特許第6886979号(P6886979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イエフペ エネルジ ヌヴェルの特許一覧

特許6886979高い分散性および特定の微結晶サイズを有するアルミナゲルの製造方法
<>
  • 特許6886979-高い分散性および特定の微結晶サイズを有するアルミナゲルの製造方法 図000007
  • 特許6886979-高い分散性および特定の微結晶サイズを有するアルミナゲルの製造方法 図000008
  • 特許6886979-高い分散性および特定の微結晶サイズを有するアルミナゲルの製造方法 図000009
  • 特許6886979-高い分散性および特定の微結晶サイズを有するアルミナゲルの製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6886979
(24)【登録日】2021年5月19日
(45)【発行日】2021年6月16日
(54)【発明の名称】高い分散性および特定の微結晶サイズを有するアルミナゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/34 20060101AFI20210603BHJP
【FI】
   C01F7/34 Z
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-538710(P2018-538710)
(86)(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公表番号】特表2019-507087(P2019-507087A)
(43)【公表日】2019年3月14日
(86)【国際出願番号】EP2017051258
(87)【国際公開番号】WO2017129497
(87)【国際公開日】20170803
【審査請求日】2020年1月16日
(31)【優先権主張番号】1650747
(32)【優先日】2016年1月29日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】ブアレグ マリカ
(72)【発明者】
【氏名】ラフォン オリヴィエ
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/189203(WO,A1)
【文献】 特開平08−268716(JP,A)
【文献】 特開2013−129575(JP,A)
【文献】 特開2007−217245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルミナゲルの調製方法であって、該アルミナゲルは、分散性指数が80%超であり、結晶学的方位[020]および[120]に沿うシェラーのX線回折式によって得られる微結晶寸法が、それぞれ、0.5〜10nmの範囲内および0.5〜15nmの範囲内であり、並びに、塩素含有率が0.001重量%〜2重量%の範囲内であり、ナトリウム含有率が0.001重量%〜2重量%の範囲内であるものであり、重量百分率は、アルミナゲルの全重量に対して表され、
該分散性指数(DI(%))は、アルミナゲル10%を、アルミナゲルの質量に対して硝酸10%も含有する水の懸濁液中に分散させ、該懸濁液を、6000rpmで10分にわたって遠心分離にかけ、集められたセジメントを、100℃で終夜乾燥させ、以下の計算
DI(%)=100%−乾燥したセジメントの質量(%)
によって得られるものであり、
該方法は、単一の沈殿工程(a)と、工程a)の終わりに得られた懸濁液のろ過工程b)とにおいて行われ、沈殿工程(a)は、酸性のアルミニウム前駆体である塩化アルミニウムを水中に10℃〜90℃の範囲内の温度で、溶液のpHが0.5〜5の範囲内になるように、2〜60分の範囲内の期間にわたって溶解させ、次いで、塩基性前駆体である水酸化ナトリウムを、5℃〜35℃の範囲内の温度で、5分〜5時間の範囲内の期間にわたって、懸濁液が得られるように得られた溶液に加えることによって7.5〜9.5の範囲内のpHにpH調節することからなり、前記方法は、ろ過工程b)の終わりに得られた沈殿物を洗浄するためのあらゆる工程を含まない、方法。
【請求項2】
酸性アルミニウム前駆体である塩化アルミニウムAlClを、10℃〜75℃の範囲内の温度で水に溶解させる、請求項に記載の方法。
【請求項3】
塩化アルミニウムAlClの水溶液のpHは、1〜4の範囲内である、請求項またはに記載の方法。
【請求項4】
10℃〜30℃の範囲内の温度でpH調節する、請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
10℃〜25℃の範囲内の温度でpH調節する、請求項に記載の調製方法。
【請求項6】
7.7〜8.8の範囲内のpHにpH調節する、請求項1〜のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項7】
粉体を得るための、沈殿工程の終わりに得られたろ過された懸濁液のための乾燥工程も含み、前記乾燥工程は、100℃以上の温度で乾燥させることまたは噴霧乾燥させることによって行われる、請求項のいずれか1つに記載の調製方法。
【請求項8】
得られた粉体を形付けして未加工材料を得る工程も含む、請求項に記載の調製方法。
【請求項9】
混合−押出または油滴によって形付け工程を行う、請求項に記載の調製方法。
【請求項10】
形付けされた未加工材料は、次いで、熱処理工程を経てよく、該熱処理工程は、500℃〜1000℃の範囲内の温度で、2〜10時間の範囲内の期間にわたって、60容積%までの水を含有する空気の流れの存在下または非存在下に行われる、請求項またに記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナゲルまたはベーマイトゲルの調製に関する。特に、本発明は、アルミナゲルの調製方法であって、単一の沈殿工程と、続く、得られた懸濁液をろ過して沈殿物を得る工程とを含み、この沈殿工程は、特定の酸性アルミニウム前駆体である塩化アルミニウムを水中に10℃〜90℃の範囲内の温度で、溶液のpHが0.5〜5の範囲内になるように、2〜60分の範囲内の期間にわたって溶解させ、次いで、5℃〜35℃の範囲内の温度で、5分〜5時間の範囲内の期間にわたって、特定の塩基性前駆体である水酸化ナトリウムを、懸濁液が得られるように得られた溶液に加えることにより7.5〜9.5の範囲内のpHにpH調節することからなり、前記ろ過工程の後にあらゆる洗浄工程を含まない、方法に関する。
【0002】
本発明による方法は、高い分散性および低減した微結晶サイズを有するアルミナゲルを得るために用いられ得る。
【0003】
本発明は、分散性指数が高い、特に、分散性指数が80%超であり、結晶学的方位[020]および[120]に沿うシェラーのX線回折式によって得られる微結晶寸法が、それぞれ、0.5〜10nmの範囲内および0.5〜15nmの範囲内であり、並びに塩素含有率が0.001重量%〜2重量%の範囲内、ナトリウム含有率が0.001重量%〜2重量%の範囲内であり、重量百分率は、アルミナゲルの全重量に対して表される、新規なアルミナゲルにも関する。
【0004】
このようにして調製されたアルミナゲルは、有利には、多くの精製方法における触媒担体として用いられるように形付けされてよい。アルミナゲルがアルミナビーズの形態に形付けされる場合、それらは、オリゴマー化または接触改質方法における触媒担体として用いられてよい。このようにして得られたアルミナビーズは、吸着剤として用いられてもよい。
【背景技術】
【0005】
従来技術において知られているいくつかの操作手順の結果、分散可能なアルミナゲルが得られる。いくつかの特許には、特に、「ゾル−ゲル」として知られている調製方法が記載されている。
【0006】
特許文献1には、水に分散可能なアルミナの製造方法であって、アルミナの水性分散液を形成する工程と、酸を加えて、5〜9の範囲内のpHを有する酸性分散液を生じさせる工程と、アルミナをコロイダルゲルに変換するのに十分な期間にわたって70℃超の高温で熟成する工程と、得られた前記コロイダルゲルを乾燥させる工程とを含む、方法が記載されている。
【0007】
特許文献2にも、アルファアルミナの製造方法であって、70%未満の分散性でアルミニウム水和物を分散させる工程と、得られた分散液を3.5未満のpHに酸性化してアルミニウム水和物を少なくとも部分的に溶解させる工程と、150℃〜200℃の範囲内の温度、5〜20atmの範囲内の圧力で、0.15〜4時間の範囲内の期間にわたって、得られた酸性分散液を水熱処理して、90%超の分散性のコロイダルベーマイトを得る工程とを含む、方法が記載されている。
【0008】
沈殿によるアルミナゲルの調製も、従来技術において周知である。
【0009】
特に、特許文献3には、非常に特定的な細孔分布を有するアルミナ担体の調製が記載されており、このアルミナ担体は、重質炭化水素供給原料の水素化転化のための方法における触媒担体として用いられ得る。
【0010】
アルミナ担体の調製は、制御された方法で、第1のアルカリ性水溶液と第1の酸性水溶液とを混合することによりアルミナ分散液を形成する第1の工程であって、前記酸性および塩基性の溶液の少なくとも一方またはそれらの両方が、アルミニウム化合物を含む、工程を含む方法により行われる。酸性および塩基性の溶液は、生じた分散液のpHが8〜11の範囲内になるような割合で混合される。酸性および塩基性の溶液はまた、所望量のアルミナを含有する分散液を得るために用いられてよい量で混合される;特に、第1の工程は、2回の沈殿工程の終わりに形成されたアルミナの全量に対して25重量%〜35重量%のアルミナを得るために用いられ得る。第1の工程は、20℃〜40℃の範囲内の温度で操作される。
【0011】
所望量のアルミナが形成された時、懸濁液の温度は、45℃〜70℃の範囲内の温度に上昇させられ、次いで、加熱された懸濁液は、第2の沈殿工程を経る。この第2の沈殿工程は、前記懸濁液を、第2のアルカリ性水溶液および第2の酸性水溶液と接触させることにより行われ、2種の溶液の少なくとも一方またはそれらの両方が、アルミニウム化合物を含む。同様に、pHは、加えられる酸性および塩基性の溶液の割合によって8〜10.5の間に調節され、第2の工程において形成されるべきアルミナの残りの量が、加えられる第2の酸性および塩基性の溶液の量を介して供給される。第2の工程は、20℃〜40℃の範囲内の温度で操作される。このようにして形成されたアルミナゲルは、最低95%のベーマイトを含む。このようにして得られたアルミナゲルの分散性は言及されていない。アルミナゲルは、次いで、当業者に知られている方法を用いるが、先行する水熱処理工程は行われずに、ろ過され、洗浄され、場合によっては、乾燥させられて、アルミナ粉体が生じ、これは、次いで、当業者に知られている方法を用いて形付けされ、次いで、焼成されて、最終のアルミナ担体が生じる。
【0012】
本出願人は、今や、単一の沈殿工程でのアルミナゲルの調製のための方法であって、前記工程は、特定の酸性アルミニウム前駆体である、塩化アルミニウムを溶解させること、次いで、特定の塩基性前駆体である水酸化ナトリウムを用いてpHを調節することからなるが、続く共沈工程を行わない、方法の結果、小さな微結晶を有するアルミナゲルが得られることを発見した。
【0013】
特に、本発明による調製方法は、微結晶であって、結晶学的方位[020]および[120]に沿うシェラーのX線回折式によって得られる、そのサイズが、それぞれ、0.5〜10nmの範囲内および0.5〜15nmの範囲内、好ましくは0.5〜2nmの範囲内および0.5〜3nmの範囲内、大いに好ましくは0.5〜1.5nmの範囲内および0.5〜2.5nmの範囲内である、ものからなるアルミナゲルまたはベーマイトを得るために用いられ得る。
【0014】
さらに、本発明による新規な調製方法は、前記沈殿物のろ過の後に、沈殿工程の終わりに得られた沈殿物の洗浄がないことによっても特徴付けられる。
【0015】
実際に、本出願人は、沈殿工程a)のpHおよび温度について特定の操作条件を採用することは、ろ過の後に、沈殿工程の終わりに得られた沈殿物の洗浄がないことと組み合わされて、小さい結晶体を有するアルミナゲルを生じさせることができるだけではなく、分散性が非常に高く、好ましくは80%超であり、100%に到達してもよい、アルミナゲルを生じさせることもできることも発見した。
【0016】
本発明による前記方法は、それ故に、従来技術のアルミナゲルと比較してより良好な分散性指数を有するアルミナゲルを得るために用いられ得て、これにより、当業者に知られている技術を用いたその形付けが容易になる。
【0017】
洗浄工程を行わない結果、水の大幅な節約、本発明による方法についてのより良好な生産性並びに工業スケールへの方法のより容易な外挿が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第4676928号明細書
【特許文献2】米国特許第5178849号明細書
【特許文献3】米国特許第7790652号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
(発明の概要および利点)
本発明は、アルミナゲルの調製方法であって、単一の沈殿工程a)および工程a)の終わりに得られた懸濁液のろ過工程b)とにおいて行われ、前記沈殿工程は、酸性のアルミニウム前駆体である塩化アルミニウムを水中に、10℃〜90℃の範囲内の温度で、溶液のpHが0.5〜5の範囲内になるように、2〜60分の期間にわたって溶解させること、次いで、塩基性前駆体である水酸化ナトリウムを、5℃〜35℃の範囲内の温度で、5分〜5時間の範囲内の期間にわたって、懸濁液が得られるように得られた溶液に加えることからなり、前記方法は、ろ過工程b)の終わりに得られた沈殿物を洗浄するためのあらゆる工程を含まない、方法に関する。
【0020】
本発明の一つの利点は、従来技術に従って調製されたアルミナゲルと比較して低減した微結晶寸法を有する、特に小さい結晶体を有するアルミナゲルを得るために用いられ得る調製方法が提供されることにある。
【0021】
本発明の別の利点は、アルミナゲルの調製方法であって、採用された特定の操作条件、すなわち、沈殿工程a)のpHおよび温度のために、ろ過の後に、沈殿工程の終わりに得られた沈殿物の洗浄がないことと組み合わされて、小さい結晶体を有するアルミナゲルを生じさせることができるだけではなく、分散性が非常に高い、好ましくは80%超を有する、場合によっては100%までにも達するアルミナゲルを生じさせることもできる、方法が提供されることにある。
【0022】
本発明の別の利点は、低減した微結晶寸法を有するアルミナゲルの調製方法であって、本発明による方法が、単一の沈殿工程のみを含み、得られた沈殿物を洗浄するためのあらゆる工程を含まない点で、従来技術のアルミナ調製方法、例えば、ゾル−ゲルタイプの調製方法と比較して単純化され、かつより安価である方法が提供されることにある。
【0023】
本発明は、新規なアルミナゲルであって、分散性指数が高い、特に、分散性指数が80%超であり、結晶学的方位[020]および[120]に沿うシェラーのX線回折式によって得られる、微結晶寸法が、それぞれ0.5〜10nmの範囲内および0.5〜15nmの範囲内であり、並びに塩素含有率が0.001重量%〜2重量%の範囲内、ナトリウム含有率が、0.001重量%〜2重量%の範囲内であり、重量百分率は、アルミナゲルの全重量に対して表される、ものにも関する。
【0024】
本発明の一つの利点は、新規なアルミナゲルであって、従来技術のアルミナゲルと比べて非常に高い分散性を有する、ものが提供されることにある。
【0025】
高い分散性指数によって特徴付けられるアルミナゲルは、当業者に知られている形付け技術のいずれか、例えば、混合−押出、造粒または油滴技術を用いて、低い分散性指数を有するゲルより容易に形付けされることになる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(発明の説明)
本発明は、アルミナゲルであって、分散性指数が高い、特に分散性指数が80%超であり、結晶学的方位[020]および[120]に沿うシェラーのX線回折式によって得られる微結晶寸法が、それぞれ、0.5〜10nmの範囲内および0.5〜15nmの範囲内であり、並びに塩素含有率が0.001重量%〜2重量%の範囲内であり、ナトリウム含有率が、0.001重量%〜2重量%の範囲内であり、重量百分率は、アルミナゲルの全重量に対して表される、ものに関する。
【0028】
分散性は、ベーマイトまたはアルミナゲル10%を、ベーマイトの質量に対して硝酸10%も含有する水の懸濁液中に分散させることによって測定される。次に、懸濁液は、6000rpmで10分にわたって遠心分離にかけられる。集められたセジメントは、100℃で終夜乾燥させられ、次いで、計量される。
【0029】
DIで表記される分散性指数は、以下の計算によって得られる:
DI(%)=100%−乾燥したセジメントの質量(%)
【0030】
以降の本明細書を通して、アルミナゲルまたはベーマイトのX線回折は、回折計を活用する従来の粉体法を採用して行われた。
【0031】
シェラーの式は、微結晶寸法に対する回折ピークの半値幅(width at half height)に関連する多結晶の粉体またはサンプルのX線回折において用いられる式である。それは文献において詳細に記載されている:Appl. Cryst. (1978). 11, 102-113, Scherrer after sixty years: A survey and some new results in the determination of crystallite dimension, J. I. Langford and A. J. C. Wilson.
好ましくは、本発明によるアルミナゲルの分散性指数は、80%〜100%の範囲内、好ましくは85%〜100%の範囲内、大いに好ましくは88%〜100%の範囲内、一層より好ましくは90%〜100%の範囲内である。
【0032】
本発明によると、本発明による粉体の形態にあるアルミナゲルまたはベーマイトは、微結晶からなり、その寸法は、結晶学的方位[020]および[120]に沿うシェラーのX線回折式によって得られ、それぞれ、0.5〜10nmの範囲内および0.5〜15nmの範囲内である。
【0033】
好ましくは、本発明によるアルミナゲルの[020]結晶学的方位における微結晶寸法は、0.5〜2nmの範囲内であり、[120]結晶学的方位における微結晶寸法は、0.5〜3nmの範囲内であり、大いに好ましくは、それぞれ、0.5〜1.5nmの範囲内および0.5〜2.5nmの範囲内である。
【0034】
本発明によると、本発明に従って調製されたアルミナゲルの、蛍光X線によって測定される不純物の含有率、特に塩素の含有率は、0.001重量%〜2重量%の範囲内、およびICPすなわちinductively coupled plasma spectrometry(誘導結合プラズマ分光法)によって測定されるナトリウム含有率は、0.001重量%〜2重量%の範囲内であり、重量百分率は、アルミナゲルの全重量に対して表される。
【0035】
好ましくは、本発明に従って調製されたアルミナゲルは、塩素を含み、その含有率は、0.001重量%〜1重量%の範囲内、好ましくは0.001重量%〜0.70重量%の範囲内、大いに好ましくは0.003重量%〜0.60重量%の範囲内、一層より好ましくは0.005重量%〜0.50重量%の範囲内である。
【0036】
好ましくは、本発明に従って調製されたアルミナゲルは、ナトリウムを含み、その含有率は、0.001重量%〜1重量%の範囲内、好ましくは0.001重量%〜0.80重量%の範囲内、大いに好ましくは0.0015重量%〜0.60重量%の範囲内、および0.002重量%〜0.050重量%の範囲内である。
【0037】
(調製方法)
本発明によると、本発明によるアルミナゲルの調製方法は、単一の沈殿工程a)と、工程a)の終わりに得られた懸濁液をろ過して沈殿物を得る工程b)とを含み、かつ、好ましくは、これらによって構成され、前記沈殿工程は、酸性のアルミニウム前駆体である塩化アルミニウムを水中に10℃〜90℃の範囲内の温度で、溶液のpHが0.5〜5の範囲内になるように、2〜60分の範囲内の期間にわたって溶解させること、次いで、塩基性前駆体である水酸化ナトリウムを、懸濁液が得られるように得られた溶液に、5℃〜35℃の範囲内の温度で、5分〜5時間の範囲内の期間にわたって加えることによって7.5〜9.5の範囲内のpHにpH調節することからなり、前記方法は、前記ろ過工程b)の後にあらゆる洗浄工程を含まず、前記ろ過工程の後に、場合によっては、アルミナ粉体を得るための前記沈殿物のための乾燥工程が行われ、前記乾燥工程の後に、場合によっては、未加工材料(green material)を得るための前記アルミナ粉体のための形付けの工程が行われ、前記未加工材料は、今度は、少なくとも1回の熱処理工程を経てもよい。
【0038】
前記沈殿工程は、特定の酸性アルミニウム前駆体、すなわち、塩化アルミニウムAlClを、水中に、10℃〜90℃の範囲内、好ましくは10℃〜80℃の範囲内、より好ましくは10℃〜75℃の範囲内、最も好ましくは15℃〜70℃の範囲内の温度で溶解させることからなる。得られた溶液のpHは、0.5〜5の範囲内、好ましくは1〜4の範囲内、好ましくは1.5〜3.5の範囲内である。溶液は、2〜60分の範囲内、好ましくは5〜30分の範囲内、好ましくは5〜10分の範囲内の期間にわたって撹拌される。
【0039】
得られた懸濁液のpHは、次いで、特定の塩基性前駆体、すなわち、水酸化ナトリウムNaOHを、5℃〜35℃の範囲内、好ましくは10℃〜30℃の範囲内、より好ましくは10℃〜25℃の範囲内の温度で、5分〜5時間の範囲内、好ましくは10分〜5時間の範囲内、好ましくは15分〜2時間の範囲内の期間にわたって加えることによって最終沈殿pHと称されるpH:7.5〜9.5、好ましくは7.5〜9、より好ましくは7.7〜8.8に調節される。
【0040】
NaOHを加えることは、ベーマイトが沈殿させられ得ることおよび懸濁液が得られ得ることを意味する。
【0041】
好ましくは、沈殿は、有機添加物がない中で行われる。
【0042】
好ましくは、アルミナゲルの沈殿は、撹拌しながら行われる。
【0043】
好ましくは、本発明による方法は、沈殿のための補足工程を含まず、水性反応媒体中の、少なくとも1種の塩基性前駆体と少なくとも1種の酸性前駆体との接触によるその後の共沈工程であって、塩基性または酸性の前駆体の少なくとも一方がアルミニウムを含む工程を含まない。
【0044】
選択された温度およびpHの条件と関連する特定の前駆体の選択は、従来技術に従って調製されたアルミナゲルと比較して低減した微結晶寸法を有するアルミナゲルが得られてよいこと、特に、微結晶からなるアルミナゲルまたはベーマイトであって、微結晶の寸法が、結晶学的方位[020]および[120]に沿うシェラーのX線回折式によって得られ、それぞれ、0.5〜10nmの範囲内および0.5〜15nmの範囲内、好ましくはそれぞれ0.5〜2nmの範囲内および0.5〜3nmの範囲内、大いに好ましくはそれぞれ0.5〜1.5nmの範囲内および0.5〜2.5nmの範囲内である、アルミナゲルまたはベーマイトが得られてよいことを意味する。
【0045】
本発明によると、本発明に従うアルミナゲルの調製方法は、沈殿物を得るための、沈殿工程の終わりに得られた懸濁液のろ過工程b)も含む。
【0046】
前記ろ過工程は、当業者に知られている方法により行われる。
【0047】
本発明によると、本調製方法は、ろ過工程の終わりに得られた沈殿物を洗浄するためのあらゆる工程を含まない。
【0048】
沈殿工程の終わりに得られたアルミナゲルは、続いてろ過工程b)が行われるが、得られた沈殿物のためのあらゆる洗浄工程は行われず、このものは、有利には、粉体を得るように、ろ過工程の終わりに得られた前記沈殿物のための乾燥工程において乾燥させられてよく、前記乾燥工程は、有利には、100℃以上の温度で乾燥させるか、または、噴霧乾燥させるか、または、当業者に知られている任意の他の乾燥技術によって行われる。
【0049】
100℃以上の温度で乾燥させることによって前記乾燥工程が行われる場合、前記乾燥工程は、有利には、閉鎖型通気オーブン(closed and ventilated oven)において行われてよい。好ましくは、前記乾燥工程が操作される際の温度は、100℃〜300℃の範囲内、大いに好ましくは120℃〜250℃の範囲内である。
【0050】
噴霧乾燥によって前記乾燥工程が行われる場合、第2の沈殿工程の終わりに得られたケーキ状物は、ろ過工程が行われた後に、懸濁液に投入される。前記懸濁液は、次いで、微細な滴体で、縦筒状チャンバに噴霧されて、高温空気の流れと接触し、当業者に周知である原理に従って水が蒸発させられる。得られた粉体は、熱の流れによって、粉体から空気を分離することになるサイクロンまたはスリーブフィルタまで同伴される。
【0051】
好ましくは、噴霧乾燥によって前記乾燥工程が行われる場合、噴霧乾燥は、出版物Asep Bayu Dani Nandiyanto, Kikuo Okuyama, Advanced Powder Technology, 22, 1-19, 2011に記載された操作手順に従って行われてよい。
【0052】
場合による乾燥工程の終わりに得られた粉体は、有利には、未加工材料を得るように形付けされてもよい。
【0053】
用語「未加工材料」は、熱処理工程を経ていない形付け済み材料を意味する。
【0054】
好ましくは、前記形付け工程は、混合−押出、造粒、油滴技術、またはペレット化によって行われてよい。
【0055】
大いに好ましくは、前記形付け工程は、混合−押出または油滴によって行われる。
【0056】
得られた、かつ場合によっては形付けされた未加工材料は、500℃〜1000℃の範囲内の温度での、有利には2〜10時間の範囲内の期間にわたる、60容積%までの水を含有する空気の流れの存在下または非存在下の熱処理のための工程を経てもよい。
【0057】
好ましくは、前記熱処理は、水を含有する空気の流れの存在下に行われる。
【0058】
好ましくは、前記熱処理工程は、540℃〜850℃の範囲内の温度で操作される。
【0059】
好ましくは、前記熱処理工程は、2時間〜10時間の範囲内の期間にわたって操作される。
【0060】
前記熱処理工程により、ベーマイトが最終のアルミナに変換されることが可能になる。
【0061】
熱処理工程は、当業者に知られているあらゆる技術に従って、50℃〜120℃の範囲内の温度での乾燥によって先行されてもよい。
【0062】
本発明による方法は、場合によっては粉体状の形態にあり、従来技術に従って調製されたアルミナゲルと比較して低減した寸法を有する微結晶を有するアルミナゲルを得るために用いられてよい。
【0063】
特に、本発明による粉体の形態で得られたアルミナゲルまたはベーマイトは、微結晶からなり、その寸法は、結晶学的方位[020]および[120]に沿うシェラーのX線回折式によって得られ、それぞれ0.5〜10nmの範囲内および0.5〜15nmの範囲内、好ましくはそれぞれ0.5〜2nmの範囲内および0.5〜3nmの範囲内、大いに好ましくはそれぞれ0.5〜1.5nmの範囲内および0.5〜2.5nmの範囲内である。
【0064】
本発明は、本発明による調製方法を用いて得られ得るアルミナゲルにも関する。
【0065】
本発明は、以降において、以下の実施例によって例証されることになるが、これらは、本質的に決して限定するものではない。
【0066】
沈殿工程a)の終わりに得られる懸濁液を生じさせる時の生産性は、洗浄工程の欠落によって改善され、これは、本発明に従う本方法の生産性(水の切り詰め、および従来の方法おけるよりもベーマイトの合成のための時間の大きな短縮)に有利に作用し、並びに、工業スケールでの本方法の外挿に有利に作用する。洗浄の欠落、それ故の、ベーマイト微結晶の表面上の塩の主要な存在の欠落は、改善された分散性を有するアルミナゲルが得られることを意味する。
【0067】
(実施例)
(実施例1(比較):ゾル−ゲル)
市販のアルミナゲル粉体(Pural SB3)は、ゾル−ゲルルートを用いて、アルミニウムアルコキシドの加水分解−重縮合によって調製された。
【0068】
Pural SB3ベーマイトゲルの特徴は、表1にまとめられる。
【0069】
【表1】
【0070】
塩素含有率は、蛍光X線法を用いて測定され、ナトリウム含有率は、ICP、すなわち、inductively coupled plasma spectrometry(誘導結合プラズマ分光法)によって測定され、これらの測定方法についての検出限界未満であった。
【0071】
得られたアルミナゲルは、非常に良好な分散性係数を有していたが、大きな微結晶寸法を有していた。
【0072】
(実施例2(比較):洗浄なしの高温)
アルミナゲルの調製は、アルミナゲルの沈殿が行われた温度が35℃より高い温度であった点で、本発明に合致していなかった合成方法により行われた。
【0073】
(ベーマイト(AlOOH)の沈殿)
氷浴で冷却されたビーカにおいて、脱イオン水326mLおよび塩化アルミニウム六水和物(AlCl・6HO)135.6gを含有する溶液が、55℃の温度で、0.5のpHを有する溶液が得られるように、5分の期間にわたって調製された。
【0074】
次に、磁気撹拌しながら、水酸化ナトリウム(NaOH)67.5gが、30分にわたって、pHを調節するように加えられた。合成の終わりに達したpHは8であった。温度は、工程の継続期間を通して55℃に維持された。固体は、次いで、ろ過された。
【0075】
得られた沈殿物のサンプルが、反応媒体から取り出された。沈殿物のXRD(図1)により、実施例2において得られた沈殿物は、実際に、ベーマイトの沈殿物であったことが示された。実施例2において得られたベーマイトの沈殿物は、高度に結晶性であった。
【0076】
得られたベーマイトの微結晶のサイズは、シェラーの方法を用いて測定された。
【0077】
実施例2に従って得られたゲルの特徴は、表2にまとめられる。
【0078】
【表2】
【0079】
高い沈殿温度の結果、大きな微結晶寸法および平凡な分散性指数を有するアルミナゲルが得られた。
【0080】
(実施例3(比較):洗浄なしの高いpH)
アルミナゲルの調製は、アルミナゲルの沈殿後のpHが、9.5より高いpHであった点で、本発明に合致していなかった合成方法により行われた。
【0081】
(ベーマイト(AlOOH)の沈殿)
氷浴で冷却されたビーカにおいて、脱イオン水326mLおよび塩化アルミニウム六水和物(AlCl・6HO)135.6gを含有する溶液が20℃の温度で、0.5のpHを有する溶液が得られるように、5分の期間にわたって調製された。
【0082】
次に、磁気撹拌しながら、水酸化ナトリウム(NaOH)67.5gが、30分にわたって、pHを調節するように加えられた。合成の終わりに達したpHは、10.5であった。温度は、工程の継続期間を通して20℃に維持された。固体は、次いで、ろ過された。
【0083】
得られた沈殿物のサンプルが、反応媒体から取り出された。沈殿物のXRD(図2)により、実施例3において得られた沈殿物は、実際に、ベーマイトの沈殿物であったことが示された。実施例3において得られたベーマイト沈殿物は、高度に結晶性であった。
【0084】
実施例3により得られたゲルの特徴は、表3にまとめられる。
【0085】
【表3】
【0086】
高い沈殿物pHの結果、大きな微結晶寸法が得られ、得られたゲルは、平凡な分散性指数を有していた。
【0087】
(実施例4(比較):合致するpHおよびTであるが、激しい洗浄)
アルミナゲルの調製は、ろ過工程の後に沈殿物が洗浄された点で、本発明に合致していなかった合成方法により行われた。
【0088】
(ベーマイト(AlOOH)の沈殿)
氷浴で冷却されたビーカにおいて、脱イオン水326mLおよび塩化アルミニウム六水和物(AlCl・6HO)135.6gを含有する溶液が、25℃の温度で、0.5のpHを有する溶液が得られるように、5分の期間にわたって調製された。
【0089】
次に、磁気撹拌しながら、水酸化ナトリウム(NaOH)67.5gが、30分にわたって、pHを調節するように加えられた。合成の終わりに達したpHは8であった。工程の継続期間を通して温度は20℃に維持された。固体は、次いで、ろ過され、かつ、脱塩水3Lにより洗浄された。
【0090】
得られた沈殿物のサンプルが反応媒体から取り出された。沈殿物のXRD(図3)により、実施例4において得られた沈殿物は、実際に、ベーマイトの沈殿物であったことが示された。得られたベーマイト沈殿物は、低い結晶化度を有していた。
【0091】
実施例4により得られたゲルの特徴は、表4にまとめられる。
【0092】
【表4】
【0093】
沈殿工程の後に得られた沈殿物の激しい洗浄に起因して、微結晶は、大きなサイズを有し、得られたゲルは、平凡な分散性指数を有していた。
【0094】
(実施例5(本発明に合致し、pHおよびTが合致し、洗浄を有しない))
アルミナゲルの調製は、本発明に合致していた合成方法により行われた。
【0095】
(ベーマイトAlOOHの沈殿)
氷浴で冷却されたビーカにおいて、脱イオン水326mLおよび塩化アルミニウム六水和物(AlCl・6HO)135.6gを含有する溶液が、25℃の温度で、0.5のpHを有する溶液が得られるように、5分の期間にわたって調製された。
【0096】
次に、磁気撹拌しながら、水酸化ナトリウム(NaOH)67.5gが、30分にわたって、pHを調節するように加えられた。合成の終わりに達したpHは8であった。温度は、沈殿工程の継続期間を通して20℃に維持された。沈殿物は、次いで、ろ過されたが、この工程に続いての洗浄は行われなかった。
【0097】
得られた沈殿物のサンプルが反応媒体から取り出された。沈殿物のXRD(図4)により、実施例5において得られた沈殿物は、実際に、ベーマイトの沈殿物であったことが示された。実施例5において得られたベーマイト沈殿物は、低結晶化度のものであった。
【0098】
実施例5に従って得られたゲルの特徴は、表5にまとめられる。
【0099】
【表5】
【0100】
本発明による調製方法は、100%分散可能であり、かつ、従来技術のアルミナ調製方法、例えば、実施例1において記載されたようなPural SB3を用いるゾル−ゲルタイプの調製方法におけるよりも高価ではないゲルを得るために用いられ得る。さらに、微結晶寸法は、文献において知られているアルミナゲルの調製のための任意の他の態様により得られたものより小さい。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1】実施例2において得られた沈殿物のXRDである。
図2】実施例3において得られた沈殿物のXRDである。
図3】実施例4において得られた沈殿物のXRDである。
図4】実施例5において得られた沈殿物のXRDである。
図1
図2
図3
図4