、請求項4に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項6】
先端部が、核酸と結合するように構成されており、ポリスチレン、官能化ポリスチレン、及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される、請求項4に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項7】
核酸結合性媒体が繊維の形態である、請求項5に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項8】
繊維がシリカ繊維である、請求項に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項9】
繊維がポリスチレン繊維である、請求項に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項10】
核酸結合性媒体がビーズの形態である、請求項5に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項11】
ビーズが、シリカマイクロビーズ、シリカナノ粒子、ポリスチレンマイクロビーズ、ポリスチレンナノ粒子、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項10に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項12】
核酸結合性媒体がタンパク質である、請求項5に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項13】
携帯型核酸抽出器具を使用する核酸抽出方法であって、
核酸を有する生物試料を溶解緩衝液で処理して、生物試料中の細胞を溶解させること、
処理した生物試料中の核酸を、結合緩衝液で携帯型核酸抽出器具の先端部に結合させること、
核酸と結合した携帯型核酸抽出器具の先端部をインキュベートすること、
核酸と結合した携帯型核酸抽出器具の先端部を洗浄緩衝液で洗浄すること、
携帯型核酸抽出器具の先端部に結合した核酸を溶出緩衝液で溶出させること、
を含み、
携帯型核酸抽出器具は、
柄、
柄に取り付けられた棒、並びに
棒に取り付けられた先端部
を含む、携帯型核酸抽出器具であって、
柄、棒、及び先端部が一体として形成されており、
柄、棒、及び先端部を形成する材料が、核酸と結合するように構成されており、且つポリスチレン、官能化ポリスチレン及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される、核酸抽出方法。
【請求項14】
インキュベートすることが、携帯型核酸抽出器具の先端部をエタノールと接触させることをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
溶解緩衝液が10mMトリス塩酸塩水溶液であり、
結合緩衝液が、pH2.0から4.0を有する、6M水性次亜塩素酸ナトリウム及び200mM水性グリシン塩酸塩の組合せであり、
洗浄緩衝液が、水性グリシン塩酸塩及び水性エタノール(エタノール体積/水体積)の組合せであり、
溶出緩衝液が、pH7.0から10.0を有する水性トリス塩酸塩である、
請求項13に記載の方法。
【請求項16】
溶解緩衝液が、リゾチーム、プロテイナーゼk、及び水酸化ナトリウムからなる群から選択される物質をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
溶解緩衝液が、0.2から5パーセントtriton x−100(triton x−100体積/水体積)、2から50mM水性トリス塩酸塩、及びpH5.5から7.5を有する1mM水性エチレンジアミン四酢酸、及びこれらの組合せからなる群から選択され、
結合緩衝液が、pH2.0から4.0を有する、水性次亜塩素酸ナトリウム及びグリシン塩酸塩の混合物、pH3.6から5.6を有する、水性トリス塩酸塩及び水性酢酸ナトリウム/酢酸の混合物、pH3.0から6.2を有する水性クエン酸ナトリウム/クエン酸、5から7M水性過塩素酸ナトリウム、6M水性硝酸ナトリウム、4から5M水性塩化ナトリウム、4から5M水性塩化カリウム、4から6M水性グアニジン塩酸塩、4から6M水性グアニジンチオシアン酸塩、4から6M水性ヨウ化物、及び4から6M水性尿素、及びこれらの組合せからなる群から選択され、
洗浄緩衝液が、5から7M水性過塩素酸ナトリウム、5から7M水性硝酸ナトリウム、4から5M水性塩化ナトリウム、4から5M水性塩化カリウム、4から6M水性グアニジン塩酸塩、4から6M水性グアニジンチオシアン酸塩、4から6M水性ヨウ化物、4から6M水性尿素、及び100から300mM水性グリシン塩酸塩、及びこれらの組合せからなる群から選択され、
溶出緩衝液が、超純水、pH7.4から9を有する水性トリス塩酸塩、及び0.05から0.2mM水性エチレンジアミン四酢酸、及びこれらの組合せからなる群から選択される、
請求項13に記載の方法。
【請求項18】
先端部が、核酸と結合することができる材料製であり、かつ/又は先端部が、核酸と結合するように構成されている少なくとも1種の構造体を含む、請求項に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項19】
核酸と結合することができる材料が、ポリスチレン、官能化ポリスチレン、及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される、請求項18に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項20】
核酸と結合するように構成されている少なくとも1種の構造体が、少なくとも1種の繊維、少なくとも1種のビーズ、少なくとも1種のタンパク質及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項18又は19に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項21】
少なくとも1種の繊維が、シリカ繊維、ポリスチレン繊維及びこれらの組合せから選択される、請求項20に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項22】
少なくとも1種のビーズが、シリカマイクロビーズ、シリカナノ粒子、ポリスチレンマイクロビーズ、ポリスチレンナノ粒子、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項20に記載の携帯型核酸抽出器具。
【請求項23】
核酸を含む細胞を含む生物試料から核酸を抽出する方法であって、以下の工程:
(a)生物試料に溶解緩衝液を添加すること、
(b)工程(a)で得られた混合物に結合緩衝液を添加すること、
(c)工程(b)で得られた混合物に、請求項から12及び18から22の何れか一項に記載の携帯型核酸抽出器具の先端部を浸漬すること、
(d)工程(b)で得られた混合物中で携帯型核酸抽出器具の先端部をインキュベートすること、
(e)携帯型核酸抽出器具の先端部を洗浄緩衝液で洗浄すること、
(f)携帯型核酸抽出器具の先端部に結合した核酸を溶出緩衝液で溶出させること
を含む、方法。
【請求項24】
方法が、工程(a)前若しくは工程(a)中において生物試料に、かつ/又は工程(b)前若しくは工程(b)中において、工程(a)で得られた混合物に、かつ/又は工程(c)前若しくは工程(c)中、又は工程(d)前若しくは工程(d)中において、工程(b)で得られた混合物に、エタノールを添加する工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
溶解緩衝液が、トリス塩酸塩を含む水性緩衝液であり、
結合緩衝液が、次亜塩素酸ナトリウム及びグリシン塩酸塩を含み、pH2.0から4.0であり、
洗浄緩衝液が、グリシン塩酸塩及びエタノールを含む水性緩衝液であり、
溶出緩衝液が、トリス塩酸塩を含み、pH7.0から10.0を有する水性緩衝液である、
請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
結合緩衝液が、次亜塩素酸ナトリウム及びグリシン塩酸塩を含み、pH3.0を有する水性緩衝液である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
溶出緩衝液が、トリス塩酸塩を含み、pH8.8を有する水性緩衝液である、
請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
溶解緩衝液が、0.2から5パーセント(v/v)triton x−100を含む水性緩衝液、2から50mMトリス塩酸塩を含む水性緩衝液、エチレンジアミン四酢酸を含み、pH5.5から75を有する水性緩衝液、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され、
結合緩衝液が、次亜塩素酸ナトリウム及びグリシン塩酸塩を含み、pH2.0から40を有する水性緩衝液、トリス塩酸塩及び酢酸ナトリウム/酢酸を含み、pH3.6から5.6を有する水性緩衝液、クエン酸ナトリウム/クエン酸を含み、pH3.0から6.2を有する水性緩衝液、過塩素酸ナトリウムを含む水性緩衝液、硝酸ナトリウムを含む水性緩衝液、4から5M塩化ナトリウムを含む水性緩衝液、4から5M塩化カリウムを含む水性緩衝液、4から6Mグアニジン塩酸塩を含む水性緩衝液、4から6Mグアニジンチオシアン酸塩を含む水性緩衝液、4から6Mヨウ化物を含む水性緩衝液、4から6M尿素を含む水性緩衝液、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され、
洗浄緩衝液が、5から7M過塩素酸ナトリウムを含む水性緩衝液、5から7M硝酸ナトリウムを含む水性緩衝液、4から5M塩化ナトリウムを含む水性緩衝液、4から5M塩化カリウムを含む水性緩衝液、4から6Mグアニジン塩酸塩を含む水性緩衝液、4から6Mグアニジンチオシアン酸塩を含む水性緩衝液、4から6Mヨウ化物を含む水性緩衝液、4から6M尿素を含む水性緩衝液、100から300mMグリシン塩酸塩を含む水性緩衝液、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され、かつ/又は
溶出緩衝液が、超純水、トリス塩酸塩を含みpH7.4から9を有する水性緩衝液、0.05から0.2mMエチレンジアミン四酢酸を含む水性緩衝液、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される、
請求項23又は24に記載の方法。
【請求項29】
溶解緩衝液が、1パーセント(v/v)triton x−100を含む水性緩衝液である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
溶解緩衝液が、10mMトリス塩酸塩を含む水性緩衝液である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
溶解緩衝液が、エチレンジアミン四酢酸を含み、pH6.5を有する水性緩衝液である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
洗浄緩衝液が、6M過塩素酸ナトリウムを含む水性緩衝液である、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
結合緩衝液が、次亜塩素酸ナトリウム及びグリシン塩酸塩を含み、pH3.0を有する水性緩衝液である、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
洗浄緩衝液が、6M過塩素酸ナトリウムを含む水性緩衝液である、請求項28に記載の方法。
【請求項35】
洗浄緩衝液が、6M硝酸ナトリウムを含む水性緩衝液である、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
洗浄緩衝液が、200mMグリシン塩酸塩を含む水性緩衝液である、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
溶出緩衝液が、0.1mMエチレンジアミン四酢酸を含む水性緩衝液である、請求項28に記載の方法。
【請求項38】
溶解緩衝液が、リゾチーム、プロテイナーゼK、水酸化ナトリウム及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種の物質を含む、
請求項23から37の何れか一項に記載の方法。
【請求項39】
請求項4から12及び18から22の何れか一項に記載の携帯型核酸抽出器具、
少なくとも1種の溶解緩衝液、
少なくとも1種の結合緩衝液、
少なくとも1種の洗浄緩衝液、
少なくとも1種の溶出緩衝液、及び
少なくとも3本の試料チューブ
を含む携帯型核酸抽出キット。
【請求項40】
エタノールをさらに含む、請求項39に記載の携帯型核酸抽出キット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
核酸(例えば、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA))抽出方法は一般的に、4つの共通要素:核酸を放出させるための細胞溶解、核酸結合性媒体への核酸の結合、結合した核酸から核酸以外の細胞成分を除去するための、結合した核酸の洗浄、及び核酸結合性媒体からの結合した核酸の溶出(放出)を含む。従来の、生物試料からの核酸抽出は、有機抽出、磁気分離、シリカベースの抽出、及びアニオン交換を含む様々な異なる抽出技術により実施される。これらの方法では通常、有効に使用するための技術的な専門知識が必要な、遠心分離機、ピペット、カラム及び/又はその他の装置を含む様々な装置を利用する。さらに、このような従来の方法では通常、遂行するのに12から24程度の工程が必要であり、これにより労働力を要し、効率が低下する。
【0002】
通常、核酸結合性媒体は固定されたままであり、シリカベースのカラム及びアニオン交換カラムなどの固形媒体の形態をとる。核酸結合性媒体に、生物試料をピペット又はその他の自動システムにより塗布する。次に、手作業又は自動システムの何れかにより媒体に緩衝液を塗布して、核酸をまず結合させ、次いで溶出させる。これらの方法では一般的に、核酸成分を残りの細胞成分から分離するのに遠心分離機を使用する。ピペット、遠心分離機、及びその他の自動装置の使用には、作動させるのに技術的な専門知識が必要であり、核酸を抽出するのに必要な時間が増加する可能性がある。このような装置を利用する核酸抽出方法は、現場(例えば農場、牧場、又は十分にサービスが受けられない地域での医療の場)での利用、及び/又は技術的な訓練をほとんど又は全く受けていない個人による利用に適していない。
【0003】
別の核酸抽出方法では、結合した核酸をその他の細胞成分から分離するための遠心分離機の必要性をなくすため、磁気分離を利用する。しかし、このような方法で使用する磁気ビーズは通常、そのままの形態で試料に添加され、したがって、ビーズを操作して引き付けるための磁石又はその他の自動機械を、熟練した作業者が使用することが必要である。さらに、この方法は時間を要するものであり、これもまた、技術的な専門知識を有しない個人が現場で幅広く使用することを妨げている。
【0004】
分子診断が人気を集めるに伴って、現場で抽出を行うとその後の分析に対する障害が減少しうるため、特に現場における既存の核酸抽出技術の限界をなくすか低下させる努力が世界規模でなされている。したがって、現場又は実験室環境での核酸抽出を可能にするため、技術的な専門知識の必要性、専門の装置の使用、及び核酸抽出に使用される固定された核酸結合性媒体をなくすことが望ましい。さらに、核酸を抽出する方法の効率を増大させるため、核酸を抽出するのに必要な工程数を減少させることが望ましい。
【発明の概要】
【0005】
第1の態様において、本発明は、柄、柄に取り付けられた棒、核酸と結合するように構成されている、棒に取り付けられた先端部を含む、核酸抽出用の携帯型核酸抽出器具に関する。
【0006】
別の態様において、本発明は、核酸を含む細胞を含む生物試料から核酸を抽出する方法であって、以下の工程(a)から(f):(a)生物試料に溶解緩衝液を添加すること、(b)工程(a)で得られた混合物に結合緩衝液を添加すること、(c)工程(b)で得られた混合物に、本発明による携帯型核酸抽出器具の先端部を浸漬すること、(d)工程(b)で得られた混合物中で携帯型核酸抽出器具の先端部をインキュベートすること、(e)携帯型核酸抽出器具の先端部を洗浄緩衝液で洗浄すること、及び(f)携帯型核酸抽出器具の先端部に結合した核酸を溶出緩衝液で溶出させることを含む、方法に関する。
【0007】
第3の態様において、本発明は、本発明による携帯型核酸抽出器具、少なくとも1種の溶解緩衝液、少なくとも1種の結合緩衝液、少なくとも1種の洗浄緩衝液、少なくとも1種の溶出緩衝液、及び少なくとも3本の試料チューブを含む携帯型核酸抽出キットに関する。
【0008】
添付の図を参照することで、本発明の数多くの利点をよりよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】1.aは、携帯型核酸抽出器具を示す。1.bは、核酸結合性繊維を含む携帯型核酸抽出器具を示す。1.cは、核酸結合性ビーズを含む携帯型核酸抽出器具を示す。1.dは、核酸結合性タンパク質を含む携帯型核酸抽出器具を示す。1.eは、ガラス製で、増加した表面積を有する携帯型核酸抽出器具を示す。
図2】携帯型核酸抽出器具を使用して核酸を抽出する方法を示す。
図3】3aは、携帯型核酸抽出で得られたゲノムDNA試料6種の濃度[ng/μl]及び純度[A260/280]をまとめた図である。3bは、携帯型核酸抽出器具で得られたゲノムDNA試料をDNA鋳型として使用したPCR増幅の結果を示す図である。3cは、携帯型核酸抽出器具で抽出したゲノムDNA試料を鋳型として使用したRCAの結果を示す図である。
図4】携帯型核酸抽出キットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の態様において、本発明は携帯型核酸抽出器具に関する。携帯型核酸抽出器具は、柄、棒、及び先端部を含む。通常、棒は柄に取り付けられており、先端部は棒に取り付けられている。先端部は核酸と結合するように構成されている。
【0011】
本発明の文脈では、「核酸との結合」という語は、溶液中に存在する遊離核酸が、携帯型核酸抽出器具の先端部に直接結合できることを意味する。「遊離」核酸は、核酸が細胞内に存在せず、細胞から放出されていることを意味する。本発明の文脈では、「核酸との結合」という語は分子結合を指し、携帯型核酸抽出器具の先端部と核酸との共有結合及び非共有結合を含む。シリカ、シリカ由来材料、ポリスチレン及びガラスなどの材料だけでなく、特定のタンパク質などの生体分子と、核酸との結合に寄与しうる非共有結合性相互作用には、イオン性相互作用及び水素結合及びファンデルワールス力などの静電相互作用が含まれる。本発明の文脈では、「混合物」という語は、溶液、懸濁液、又は混合物を意味する。
【0012】
本発明の文脈では、「核酸と結合するように構成されている」という語は、先端部が、溶液中に存在する核酸と結合することができる材料製であるか、溶液中に存在する核酸と結合することができる構造体を含むことを意味する。これらの構造体は、ガラス、ポリスチレン、シリカ又はシリカ由来材料などの核酸結合性材料(核酸結合性媒体)製であってよく、さらに、先端部の核酸結合性表面が増大するような形状をしていてもよい。例えば、携帯型核酸抽出器具の先端部は、ポリスチレン繊維及びシリカ繊維などの繊維、又はポリスチレンビーズ、シリカビーズ及びガラスビーズなどのビーズを含んでいてもよい。携帯型核酸抽出器具の先端部は、ストレプトアビジンなどの、少なくとも1種の核酸結合性タンパク質を含んでいてもよい。
【0013】
特定の実施態様において、携帯型核酸抽出器具は、核酸と結合するように構成されている、先端部に取り付けられた核酸結合性媒体を含む。
【0014】
特定の実施態様において、先端部は、核酸と結合することができる材料製であり、かつ/又は先端部は、核酸と結合するように構成されている少なくとも1種の構造体を含む。
【0015】
特定の実施態様において、先端部は、木、プラスチック、ポリスチレン、官能化ポリスチレン、ガラス、及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される材料製である。
【0016】
特定の実施態様において、柄、棒、及び先端部は一体として形成されている。特定のこのような実施態様において、柄、棒、及び先端部は、木、プラスチック、ポリスチレン、官能化ポリスチレン、ガラス、及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される材料製である。具体的には、柄、棒及び先端部はガラス製である。
【0017】
特定の実施態様において、先端部及び任意選択的に柄及び/又は棒はガラス製であり、先端部及び任意選択的に柄及び/又は棒にサンドブラストをかけている。サンドブラストにより、先端部及び任意選択的に柄及び/又は棒の表面積が増加し、それにより核酸が結合しうる表面が増大する。
【0018】
特定の実施態様において、核酸と結合することができる材料は、ポリスチレン、官能化ポリスチレン、ガラス、及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される。
【0019】
特定の実施態様において、核酸と結合するように構成されている少なくとも1種の構造体は、少なくとも1種の繊維、少なくとも1種のビーズ、少なくとも1種のタンパク質及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0020】
特定の実施態様において、少なくとも1種の繊維は、シリカ繊維、ポリスチレン繊維及びこれらの組合せから選択される。
【0021】
特定の実施態様において、少なくとも1種のビーズは、シリカマイクロビーズ、シリカナノ粒子、ポリスチレンマイクロビーズ、ポリスチレンナノ粒子、サンドブラストをかけたガラスビーズ、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0022】
使用に際して、携帯型核酸抽出器具の先端部を、遊離核酸、すなわち細胞内に存在していない核酸を含む生物試料を含む第1の試料チューブに挿入する。通常、核酸を含む細胞を含む生物試料をまず溶解緩衝液で処理して、細胞を溶解させ、試料溶液中に核酸を放出させて混合物を形成する。溶解緩衝液添加後、携帯型核酸抽出器具の先端部を混合物に挿入する。次いで、先端部を混合物中でインキュベートして核酸を先端部に結合させる。インキュベーション後、表面に結合した核酸を有する先端部を第1の試料チューブから取り出し、洗浄緩衝液を含む第2の試料チューブに挿入して、先端部に結合した核酸を洗浄する。次いで、表面に結合した洗浄済み核酸を有する先端部を、溶出のための、すなわち、結合した核酸を先端部から溶出緩衝液中に放出させるための溶出緩衝液を含む第3の試料チューブに挿入する。溶出された核酸をさらに分析することができる。
【0023】
したがって、第2の態様において、本発明は、核酸を含む細胞を含む生物試料から核酸を抽出する方法であって、以下の工程:(a)生物試料に溶解緩衝液を添加すること、(b)工程(a)で得られた混合物に結合緩衝液を添加すること、(c)工程(b)で得られた混合物に、本発明による携帯型核酸抽出器具の先端部を浸漬すること、(d)工程(b)で得られた混合物中で携帯型核酸抽出器具の先端部をインキュベートすること、(e)携帯型核酸抽出器具の先端部を洗浄緩衝液で洗浄すること、及び(f)携帯型核酸抽出器具の先端部に結合した核酸を溶出緩衝液で溶出させることを含む、方法に関する。
【0024】
特定の実施態様において、方法は、工程(a)前若しくは工程(a)中の生物試料に、かつ/又は工程(b)前若しくは工程(b)中の、工程(a)で得られた混合物に、かつ/又は工程(c)前若しくは工程(c)中、又は工程(d)前若しくは工程(d)中の、工程(b)で得られた混合物に、エタノールを添加する工程をさらに含む。
【0025】
特定の実施態様において、溶解緩衝液は、トリス塩酸塩を含む水性緩衝液であり、結合緩衝液は、次亜塩素酸ナトリウム及びグリシン塩酸塩を含み、pH約2.0から4.0、好ましくは約3.0を有する水性緩衝液であり、洗浄緩衝液は、グリシン塩酸塩及びエタノールを含む水性緩衝液であり、溶出緩衝液は、トリス塩酸塩を含み、pH約7.0から約10.0、好ましくは約8.8を有する水性緩衝液である。
【0026】
特定のこのような実施態様において、溶解緩衝液は、任意選択的に、リゾチーム、プロテイナーゼK、水酸化ナトリウム及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種の物質をさらに含むトリス塩酸塩水溶液であり、結合緩衝液は、pH約2.0から4.0、好ましくは約3.0を有する、水性次亜塩素酸ナトリウム及び水性グリシン塩酸塩の混合物であり、洗浄緩衝液は水性グリシン塩酸塩及び水性エタノールの混合物であり、溶出緩衝液は、pH約7.0から約10.0、好ましくは約8.8を有する水性トリス塩酸塩である。
【0027】
特定の実施態様において、溶解緩衝液は、0.2から5パーセント、好ましくは約1パーセント(v/v)triton x−100を含む水性緩衝液、2から50mM、好ましくは約10mMトリス塩酸塩を含む水性緩衝液、エチレンジアミン四酢酸を含み、pH約5.5から約7.5、好ましくは約6.5を有する水性緩衝液、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され、結合緩衝液は、次亜塩素酸ナトリウム及びグリシン塩酸塩を含み、pH約2.0から約4.0、好ましくは約3.0を有する水性緩衝液、トリス塩酸塩及び酢酸ナトリウム/酢酸を含み、pH3.6から5.6を有する水性緩衝液、クエン酸ナトリウム/クエン酸を含み、pH3.0から6.2を有する水性緩衝液、過塩素酸ナトリウムを含む水性緩衝液、硝酸ナトリウムを含む水性緩衝液、4から5M塩化ナトリウムを含む水性緩衝液、4から5M塩化カリウムを含む水性緩衝液、4から6Mグアニジン塩酸塩を含む水性緩衝液、4から6Mグアニジンチオシアン酸塩を含む水性緩衝液、4から6Mヨウ化物を含む水性緩衝液、4から6M尿素を含む水性緩衝液、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され、洗浄緩衝液は、5から7、好ましくは6M過塩素酸ナトリウムを含む水性緩衝液、5から7、好ましくは6M硝酸ナトリウムを含む水性緩衝液、4から5M塩化ナトリウムを含む水性緩衝液、4から5M塩化カリウムを含む水性緩衝液、4から6Mグアニジン塩酸塩を含む水性緩衝液、4から6Mグアニジンチオシアン酸塩を含む水性緩衝液、4から6Mヨウ化物を含む水性緩衝液、4から6M尿素を含む水性緩衝液、100から300mM、好ましくは約200mMグリシン塩酸塩を含む水性緩衝液、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され、かつ/又は溶出緩衝液は、超純水、トリス塩酸塩を含みpH7.4から9を有する水性緩衝液、0.05から0.2mM、好ましくは約0.1mMエチレンジアミン四酢酸を含む水性緩衝液、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0028】
特定のこのような実施態様において、溶解緩衝液は、0.2から5パーセント、好ましくは約1パーセント(v/v)triton x−100水溶液、2から50mM、好ましくは約10mM水性トリス塩酸塩、pH約5.5から約7.5、好ましくは約6.5を有する水性エチレンジアミン四酢酸からなる群から選択され、それぞれの場合で任意選択的に、リゾチーム、プロテイナーゼK、水酸化ナトリウム及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種の物質をさらに含み、結合緩衝液は、pH約2.0から約4.0、好ましくは約3.0を有する、水性次亜塩素酸ナトリウム及び水性グリシン塩酸塩の混合物、pH3.6から5.6を有する、水性トリス塩酸塩及び水性酢酸ナトリウム/酢酸の混合物、pH3.0から6.2を有する水性クエン酸ナトリウム/クエン酸、水性過塩素酸ナトリウム、水性硝酸ナトリウム、4から5M水性塩化ナトリウム、4から5M水性塩化カリウム、4から6M水性グアニジン塩酸塩、4から6M水性グアニジンチオシアン酸塩、4から6M水性ヨウ化物、4から6M水性尿素、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され、洗浄緩衝液は、5から7、好ましくは6M水性過塩素酸ナトリウム、5から7、好ましくは6M水性硝酸ナトリウム、4から5M水性塩化ナトリウム、4から5M水性塩化カリウム、4から6M水性グアニジン塩酸塩、4から6M水性グアニジンチオシアン酸塩、4から6M水性ヨウ化物、4から6M水性尿素、100から300mM、好ましくは約200mM水性グリシン塩酸塩、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択され、かつ/又は溶出緩衝液は、超純水、pH7.4から9を有する水性トリス塩酸塩、0.05から0.2mM、好ましくは約0.1mM水性エチレンジアミン四酢酸、及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0029】
特定の実施態様において、溶解緩衝液は、リゾチーム、プロテイナーゼK、水酸化ナトリウム及びこれらの任意の組合せからなる群から選択される少なくとも1種の物質を含む。
【0030】
第3の態様において、本発明は、本発明による携帯型核酸抽出器具、少なくとも1種の溶解緩衝液、少なくとも1種の結合緩衝液、少なくとも1種の洗浄緩衝液、少なくとも1種の溶出緩衝液、及び少なくとも3本の試料チューブを含む携帯型核酸抽出キットに関する。
【0031】
特定の実施態様において、キットはエタノールをさらに含む。
【0032】
好ましくは、キットは、少なくとも50本の携帯型核酸抽出器具、少なくとも150本のキット試料チューブ、及び少なくとも50回分の試料を溶解させる体積の溶解緩衝液を含む第1のボトル、少なくとも50回分の試料の核酸を結合させる体積の結合緩衝液を含む第2のボトル、少なくとも50回分の試料を洗浄する体積の洗浄緩衝液を含む第3のボトル、及び少なくとも50回分の試料の核酸を溶出させる体積の溶出緩衝液を含む第4のボトルを含む。
【0033】
図1は携帯型核酸抽出器具100を表す。図1.aに示す通り、携帯型核酸器具100は、柄101、棒102、及び先端部103を含む。図1.bで表す通り、携帯型核酸抽出器具100の先端部は、核酸と結合するように構成されている少なくとも1種の構造体104をさらに含んでいてよい。柄101は、携帯型核酸抽出器具100の基部側に位置する。柄101の末梢側端110は、棒102の基部側端111と機械的に連結されていてよい。柄101及び棒102が一体として形成される場合、柄101は、棒102の基部側端111から形成されてよい。柄101は、球形、楕円形、又は立方形などの幾何学的形状とすることができる。柄101は、木又はプラスチック(例えばポリプロピレン)などの非反応性の材料製とすることができる。柄101は、ポリスチレン、官能化ポリスチレン(例えばフッ化水素酸で官能化された)、ガラス、又はシリカ由来材料などの、核酸と結合する材料製とすることができる。好ましくは、柄101及び棒102が一体として形成される場合、柄101は核酸と結合する材料である。
【0034】
携帯型核酸抽出器具100の棒102は、柄101の末梢側にある。棒102は、立方形、円柱形、又は三角柱形などの幾何学的形状とすることができる。好ましくは、棒102は円柱状の形状である。棒102は、長さ1から20、具体的には2から15、より具体的には3から10、最も具体的には約5cmなど、携帯型核酸抽出器具100の携帯が可能となる長さである。棒102は、2から4ミリメートルなど、携帯型核酸抽出器具100の携帯が可能となる直径である。棒102は、木又はプラスチック(例えばポリプロピレン)などの非反応性の材料製とすることができる。棒102は、ポリスチレン、官能化ポリスチレン(例えばフッ化水素酸で官能化された)、ガラス、又はシリカ由来材料などの、核酸と結合する材料製とすることができる。
【0035】
先端部103は携帯型核酸抽出器具100の棒102の末梢側にあり、核酸と結合するように構成さている。先端部103は棒102と機械的に連結されていてよい。先端部103及び棒102が一体である場合、先端部103は棒102の末梢側端から形成されてよく、したがって、棒102と隣接している。先端部103は、球形、円柱形、又は立方形などの幾何学的形状とすることができる。先端部103は、棒102と類似した、又は同じ幾何学的形状を有していてよい。先端部103は、木又はプラスチック(例えばポリプロピレン)などの非反応性の材料製とすることができる。
【0036】
あるいは、特に携帯型核酸抽出器具100が、図1.eに示すものなどの、核酸と結合するように構成されている少なくとも1種の構造体104を含まない場合、先端部103は、ポリスチレン、官能化ポリスチレン(例えばフッ化水素酸で官能化された)、ガラス、又はシリカ由来材料などの、核酸と結合する材料製とすることができる。携帯型核酸抽出器具100が、核酸と結合するように構成されている少なくとも1種の構造体104を含まない場合、先端部103は、核酸と結合することができる材料製である。先端部103は、図1.eに示すものなどの、核酸との結合を促進するための、サンドブラストなどによって生じる、それぞれの完全な幾何学的形状と比較して増加した表面積を含んでいてよい。
【0037】
核酸と結合するように構成されている少なくとも1種の構造体104は、携帯型核酸抽出器具100の先端部103にあってよい。核酸と結合するように構成されている少なくとも1種の構造体104は、ポリスチレン、シリカ、シリカ誘導体、酸化ケイ素、又はアニオン交換材料などの、目的の核酸と結合する核酸結合性媒体製とすることができる。構造体104は、繊維、ビーズ、又はタンパク質の物理的形態の核酸結合性媒体とすることができる。さらに、核酸結合性媒体である少なくとも1種の構造体104は、誘導体化により先端部103に付着させた、生物試料中の特定の核酸配列に相補的な相補的核酸配列とすることもできる。
【0038】
核酸と結合するように構成されている少なくとも1種の構造体104が先端部103と接触している構造体である場合、構造体は繊維、ビーズ、又はタンパク質とすることができる。構造体は、タンパク質に対し非阻害性の接着剤で先端部と接触させることができる。構造体は、先端部103の外側へ伸長していてもよい。図1.bは、核酸と結合するように構成されている、繊維の物理的形態の構造体104を示し、ここで、繊維はシリカ又はポリスチレンとすることができる。図1.cは、核酸と結合するように構成されている、ビーズの物理的形態の構造体104を示す。ビーズは、シリカマイクロビーズ、シリカナノ粒子、ポリスチレンマイクロビーズ、ポリスチレンナノ粒子、又はサンドブラストをかけたガラスビーズとすることができる。図1.dは、核酸と結合するように構成されている、タンパク質である構造体104を示す。構造体がタンパク質である場合、タンパク質への結合を増大させるため核酸をビオチン化することができる。例えば、タンパク質がストレプトアビジンである場合、核酸はタンパク質に結合させるためビオチン化される。
【0039】
図2は、生物試料から核酸を抽出する方法200を示す。生物試料は、血液、筋肉組織、血漿、精液、細胞、頬スワブ、鼻腔スワブ、毛包、生物検体由来の緩衝液洗浄物、及び凍結試料を含む保存生物試料とすることができる。201では、核酸を有する生物試料を処理して核酸を抽出する。処理は、細胞溶解用に構成された溶解緩衝液を含む第1の試料チューブに生物試料を注入することを含む。第1の試料チューブは液体を保持するように構成されており、ガラス、プラスチック、金属、ポリプロピレン又はセラミックなどの非反応性の材料製である。溶解緩衝液は、生物試料中の細胞を溶解させるために構成されている。例えば溶解緩衝液は、1%triton x−100(triton x−100体積/水体積)、10ミリモーラー(mM)水性トリス塩酸塩(トリスHCl)、又はpH約6.5を有する1mM水性エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及びこれらの組合せとすることができる。溶解緩衝液は、リゾチーム、プロテイナーゼK、又は、細胞壁物質を消化し核酸の放出を助ける別の塩基性試薬(例えば水酸化ナトリウム)をさらに含んでいてもよい。溶解緩衝液は、好ましくは生物試料の体積にほぼ等しい体積で添加される。処理は、溶解緩衝液を生物試料と混合するため、第1の試料チューブを反転させることをさらに含んでいてもよい。生物試料が、筋肉組織、耳刻片、断尾片、又は毛包などの頑丈な組織を含む場合、処理は、2分から3時間などの一定時間、37から95セルシウス度の温度で第1の試料チューブをインキュベートすることをさらに含んでいてよい。水酸化ナトリウムなどの塩基性試薬を溶解緩衝液に使用する場合、処理は、塩酸などの等しい体積の酸で緩衝液を中和することをさらに含んでいてよい。
【0040】
202では、図1に関してこれまでに記載した携帯型核酸抽出器具の先端部が、処理した生物試料中の核酸と結合する。結合は、第1の試料チューブ中の処理した生物試料に結合緩衝液を添加することを含む。結合緩衝液は、携帯型核酸抽出器具の先端部及び/又は核酸結合性構造体への核酸の結合を促進するように構成されており、酢酸緩衝液であってよく、クエン酸緩衝液であってよく、少なくとも1種の塩を含んでいてよく、少なくとも1種のカオトロピック塩を含んでいてよく、ビオチン及び核酸のビオチン化用に構成された試薬を含んでいてよく、これらの任意の組合せを含んでいてよい。例えば、携帯型核酸抽出器具の先端部及び/又は核酸結合性構造体がガラス又はシリカ由来材料製であり、生物試料が全血である場合、結合緩衝液は以下の通りとすることができる:pH約3を有する、6M(M)水性過塩素酸ナトリウム及び200ミリモーラー(mM)水性グリシン塩酸塩の混合物。さらなる例として、酢酸結合緩衝液は、pH約3.6から5.6を有する、50mM水性トリス塩酸塩(トリスHCl)及び水性酢酸ナトリウム/酢酸の混合物とすることができ、クエン酸緩衝液は、pH約3.0から6.2を有する水性クエン酸ナトリウム/クエン酸とすることができ、塩結合緩衝液は、6M水性過塩素酸ナトリウム、6M水性硝酸ナトリウム、4−5M水性塩化ナトリウム、又は4−5M水性塩化カリウム、水性ヨウ化ナトリウム、水性塩化カリウム、水性グアニジン塩酸塩、及び水性グアニジンチオシアン酸塩とすることができ、カオトロピック塩結合緩衝液は、4−6M水性グアニジン塩酸塩、4−6M水性グアニジンチオシアン酸塩、4−6M水性ヨウ化物、又は4−6M水性尿素、及びこれらの組合せとすることができる。結合緩衝液は、好ましくは生物試料の体積の約2.5倍の体積で添加される。
【0041】
核酸結合は、携帯型核酸抽出器具の先端部を第1の試料チューブと接触させることをさらに含み、ここで接触は、第1の試料チューブ中で先端部を円運動(撹拌)などの任意のパターンで動かすことを含んでいてよい。生物試料が全血又は筋肉組織である場合、結合は室温(18から30セルシウス度)で行うことができる。
【0042】
203では、携帯型核酸抽出器具の先端部を、溶解緩衝液及び結合緩衝液が添加された生物試料中でインキュベートして、先端部に核酸を結合させる。インキュベーションは、好ましくは生物試料の体積の約2.5倍の体積の70パーセントエタノール(エタノール体積/水体積)を第1の試料チューブに添加し、携帯型核酸抽出器具の先端部を第1の試料チューブと接触させることを含む。インキュベーションは、核酸と結合した携帯型核酸抽出器具の先端部を第1の試料チューブ中で、室温で少なくとも10分間インキュベートすることをさらに含んでいてよい。
【0043】
204では、結合した核酸を有する携帯型核酸抽出器具の先端部を洗浄する。洗浄は、結合した核酸を有する先端部を、第2の試料チューブ中で洗浄緩衝液と接触させることを含む。第2の試料チューブは液体を保持するように構成されており、ガラス、プラスチック、金属、ポリプロピレン又はセラミックなどの非反応性の材料製である。洗浄緩衝液は、核酸以外の細胞成分が除去されるように核酸を洗浄するために構成されている。洗浄緩衝液は、塩、カオトロピック塩、及びこれらの組合せを含んでいてよい。洗浄緩衝液は、対をなすイミノ二酢酸イオンを含むスチレンジビニルベンゼンコポリマーなどのキレート剤をさらに含んでいてよい。例えば、洗浄緩衝液は以下の通りとすることができる:塩洗浄緩衝液は、6M水性過塩素酸ナトリウム、6M水性硝酸ナトリウム、4−5M水性塩化ナトリウム、又は4−5M水性塩化カリウムとすることができ、カオトロピック塩洗浄緩衝液は、4−6M水性グアニジン塩酸塩、4−6M水性グアニジンチオシアン酸塩、4−6M水性ヨウ化物、又は4−6M水性尿素とすることができる。生物試料がウシ血液であり、先端部及び/又は核酸結合性構造体がガラス又はシリカ由来材料である場合、洗浄緩衝液は、生物試料の体積の2倍にほぼ等しい体積の200mM水性グリシン塩酸塩、及び生物試料の体積の2.5倍にほぼ等しい体積の約70パーセント水性エタノール(エタノール体積/水体積)の混合物、並びにこれらの組合せを含んでいてよい。洗浄は、携帯型核酸抽出器具の先端部を第2の試料チューブ中で約5から10分間インキュベートすることをさらに含んでいてよい。洗浄は、洗浄を繰り返すことをさらに含んでいてよい。
【0044】
205では、携帯型核酸抽出器具の先端部及び/又は核酸結合性媒体に結合した核酸を溶出させる。溶出は、結合した核酸を有する先端部を、第3の試料チューブ中で溶出緩衝液と接触させることを含む。第3の試料チューブは液体を保持するように構成されており、ガラス、プラスチック、金属、ポリプロピレン又はセラミックなどの非反応性の材料製である。溶出緩衝液は、先端部に結合した核酸が溶出緩衝液中に溶出されるように、すなわち結合した核酸が先端部から溶出緩衝液へ放出されるのを促進するように構成されている。溶出緩衝液は、中性pH(pH7から8)の中性溶液(例えば超純水)、pH7.4から9.0を有する1mM水性トリスHCl、又は0.1mM水性EDTA、及びこれらの組合せとすることができる。溶出は、37から95セルシウス度で約10分間、第3の試料チューブ中で先端部をインキュベートすることをさらに含んでいてよい。
【0045】
206では、溶出された核酸を分析する。分析は、吸収分析、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅と任意選択的なその後のゲル電気泳動、及びローリングサークル増幅と任意選択的なその後のゲル電気泳動などの定量及び定性分析を含んでいてよい。
【0046】
図4は核酸抽出キット400を描写している。携帯型核酸抽出器具は核酸抽出キット400の一部とすることができ、生物試料の供給源(例えばウシ、ブタ、家禽類)に近い現場で、又は実験室で使用可能である。核酸抽出キット400は、少なくとも1本の核酸抽出器具100、少なくとも1種の溶解緩衝液402、少なくとも1種の結合緩衝液404、少なくとも1種の洗浄緩衝液406、少なくとも1種の溶出緩衝液408、及び、任意選択的にエタノール410、及び少なくとも3本のキット試料チューブ411を含む。緩衝液は通常、独立したボトル401、403、405、407で提供され、任意選択的に、エタノールが第5のボトル409で提供される。携帯型核酸抽出キットは、任意選択的に容器412をさらに含む。好ましくは、核酸抽出キット400は、少なくとも50本の携帯型核酸抽出器具、少なくとも150本のキット試料チューブ、少なくとも50回分の生物試料を処理する体積の溶解緩衝液を有する第1のボトル、少なくとも50回分の生物試料の核酸を結合させる体積の結合緩衝液を有する第2のボトル、少なくとも50回分の生物試料を洗浄する体積の洗浄緩衝液を有する第3のボトル、及び少なくとも50回分の生物試料の核酸を溶出させる体積の溶出緩衝液を有する第4のボトルを含む。
【0047】
核酸抽出キット400の携帯型核酸抽出器具100は、大気中の異物が携帯型核酸抽出器具に接触することを防止する、高分子ラップ、紙、又はアルミ箔などの材料(図示しない)に包まれていてもよい。
【0048】
第1のボトル401は、ガラス、プラスチック、金属、ポリプロピレン又はセラミックなどの非反応性の材料製である。第1のボトル401は、キャップ、ゴムストッパー、ねじキャップ、又はドロッパーチューブなどにより、反転された際液体を保持するように構成されている。第1のボトル401は柔軟性があり、例えば、第1のボトルをしぼることによりYorkerチップを経て、溶解緩衝液401が送達されるように構成されていてよい。
【0049】
第2のボトル403は、ガラス、プラスチック、金属、ポリプロピレン又はセラミックなどの非反応性の材料製である。第2のボトル403は、キャップ、ゴムストッパー、ねじキャップ、又はドロッパーチューブなどにより、反転された際液体を保持するように構成されている。第2のボトル403は柔軟性があり、例えば、第2のボトルをしぼることによりYorkerチップを経て、結合緩衝液403が送達されるように構成されていてよい。
【0050】
第3のボトル405は、ガラス、プラスチック、金属、ポリプロピレン又はセラミックなどの非反応性の材料製である。第3のボトル405は、キャップ、ゴムストッパー、ねじキャップ、又はドロッパーチューブなどにより、反転された際液体を保持するように構成されている。第3のボトル405は柔軟性があり、例えば第3のボトルをしぼることにより、Yorkerチップを経て洗浄緩衝液が送達されるように構成されていてよい。
【0051】
第4のボトル407は、ガラス、プラスチック、金属、ポリプロピレン又はセラミックなどの非反応性の材料製である。第4のボトル407は、キャップ、ゴムストッパー、ねじキャップ、又はドロッパーチューブなどにより、反転された際液体を保持するように構成されている。第4のボトル407は柔軟性があり、例えば第4のボトルをしぼることにより、Yorkerチップを経て溶解緩衝液が送達されるように構成されていてよい。
【0052】
第5のボトル409は、ガラス、プラスチック、金属、ポリプロピレン又はセラミックなどの非反応性の材料製である。第5のボトル409は、キャップ、ゴムストッパー、ねじキャップ、又はドロッパーチューブなどにより、反転された際液体を保持するように構成されている。第5のボトル409は柔軟性があり、例えば、第5のボトルをしぼることによりYorkerチップを経て、エタノールが送達されるように構成されていてよい。
【0053】
試料キットチューブ411は液体を保持するように構成されており、ガラス、プラスチック、金属、ポリプロピレン又はセラミックなどの非反応性の材料製である。試料キットチューブはさらに、キャップ、蓋、又はゴムストッパーなどにより、反転された際液体を保持するように構成されていてよい。
【0054】
容器412は、少なくとも1本の核酸抽出器具100、溶解緩衝液402を含む第1のボトル401、結合緩衝液404を含む第2のボトル403、洗浄緩衝液406を含む第3のボトル405、溶出緩衝液408を含む第4のボトル407、任意選択的に、エタノール410を含む第5のボトル409、及び少なくとも3本のキット試料チューブ411(キットの内容物)を含むように構成されている。容器は、ボール紙、プラスチック、又はポリスチレンなどの任意の非反応性の材料製とすることができる。容器は、立方形、円柱形、又は三角柱形などの、キットの内容物を保持するように構成されている任意の幾何学的形状とすることができる。
【0055】
容器は、第1のボトル401を保持するように構成されている第1の区画413、第2のボトル403を保持するように構成されている第2の区画414、第3のボトル405を保持するように構成されている第3の区画415、第4のボトル407を保持するように構成されている第4の区画416、任意選択的に、第5のボトル409を保持するように構成されている第5の区画417、少なくとも1本の核酸抽出器具100を保持するように構成されている第6の区画418、及び少なくとも3本のキット試料チューブ411を保持するように構成されている第7の容器419をさらに含んでいてよい。第1の区画413、第2の区画414、第3の区画415、第4の区画416、第5の区画417、第6の区画418、及び第7の区画419は、ボール紙、プラスチック、又はポリスチレンなどの任意の非反応性の材料で形成されていてもよい。容器は、反転された際に容器内のキット内容物を保持するための閉じ具(図示しない)をさらに含んでいてよい。閉じ具は、ボール紙、プラスチック、又はポリスチレンなどの任意の非反応性の材料製とすることができる。
【0056】
本発明は、以下の実施態様にさらに関する。
【0057】
特定の実施態様において、本発明は、柄、柄に取り付けられた棒、並びに木、プラスチック、ポリスチレン、官能化ポリスチレン、ガラス、及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される材料である、棒に取り付けられた先端部を含む携帯型核酸抽出器具、第1のボトルに入った溶解緩衝液、第2のボトルに入った結合緩衝液、第3のボトルに入った洗浄緩衝液、第4のボトルに入った溶出緩衝液、並びに少なくとも3本のキット試料チューブを含む容器を含む携帯型核酸抽出キットに関する。
【0058】
特定の実施態様において、容器は、第5のボトルに入ったある体積のエタノールをさらに含む。
【0059】
特定の実施態様において、携帯型核酸抽出器具は、核酸と結合するように構成されている核酸結合性媒体をさらに含む。
【0060】
特定の実施態様において、本発明は、柄、柄に取り付けられた棒、並びに木、プラスチック、ポリスチレン、官能化ポリスチレン、ガラス、及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される材料である、棒に取り付けられた先端部を含む、核酸抽出用の携帯型核酸抽出器具に関する。
【0061】
特定の実施態様において、携帯型核酸抽出器具は、核酸と結合するように構成されている、先端部に取り付けられた核酸結合性媒体をさらに含む。
【0062】
特定の実施態様において、柄、棒、及び先端部は一体として形成されており、柄、棒、及び先端部を形成する材料は、木、プラスチック、ポリスチレン、官能化ポリスチレン、ガラス、及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される。
【0063】
特定の実施態様において、柄、棒、及び先端部はガラスである。
【0064】
特定の実施態様において、柄、棒、及び先端部は、表面積が増加するようにサンドブラストをかけたガラスである。
【0065】
特定の実施態様において、先端部は、核酸と結合するように構成されており、ポリスチレン、官能化ポリスチレン、ガラス、及びシリカ由来材料からなる群のうち少なくとも1つから選択される。
【0066】
特定の実施態様において、先端部は、表面積が増加するようにサンドブラストをかけたガラスである。
【0067】
特定の実施態様において、核酸結合性媒体は繊維の形態である。
【0068】
特定の実施態様において、繊維はシリカ繊維である。
【0069】
特定の実施態様において、繊維はポリスチレン繊維である。
【0070】
特定の実施態様において、核酸結合性媒体はビーズの形態である。
【0071】
特定の実施態様において、ビーズは、シリカマイクロビーズ、シリカナノ粒子、ポリスチレンマイクロビーズ、ポリスチレンナノ粒子、サンドブラストをかけたガラスビーズ、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0072】
特定の実施態様において、核酸結合性媒体はタンパク質である。
【0073】
特定の実施態様において、本発明は、携帯型核酸抽出器具を使用して核酸を分析する核酸分析方法であって、核酸を有する生物試料を溶解緩衝液で処理して、生物試料中の細胞を溶解させること、処理した生物試料中の核酸を、結合緩衝液で携帯型核酸抽出器具の先端部に結合させること、核酸と結合した携帯型核酸抽出器具の先端部をインキュベートすること、核酸と結合した携帯型核酸抽出器具の先端部を洗浄緩衝液で洗浄すること、携帯型核酸抽出器具の先端部と結合した核酸を溶出緩衝液で溶出させること、及び溶出された核酸を分析することを含む、核酸分析方法に関する。
【0074】
特定の実施態様において、インキュベートすることは、携帯型核酸抽出器具の先端部をある体積のエタノールと接触させることをさらに含む。
【0075】
特定の実施態様において、溶解緩衝液は、10mMトリス塩酸塩水溶液であり、結合緩衝液は、pH2.0から4.0を有する、6M水性次亜塩素酸ナトリウム及び200mM水性グリシン塩酸塩の組合せであり、洗浄緩衝液は、水性グリシン塩酸塩及び水性エタノール(エタノール体積/水体積)の組合せであり、溶出緩衝液は、pH7.0から10.0を有する水性トリス塩酸塩である。
【0076】
特定の実施態様において、溶解緩衝液は、リゾチーム、プロテイナーゼk、及び水酸化ナトリウムからなる群から選択される物質をさらに含む。
【0077】
特定の実施態様において、溶解緩衝液は、0.2から5パーセントtriton x−100(triton x−100体積/水体積)、2から50mM水性トリス塩酸塩、及びpH5.5から7.5を有する1mM水性エチレンジアミン四酢酸、及びこれらの組合せからなる群から選択され、結合緩衝液は、pH2.0から4.0を有する、水性次亜塩素酸ナトリウム及びグリシン塩酸塩の混合物、pH3.6から5.6を有する、水性トリス塩酸塩及び水性酢酸ナトリウム/酢酸の混合物、pH3.0から6.2を有する水性クエン酸ナトリウム/クエン酸、5から7M水性過塩素酸ナトリウム、6M水性硝酸ナトリウム、4から5M水性塩化ナトリウム、4から5M水性塩化カリウム、4から6M水性グアニジン塩酸塩、4から6M水性グアニジンチオシアン酸塩、4から6M水性ヨウ化物、及び4から6M水性尿素、及びこれらの組合せからなる群から選択され、洗浄緩衝液は、5から7M水性過塩素酸ナトリウム、5から7M水性硝酸ナトリウム、4から5M水性塩化ナトリウム、4から5M水性塩化カリウム、4から6M水性グアニジン塩酸塩、4から6M水性グアニジンチオシアン酸塩、4から6M水性ヨウ化物、4から6M水性尿素、及び100から300mM水性グリシン塩酸塩、及びこれらの組合せからなる群から選択され、溶出緩衝液は、超純水、pH7.4から9を有する水性トリス塩酸塩、及び0.05から0.2mM水性エチレンジアミン四酢酸、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【実施例】
【0078】
以下の実施例は、本発明の一又は複数の好ましい実施態様を例示するために与えられる。以下の実施例に対し、本発明の範囲内に入る数多くの変更を加えることが可能である。
【0079】
実施例1.抽出したゲノムDNAの濃度決定。
図3.a.は、抽出したゲノムDNAの濃度及び純度決定について示す。方法200を使用して生物試料由来のゲノムDNAを抽出した。生物試料は、100マイクロリットル分量のウシ血液6種であった。溶解緩衝液としてpH6.8の0.01mMトリスHClを用いて溶解201を実施した。この例では特定の溶解緩衝液を使用したが、その他の溶解緩衝液を使用してもよい。結合202は、結合緩衝液として、pH3.0の、6M次亜塩素酸ナトリウムの200mMグリシン塩酸塩を添加することを含んでいた。この例では特定の結合緩衝液を使用したが、その他の結合緩衝液を使用してもよい。インキュベーション203は、エタノールを添加して、処理した生物試料を10分間撹拌することを含んでいた。洗浄204は、洗浄緩衝液として200mMグリシン塩酸塩200マイクロリットル及び70%(体積/体積)エタノール250μLを用いて実施され、処理した生物試料を2分間から5分間撹拌することを含んでいた。この例では特定の洗浄緩衝液を使用したが、その他の洗浄緩衝液を使用してもよい。溶出205は、溶出緩衝液としてpH8.8の10mMトリスHCl緩衝液を用いて実施され、90セルシウス度で10分間のインキュベーションを含んでいた。この例では特定の溶出緩衝液を使用したが、その他の溶出緩衝液を使用してもよい。分析206は、DNA濃度及び純度の測定を含んでいた。DNA濃度は、分光光度計を用いて紫外可視光線のDNA吸光度により測定し、純度は、260ナノメートル(nm)及び280nmでの吸光度測定値の比率(ration)を算出することにより測定した。図3.a.は、携帯型核酸抽出器具及び方法200での抽出により、良好と許容され(例えば吸光度比(ration)1.3から1.8を有する)、さらなる活用及び定量分析に適した質のDNAが生じることを実証している。
【0080】
実施例2.PCR増幅及びゲル電気泳動。
図3.b.は、方法200で抽出したゲノムDNAを鋳型として使用した、ウシグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子のPCR増幅及びゲル電気泳動を示す。100マイクロリットル分量のウシ血液6種を出発材料として使用した。実施例1の方法200を使用して、これらの生物試料のゲノムDNAを抽出した。分析206は、PCR反応物15マイクロリットル中の、試料6種それぞれから得られた溶出液1マイクロリットルを使用した、GAPDH遺伝子のPCR増幅を含んでいた。PCR反応産物6種を1%アガロースゲルで泳動し、サイバーグリーンで染色して、抽出したDNAを可視化した。レーン1から6は、得られたPCR産物6種それぞれに対応する。レーンNは陰性コントロールである。レーンPは、GAPDH遺伝子をPCR増幅するための鋳型としてウシゲノムDNA40ナノグラムを使用した陽性コントロールである。図3.b.は、レーン1から6のそれぞれにおける約650塩基対の明確なPCR産物を示しており、携帯型核酸抽出器具及び方法200によって、例えば所与のDNA配列が存在するか存在しないかを定性的に決定するためのその後のPCR増幅に適した抽出ゲノムDNAが生じることを示している。
【0081】
実施例3.ローリングサークル増幅(RCA)及びゲル電気泳動。
図3.c.は、方法200で抽出したゲノムDNAを鋳型として使用した、ウシベータカゼイン遺伝子領域のRCA及びゲル電気泳動を示す。100マイクロリットル分量のウシ血液6種を出発材料として使用した。実施例1の方法200を使用して、これらの生物試料からゲノムDNAを抽出した。分析206は、生物試料から抽出したゲノムDNA中のウシ(bone)ベータカゼイン遺伝子に特異的なパッドロックプローブをライゲーションし、Bst DNAポリメラーゼを使用して、ライゲーションしたパッドロックプローブに特異的なプライマーを増幅することを含んでいた。増幅産物6種を1%アガロースゲルで泳動し、サイバーグリーンで染色して、増幅されたDNAを可視化した。MWSと記したレーンは、100塩基対分子量ラダーを含むサイズ標準コントロールレーンである。図3.c.は、ウシベータカゼイン遺伝子に特異的なパッドロックプローブの増幅を示す、レーン1から6のバンド形成パターンの可視化を示しており、携帯型核酸抽出器具及び方法200によって、例えば所与のDNA配列が存在するか存在しないかを定性的に決定するためのその後のローリングサークル増幅に適した抽出ゲノムDNAが生じることを示している。
図1
図2
図3
図4